Nursing Journal of Kagawa University
Online ISSN : 2189-2970
Print ISSN : 1349-8673
ISSN-L : 1349-8673
Evaluation of a seminar presented to Cambodian administrative staff and teachers following training in school health in Japan
Hiroko ShimizuMai YamaguchiMarina YamamotoHoshina UeharaTakeshi YodaTomiko KusukawaBun ThearithSokheng Thay
Author information
RESEARCH REPORT / TECHNICAL REPORT OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 23 Issue 1 Pages 59-70

Details
要旨

目的:本研究の目的は,来日学校保健研修(以下、来日研修)に参加したカンボジア国の行政担当者・教員が帰国後に必要としている課題についてセミナーを実施し,その効果を評価し,セミナー内容を定着させるための課題を明らかにすることである.来日研修とは,JICA草の根事業により実施した日本での学校保健、衛生環境に関する視察である.

方法:調査対象者は,セミナー参加者24名であった.セミナーとは,来日研修帰国後に実施される,講義・演習と情報交換で構成され,複数回実施されるものである.本研究では,講義,情報交換で構成された保健と保健室に関するセミナーを対象とした.

データの収集は,6項目の事前事後質問紙調査とインタビュー調査を実施した.分析はノンパラメトリック検定と記述的分析であった.データは,第三者によって収集された匿名データを受理し分析をおこなったため倫理的問題はなかった.

結果:6質問項目のうち5項目は実施前後で有意差があったが,理解が深まった段階にはないといえる.インタビューでは,資料の事前配布,通訳等の要望があった.

考察:セミナーでは言語的な壁や時間制約の問題があり,十分に理解が得られた段階までには至らなかった.理解を促進するための母国語セミナーや現地スタッフの継続的な実地指導によりセミナー内容の定着を図る必要がある.また教員の基礎能力の影響や教員同士の相互協力,社会資源との連携,教育行政の課題なども解決する必要がある.

結論:今回対象のセミナーは知識導入にあたる段階であり,今後は現地での継続的な知識定着を促進するフォローアップ指導を組み合わせる必要がある.

Summary

Aim: The purpose of this research is to conduct a seminar on administrative staff and faculty members in Cambodia who participated in the school health training in Japan (hereinafter referred to as “Japan visit to Japan”) after their return home, evaluate the effect, It is to clarify the problem to fix the content of the seminar.

The visit to Japan is an inspection on school health and sanitation environment in Japan implemented by JICA grass-roots project, and the seminar consists of lectures, exercises and information exchange and is carried out more than once. In this research, we aimed at seminars that disseminate knowledge on health and public health rooms composed of lectures and information exchanges.

Methods: The subjects to be surveyed were 24 seminar participants. To collect data, we conducted 6 items of pre / post questionnaire survey and interview survey. The analysis was a nonparametric test and a descriptive analysis. Data received ethical issues because it accepted and analyzed anonymous data collected by third parties.

Results: Five of the six question items had significant differences before and after implementation, but it can be said that they are not at a stage where understanding is deepened. In the interview, there was a request for advance distribution of materials and interpretation etc.

Discussion: Since seminars have problems of linguistic walls and time constraints, it is necessary to promote consolidation of seminars by mother tongue seminars to promote understanding and continuous on-site instruction of the local staff. Moreover, it is necessary to solve the influence of the teacher's basic ability, mutual cooperation among teachers, cooperation with social resources, issues of educational administration etc.

Conclusion: The target seminar is the stage of introducing knowledge, and from now on, follow-up guidance to promote continuous on-site knowledge exchange is necessary.

はじめに

カンボジア王国は,インドシナ半島の中心に位置し,面積18.1万平方キロメートル,人口約1,601万人(2017年国連推計)の国である.カンボジア国の人口などの統計数値は、カンボジア独自での調査体制が確立しておらず,調査機関によって異なるのが現状である.南部はシャム湾に面し,周囲をベトナム,タイ,ラオスに囲まれている.現在は,農業を基幹産業とした国家だが,長期に亘る内戦と混乱により,経済が落ち込み,アジアでも最も貧しい国のひとつである.WHO報告によれば,言語はアラビヤ系のクメール語をもち,平均寿命は68.7歳,乳児死亡率は1,000人の内14.8人,幼児死亡率は5歳未満で1,000人の内28.7人と高い.教育状況は,小学校を卒業する率は,2014年の世界銀行調査によれば,96.3%で,成人識字率は2015年のユネスコによれば78.0%である1)2)3)4)

カンボジアの近年の歴史は,クメール共和国であった1970~75年に米軍により約200万人が爆撃で難民となり,また1976~79年にはポル・ポトとクメールルージュにより約100~200万人が殺戮された.ポル・ポト政権下では,恐怖政治が行われ,貨幣の禁止,宗教の否定,知的活動が否定され,教育を受けていない10歳代の若者が捕縛者となって,人々に拷問を与えた.特に,知的職業に就いた人々,教育者,大都市に住む人々が攻撃され,強制労働が課せられ,衰弱,飢え,病気により命を落とした.この殺戮は,密告により捕らえられ,市内のトゥーレスレン刑務所(図1)での拷問,キリングフィールド(図2)での虐殺と埋葬が行われ,それらは現在まで血のにおいを残す遺構となっている.1991年のカンボジア和平パリ協定迄の20年間の経過から,食糧不足と教育の荒廃が特に深刻になった.

カンボジアの教育問題は,ポル・ポト政権下で学校教育を廃止し,学校校舎が破壊され,あるいは軍や刑務所となり,8割もの教師が殺されたことである.また,焚書政策によりカンボジア固有の書物が失われ,現在でも民族音楽などの伝統的音楽の楽譜は容易に入手することができない.このように教育現場が破壊され,子どもの死亡率が高い状況下であることから,就学時の学校保健は十分機能していないと推察される1)2)3)4)

カンボジアの貧困率は20%(偏差値44.8),2012年の同国の死因の内,感染性疾患などは全死亡率の48.3%で172カ国中54位(偏差値56.1)である3)4).外務省在外医務官によればカンボジアでかかりやすい病気は,急性胃腸炎,デング熱,寄生虫,マラリア,HIV,腸チフス,A型B型肝炎等である.いずれも感染予防に関する基本知識が感染の発症と蔓延を阻止できる.このような状況から貧困の影響をうけ易い児童の心身の保健衛生を重視し,衛生教育と学校保健の普及に注力する必要がある.

カンボジアのインフラ整備状況は,首都と地方では異なり,首都は近代化が進んでいるものの,首都近郊でも道路が舗装されておらず,雨季には冠水し,通過に多大な時間を要する(図3).この道路を避けて,バイパスが整備されたが,政治的な理由で開通が延期されている事例もあった.学校内の環境整備状況は,校庭にゴミが集積されているが,焼却はされておらず,放置され,ハエが飛散していた.雨季にはこの状態がどうなるのかが懸念される状況であった.学校の多くがゴミ箱も設置されておらず,学校によってはゴミが散乱していた.2016年のトイレの現状調査では,カンダール州の首都プノンペンから40分程度のカンダルスタン郡32校の小学校において,12,000人の児童に対して,62個のトイレと手洗い場が3か所のみであった.トイレの鍵は校長がもっており,開講している時間のみ利用される.トイレ建屋や便器は,浸漬式であるため,雨季に冠水し使用できなくなることも多く,修繕が行きとどかない状況であった(図4).

このカンダルスタン郡の小学校の教室内には電灯がなく,道路に電柱があっても引き込みに経費がかかることから,室内まで電灯がひかれていない.教室はポル・ポト政権下において強制収容所として使用された経緯があることから,教室の窓には鉄格子がはめられ,その外側に厚さ3センチほどの木のルーバー式開き戸があり,この開き戸を閉めれば真っ暗になる.雨の日や曇天の日には,室内は薄暗く,児童はその中で本を読んでいる.国際機関や教育省から,児童の目の保護に関するポスターが教室内に見られるが,視力検査は行われていない(図5).

このような現状から,教員養成所附属学校などがある恵まれた環境の首都プノンペンを避け,首都から40分程度の首都郊外の地域を選び,学校保健に関する介入プログラムを試行し,学校保健の質の向上を図るモデルを提案することとした.

そのために,公的資金であるJICA草の根技術協力事業の資金を取得し,プロジェクトを企画した.このプロジェクトでは,カンダール州カンダルスタン郡のモデル地区で実施する学校保健モデルを通して学校保健指導者が育成され,衛生教育を向上させることを目的とする.そのために国内と現地とで「チームカンボジア」というプロジェクトチームを発足させる.このチームが,カンダルスタン郡の小学校教員およびその関係行政担当者向けに,日本型学校保健室を中心とした衛生教育方法の技術を移転し,カンダルスタン郡の学校保健モデルをカンダール州内に周知させることとする.プロジェクトで実施する内容は,次の通りであった5)

実施体制は,国内チームカンボジアはK大学が担当し,渡航による現地指導及び国内研修を実施し,現地チームカンボジアは,NGO UDON HOUSEがK大学からの再委託を受けて実施した.NGO UDON HOUSEは,カンボジア国立小児病院で4年間,JICAシルバーボランティアとして活動した看護師が現地スタッフと共に開設した現地NGOであった.プロジェクトの展開は,現地カンダルスタン郡の小学校の校長と保健担当教員を保健指導者とし,彼らとNGO UDON HOUSEとで小学校の衛生保健活動を次の3フェーズで行った.

第1フェーズは,カンボジアの感染児童発生状況と予防実態の情報を収集し,現場保健指導者と共に学校訪問指導を行うことであった.具体的には,学校保健の現状,児童の生育就学環境,児童の感染症を取り巻く状況を把握し,改善後の到達点についてプロジェクトチームおよびカンボジア教育省関係者,カンダルスタン郡保健指導関係者と共に学校保健の重要性の共通理解を図ることであった.

第2フェーズは,児童の就学環境の改善を図るために,カンダルスタン郡モデル9校を選定し,児童向け学校保健室,保健教育,保健体制を提案し,日本型学校保健モデルからカンボジア型に改変・機能させる.これは現地の知見を取り入れて日本型技術協力研修を現場保健指導者への指導を行いつつ実施し,カンボジア型教育方法を開発することであった.

第3フェーズは,第2フェーズの就学児童の衛生環境確保に関するモデル校事例を,カンダール州全小学校に各種保健情報等を掲載したニュースレターなどで周知させ,日本との広域支援体制の構築を活用しつつ,学校保健教育方法の国内定着を図ることである.このフェーズは現在進行過程にある.

期待されるアウトプットは,次の通りであった.第1に,カンダルスタン郡モデル学校区を通じて学校保健指導者が育成され,衛生改善の啓発や衛生改善教育のためのツール・手法が確立されることであった.第2は,カンダルスタン郡全小学校において,学校保健指導者が活動するための実施体制が強化されることであった.第3は,カンダール州全小学校にモデル事例や教材が周知されることであり,以上を3年間で実施する予定である.

衛生改善教育のためのツール・手法とは,小学校の学校保健室を開設し,その運営を行う保健担当者を配置させて,保健室を中心とした学校保健の体制を構築することである.また,保健指導や保健学習の授業を児童に提供できるよう,現地のニーズを収集して適当な保健テキストを現地言語,つまりクメール語で作成することである.この保健テキストで指導を行うことができるよう指導方法も支援する.その指導は,現地で自立して機能できるよう,指導者層の養成を同時に実施する.加えて,衛生的な学校環境づくりには,衛生的なトイレや手洗い場が必要であり,これらのモデルを開設することも含まれる.

2017年10月に保健指導者となる行政担当者・教員らに日本型学校保健モデルを学ぶための来日研修を8日間行い,その後の現地での活動を支援する現地セミナーを計画した.この現地セミナーのために,まず,2018年1月に来日研修後の課題を抽出するためのミーティングを実施し,現地で必要な研修内容を明らかにした.その内容は,健康教育・保健教育,応急手当,健康に関する知識,食事の安全性,保健室の使用方法,保健室の計画作成方法,保健室物品の使用方法,薬の使い方,医療能力を高める研修であった.これらの課題を研修内容とし,セミナーを実施して,その効果測定を行い,技術移転の定着を促進する必要がある.

図1

市内の高等学校が拷問を行うトゥーレスレン刑務所となった.

解放された時の遺体が現在も残る.

図2

キリングフィールドの供養塔

6,000体以上の頭蓋骨が納められている.周囲は地下2メートルまで広大な土地に遺体が眠る.

図3

首都郊外でも道路は舗装がなく陥没し雨期には通過が困難となる

図4

首都から約1時間のカンダルスタン郡小学校のトイレと校庭のゴミ

図5

教室は照明がなく,給食がないため半日の授業.

侵入や破壊を避けるため窓枠は鉄格子

目的

本研究では,来日研修参加者が帰国後に必要とした課題についてセミナーを実施し,その効果を評価し,セミナー内容を定着させるための課題を明らかにすることである.今回対象のセミナーは,保健と保健室に関する知識を普及させる帰国後初めてのセミナーであった.

方法

1) 対象者

研究対象者は,カンボジア国教育青年スポーツ省・カンダール州学校保健局行政担当者5名,カンダルスタン郡担当者2名,カンダルスタン郡小学校校長9名,教員8名,男性15名女性9名合計24名であった.平均年齢42.5歳であった.

2) データの収集方法

データは,質問紙調査とインタビュー調査により収集した.まず,セミナーの実施項目を中心に質問項目を作成した.作成した日本語の質問項目について,日本に2年間語学留学を行った日本語の堪能なカンボジア人がクメール語に翻訳し,クメール語によるセミナー前後調査を自記式で実施した.インタビュー調査は質問項目への回答の背景情報を得るためにセミナー実施時とセミナー後約3週間頃に実施した.

3) セミナー研修内容

研修の内容は,看護学研究者による「保健室物品の使用方法」,「ファシリテーション」,「保健室の使用方法・記録用紙」,医師による「健康と保健の知識」であった.

「保健室物品の使用方法」では,現在は保健室もなく,衛生物品も何もない状態であることから,まず,救急箱の説明を行った.既に現地小学校に政府から配布されている救急箱にいれる物品や健康診断に使用する物品の名称と数,使用方法の説明を行った.それぞれ,現地で調達した実物画像を提示し(図6),それぞれについて,使用方法を説明した.また,これら物品管理のための説明資料も作成し,配布した(附票12).配布版はクメール語であった.

「健康と保健の知識」については,既に前年の来日研修において,「国際感染症と児童の健康」を担当した医師により,来日研修6)を補足する内容として「健康と保健の知識」の講義を行った(図7-17-27-37-47-57-6).カンボジアの来日研修に参加した教員らは,これまでの教員養成課程での基礎教育が乏しく,教員生活の中での自己研鑽の差により教育力に大きな差が生じている可能性が指摘されており,来日研修の自記式質問紙調査7)から,健康概念や保健,学校保健などの概念が知識として定着しているかが疑問視されていた.そこで,今後の保健教育に関する研修を進める上で重要なこれらの概念について,共通理解を深める目的で,「健康の定義,保健の概念,健康づくりなど」について講義を行った.

さらに,来日研修参加者は,現地での保健指導者としての役割を果たす必要があることから,討議法やグループ法を用いての講義や演習の運営についても理解する必要があった.彼らの多くは,来日研修までは,近隣の小学校教員同士での情報交換や授業公開などの経験は一切なく,孤立して独自の学校運営を行っていた.故に,リサイクル活動などの先駆的な一部の校長によって行われている事業も近隣学校に普及せず,また,問題点の共有もなされないため,問題解決への団結も見られなかった.しかし,来日研修において,集団行動を行う中で,徐々に相互交流が生まれた.来日研修後には,それらの相互交流を相互支援に結びつける必要があり,先駆的活動を行う校長がセミナーで他の校長らに働きかけ,職場内で伝達するためのスキルとしてファシリテーションやディスカッション方法を説明する必要があった.加えて,教育行政上のグループリーダー校であることから,傘下校への公開授業を行うためのプレゼンテーションの基礎的な方法についても説明を行った.

保健室の運営に関する「保健室の使用方法・記録用紙」は,来日研修し見学した事柄を,振り返って確認する内容とし,「保健室の目的と機能,保健室の経営,記録用紙の検討」(図8-18-28-38-48-58-6)とした.これらは,今後保健室を開設し,整備する過程での必須の事柄である.具体的な保健室の整備や日常の活動は,日本からの渡航教員がかかわることはできず,現地スタッフによる個別の助言や指導に依存せざるを得ない.これらを活用する保健室は,セミナー開催時点では,機能できるまでに整備されていない学校もあった.

図6

保健室の必要物品の一部

Coton Compress Cloth-Tape Oxygene Eurotap Alcohol99c Hi-dine Solution

附票1

カンダール州スタン郡小学校学校保健室救急箱管理シート1

カンダール州スタン郡小学校学校保健室救急箱管理シート 目的 このシートは救急箱が常時使用可能な状態を保持するために職員が管理するためのものである。 管理者 管理責任者は校長、運営責任者は保健室担当教員とする。 救急箱配置の目的 校内における児童の一時的・応急的処置のために使用することとし、各対処において1回限りの使用を原則とする。 救急箱配置備品と管理方法 1.管理対象物品と使用目的 備品 数 使用・保管方法 爪切り 絆創膏 体温計 Clothテープ 綿花 ピンセット はさみ 包帯 マスク くし メディカルグローブ ビニール袋 体重計 身長計 手洗い用たらい バケツ ハンカチ 水 2.医薬品一覧 Hi-dine Solution Oxygene Siang Pure Balm Siang Pure Oil Fomentation(湿布) Alcohol

附票2

カンダール州スタン郡小学校学校保健室救急箱管理シート2

救急箱備品・医薬品使用の留意事項 1)消耗品は、直射日光の当たらない、湿気のない涼しい所で鍵付きの棚の中で保管する。 2)常に定位置に置き、教員全員がわかるようにしておく。 3)開封時には製品本体にマジックで使用期限を明記し、チェックリストに日付を記録する。 4)開封後はゴム等を使って、しっかりと封をする。 5)使い切った物品は早急に補充し、常に不足がないようにする。 6)毎月月末に配置品の点検を行いチェックリストへ記入し、期限切れのものは新しい物に交換する。 7)毎回の使用後は、何をどれだけ使ったか、保健室の来室者記録簿に記入する。 8)使用後のガーゼや綿花は毎回ビニール袋に入れ、その日のうちにゴミとして捨てる。(特に血液が付着している物は焼却する) チェックリスト 毎週末に保健室担当者が確認署名し、校長に報告する。 確認日 爪切り 絆創膏 体温計 Clothテープ 綿花 ピンセット はさみ 包帯 マスク くし メディカルグローブ ビニール袋 体重計 身長計 手洗い用たらい バケツ ハンカチ 水 Hi-dine Solution Oxygene Siang Pure Balm Siang Pure Oil Fomentation(湿布) Alcohol 確認者氏名

図7-1

健康の定義

健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることを言う

図7-2

健康の定義2

生きている=健康、ではない この人は健康ですか? 身体の病気:なし 精神の病気:うつ病 身体の病気:乳がん 精神の病気:なし 身体の病気:なし 精神の病気:なし 小学校でいじめられている

図7-3

保健の概念

保健と 健康を保つことを「保健」という(カンボジア語に該当する言葉が無ければこの部分はカットしてください 健康を保つための活動が「保健活動」である、保健室はその役割も担う

図7-4

保健の概念2

健康を保つために 健康に関する正しい知識 感染症の予防 手洗いの重要性(日本での講習済み) 整理・整頓~必要なものと不要なものに分け、必要なものは分類してまとめる 清掃~ゴミをまとめる、ゴミとゴミでないものを区別

図7-5

健康づくり

(2)栄養 食べ物~甘いものを食べすぎない バランスの良い食事

図7-6

健康づくり2

(3)運動…大人:農作業(畑仕事)で身体を動かす 子供:校庭でいっぱい遊ぶ(=身体を動かす)環境を整える

4) 測定用具

研修前後の調査項目は,セミナーの内容の理解度を確認する6項目であった.その6項目は,Q1保健室必要物品の説明ができる,Q2保健室記録の説明ができる,Q3保健室運営能力を説明できる,Q4伝達講習の内容を理解している,Q5セミナー運営の討議方法が説明できる,Q6セミナーでのファシリテーションが説明できる,であった.この6項目の回答の評定段階は,1:そう思わない,2:あまりそう思わない,3:どちらでもない,4:まあまあそう思う,5:そう思うであり,それぞれに1~5を付与した.3の「どちらでもない」は,「2:あまりそう思わない」と「4:まあまあそう思う」の中間に位置する心的態度を意味することとした.

インタビュー項目は,セミナー開催時において,現在までの校内環境を衛生的に保つ手洗い場の設置状況などの取り組み状況,現状の保健室開設の進捗状況であった.セミナー後約3週間頃の訪問によるインタビューでは,保健室の利用状況,困っていること,セミナーの感想について聞き取りを行った.

図8-1

ディスカッションの方法

グループディスカッションの方法 パネル・ディスカッション フォーラム ディベート ブレーン・ストーミング エンカウンター・グループ インスツルメンテド・ディスカッション

図8-2

ファシリテーションの方法

ファシリテーション 人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りすること その役割を担う人をファシリテーターと呼び、会議や研修を進行する 4つのスキル 1.場のデザインのスキル 目標の共有から、協働意欲の醸成まで、チームづくりの成否がその後の活動を左右する 活動の目的とチームの状態に応じて一つ一つの段取りを組み立てていく 2.対人関係のスキル ファシリテーターは、参加者のメッセージを受け止め、その意味や思いを引き出す 傾聴や復唱、質問、主張などのコミュニケーションスキルが求められる 3.構造化のスキル 論理的に議論をかみ合わせ、議論の全体像を整理し、論点を絞る 図などを使用し、議論を分かりやすい形にまとめる 4.合意形成のスキル 議論を創造的なコンセンサスにむけてまとめる ファシリテーターは意見の対立解消スキルが必要 意見が合意すれば活動を振り返り次の糧にできる (日本ファシリテーション協会HP https://www.faj.or.jp/facilitation/)

図8-3

プレゼンテーションの方法

プレゼンテーション 目的:アイディア、計画、情報を複数の人間に対して同時に伝達すること 概念:情報伝達の一種で、聴衆に対して情報を提示し、理解・納得を得る行為である 必要物品:実際に形のないモノを、簡潔かつ判り易く説明するために、情報を的確に伝える、資料(視聴覚、配付資料等)の準備、情報を適量平易に提供することが求められる 今日的方法:パーソナルコンピューター、スピーカー、スライド、プロジェクター、スクリーン、表計算ソフトなど

図8-4

保健室の目的と機能

保健室の目的と機能 保健室の目的 学校には健康診断、健康相談、救急措置その他の保健に関する措置を行うため、保健室を設けるものとする「日本の学校保健安全法第7条」 保健室の機能 ①健康診断 ②健康相談 ③保健指導 ④救急措置(休養を含む) ⑤発育測定 ⑥保健情報センター ⑦保健組織活動のセンター 「日本学校保健会」

図8-5

保健室の経営ポイント

保健室の経営(人、設備、物品、コスト、記録、評価) 1.場所の確保、開閉管理 2.Minimum Essentials Goods 3.機能・役割 4.技術・スキル 5.消毒衛生水準の維持 6.担当者と就業時間 7.ランニングコスト 8.記録 9.評価者、評価項目 10.校内分掌

図8-6

保健室の記録一式(青字は講義内容)

記録用紙の検討 1.健康観察簿 2.来室カード 3.保健室日誌 4.目標と計画(月間・年間) 5.保健室利用のまとめ(月間・年間) 6.児童個人カード(9年間) 7.保護者質問票 8.学校保健地域連携マトリックス・緊急連絡システム 9.郡内教育相談体制、州内教育相談システム 10.広域児童相談体制、高度小児医療体制

5) 分析方法

分析方法は,データの正規性がないためノンパラメトリック検定とし,項目の前後比較はWilcoxsonの符号付き順位検定を行った.統計はSPSSver.25 for windowsを用い,有意水準は5%未満とした.インタビューデータは,内容を記述的に分析した.

6) 調査時期

調査は,セミナーが2018年3月10日,セミナー後の調査が3月29日~4月2日であった.

7) 倫理的配慮

倫理的配慮として,データは現地NGOで調査されたもので,分析者には後日匿名化データの提供を受けて分析を実施した.よって倫理審査を要しないデータであった.

結果

前後データの回答者は研修前22名で,研修後は17名で,対応ある17名を分析対象とした.欠測値はなかった.

質問紙調査の結果は,研修の内容の理解に関する6つの質問項目のうち5項目において,前後に有意差がみられ,実施後に説明力が概ね高まったとの回答であった(表1).「Q1保健室必要物品の説明ができる」は,セミナー後には2の否定的な回答はなくなった.「Q2保健室記録の説明ができる」は,セミナー前後で回答の幅は変化がなかったものの2の否定的な回答が減少し,前後に有意差があった.「Q3保健室運営能力を説明できる」は,中央値はセミナー後に増加したが,回答の幅は変化がなく前後比較では有意差がなかった.「Q4伝達講習の内容を理解している」は,セミナー後には1の回答がなくなった.「Q5セミナー運営の討議方法が説明できる」は,セミナー後には,4の回答がみられ理解が深まった1名があった.「Q6セミナーでのファシリテーションが説明できる」は,セミナー後には1の回答がなくなった.4の回答は実施前には少なかったが,セミナー後には4の回答が増加した.また中にはセミナー前に4と回答したものが,3になった回答もあった.全体として5の回答はなかった.

インタビュー調査の結果は,次の通りであった.

校内の衛生環境の状況は,手洗い場は,(開発途上国で広く活用されている)簡易手洗いを教員の手作りで作成している学校が複数あった.学校で使用している簡易式手洗いは,雨水を集め,鉛管様の管に穴をあけて通水し,水が落ちる方式(図9)であった.

保健室は,図書室がある学校では図書室の一角にベッドを据えて保健室区域とした学校が複数あった.9校全ての学校が,白いシーツを用いることなく,原色で撥水性の高い,光沢のある生地を使用していた(図10).保健室の備品は,身長計を保健室の壁に手作りで作成している学校(図11)や救急箱の消耗品も独自に補給している学校があった(図12).

保健室の利用状況は,「来室児童は,擦り傷,外傷,ねんざ,頭痛,腹痛下痢などが多く,一日5~6名」が来室するとのことであった.また,未だ校内備品が,救急箱も含めて全て盗難にあっている学校もあり(図13),中にはトイレのドアが持ち去られ,11年以上もトイレがない学校があった(図14).

困ったことは,「校内への侵入者がドラッグを使うため,校舎の破損があるが警察があまり対応しない」「豚が1頭校庭にいたため寺に対応を依頼した」などであった.

セミナーについては,「書き取りが十分できなかった」「事前資料がほしかった」があり,その他,保健室物品や医薬品不足,保健室での児童への手当に関する知識不足などを感じたとの回答があった.また,日本語からクメール語への通訳が直訳であり,理解の困難さがあったとの回答があった.

図9

教員が工夫した手洗い

図10

教員が工夫した保健室区域

図11

教員の手作りの身長測定板

図12

教育省配布の救急箱を点検した

図13

トイレのない学校の掃除道具

図14

ドアが盗まれて11年以上トイレがない学校

表1 来日研修後現地セミナー前後調査
N=17
質問項目 前 中央値 後 中央値 Wilcoxonの符号付順位検定
(最小値―最大値) (最小値―最大値) (両側)
Q1 保健室必要物品の説明ができる 3.0(2-4) 3.0(3-4) p=0.014*
Q2 保健室記録の説明ができる 3.0(2-4) 3.0(2-4) p=0.008**
Q3 保健室運営能力を説明できる 2.0(2-4) 3.0(2-4) p=0.058
Q4 伝達講習の内容を理解している 2.0(1-4) 3.0(2-4) p=0.008**
Q5 セミナー運営の討議方法が説明できる 2.0(2-3) 3.0(2-4) p=0.001**
Q6 セミナーでのファシリテーションが説明できる 2.0(1-3) 3.0(2-4) p=0.001**

*:p<0.05,

**:p<0.01

考察

保健室に必要な物品は具体的で,物質的な支援品となるものであり,概ね理解されたものと考えられる.質問紙の結果から,5と回答したものは一人もなく,新しい文化から取り入れられる事柄を1回で理解することは困難であり,特に保健室の運営に関する記録類はほとんど理解されなかったと考えられる.保健室の記録は,実際の活用方法までの説明は時間的制約があり,次の課題となった.また,得点が3から2に減少した回答は,回答者の認識が修正されて,思っていたことが新たにされたためではなかったかと考えられる.セミナー運営,ファシリテーションなどは,所属の学校で他の教員らに伝達する際に校長らが日常的に行っている可能性があり,これに意味づけを与えたのではないかと考えられる.

インタビュー結果から,セミナーでの講義は通訳を介してアウトラインを述べるのみであったため,セミナーのみで理解を得ることは困難であったといえる.そこで,今後はセミナーで提案した知識の枠組みを現地スタッフによって,継続的に助言を行い,理解を促進するリフレクションの場を確保し,知識の定着と実践力開発を図る必要がある.

今後の保健室の運営は,実際には新しく配置される保健室担当教員が行うことになる.保健室担当教員は32小学校で32名が配置されることになる.これらの保健室担当教員は,来日研修にも参加していないものもおり,先進国の保健室イメージを十分に持てない可能性がある.そこで,写真や説明などを加えて,来日研修した校長らの説明と助言が重要になると考えられる.また,保健担当教員同士の情報交換も促進する必要がある.

保健室開設の進捗状況は,来日研修を受けた教員らは,日本式学校保健モデルを学び,日本と同様の水準を要望していた6).しかし,保健室という部屋の確保と備品の整備を行うためには,学校運営経費の不足による物資・教材・人材不足があり,この経済的問題が最大の障害となっている.また教育機関と他機関,教育機関同士の連携が不十分であるため,医療者との連携も乏しく,保健人材の供給が行われていない現状にある.経済的問題を改善し,これらの専門家との連携を構築していく必要がある.

校内の衛生環境の状況は,薬物常習者の学校内への侵入や校舎の破壊など校内の安全な環境が確保できていない.また,寺院の一角に建てられている小学校では学校敷地との境界がはっきりしていないことや,寺院が神聖とする豚の校内侵入の問題など,教員の自助努力では解決できない困った問題があった.これらは,学校管理,教育行政の問題であり,政府や行政機関の管理監督の課題であるため,問題解決にむけて政府機関への要請も必要である.

学校の設備の充足状況は,国内に数カ所の教員養成所附属学校のうちカンダール州の附属学校では,教室に9つ程度の蛍光灯が設置されている.しかし,本対象地区では,同じ州にありながら小学校の教室には殆ど電灯がない.また,トイレや手洗い場は,カンボジアの政府が必要とする数には殆どが達していない.トイレがない学校は,2016年の調査8)では,32校のうち5校あった.そのような学校では児童は校庭で用を足すと回答していた.このような設備面の改善は,自助努力では困難なことも多く,政府の政策が必要であろう.このような事情の中で,カンボジアでは開発途上国の多くの例に同じくして,植民地時代を経験しているため,支援期待が大きい歴史的事情があり,現在も支援依存型の政策と国民感情が残っているといわれている.困ったことの回答の中には,「援助がほしい」という回答もあった.そこから自立する意志を伝えるには,信頼関係を損なう危険性もはらんでおり,支援依存的な土壌が形成された途上国支援では,難しい課題として残されている.

カンボジアの教員の教育力の状況は,知的専門職の多くが1979年までに殺戮によって失われたため,医師,看護師,教師などが長い間,不足した.現在でも小・中・高・大学は半日の学習時間であり,教員養成校は2年間である.学習時間が不足しているため,隣国のタイ国以外への正規の留学は殆ど行われていない.知的な専門職の不足は,現在も連鎖的に続いている現状にある.調査対象となった校長の中には,独立時点の1979年12月1日に教員に指名された人もおり,全体的に一般の小学校教員は,教員養成を受ける期間が短く,十分な教育活動を行う教育力が備わっているとは言いがたい現状がある.これまでの教員養成課程のシラバスによれば,学校保健関係は,心臓マッサージが1コマ、けがの手当て1コマのみであった.教員の養成期間の短さから,十分に学校保健学を習得できていない状況がある.

教員の教育力は,英語力を殆ど有しないことも一つの障害となっている.一方で,支援国側が,アラビヤ語由来のクメール語をあまり理解できないことも障害である.隣国ベトナム語等は同じマレー半島にあってラテン語由来の言語であることから,意味はともかく,親しみやすい言語と言え,英語を理解する国民も多い.しかし,クメール語は数字もギリシャ数字やアラビヤ数字を用いず,クメール数字であるため,理解が困難である.このような言語的な壁は,情報伝達の最大の障害となっている.

セミナーにおいてコミュニケーションを図る際,講師と参加者とでクメール語通訳を介して行うが,日本語とクメール語とで,対になる言葉がなく,意味を説明する形で伝えることもあった.特に通訳者が医学用語を十分理解していないことも説明が十分とならない要因の一つと考えられる.

そこで,今後のセミナーを補完する継続的なミーティングでは,現地スタッフと共に現地のクメール語による専門家を招聘し,理解の促進を図る必要がある.さらに,現地クメール語によるフォローアップ研修や実技を体験する,具体的で個別的な問題解決への支援を行うことが必要である.母国語言語による質疑応答が理解促進には不可欠であることから,成果が期待される.

結論

帰国後セミナーは新しい知識の導入の位置づけであるため,これを継続的に助言,支援し,行動レベルで活用可能な知識とするミーティングが必要である.

謝辞

本プロジェクトは,香川大学が香川県,JICAおよびカンボジア国教育青年スポーツ省と共に実施している.これらの関係者各位に御礼を申し上げます.

文献
  • 1)   公益財団法人国際労働財団 , カンボジアの基本情報, https://www.jilaf.or.jp/country/asia_information/AsiaInfos/view/12,2018/09/05 19:50:00.
  • 2)   外務省 , カンボジア王国, https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/cambodia/data.html,2018/09/05 20:50:00.
  • 3)   公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 , 国の歴史と教育問題, http://sva.or.jp/activity/oversea/cambodia/background.html,2018/8/27 22:30.
  • 4)   国際統計格付けセンター , カンボジアの出生と死亡の順位一覧, http://top10.sakura.ne.jp/Cambodia-p7.html,2018/9/5 20:00.
  • 5)   独立行政法人国際協力機構 , 地域活性化特別枠草の根技術協力(地域活性化特別枠)事業概要, https://www.jica.go.jp/partner/kusanone/tokubetsu/cam_09.html,2018/9/5 20:50.
  • 6)    清水  裕子 ,  山本  麻理奈 ,  大田  詩織 ,他: カンボジア小学校教員への衛生教育来日研修前後の健康教育観の検討,日本ヒューマン・ケア心理学会学術集会第20回大会, 2018,京都市.
  • 7)    清水  裕子 ,  峠  哲男 ,  渡邉  久美 ,他: カンボジア国行政関係者とカンダール州小学校教員への来日保健衛生教育プログラムの評価,香川大学生涯学習教育研究センター研究報告, 第23号,2323-42,2018.
  • 8)    清水  裕子 ,  山本  麻理奈 ,  太田  詩織 ,他: カンボジア国カンダール州児童の衛生習慣の実態,日本ヒューマン・ケア心理学会学術集会第19回大会, 2017,甲府市.
関連文献
 
© 2019, School of Nursing, Faculty of Medicine, Kagawa University

この記事はクリエイティブ・コモンズ[表示 4.0 国際]ランセンスの下に提供されています。
CCライセンスに基づいてご利用ください
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top