2023 Volume 40 Issue 1 Pages 2-6
177Lu-DOTATATEはソマトスタチン受容体に結合するペプチド(オキソドトレオチド)に放射性同位体(177Lu)を標識した放射性化合物である。ソマトスタチン受容体(somatostatin receptor:SSTR)を発現している神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)の核医学治療に用いられ,ペプチド受容体放射性核種療法(peptide receptor radionuclide therapy:PRRT)とも呼ばれている。海外臨床試験である第Ⅲ相NETTER-1試験や国内第Ⅰ/Ⅱ相試験でPRRTの有効性や安全性などが確認された。
本邦では2021年10月からSSTR陽性のNENに対するPRRTが保険診療可能となってから約1年が経過し,PRRTを開始済みの施設もあるかと思う。本稿ではPRRTの基本をおさらいし,筆者の施設での経験や症例を交えながらPRRTの解説を行う。
177Lu-DOTATATEはソマトスタチン受容体に結合するペプチド(オキソドトレオチド)に放射性同位体(177Lu)を標識した放射性化合物である。ソマトスタチン受容体(somatostatin receptor:SSTR)を発現している神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)の核医学治療に用いられ,ペプチド受容体放射性核種療法(peptide receptor radionuclide therapy:PRRT)とも呼ばれている。本邦では国内第Ⅰ相臨床試験(P-1515-11試験),国内第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験(P-1515-12試験)が行われ,2021年10月からSSTR陽性のNENに対してルタテラ®静注を用いたPRRTが保険診療可能となった。本項目ではNENに対する177Lu-DOTATATE治療の基本や海外・国内治験の結果を紹介し,ルタテラ®静注を用いた治療の実際について,筆者の施設での経験や症例を交えながら解説を行う。
177Lu-DOTATATEはキレート剤であるDOTA(1, 4, 7, 10-tetraazacyclododecane-1, 4, 7, 10-tetraacetic acid)に放射性核種である177Luを組み込み,ソマトスタチン類似物質であるoctreotateに結合させたものである。177Lu-DOTATATEはソマトスタチン受容体を発現しているNENに結合し,主にβ線による内照射で治療効果を発揮する。先述の通り,保険診療で使用可能な核医学治療薬としてルタテラ®静注が販売されており,SSTR陽性のNENが適応症になっている。SSTR発現の確認は検査用放射性医薬品の111In-pentetreotide(オクトレオスキャン®静注用セット)を用いたシンチグラフィ(somatostatin receptor scintigraphy:SSRS)で可能である。SSTR発現の評価はKrenning score(Score 0:集積が全くないもの,Score 1:正常肝の集積より非常に弱い集積のもの,Score 2:正常肝の集積よりわずかに弱い集積か同等の集積のもの,Score 3:正常肝の集積を超えるもの,Score 4:正常脾の集積を超えるもの)が用いられ[1],Score 2以上あるいはScore 3以上の病変がPRRTの対象となることが多い。
ルタテラ®静注を用いた治療の禁忌は本剤の成分に対し,過敏症の既往歴のある患者および妊婦または妊娠している可能性のある女性である。骨髄・肝・腎機能低下などがある患者は,治療開始時および継続する際に減量や投与延期または中止を考慮する必要がある。177Luはβ線とともにγ線を放出するため,177Lu-DOTATATE投与後は患者自身が放射線源になり,他者の放射線被ばくを起こしてしまうため,放射線治療病室からの退出基準を満たすまでは,患者単独で1泊2日程度の入院生活が求められる。そのため,日常生活動作(ADL)が自立していること,放射線治療病室内での生活ルールを理解・遵守できることが必要不可欠である。多くの放射線治療病室では緊急対応が困難であるため,治療前に入念な準備や原疾患・併存疾患のコントロールを行い,緊急時の対応がスムーズにできるように体制を整えておくことが重要である。
また,本治療の実施にあたって,公益社団法人日本アイソトープ協会が主催する,アイソトープ内用療法講習会(ルテチウムオキソドトレオチド(Lu-177)注射液を用いた核医学治療の安全取扱講習会)を受講することが必要で,医師の中から放射線安全管理責任者を1名以上,診療放射線技師または看護師などの中から放射線安全管理担当者を1名以上指名することが求められているため,PRRTを行う際は事前に受講しておく必要がある[2]。
海外では2012年から2016年に中腸NETに対する第Ⅲ相Neuroendocrine Tumors Therapy(NETTER-1)試験が行われ,標準治療単独群(オクトレオチド長時間作用型徐放製剤単独)と177Lu-DOTATATE+標準治療併用群の比較がされた[3]。主要評価項目の20カ月無増悪生存率(PFS)は標準治療単独群で10.8%(95%信頼区間:3.5~25.0)に対し,177Lu-DOTATATE+標準治療併用群で65.2%(95%信頼区間:50.0~76.8)と後者の優位性が示された。2021年に発表されたNETTER-1試験の長期追跡調査[4]では,全生存率の中央値は標準治療単独群で36.3カ月(95%信頼区間:25.9~51.7)に対し,177Lu-DOTATATE+標準治療併用群で48.0カ月(95%信頼区間:37.4~55.2)であった。また,本邦ではソマトスタチン受容体陽性の切除不能または遠隔転移を有する進行性膵または消化管,肺NENの日本人患者を対象に国内第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験が実施された[5]。主要評価項目の客観的奏効率(CR+PR:complete response+partial response)は全体集団(15例)で46.7%(95%信頼区間:24.4~70.0),中腸NET集団(5例)で60.0%(95%信頼区間:18.9~92.4)であった。これらの結果から,PRRTによりNEN患者の生命予後改善が期待できる。膵・消化管NEN診療ガイドライン[6]では,ソマトスタチン受容体陽性の膵・消化管 NETに対して,二次治療以降の他剤無効例に対する代替治療として推奨されている(グレードA,合意率100%)。
第Ⅲ相NETTER-1試験でみられた177Lu-DOTATATE投与に関連のある主な有害事象は悪心(59%),嘔吐(47%),疲労(40%),下痢(29%),血小板減少症(25%)であった。重篤な副作用(Grade3もしくは4)はリンパ球減少症が9%,血小板減少症が2%,好中球減少症が1%であった。PRRTに関連した骨髄異形成症候群は0.9%で認めた。国内第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験でみられた主な副作用は悪心(73.3%),リンパ球減少(66.7%),食欲減退(46.7%),倦怠感(26.7%)であった。NETTER-1試験の長期追跡調査[4]では,先述の標準治療単独群と177Lu-DOTATATE+標準治療併用群で腎機能に影響を及ぼさないこと,新規に二次性発癌を認めなかったことが報告された。
膵・消化管NEN以外でPRRTの有用性が示唆されているものの1つに甲状腺癌があるため,文献の紹介を行う。
SSTR陽性の甲状腺分化癌に対するPRRTは2000年頃にpilot studyが行われており,90Y-DOTATOC,111In-pentetreotide(検査ではなくγ線やオージェ電子による内用療法),177Lu-DOTATATEを用いた報告が散見される。177Lu-DOTATATEを用いた報告ではSSTR陽性(放射性ヨウ素の集積陰性)の甲状腺癌患者5名(乳頭癌1名,濾胞癌1名,Hürthle細胞癌3名)に対し,177Lu-DOTATATEを用いてPRRT(1回1.9~7.4GBq,6~15週間隔,最小3回~最大8回,合計22.4~30.1GBq投与)が行われ,PR1名(Hürthle細胞癌1名),MR1名(MR;minor remission;25~50%の腫瘍縮小;Hürthle細胞癌 1名),SD(stable disease)2名(乳頭癌1名,Hürthle細胞癌1名),PD(progressive disease)1名(濾胞癌1名)であった[7]。放射性ヨウ素不応性分化型甲状腺癌(157名)のシステマティックレビューでは,生化学的・客観的奏効率(CR+PR)はそれぞれ25.3%と10.5%であった[8]。
SSTR陽性の甲状腺髄様癌の再発病変+多発遠隔転移28症例(男性14名,女性14名)を対象とした,90Y-DOTATATEまたは177Lu-DOTATATEを用いたPRRT(最大5回まで)では,CR0/28名(0%),PR5/28名(17.7%),SD17/28名(60.7%),PD6/28名(21.4%)で,全生存中央値はSD群で72カ月,PR群で36カ月,PD群で24カ月であった[9]。その他,117名の髄様癌を対象とした解析では,CR 2.6%,PR 5.1%,SD 54.7%,PD 37.6%という結果も見られた[10]。遠隔転移を伴った甲状腺髄様癌(220名)のシステマティックレビューでは,生化学的・客観的奏効率(CR+PR)はそれぞれ37.2%と10.6%であった[8]。
以上より,放射性ヨウ素が集積しない分化型甲状腺癌や甲状腺髄様癌の治療において,分子標的薬不応性病変,有害事象などの事情により標準治療ができない場合,治療の選択肢の1つになると思われる。
177Lu-DOTATATEは通常7.4GBq/回を8~16週間隔で4回投与を行う。177Lu-DOTATATEは腎臓の糸球体で濾過された後,一部が近位尿細管で再吸収・保持されるため,腎臓の放射線被ばく量が増加し,腎障害が発現する可能性がある。ライザケア®輸液は177Lu-DOTATATEの近位尿細管における再吸収を競合的に阻害し,尿中排泄を促進することで腎被ばく量を軽減することができる。制吐剤(セロトニン受容体拮抗薬)を投与後,ライザケア®輸液を開始し,177Lu-DOTATATEを投与する。177Lu-DOTATATEの入ったバイアルを遮蔽容器に入れたまま輸液ラインを作成することで,医療従事者の被ばくを大幅に減らすことが可能である(図1)。当院ではチェックシートを用いて治療適用について確認し,事前に病棟カンファレンスで患者の自立度や急変リスクなどの情報を共有している。治療時にもチェックシートを用い,手順を確認しながらPRRTを行っている(図2)。また,ルタテラ®静注7.4 GBq/瓶当たりの薬価は2,648,153円(2022年11月現在)で非常に高額である。通常,ルタテラ®静注の発注締め切りは投与(検定日)から2週間前の水曜日17時であるが昨今の世界情勢のため,供給や到着が不安定になっている。執筆時点(2022年12月現在)では2週間前の月曜日17時となっており,さらに早めの締め切りとなっている。治療計画の際は事前に患者へ説明し,余裕を持った治療スケジュールを計画しておきたい。
ルタテラ®静注投与方法例(イラストは富士フイルム富山化学株式会社様から許諾を得て転載・改変)
ルタテラ®静注のバイアルを長針・短針で連結し,生理食塩水の持続点滴を行うことによってバイアル内のルタテラ®静注が押し出され患者体内へ投与される。
バイアルは遮蔽容器に入ったままなので,準備者・投与者の放射線被ばくを大幅に減らすことができる。
PRRTの治療前・治療時チェックシート
177Lu-DOTATATE治療を行った症例を提示する(図3,4,5)。177Luはβ線とともにγ線も放出するため,177Lu-DOTATATE治療後シンチグラムを撮像することにより,病変の分布や集積の程度を評価することが可能である。また,177Lu-DOTATATE治療後シンチグラムは治療前の111In-pentetreotideシンチグラムより投与放射能が多く,病変の検出力が高いため,診断にも有用である。
PRRT前の111In-pentetreotideシンチグラム
50歳台男性,肝内胆管原発NETG2の症例。PRRT前のSSRSでは右肺転移(黒矢印;Krenning score 1),多発肝転移(白矢印;Krenning score 4),腰椎転移(灰矢印;Krenning score 1)を認めた。
PRRT後の177Lu-DOTATATE治療後シンチグラム
7.4GBq/回でPRRT4回施行。経時的に異常集積の改善を認めた。
PRRT前後の111In-pentetreotideシンチグラム
PRRT4回終了後のSSRSでは右肺転移縮小と異常集積消失,多発肝転移の異常集積改善を認めた。腰椎転移は異常集積消失に加え,治癒を示唆する骨硬化像が見られた。
NENに対する177Lu-DOTATATE治療の保険診療が本邦で可能となってから約1年が経過した。177Lu-DOTATATE治療は優れた治療法であるが,長期生存例では晩期有害事象(腎機能低下,骨髄機能低下,二次性悪性腫瘍)を考慮する必要があり,治療後も長期的なフォローアップが必要である。本項目が177Lu-DOTATATE治療の適用判断や治療の参考になれば幸いである。