Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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Follicular carcinoma
Kaori Kameyama
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2024 Volume 41 Issue 1 Pages 14-17

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抄録

濾胞癌の定義には前の版と変更はない。すなわち濾胞細胞由来の腫瘍で,乳頭癌の核所見を欠き,さらに組織学的に被膜浸潤あるいは血管浸潤が認められることである。濾胞癌は浸潤様式により,微少浸潤性濾胞癌,被包化血管浸潤性濾胞癌,広汎浸潤性濾胞癌に分類される。今回の規約では,1)濾胞癌の増殖パターンを示し,さらに核分裂像が5個/2mm2以上確認できるもの,あるいは腫瘍壊死を認めるものを高異型度分化癌とした。2)これまで好酸性細胞型濾胞癌としていた腫瘍を膨大細胞癌という名称に変更した。3)濾胞癌で認められる遺伝子異常につき記載した。といった変更を行っている。

はじめに

濾胞癌についてはWHO第5版において第4版から診断基準や分類に大きな変更はないため,取扱い規約第9版でも大きな改定は行っていない。ここでは内分泌外科学の先生方に知っていただいていただきたい一般的な病理所見に加え,現在までに知られている遺伝子異常につき記載する。

濾胞癌の定義には前の版と変更はない。すなわち濾胞細胞由来の腫瘍で,乳頭癌の核所見を欠き,さらに組織学的に被膜浸潤(図1)あるいは血管浸潤(図2)が認められることである。被膜浸潤とは,腫瘍細胞が被膜を完全に貫通した所見である。血管浸潤とは,被膜内あるいは被膜外の血管において血管内に腫瘍細胞が認められ,かつ腫瘍に血管内皮あるいは血栓の付着が確認されるものを呼ぶ。被膜浸潤・血管浸潤の疑わしい腫瘍は低リスク腫瘍となるが,これについては本特集の別項目で紹介してある。

図1.

被膜浸潤

濾胞性腫瘍の特徴を示す腫瘍細胞が被膜を完全に貫通し,被膜外に浸潤している。完全な貫通を示さないものは被膜浸潤とはしない。

図2.

血管浸潤

被膜内の血管内に腫瘍細胞塊が侵入している。腫瘍塊の外側には内皮細胞が付着している。このように内皮細胞が付着しているか血栓の付着がみられる場合に限り血管浸潤と判断する。血管浸潤の判断は被膜内あるいは被膜外の血管で行う。

濾胞癌は以下に述べる3つの亜型に分類され,これらは予後に直結するため病理学的な分類は重要である。

まずは,われわれ病理医が濾胞性腫瘍(neoplasia)とする判断につき記載する。第一に乳頭癌の除外である。乳頭癌の核所見を欠いたもの,と文言にすれば簡単であるが,実際には乳頭癌とするかどうかの判断に迷う例は稀ではない。乳頭癌の核のはっきりわかるものから怪しいものまで,症例により多彩なことは病理医ならだれもが経験するところである。では,腫瘍の核の乳頭癌らしさをどう評価するか?これを解決するために核の形(腫大,重畳),核膜不整(核溝,核内細胞質封入体),クロマチン(すりガラス状,辺縁化)の各項目のあるものを各々1点とし,合計した点数で核スコア1,2,3に分類するシステムが登場した[]。WHO第4版に各スコアの写真が掲載されているので参照されたい。ちなみにこの核所見の評価にアジアと欧米との差があるため乳頭癌,NIFTP,濾胞腺腫などの国際的な病理診断の差が生じている。

濾胞癌の分類

1)微少浸潤性濾胞癌:肉眼的には境界明瞭で被膜を有する腫瘤であり,濾胞腺腫と鑑別はできない。顕微鏡学的に被膜浸潤を1か所でも確認することで微少浸潤癌の診断がなされる。1か所でも血管浸潤が認められた場合は微少浸潤癌とはしない。

2)被包化血管浸潤性濾胞癌:以前は微少浸潤性濾胞癌に含まれていたもので,前版より微少浸潤性から独立した亜型となった。すなわち,前版から第7版までの微少浸潤性濾胞癌は第8版からは1)と2)に細分化された。微少浸潤性濾胞癌と同様に肉眼的には境界明瞭で,濾胞腺腫とは区別がつかない。血管浸潤を1か所でも確認できた場合にこの亜型の診断となる。この際,被膜浸潤の有無は問わない。血管浸潤が4か所以上のものは3か所未満のものよりも予後が悪いとされているため,血管浸潤の数を記載しておくことは重要である。したがって,血管浸潤数が病理診断所に記載されていない場合は担当病理医に問い合わせる必要がある。なお,細胞診の針が腫瘍被膜に貫通していた部位が組織標本に描出された場合,あたかも血管浸潤と誤認するような所見を呈する場合がある。この場合は血管内皮を染色する免疫染色(CD34を行う施設も多いが,血管内皮特異性の問題からCD31あるいはERGを抗体として用いることが望ましい)を行うことで正しい診断に導くことができる。また,腫瘍細胞の血管内浸潤を評価する際にフィブリンを伴っていたほうが予後が悪いという報告もあり[],わが国での検討が待たれるところである。

3)広汎浸潤性濾胞癌:肉眼的に浸潤所見が顕著な腫瘍であり,組織学的には被膜が破壊により不明瞭なものがある。被膜浸潤とともに血管浸潤を生じるものも多い。1)や2)との鑑別は定義上主観的なものとなってしまうことが難点であるが,病理診断の統一見解を導き出すのは困難である。施設ごとに各亜型の予後を算出して術後の処置を決めていただく,というのが病理医としての見解である。

高悪性度分化癌

WHOの新分類では,乳頭癌や濾胞癌と並列にHigh-grade follicular cell-derived non-anaplastic thyroid carcinomaという腫瘍が新設され,この中に低分化癌と高異型度分化癌が含まれている。いずれも悪性度の高い特徴を示すが未分化癌の所見はみられないものである。これに伴い,取扱い規約でも高異型度分化癌という疾患概念が登場した。これは濾胞癌の増殖パターンを示し,さらに核分裂像が5個/2mm2以上確認できるもの,あるいは腫瘍壊死を認めるもの,と定義される。放射線ヨード治療抵抗性で予後が不良である。今後は濾胞癌の病理報告書に核分裂像の数や壊死に言及がない場合,病理医に問い合わせることが必要である。

膨大細胞癌

これまでは,腫瘍の75%以上が好酸性顆粒状の細胞質を有する細胞で構成されている場合,好酸性細胞型濾胞癌という名称で濾胞癌の亜型として分類されていた。新たなWHO分類では通常の濾胞性腫瘍とは異なり,好酸性細胞を主とした腫瘍ではミトコンドリアゲノムの異常が認められることから濾胞性腫瘍からOncocytic adenoma/carcinomaというカテゴリーを独立させた。取扱い規約もこれに同調し,癌は膨大細胞癌という名称とした。なお細胞診で本腫瘍を推定した場合は,従来どおり濾胞性腫瘍として報告することとする。

明細胞型濾胞癌

濾胞癌の亜型で,腫瘍の全体の半分以上が淡明な細胞質を有する細胞で構成されるものを呼ぶ。この淡明な細胞質はグリコーゲン,脂肪,サイログロブリン,ミトコンドリアの蓄積など様々な理由により生じるとされている。最も重要な鑑別は腎臓の明細胞癌の転移である。腎癌の既往がわかっていれば免疫染色を併用することも含め診断は困難ではないが,その既往がわかっていない場合あるいは病理への依頼書に記載されていない場合は濾胞癌の明細胞亜型と誤認する危険性がある。したがって腎癌の既往がある場合はぜひ依頼書に記載されたい。腎癌は術後10数年後においても遠隔転移を生じる代表的な腫瘍である。

ほかに印環細胞型濾胞癌という,核が偏在し細胞質空胞を有する細胞で構成される濾胞癌が知られているが,大変稀である。明細胞型濾胞癌と同様に,免疫染色でサイログロブリンないしPAX8が陽性となることで転移性の腫瘍と鑑別可能である。明細胞型濾胞癌,印環細胞型濾胞癌はその存在を知っていないと低分化癌と誤認する可能性があるため病理医としては注意が必要である。

遺伝子異常

濾胞癌では,RASの点突然変異が半数弱の症例に認められる。この中でもNRAS異常(特にコドン61)が最も多く,HRASKRASがこれに続く[]。ほかにPAX8::PPARG再構成も10~40%で認められるが,この再構成はRAS変異と合併することはない。その他の異常としては,CREB3L2::PPARG融合,EIF1AXPIK3CAPTENDICER1TERTプロモーターの変異が報告されている。細胞診で意義不明という判定がなされた場合,欧米では遺伝子診断が行われる。その際にNRAS以外にもEIF1AXなどのマイナーな変異が見つかった場合に手術が施行され濾胞癌が見つかった,という症例が最近見かけられる。

そのほか,PIK3CA変異とコピー数増加や不活性化PTEN変異[,],DICER1変異[,],TERTプロモーター変異(しばしばRAS変異と合併する)[]など,様々な異常が近年報告されている。

免疫組織化学:現在のところ,濾胞癌と濾胞腺腫を鑑別できる有用なマーカーは見つかっていない。Ki-67にしても濾胞癌のほうが有意に陽性率が高いということはない。両者の組織学的な類似性や腫瘍内の形態学的heterogeneityを考えてみても,今後,有用なマーカーが出現する可能性はかなり低いと思われる。現実的にはとくに予後の悪そうな広汎浸潤性濾胞癌を鑑別するマーカーは出てくるであろうが,それは画像診断や肉眼診断を補完する程度の有用性と予想する。

細胞診

濾胞癌の定義上,細胞診では濾胞癌と濾胞腺腫は区別できない。判定区分ではすべてが“濾胞性腫瘍”に包括されるため,病理医としてはもどかしい状態が続いている。われわれは伊藤病院方式として濾胞性腫瘍を疑う細胞診検体をfavor benign,borderline,favor malignantとして報告している。日本甲状腺学会のガイドラインではこの方式が採用されている[]が,甲状腺癌取扱い規約はベセスダ方式を踏襲しているため取り上げられていないのが現状である。

おわりに

現在の濾胞癌の病理診断につき記載した。取扱い規約第9版での記載に多少書き加えた形となっている。一口に濾胞癌と病理診断が下ってもその予後には差異が大きく,ここに記載した亜型で分類しても予想外な転帰をとる場合がある。今後も新たな組織学的パラメーターの発見に努めていきたい。

【文 献】
 
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