Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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Print ISSN : 2434-6535
Indications for the surgical management of benign thyroid nodules
Mami SatoNoriaki NakashimaRyoyu NiikuniTeruhisa UdagawaYoshiya HagiwaraMiyako TanakaMiku SatoYoshio TakahashiKeisei FujimoriTakanori Ishida
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2023 Volume 40 Issue 4 Pages 212-218

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抄録

甲状腺良性結節を診療する頻度は高いが,2018年のガイドラインには治療指針の記載がなく,その手術適応は各施設に任されている。そこで,術前FNAで非悪性と診断され,当院で手術を行った118例を対象に,診療録より後方視的に手術適応について検討した。2010年のガイドラインの良性腫瘍手術適応9項目に,気道狭窄を加えた10項目を,3要因(機能的・質的・物理的)に分けて検討した。機能的要因としては,RAIやPEITを希望しない機能性結節は手術でよいと思われる。質的要因としては,超音波で悪性を否定できない所見がありかつFNAで良性以外の結節は悪性の割合が高く,手術適応としてよいと思われる。物理的要因としては,腫瘍径が大きく物理的要因の該当項目数が多い症例や,気道狭窄をきたしている症例は手術適応でよいと思われる。良性結節における手術適応は,複数の要因を加味した上で,手術のリスクとメリットを天秤にかけ,十分なICのもと手術か経過観察かを総合的に判断していく必要がある。

はじめに

甲状腺良性結節は,画像診断機器の進歩に伴い,偶発的に発見される機会が増加している。癌は,リスク分類に応じてガイドラインに治療方針が提示されている[]。一方,良性結節は,2010年の甲状腺腫瘍診療ガイドライン[]に手術適応の9項目が記載された以降,2018年のガイドラインには治療指針の記載がなくなった[]。そのため,良性結節に対して手術を行うかどうかの判断は,各施設に任されているのが現状である。そこで今回,術前良性結節が推定され,当院で手術を施行した症例をまとめ,良性結節に対する手術適応について検討した。

対象と方法

2013年1月から2022年12月までに当院で手術を施行した958例のうち,術前のFNA(fine needle aspiration cytology)で非悪性(良性・濾胞性腫瘍・意義不明・検体不適)と診断され,手術を行った118例を対象とし,診療録より後方視的検討を行った。検討項目は,2010年の甲状腺腫瘍診療ガイドラインにおける良性腫瘍手術適応の9項目[]に,気道狭窄を加えた10項目とした。この10項目を,機能的,質的,物理的の3要因に分けて検討した(図1-1)。10項目中,「増大傾向」,「縦隔進展」の2項目は,質的および物理的の両要因に当てはまる項目とした。

図1-1.

良性結節手術適応10項目を3要因に分類

甲状腺良性結節の手術適応10項目を,機能的要因,質的要因,物理的要因の3要因に分類し検討した。

結 果

全118例の年齢の中央値は53歳(11~88歳)。男性20例,女性98例。腫瘍径の中央値は60mm(17~126mm)。手術適応10項目の該当症例数は,大きな腫瘤が99例,圧迫感などの自覚症状が83例,増大傾向が68例,縦隔進展が49例,整容性が45例,超音波で癌が否定できないが32例,FNAで癌が否定できないが22例,気道狭窄が21例,Tg(thyroglobulin)異常高値が19例,機能性結節が9例(図1-2)。FNAは,良性が95例,濾胞性腫瘍が7例,意義不明が15例,検体不適が1例(表1-1)。病理結果は,良性が96例,濾胞腺腫が8例,その他が2例,良性+微小乳頭癌が4例,濾胞癌が5例,乳頭癌が2例,低分化癌が1例(表1-1)。

図1-2.

良性結節手術適応10項目の該当症例数

全118症例の10項目の該当症例数の一覧。

表1-1.

FNAと病理結果

術前FNAで濾胞性腫瘍,意義不明における癌の割合は高い。

①機能的要因

機能的要因には,「機能性結節」が該当(図1-1)し,9例あった。全例女性。年齢の中央値は47歳(19~66歳)。治療前の甲状腺機能は,潜在性機能亢進:顕性機能亢進が,それぞれ4例:5例。潜在性機能亢進症例はいずれもTSH<0.1μIU/mlが持続していた。腫瘍径の中央値は36.9mm(16.7~64.8mm)。手術術式は片葉切除:全摘が,それぞれ7例(うちVANS法4例):2例。FNAは全例良性で,病理結果も全例良性の診断であった。

②質的要因

質的要因には,「超音波で癌が否定できない」,「FNAで癌が否定できない」,「Tgの異常高値(≧1000ng/ml)」,「増大傾向」,「縦隔進展」が該当する(図1-1)。

「超音波で癌が否定できない」:甲状腺結節超音波診断基準の悪性所見の項目に1つでも該当するものを悪性所見ありとした(表1-2)[]。超音波で悪性所見なしは85例あり,病理で偶発微小癌を除くと,悪性は1例,割合は1.2%であった。超音波で悪性所見ありは33例あり,悪性は7例,割合は21.2%であった。

表1-2.

超音波悪性所見の有無と病理結果

甲状腺結節超音波診断基準の悪性所見の項目に1つでも該当するものを悪性所見ありとした。超音波で悪性所見があり,病理で悪性であった症例は21.2%。超音波で悪性所見なしの1.2%と比較して有意に高値。

「FNAで癌が否定できない」:偶発微小癌を除くと,FNAで良性の95例中,病理で悪性症例は2例,2.1%であった。FNAで濾胞性腫瘍の7例中,悪性は2例,28.6%であった。FNAで意義不明の15例中,悪性は4例,26.7%であった(表1-1)。

「血清Tgが異常高値(≧1000ng/ml)」:TgAbのカットオフ値は28 IU/mlとした。TgAb陰性で,血清Tg≧1000ng/mlの症例の中に悪性は認めなかった。TgAb陽性例を加えても悪性は認めなかった(表1-3)。

表1-3.

Tg値・TgAb値別の病理結果

TgAbのカットオフ値は28 IU/mlとした。TgAb陰性かつTg≧1000ng/mlの例で悪性はおらず,TgAb陽性例を加えても,悪性例は認めなかった。

「縦隔への進展」:CTにて胸骨頚切痕より尾側に腫瘤が進展しているものを縦隔進展ありとした。縦隔進展ありが49例,なしが69例。縦隔進展ありの症例で,結節の縦隔部分に1例乳頭癌を認めた。

「増大傾向」:増大傾向ありが68例,なしが50例であり,癌の割合はそれぞれ4.4%,10%であった。増大傾向のある症例で,悪性は3例あり,全てが濾胞癌であった。

「超音波で癌が否定できない」および「FNAで癌が否定できない」:質的要因で,この2項目ともに該当する症例は,13例中5例が悪性であり,癌の割合が46.2%であった(表1-4)。一方で,両項目とも該当しない76例は,偶発微小癌を除くと悪性は1例も認めなかった。

表1-4.

「超音波で癌が否定できない」および「FNAで癌が否定できない」の該当数別の病理結果

「超音波で悪性所見があり」かつ「FNAで良性以外」という2項目とも該当する症例は悪性率が有意に高い。一方で,両項目とも該当しない症例は,悪性の可能性は極めて低い。

③物理的要因

物理的要因には,「大きな腫瘤(≧4cm)」,「圧迫感などの自覚症状」,「整容性」,「気道狭窄」,「縦隔進展」「増大傾向」の6項目が該当する(図1-1)。

「大きな腫瘤(≧4cm)」:腫瘤径4cm以上が99例,4cm未満が19例。腫瘍径の中央値は60mm(17~126mm)。腫瘍径別に,物理的要因6項目の該当数を検討すると,腫瘍径が大きいほど,物理的要因の該当項目数が増加した(図2-1)。

図2-1.

腫瘍径別 物理的要因6項目の該当数

4cm未満では,物理的要因に該当する項目数は0から1・2項目のみがほとんどを占めている。6cmを超えると,該当する項目数が増加し,物理的要因のほとんどに該当するようになる。

「圧迫感などの自覚症状」:自覚症状は,頸部腫瘤の自覚が46例,圧迫感が23例,嚥下時違和感・嚥下困難感が16例,息苦しさが13例,機能亢進症状が4例,声の異常が2例,症状なしが30例。

「整容性」:整容性に該当する症例は45例で平均腫瘍径が68.9mm,該当しない症例は73例で,腫瘍径49.4mm。

「気道狭窄」「縦隔進展」:成人の気管直径は男性で18mm,女性で15mm程度とされており,本検討では気管最狭窄部の短経が9mm以下を気道狭窄ありと定義した。気道狭窄ありが21例,なしが97例。気道狭窄ある症例は,男性4例,女性17例。狭窄部短経の中央値は7mm(5~9mm)。腫瘍径は中央値80mm(50~126mm)。麻酔科が通常挿管困難と判断し,ECMO(extra-corporeal membrane oxygenation)確立後に気道確保した症例が1例あった。気道狭窄をきたしていた21例中,縦隔進展がある症例は16例,76.2%であった。また,縦隔進展がある49例で気道狭窄をきたしていた割合は32.7%,縦隔進展がない69例では7.2%と,有意に縦隔進展がある症例で気道狭窄が多かった(表2)。また,気道狭窄がある症例は,他の物理的要因も複数該当していた(図2-2)。

表2.

「気道狭窄」と「縦隔進展」の関連

気道狭窄の割合は,縦隔進展ありで有意に高い。

図2-2.

「気道狭窄」症例 10項目の該当一覧

気道狭窄がある症例(21症例)は他の物理的要因も複数該当している。

考 察

①機能的要因

機能性結節については,顕性機能亢進や,潜在性機能亢進でTSH<0.1μIU/mlが持続する症例では,心房細動や骨粗鬆症の発症リスクを勘案して,治療を考慮する事が推奨されている[]。特に,顕性機能亢進,心疾患や骨粗鬆症の既往,65歳以上,閉経後の場合は強く推奨されている[]。機能的要因以外の該当項目数は少なく,機能性結節ということが手術の理由であった。物理的な要因があればより手術の方向になるが,質的な要因を考えて手術になった割合は少なく,実際の病理でも悪性は認めなかった。結節そのものが悪性である頻度は,0.1~0.6%と報告されており[],一般的にも高くはない。Limitationとしては,RAI(radioactive iodine)やPEIT(percutaneous ethanol injection therapy),薬物治療や経過観察を希望された症例との比較はできていない事であるが,他の治療法を希望されず,機能亢進を認める症例に対しては手術適応でよいと考える。

②質的要因

本検討で,「超音波で癌が否定できない」に該当する症例の癌の割合は高く,該当しない症例は良性の可能性が高かった(表1-2)。Limitationとしては,悪性項目の該当数や項目毎の悪性率までは評価できておらず,TI-RADSの様なスコア化まではできていない[,]。一般的には,超音波悪性所見の該当数が多いほど悪性の割合が高くなる[]。また,FNAで濾胞性腫瘍や意義不明であった症例は癌の割合が高く,FNAで良性の場合は,ほとんどが良性であった(表1-1)。この結果は,ベセスダシステム診断カテゴリー別の悪性危険度とほぼ同様の結果であった[]。この質的要因の「超音波で癌が否定できない」,「FNAで癌が否定できない」という2項目ともに該当する症例は,悪性の割合が有意に高かった(表1-4)。Rosarioも同様に,ベセスダシステムⅢに分類された結節で,超音波でも悪性を否定できない症例は,悪性率が高いと報告している[10]。また,木原らは,FNAが濾胞性腫瘍で,超音波所見が悪性の場合,53%が悪性であったと報告している[11]。そのため,FNA,超音波両項目とも該当する症例は,手術の方向でよいと思う。一方で,両項目とも該当しない症例は,偶発微小癌を除くと悪性はおらず,質的要因を理由に手術を推奨する必要はない。

また,本検討では,Tg値は術前の良悪の判断に有用ではなかった(表1-3)。非常に高いTg値が悪性腫瘍を示唆するとの報告がある[12]が,多くの良性甲状腺疾患でも上昇することがあり,Tg値のみで結節の良悪を鑑別する事は難しく,Tgが高値という1項目のみで手術を推奨する事は不適当と思われた[11]。

縦隔甲状腺腫に関しては,報告者により癌の頻度は3.7~22.6%と差が見られている[1314]。超音波で頸部からは質的な評価ができず,悪性であった場合は縦隔内臓器や血管へ浸潤する可能性がある事は念頭に置かなければならない。

増大傾向については,増大の有無で,良悪に差は認めなかったが,増大傾向のある症例の中に濾胞癌を3例認めた。超音波やFNAで濾胞性腫瘍の可能性がある症例で,増大傾向がある場合は,濾胞癌の可能性を念頭に置き,手術を考慮する必要があるかもしれない。

③物理的要因

腫瘍径が4cmを超えていても,物理的要因の該当数が少ない症例では,物理的要因のみですぐ手術をする必要はないと思う。腫瘍径が大きくかつ物理的要因に複数該当する症例は,手術を検討でよいと思う(図2-1黒丸)。

自覚症状については,甲状腺結節の状態からは症状を起こし得ない症例でも,頸部症状を強く訴える症例を度々経験する。大事なのは,その自覚症状が甲状腺結節に由来するものか,精神的な要因や他の疾患由来かの鑑別である。手術をすることで,つっぱり感や頸部違和感等,新たな症状出現の可能性もあるため,術前に十分に説明する必要がある。

整容性については,腫瘤径が大きい症例ほど整容面での問題が出てくる。一方で,手術をすることで頸部腫瘤はなくなるものの,新たに手術創ができる問題もあり,その点を術前に説明する必要がある。また,比較的小さな腫瘤は,内視鏡手術等整容性を加味した術式がよいかもしれない。

気道狭窄については,気道狭窄がある症例は,それだけで手術適応としてよいと思う。運動誘発性呼吸困難は気管径が8mm未満で認められ,喘鳴は5mm未満の時に認められるとの報告があり[14],気道狭窄に伴う自覚症状がある症例や,狭窄音等他覚所見がある症例では,準緊急的に手術が必要となる。一方で,良性結節の場合は急速に腫瘤が大きくなることは稀で,囊胞内出血や上気道感染,外傷性出血などなければ,気道狭窄があっても自覚症状が乏しい症例も多い。通常CT撮影は,両上肢を挙上して行うが,両上肢を挙上すると,Pemberton徴候と同様の原理で,胸郭入口部に縦隔甲状腺腫が嵌まり込み,より気道が狭窄する[14]。気道狭窄が疑われる症例では,両上肢は挙上せずに,軽く頸部を進展させて撮影すると,気道狭窄の正確な程度が分かり,術前に通常挿管可能なのか,意識下挿管やECMO準備まで必要なのか,麻酔科の判断の一助になる。安全かつ過侵襲な気道確保方法にならないような工夫も必要である。また,縦隔甲状腺腫では,気管の圧排や偏位をきたす事が多く,気道狭窄をきたす割合も高かった。縦隔進展すると,頸部超音波からは増大の有無を正確に判断することが難しく,また質的な評価もできなくなる。縦隔甲状腺腫で気道が圧排狭窄し始めている症例や,増大傾向を認める症例では,手術を検討してもよいと思う。

おわりに

手術である以上合併症は皆無ではなく,手術適応や術式は,合理的な医学的理由が必要である。そのため,良性結節の手術適応は,複数の要因を検討した上で,手術のリスクとメリットを天秤にかけ,十分なICのもと,総合的に判断していく必要がある。

本検討は一施設での報告であり,症例数が少なく,また他施設に比較して腫瘍径が大きい症例が多く,大学病院というバイアスもかかっていると思われる。また誌面の関係で,今回は合併症については割愛している。それでも,今回の報告が,良性結節の日常診療に少しでもお役にたてれば幸いである。

 

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はありません。

本論文の要旨は,第35回日本内分泌外科学会総会(2023年松本市)にて発表しました。

【文 献】
 
© 2023 Japan Association of Endocrine Surgery

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