2020 Volume 24 Issue 1 Pages 11-25
目的:子宮全摘出術を受けた子宮がん患者(以後,子宮がん患者)と配偶者とのコミュニケーションの特徴を,子宮がん患者の体験に伴う感情に焦点をあて,明らかにすることである.
方法:子宮がん患者12名を対象に半構成的面接を行い,データは質的帰納的に分析した.真実性を確保するため,語られた内容を研究者の言葉で要約し,相違がないか子宮がん患者に確認した.本研究は,香川大学医学部倫理委員会及び香川労災病院の倫理審査を受け,承認を得て行った.
結果:子宮がん患者の体験に伴う感情と配偶者とのコミュニケーションには2つのテーマがあった.テーマ1【ネガティブな感情を感じていても,配偶者からの愛により,ポジティブな感情が生まれ,コミュニケーションをとる】は,2つのサブテーマから構成されていた.テーマ2【ネガティブな感情を感じていても,配偶者の特性や子宮がん患者の認識により,コミュニケーションを制限する】は,3つのサブテーマから構成されていた.
考察:子宮がん患者は,配偶者とコミュニケーションをとる,または制限することで,ネガティブな感情をコントロールし,子宮がん罹患により引き起こされる様々な心理的課題の適応に向かっていると考えられる.配偶者からの愛は子宮がん患者の適応力を高めるが,子宮がん患者の不安を増強させる配偶者の性格や態度,配偶者には女性のことを理解し難いという子宮がん患者の認識は適応力を弱めると考えられる.
結論:子宮がん患者の適応力を高めるため,配偶者が子宮がん患者を支援できている時は,夫婦の時間がとれるよう環境調整が必要である.そうでない時は,配偶者に子宮がんに関する知識の提供や,細やかに配偶者を観察し,積極的に声かけし相談を受ける機会を設けることが必要である.さらに,子宮がん患者の認識が変わるよう介入することも必要である.
The purpose of this study was to identify the characteristics of communication between uterine cancer patients who underwent total hysterectomy and their spouses, by focusing on emotions associated with the experience of such patients. Semi-structured interviews were conducted involving 12 uterine cancer patients, and the obtained data were analyzed using a qualitative and inductive approach. To ensure authenticity, narratives summarized by the researchers were checked by the patients. This study was conducted with the approval of the ethics committee of the Faculty of Medicine, Kagawa University, and Kagawa Rosai Hospital.
Communication between uterine cancer patients and their spouses was summarized into 2 themes: [experiencing negative emotions, but developing positive emotions when feeling loved by the spouse, and actively communicating with him], [experiencing negative emotions, but limiting communication with the spouse based on his characteristics and the patient's own recognition].
To adapt to various psychological problems due to the development of the disease, the uterine cancer patients may have controlled their negative emotions by actively communicating with their spouses or limiting such communication. The results indicate that these patients' adaptability increases when they feel loved by their spouses, and decreases when their anxiety intensifies due to their spouses' personalities or attitudes. Therefore, it is necessary for nurses to assess communication between members of each couple from their initial outpatient consultation, and support both of them, in order to promote uterine cancer patients' psychological adaptation.
子宮がんは,女性における罹患数が多いがんの第5位であり,年々増加している1).子宮がんの治療として,子宮全摘出術は治療の一つとして確立されており,病期に応じて卵巣・卵管・膣の切除や,化学療法,放射線療法を併用する場合もあり,子宮がん患者の心身への影響は大きい.
乳房とならんで,子宮・卵巣は女性のシンボル的臓器であり,子宮全摘出術を行った患者は,何らかの女性性の喪失体験をしている2-3).しかし,手術後,暫くは女性性喪失感を感じていても,夫や恋人が良き理解者となりサポートしている場合,その思いは薄れ,性生活においても前向きであることや,時間の経過とともに夫または恋人のサポートが,女性としての価値観に影響を与える4)ことが明らかになっている.また,がんと向き合い,前向きな姿勢で生活するために,患者を支える配偶者およびパートナー等の周囲の人々の温かい支援は必要不可欠であり,そのことが機能障害や精神的不安定さをもちながらもQOLを高めている要因になっている5)ことが明らかになっている.このことより,配偶者や恋人のサポートが,子宮がん患者のQOLに及ぼす影響は大きい.
しかしながら,配偶者がサポートをしても,患者が不安を伝えない4)ことや,子宮がん患者が感じる感情によって,配偶者にネガティブな感情を表出しない6)等,配偶者とのコミュニケーションを制限することが報告されている.がん患者は,否定的な感情を抑制することで診断告知後の心理的苦痛が増強する7)ことや,女性は怒りを抑制することで悲観が高まる8)ことが報告されている.また,婦人科がんの中でも,特に子宮頸癌サバイバーは,他の悪性腫瘍と比較して最もメンタルヘルスのQOLが悪い9)という報告がある.よって,子宮がん患者の心身の健康上の観点から,子宮がん患者が配偶者に感情を表出できるよう支援していくことが重要である.
ランドルフ・R・コーネリアス10)は,感情は日々の対人関係を左右するのに不可欠な部分であると述べており,子宮がん患者が配偶者とのコミュニケーションを制限するのは,子宮がん患者の感情が関係しているのではないかと考えた.
がん患者と配偶者およびパートナーとのコミュニケーションについては,がんになる前の配偶者とのコミュニケーションのあり方が,がんに罹患した後のコミュニケーションに影響する11-12)ことが明らかになっている.しかし,感情からコミュニケーションを論じた研究は見当たらなかった.子宮がん患者の感情に焦点をあてて配偶者とのコミュニケーションを明らかにすることは,子宮がん患者が病の体験に伴い,どのような感情をもち配偶者とかかわるのかが明らかになり,看護援助への示唆が得られると考える.
本研究の目的は,子宮がんで子宮全摘出術を受けた患者(以後,子宮がん患者)と配偶者とのコミュニケーションの特徴を,子宮がん患者の体験に伴う感情に焦点をあて,明らかにすることである.
Shaverら13)は,感情を人が環境を評価したとき生じる行為傾向と考えており,本研究ではShaverら13)の考えを用い,「子宮がん患者の体験の評価として生じる情動,気分,意欲,動機づけ」とする.
2. コミュニケーション子宮がん患者が,自身の体験や配偶者の行為によって生じる感情を,会話,文字,しぐさ等を介して配偶者に伝える行為とする.
3. 子宮がん患者の体験に伴う感情と配偶者とのコミュニケーション子宮がん患者が体験に伴う感情をもち,どのように配偶者とコミュニケーションをとっているのか,また配偶者とのコミュニケーションによって,どのような感情が生じるのかということとする.
質的帰納的記述研究
2. 研究協力者とその選定研究協力者の選定条件は,①配偶者を有し,②子宮がんの告知を受け,③A病院またはB病院で子宮全摘出術を行い,④身体的苦痛がコントロールされ,⑤重度のうつ症状がない患者とした.選定は,研究協力者が入院していた病棟の看護師長に依頼を行った.
3. データ収集方法研究協力者と配偶者の同意を得て,研究協力者が希望した場所で,研究協力者の年齢,子どもの数,診断名,診断時の病期,治療内容・現在の状況,術後経過時間について口頭で確認した.診療記録からも情報収集した.
また,質問項目を提示し,インタビューガイドに基づいた半構成的面接を行った.質問は,子宮がん罹患後から子宮全摘出術前まで,子宮全摘出術後から現在までの時期における子宮がん患者の体験に伴う感情と配偶者とのコミュニケーションについて聴取した.また,子宮がん患者と配偶者との関係は,結婚後から構築され,現在に繋がっているため,結婚から子宮がん罹患前までの夫婦の関係についても聴取した.面接は,面接終了時,研究者の言い忘れたことはないかという確認に対し,研究協力者が言い忘れたことはないと返答したことをもって,十分に語ったと判断し,終了した.
感情については,Shaverら13)の感情の系統図を提示し,表現し難い時は,記載されている感情語から選択するよう説明を行った.Shaverら13)は,135の感情語をクラスター分類し,愛・楽しさ・驚き・怒り・悲しみ・恐れの6つの基本感情に分類している.本研究において,研究協力者が語った愛・いたわり・優しさは愛,嬉しさ・安堵は楽しさ,驚き・仰天は驚き,不機嫌・落ち着かなさ・腹立たしさ・嫌悪は怒り,傷心・精神的痛み・抑うつ・絶望・悲しみ・悲嘆・感傷・失望・罪悪感・恥・後悔・孤立感・落胆・哀れみは悲しみ,恐怖・不安・神経質・心配・恐れ・心痛は恐れの感情に属する.また,愛・楽しさはポジティブな感情,怒り・悲しみ・恐れはネガティブな感情に属する.さらに,Shaverら13)は,各感情に先行する出来事,反応,感情をコントロールする過程という感情のプロトコルを明らかにしている.研究協力者の語りから感情を抽出する際,感情のプロトコルも参考にした.
データの記録は,同意後,ICレコーダーや書き取りで行った.
4. データ収集期間平成19年8月~平成23年9月
5. 分析方法データを熟読し,子宮がん患者の体験に伴う感情と配偶者とのコミュニケーションについて語られている箇所を,文脈を損なわないよう抽出した.数回,同じ出来事について語られている部分は,同じ文脈であることを確認し,統合した.次に,抽出したデータを,子宮がん患者の体験に伴う感情と配偶者とのコミュニケーションが表現されるように要約した.次に,要約を類似性でまとめサブテーマとした.さらに,サブテーマを類似性でまとめテーマとした.加えて,研究協力者ごとに,子宮がん罹患後から子宮全摘出術前まで,子宮全摘出術後から現在までという時間の流れに沿って,要約を整理し,各研究協力者における子宮がん患者の体験に伴う感情と配偶者とのコミュニケーションのあり様を示した.
6. 真実性の確保研究協力者が語った内容を研究者が要約し,面接中・後に口頭で確認を行った.また,研究協力者が語った内容に不明な点が生じた時は,後日,研究協力者に確認を行った.また,がん看護や質的研究に精通している研究者にスーパーバイズと助言を受けた.
本研究は,香川大学医学部倫理委員会の承認(承認番号 平成22-21)及び,香川労災病院の倫理審査を受け,承認を得て行った.
研究協力施設に研究の概要等を説明し同意を得た.看護師長に,研究協力者に研究の概要説明をしていただき,配偶者の同意も得ていただけるように依頼した.
面接当日,紹介を受けた研究協力者に対し,研究目的,意義,看護への貢献,研究方法,経費はかからないこと,プライバシー保護と個人情報保護の方法,参加は自由意思で,いつでも同意撤回でき,どのような場合も治療や看護上の不利益を被ることはないことを説明した.また,修士論文として発表し,その後も看護系の学会等で発表し,論文投稿することを口頭と書面で説明を行い,同意書にサインをいただいた.配偶者の同意は,研究協力者に代筆していただいた.
また,面接中は,研究協力者の心身の苦痛がコントロールされているか適宜確認した.
研究協力者の概要は,表1-1,1-2に示す.年齢は40~60歳代,子どもは全員が有していた.診断名は,子宮頸がん5名,子宮体がん7名,診断時の病期はⅠb~Ⅲであった.治療内容は,子宮全摘出術のみ1名,子宮全摘出術に加え化学療法9名,子宮全摘出術に加え化学療法と放射線療法2名であった.卵巣も摘出した人は,11名であった.治療を継続している人7名,経過観察中の人5名であった.術後経過時間は1ケ月から4年であった.結婚から子宮がん罹患前までの夫婦の関係は,配偶者に感情を表出できる人と,表出できない人がいた.
面接状況は,1名の面接回数は1~2回,1回の面接時間は59分から120分であり,平均は78分であった.
研究協力者 | A氏 | B氏 | C氏 | D氏 | E氏 | F氏 |
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年齢 | 50歳後半 | 50歳前半 | 60歳前半 | 60歳後半 | 60歳前半 | 50歳後半 |
子どもの数 | 2人 | 2人 | 3人 | 2人 | 2人 | 2人 |
診断名 | 子宮頚がん | 子宮体がん | 子宮体がん | 子宮体がん | 子宮頚がん | 子宮体がん |
診断時の病期 | Ⅱb | Ⅰb | Ⅱb | Ⅰb | Ⅱb | Ⅱb |
治療内容/現在の状況 | 化学療法後,子宮全摘出術・卵巣摘出,放射線療法/現在,化学療法中 | 子宮全摘出術・卵巣摘出/現在,化学療法中 | 子宮全摘出術・卵巣摘出/現在,化学療法中 | 子宮全摘出術・卵巣摘出/現在,経過観察中 | 子宮全摘出術・卵巣摘出/現在,化学療法中 | 子宮全摘出術・卵巣摘出/現在,化学療法中 |
術後経過時間 | 1年2ケ月 | 1ケ月 | 2ケ月 | 4年 | 2ケ月 | 3ケ月 |
結婚から子宮がん罹患前までの夫婦の関係 | 仕事をしながら,子育て・家事・介護を一人で抱え込み,怒りや悲しみを感じたが,夫には言えなかった. | 子育て,家事等を夫が手伝わず怒りを感じたが,姑の逝去後は,積極的に手伝ってくれたことで夫からの気遣いを感じ,今まで聞けなかったことを聞けるようになり,夫を頼るようになった. | 1日中,子育て,家事,仕事に追われる中,夫の手伝いはなく,夫の子どもへの態度にも怒りを感じたが,一人で泣く,買い物に行く,友達に聞いてもらうという方法で発散していた. | 苦しいことがあっても夫と分かち,頑張れている安堵を感じながら,夫婦で子育て,仕事に無我夢中で生きてきた. | 夫と一緒にいるとペースが合わず怒りを感じるため,私は私,夫は夫と割りきり,夢中で仕事と子育てをしてきた. | 子育てや家事をしてくれていた義母が亡くなり,仕事以外の負担がかかるが,夫がしんどさを理解してくれることに優しさを感じ,言いたいことは言いながら共に生活してきた. |
研究協力者 | G氏 | H氏 | I氏 | J氏 | K氏 | L氏 |
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年齢 | 50歳後半 | 50歳前半 | 50歳後半 | 40歳後半 | 50歳前半 | 50歳後半 |
子どもの数 | 2人(実子ではない) | 3人 | 2人 | 2人 | 3人 | 2人 |
診断名 | 子宮体がん | 子宮頚がん | 子宮頚がん | 子宮頚がん | 子宮体がん | 子宮体がん |
診断時の病期 | Ⅱ‐Ⅲ | Ⅱb | Ⅱb | Ⅱb | Ⅱa | Ⅱb |
治療内容/現在の状況 | 子宮全摘出術・卵巣摘出後,化学療法/現在,経過観察中 | 子宮全摘出術・卵巣摘出後,化学療法/現在,経過観察中 | 子宮全摘出術後,化学療法,放射線療法/現在,経過観察中 | 子宮全摘出術・卵巣摘出後,化学療法/現在,経過観察中 | 子宮全摘出術・卵巣摘出/現在,化学療法中 | 子宮全摘出術・卵巣摘出/現在,化学療法中 |
術後経過時間 | 1年6ケ月 | 1年10ケ月 | 4年 | 3年5ケ月 | 4ケ月 | 2年8ケ月 |
結婚から子宮がん罹患前までの夫婦の関係 | 夫婦の諸事情により,驚き・怒り・悲しみを感じ,夫に気持ちをぶつけたことはあったが,自分で自分を納得させ,夫とはかかわらず,外で発散していた. | 子育て,仕事で困った時は相談しあい,夫婦で楽しく一生懸命に生きてきた. | ここぞという時には頼ることができ,家族愛のある夫を尊敬し,何でも相談しながら生きてきた. | 仕事,子育て,家事に追われることで,何かが犠牲になってしまう生活に怒り・悲しみを感じるが,夫のしんどさも分かるため自分の気持ちは言わず,ただ子どもの成長を喜びながら生きてきた. | 腹が立った時は,夫に言いたいことを言い,夫婦で協力しながら子育てや家事を無我夢中でこなし生きてきた. | 子どもに対する夫の対応に怒りを感じることはあるが,夫婦で協力して子育て,家事,仕事を無我夢中でこなし生きてきた. |
子宮がん患者の体験に伴う感情と配偶者とのコミュニケーションの特徴を表2に示す.2つのテーマが見いだされ,テーマ1【ネガティブな感情を感じていても,配偶者からの愛により,ポジティブな感情が生まれ,コミュニケーションをとる】,テーマ2【ネガティブな感情を感じていても,配偶者の特性や子宮がん患者の認識により,コミュニケーションを制限する】であった.
テーマは【 】,サブテーマは「 」,要約のデータ番号は< >で示す.
テーマ | サブテーマ | 要約のデータ番号 |
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テーマ1 ネガティブな感情を感じていても,配偶者からの愛により,ポジティブな感情が生まれ,コミュニケーションをとる |
ネガティブな感情を表出した時,配偶者からのいたわりに愛・楽しさを感じ,ありのままの自分でかかわる | A-1/B-1,3,4,5,6/C-4/E-1/F-1/G-1/I-1,2,3,4,5,6/K-2/L-2,3,5 |
配偶者からの自主的ないたわりに愛・楽しさを感じ,ありのままの自分でかかわる | A-3,5/B-2/C-5/F-2,4/G-4/H-6/J-4/L-6 | |
テーマ2 ネガティブな感情を感じていても,配偶者の特性や子宮がん患者の認識により,コミュニケーションを制限する |
配偶者の性格を気にかけ,かかわりを抑える | A-4/C-2/D-2,3,4,5/E-2,3/F-3,5/H-3,4,5/J-2,3/K-3,4,5/L-1,4 |
配偶者の態度を気にかけ,かかわりを抑える | C-1,3/D-1/G-2,3/H-2/J-1 | |
配偶者には女性のことを理解し難いと慮り,かかわりを抑える | A-2/H-1/K-1/D-6 |
【ネガティブな感情を感じていても,配偶者からの愛により,ポジティブな感情が生まれ,コミュニケーションをとる】とは,「ネガティブな感情を表出した時,配偶者からのいたわりに愛・楽しさを感じ,ありのままの自分でかかわる」ことや,「配偶者からの自主的ないたわりに愛・楽しさを感じ,ありのままの自分でかかわる」ことである.
① 「ネガティブな感情を表出した時,配偶者からのいたわりに愛・楽しさを感じ,ありのままの自分でかかわる」子宮がん患者は,病気の体験に伴い,怒り・悲しみ・恐れといったネガティブな感情を感じている.その感情を配偶者に表出した時,配偶者に受け止められる,励まされる,慰められるといった行為から愛を感じ,ネガティブな感情を感じていても,嬉しさや愛を感じて,配偶者とかかわるようになるということである.
A氏は子宮がん罹患後から子宮全摘出術まで(以後,術前),A-1<子宮喪失だけでなく,排尿障害により尿管を入れた生活への嫌悪,手術までに腫瘍が大きくなるのではないかという不安,イライラ,落ち着かなさを感じ,夫に表出したことで励まされ,怒りをぶつける>ことをしていた.
B氏は術前,B-1<がん告知に驚き,悲しみ,絶望,不安,恐怖を感じ,夫にがんであることを言うと,手を握り励ましてくれたことに一人ではない安堵を感じ,夫の胸で思いきり泣く>ことをしていた.子宮全摘出術後から現在まで(以後,術後)は,B-3<術後,医師より治療は半年くらいかかりそうと説明を受け,病理結果を待つ間,心配でイライラし夫に話すと,夫がマイナスではなくプラスに考えようと慰めてくれたことに,いたわりを感じ,気持ちを出す>,B-4<子宮・卵巣摘出後の弊害に不安を感じ夫に話すと,夫が先のことを考えて心配しすぎる性格を分かった上で,今は先のことを考えなくてもいいと言い聞かせてくれたことに嬉しさ・いたわりを感じ,気持ちを出す>ことをしていた.また,B-5<化学療法の副作用で脱毛が始まり,精神的痛み,傷心,悲しさを感じる中,夫に脱毛しても一緒に寝てくれるかメールすると,OKと返信があったことに安堵し,嬉しさを感じ,外泊時は夫の隣で眠る>,B-6<治療後,今までしてきた生活に戻れるのかという不安を感じて夫に話すと,身体を気遣った生活の仕方を考えてくれたことにいたわりや優しさを感じ,今後のことを夫に相談する>ことをしていた.
C氏は術後,C-4<化学療法の副作用で脱毛したことに驚き,また生えるのか,後から見えない影響が出るのではと不安を感じ,夫に話すと,励まし,生きて欲しいと言ってくれたことに,嬉しさを感じ,外泊時はいたわりあう>ことをしていた.
E氏は術前,E-1<子宮がんの告知を受け,もう手遅れなのではないかという不安,なぜ私がという悲嘆や辛さを感じ夫に話すと,検査に付き添い,プラス思考で励ましてくれたことに安堵し,優しさやいたわりを感じて,夫を頼る>ことをしていた.
F氏は術前,F-1<病院を転々とする中で,今までの方法ではコントロールできなくなっていく下腹部痛を体験し,がんかもしれない恐怖,手遅れなのではないかという不安,残される夫と子どもへの精神的な痛みや心配を感じ,夫に自分はおそらくがんであることを話すと,がんではないのではと励まされ,夫を頼る>ことをしていた.
G氏は術前,G-1<予想もしていなかった子宮がんの告知に驚き,恐ろしさ,不安,抑うつを感じ,夫にありのままを話すと,苦しみを分かち,一緒に頑張ろうと言ってくれたことに,いたわり,優しさを感じ,夫を頼る>ことをしていた.
I氏は術前,I-1<出血しはじめたことで,がんではないかと不安を感じ,夫に話すと,気遣い,動揺せずに受け止めてくれたことに愛,優しさを感じ,これからも相談しようと思う>,I-2<病名告知後,死を意識し恐れを夫に表出すると,動揺せずに支えてくれる夫からのいたわりを感じ,素直に気持ちを話す>ことをしていた.また,I-3<精密検査中,死んでしまうかもしれない恐れ,自分の死後,夫は生活していけるのかという不安を感じ,夫に話すと,動揺せずに受け止めてくれた夫にいたわりを感じ,夫を頼る>ことをしていた.術後は,I-4<同室者は問題なく退院していくが,なぜ自分だけが再入院し加療が必要なのかと落ち込み,不安,悲しさを感じ,夫にありのままを話すと,動揺せずに受け止めてくれる夫にいたわりを感じ,夫を頼る>,I-5<性交への怖さから,性生活に応えることができなくなり夫への罪悪感を感じ,夫に話すと,夫が理解してくれたことにいたわりを感じ,素直な気持ちを話す>ことをしていた.また,I-6<化学療法中,脱毛,頭部湿疹,下痢の辛さを感じ,夫に話すと,献身的に看病してくれた夫に愛を感じ,夫を頼る>ことをしていた.
K氏は術前,K-2<思いもよらない子宮がんの告知に驚くが,自分よりもショックを受けているはずの夫が,がんの発見が遅れた罪悪感に共感し,常に受診結果を聞いてくれることに優しさを感じ,全て隠さず話す>ことをしていた.
L氏は術前,L-2<おりものが続くことに不安の限界を感じ,夫に話すと,心配してくれて,受診のきっかけをつくってくれたことに,夫からのいたわりを感じ,受診することを伝える>,L-3<医師より子宮がんの告知を受け,驚き,不安,悲しみや,もっと早く受診していればと後悔,悲しさを感じ,夫に話すと,次の受診日に付き添い,一緒に精密検査の結果を聞いてくれたことにいたわりを感じ,気持ちを出す>ことをしていた.術後は,L-5<化学療法の副作用でおこる思考力や集中力の低下をどうすることもできないと落胆,悔しさを感じ,夫に話すと,慰めてくれたことにいたわりを感じ,夫を頼る>ことをしていた.
② 「配偶者からの自主的ないたわりに愛・楽しさを感じ,ありのままの自分でかかわる」子宮がん患者は,病気の体験に伴い,怒り・悲しみ・恐れといったネガティブな感情を配偶者に表出しない時,配偶者が子宮がん患者へ想いを巡らし,安心できるようにする,寄り添う,理解する,あえて沈黙するといった行為から愛を感じ,ネガティブな感情を感じていても,嬉しさや愛を感じて,配偶者とかかわるようになるということである.
A氏は術後,A-3<覚えたての携帯メールで,ぎこちないが体調を聞いてくれたり,家のことを教えて安心させてくれることに優しさを感じ,今日はしんどいと返信する>,A-5<退院後は,夫が中心となって,体調を気遣ってくれることに嬉しさを感じ,しんどい時はしんどいと言い,家事は無理をしない程度で行う>ことをしていた.
B氏は術前,B-2<入院前一カ月の精査期間中,がんが進行する不安,一つ一つの検査結果への不安を感じ落ち着かなかったが,夫が寄り添い,医師の説明をしっかりと受け止めてくれたことに安堵し,夫に頼る>ことをしていた.
C氏は術後,C-5<子宮全摘出により,性生活に支障をきたすと思い,女として夫への罪悪感を感じたが,夫は,他の女性に心を移すことなく,身体を気遣ってくれたことに愛を感じ,女性としての価値を取り戻し,性生活に応える>ことをしていた.
F氏は術前,F-2<単に子宮全摘出術だけで終わらない肉腫の可能性があることへの不安を感じた時,泣いている自分のそばにいてくれる夫からの慰めを感じ,怒りを出す>ことをしていた.術後は,F-4<術後,細胞診の結果や直腸への転移に対する不安を感じていたが,夫が検査結果を気にしてくれていたため,不安であることや転移の可能性があることを話す>ことをしていた.
G氏は術後,G-4<自分を一番で考えて生活してくれる夫を見て,夫からの愛情を感じ,自分も夫にできることはして,これからは夫と向き合って頑張りたいと思う>ことをしていた.
H氏は術後,H-6<化学療法中,食べることができそうな物を聞いてくれる夫に優しさ,いたわりを抱き,こんなん食べたいと頼る>ことをしていた.
J氏は術後,J-4<退院後の生活において,無理をしないように心配してくれる夫に気遣いを感じ,自分も夫を気遣い,夫婦でいたわりあう>ことをしていた.
L氏は術後,L-6<寝耳に水だった再発に最初の告知よりもショックを受けるが,再発の可能性があることを黙っていてくれた夫と娘に有難さを感じ,家族で根治に向けた方法を探す>ことをしていた.
2) テーマ2【ネガティブな感情を感じていても,配偶者の特性や子宮がん患者の認識により,コミュニケーションを制限する】【ネガティブな感情を感じていても,配偶者の特性や子宮がん患者の認識により,コミュニケーションを制限する】とは,「配偶者の性格を気にかけ,かかわりを抑える」こと,「配偶者の態度を気にかけ,かかわりを抑える」こと,「配偶者には女性のことを理解し難いと慮り,かかわりを抑える」ことである.
① 「配偶者の性格を気にかけ,かかわりを抑える」子宮がん患者は,結婚から今この瞬間も,配偶者と共に様々な出来事を経験し,人生を生きている.その共に生きる経験において,知り得た配偶者の性格から,これ以上,感情を表出すると,配偶者の心身の健康状態が悪くなると推し量り,配偶者とのかかわりを制限することである.
A氏は術後,A-4<化学療法による脱毛に辛さを感じている時,夫がピエロになって励ましてくれたことに気遣いを感じるが,夫に辛い気持ちを表出すると,夫が抱え込んでしまうと思い,元気にふるまう>ことをしていた.
C氏は術前,C-2<止血剤の効果がなく,出血が増え続けることにこのままでは命がなくなってしまうと落ち着かず,心配を感じたが,心配性の夫には言えないと,大量出血しはじめても,夫に気づかれないように一人で救急外来に行く>ことをしていた.
D氏は術前,D-2<精査中,がんの痛みが出現していることに加えて,出血が止まらないのにまだ治療が開始されず手遅れになるのではないかと不安,恐れ,恐怖を感じるが,心配性の夫へのいたわりから何も話をせず,平静を保つ>,D-3<手術室に向かう時,既に手遅れではないのかと恐れ,不安を感じたが,夫の神妙な顔を見て精神的痛みを感じ,心配させてはいけないと作り笑いをする>ことをしていた.術後は,D-4<加療が必要となった同室者の退院が延期になり恐れを感じたが,夫には心配させまいと言わない>,D-5<医師からの退院許可がおりず,経過観察となり不安を感じたが,心配性の夫を気づかい,明るく受け入れたように話す>ことをしていた.
E氏は術後,E-2<化学療法中も常に死の恐怖を感じているが,夫が恐る恐る気遣ってくれる様子から,夫を不安にさせまいと,どうもないと答える>,E-3<定期受診の前日には悪い結果がよぎり,常に死の恐怖や,死後の家族の生活への不安を感じるが,自分のこと以外に家族の問題を抱えている夫に負担をかけると,オロオロしてしまうと感じ,自分のことは言わない>ということをしていた.
F氏は術後,F-3<手術後,自由に動くことができず仕事をしている人が羨ましく,孤立感,さみしさ,感傷を感じたが,一人で頑張っている夫を落ち込ませるのは嫌であり,強い姿を見せる>,F-5<脱毛していくことに失望するが,淡々としている夫の態度から深い話はできないと思い,お互いに辛くなり落ち込まないように身体の話は一言二言で終わらせる>ことをしていた.
H氏は術前,H-3<精密検査終了後,手術できないかもしれないという想定外の現実に驚きや悲しみを抱くが,心配して痩せた夫を気遣いストレートには状況説明しない>,H-4<子宮がんの手術によって,以前経験したような酷い腸閉塞を再び起こすのではないかという恐怖,がんになったら治らない悲しみと想像を絶する死ぬときのしんどさへの恐怖を抱くが,夫に心配かけまいと何も言わない>ということをしていた.術後は,H-5<手術直後,医師が家族に説明するリンパ節転移の事実を耳にし,悲しみ,不安,恥を抱くが,あえて夫に確認しないという配慮をする>ということをしていた.
J氏は術前,J-2<精密検査の結果を聞いて不安を感じるが,後から医師の説明を受けた夫が悪い方に受け止め,泣き崩れる姿を見て,自分のことをますます言えなくなる>.術後は,J-3<手術から帰室した時,身体が辛いと感じるが,今にも死んでしまいそうな不安げな顔をしている夫を見て心配,心痛を感じ,術後疼痛があることは夫に言わず,自分で痛み止めのポンプを押す>ことをしていた.
K氏は術前,K-3<精査中,転移の心配があり,ただただ転移がないことを祈る中,夫には変に心配させたくないと思い,大丈夫と普通にふるまう>,K-4<入院から手術までの間,一人で過ごす中で,今まで一生懸命に生きてきたのに,何で自分なのかとただ虚しく,感傷を抱くが,夫には心配をかけまいと気持ちを押し殺し,普通に接する>ことをしていた.術後は,K-5<手術後,再発の可能性が高く,化学療法をしても完治することはないと知り落胆するが,普段から先に逝きたいと願っている夫の気持ちを察して,大丈夫と言う>ことをしていた.
L氏は術前,L-1<いつもとは違う感じのおりものの出現に不安を感じたが,心配性の夫を気遣い言わない>,L-4<開腹してみてどのような状態になっているのかという不安を感じていたが,心配性の夫を気遣い,病気のことより,夫が定年後に始めようとしている好きなことについての話をする>ことをしていた.
② 「配偶者の態度を気にかけ,かかわりを抑える」子宮がん患者は,病気の体験に伴い,怒り・悲しみ・恐れといったネガティブな感情を配偶者に表出した時,配偶者が過剰に不安になる,心配し落ち込む,答えようがないような態度をとる,悲しそうな顔をする,自分よりもショックを受け辛そうにするといった姿を目の当たりにすることで,配偶者を心配させまいと配偶者とのかかわりを制限することである.
C氏は術前,C-1<Positron Emission Tomography(以後,PET)で転移が疑われ,リンパまできたかと驚き,仰天を感じたが,開けてみるまでは分からないという医師の言葉に希望を持ち,夫に話すと,夫が過剰に不安になったため,出血していることは言わず,元気にふるまう>ことをしていた.術後は,C-3<リンパを切除できず,再手術になる説明を受けるが,腹部不快感の原因が分かり,治療もできるため嬉しさを感じ夫に話すが,心配し落ち込む姿から,抗がん剤の副作用で食べられない時も,食べられると元気な姿を見せる>ことをしていた.
D氏は術前,D-1<子宮がんの告知を受けたことで不安,神経質を感じ,夫に告知された内容を話すが,うろたえる夫を見て,心痛,恐れ,哀れみを感じ,夫に痛みがあることを気づかれないように一人で耐える>ことをしていた.
G氏は術後,G-2<化学療法前,不安なことを夫に話すが,答えようがないような態度を見て,夫へのいたわりから,もう何も言わないようにしようと思う>,G-3<化学療法の副作用が強く鬱的になり,今後の経過や転移の可能性に対して不安,恐れを感じ夫に話すと,悲しそうな顔をするため,かわいそうになり,夫へのいたわりから不安なことを言うのを我慢する>ことをしていた.
H氏は術前,H-2<受診前,おそらく子宮がんであることに不安や恐怖を抱き夫に話すが,驚く姿から,楽観的にふるまう>ことをしていた.
J氏は術前,J-1<医師から見たこともないがんだと告知を受け,強烈な不安を感じ,夫にありのままを話すと,自分よりもショックを受け辛そうにしている姿を見て,夫にはもう黙って普段どおりに生活しようと決心する>ことをしていた.
③ 「配偶者には女性のことを理解し難いと慮り,かかわりを抑える」子宮がん患者は,子宮は女性特有の臓器であるため,不正出血や子宮喪失といったことや,女性の気持ちは,配偶者には分からないだろうと思い,配偶者とのかかわりを制限するということである.
A氏は術後,A-2<子宮を喪失した悲しさ,手術による排泄障害への腹立たしさを感じるが,子宮の手術経験がある娘の方が気持ちを分かってくれると思い,夫には話さない>ことをしていた.
D氏は術後,D-6<女性性を意識させるものに嫌悪,不機嫌,腹立たしさを感じ,同室者には話すが,夫には気持ちを分かってもらえず,自分のイライラが移ると思い,言わない>ということをしていた.
H氏は術前,H-1<身体の異変に気付いた時,男の人には女の人の病気は分からないし,説明もできないとあきらめを抱き,夫には病気のことは相談しない>ということをしていた.
K氏は術前,K-1<ホルモン剤を飲んでも出血が止まらないことに不安を感じたが,夫は男だから生理のことは分からないだろうと思い,夫には言わない>ということをしていた.
3. 各研究協力者における子宮がん患者の体験に伴う感情と配偶者とのコミュニケーションのあり様各研究協力者における子宮がん患者の体験に伴う感情と配偶者とのコミュニケーションのあり様を表3-1,3-2に示す.
B氏・I氏は,テーマ1【ネガティブな感情を感じていても,配偶者からの愛により,ポジティブな感情が生まれ,コミュニケーションをとる】のみを認め,配偶者とのコミュニケーションをとり続けていた.
D氏は,テーマ2【ネガティブな感情を感じていても,配偶者の特性や子宮がん患者の認識により,コミュニケーションを制限する】のみを認め,配偶者とのコミュニケーションを制限し続けていた.
A氏・C氏・E氏・F氏・G氏・H氏・J氏・K氏・L氏は,テーマ1と2の両方を認め,配偶者とのコミュニケーションをとったり,制限したりしていた.
研究協力者 | A氏 | B氏 | C氏 | D氏 | E氏 | F氏 |
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<子宮がん罹患後~子宮全摘出術前まで> | A-1 子宮喪失だけでなく,排尿障害により尿管を入れた生活への嫌悪,手術までに腫瘍が大きくなるのではないかという不安,イライラ,落ち着かなさを感じ,夫に表出したことで励まされ,怒りをぶつける |
B-1 がん告知に驚き,悲しみ,絶望,不安,恐怖を感じ,夫にがんであることを言うと,手を握り励ましてくれたことに一人ではない安堵を感じ,夫の胸で思いきり泣く B-2 入院前一カ月の精査期間中,がんが進行する不安,一つ一つの検査結果への不安を感じ落ち着かなかったが,夫が寄り添い,医師の説明をしっかりと受け止めてくれたことに安堵し,夫に頼る |
C-1 PETで転移が疑われ,リンパまできたかと驚き,仰天を感じたが,開けてみるまでは分からないという医師の言葉に希望を持ち,夫に話すと,夫が過剰に不安になったため,出血していることは言わず,元気にふるまう C-2 止血剤の効果がなく,出血が増え続けることに,このままでは命がなくなってしまうと落ち着かず,心配を感じたが,心配性の夫には言えないと,大量出血しはじめても,夫に気づかれないように一人で救急外来に行く |
D-1 子宮がんの告知を受けたことで不安,神経質を感じ,夫に告知された内容を話すが,うろたえる夫を見て,心痛,恐れ,哀れみを感じ,夫に痛みがあることを気づかれないように一人で耐える D-2 精査中,がんの痛みが出現していることに加えて,出血が止まらないのにまだ治療が開始されず手遅れになるのではないかと不安,恐れ,恐怖を感じるが,心配性の夫へのいたわりから何も話をせず,平静を保つ D-3 手術室に向かう時,既に手遅れではないのかと恐れ,不安を感じたが,夫の神妙な顔を見て精神的痛みを感じ,心配させてはいけないと作り笑いをする |
E-1 子宮がんの告知を受け,もう手遅れなのではないかという不安,なぜ私がという悲嘆や辛さを感じ夫に話すと,検査に付き添い,プラス思考で励ましてくれたことに安堵し,優しさやいたわりを感じて,夫を頼る |
F-1 病院を転々とする中で,今までの方法ではコントロールできなくなっていく下腹部痛を体験し,がんかもしれない恐怖,手遅れなのではないかという不安,残される夫と子どもへの精神的な痛みや心配を感じ,夫に自分はおそらくがんであることを話すと,がんではないのではと励まされ,夫を頼る F-2 単に子宮全摘出術だけで終わらない肉腫の可能性があることへの不安を感じた時,泣いている自分のそばにいてくれる夫からの慰めを感じ,怒りを出す |
<子宮全摘出術後~現在まで> |
A-2 子宮を喪失した悲しさ,手術による排泄障害への腹立たしさを感じるが,子宮の手術経験がある娘の方が気持ちを分かってくれると思い,夫には話さない A-3 覚えたての携帯メールで,ぎこちないが体調を聞いてくれたり,家のことを教えて安心させてくれることに優しさを感じ,今日はしんどいと返信する A-4 化学療法による脱毛に辛さを感じている時,夫がピエロになって励ましてくれたことに気遣いを感じるが,夫に辛い気持ちを表出すると,夫が抱え込んでしまうと思い,元気にふるまう A-5 退院後は,夫が中心となって,体調を気遣ってくれることに嬉しさを感じ,しんどい時はしんどいと言い,家事は無理をしない程度で行う |
B-3 術後,医師より治療は半年くらいかかりそうと説明を受け,病理結果を待つ間,心配でイライラし夫に話すと,夫がマイナスではなくプラスに考えようと慰めてくれたことに,いたわりを感じ,気持ちを出す B-4 子宮・卵巣摘出後の弊害に不安を感じるが,夫が先のことを考えて心配しすぎる性格を分かった上で,今は先のことを考えなくてもいいと言い聞かせてくれたことに嬉しさ・いたわりを感じ,気持ちを出す B-5 化学療法の副作用で脱毛が始まり,精神的痛み,傷心,悲しさを感じる中,夫に脱毛しても一緒に寝てくれるかメールすると,OKと返信があったことに安堵し,嬉しさを感じ,外泊時は夫の隣で眠る B-6 治療後,今までしてきた生活に戻れるのかという不安を感じて夫に話すと,身体を気遣った生活の仕方を考えてくれたことにいたわりや優しさを感じ,今後のことを夫に相談する |
C-3 リンパを切除できず,再手術になる説明を受けるが,腹部不快感の原因が分かり,治療もできるため嬉しさを感じ夫に話すが,心配し落ち込む姿から,抗がん剤の副作用で食べられない時も,食べられると元気な姿を見せる C-4 化学療法の副作用で脱毛したことに驚き,また生えるのか,後から見えない影響が出るのではと不安を感じ,夫に話すと,励まし,生きて欲しいと言ってくれたことに,嬉しさを感じ,外泊時はいたわりあう C-5 子宮全摘出により,性生活に支障をきたすと思い,女として夫への罪悪感を感じたが,夫は,他の女性に心を移すことなく,身体を気遣ってくれたことに愛を感じ,女性としての価値を取り戻し,性生活に応える |
D-4 加療が必要となった同室者の退院が延期になり恐れを感じたが,夫には心配させまいと言わない D-5 医師からの退院許可がおりず,経過観察となり不安を感じたが,心配性の夫を気づかい,明るく受け入れたように話す D-6 女性性を意識させるものに嫌悪,不機嫌,腹立たしさを感じ,同室者には話すが,夫には気持ちを分かってもらえず,自分のイライラが移ると思い,言わない |
E-2 化学療法中も常に死の恐怖を感じているが,夫が恐る恐る気遣ってくれる様子から,夫を不安にさせまいと,どうもないと答える E-3 定期受診の前日には悪い結果がよぎり,常に死の恐怖や,死後の家族の生活への不安を感じるが,自分のこと以外に家族の問題を抱えている夫に負担をかけると,オロオロしてしまうと感じ,自分のことは言わない |
F-3 手術後,自由に動くことができず仕事をしている人が羨ましく,孤立感,さみしさ,感傷を感じたが,一人で頑張っている夫を落ち込ませるのは嫌であり,強い姿を見せる F-4 術後,細胞診の結果や直腸への転移に対する不安を感じていたが,夫が検査結果を気にしてくれていたため,不安であることや転移の可能性があることを話す F-5 脱毛していくことに失望するが,淡々としている夫の態度から深い話はできないと思い,お互いに辛くなり落ち込まないように身体の話は一言二言で終わらせる |
研究協力者 | G氏 | H氏 | I氏 | J氏 | K氏 | L氏 |
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<子宮がん罹患後~子宮全摘出術前まで> | G-1 予想もしていなかった子宮がんの告知に驚き,恐ろしさ,不安,抑うつを感じ,夫にありのままを話すと,苦しみを分かち,一緒に頑張ろうと言ってくれたことに,いたわり,優しさを感じ,夫を頼る |
H-1 身体の異変に気付いた時,男の人には女の人の病気は分からないし,説明もできないとあきらめを抱き,夫には病気のことは相談しない H-2 受診前,おそらく子宮がんであることに不安や恐怖を抱き,夫に話すが,驚く姿から,楽観的にふるまう H-3 精密検査終了後,手術できないかもしれないという想定外の現実に驚きや悲しみを抱くが,心配して痩せた夫を気遣いストレートには状況説明しない H-4 子宮がんの手術によって,以前経験したような酷い腸閉塞を再び起こすのではないかという恐怖,がんになったら治らない悲しみと想像を絶する死ぬときのしんどさへの恐怖を抱くが,夫に心配かけまいと何も言わない |
I-1 出血しはじめたことで,がんではないかと不安を感じ,夫に話すと,気遣い,動揺せずに受け止めてくれたことに愛,優しさを感じ,これからも相談しようと思う I-2 病名告知後,死を意識し恐れを夫に吐露すると,動揺せずに支えてくれる夫からのいたわりを感じ,素直に気持ちを話す I-3 精密検査中,死んでしまうかもしれない恐れ,自分の死後,夫は生活していけるのかという不安を感じ,夫に話すと,動揺せずに受け止めてくれた夫にいたわりを感じ,夫を頼る |
J-1 医師から見たこともないがんだと告知を受け,強烈な不安を感じ,夫にありのままを話すと,自分よりもショックを受け辛そうにしている姿を見て,夫にはもう黙って普段どおりに生活しようと決心する J-2 精密検査の結果を聞いて不安を感じるが,後から医師の説明を受けた夫が悪い方に受け止め,泣き崩れる姿を見て,落ち込みやすい夫には,自分のことをますます言えなくなる |
K-1 ホルモン剤を飲んでも出血が止まらないことに不安を感じたが,夫は男だから生理のことは分からないだろうと思い,夫には言わない K-2 思いもよらない子宮がんの告知に驚くが,自分よりもショックを受けているはずの夫が,がんの発見が遅れた罪悪感に共感し,常に受診結果を聞いてくれることに優しさを感じ,全て隠さず話す K-3 精査中,転移の心配があり,ただただ転移がないことを祈る中,夫には変に心配させたくないと思い,大丈夫と普通にふるまう K-4 入院から手術までの間,一人で過ごす中で,今まで一生懸命に生きてきたのに,何で自分なのかとただ虚しく,感傷を抱くが,夫には心配をかけまいと気持ちを押し殺し,普通に接する |
L-1 いつもとは違う感じのおりものの出現に不安を感じたが,心配性の夫を気遣い言わない L-2 おりものが続くことに不安の限界を感じ,夫に話すと,心配してくれて,受診のきっかけをつくってくれたことに,夫からのいたわりを感じ,受診することを伝える L-3 医師より子宮がんの告知を受け,驚き,不安,悲しみや,もっと早く受診していればと後悔,悲しさを感じ,夫に話すと,次の受診日に付き添い,一緒に精密検査の結果を聞いてくれたことにいたわりを感じ,気持ちを出す L-4 開腹してみてどのような状態になっているのかという不安を感じていたが,心配性の夫を気遣い,病気のことより,夫が定年後に始めようとしている好きなことについての話をする |
<子宮全摘出術後~現在まで> |
G-2 化学療法前,不安なことを夫に話すが,答えようがないような態度を見て,夫へのいたわりから,もう何も言わないようにしようと思う G-3 化学療法の副作用が強く鬱的になり,今後の経過や転移の可能性に対して不安,恐れを感じ夫に話すと,悲しそうな顔をするため,かわいそうになり,夫へのいたわりから不安なことを言うのを我慢する G-4 自分を一番で考えて生活してくれる夫を見て,夫からの愛情を感じ,自分も夫にできることはして,これからは夫と向き合って頑張りたいと思う |
H-5 手術直後,医師が家族に説明するリンパ節転移の事実を耳にし,悲しみ,不安,恥を抱くが,あえて心配性の夫に確認しないという配慮をする H-6 化学療法中,食べることができそうな物を聞いてくれる夫に優しさ,いたわりを抱き,こんなん食べたいと頼る |
I-4 同室者は問題なく退院していくが,なぜ自分だけが再入院し加療が必要なのかと落ち込み,不安,悲しさを感じ,夫にありのままを話すと,動揺せずに受け止めてくれる夫にいたわりを感じ,夫を頼る I-5 性交への怖さから,性生活に応えることができなくなり夫への罪悪感を感じ,夫に話すと,夫が理解してくれたことにいたわりを感じ,素直な気持ちを話す I-6 化学療法中,脱毛,頭部湿疹,下痢の辛さを感じ,夫に話すと,献身的に看病してくれた夫に愛を感じ,夫を頼る |
J-3 手術から帰室した時,身体が辛いと感じるが,今にも死んでしまいそうな不安げな顔をしている夫を見て心配,心痛を感じ,術後疼痛があることは夫に言わず,自分で痛み止めのポンプを押す J-4 退院後の生活において,無理をしないように心配してくれる夫に気遣いを感じ,自分も夫を気遣い,夫婦でいたわりあう |
K-5 手術後,再発の可能性が高く,化学療法をしても完治することはないと知り落胆するが,普段から先に逝きたいと願っている夫の気持ちを察して,大丈夫と言う |
L-5 化学療法の副作用でおこる思考力や集中力の低下をどうすることもできないと落胆,悔しさを感じ,夫に話すと,慰めてくれたことにいたわりを感じ,夫を頼る L-6 寝耳に水だった再発に最初の告知よりもショックを受けるが,再発の可能性があることを黙っていてくれた夫と娘に有難さを感じ,家族で根治に向けた方法を探す |
本研究における研究協力者は,40歳後半~60歳後半であり,女性のライフサイクルでは概ね更年期にあたる.更年期とは,女性の加齢に伴う生殖期から非生殖期への移行期であり,閉経周辺期とその前後の変動的な時期が含まれる.わが国の女性の閉経年齢は49歳から50歳がピークである14)ことをふまえると,本研究の研究協力者は,子宮がんに罹患する前から卵胞ホルモンや黄体ホルモンが減少傾向にあったと考えられる.加えて,研究協力者12名中11名は卵巣摘出を施行していることから,さらにホルモンバランスが崩れやすい状態であったと考えられる.また,更年期の女性は,夫の定年,子どもの自立,親の介護等で心理的社会的にも複雑な問題が生じやすい.よって,様々な要因が複雑に絡みあうことで,子宮がん患者の体験に伴う感情に影響を及ぼしていたと考えられる.
心理的社会的な問題の背景には,夫との親密な関係性の未構築等があり,子宮がんに罹患する前の配偶者との関係性が,子宮がん罹患後の子宮がん患者の体験に伴う感情や配偶者とのコミュニケーションに影響を及ぼしていたと考えられる.
2. 子宮がん患者が感じる女性性喪失感と配偶者との関係子宮全摘出術後に,女性性喪失感を自覚していた人は,A氏,B氏,C氏,D氏,I氏であり,結婚から子宮がん罹患前の夫婦関係に特徴があった.
B氏,I氏,D氏の結婚から子宮がん罹患前の夫婦関係は,配偶者を頼る,相談できる,苦しいことを分かち合い頑張る関係であり,子宮がん罹患後も体験に伴うネガティブな感情を配偶者に表出することができている.そして,B氏は化学療法による脱毛に悲しさを感じ,脱毛しても一緒に寝てくれるか配偶者にメールし,OKの返事に安堵し,嬉しさを感じている.B氏は,50歳前半であり,更年期による心身の変化から,術前から女性性喪失感を少なからず感じていたと考えられる.そのような時期に子宮がんに罹患し,子宮と卵巣を摘出したことで,さらに女性性喪失感を感じたのではないかと考えられる.さらに,化学療法による脱毛により,女性性喪失感が増し,女性で在り続けることができるのかを配偶者に確かめたのではないかと推測できる.I氏は,性交への怖さから性生活に応えることができない罪悪感を感じていたが,配偶者に話し,理解されたことで,配偶者からのいたわりを感じている.このように,女性性喪失感を感じていても,配偶者に確かめたり,話したりすることにより,安堵,嬉しさ,いたわりを感じることができている.
しかし,D氏は,ネガティブな感情を表出した時に配偶者がうろたえた態度をとったことをきっかけに,苦しさを分かち合うことができなくなっている.また,配偶者には女性のことを理解し難いという認識も相まって,子宮と卵巣を摘出後,女性性を意識させるものに怒りを感じた時も,同室者には話すが配偶者には話していない.
以上のことから,結婚から子宮がん罹患前までに配偶者に頼る,相談できる,苦しいことを分かち合い頑張れる関係がある子宮がん患者は,子宮がん罹患後においても配偶者にネガティブな感情を表出することができる.そして,ネガティブな感情を表出した時,配偶者が子宮がん患者を受け止めることができれば,女性性喪失感を感じた時も,配偶者に話せる.しかし,配偶者が不安な態度をとった時は,子宮がん患者の認識も相まって,子宮がん罹患前までの配偶者との関係は一転し,女性性喪失感を感じた時も,配偶者に話せなくなる.女性性喪失感を配偶者に話せるか否かは,今後の夫婦関係を左右し,子宮がん患者のメンタルヘルスに影響すると考えられる.
A氏,C氏の結婚から子宮がん罹患前の夫婦関係は,配偶者と距離を置いている関係であった.A氏,C氏は,子育てや家事等を手伝わない配偶者への怒りに加え,夫婦の諸事情も抱えていた.両氏ともに,この頃は配偶者からの愛を感じることはできなかったと語っており,すでにこの頃から,女性性に関して辛さを感じていたのではないかと考えられる.子宮がん罹患後は,A氏は子宮を喪失した悲しさを感じているが,配偶者には話していない.しかしその後は,配偶者が一心に気遣ってくれることに優しさや気遣い等を感じており,少しずつありのままの自分でかかわることができている.C氏は,配偶者から生きていて欲しいと言われたことや,子宮喪失による性生活への支障から女として配偶者への罪悪感を感じた時も他の女性に心を移さず気遣ってくれることに愛を感じている.
以上のことから,結婚から子宮がん罹患前までに配偶者との距離をおいている子宮がん患者は,配偶者から一心の愛を感じることで,子宮がん罹患前までに感じていた女性性に関する辛さが癒やされ,配偶者との関係を再構築することができるのではないかと考えられる.
3. 配偶者とコミュニケーションをとる,または制限する子宮がん患者の心理子宮がん患者は,子宮がん罹患に伴うネガティブな感情をもちながらも,命を守るためには,手術による女性生殖器の喪失やその影響,化学療法による脱毛等の副作用を一つ一つ受け入れていく等,連続する課題に適応しなくてはならない.子宮がん患者は,配偶者とコミュニケーションをとる,または制限することで,ネガティブな感情をコントロールし,子宮がん罹患により引き起こされる様々な心理的課題の適応に向かっていると考えられる.
テーマ1【ネガティブな感情を感じていても,配偶者からの愛により,ポジティブな感情が生まれ,コミュニケーションをとる】では,子宮がん患者が体験に伴うネガティブな感情を配偶者に表出した時,配偶者が動揺せずに受け止める,手を握り励ます,落ち着いた優しい声で慰める等といったかかわりをしている.また,感情を表出しない時も,配偶者は子宮がん患者へ想いを巡らし,安心できるようにする,寄り添う,理解する,あえて沈黙するといった自主的なかかわりをしている.これらの配偶者からのかかわりから,ポジティブな感情が生まれている.黒澤ら15)は,子宮全摘出術を受けたがん患者が配偶者との親密性の強化体験において,頼りとする存在の再認識や配偶者の励ましによる生きる意欲の向上等を体験していることを明らかにしている.本研究の子宮がん患者においても,決して状況が変わるわけではない中で,頼れる配偶者の存在を感じ,配偶者とともに頑張っていこうとする力が高まることで,ありのままの自分で配偶者とかかわったのではないかと考えられる.
テーマ2【ネガティブな感情を感じていても,配偶者の特性や子宮がん患者の認識により,コミュニケーションを制限する】では,子宮がん患者は,不安な感情を表出した時の配偶者の反応を推測し,元気にふるまう,症状を気づかれないようにする,平静を保つ等している.子宮がん患者は,結婚生活において配偶者の心配性な性格を知っており,配偶者が不安になる姿をみることで,自分の不安が増強することを避けるために配偶者とのかかわりを抑え,心理的な安定を得ようとしたと考えられる.
また,子宮がん患者が体験に伴う不安を配偶者に表出した時,配偶者が過剰に不安になる,心配し落ち込む,うろたえる,答えようがないような態度をとる,悲しそうな顔をする,自分よりもショックを受け辛そうにする等といった態度でかかわっている.
これらの配偶者の態度から,感情を表出するのを止め,会話の内容を制限し,あえて夫が元気になるような話をしている.鈴木11)は,夫(妻)のがんを配偶者が十分に受容できないこと,夫(妻)のがんの体験過程を理解する難しさ等を明らかにしている.また,古賀ら16)は,乳がん患者の配偶者の体験について,何をサポートすればよいかわからない,どのように接したらよいのかわからない,妻の気持ちがわからない,自分ができることに限界を感じ,思い悩むという困難を抱えていることを明らかにしている.本研究の配偶者も子宮がん患者とともに病の体験をしており,その中で何ができるのかを模索していると考えられる.その時,配偶者は,子宮がん患者に言語メッセージとともに,非言語メッセージを送っている.過剰に不安がる姿,オロオロする姿等の外見的特徴,悲しそうな顔,死んでしまいそうな不安げな顔等の表情行動である.非言語的メッセージは,言語メッセージを強調する機能があり,特に外見的特徴は,最初に受け止められ,どのように関係を発展するかしないかに大きな影響を与える17).そのため,配偶者との相互作用により,自分の不安が強まることを避けるために,配偶者とのかかわりを抑え,心理的な安定を得ようとしたと考えられる.
また,子宮がん患者は,女性特有の臓器ゆえに起こる症状やそれに伴う女性心理は,配偶者には理解し難いだろうという認識から,配偶者には話さず,一人でやり過ごすか,話せる娘や同じような疾患をもつ同室者に話している.子宮がん患者は,結婚生活において配偶者が女性のからだ・気持ち・病気についてどの程度の理解があるのかを感覚的に知っており,配偶者に理解されなかった時に自分のネガティブな感情が増強することを避けるために,配偶者とのかかわりを抑え,心理的な安定を得ようとしたと考えられる.加えて,配偶者には女性のことを理解し難いだろうという認識は,夫婦であっても深層にある感情を配偶者に表現したくないという心理が働いているとも推測される.
本研究は,同県2施設に限定された結果のため,今後は地域性による夫婦関係の差異を視野に入れていく必要がある.また,発達段階を視野に入れ,様々な年代に対象を広げ,知見を統合していく必要がある.
子宮がん患者は,体験に伴うネガティブな感情を感じていても,配偶者からの愛を感じることでポジティブな感情が生まれ,配偶者とコミュニケーションをとるようになる.一方で,結婚してから知り得た配偶者の性格,ネガティブな感情を表出した時の配偶者の態度,配偶者には女性のことを理解し難いという子宮がん患者の認識によって,感情を表出することが望ましくないと判断した時は,配偶者とのコミュニケーションを制限する.
子宮がん患者は,体験に伴うネガティブな感情を感じていても,配偶者からの愛を感じることでポジティブな感情が生まれ,配偶者とコミュニケーションをとれるようになる.そのため,配偶者が子宮がん患者を支えることができている時は,夫婦の時間が十分とれるように環境調整を行うことが必要である.また,子宮がん患者は,不安を増強させる配偶者の性格や態度によってネガティブな感情を表出することができなくなる.そのため,配偶者が子宮がん患者を支えることができるように,子宮がんや子宮がん治療に関する知識の提供が必要である.また,細やかに配偶者を観察し,積極的に声かけし相談を受ける機会を設けることが必要である.さらに,子宮がん患者は,配偶者には女性のことを理解し難いという認識によりコミュニケーションを制限するため,初回外来受診時から,配偶者に同席を促し,子宮がん患者と一緒に説明を聞けるようにすることや,子宮がん患者に対し,配偶者と一緒に見ることができるパンフレット等を渡すことにより,子宮がん患者の認識を変えていくことが必要である.
一方で,夫婦であっても共有できない感情もあるため,娘等が子宮がん患者を支えることができるような支援,同室者とケアしあえる環境づくり,医療者が気持ちを汲み取って傾聴することが必要であると考える.
本研究にご協力くださいました研究協力者とその配偶者の皆様に心より深謝致します.また,本研究をご理解くださり,ご配慮いただきました施設の皆様,ご指導・ご助言くださいました皆様,その他サポートをくださいました全ての方々に感謝致します.
本研究は,平成19年度香川大学大学院医学系研究科に修士論文を提出した後,研究協力者を加え,再分析した.また,(社)日本看護研究学会中国・四国地方会第32回学術集会で一部発表した.
本研究における利益相反は存在しない.
著者資格について,NMは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,論文作成を行った.その過程において,OMからスーパーバイズを受けた.また,MYから原稿全体への助言を受けた.
全ての著者が最終原稿を読み,承認した.