Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
Online ISSN : 2758-8785
Print ISSN : 2434-6535
Treatment results of intermediate-risk papillary thyroid cancer in Kuma Hospital
Naoyoshi OnodaAkihiro MiyaMinoru KiharaTakuya HigashiyamaHiroo MasuokaMakoto FujishimaShiori KawanoTakahiro SasakiAkihide MatsunagaMasashi YamamotoTomo IshisakaYasuhiro ItoAkira MiyauchiTakashi Akamizu
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 40 Issue 3 Pages 151-157

Details
抄録

隈病院では中リスク乳頭癌には全摘と中央領域郭清を,リンパ節転移陽性例には外側領域郭清を行い,サイログロブリン(Tg)値による動的経過観察を標準としている。2005~22年に手術した4,030例を用いて標準以外の術式(片葉切除465例,外側郭清省略2,132例)による予後,合併症の差を後方視的に検討した。5,10,15年の無再発生存率は96.5,93.5,90.8%,癌特異的生存率は99.8,99.6,99.6%と良好で,≧55歳,cN1b,腫瘍径>3cmが再発高危険因子,癌死例は全て≧55歳であった。標準以外の術式による予後悪化はなかった。片葉切除の53.0%に甲状腺ホルモンが投与され,永続性反回神経麻痺に術式による差はなく,永続性副甲状腺機能低下症は全摘のみに3.5%で認められた。予後不良因子を持つ例では,TSH抑制しつつ動的経過観察ができる全摘を行う相応の意義があると考えられた。

はじめに

甲状腺乳頭癌の初期治療となる手術術式は,超低・低リスク例(T1N0M0)には片葉切除(LT)が,高リスク例(T>4cm,EX2,sN-EX,径が3cmを超えるN1,M1のいずれかがある)には全摘(TT)を行い放射性ヨウ素(RAI)内用療法とTSH抑制療法による補助療法に備えることが推奨され,いずれにも該当しない中リスク例には予後因子や患者背景を考慮して切除範囲や郭清範囲を決定することが推奨されている[,]。

これまでわれわれは,中リスク例については高齢が予後規定因子であること[]や,3cm以上の腫瘍径が外側領域郭清(D2)の目安となること[]を示してきた。

隈病院では,中リスク乳頭癌に対する手術ではTTを標準術式としている。術前にリンパ節転移が明らかでない場合(cN0)には両側中央領域の郭清(D1),転移がある場合(cN1aあるいはcN1b)には患側のD2を追加し,前頸筋への浸潤がある癌(T3b)にも患側D2の追加を標準としている。実際は患者希望などによりLTが選択されたり,超音波ガイド下リンパ節穿刺吸引細胞診(FNA)で癌細胞や洗浄液サイログロブリン(Tg)の上昇が証明されなかった例でD1が選択されたりしている。本検討では,中リスク乳頭癌例についてLT,D1の選択による予後の悪化があるか,TTに伴う患者不利益がどの程度の頻度であるかについて検討し,妥当な術式の判断材料となる臨床的因子を探った。

対象と方法

対象患者

2005~22年6月に乳頭癌と診断され初回手術を行った15,041例のうち術前の腫瘍径,cT,cN,予後情報が明らかな症例を対象とし,甲状腺癌取扱い規約(第8版)[]により分類した。術前・術中所見により低および高リスク例を除外,病理診断で乳頭癌以外の組織型を示す癌が併存する例を除外して中リスク4,030例を抽出し,後方視的に転帰を検討した(IRB承認20200709-1)。

経過観察法

術後1,3,6カ月後に視触診と血液検査を行い,必要な場合甲状腺ホルモンの補充を行うが,RAI内用による補助療法は行っていない。1年毎に頸部超音波検査と必要時のCTなどによる転移病巣の検索を行い,再発が認められた場合,頸部リンパ節は手術的に治療することを標準とし,遠隔転移にはRAI内用療法を行っている。

統 計

統計解析はEZRを用いた。2群間の比較にはFisher’s exact testの両側検定を用い,無再発・生存期間の解析はKaplan-Meier法を用いてLog-lank testで比較した。予後に影響する因子の解析にはCox比例ハザードモデルを使用した。p<0.05を以て統計学的に有意と判定した。

結 果

中リスク乳頭癌例の詳細を表1に示す。LTが465例(11.5%)に,TTが3,565例(88.5%)に行われ,LTは55歳以上の高齢者,cT3b,cN0,cN1a,D1例で有意に高頻度に選択されていた(表2)。D1は2,132例(52.9%),D2は1,898例(47.1%)に行われ,D1は,女性,cT3b,cN0,N1a,cStage I,LT例に有意に多数が選択されていた(表3)。LTの246例(53.0%)とTTの全例に術後甲状腺ホルモン剤が投与されていた。術後の永続性反回神経麻痺はLT,TTの1.3%,2.4%(p=0.180),永続性副甲状腺機能低下症は0%,3.5%(p<0.001)に認められた。

表1.

検討対象となった中リスク甲状腺乳頭癌

表2.

甲状腺切除術式別の臨床的背景

表3.

郭清範囲別の臨床的背景

経過観察期間0~205(中央値83.7)カ月で,191例(4.7%)に再発が認められた(表4)。154例(3.8%)は頸部リンパ節などの局所再発,56例(1.4%)は遠隔再発で,18例(0.4%)は両者を伴っていた。5,10,15年の無再発生存率は,96.5%,93.5%,90.8%。単変量解析では高齢,cN1b,D2で有意に再発が高頻度であったが,多変量解析では高齢とN1bが有意な再発予後不良因子であった(表5)。LTとTTの間の再発頻度に有意差はなかったが(図1a),D2ではD1と比較して有意(p<0.01)に再発頻度が高かった(図1b)。局所再発は,cN1b,D2例で有意に高頻度であった。遠隔再発には,高齢,cN1b,D2と31mm以上の腫瘍径が有意に関与していた。

表4.

再発・生命予後の状況

表5.

全再発予後規定因子

図1.

LTとTTの間の再発頻度に有意差はなかったが(a),D2ではD1と比較して有意(p<0.01)に再発頻度が高かった(b)。

81例(2.0%)が死亡していた。現病死は10例(0.2%),他病死が60例(1.5%),11例は死因不明であった。原病死例の9例に局所病変,4例に遠隔病変(重複3例)を伴っていた(表4)。術後5,10,15年の全生存率は,99.1%,97.2%,93.8%,癌特異的生存率は,99.8%,99.6%,99.6%であった。単変量,多変量解析ともに全生存は,高齢,男性,31mm以上の腫瘍径で有意に不良であった(表6)。疾患特異的死亡は高齢かつTTを行った例でのみ認められ,他に有意に影響する因子は認められなかった(表7)。全生存,疾患特異的生存とも術式の違いによる有意な差は認められなかった(図2)。

表6.

全生命予後規定因子

表7.

疾患特異的生命予後規定因子

図2.

全生存(a,b),疾患特異的生存(c,d)とも術式の違いによる有意な差は認められなかった。

考 察

中リスク乳頭癌例術後10年の無再発生存率,全生存率,疾患特異的生存率は,93.5%,97.2%,99.6%と良好であった。主な死因は他病死で,疾患特異的生命予後の規定因子は55歳以上の高齢のみと考えられた[]。局所再発(3.8%),遠隔再発(1.4%)は低頻度であった。現病死は0.2%とさらに稀であり,再発が直接に癌死に繋がる頻度は低かった。今回は再発後の経過や治療状況の検討を行っていないが,中リスク例では再発後も進行が緩徐であったり,治療が奏効したりしている可能性が示唆された。

われわれは,術後のTg値の経時的評価による厳密な経過観察を目的に中リスク乳頭癌には原則TTを施行することとしているが,患者が希望する場合やcN1bが証明されない場合にはLTを許容している。その結果,cN1bが証明されない例を中心に12%程度にLTが適応されていたが,TT例と比較して再発・生命予後の悪化は認められなかった。LT例の約半数では術後の甲状腺ホルモン剤の内服が不要で,反回神経麻痺や副甲状腺機能低下が認められる頻度もTTと比較して低いことから,中リスク例であっても再発低危険と判定可能な例ではLTの適応を許容できると考えられた。一方で,1)55歳以上の高齢,2)cN1b,3)3cm以上の長径を持つ腫瘍といった再発高危険因子を持つ中リスク例では,術後のRAI療法の追加を念頭にTTを行い,TSHを抑制しつつ血清Tg値を用いた動的経過観察[]を継続して,再発を早期に診断することに相応の意義があると考えられた。

現在隈病院では,cN1bの診断には超音波ガイド下のリンパ節FNAと穿刺針洗浄液Tg測定を行っている[]。リンパ節FNAと洗浄液Tg結果を以て外側領域リンパ節転移陰性と診断された例でのD1郭清は,再発や生命予後の悪化にはつながっておらず,cN1aでは予防的といえるD2郭清は必要ないと考えられ,転移の疑いのある外側領域リンパ節のFNAによる術前検査は術式選択の判断に極めて有用と考えられた。

本検討のLimitationには,1)後ろ向き研究で症例毎の術式選択バイアスの存在すること,2)規約の変更・記録欠落による多数の脱落症例があること,3)術後のTSH抑制状態に症例ごとの差があること,4)再発後の治療法が検討されていないこと,5)患者視点の評価が行われていないこと,が挙げられるが,多数の中リスク乳頭癌例による長期予後を示した本検討は今後の治療方針立案に資すると考える。

おわりに

中リスク甲状腺乳頭癌の予後を後方視的に検討した。術前・術中に中リスクと判定された通常型の甲状腺乳頭癌の再発・生命予後は極めて良好であった。55歳以上の高齢,cN1b,3cm以上の長径を持つ腫瘍などの再発高危険因子を持つ中リスク例では,TSHを抑制しつつTg値で経過観察できるTTを行う意義があると考えられた。

謝 辞

本検討のデータの元となった治療を行ってきた隈病院に在籍された外科医の先生方,データ収集支援をいただいた大塚いづみさんに感謝いたします。

本論文の要旨は,第123回日本外科学会定期学術集会(東京都)において発表した。

【文 献】
 
© 2023 Japan Association of Endocrine Surgery

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top