Nursing Journal of Kagawa University
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Cognitive Semantic Analysis of the Polysemous Word Spirit
Cognitive Semantic Analysis of the Polysemous Word Spirit
Hoshina UeharaHiroko Shimizu
Author information
RESEARCH REPORT / TECHNICAL REPORT OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 25 Issue 1 Pages 23-32

Details
要旨

本研究は,認知意味論の理論的枠組みにおいて,記述的に英語の“spirit”という言葉のもつ内容や情報量を検討し,“spirit”の意味体系を明らかにすることを目的とする.

研究方法は,3種類の中型英語辞典から英語の“spirit”の意味を抽出し,カテゴリー分類を行い,語義に定義づけを行った.また,皆島が作成した多義語放射状カテゴリーモデルの形態を引用して“spirit”の放射状カテゴリーのモデルを作成した.さらに,“spirit”の認知意味論的分析の結果と日本語の「霊性」との比較を試み,日本人が宗教性と混同しないためのカタカナのスピリチュアルというの語が示す内容や物事を検討した.

結果と考察は,“spirit”が身体や物体とは区別される精神の部位を表す語義であることが明らかであった.さらに,言語の概念構造のメタファー(隠喩)による意味の派生には「霊」が分類され,メトニミー(換喩)による意味の派生には「熱」「アルコール」,「姿勢」「団結精神」,「真意」,「特質」,「超自然的存在」「秘密裏」が分類された.さらに「霊性」との意味を比較した結果,本来の性質として,肉眼的に捉えることのできない精神的実態であるという共通点はみられた.しかし,「霊性」は,“spirit”のメトニミー(換喩)による意味の派生にみられた「熱」「姿勢」「団結精神」「真意」などの語義は見いだせなかった.結論として,“spirit”の意味は多様に派生しているため,「霊性」と異なった意味があった.したがって,日本の看護分野で用いられているカタカナのスピリチュアリティ,あるいはスピリチュアルは,英語の“spirit”の意味を理解することにより,英語圏諸国の人々が理解するスピリチュアルケアを共通理解できるものと考えられた.

Summary

This study examined the meaning and amount of information related to the word spirit in English, using a cognitive semantic theoretical framework, and investigated the meaning system of the word.

Using a survey method, the meaning of spirit was extracted in English from three medium-sized English dictionaries. The meanings were extracted, categorized, and defined as terms. We also created a model of the radial category of spirit, adopting the radial category model created by Minashima. Furthermore, the result of the meaning system of spirit was compared with that of reisei. We likewise examined the meaning and referents of the word spiritual given in katakana in relation to Japanese ideas of religion.

It was found that the vocabulary item spirit refers to the mind insofar as it is distinguished from referents relating to the body and to objects. Furthermore, spirit is classified as part of the metaphorical extension of the conceptual structure of language. Metonymic extension is grouped into the following classifications: heat/alcohol, attitude/unity spirit, true intention, characteristics, and supernatural existence/secret. A comparison of its meaning with spirituality indicated that original nature is a mental reality that cannot be grasped with the naked eye. However, investigation of reisei did not establish the following meanings that belong to the metonymic extension of the English spirit: heat, posture, united spirit, or true intention. Thus, meaning of spirit is derived from various things, so it had a different meaning from reisei. Therefore, the idea of spiritual or spirituality as given in katakana used in the field of nursing in Japan can be understood through an examination the meaning of spirit in English, as understood by people in Western countries.

はじめに

日本では,1981年からがんは死因第1位であり,生涯でがんに罹患するリスク(確率)は,男性63%,女性47%とされている1).すなわち,がんと診断された患者は,何らかの形で生命の危機を感じ,治療に関わる身体的苦痛や心理・社会的苦痛のみならず,生や死などの問いに対するスピリチュアルな苦痛を抱くと考えられる.日本の看護分野におけるスピリチュアリティに関する研究は,特に,終末期がん看護で盛んである.また,慢性疼痛を抱える患者や慢性心不全の患者,筋萎縮性側索硬化症の患者,地域で暮らす高齢者などのスピリチュアルに関する研究がなされている.つまり,生死に直結しない場合においても,人々はスピリチュアルな体験をしたりスピリチュアルな苦痛を抱えたりしている.世界保健機関は,「すべての人にスピリチュアルケアは必要である」2)と述べており,疾患の有無に関わらずスピリチュアルな苦痛を抱える人々にスピリチュアルケアが必要である.

スピリチュアルケアの起源について,新約聖書使徒行伝には,「群衆が病人や汚れた魂に悩まされている人々を連れて集まって来たが,一人残らずいやしてもらった」3)とあり,宗教の役割として,人の魂をケアすることによって癒しをもたらすということが一般的である.しかし,人生の終末に近づいた人は,生きている意味や目的についての関心や懸念,自らを許すこと,他の人々との和解,価値の確認などと関連する苦悩を抱えることが多い2)とされていることから,医療の場においてもスピリチュアルケアは必要である.欧米の医療施設では,医師や看護師,メディカルソーシャルワーカーなどと同様にスピリチュアルケアの専門家が必要と認識され,臨床パストラルケア部が設置されている4).日本では,スピリチュアルケアの役割は看護師が担っている.日本の看護師は,患者の宗教行為に配慮することに留まらず,患者の抱える生きる意味や目的などに関する苦痛に対してケアするために,看護師自らのスピリチュアリティを理解し,体験,成長させることが求められている.ナイチンゲール5)は,「思索の示唆1巻2章」の中で,「自分の性質を知,愛,義であるように訓練することにより,神がわかるようになり,神が存在の一部となる.そのためには,自分の性質にとって有益な環境を作り出し,身を置き,精神を一致するよう努力すべきである」と述べた.つまり,看護師は,患者へスピリチュアルケアを提供する前に,スピリチュアリティやスピリチュアルの概念や意味を正確に理解し,自らのスピリチュアリティを認識し,スピリチュアルな体験を通して成長させる必要がある.

外来語であるspiritualは「霊的」,spiritualityは「霊性」が日本語訳として用いられることがある.「霊性」とは,非常にすぐれた性質や超人的な力をもつ不思議な性質や肉体に対して霊6)を意味する.「霊性」という語は,平安末期から鎌倉初期に初めて用いられた.ト部兼友は神道秘録の中で,「神道は円満虚無霊性を守る道」7)と記した.また同時代に,道元は正法眼蔵に「霊性(れいしょう)」という言葉を記した7).つまり,「霊性」という語が使用されはじめた歴史は古く,日本にキリスト教が伝来される以前から,神道と仏教において用いられていた.しかし現在,日本の医療や看護の分野では,漢字の「霊性」ではなく,カタカナで「スピリチュアル」や「スピリチュアリティ」と表記することが一般的となっている.その要因として,日本人は「霊」という文字から幽霊や亡霊を連想することが挙げられており7),英語のspiritualやspiritualityという言葉が示す内容や物事を正確に理解することができないため,カタカナ表記になったのではないかと考えられる.しかしながら,聖書テキストや聖書解釈に関する文献を用いて,文脈や語義の分析を行いスピリチュアリティの本質的意味を明らかにした研究8)では,日本人は,カタカナでスピリチュアルやスピリチュアリティと示しても,宗教性と混同してしまうことが指摘されている8).さらに,鵜生川・中西9)は,看護研究論文から日本と英語圏諸国のスピリチュアリティの定義を比較し,日本においてスピリチュアリティの定義の困難さの要因は,スピリチュアリティの日本語訳の問題やスピリチュアリティが多様性のある概念として捉えられていることであると指摘した.

スピリチュアルケア発祥の英語圏諸国においても,スピリチュアリティは多様な意味(語義)であると捉えられており,1つに定義することが困難であった.このことは,言語が1つの語で多くの意味・概念を表そうとする「言語の経済性」と一般に呼ばれる原理によるものと考えられる10).認知言語学では,人間が有する認知能力と言語との関係で考察する.認知意味論とは,人間の一般的認知能力との関連性から言語の意味の問題を考察すること11)をいう.言語の語・句・文などには何らかの意味がともなっている.人間が言語を用いる目的は,言葉の表す意味や情報を伝達するためである.また相手から自分に発せられた言葉の意味を理解するためには,その言葉の意味を把握する必要がある12).言葉の意味とは,語が示す内容や物事,情報量のことである.しかし,人それぞれの認知パターンにより,同じものを見ても異なる見え方や意味づけを行うことがある.このことから,人々の間では一単語からそれぞれが異なった意味づけをもつ可能性がある.一単語で複数の意味を持つものを多義語というが,多義語の場合,無秩序に派生したものではなく,プロトタイプの意味(基本義)を出発点として,そこから人間による何らかの認知的動機づけによって意味が拡張されて活用され,意味が相互に関連することを表現した意味のネットワークを構成するようになったと考えられている12).認知的動機づけとは,人間が認知的にmetaphor(隠喩・暗喩),synecdoche(提喩),metonymy(換喩)の3つの比喩を用いて,語の意味を派生させることである.具体的には,metaphor(隠喩・暗喩)は,2つの意味の間に存在する概念や事柄について構造や空間から類似性を見出すことである11).例えば,「王」と「ライオン」は,それぞれ種族の中で頂点に立つという類似性があるため,metaphor(隠喩・暗喩)である.synecdoche(提喩)は,一般的な意味(上位概念)が特殊な意味(下位概念)を表す,または,特殊な意味(下位概念)が一般的な意味(上位概念)を表すことである11).例えば「花見」の「花」は上位概念であり,この場合の「花」は「桜」を指すため,下位概念になる.synecdoche(提喩)は2つの意味の関係が同じカテゴリーである.metonymy(換喩)は,部分的な意味と全体の意味が何らかの隣接性や関連性,連想に基づいて派生した意味であるのかを検討する11).具体的には部分的な単語が「ガラスの靴」であった場合,連想されるのは「シンデレラ」となり全体を表している.

英語辞典によればspiritualの形容詞としての意味は,「1.精神的な,精神(上)の,霊的な,魂の,知的な,2.崇高な,気高い,超俗的な,3.超自然的な,神の,聖霊の,神聖な,宗教上の,教会の」13)であり,名詞の意味は,「1.精神(宗教)的なこと(物),教会に関する事柄,2.霊歌」13)である.英語のspiritualは多義語であるため,カタカナのスピリチュアルも同様に複数の意味を表している.英語のspiritualityおよびspiritualは,"spirit"から派生した言語である."spirit"は,ローマ時代から使用されているラテン語のspiritus(スピリトゥス)が語源である9)."spirit"はラテン語に由来して歴史があり,理解の深さや広がり,情報の蓄積度が高いと考えられる.したがって,本研究において,“spirit”は既に意味の範囲が確立していると考えられるため,“spirit”の意味体系を検討することができればspiritualやspiritualityが“spirit”のどのような基本的意味から派生したのかを明確にすることが期待できる.そのために,認知パターンに基づく意味の異なる様相を説明する方略として「認知意味論的分析」を用いることとする.この分析によって,spiritualの語源である“spirit”がどのようなプロトタイプの意味(基本義)を起点として,どのような認知的動機づけ(metaphor(隠喩・暗喩),synecdoche(提喩),metonymy(換喩))によって意味が派生してきたか,さらに,意味と意味がどのような関連を有するのかを明らかにすることが期待できる.また“spirit”の認知意味論的分析の結果と日本語の「霊性」とを比較することにより,日本人が宗教性と混同しないためのカタカナのスピリチュアルという語が示す内容や物事を検討することに資すると考える.

研究目的

本研究は,認知意味論の理論的枠組みにおいて,記述的に英語の“spirit”という言葉のもつ内容や情報量を検討し,“spirit”の意味体系を明らかにすることを目的とする.

用語の操作的定義

本研究において,「metaphor(メタファー;隠喩・暗喩)」,「synecdoche(シネクドキー;提喩)」,「metonymy(メトニミー;換喩)」の3つの用語は,瀬田10)の命名をもとに,「メタファー(隠喩)」「メトニミー(換喩)」「シネクドキー(提喩)」とカタカナで表する.さらに3つの用語は,皆島12)の定義を引用し,操作的定義とした.

メタファー(隠喩)10)は,「二つの事物の間に存在する何らかの類似に基づいて,一方の物事を表す形態を用いて他方の物事を表す」12)と定義する.

メトニミー(換喩)10)は,「二つの事物の間に何らかの隣接性・接近性・関連性・連想に基づいて,一方の物事を表す形態を用いて他方の物事を表す」12)と定義する.

シネクドキー(提喩)10)は,「一般的な意味(種概念)を持つ形式を用いて一般的な意味(類概念)を表す」12)と定義する.

研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,記述的比較研究である.

2. “spirit”の意味の探索方法

“spirit”の意味を探索する方法は,初めに“spirit”の複数の意味(語義)の区別を行い,“spirit”のプロトタイプの意味(基本義)を仮定する.次に“spirit”のプロトタイプの意味(基本義)に基づいて変化させ派生した新たな意味をメタファー(隠喩),シネクドキー(提喩),メトニミー(換喩)の観点から検討する.さらに,“spirit”のプロトタイプ的意味(基本義)を起点として3種類の比喩がどのように用いられ新たな意味へと展開しているのか多義語の放射状カテゴリーモデルを用いて検討する.放射状カテゴリーとは,プロトタイプの意味(基本義)を中心とし,外へ向かって放射状に拡張していくカテゴリーのことである1415).“spirit”のプロトタイプの意味(基本義)が中心となり外に向かって派生した新たな意味が広がりや意味の相互関係を図示することにより,“spirit”の意味体系を確認することができる.尚,全ての多義語が放射状カテゴリーモデルにおいて同様の派生するプロセスを辿るわけではないことに注意する必要がある.

3. 調査対象

皆島12)の認知意味論的分析の研究方法を参考にし,英和辞典(TAISHUKAN's GENIUS English-Japanese Dictionary Third Edition),英英辞典(Macmillan English Dictionary(以下,MED),Oxford Learner's Dictionary(以下,OLD),Cambridge English Dictionary(以下,CED))を対象の辞典とした.皆島12)によると,大型辞典では一般に意味領域の区別が精密で,定義の項目数も多くなる傾向があると説明しており,本研究では,利用頻度の高い英英辞典としてあげられているMED,OLD,CEDの3種類の中型辞典とした.

4. データの収集方法

“spirit”の複数の意味(語義)の区別を行うために,英英辞典から定義の項目数と定義,例文を抽出した.

5. 分析方法

分析方法は,皆島12),崔16)の認知意味論的分析を参考に行った.初めに“spirit”の複数の意味(語義)の分析は,各辞典の項目と定義を日本語に訳して引用し,共通すると思われる項目と定義ごとに整理した.また,共通する項目は1つの意味領域とし,各意味領域に共通項目の名称を付けた.各辞典で定義の冒頭に付している数字は各辞典における定義の通し番号とした.次に,各辞典の意味領域と定義を再整理した結果に基づいて,語義と語義の定義づけを行った.“spirit”の意味が派生する要因となる認知的動機づけは,語義の定義をもとに分類した.最初に意味が派生する起点となるプロトタイプの意味(基本義)を仮定し,プロトタイプの意味(基本義)から該当するメタファー(隠喩)的拡張,あるいはメトニミー(換喩)的拡張,シネクドキー(提喩)的拡張に分類し認知的動機づけを行った.

カテゴリー拡張の動機づけは,皆島12)が,辻1415),瀬戸1718)を参考に作成した多義語の放射状カテゴリーを用いて行った.皆島12)が作成した多義語放射状カテゴリーモデルの形態を引用して“spirit”の放射状カテゴリーのモデルを作成した.皆島12)の多義語放射状カテゴリーモデルは,メタファー(隠喩)に区別されるものは実線矢印,メトニミー(換喩)に区別されるものは破線矢印を用いており,本研究における“spirit”の放射状カテゴリーモデルも同様に表現した.

本研究は辞典を用いた記述的研究であり,香川大学医学部倫理委員会の承認を受けていない.

6. 調査期間

本調査期間は2019年9月から2020年8月であった.

研究結果

1. “spirit”の複数の意味

“spirit”の意味領域の分類結果

英語の“spirit”は呼吸が原義であり生命力の根源は息の中にある13)と考えられていた.英和辞典によると“spirit”の意味は,「肉体・物質に対する精神・心,霊・霊魂,気分,気力,[形容詞を伴って](…の)人,[通例the~](時代の)特質・傾向,真意・意図,忠誠心,[通例~s](蒸留によって液体の形で得られる)エキス,エッセンス,蒸留酒」13)であった.

MED,OLD,CEDに挙げてある定義の項目数は,MEDが11個,OLDが14個,CEDが11個であった.各辞典の定義を,共通すると思われる意味領域毎に整理した結果,ⅠからⅩまでの10個の意味領域に分けられた(表1).

表1 各辞書における“spirit”意味の整理
意味領域 MED OLD CED
Ⅰ精神状態 3[可算]あなたの気分、または気持ちの持ちよう

1[単数]身体ではなく、心、感情、性格を含む人の部分

2[可算]人の感情や心の状態

3[可算](形容詞).なタイプの人

2[可算]人の感情
Ⅱ熱意 4[単数]熱狂的で断固とした態度 4[単数]勇気、エネルギー、決意 7[単数]熱意、エネルギー、勇気
Ⅲ姿勢

1[可算]人生や他の人に対するあなたの態度

2[単数]グループ内の人々の態度

7[単数]姿勢:心の状態または気分 4[単数]誰かの前向きな姿勢( =考え方)または行動を承認、奨励するために使用される
Ⅳ団結精神 (該当する定義なし) 5[単数]グループ、チーム、社会に対するサポートの気持ち 2[単数]特にグループの中における人々、活動、時間、または場所についての典型的な方法
Ⅴ特質 (該当する定義なし) 6[単数形]典型的または最も重要な何かの性質または傾向 (該当する定義なし)
Ⅵ真意 5[単数]一般的なまたは真の意味 8[単数]真のまたは意図された意味や目的 3[単数]法律やルールなどが、やらなければならない、またはしてはいけないという特定のことではなく、より強くするために作成されたという原則
Ⅶ霊魂

6[可算]多くの人々が死後も存在し続けると信じている人の部分

7[可算]世界に戻ってきた死者

9[可算]魂は体から離れていると考え、死後も生きると信じられている。幽霊

10[可算]宗教とお祭り

5[単数]多くの宗教が身体が死んだ後も身体から切り離され,存在し続けると信じている人の特徴

6「可算」幽霊に似た死んだ人の姿、またはあなたがそれらを見ることができないが死んだ人が存在しているという感覚

Ⅷ架空 8[可算]特別な力を持つ架空の生き物 11[可算](昔ながら)魔法の力を持つ架空の生き物(妖精やエルフなど) (該当する定義なし)
Ⅸ酒精

9[可算]ウイスキーやブランデーなどの強いアルコール飲料

10燃料、または医療用アルコール

12[可算](特にイギリス英語)強いアルコール飲料

13[単数 ]産業や医学で使用される特別な種類のアルコール

8[可算]強いアルコール飲料

9[単数]一部の種類のスピリッツは、特に洗浄、塗料との混合などに使用されるアルコール性液体

Ⅹ秘密裏 11誰かまたは何かを気づかれずに突然連れ去る 14誰か /何かを素早く、秘密に、または神秘的な方法で連れ去る 10誰かまたは何かを密かに場所から出したり離れたりすること

“spirit”の語義と語義の定義

最終的に,“spirit”のⅠからⅩの意味領域は,10個の語義に区別された.さらに,各辞典から例文を引用した(表2).

“spirit”の1つ目の語義は,「精神」であった.辞典から引用した例文は,「You are underestimating the power of the human spirit to overcome difficulties.(あなたは困難を克服する人間の精神力を過小評価している)」19)とあり,「肉体や物質ではなく,人の心の状態.気分,感情,性格などに作用する」と定義された.2つ目の語義は,「熱」であった.辞典から引用した例文は,「She was admired for her spirit and passion.(彼女は彼女のエネルギーと情熱に賞賛された)」20)とあり,「心から湧き上がるエネルギーや熱意,勇気,決意の力」と定義された.3つ目の語義は,「姿勢」であった.辞典から引用した例文は,「I'm trying to get into the spirit of the holiday season.(ホリデーシーズンの気分を味わおうとしている)」19)とあり,「自分自身の精神状態を他者に態度で示す人」と定義された.4つ目の語義は,「団結精神」であった.辞典から引用した例文は,「There's not much community spirit around here. (このあたりのコミュニティ精神はあまりない)」19)とあり,「グループや社会の中で他者をサポートしたいと思う気持ちや活動をする人」と定義された.5つ目の語義は,「特質」であった.辞典から引用した例文は,「The exhibition captures the spirit of the age/times.(その展示会は時代の傾向を捉えている)」19)であり,「(時代の)典型的または重要な特性や傾向」と定義された.6つ目の語義は「真意」であった.辞典から引用した例文は,「Each country should honour the spirit of the treaty.(各国は条約の精神を尊重すべきだ)」20)であり,「一般的または本当の意味,目的,趣旨,法の精神」と定義された.7つ目の語義は「霊」であった.辞典から引用した例文は,「He is dead, but his spirit lives on.(彼は死んだが,彼の精神は生き続けている)」19)であり,「死後に身体から切り離されて存在しつづけるとと信じる人の特徴や感覚.または,宗教のお祭りでこの世に戻ってきた死者の霊」と定義された.8つ目の語義は,「超自然的存在」であった.辞典から引用した例文は,「It was believed that people could be possessed by evil spirits. (人々は悪霊に取りつかれると信じられていた)」19)であり,「魔法などの特別な力を持つ妖精やエルフ,悪魔などの架空の生き物」と定義された.9つ目の語義は,「アルコール」であった.辞典から引用した例文は,「Spirits are more expensive than beer, but they get you drunk faster.(スピリッツはビールよりも高価ですが,それらはあなたをより早く酔わせる)」22)であり,「アルコール度数の高い液体,医療用アルコール,燃料」と定義された.10個目の語義は「秘密裏」であった.辞典から引用した例文は,「Protesters were spirited away before they could cause a disruption.(抗議者たちは混乱を引き起こす前に連れて行かれた)」20)であり,「誰にも気づかれずに連れ出す,さらう,誘拐する行為」と定義された.

表2 語義と例文
語義 例文 例文の日本語訳
精神:肉体や物質ではなく,人の心の状態.気分,感情,性格などに作用する.

You are underestimating the power of the human spirit to overcome difficulties.

She tried singing to keep her spirits up.

あなたは困難を克服する人間の精神力を過小評価しています.

彼女は元気を保つために歌いました.

熱:心から湧き上がるエネルギーや熱意,勇気,決意の力 She was admired for her spirit and passion. 彼女は彼女のエネルギーと情熱に賞賛されました.
姿勢:自分自身の精神状態を他者に態度として示す人 I'm trying to get into the spirit of the holiday season. ホリデーシーズンの気分を味わおうとしている.
団結精神:グループや社会の中で人が他者をサポートしたいと思う気持ちや活動する人 There's not much community spirit around here. このあたりのコミュニティ精神はあまりない.
特質:(時代の)典型的,重要な特性や傾向 The exhibition captures the spirit of the age/times. その展覧会は時代の傾向を捉えている.
真意:一般的または本当の意味,目的,趣旨,法の精神 Each country should honour the spirit of the treaty. 各国は条約の精神を尊重すべきだ.
霊:死後に身体から切り離されて存在しつづけると信じる人の特徴や感覚.または,宗教のお祭りを通してこの世に戻ってきた死者の霊 He is dead, but his spirit lives on. 彼は死んだが、彼の精神は生き続けている.
超自然的存在:魔法などの特別な力を持つ妖精やエルフなどの架空の生き物 It was believed that people could be possessed by evil spirits. 人々は悪霊に取りつかれると信じられていた.
アルコール:アルコール度数の高い液体,医療用アルコール,燃料 Spirits are more expensive than beer, but they get you drunk faster. スピリッツはビールよりも高価ですが、それらはあなたをより早く酔わせる.
秘密裏:誰にも気づかれずに連れ出す,さらう,誘拐する行為 Protesters were spirited away before they on. 抗議者たちは混乱を引き起こす前に連れて行かれた.

2. “spirit”の意味の派生とその認知的動機づけ

“spirit”の意味拡張の起点となるプロトタイプの意味(基本義)は,「精神」と仮定した.次に,プロトタイプの意味(基本義)「精神」からその他への意味の派生については,認知的動機づけにおいて,精神の作用と類似性に基づくものをメタファー的拡張とし,精神の作用との隣接性(近接性・関連性・連想)に基づくものをメトニミー(換喩)的拡張に分類された.その結果,メタファー的拡張には「霊」が分類された.メトニミー(換喩)的拡張には「熱」「アルコール」,「姿勢」「団結精神」,「真意」,「特質」,「0超自然的存在」「秘密裏」の5つに分類された.英語の多義語“spirit”における放射状カテゴリーモデルは,図1に示す通りである.

図1

皆島12)の多義語"hand"放射状カテゴリーモデルの形態を活用した"spirit"の放射状カテゴリーモデル

※皆島12)の多義語の放射状カテゴリーモデルは辻1415),瀬戸17)18)を参考に作成された.

転義〈真意〉 転義〈熱〉 転義〈アルコール〉 転義〈姿勢〉〈団結精神〉 基本義〈精神〉 転義〈霊〉 転義〈特質〉 転義〈超自然的存在〉 転義〈秘密裏〉 実線矢印はメタファー(隠喩) 破線矢印はメトニミー(換喩)

考察

1. 多義語“spirit”の認知意味論的分析の考察

“spirit”を10個の複数の意味に区別し,プロトタイプの意味(基本義)の仮定と認知的動機づけを行った.「精神」をプロトタイプの意味(基本義)と仮定した理由は,複数の意味の中で文脈なしでも想起されやすく,具体性が高い基本的な意味であったためである.次に,プロトタイプの意味(基本義)である「精神」と「霊」の関係性について検討する.「精神」には,肉体や物質ではない事柄を示すという作用がある.「霊」にも「身体から切り離された存在」と示しており,実態として捉えられないという類似した作用がある.すなわち,この意味の派生は作用の類似性に基づくメタファー(隠喩)によるものである.

メトニミー(換喩)的拡張において,プロトタイプの意味(基本義)の「精神」と「熱」「アルコール」について考察する.エネルギーや勇気,熱意などの熱は,高まった心の状態や湧き上がる力を指している.この場合のエネルギーとは,高まった心の状態のことであり,物理的なエネルギー単位のJや体を動かすエネルギー単位のkcalとは異なるため,エネルギー単位で表すことはできない.精神が人間の内側にあるとすれば,熱は外側へと放出されることを指している.したがって,隣接性の一種によるメトニミー(換喩)による意味の派生である.さらに「熱」から「アルコール」へと二次的に派生している.蒸留酒を意味するスピリッツは濃度の高いアルコールであり,高温で熱して作られる.本来,蒸留酒は,人間のエネルギーを復活させるものという意味がある22).したがって,アルコールも人間に対して活力を与えるもの指し,メトニミー(換喩)による意味の派生である.「姿勢」「団結精神」については,それぞれ異なる語義にも見えるが,「精神」がその作用として現れた態度をする人を指している点では共通している.「姿勢」は,抱いた感情を態度に示す人こと,「団結精神」は,グループ全員が同じような感情を態度として表す人の集団である.つまり,精神が人間の内側にあるとすれば,「姿勢」「団結精神」は外側に現れるという点で共通しており,「精神」と密接な関連性があるためメトニミー(換喩)による意味の派生である.「真意」については,the spirit nor the letter of the lawの慣用句が指すように,法律を文章通りに遵守はするもののその精神に従わないとき,それは必ずしもその法を制定した者の意図したところに従ったことにはならない.また,文章通りの意味では従っていなくともその精神の意味するところを遵守していれば,必ずしも書かれた言葉に固執していなくとも,法の制定者の意図したことを実践したことになる.つまり,行為ではなく,精神の意味と関連があるため,メトニミー(換喩)による意味の派生である.「特質」は,その時代の典型的な特性や傾向のことを指し,人の考え方が影響している.したがって,時代における人々の考え方や感情,気分などの精神が関連しているため,メトニミー(換喩)による意味の派生である.「超自然的存在」は,人の心が生み出した存在と連想されているため,メトニミー(換喩)による意味の派生である.さらに,「秘密裏」は,「超自然的存在」から二次的に意味が派生された.spirit awayは神隠しという意味である.つまり,人の心が,人ならざる者の仕業と感じている.したがって人の心が生み出した存在と関連しているため,メトニミー(換喩)による意味の派生である.

放射状カテゴリーモデルは,身体や物体とは区別される精神という語義の“spirit”をプロトタイプの意味(基本義)として当てはめた.その結果,身体や物体ではない精神が有する様々な作用(働き)の一つに焦点が当たることによって,認知的動機づけとなった.さらに“spirit”の各語義における意味の派生を誘発し,放射状カテゴリーを構成することが明らかになった.

2. “spirit”と霊性の意味の比較

次に英語の多義語“spirit”とspiritualityの日本語訳として用いられる「霊性」との意味を比較する.

「霊性」は,「1.非常にすぐれた性質や超人的な力をもつ不思議な性質,2.肉体に対して霊」6)という意味である.日本語の「霊(れい)」には,「たま,形や質量をもたない,清らかな精気,たましい,形ある肉体とは別の,冷たく目に見えない精神,また,死者のからだからぬけ出たたましい,また死者に関することにつける言葉,災いや福をもたらす不思議な力」23)などの意味がある.日本語の「性(せい/しょう)」は,「生まれつき持っている心の働きの特徴,さが,ひととなり,人や物に備わる本質,傾向,肉体上の男女の区別,中にひそむもの,外形のもととなるもの」23)という意味である.漢字の「霊」は,雨乞いの儀礼と参与する巫女を指している.常用漢字は省略形である.漢字の「性」は心臓の象形と草・木が地上に生じてきた象形(はえる・生まれるの意味)から,生まれながらの心,本性(さが)を意味する23).つまり,「霊」は,肉体に宿り,または肉体を離れて存在すると考えられる精神的実態を指し,「性」には生まれながらに備わっているものを示している.また,「霊」は雨乞いの儀式と巫女という字から成り立っていることは,人間が超越的な存在に対して祈りを捧げていることを意味していると考えられる.

「霊性」,「霊」,「性」それぞれの意味から,“spirit”と「霊性」は,人間が生まれながらに持った性質として,肉眼的に捉えることのできない精神的実態を備えているという共通点がみられる.さらに,“spirit”の原義は呼吸であり,生命力の根源は息の中にあるという考えであり,「性」も生命を表す文字であるという共通点がみられる.したがって,プロトタイプ(基本義)として“spirit”と「霊」や「性」という語義は同じであると考えられる.

しかしながら,「霊性」や「霊」,「性」には,“spirit”の語義にみられた「真意」や「姿勢」「団結精神」などの意味はみられない.“spirit”の派生語であるspiritualityは,「真意」や「姿勢」「団結精神」という意味を持ち合わせていると考えられる.具体的には,“spirit”の「真意」という語義は,spiritualityにおいて「気高い」や「崇高な」という意味となっている.また“spirit”の「姿勢」や「団結精神」という語義は,spiritualityには「宗教上の,教会の」という意味となっている.一方で,日本語訳の「霊性」はそれらの意味が定義されない.すなわち,日本人は,英語のspiritualityの日本語訳に「霊性」を用いた場合,スピリチュアリティの多様性を捉えることができず,英語圏諸国の人々と異なる理解となると考えられる.

鵜生川・中西9)は,日本と英語圏諸国において,スピリチュアリティの定義について,共通項目を4つ挙げた.1つ目は人間存在の根源性に関わり,全ての人間が本来持ち合わせている力,2つ目は「自己」「他者」「超越的存在」との関連性において,人生の意味や目的を見出す力,3つ目に危機的状況に直面した時に潜在化する,4つ目に宗教的側面を含めるが,宗教と同一でないと説明した.“spirit”と「霊性」の意味を比較した結果,これらの共通項目のうち,特に「霊性」には人生の意味や目的を見出す力という意味が日本語辞典に定義されておらず,日本の看護師はスピリチュアルケアをする上で,言葉の理解を得にくいため,ケアに反映することも困難であったと考える.

命の危機にある疾患を患うことや大切な人を亡くすなどの体験により,人間は人生の意味や目的を見失ってしまう.スピリチュアルケアにおいて,看護師は,人生の意味や目的を見失った患者に対し,存在を保障し,過去や現在の出来事や状況を許し,自らを解放することができるように援助する.患者は人生の意味や目的を見出すことで,生きるエネルギーや活力となり,残された日常生活を送る姿や態度に現れる.一方で,人生の意味や目的を見失った状態にある場合,患者は無力感や空虚感を抱き,それらの感情は患者の生活の中において,姿や態度に現れる.これらの状況は,英語の“spirit”の「熱」や「姿勢」という語義が関係していると考えられる.また,患者が求める心の拠り所は必ずしも実在する物や場所である必要はない.患者自身の心が拠り所を作りだす可能性もある.つまり,英語の“spirit”の「超自然的存在」という語義が関係していると考えられる.さらに,患者は自分自身の人生に対して本当の意味が知りたいと思った場合,英語の“spirit”の「真意」という語義が関係していると考えられる.したがって,スピリチュアルな苦痛やスピリチュアルニーズは,「姿勢」や「超自然的存在」,「真意」などの派生された語義が含有されている.看護分野においては,人生の意味や目的に対するスピリチュアルケアを行うことは,“spirit”のプロトタイプの意味(基本義)が根底にあるものの,「熱」「姿勢」「超自然的存在」「真意」などの派生された語義が重要となると考えられる.以上のことから,本研究において多義語の“spirit”を認知意味論の観点から分析を行ったことにより,医療や看護分野において重要となる語義が明らかになった.

結論

本研究の調査結果は,日本の看護におけるスピリチュアルケアの基礎資料となった.英語の“spirit”を認知意味論の理論枠組みを用いて,意味体系を分析した結果,10個の語義が明らかになった.“spirit”は,身体や物体とは区別される,精神の部位を表す語義の一つである.さらに,プロトタイプの意味(基本義)を「精神」として,メタファー(隠喩)による意味の派生には「霊」が分類され,メトニミー(換喩)による意味の派生には「熱」「アルコール」,「姿勢」「団結精神」,「真意」,「特質」,「超自然的存在」「秘密裏」の5つに分類された.

英語の“spirit”とspiritualityの日本語訳である「霊性」とは,生まれながらに持った性質として,肉眼的に捉えることのできない精神的実態を備えているという共通点はみられた.しかし,「霊性」には「真意」「姿勢」「団結精神」などの意味の派生はみられなかった.したがって,日本の看護分野で用いられているカタカナのスピリチュアリティ,あるいはスピリチュアルは,英語の“spirit”の意味を理解することにより,英語圏諸国の人々が理解するスピリチュアルケアを共通理解できるものと考えられる.また,人生の意味や目的に関するスピリチュアルな苦痛やスピリチュアルニーズは,「熱」や「姿勢」「超自然的存在」「真意」などの“spirit”の派生された語義が含有されていることが明らかになった.スピリチュアルニーズと同様に心理的ニーズも肉眼的に捉えることのできないニーズである.しかし,心理的ニーズには,「超自然的存在」や「真意」などの哲学的要素は含まれないため,スピリチュアルニーズと区別することが可能である.したがって,日本の看護師はスピリチュアルケアを英語の“spirit”の意味である「熱」や「姿勢」「超自然的存在」「真意」に関連したケアと捉えることにより,患者のスピリチュアルニーズを把握する一助になると考えられる.

今後の課題

今後は,“spirit”の認知意味論的分析結果を基に,日本人はどのようなスピリチュアルニーズを抱えているのか明らかにし,実証的なスピリチュアルケアの研究を行う必要がある.

著者資格

HUは,研究の計画,調査,論文作成を実施し,全過程において,HSから論文の指導を受けた.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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© 2021, School of Nursing, Faculty of Medicine, Kagawa University

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