Nursing Journal of Kagawa University
Online ISSN : 2189-2970
Print ISSN : 1349-8673
ISSN-L : 1349-8673
Looking back on the 13 years of School of Nursing from the trajectory of my career as a nursing teacher
Looking back on the 13 years of School of Nursing from the trajectory of my career as a nursing teacher
Yoko Miyatake
Author information
RESEARCH REPORT / TECHNICAL REPORT OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 25 Issue 1 Article ID: a16

Details

看護教員としての歩みの軌跡から看護学科時代の13年間を振り返る

第6代学科長・元教授 宮武 陽子

【看護学科在籍:平成7(1995)年4月1日~平成20(2008)年3月31日】

看護学科創設25周年,誠におめでとうございます.

平成8(1996)年の開設以来,決して平たんではなかった看護学科の歩みの歴史を思うと,感慨深いものがあります.

私は平成7(1995)年の開設準備室から平成20(2008)年までの13年間,慢性期看護学領域の教員として在籍しました.29歳で看護教育の道に入り,令和2年(2020)3月に42年間の看護教員としてのキャリアを終えるまで,東京,千葉,愛媛,香川,高知,徳島と各県の看護教育機関を転々と移動してきました.保健師になるために病院で臨床経験を積みたい,人間をもっと深く理解するために大学で学びたい,看護をもっと深く見つめたいと,その時々にとった私の選択は,偶然にも自分の意志とは全く異なる看護教員としての歩みにつながっていきました.開設準備からかかわりを持った教育機関は実に3施設に上ります.時代の要請は看護教育を専門学校から短期大学へ,短期大学から大学へ,大学から大学院へと,形を変えていきました.私の看護教員としての軌跡は看護教育制度の変遷の軌跡と重なるといっても過言ではありません.常に時代の変化に動かされ,追われていたように思います.香川大学看護学科で過ごした13年間は,そのような私の看護教員としての歩みの折り返し点であり,転換点となりました.

看護学科開設準備室が香川医科大学に置かれたのは,大学設置基準の改定(平成3年)により,各地で看護系大学が開設ラッシュに沸く頃でした.少子高齢化,疾病構造の変化など迫りくる社会の健康ニーズに対応できる看護職者の育成への期待が高まり,看護教育の大学教育化に追い風になりました.看護師の質の担保のための教育制度の改革は看護界の長年の悲願でしたが,大学教育化に伴う看護教員の質的量的担保の課題は残され,大学教育化には賛否両論がありました.矛盾を内に孕みながらの看護学科の出発でした.学科開設の礎を築かれた入野学長,高木永子先生ほかの先生方のご苦労,ご尽力は計り知れないものでした.教育組織としての形も次第に整い,平成8(1996)年に第1期生を迎えることができました.無からの出発に教員も学生も戸惑いながらも,新たな看護師像を目指し,新しい歴史を作り上げていくという共通の目標に希望とエネルギーがありました.特に学生達が看護の知識も経験も少ない中,論理を組み立て,看護を自分の言葉で説明していく姿に驚きと高いポテンシャルを感じました.自由でのびのびと学ぶ学生の姿は専門学校や短大のそれとは異なる大学教育の可能性を感じました.一方,つらいこともありました.事故によりハンディを負っても看護を学びたいと切望した学生の志しに学科として応えることができなかったことは,私にとって,看護の大学教育とは?看護師教育なのか?看護学教育なのか?大きな疑問となって残り,今でも明確な答えが見いだせないでいます.

看護学科が船出して4年目の平成12(2000)年に医学系研究科看護学専攻コース(修士課程)がスタートし,臨床・教育現場の問題・課題を抱えた看護師や看護教員が生涯を通して学べる道を拓くことができました.

平成15(2003)年には香川大学と香川医科大学の統合化,平成16(2004)年には国立大学独立行政法人化という大きな組織変革が相次ぎ,対応に追われました.平成18(2006)年に看護学科創立10周年記念式典・祝賀パーティーを香川県民ホールで開催することができました.秋晴れの瀬戸内の青い海と空を眺望する素晴らしい景色の中で行われた式典は忘れられません.

私は看護学科への着任を契機に,急性期看護から慢性期看護に転向しました.慢性期看護の知識を体系化していくために附属病院の糖尿病外来で実践経験を積みましたが,そこで得た知見を授業や研究に仕立てていくのに大変苦労しました.大学教員としての職責である教育,研究,地域貢献のどれも中途半端な自分に大変悩んでいたように思います.振り返れば,その時の経験が私のその後の看護教員の道を切り拓いてくれ,糖尿病看護ネットワーク(Qの会)の設立,慢性疾患専門看護師や認定看護師の育成,平成26年の日本糖尿病教育・看護学会学術集会開催など,活動の幅を拡大することにつながっていたことに思い当たります.とても重要な看護教員としての転機になっていたと思い,感謝です.

最後に,看護の大学教育化への移行から30年,看護学科はこれまで高度な看護の実践家,研究者を多く輩出してきました.臨床の現場ではより高い確かな実践力を持つ看護師が育っています.しかし,臨床現場の看護実践の質の改善にはまだ至っておらず,その背景には実践現場を複雑に,多忙にさせている多様な社会的要因が関与しているように思います.看護界ではいまだに大学教育に対する懐疑的な風潮もあります.臨床現場と教育現場の乖離が起きつつあるのではと心配になります.老婆心ながら,臨床現場と教育現場がお互いの知を認め合い,相互に活用しながら,問題解決にともに取り組んでいただければと思います.創設25年という節目を迎え,継続を力に看護の大学教育の強みを生かし,より一層発展していかれますことを期待しております.

(令和2年8月末日)

関連文献
 
© 2021, School of Nursing, Faculty of Medicine, Kagawa University

この記事はクリエイティブ・コモンズ[表示 4.0 国際]ランセンスの下に提供されています。
CCライセンスに基づいてご利用ください
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top