Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
Online ISSN : 2758-8785
Print ISSN : 2434-6535
Systemic chemotherapy for recurrent or metastatic parathyroid carcinoma
Naomi Kiyota
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2023 Volume 40 Issue 2 Pages 83-85

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抄録

副甲状腺がんは非常に稀な悪性腫瘍であり,ほとんどの場合に副甲状腺機能亢進症を伴う。根治的治療は手術による完全切除であり,再発や転移を生じた場合に外科的切除が困難な場合には有効な治療法はない。抗がん薬を用いた全身的な薬物療法の報告は症例報告のみであり,これまで前向き試験の報告はなく,ダカルバジンを主体とする薬物療法はオプションとして挙げられるが推奨可能ながん薬物療法は残念ながら存在しない。一方で次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子解析の急速な普及により,本邦でもがんゲノム医療が保険診療で実施可能である。このような希少がんにおいてこそ,積極的にがん遺伝子パネル検査を行い潜在的な治療選択肢を見出し,情報集積を図ることが重要と考えられる。

はじめに

副甲状腺がんは非常に稀な悪性腫瘍で,副甲状腺機能亢進症の原因の1~5%程度とされる。米国のNational Cancer Database(NCDB)による報告などからは全悪性腫瘍の0.005%を占めるにすぎないとされる[]。また,具体的な罹患数は海外からの報告であるが,人口1,000万人あたり10~13人で診断技術の向上に伴い増加傾向とされる[]。多くは,散発性に発生するとされるが,多発性内分泌腫瘍症(MEN)のMEN1やMEN2Aに伴うものや,15%程度に副甲状腺がんを発生するとされるHRPT2/CDC73遺伝子変異を伴う副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群(HPT/JT:hyperparathyroidism-jaw tumor)などの遺伝性腫瘍症候群の部分症として発生することも知られている[,]。しかし,いずれであっても明らかな希少がんであり,特に再発・転移時の治療オプションは非常に限られており定まったものはない。本稿では,過去の症例報告やレビューを中心に,再発・転移副甲状腺がんの治療について概説する。

副甲状腺がんの診断と治療

詳細な診断,外科的治療や副甲状腺機能亢進症に関する内科的管理は本特集で組まれている他の先生方の解説に譲るが,一般に腺腫との病理学的な鑑別診断は術前には困難なことも多く,他の内分泌腫瘍でも時にあるように,再発や転移を生じてから悪性と診断されることもある[,]。ただし,良性の原発性副甲状腺機能亢進症と比較して高カルシウム血症の程度や他の臨床的特徴から悪性である可能性を推測可能なこともある(表1)[]。

表1.

副甲状腺癌の臨床的特徴[

治療については,現在においても,根治的治療は手術による完全切除が原則である[,]。また局所再発時にも副甲状腺機能亢進症のコントロールの観点からも可能であれば救済手術を考慮する[]。内科的管理としては,副甲状腺がんではPTHが非常に高値な機能性腫瘍となることが多く,副甲状腺機能亢進による高カルシウム血症に伴う症状の管理が非常に重要となる[,]。高カルシウム血症に対する内科的治療は,一般的な生理的食塩水による十分な輸液,利尿薬,ビスホスホネート製剤による治療に加えて,カルシウム受容体作動薬(シナカルセト,エボカルセト),カルシトニン製剤などを駆使して行われる[,,]。シナカルセトもエボカルセトも副甲状腺細胞表面のCa受容体にアロステリックに作用しPTH分泌を抑制する治療薬である。シナカルセトは,原発性副甲状腺機能亢進症を伴う切除不能副甲状腺がん患者29人が参加したオープンラベルの前向き試験で,血清カルシウム値の有意な低下とPTH値の低下傾向を示しているが,嘔気・嘔吐などの有害事象を比較的高頻度(52~66%)に認めている[]。エボカルセトは原発性副甲状腺機能亢進症18人(3人の副甲状腺がん患者を含む)におけるオープンラベルの前向き試験において,血清カルシウム値の有意な低下を示し,嘔気などの消化器症状は比較的少なかった(17%)[]。いずれの治療薬も「副甲状腺癌における高カルシウム血症」において本邦で保険適用となっている。このような有害事象の面で,Endocrine Societyのガイドラインにおいても,カルシウム受容体作動薬とビスホスホネート製剤などを推奨しているが,やや後者を優先した推奨となっている[]。

抗がん薬の有効性は術後治療においても緩和的治療としても明確に有効性を示した報告はない[10]。繰り返し述べているように,非常に頻度の低い希少がんであるため,どのような抗がん薬が有効か十分に検討されてはおらず,実際のところは抗がん薬が今回のテーマである再発・転移副甲状腺がんに寄与するかどうかは不明というのが正確な表現と思われる。筆者も内分泌悪性腫瘍に対するがん薬物療法を甲状腺がん・副腎がん・褐色細胞腫を中心に臨床経験があるが,再発・転移副甲状腺がんに対して抗がん薬を使用した経験はない。本稿を執筆するにあたって,PubMedで以下の検索語(# parathyroid carcinoma,# recurrent or metastatic,# chemotherapy)を用いて文献検索を行ったが,548件の該当文献のうちがん薬物療法を行った前向き試験の報告はなく,全て症例報告であった。また,がん薬物療法を行った症例報告をまとめたpooled analysisにおいてもダカルバジンや分子標的薬を中心とする薬物療法を受けた20人の患者の解析が最大の報告であった[11]。

そのような中で,これまで最も一般的に報告されているのが,ダカルバジン単独,およびシクロホスファミド,フルオロウラシルとダカルバジンの併用などを用いた症例報告であるが,一時的な有効性は示されているものの生存の改善への寄与は不明であり何らかの推奨をできるほどの治療成績でもないのが実情である[,,10]。このため,局所治療が困難な再発・転移副甲状腺がん患者においては,腫瘍進行そのものによる症状緩和よりもむしろ,先述のような高率に伴う重篤な高カルシウム血症の管理が主体となる側面が強いとされている[,]。

一方で,この分野においても,次世代シーケンサー(NGS)の技術の急速な普及に伴い,いわゆる「がんゲノム医療」が試みられている。これまでの報告では,11人の副甲状腺がんの患者にがん遺伝子パネル検査を行い,PI3K経路やTP53関連の遺伝子異常が指摘されている[12]。さらに,16人の副甲状腺がん患者における検討では,前述のような遺伝子異常に加えて20 mutations/Mbを超えるTMB(tumor mutational burden)-Highの患者が3人(19%)に含まれており,免疫チェックポイント阻害薬の潜在的な治療対象となることが示されている[13]。また,ミスマッチ修復遺伝子異常を伴う術後再発副甲状腺がんに対して抗PD-1抗体のペムブロリズマブを投与することで随伴する副甲状腺機能亢進症をコントロールできた症例も報告されている[14]。TMB-Highの固形がん患者やミスマッチ修復遺伝子異常/マイクロサテライト不安性を伴う固形がん患者における抗PD-1抗体のペムブロリズマブの有効性は臨床試験でも示されており,本邦でも保険適用となっている[1517]。まだ少数例での報告ばかりだが,希少がんで標準的薬物療法がない領域であるため,遺伝子プロファイルに基づく有効な治療法の探索は積極的に進めていくべきである。本邦でも保険診療でがん遺伝子パネル検査が行える体制が整備されており,2019年6月に保険収載されている。現時点で使用可能ながん遺伝子パネル検査は,「OncoGuide NCCオンコパネル」,「FoundationOne CDxがんゲノムプロファイル」,「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」である。本検査の保険診療上の対象は,「標準治療がない固形がん患者又は局所進行若しくは転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者(終了が見込まれる者を含む)」であり,再発・転移副甲状腺がんには標準的薬物療法は存在しないため,再発や転移が認められた時点で適応となる[18]。がん遺伝子パネル検査は2023年5月時点で全国13か所の「がんゲノム医療中核拠点病院」,32か所の「がんゲノム医療拠点病院」,202か所の「がんゲノム医療連携病院」で実施可能であり,副甲状腺がんという希少がんに罹患した患者に何らかの治療選択肢を提案できる可能性があるという意味で積極的な利用を考慮すべきと考えられる。

おわりに

希少がん一般にいえることだが,副甲状腺がんのような『超希少がん』に対する最適な治療法の研究や開発には全国的なネットワークの構築と情報の集約が必須であり,それが実現できるような体制整備が進むことを期待したい。

【文 献】
 
© 2023 Japan Association of Endocrine Surgery

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