Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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Radionuclide therapy for refractory pheochromocytoma and paraganglioma
Tomo HiromasaXue ZhangHiroshi MoriHiroshi WakabayashiDaiki KayanoSeigo Kinuya
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2023 Volume 40 Issue 1 Pages 7-11

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抄録

褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)はカテコラミン産生能を有する希少神経内分泌腫瘍である。本邦においては長らくCVD化学療法のみが難治性PPGLに対する唯一の保険治療薬であったが,2022年1月より同疾患に対して保険診療での131I-MIBG内用療法が開始された。先行研究によって131I-MIBG治療は腫瘍縮小効果とホルモン値改善に寄与し,PPGLの病勢を安定化させることが示された。またほぼ同時期に神経内分泌腫瘍に対して保険収載された177Lu-DOTATATE治療もPPGLに対して保険適用範囲内での利用が可能となり,131I-MIBG治療と同様に腫瘍縮小効果とホルモン値改善が期待される。本稿では主に難治性PPGLに対する131I-MIBG治療と177Lu-DOTATATE治療について解説を行う。また,PPGLに対する核医学の最新のトピックスについても簡単に触れる。

はじめに

褐色細胞腫・パラガングリオーマ(Pheochromocytoma and paraganglioma:PPGL)はカテコラミン産生能を有する希少神経内分泌腫瘍である。本邦では2021年に難治性PPGLに対する131I-metaiodobenzylguanidine(MIBG)内用療法の保険診療が開始し,また177Lu-DOTA-Tyr3-octreotate(177Lu-DOTATATE)も難治性PPGLに対して使用可能となった。本稿では核医学治療の現状として難治性PPGLに対する131I-MIBG治療と177Lu-DOTATATE治療に関して主に解説し,最新のトピックスについても簡単に触れる。

PPGL

PPGLは交感神経系および副交感神経系の神経堤由来の細胞に発生する希少神経内分泌腫瘍である。約80~85%が副腎髄質のクロマフィン細胞由来である褐色細胞腫で,残りは副腎外の交感神経/副交感神経節から発生するパラガングリオーマと呼ばれる[]。PPGLは,主にカテコラミンの発作的あるいは持続的な過剰分泌によって,代謝異常や不規則な血圧変動を引き起こす。長期にわたる高血圧は心臓,脳,腎臓に重篤な障害をもたらし,時に重篤な高血圧は褐色細胞腫クリーゼを引き起こす[]。一般的には緩徐進行の腫瘍であり,カテコラミン症状のコントロールが患者QOLや予後に影響を与える。

2017年に世界保健機関は,あらゆるPPGLは転移の可能性を有するとし,一律に悪性腫瘍であると定義した。褐色細胞腫の5~20%,パラガングリオーマの15~35%は診断時に転移性病変を有するといわれている。臨床的には治癒切除困難例,明らかな遠隔転移を有する症例を難治性と称し多角的な治療が行われる。

難治性PPGLの治療として特に病変が広範囲に及ぶ場合は,131I-MIBG療法が全身治療として支持されている[]。2018年の国内のPPGL診療ガイドラインでは,131I-MIBG治療とcyclophosphamide, vincristine, and dacarbazine(CVD)化学療法の2種類が全身療法に位置付けられており,MIBG陽性病変の場合にはCVD化学療法に先行して131I-MIBG治療が検討される。ただし,131I-MIBG治療は2021年まで本邦で未承認薬であったため自費診療での使用に限られた。2022年より難治性PPGLに対して保険適用となり,国内での今後の利用拡大が見込まれる。

一方で131I-MIBG治療によりPPGLの病勢コントロールとホルモン安定化を図るものの,時にMIBGの集積を認めない症例を経験する。PPGLは約半数以下が遺伝性変異を有し,転移性PPGLの約40%がコハク酸脱水素酵素サブユニットB(SDHB)変異を有するとした報告もある[]。特にSDHB変異症例では図1のようなMIBG陰性病変が出現しやすく[],131I-MIBG治療とCVD化学療法のみでは病勢コントロールに難渋するケースがある。図1にPPGLのMIBGとFluorodeoxyglucose(FDG)集積の関係を示す。

図1.

PPGLのMIBGとFDG

PPGLは腫瘍の分化度・悪性度に応じてMIBGとFDGの取り込みが異なり,脱分化によってMIBG集積は低下,FDG集積は増加傾向にある[15]。a:MIBG陽性,FDG陰性の症例,b:MIBGとFDGいずれも陽性の症例,c:MIBG陰性,FDG陽性の症例

このような症例に対して一つの治療オプションが最近追加された。2021年に神経内分泌腫瘍に対して177Lu-DOT ATATE治療が保険収載された際に,PPGLも対象疾患とされた。PPGLに対する177Lu-DOTATATE治療は2021年のNCCNガイドラインにおいて131I-MIBG療法に次ぐ治療法に位置付けられており,今回の保険収載を機に,今後は国内においてもPPGLに対する177Lu-DOTATATE治療症例の増加が予想される。

131I-MIBG

MIBGは,ノルエピネフリン(NE)と類似した構造を持つグアネチジンのアナログとして,NEトランスポータに結合し細胞内に取り込まれる。細胞内に取り込まれたMIBGは小胞モノアミントランスポーターを介して腫瘍細胞内の神経分泌顆粒に輸送・貯蔵される。神経芽腫などの一部の腫瘍では神経分泌顆粒の不足により,MIBGは細胞質またはミトコンドリアに保持される。標識された131Iから放出されるβ線によって殺細胞効果を発揮する。

筆者らの施設では自費診療時より7.4GBqを基本量とする低用量131I-MIBG治療を行っており,自費診療や先進医療B,企業治験の結果をいくつか報告している。131I-MIBG治療を実施した59名の難治性PPGLを対象にした検討では,多変量解析にてResponse Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)による最良効果判定PD(progressive disease)と便秘症状が全生存率に対する予後不良因子であると報告した。客観的評価を行えた38名中9名でPR(partial response)を認め,低用量131I-MIBGの複数回投与による腫瘍縮小効果を示した[]。低用量131I-MIBGの反復投与を経験した難治性PPGL患者20名を含む第Ⅰ相臨床試験では,10%の患者がCR(complete response)を達成し,6カ月後の無増悪生存率は80%であった[]。多施設共同第Ⅱ相臨床試験では,16人の患者を対象に低用量131I-MIBG単回投与に対する客観的奏効率5.9%,123I-MIBGシンチグラフィ奏効率29.4%,尿中カテコラミン奏効率23.5%であった[]。以上から,5.55~7.4GBq量での低用量131I-MIBG治療は腫瘍縮小効果とホルモン値の改善に寄与し,PPGLの病勢を安定化させる。図2に低用量131I-MIBG治療に対する代表的な奏効例を示す。

図2.

40歳台女性,左副腎褐色細胞腫術後,多発肝転移,多発肺転移の症例。

a:治療前123I-MIBG画像では肝転移への明瞭な集積と肺転移への軽度の集積を認める。b:7.4GBq での131I-MIBG治療2回実施後。治療前と比較しCT上すべての病変で縮小を認めた。肝病変の一部に淡いMIBG集積残存を認める。

高用量(0.44~0.67GBq/kg/回)131I-MIBG治療に関しては海外からの報告が主で,単回投与量の増加によってより高い腫瘍縮小効果が期待される[]。一方で,より重篤な骨髄抑制により骨髄移植を前提とした治療になることや用いられる放射性同位元素の使用数量制限などの条件のため,国内では普及に至っていない。

177Lu-DOTATATE

ソマトスタチンは,いくつかのホルモンの放出や細胞増殖を抑制するペプチドホルモンである。PPGLでは特にパラガングリオーマの細胞表面にソマトスタチン受容体(SSTR)が過剰発現を示す[10]。現在ではDOTANOC,DOTATOC,DOTATATEといったSSTR2に強い親和性を持つソマトスタチンアナログが主に臨床利用されており,国内では177Lu標識DOTATATEが治療薬として利用されるに至った。131I同様に標識された177Luから放出されるβ線が殺細胞効果を発揮する。

国内においてはSSTRシンチグラフィの診断薬として111In-pentetreotideが使用できる。病変への集積程度に関してKrenning score(表1)[11]を用い評価し,治療の判断を決める。神経内分泌腫瘍への治療適応としてScore2以上を陽性と判断される場合が多いが,筆者らの施設においてもPPGLに対して同様の判定を用いている。

表1.

Krenning score

疾患の希少性ゆえにPPGLに対する177Lu-DOTATATE治療の研究は大部分が限られたコホート研究のみである。12の論文と合計201人の患者を含むメタ解析[12]では,177Lu-DOTATATEを用いたほとんどの研究で毎サイクル7~8GBqを2~3カ月間隔で最大4サイクルまで投与している。本治療により25%(95%信頼区間(CI):19%~32%)の客観的奏効率が得られたが,CRとなるケースは少ない。病勢コントロール[治療効果SD(stable disease)以上]は84%(95%CI:77%~89%)に得られ,生化学的奏効は64%,症候学的奏効は61%で認められたと報告している。このように,177Lu-DOTATATE治療は131I-MIBG治療のように腫瘍縮小効果とホルモン値やカテコラミン症状改善をもたらす可能性がある。筆者の施設ではこれまでに複数例のPPGLに対する治療を実施した。7.4GBqでの治療を2回施行し,カテコラミン症状改善,ホルモン値改善を認めた症例を図3に示す。

図3.

30歳台女性,パラガングリオーマ,多発骨転移の治療前画像

a:123I-MIBG画像では一部の病変にのみ集積を認める。b:111In-pentetreotide画像ではc:18F-FDG PET画像で検出される病変に一致した集積増加を認める。

有害事象

131I-MIBG治療,177Lu-DOTATATE治療の注意すべき有害事象として骨髄抑制と腎機能障害,二次性発癌が挙げられ,長期間の経過観察が必要となる。また,これら治療がカテコラミン症状増悪の誘因となる場合もあり,その際はα遮断薬や補液投与などによる全身管理を要する。そのほか,131I-MIBG治療では遊離した131Iの正常甲状腺組織への取り込みによって甲状腺機能低下症が引き起こされるため,予防目的に治療前後での無機ヨウ素の内服が必須となる。

検討課題

これら治療選択時に用いられる123I-MIBG,111In-pentetreotideにはいくつかの限界がある。これら検査は病変検出能が限られていることや,全身分布の違いによって病変集積の比較が難しく,視覚評価に頼る部分が多い。近年ではNEトランスポータをターゲットとした18F-meta-fluorobenzylguanidine(18F-MFBG)やSSTRをターゲットとした68Ga-DOTATATEなどのPETトレーサの病変検出能の高さが報告されている(いずれも本邦未承認の放射性薬剤)[13]。また,これらPET核種であればStandardized uptake value(SUV)などによる半定量的な指標を用いることで,将来的にはより客観的な治療適応の判断が可能となるかもしれない。

アルファ線核種

β線と比較しα線は40~100ミクロンと飛程距離が短く,高Linear energy transfer(LET)放射線のため細胞毒性に優れている[14]。α線放出核種の211Astatine(211At)を標識した211At-meta-astatobenzylguanidine(211At-MABG)は131I-MIBGと同等の生物学的特性を持つとされる。また177Lu-DOTATATEと同等の生物学的特性を持つ225Actinium(α線放出核種)標識DOTATATEも,PPGLに対する今後の有望な治療選択肢となるかもしれない。

おわりに

本稿では褐色細胞腫・パラガングリオーマに対する131I-MIBG ,177Lu-DOTATATE治療の現状に関して解説した。これら核医学治療の国内でのさらなる利用拡大に期待し,本稿がその一助となれば幸いである。

【文 献】
 
© 2023 Japan Association of Endocrine Surgery

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