Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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Pathological diagnosis of parathyroid carcinoma
Miho KawaidaKaori Kameyama
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2023 Volume 40 Issue 2 Pages 80-82

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抄録

副甲状腺癌が原発性副甲状腺機能亢進症を占める割合は1%未満とされる。稀な疾患であり,一般病理医が診断しうる機会は非常に少ない。本項では,副甲状腺癌の病理組織学的特徴と,対して遭遇する確率の高い腺腫を中心に,改訂が予定されているWHO分類における従来との変更点を中心に病理所見を概説する。

はじめに

本項では副甲状腺癌とその鑑別となる頻度の高い腺腫の病理診断について記載するとともに,改訂されるWHO分類で取り上げられる予定となっている副甲状腺腫瘍(表1)について概説を行う。

表1.

副甲状腺腫瘍(WHO第5版予定)

副甲状腺腺腫について

副甲状腺腺腫は原発性副甲状腺機能亢進症の原因の85%以上を占める疾患である。特発性の場合,約2~3倍近く女性に多く認められる。腺腫の大きさと血清カルシウム値やPTH値は相関する。正常副甲状腺1腺の大きさは6~8mm,重量は40~60mgである。直径6mm未満,重量100mg未満のものは微小腺腫と呼ばれ,臨床的な副甲状腺機能亢進症の原因でない可能性がある。大きさが10mmを超えるものでは骨病変や高カルシウム血症を引き起こしやすい。腺腫の典型的な肉眼所見は,均一なピンク色ないし黄褐色調を呈し繊細な線維性被膜を有する結節である。内部には囊胞性変化をきたすことがあり,それにより腫瘍径の増大をきたすことが多い。また,血管極に萎縮した正常副甲状腺組織の縁取りを確認できることがある。組織学的には,副甲状腺を構成する実質細胞のうち,類円形核と明るい胞体を持つ主細胞が胞巣や索状構造を示しつつ増殖する像を基本とする。好酸性細胞やwater-clear cellといった他の実質細胞が散在性あるいは集塊を形成し混在することもある。構成細胞の75%以上をこれら主細胞以外が占める場合はそれぞれの細胞の名前を冠した腺腫となる。腺腫を構成する主細胞は正常副甲状腺同様に均一な類円形の核を有する例がほとんどであるが,正常組織に比べ核のサイズは大きい(図1)。これは提出検体が腫瘍であると認識する上で重要な所見で,normal rimと呼ばれる。辺縁にみられる正常副甲状腺組織(前述の縁取りに相当する)と比較すると核の大きさが異なり,脂肪組織の比率が腫瘍より通常多いことから診断に至ることができる。症例によっては顕著な核異型を示すもの(図2)もあるが,核異型のみでは悪性とするべきではないことに注意されたい。

図1.

副甲状腺腺腫。右側の腺腫では左側にみられる正常副甲状腺と比較し核の腫大した主細胞が密に増生している。

図2.

核異型の顕著な副甲状腺腺腫の例。

副甲状腺癌について

副甲状腺癌は稀な腫瘍で,原発性副甲状腺機能亢進症のおよそ1%未満を占めるとされている。腺腫に比べ大型で境界不明瞭な腫瘤であることが多い。甲状腺や食道といった周囲臓器にしばしば癒着を示すため,術中に癌と気づかれることがある。肉眼割面は内部での線維化を反映し分葉状を呈することが多い。色調のみでは腺腫との鑑別が困難であるが,壊死を示唆する黄白色調の領域を有する可能性があることを考慮すべきである。組織学的には,様々な増殖パターンを示す主細胞の充実性増生からなることが多いが,好酸性細胞が主体をなす癌も報告[]されている。この増生像の間には厚い線維性隔壁(fibrous bandと呼ばれている)の形成がみられることが多く,癌の診断基準のひとつとされてきた。しかしこの所見は癌に特異的とはいえず,また診断者によって判断基準が異なることから再現性が低いと考えられたため,現行のWHO分類[]ではこのfibrous bandは基準からは除外されている。WHO改訂版では癌の診断基準として脈管浸潤,神経周囲浸潤,周囲組織への浸潤(図3)あるいは組織学的に裏付けられた遠隔転移と定義される予定である。

図3.

副甲状腺癌。筋肉への浸潤を示す。

病理診断において一般的に良性腫瘍(腺腫)と悪性腫瘍(癌)を分別しうる悪性度の指標は異型や増殖能といえる。副甲状腺をはじめとした内分泌臓器での診断の難しさの一つには細胞異型が診断の根拠とならない点にある。顕著な核異型を示す腺腫がある一方で,細胞異型の乏しい癌がある(図4)ということである。構造異型で癌(悪性)といいうる所見は述べ難い。それでは増殖能についてはどうか?核分裂像の有無のみでは腺腫か癌かを判断することは困難であるが,核濃染や変性像ではなく真の核分裂像,特に二極分裂でない異型分裂像は悪性の指標たりうると考えられている。また,増殖能の評価として一般に用いられているKi-67免疫染色も有用で,癌ではより高値を示すとされている。壊死も増殖能を反映していると考えうるため,有無については注意すべきと思われる。病理総論的に悪性腫瘍は増殖・浸潤・転移で規定されるが,濾胞癌同様に浸潤の程度によって区分することで悪性度の高い群を拾い上げる試みがなされている。

図4.

副甲状腺癌の強拡大像。癌細胞の索状増生と,それを取り囲む線維性隔壁がみられる。核所見を図2と比較されたい。

副甲状腺癌に関連する免疫染色としてparafibrominが知られている。これは,副甲状腺腺腫あるいは癌のほか,顎線維腫や腎臓・子宮といった複数の臓器に腫瘍を生じる常染色体顕性遺伝疾患である副甲状腺機能亢進症額腫瘍症候群 hyperparathyroidism-jaw tumor syndrome(HPT-JT)に認められるHRPT2/CDC73遺伝子がコードするタンパクである[]。正常副甲状腺組織や腺腫ではparafibromin免疫染色は陽性を示す一方,副甲状腺癌(再発・転移を生じた悪性度の高い例)での染色性が低下しているとされる[]。癌の頻度を考えると,腺腫か癌かの判断の軸として有用といいうるほど汎用性の高い抗体ではなく,また染色自体やその解釈の難度が高いためいずれの施設でも推奨されるとまではいえないが,副甲状腺癌の悪性度を評価するにあたっては重要な染色と考えられる。

新WHO分類で加わることとなっている副甲状腺腫瘍について(癌との比較を中心に)

改訂されるWHO分類では,副甲状腺腫瘍では項目立てされていなかった三つの疾患が加わる予定である。副甲状腺過形成,副甲状腺脂肪腺腫,非定型副甲状腺腫瘍である。

次の改訂では副甲状腺過形成は生理的刺激のないもののみを呼ぶこととなっている。すなわち,副甲状腺過形成の多くを占める二次性副甲状腺過形成,および二次性過形成の腺が自律性に副甲状腺ホルモン産生をきたすようになった三次性過形成は除外されるということである。多発性内分泌腫瘍性1型multiple endocrine neoplasia type 1(MEN1)をはじめとする家族性の副甲状腺多腺病変はそれぞれの結節が単クローン性,つまり腫瘍性病変であるという報告[]を背景とした改訂である。病理総論的な過形成とは正常細胞が応答として細胞数を増やし,体積を増加させることを指す。病理診断における注意点は,罹患が長くなるに従い,応答によって増生した細胞が結節状を呈し,線維化や出血を伴うことにより,まるで癌の間質浸潤様の像を呈するようになることである。また,腺腫の診断で有用であるnormal rim様の,萎縮した副甲状腺組織(pseudo rimと呼ばれる)が出現することもある。

基本的には単腺病変は腺腫,多腺病変は過形成であると考えられる,また,家族性疾患では組織像は腺腫と過形成との中間的な所見を示すことがある。組織診断(迅速診断を含む)で病変の部分像のみをみて,腺腫か過形成かを病理が断定することは望ましいとはいえない。

副甲状腺脂肪腺腫は以前より腺腫の一亜型として知られている疾患[]で,改訂により独立することとなるが,その理由は不明である。病因や遺伝的素因,分子学的背景はわかっていない。

非定型副甲状腺腫瘍は,ざっくりとしてはいるが「癌とも腺腫ともいえない,中間的な腫瘍」という表現が理解しやすいのではと思われる。一般的に大きさや血中PTH値も癌と腺腫の中間とされる。前述の癌の診断基準を満たさないことが前提となる,細胞異型や構造異型を伴った腫瘍である。しばしば線維化やヘモジデリン沈着を示すため,周囲組織への浸潤と判断すべきか悩ましい像を伴う[]。吸引穿刺や生検に伴う修飾によっても類似した組織像が出現しうる[]ため,既往の操作について把握する必要がある。癌以上に稀な疾患であるため,病態についての理解は今後の症例の蓄積が望まれる。

おわりに

以上,簡潔ではあるが,副甲状腺癌と関連ないし病理で鑑別を要する疾患について述べた。われわれ病理医が検体提出後にどのような点に着目して診断に臨み,診断に至っているか,理解の一助となれば幸いである。

【文 献】
 
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