Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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Revised points of cytology in the 9th edition of General Rules for the Description of Thyroid Cancer
Mitsuyoshi Hirokawa
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2024 Volume 41 Issue 1 Pages 36-38

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抄録

細胞診はベセスダシステム第3版にほぼ準拠して微修正された。「濾胞上皮細胞」は「濾胞細胞」に,「好酸性細胞型濾胞性腫瘍」は「膨大細胞腫瘍」に名称が変更された。小濾胞状集塊にて乳頭癌の核所見が軽度みられる場合は意義不明ではなく,濾胞性腫瘍として報告されることになった。硝子化索状腫瘍は意義不明に分類されることになった。ベセスダシステムとの相違点において,区分の名称と乳頭癌の核所見がみられる濾胞性病変判定に関する記載が削除された。今後の改訂にあたっては,世界基準であるベセスダシステムとの整合性を保ちつつも,本邦での特殊性や利便性を考慮した報告様式を構築することに留意し,悪性の危険度や臨床的対応を盛り込むべきであろう。

はじめに

組織学的分類がWHO第5版に沿って改訂されたように,細胞診は報告様式の世界基準であるベセスダシステム第3版[]にほぼ準拠して微修正された。本稿ではその改訂ポイントについて解説する。

判定区分

報告様式における判定区分は第6版[]で初めて提案され,検体不適正,正常あるいは良性,鑑別困難,悪性の疑い,悪性と区分された(表1)。第7版[]では正常あるいは良性が嚢胞液と良性に,鑑別困難が意義不明と濾胞性腫瘍に再分類され,その後の版[,]においては区分そのものには改訂はない(表1)。検体の適正・不適正の基準や精度管理に関する付帯事項においても改訂はない(表23)。

表1.

甲状腺癌取扱い規約における細胞診の判定区分

表2.

甲状腺細胞診における検体の適正・不適正の基準

表3.

甲状腺細胞診における診断精度に関する付帯事項

主な改訂ポイント

1 名称の変更

1)濾胞細胞:甲状腺ホルモンを産生・分泌する細胞の名称は,第8版[]では「濾胞上皮細胞」という用語が用いられていた。他にも甲状腺濾胞細胞,濾胞細胞,濾胞上皮などが成書で使われているが,第9版[]では,「濾胞細胞」を使用することとした。今後,この名称がスタンダードになることを願う。

2)膨大細胞腫瘍:好酸性細胞型濾胞腺腫/濾胞癌は濾胞腺腫/濾胞癌から独立し,膨大細胞腺腫/癌と名称が変更された[]。これに伴い,細胞診での推定診断名は膨大細胞腫瘍を使用することになった。判定区分は濾胞性腫瘍のままである。

2 乳頭癌様核所見を伴う非浸潤性濾胞型腫瘍(NIFTP)の導入による診断基準の変更

非浸潤性被包化濾胞型乳頭癌と診断されていた腫瘍の中で,核スコア2はNIFTPとして低リスク腫瘍に分類されることとなった[]。それを受けて,濾胞性腫瘍の判定基準が変更された。第8版[]までは,小濾胞状集塊で,乳頭癌の核所見がないものを濾胞性腫瘍としていた。第9版[]では,「乳頭癌の核所見が軽度みられる場合は,NIFTPの可能性を考慮して,濾胞性腫瘍に分類する」とした。このような症例は,以前は意義不明や悪性の疑いに区分されていた(図1)。NIFTPの採用により,理論的には,1)濾胞性腫瘍の頻度が高く,2)意義不明や悪性の疑いの頻度が低くなり,3)濾胞性腫瘍,意義不明,悪性の疑いにおける悪性の危険度が低下することとなる。しかし,実際にはNIFTPの多くは本邦では濾胞腺腫と診断されていたことから[],この変更に伴うインパクトは問題となるほど大きくはない[]。

図1.

NIFTPの細胞診。軽度の核形不整,核の溝,やや明るいクロマチンパターンがみられる。

3 硝子化索状腫瘍の取扱い

硝子化索状腫瘍は核内細胞質封入体がみられることから,細胞診ではしばしば乳頭癌と混同されたり,乳頭癌の可能性が否定できないと報告されたりしてきた。そのため,硝子化索状腫瘍は悪性の疑いに区分されていた[]。第9版[]では,硝子化索状腫瘍は低リスク腫瘍に分類されている。したがって,細胞診で正確に診断できるのであれば,より低いリスクのカテゴリーに分類すべきであるという考えで,意義不明に区分することにした。

取扱い規約とベセスダシステムの相違点

第8版[]では,ベセスダシステム第2版[]と異なる点として,1)区分の名称,2)泡沫細胞のみみられる囊胞液,3)乳頭癌の核所見がみられる濾胞性病変の判定区分について,4)悪性の危険度と推奨する臨床的対応の4項目が記載されていた。第9版[]ではベセスダシステム第3版との比較がなされ,1)と3)が削除された。

ベセスダシステム第2版[](表4)では,「意義不明な異型または意義不明な濾胞性病変」,「濾胞性腫瘍または濾胞性腫瘍の疑い」というように一つの診断カテゴリー内に二つの選択肢が用いられていたが,第3版[]では「意義不明な異型」,「濾胞性腫瘍」と一つの診断カテゴリーに一つの名称が当てられることになった。取扱い規約8版[]ではもともと一カテゴリー一名称であり,この説明は必要なくなった。乳頭癌の核所見がみられる濾胞性病変に関しては,第9版[]でNIFTPの疾患概念を採用したことを受けて,細胞診の判定基準もベセスダシステム第3版[]と同じにした。

表4.

甲状腺細胞診報告様式の比較

おわりに

甲状腺癌取扱い規約第9版[]の細胞診での改訂ポイントを解説した。組織学的分類がWHO第5版[]に沿って改訂されたように,細胞診はベセスダシステム第3版[]に準拠し,微修正が行われた。変更によるインパクトはほとんどないのが実情であろう。今後の改訂にあたっては,世界基準であるベセスダシステムとの整合性を保ちつつも,本邦での特殊性や利便性を考慮した報告様式を構築することが重要である。また,本来報告様式に盛り込まれるべき悪性の危険度や臨床的対応を明記することが今後の課題である。

【文 献】
 
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