Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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Print ISSN : 2434-6535
Long-term outcome of thyroid nodules diagnosed as benign with fine needle aspiration cytology
Minoru KiharaAkira MiyauchiTakahiro SasakiMakoto FujishimaHiroo MasuokaTakuya HigashiyamaYasuhiro ItoNaoyoshi OnodaAkihiro MiyaTakashi Akamizu
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2023 Volume 40 Issue 4 Pages 231-235

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抄録

甲状腺結節の診断には,簡便で感度と特異性に優れた検査法である超音波検査と穿刺吸引細胞診が必須である。穿刺吸引細胞診で良性と診断された結節の多くは経過観察となるが,経過観察中に変化がみられないことも多く,増大するものは少ない。一方,残念ながら偽陰性例も存在するため,良性と診断された甲状腺結節を手術すると,術後に病理組織学的検査で悪性と判明することがある。良性結節で手術となるのは一部であるため,偽陰性の真の確率は不明であるが,悪性との鑑別には超音波検査所見が非常に参考になる。また,手術例のなかには悪性が数%程度含まれるものの,その悪性度は低く,予後は良好である。

はじめに

甲状腺結節は,良性・悪性を問わず比較的よくみられるもので,近年,健康診断(検診)の受診率向上や各種検査機器の導入・開発により,その発見率は高まっている[]。甲状腺結節の診断には超音波検査(US)と穿刺吸引細胞診(FNAC)が簡便かつ重要な検査法であるが,とくにFNACは最も感度と特異性に優れた検査法である。通常,FNACで甲状腺結節が良性と診断されれば,一部の手術適応例を除いて多くの場合は経過観察となる。しかし,残念ながらその感度と特異度が100%でないため,良性と診断された甲状腺結節を手術すると,術後に病理組織学的検査で悪性と判明することも,時々経験する。細胞診学的に良性と診断された甲状腺結節の対応について,当院の経験もあわせて解説する。

1.甲状腺結節の発見頻度

甲状腺結節の発生頻度が高いことはよく知られているが,その頻度は文献によっても,また時代や検査法によっても大きく異なるし,検査をおこなうきっかけによっても大きく違う。近年では人間ドックなどでの頸動脈エコー検査で発見される場合も多い。発見率は触診で0.78~5.3%であるが,頸部USでは6.9~31.6%となり,USをおこなうと触診よりも最大で数十倍の高頻度で発見される。このようにUSでは非触知腫瘤も検出できるため,甲状腺腫瘍の頻度は非常に多くなる。USで発見された甲状腺結節が悪性である頻度は2.6~8.3%とされる[]。

2.甲状腺結節の診断

甲状腺結節の診断法にはいくつかあるが,一般的には甲状腺結節の検出と良悪性診断には簡便で診断能が高いUSとFNACがおこなわれる。USは検者の技量に左右される短所があるものの,結節の検出に優れた侵襲の少ない検査法であり,そのエコーガイド下でのFNACでは直径数ミリ大の微小結節でも質的診断が可能である。そのFNACの感度は95~97%,特異度は47~51%とされる[]。この際,USとFNACの2つの検査結果に整合性があるかどうか常に注意しておくことが重要である。もし,整合性に疑問がある場合は再検査を考慮すべきである。

なお,当院では1995年より甲状腺結節のUS所見に基づくクラス分類[]を使用しているが,2015年に米国甲状腺学会(ATA)から公表されたUS診断基準[]は当院の基準と酷似している。

他の検査法に関して,FDG-PETやCT,MRI検査はUSやFNACの診断能よりも優れてはおらず,甲状腺結節の質的診断には用いることは推奨されていない[]。

3.甲状腺良性結節への対応

結節が真に良性であれば,周囲への浸潤や転移をおこすことはなく,死に至ることもない。したがって,FNACで良性と診断されれば,通常,手術は不要で,その多くは経過観察となる。しかし,良性であっても,サイズが大きく,強い圧迫症状を呈している(図1),縦隔内に進展している(図2)など,外科的切除をしたほうが望ましい場合がある。現在,良性結節の確立された手術基準はなく,その基準は施設ごとにより異なっている。表1に当院における甲状腺良性結節の手術適応基準を挙げたが,これらの条件のうち,ひとつが当てはまれば手術になるということは少なく,複数の条件が当てはまった場合に総合的に判断して手術を勧めることが多い。たとえば,腫瘍サイズ4cmは手術適応基準項目のひとつであるが,ほかの手術基準項目に該当するものがなければ,まずは経過観察を考慮する。十分なインフォームドコンセントのもとで,手術適応を決めるべきであり,患者側の単に手術を希望という理由だけで手術がおこなわれることはない。

図1.

頸部CT:大きな甲状腺結節が気管を高度に圧排している。自覚症状として強い圧迫感の訴えがあった。

図2.

頸部CT:甲状腺結節は縦隔内に進展している。

表1.

当院における甲状腺良性結節に対する手術基準

また,FNACの診断にも偽陰性は存在し,とくに組織学的に被膜や血管浸潤によって診断される濾胞癌は良性である濾胞腺腫と細胞像は非常に似ていることから,術前にFNACで濾胞癌を確実に診断することはできないし,良性結節は手術を施行されないことが多いので偽陰性の真の確率も不明である。

4.甲状腺良性結節のフォローアップ

米国甲状腺学会(ATA)のガイドライン[]によると,結節が細胞診で良性であれば,早急の診断検査や治療は不要であるとされ,さらにエコーガイド下FNACの偽陰性率が低いことを考慮し,USが細胞診で良性と診断された結節のフォローアップの鍵となり,悪性の見逃しを最小限に抑えることができると記載されている。細胞診で良性と判定された患者に対して,エコーパターンで非常に悪性が疑いにくい結節には24カ月を超える間隔で,低~中程度で悪性が疑われる結節には12~24カ月でUSモニタリングをおこない,悪性が強く疑われる結節には診断後12カ月以内にUSモニタリングとFNACを行うよう提案している。さらに,FNAC再検で,2度目の良性の結果が得られた場合,この結節に対するUSサーベイランスはもはや適応とならないことを推奨している。一方,FNACを繰り返しおこない,良性と診断された結節でも,サイズが大きい(4cm以上),圧迫症状や構造的症状がある,または臨床的懸念がある場合は手術を検討するとされている。

当院においても,FNACで良性と診断された甲状腺結節のうち手術の対象にならないものは経過観察となり,結果的には大部分の良性結節は経過観察となる。この場合,およそ1年毎に血液検査とUSを実施し経過観察する。経過をみていても,大きさや形がまったく変化しないことが多いが,5~10年以上経過してから増大や結節辺縁不整化などの変化がみられることも時々経験するので,初めの数年間経過観察して変化がなかったという理由でフォローを終了すべきではない。しかし,実臨床においては良性結節をフォローしていると,とくに変化がない場合は数年経つと患者側から来院が遠のくこともよく経験し,悪性症例と異なり,ドロップアウト例が多くなる。初回診察時に十分説明しフォローの重要性を理解していただくことが大切である。なお,経過中に充実部が著明に増大したり,結節の形が変わって悪性と疑わしい所見がみられれば,FNACの再施行や手術を検討する。

かつて良性結節の増大を抑制あるいは縮小させる目的で甲状腺ホルモン剤を投与してTSHを低下させるTSH抑制療法がおこなわれたこともあったが,効果があまりみられないこと,むしろ心機能や骨などへの健康障害の懸念があるため,最新の甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018年版[]では,「おこなわないことを推奨」しており,前述のATAガイドライン[]でもTSH抑制療法は推奨されていない。

5.甲状腺良性結節において悪性を疑う因子

遠隔転移をきたしていないかぎり,FNACで良性と診断された結節を術前に悪性と明確に鑑別する決定的な方法はない。いくつかの臨床的因子と悪性との関連を調べた報告がある。大きな腫瘍径(3~4cm以上)や血中サイログロブリン値が高値であれば悪性のリスクが高くなるという報告[,]はあるが,否定的な報告[]もありcontroversialである。最近のわれわれの報告[]でも,それらの因子と悪性との有意な関連はみられなかった。また一般的に甲状腺では悪性も良性も共に結節の増大(成長)速度は遅いことが知られているが,経過観察中の結節増大(成長)率も悪性との有意な関連はなかった[]。これらのことは,FNACで良性と診断された結節において,結節の大きさや増大率,サイログロブリン値が悪性の見落としを防ぐための手術適応基準にはならないことを示している。一方,US診断は悪性との有意な関連がみられており[],FNACで良性と診断された結節が悪性であることを予測するのに非常に有用であると思われる。したがって,FNACで診断された良性結節でもUS診断で悪性の可能性が疑われた場合は再度FNACを施行するか,手術も念頭に置く必要がある。

6.甲状腺良性結節の予後

当院のItoら[10]は,FNACで良性腫瘍と誤診された甲状腺乳頭癌は低悪性で非常に緩徐に増殖することを報告した。また,細胞診で良性の甲状腺結節2,010個を平均8.5年間追跡した患者1,369例を対象にしたNouら[11]の報告では,そのうちの一部の患者のみがFNACの再検査または甲状腺手術を受け,18例の偽陰性が確認された。研究期間中,コホート全体で30人の死亡が記録されたが,甲状腺癌に起因するものはなかった。Kakudoら[12]は,5年間の経過観察中に良性結節から致死的な悪性腫瘍に進行するリスクは非常に稀であるか無視できると報告している。なぜなら,FNACで良性と診断された後,1年から5年間の追跡調査で発見された26の悪性腫瘍(甲状腺乳頭癌 21例,甲状腺濾胞癌2例,悪性リンパ腫3例)はすべて,致死性の癌ではなく,早期または低リスクの癌だったからである。また現時点では甲状腺良性結節の経過観察の唯一の前向き研究であるDuranteら[13]の報告によれば,無症状で超音波検査または細胞診で良性の甲状腺結節を持つ患者992人の調査において,(i)結節の大部分は5年間のフォローアップ中に有意なサイズ増加を示さず,(ii)甲状腺癌は稀であった。このシリーズでは,「結節の増大」とは少なくとも20%以上の直径の増大と定義され,153人に結節の増大がみられ,その増大の最小値は2mmであった。184人の結節は自然に縮小し,甲状腺癌は5例(0.3%)のみだった。ほかにも経過観察中に大部分の良性結節は増大せず,悪性は少なかったという報告がある[14]。

当院で経験した径1cm以上の充実性のFNACで良性(2007年当時の細胞診分類でclass Ⅱ)結節3,102例)を16年後に後方視的に検討した結果を簡潔に述べる。早期(診断後1年未満)に手術施行となったのは393例,一旦経過観察となったが結節の増大やUS所見の変化,バセドウ病など甲状腺他疾患を合併などで遅期(診断後1年以上経過後)に手術となったのは158例であった。最終的に手術を施行したのは全体の17.8%,術後病理診断で悪性と診断されたのは手術例の2.9%であった。各種臨床的因子で悪性と有意な相関がみられたものはUS診断のみで,US診断では良性,良悪中間,悪性疑いと診断された手術症例の病理組織学的検査での悪性割合はそれぞれ0.7%,9%,50%であった(図3)。他方,結節最大径や結節体積doubling rate(TV-DR),血中サイログロブリン値等とは相関しなかった。濾胞性腫瘍では増大傾向がある場合は悪性の可能性は高くなるとの報告[]はあるが,細胞診良性の結節では増大がみられても悪性である可能性は低かった。経過観察後に手術となった158症例と10年以上経過観察中の非手術症例735例の検討では77%で結節最大径の変化はなく(TV-DR= -0.1~0.1),中度に増大(TV-DR>0.5)が4%,緩徐に増大(TV-DR= 0.1~0.5)が12%,縮小(TV-DR< -0.1)が7%であった(図4)。また偽陰性,すなわち術後病理診断で悪性と診断された16症例の病理組織診断の組織型の比率は濾胞癌75%,乳頭癌25%であった。また乳頭癌の4症例は全例でUS診断で悪性が疑われる粗大な石灰化を伴っていた。FNACの際にこの硬い石灰化が癌細胞をうまく採取されなかった一因と考察された。なお,これら悪性症例において現在までに原病死はおろか,再発をきたした例は皆無である。また,このシリーズでは甲状腺片葉切除術をおこなった症例の約30%が術後に甲状腺機能低下のため甲状腺ホルモン剤の服用を必要とした。

図3.

超音波検査所見別の病理組織学的悪性診断の率

図4.

経過観察後に手術となった症例と10年以上経過観察中の非手術症例の結節体積doubling rateの比率

以上のデータは,(1)最初の細胞診で良性と判定された場合,少数の悪性例を含むものの,全体として予後は良好であり,(2)経過観察は妥当であるという概念を支持するものである。

7.術後病理組織学的検査にて悪性と判明した場合

1)乳頭癌の場合

術後の対応としては通常の乳頭癌に準じる。しかし,術前に良性結節と診断されていた乳頭癌の性質は比較的おとなしく(悪性度は低く),増大したとしても非常に緩徐で,予後は極めて良好である[10]ことから,良性と診断された甲状腺結節のなかから,このような乳頭癌をできるだけ早期に手術をして見つけ出すことは必ずしも必須あるいは重要ではない。

2)濾胞癌の場合

細胞診で良性結節と診断されたが濾胞癌と判明した症例の多くは予後良好な微少浸潤型である。この型では遠隔転移は少なく片葉切除でも根治性が高いことから,ひとまずは経過観察でよい。しかし,広汎浸潤型でとくに血管浸潤が著明であれば再発しやすく予後も不良なので,二期的に補完全摘(残存甲状腺全摘)をおこなった後に,放射性ヨウ素内用療法をおこなっておく。

8.遺伝子診断について

われわれの経験でも細胞診で良性と診断された結節のなかで,術後病理診断で悪性と診断された場合の組織型は濾胞癌が75%ともっとも多いが,FNACのみで濾胞癌の診断することは無理があり,より正確に術前診断をおこなうためには遺伝子診断が有用とされている。現在,ATAガイドライン[]ではFNACで「濾胞性腫瘍/濾胞性腫瘍疑い」の判定では手術の代わりとして細胞診検体を遺伝子検索することを推奨しているが,「良性」の判定においては推奨されてはいない。コストが高いうえに,「良性」の場合は手術をしても悪性率が低いことが大きな理由と思われる。当然,本邦では保険適応外の検査であり,ルーチンに遺伝子診断を実施している施設は皆無と思われる。しかし,US診断で悪性が疑われる良性結節に対する遺伝子診断は無用な手術の減少に役立つ可能性があると思われる。

おわりに

FNACで良性と診断された結節の基本方針は経過観察であり,その経過観察中に増大するものも少ない。なんらかの理由にて手術を施行されたなかには悪性が数%程度含まれるものの,その悪性度は低く,しかもそれらの症例の予後は良好である。各施設の手術基準に照らして手術を検討するが,とくにUS所見は重要である。

【文 献】
 
© 2023 Japan Association of Endocrine Surgery

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