Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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2024 Volume 41 Issue 1 Pages 1-2

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本特集では,2023年10月に出版された日本内分泌外科学会・日本甲状腺病理学会編甲状腺癌取扱い規約第9版における病理・細胞診断の改訂のポイントについて,甲状腺病理委員会(菅間博委員長)の各委員にご執筆いただきました。第8版以来,4年ぶりの改訂で,甲状腺腫瘍WHO病理分類第5版(新WHO分類)の発行が契機となっています。新WHO分類では,甲状腺結節の病理組織学的分類に多くの重要な変更点が見られます。それに伴って,第8版規約(旧規約)には見られなかった組織型が第9版規約(新規約)には採用されています。第1は低リスク腫瘍(Low−risk neoplasms)で,良性腫瘍と悪性腫瘍の間に位置付けられ,この中に旧規約で採用の見送られた乳頭癌様核所見を伴う非浸潤性濾胞型腫瘍(NIFTP)や悪性度不明な腫瘍(UMP)が分類されています。さらに,このカテゴリーには,旧規約でその他の腫瘍として分類されていた硝子化索状腫瘍も包含されました。第2に悪性腫瘍の低分化癌と未分化癌の間に付記する形で高異型度分化癌(High−grade differentiated carcinoma)が追加されています。この組織型は新WHO分類で新たに採用された分化型高異型度癌(Differentiated high−grade carcinoma)に相当します。これは高異型度濾胞細胞由来非未分化癌(High-grade follicular cell-derived non-anaplastic thyroid carcinoma)の中に,低分化癌とともに包含され,通常の高分化癌よりも予後不良な非未分化癌として臨床的に注意が必要な組織型で,TERTプロモーター変異との関連が示唆されています。

他に新規約に取り入れられたものとして,乳頭癌や濾胞癌の特殊型であった好酸性細胞型が,膨大細胞癌(Oncocytic carcinoma)として独立し高分化癌の一つに分類されることになりました。膨大細胞癌が,乳頭癌や濾胞癌とは異なるドライバー遺伝子変異を示すための変更と考えられます。新WHO分類では好酸性細胞癌(Oxyphilic carcinoma)ではなく,膨大細胞癌という名称の使用が推奨されていて,新規約でもこれに準じています。同様に,旧規約の乳頭癌の特殊型の一つであった篩型乳頭癌は,新規約では篩状モルラ癌(Cribriform morular carcinoma)としてその他の腫瘍の中に位置付けられました。Wnt/β-cateninシグナル伝達系の活性化や家族性大腸腺腫症のAPC胚細胞変異がドライバー変異であり,免疫組織化学的な女性ホルモン受容体発現等との関連のある特殊なphenotypeを示す点が根拠となり,乳頭癌とは独立した亜型として認識されたことになります。

今回の改訂では,大分類が腫瘍様病変から始まり,良性腫瘍,低リスク腫瘍,悪性腫瘍といった悪性度順の並びとなり,悪性腫瘍の中分類では濾胞癌から乳頭癌,低分化癌,未分化癌という分化に応じた並びとなっています(旧分類では頻度の高い乳頭癌,濾胞癌の並び)。さらに,旧規約の特殊型Variantsは新規約では亜型Subtypesに変更されるなど,語句使用の整理もなされました。新規約の改訂のポイントは,新WHO分類に準じて,組織発生Histogenesisに基本を置き,低リスク腫瘍を採用するなど悪性度分類に新規性があり,分子遺伝学的プロフィールを加味した分類方針となっていることです。低リスク腫瘍,特にNIFTPの採用については多くの議論がなされました。日本と欧米との間に,乳頭癌様核所見の病理学的認識に相違のあることは明らかになっていて,そのため,欧米では甲状腺結節の過剰診断/過剰治療に対する抑制の方策が必要となります。本邦では欧米と比較しNIFTPの頻度は少なく,大部分は濾胞腺腫や腺腫様甲状腺腫といった良性結節として診断されていて問題は生じていません。従って,この組織型を導入する臨床的意義に疑問を呈する立場があり,旧規約での採用が見送られた経緯があります。一方で,新WHO分類での大きな分類方針の変更を考慮しながら,国際基準での甲状腺結節の組織分類として,欧米と肩を並べた比較検討を可能とするためにも,新規約の中に採用することとなりました。新規約の運用にあたっては,実臨床に混乱を招かないよう臨床医と病理医のコミュニケーションを図りながら,新組織分類を導入していく必要があると考えます。最後になりましたが,本特集の各稿を分担ご執筆いただいた病理委員の先生方に感謝申し上げます。

 
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