Nursing Journal of Kagawa University
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Factors of mothers related to cervical cancer screening behavior among female university students
Factors of mothers related to cervical cancer screening behavior among female university students
Rina OkadaRumi NoharaYuri MasagoKimiko Kawata
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RESEARCH REPORT / TECHNICAL REPORT OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 28 Issue 1 Pages 9-17

Details
要旨

目的

女子大学生の子宮頸がん検診受診行動に関連する母親の要因について検討すること.

方法

A県内3大学の4年生女子大学生とその母親を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った.娘の子宮頸がん検診受診行動に関連が予測される各因子について,χ2検定またはMann-Whitney U検定を用いて分析した.本研究は香川大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した.

結果

分析対象は59組であった.娘の子宮頸がん検診受診行動には,母親による検診の勧めが強い関連を示した.また,検診を勧めた母親群の方が勧めていない群より子宮頸がんに関する質問の正解数が多く,母娘関係尺度の「過去の対立・葛藤」「母の支配」項目では,母親が検診を勧めていない娘群の因子得点は勧めている群より高く,「母への信頼」項目では低かったが,統計的に有意な差ではなかった.2つの知識質問において,母娘の回答が一致した群は不一致群に比べて「母の支配」得点が有意に低かった.

考察

青年期女性の子宮頸がん検診受診行動には,母親による検診の勧めが強く関連することが明らかとなった.また,母親の知識においては,娘の受診行動に直接関連はしないものの,「娘に検診を勧める」という行動に関連する可能性が推測でき,母親世代への知識普及の重要性が示唆された.良好な母娘関係を築き,母娘間で正しい知識を共有することが,青年期女性の子宮頸がん検診受診行動の促進につながる可能性が示された.

結論

女子大学生の子宮頸がん検診受診には,母親による検診の勧めが関連することが明らかになった.青年期女性の子宮頸がん検診受診行動を促進していくためには,良好な母娘関係を維持することや,母親が娘に検診を勧めること,母娘が正しい知識の共有を行うことを促進させていくことが重要であると考える.

Summary

Objectives: To examine maternal factors related to cervical cancer screening behavior among female university students.

Method: A self-administered questionnaire survey was conducted on fourth-year female university students and their mothers. Factors predicted to be related to daughter's screening behavior were analyzed using the χ2 test and Mann-Whitney U test. The Ethics Committee of the Kagawa University School of Medicine approved this study.

Result: We analyzed 59 pairs. Mothers' recommendations strongly influenced daughters' cervical cancer screening behavior. Mothers who recommended screening provided more right answers about cervical cancer. For the items "past conflict/conflict" and "mother's control" of the mother-daughter relationship scale, the factor scores of the group whose mothers did not recommend screening were higher than those of the recommended screening group. For the "confidence in mother" scale item, the factor scores of the non-recommended group were lower than those of the recommended group. These results did not reach statistical significance. Additionally, for the two knowledge queries, the group in which mothers and daughters agreed on their answers had a significantly lower score for "mother&s control" than the inconsistent group.

Discussion: Adolescent women's cervical cancer screening behavior is strongly influenced by maternal recommendations. Although the mother's knowledge is not directly related to her daughter&s screening behavior, it may associate the behavior of recommending screening with her daughter, suggesting the importance of disseminating knowledge to the mother generation. It was indicated that building a good mother-daughter relationship and sharing correct knowledge may promote cervical cancer screening among adolescent women.

Conclusion: The encouragement of cervical cancer screening among female university students is related to maternal recommendations. Promoting a good mother-daughter relationship and sharing appropriate knowledge is vital.

緒言

日本の子宮頸がん検診受診率は43.7%と低く(厚生労働省,2019b),OECD加盟国内ではワースト5位以内に位置している.さらに,20台前半の受診率は15.1%と,他の年齢層と比較して極めて低い(厚生労働省,2019b2022).検診受診率向上を目的として,日本では2009年より20歳を迎える女性に検診の無料券を配布している(厚生労働省,2013)が,使用率は低く受診率向上にはつながっていない(森村ら,2014).また子宮頸がんワクチン接種率についても,欧州諸国が約80%を維持しているのとは対照的に,日本では2013年6月から2021年11月までの接種の積極的勧奨差し控え等により1%未満である(田中ら,2019).2022年4月より積極的勧奨が再開され(厚生労働省,2021),今後は接種率の向上が期待されるが,現状では青年期女性の子宮頸がん検診受診率を上げることは重要である.

子宮頸がん検診受診の理由の一つとして,親からの勧め(亀崎ら,2013田中ら,2019)が報告されている.また子宮頸がん検診歴のある母親は,検診歴のない母親より,娘に検診受診を勧める傾向が強かったという報告(Egawa et al,2016)や,母娘に情報リーフレットを郵送した群における娘の子宮頸がん検診受診率は,娘にのみに郵送した群より有意に高かったという報告(Egawa et al,2018)から,娘の受診行動における母親の影響が示唆されている.さらに,子宮頸がんワクチン接種行動には,親の勧めや母親の子宮頸がんの知識・子宮頸がんワクチンの知識が関連すること(亀崎ら,2013濱田ら,2014)が報告されている.以上より,青年期女性の子宮頸がん予防行動を促すためには,本人のみでなくその母親へのアプローチが重要だと考えられるが,子宮頸がん検診受診行動と母親に関する要因との関連についての先行研究は確認できなかった.

したがって,青年期女性の子宮頸がん検診受診行動に関連する母親の要因について探索することは,検診受診行動促進のための母親へのアプローチも含めた支援を検討するための基礎資料となると考えた.

目的

女子大学生の子宮頸がん検診受診行動に関連する母親の要因について探索することである.

方法

1. 用語の定義

母親:実母,または血縁の有無にかかわらず本人が母親と認識する人物.

2. 研究デザイン

無記名自記式質問紙による横断研究.

3. 研究対象者

A県内の3大学に在籍する,子宮頸がん検診無料クーポン配布時期である20歳を過ぎた4年生の女子大学生とその母親(以下,対象者・対象者母とする).

4. データ収集期間

2022年6月から8月.

5. 調査方法

研究協力大学の同意を得た後,講義の前後やゼミ等の機会に訪問し,本研究の概要について研究説明文書を用いて口頭および書面にて対象者に説明し,質問紙を495人に配布した.質問紙の回収は回収箱にて行った.

対象者母への研究協力依頼文書と質問紙の配布は対象者を介して行い,質問紙の返送をもって研究参加に同意することとを文書で説明した.対象者・対象者母の質問紙には同一の研究番号をつけ,母娘を1組の分析対象となるようにした.

6. 調査内容

対象者と対象者母への質問項目は以下のとおりである.

1) 対象者への質問項目

(1) 基本的属性(学部学科,年齢など)

(2) 子宮頸がん検診受診の有無

(3) 子宮頸がんに関する知識

野口ら(2011)井上ら(2013a)井上ら(2013b)酒井ら(2021)今井ら(2021)をもとに設定し,産婦人科医師に質問内容の妥当性について確認を受けた.対象者・対象者母各々に,子宮頸がんに関する知識問題を8題出題し,1問1点換算とした.

(4) 子宮頸がん検診無料券の使用の有無

(5) 青年期後期から成人期初期における母娘関係尺度(以下:母娘関係尺度)

対象者・対象者母の母娘間の関係性については,青年期後期から成人期初期における母娘関係尺度(藤原ら,2007)を用いて測定する.この尺度は,藤原,伊藤らによって開発され,青年期後期から成人期初期における母娘関係を測定する尺度である.「母への支え」(5項目),「過去の対立・葛藤」(6項目),「母の支配」(9項目),「母への信頼」(10項目),「母への依存」(5項目)の5因子35項目(内6項目が逆転項目)で構成され,「非常にあてはまる」から「全く当てはまらない」の5段階のリッカート尺度で回答し,1点から5点の得点をつけ,評価する.各因子のα係数は「母への支え」:α=0.776,「過去の対立・葛藤」:α=0.899,「母の支配」:α=0.845,「母への信頼」:α=0.868,「母への依存」:α=0.803であり(藤原ら,2007),内的整合性は十分に高い.各因子の因子合計得点が高いほど,その因子に関する母娘関係の特徴を強く持つとされる.

2) 対象者母への質問項目

(1) 基本的属性(年齢,婦人科疾患の既往歴,医療関係職の就労経験など)

(2) 子宮頸がん検診受診の有無,受診頻度

(3) 子宮頸がんに関する知識(対象者と同じ)

(4) 子宮頸がん検診補助券の使用の有無

(5) 娘に子宮頸がん検診を勧めたか

7. データ分析方法

統計処理には,統計解析ソフトウェアIBM SPSS for windows ver.26.0を用いた.研究番号によって対象者と対象者母のデータを対応させ,娘の検診受診行動に関連が予測される各因子,対象者母が娘に検診を勧める行動に関連が予測される因子,母娘の知識問題の回答の一致に関連が予測される因子について,χ2検定またはMann-Whitney U検定を用いて分析した.

なお本研究においては,p<0.05(両側検定)の場合,「統計的に有意な差がある」とした.

8. 倫理的配慮

本研究は,香川大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した(受付番号:2022-027).研究参加者には,本研究の参加は自由意思であること,質問紙は無記名であり,参加の有無による利益・不利益は無いこと,質問紙の提出をもって本研究参加に同意したものとすることを,書面および口頭にて説明した.質問項目にはプライバシーに関する内容が含まれているため,封緘での回収とした.

結果

1. 対象者・対象者母の属性

対象者の回収数は71,対象者母の回収数は64であった.そのうち,両者の回答が得られなかったものを除外し,59組を分析対象とした.

対象者の年齢は21歳から23歳で,所属学部学科は看護学が26名(44.1%)と最も多かった.また,性交渉の経験があるものは23名(39.0%)であった.子宮頸がん検診受診経験のあるものは16名(27.1%)で,そのうち12名(75.0%)が子宮頸がん検診無料券を使用しており,対象者全数における子宮頸がん検診無料券利用率は20.3%であった.

対象者母の平均年齢は51.1歳(最少43歳,最長62歳)であった.医療関係職の就業経験があるものは13名(22.0%),産婦人科疾患の既往があるものは18名(30.5%)であった.子宮頸がん検診受診経験があるものは53名(89.8%)であった.そのうち,受診頻度を1年に1回以上と回答したものが21名(39.6%),2年に1回と回答したものが12名(22.6%)であった.また子宮頸がん検診補助券を使用したことのあるものは,検診受診経験者の33名(62.3%)であった.娘に子宮頸がん検診を勧めたことがあると回答したものは25名(42.4%)であった.(表1

対象者の子宮頸がん検診受診群の性交渉の経験率が62.5%だったのに対し,未受診群の性交渉の経験率は30.2%と,検診受診群のほうが有意に高い結果となった(χ2検定乗検定:p<0.05).また,子宮頸がん検診受診群の産婦人科受診経験率が75.0%だったのに対し,未受診群の産婦人科受診経験率は39.5%と,検診受診群のほうが有意に高い結果となった(χ2検定:p<0.05).なお,対象者の子宮頸がん検診受診行動と所属学部との関連における有意差は認めなかった.

さらに,対象者の子宮頸がん検診受診行動と,対象者・対象者母の子宮頸がんに関する知識との関連については,有意な差は認められなかった.

表1

対象者・対象者母の属性N=59

属性 質問項目 最大 最小 平均値 n (%)
対象者
年齢 23 21 21.4
学部学科 法学 0 (0.0)
経済学 1 (1.7)
教育学 7 (11.9)
創造工学 10 (16.9)
農学 0 (0.0)
看護学 26 (44.1)
臨床心理学 6 (10.2)
臨床検査学 8 (13.6)
その他 1 (1.7)
家族構成 母との同居あり 29 (96.7)
(n=30) なし 1 (3.3)
性交渉の経験 あり 23 (39.0)
なし 31 (52.5)
答えたくない・未回答 5 (8.5)
子宮頸がん検診受診 あり 16 (27.1)
なし 43 (72.9)
無料券利用 あり 12 (75.0)
(n=16) なし・わからない 4 (25.0)
産婦人科受診経験 あり 29 (49.2)
なし 30 (50.8)
知識合計点数* 6(5,8)
対象者母
年齢 62 63 51.1
医療関係職 就業経験 あり 13 (22.0)
なし 46 (78.0)
婦人科疾患 既往 あり 18 (30.5)
なし 39 (66.1)
経過観察中 1 (1.7)
未回答 1 (1.7)
子宮頸がん検診受診 あり 53 (89.8)
なし 6 (10.2)
1年に1回以上 21 (39.6)
頻度 2年に1回 12 (22.6)
(n=53) 不定期 19 (35.8)
経過観察中 1 (1.9)
無料券利用 あり 33 (62.3)
(n=53) なし・覚えていない 19 (35.8)
娘に検診を勧めたか 勧めた 25 (42.4)
勧めていない・覚えていない 34 (57.6)
知識合計点数* 6(5,8)

*:中央値(25%ile,75%ile)

2. 対象者の子宮頸がん検診受診行動における母の関連因子

娘に子宮頸がん検診を勧めたことがあると回答した対象者母の割合は,検診受診群のほうが有意に高い結果(p<0.05)となった. また対象者の子宮頸がん検診受診の有無と母娘両者とも正解した一致問題の合計数との関連において,子宮頸がん検診受診群が中央値6,四分位範囲4.25-6.75だったのに対し,未受診群が中央値4,四分位範囲3.00-6.00と,受診群のほうが有意に高い結果となった(p<0.05)(表2).対象者母の年齢や,医療関係職の就業経験,婦人科疾患の既往,対象者母の子宮頸がん検診受診行動と,対象者の子宮頸がん検診受診行動とには有意な関連は認められなかった.

表2

対象者の子宮頸がん検診受診の関連因子N=59

関連因子 受診群 未受診群 P
(n=16) (n=43)
母親が娘に子宮頸がん検診を勧めた 11 (68.8) 14 (32.6) 0.018*
             勧めていない 5 (31.3) 29 (67.5)
母娘共に正解した知識質問数 6 (4.25, 6.75) 4 (3.00, 6.00) 0.037

n(%) または 中央値 (25%ile, 75%ile)

*:カイ2乗検定

:Mann-Whitney U検定

3. 母親による子宮頸がん検診受診の勧めと知識との関連

母親が娘に子宮頸がん検診を勧めた群は,勧めていない群より母親の知識の正解数が高い傾向にある(p=0.087)が,有意差はなかった.また対象者の知識については差が認められなかった(表3).

表3

対象者母の子宮頸がん検診の勧めの有無と知識の比較N=59

勧めた群 勧めていない群 P*
(n=25) (n=34)
対象者母の正解数 7 (5.00, 5.80) 6 (4.75, 5.70) 0.087

中央値 (25%ile, 75%ile)

*:Mann-Whitney U検定

:子宮頸がんに関する知識8問のうちの正解数

4. 母親による検診受診の勧めと母娘関係尺度得点との関連

母親による検診受診の勧めの有無における,母娘関係尺度の各因子得点ついては,「過去の対立・葛藤」「母の支配」の2項目で,母親が検診を勧めた群の因子得点中央値が低く,「母への信頼」の項目で母親が検診を勧めた群の因子得点中央値が高かったが,統計的に有意な差は認められなかった(図1).

図1

母親の子宮頸がん検診受診の勧めの有無2群における母娘尺度得点(因子別)の比較

子宮頸がん検診を勧めた群 勧めていない群 75%ile 中央値 25%ile 外れ値 母への依存 母への信頼 母の支配 過去の対立・葛藤 母への支え

5. 母娘関係尺度得点の比較

母娘間の知識の一致度と母娘関係との関連を見る目的で,母娘の回答の一致(正誤にかかわらず)と母娘関係尺度の各因子得点との関連について分析した.8項目の質問における母娘の回答一致の割合は,最小32組(54.2%)最大47組(79.7%)であった.正解に限定した回答の一致については,尺度の各因子得点との関連は認められなかったが,「2.子宮頸がんは初期にはほとんど症状がない」と「5.子宮頸がんは初期に発見されれば命が助かる」の質問項目において,一致群のほうが「母の支配」の因子得点が有意に低いという結果となった(表4).

表4

母娘の回答一致の有無における「母の支配」得点N=59

質問項目 一致 不一致 P*
Q1:子宮頸がんの発症の原因となるHPVは性的接触によって感染する 42 17 n.s.
19 (13.00, 25.00) 18 (13.50, 21.50)
Q2:子宮頸がんは初期にはほとんど症状がない 46 13 0.048
16 (12.75, 24.00) 21 (17.00, 29.00)
Q3:子宮頸がんの治療により妊孕能が失われることがある 32 27 n.s.
19 (13.00, 24.00) 16 (13.00, 25.00)
Q4:日本では子宮頸がんが20歳代~30歳代の女性のがんの頻度で最も多い 36 23 n.s.
18 (14.00, 25.00) 18 (13.00, 24.00)
Q5:子宮頸がんは初期に発見されれば命が助かる 45 14 0.042
16 (13.00, 24.00) 21 (17.50, 30.75)
Q6:子宮頸がん検診でがんになる前の状態を発見できる 34 25 n.s.
18.5 (13.75, 25.00) 16 (12.50, 24.00)
Q7:HPVワクチンを接種したとしても,子宮頸がん検診は必要である 47 12 n.s.
18 (13.00, 25.00) 19 (15.25, 23.25)
Q8:20歳の女性には,市町村から子宮頸がん検診の無料クーポン券が配布される 44 15 n.s.
18.5 (13.00, 25.00) 16 (14.00, 21.00)

「母の支配」得点範囲:9-81

上段:n,下段:中央値 (25%ile, 75%ile)

*:Mann-Whitney U検定

n.s.:not significant(非有意)

考察

1. 対象者・対象者母の基本的属性による検討

本研究対象者の所属学部学科は,医学系,工学,教育学の順に多かった.文部科学統計要覧(文部科学省,2020)によると,各学部における女子大学生の人数は社会学部が最も多く,人文学部,医学系学部の順に多いことから,本研究対象者は医学系の割合が高い集団であるといえる.また本研究対象者の性交渉経験率は39.0%と,青少年の性行動に関する調査結果の36.7%(日本性教育協会,2017)とほぼ同等であった.子宮頸がん検診受診率については27.1%であり,2019年国民生活調査(厚生労働省,2019b2022)による20歳から25歳の検診受診率15.1%と比較すると,高い検診受診率となった.これはA県の子宮頸がん検診受診率は全国平均より高い(香川県健康福祉総務課,2022)ことも影響していると考えられるが,子宮頸がん検診に関心の高い対象であるといえる.

無料券利用率についての報告は少なく,配布数に対して24.8%の報告(対象年齢は21,26,31,36,41歳)(森村ら,2014)のみであり,単純に比較することは難しいが,本研究対象者の利用率の方がやや低かった.

本研究対象者母については,医療関係職の就業経験がある者が22.0%と,日本人女性雇用者総数に占める「医療,福祉」の割合23.0%(厚生労働省,2019a)とほぼ同様の結果であった.また,2年に1回以上子宮頸がん検診を受診しているものが57.6%と,2019年国民生活調査(厚生労働省,2019b)の報告である40歳代54.5%,50歳代47.8%,60歳代33.1%より高い受診率であった.母の集団も娘同様に,A県の子宮頸がん検診受診率は全国平均より高いことも影響していると考えられるが,子宮頸がん検診に関心の高い対象であるといえる.

2. 女子大学生の子宮頸がん検診受診行動への関連因子

女子大学生の子宮頸がん検診受診行動と母親の子宮頸がん検診受診行動や母親の子宮頸がんに関する知識には関連があるのではないかと推測したが,本結果では関連が認められなかった.先行研究では,子宮頸がん検診受診行動には,子宮頸がんに関する知識が関連しているという報告(佐藤ら,2013丸山ら,2022CK et al,1998亀崎ら,2013濱田ら,2014)がある一方で,子宮頸がん検診受診群・未受診群との比較において,子宮頸がんに関する基礎知識の平均得点の差はないという報告(酒井ら,2021中越ら,2021)もある.子宮頸がん検診受診行動と知識の関連においては,未だ議論の余地があり,さらなる検討が必要であると考える.

女子大学生の子宮頸がん検診受診行動に関連していたのは,母親が娘に検診受診を勧めたことであった.子宮頸がん検診受診のきっかけについての先行研究では,身近な人や親の勧め(亀崎ら,2013田中ら,2019井上ら,2015),他者からの勧め(角南ら,2020)が報告されている.しかし,いずれの先行研究も検診者を対象としていた.本研究では,母親当事者からの回答を示した上で,母親による検診の勧めが娘の子宮頸がん検診受診の関連要因であることを明らかにした.

その他の関連因子としては,性交渉経験や産婦人科受診経験が示され,先行研究(長谷川,2015井上ら,2013a2013b亀崎ら,2013)同様の結果が得られた.

さらに,母親が娘に子宮頸がん検診受診を勧めた群と勧めていない群との比較により,統計的有意差はないものの,勧めた群では母娘関係尺度の「過去の対立・葛藤」と「母の支配」の因子得点の中央値が低く,「母への信頼」では高かった.このことから,過去の対立・葛藤などが少なく支配関係でないような良好な母娘関係が,母親が娘に子宮頸がん検診受診を勧めることに関連する可能性が考えられる.肯定的な母娘関係であるほど,母親から娘へ知識が伝承されるという示唆を報告した先行研究(Suizu et al,2017)もあることから,母娘の間で,良好な関係を築いている場合,母親から娘へ,子宮頸がん検診についての話をすることや検診を勧めることにつながるのではないかと考える.以上より,母娘関係と母親が娘に子宮頸がん検診受診を勧めることとは関連している可能性が考えられるが,統計的に有意な結果ではないため,今後さらに研究をすすめる必要がある.

3. 女子大学生の子宮頸がん検診受診行動に影響し得る母娘の知識

本研究では,対象者母だけでなく対象者の子宮頸がんに関する知識についても,子宮頸がん検診受診とは関連がないことが示された.本研究対象者は,医学系の学部が多い集団であり,子宮頸がん検診の知識の差が推測されたが,学部学科における受診行動への影響はなく,知識の差も認められなかった.先行研究では,子宮頸がん検診の受診行動には,子宮頸がんに関する知識が関連しているという報告(佐藤ら,2013丸山ら,2022CK et al,1998亀崎ら,2013濱田ら,2014)がある一方で,子宮頸がんに関する基礎知識の平均得点の差はないという報告(酒井ら,2021中越ら,2021)もある.子宮頸がん検診受診行動と知識の関連においては,未だ議論の余地があり,さらなる検討が必要であると考える.

本研究において,娘に子宮頸がん検診受診を勧めた母親の知識の合計得点が高い傾向にあったことから,母親の知識は,娘の検診受診に直接は関連しないが,娘の検診受診に関連していた「娘に検診を勧める」という行動には関連する可能性が推測された.しかし統計的に有意な結果ではないため,今後さらに研究をすすめる必要がある.

また,知識の質問2項目において,母娘の回答が正誤に関わらず一致した群のほうが「母の支配」得点が有意に低いという結果であったことから,母娘で同じ知識を持っていることと良好な母娘関係との間に関連があるのではないかと考えられた.親密な関係にある母親と娘は,避妊や性交,性感染症などの性に関する会話をしたことが報告されており(Yamanaka et al,2020),よい母娘関係を保っている場合には,母親から娘へ,娘から母親へと双方から知識を共有することが推測できる.そのため,子宮頸がんに関する正しい知識の共有や検診受診について話すきっかけとなるよう,母娘の双方に知識を普及する機会を設けることや,良好な母娘関係を築くことが娘の健康行動に関連する可能性があると伝えていくことは重要であると考える.

4. 研究の限界

本研究は対象者数が少なく,また対象地域の特性や学部の偏り,対象者を介した母親への研修参加依頼により母娘関係が良好である対象への偏り等が影響している可能性があり,結論の一般化には限界がある.また,統計的パワーの不足により,有意差を十分に検出できていない可能性があり,差がある傾向や臨床的に有意と考え得る差について議論した.今後は,社会人など様々な環境にある対象へと範囲を拡大し,また十分なサンプルサイズを確保して,研究を発展させていく必要がある.

加えて,子宮頸がん検診は性交渉の経験がなければ必ずしも受診する必要ないという意見もあり,それが検診受診行動に影響する可能性が高い.本研究においても,性交渉経験の有無と検診受診割合には有意な関連があり,研究結果に影響していた可能性がある.しかし,本研究では研究計画,解析の段階で交絡因子等の対応はできていないため,今後より信憑性の高い研究デザインによって再検討していく必要がある.

結論

女子大学生の子宮頸がん検診受診行動には,母親による検診の勧めが関連することが明らかとなった.また,良好な母娘関係を築き,正しい知識を共有することが,女子大学生の子宮頸がん検診受診行動の促進につながる可能性が示唆された.

女子大学生の子宮頸がん検診受診行動を促進していくためには,良好な母娘関係を維持することや,母親が娘に検診を勧めること,母娘が正しい知識の共有を行うことを促進させていくことが重要である.

謝辞

アンケートにご協力いただきました皆様,本研究をすすめるにあたりご支援・ご協力を賜りました皆様に深く御礼申し上げます.

利益相反

なお,本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない.

著者資格

ROは研究の着想とデザイン,データ収集および分析,RNおよびYMは論文への示唆,KKは研究プロセス全体への助言を行い,すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.

文献
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