Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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Anaplastic carcinoma, squamous cell carcinoma, and medullary carcinoma
Yoshiaki Imamura
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2024 Volume 41 Issue 1 Pages 26-30

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抄録

甲状腺腫瘍の新しいWHO分類第5版が2022年秋にβ版としてインターネットで公開された。その改訂を踏まえ,2023年10月に甲状腺癌取扱い規約第9版が発刊された。本稿では未分化癌・扁平上皮癌および髄様癌における改訂のポイントを概説する。

はじめに

当初2023年に出版される予定であったWHO分類第5版は2024年1月時点ではまだβ版としてオンラインで公開されているのみである[]。この改訂に先駆けて甲状腺癌取扱い規約第9版が2023年10月に発刊された[]。本稿では甲状腺癌取扱い規約第9版の未分化癌・扁平上皮癌および髄様癌の変更点について解説する。

未分化癌と扁平上皮癌

WHO第4版[]では未分化癌と扁平上皮癌は異なる腫瘍型として分類されていた。甲状腺癌取扱い規約第8版[]においても同様の扱いとなっていた。

これに対し,WHO分類第5版では扁平上皮癌をsquamous cell carcinoma patternの未分化癌として取り扱っている。その理由として未分化癌では部分的にあるいはすべてが扁平上皮癌の特徴を示す(図1)ことや甲状腺原発の扁平上皮癌は通常の未分化癌とほぼ同様に極めて予後不良である[,]ことが挙げられている。また,扁平上皮癌成分を伴った未分化癌では分化型甲状腺癌を通常型未分化癌より高率に伴う(図1)[]こともその理由である。

図1.

70歳代,男性。乳頭癌と扁平上皮癌を含む未分化癌が混在していた70歳代,男性例のHE染色。A:乳頭癌の対物10倍 B:乳頭癌の対物40倍 C:扁平上皮癌の対物10倍 D:扁平上皮癌の対物40倍 E:肉腫様形態を示す未分化癌の対物10倍 F:肉腫様形態を示す未分化癌の対物40倍

WHO分類第5版における未分化癌の免疫染色の特徴に関する記載では濾胞細胞のマーカーであるサイログロブリンは通常陰性であるが,TTF1は少数例のみ陽性となり(図2)[],PAX8はほぼ半数例で陽性になるが,上皮様形態や分化癌を伴っていると陽性率が高いとされている(図3)[]。p53は未分化癌の半数以上の症例で陽性となり,Ki-67標識率は高値であるとされている(図3)[]。また,未分化癌の扁平上皮癌成分では扁平上皮系マーカーの高分子サイトケラチン(CK)・CK5/6・p63・p40が陽性になる(図4)と報告されている[]。さらに,扁平上皮癌を伴った未分化癌ではBRAF p.V600Eの変異が通常型未分化癌より高頻度である(図5)ことが知られている[]。

図2.

図1と同一症例の免疫染色対物20倍。A:乳頭癌のthyroglobulin B:乳頭癌のTTF1 C:扁平上皮癌のthyroglobulin D:扁平上皮癌のTTF1 E 未分化癌のthyroglobulin F:未分化癌のTTF1。乳頭癌はthyroglobulinとTTF1が陽性であるが,扁平上皮癌と未分化癌はいずれも陰性である。

図3.

図1と同一症例の免疫染色対物20倍。A:乳頭癌のPAX8 B:乳頭癌のKi-67 C:扁平上皮癌のPAX8 D:扁平上皮癌のKi-67 E:未分化癌のPAX8 F:未分化癌のKi-67。PAX8は乳頭癌で陽性,扁平上皮癌ではごく一部陽性,未分化癌では多くの細胞が陽性である。Ki67標識率は乳頭癌で1%以下,扁平上皮癌で約40%,未分化癌で約60%である。

図4.

図1と同一症例の免疫染色対物20倍。A:乳頭癌のCK5/6 B:乳頭癌のp40 C:扁平上皮癌のCK5/6 D:扁平上皮癌のp40 E:未分化癌のCK5/6 F:未分化癌のp40。乳頭癌ではどちらも陰性であるが,扁平上皮癌ではどちらも陽性である。未分化癌ではCK5/6のみごく一部陽性である。

図5.

80歳代女性の扁平上皮癌(A)と肉腫様変化を伴った未分化癌(C)。扁平上皮癌ではびまん性にBRAF v.600Eが免疫組織学的に陽性(B)であり,肉腫様部分でも一部陽性(D)である。いずれも対物20倍。

WHO分類第5版の未分化癌のetiologyの項目には分化型甲状腺癌である濾胞癌や乳頭癌でみられるRASBRAF遺伝子などの早期の遺伝子変異に加えて,TERTプロモーター・TP53などの付加的遺伝子異常がみられる[]ことが記載されている。

以上のWHO分類第5版におけるWHO分類第4版からの変更点などを踏まえて,甲状腺癌取扱い規約第9版では扁平上皮癌が未分化癌のsubtypeであることを明記した。また,遺伝子異常に関してはRASBRAFなど早期の遺伝子変異に加えて,TERTプロモーター・TP53PIK3CAPTENなどの後期の遺伝子変異がみられることを追記した。さらに,未分化癌の免疫染色結果については濾胞細胞のマーカーではサイログロブリンとTTF1は通常陰性であるが,PAX8が半数程度に陽性となることを説明文に加えた。

髄様癌

WHO分類第5版では家族性髄様癌では散発性髄様癌より若年者に発生し,多発する傾向にある(図6A)ことがclinical featuresの項目に新たに記載された[10]。また,濾胞細胞由来腫瘍に高異型度分化型甲状腺癌(Differentiated high-grade thyroid carcinoma:DHGTC)という新たなカテゴリー(甲状腺癌取扱い規約第9版では高異型度分化癌:High-grade differentiated carcinomaとして付記されている)が採用されたが,C細胞由来腫瘍である髄様癌にもhigh-grade腫瘍の考えが導入された。このことは髄様癌の臨床病理学的事項と予後に関する最近の研究から,増殖活性(核分裂像・Ki67標識率)と壊死によるリスク分類が可能であることが報告されたことによる[1112]。WHO分類第5版では1)核分裂像が5個/2mm2以上,2)Ki-67標識率が5%以上,3)腫瘍壊死あり,の3項目のうち1項目以上を満たせば高異型度髄様癌,いずれも満たさなければ低異型度髄様癌と評価することとされている(図67)[13]。したがって,正確な核分裂像の数とKi67標識率および腫瘍壊死の有無については病理診断報告書に記載することが必要であると明記されている。

図6.

MEN2A型の家族歴のある30歳代,女性の初発甲状腺腫瘍。左葉(L)と右葉(R)にそれぞれ20mm大の黄白色腫瘤がみられる(A)。HEでは豊富な顆粒状の細胞質を有する腫瘍細胞の胞巣状発育がみられるが,核分裂像や壊死はない(B:対物40倍)。免疫染色ではcalcitoninがびまん性に陽性である(C:対物20倍)が,Ki67標識率は1%以下である(D:対物40倍)。低異型度髄様癌の所見である。

図7.

図6と同一症例の1年後の再発腫瘍(A,B)と10年後の再発腫瘍(C,D)。いずれも対物40倍。1年後の再発腫瘍では核の大小不同がみられるが,壊死・分裂像は認めず(A),Ki67標識率は4.9%(B)であり,初回腫瘍同様低異型度髄様癌と判定される。一方,10年後の再発腫瘍は分裂像が散見され(C:矢印),Ki67標識率は12.5%となり,高異型度髄様癌相当する。尚,本症例は初発から11年後に死亡した。

以上述べた髄様癌のWHO分類第4版からWHO分類第5版への変更点などを採用し,甲状腺癌取扱い規約第9版では散発性髄様癌は通常単発であるが,遺伝性髄様癌ではしばしば多発するとの記載が追加された。また,増殖活性が高く(分裂像 5個/2mm2以上,Ki67 5%以上),腫瘍壊死がみられるものは予後が悪く,高異型度髄様癌と呼ばれることも追記された。さらに,高異型度髄様癌に相当する症例の組織写真が追加された。

おわりに

甲状腺癌取扱い規約第9版における未分化癌・扁平上皮癌・髄様癌の改定のポイントについて解説した。当該腫瘍においてはWHO分類第5版と甲状腺癌取扱い規約第9版ではほぼ整合性がとれているといえる。

【文 献】
 
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