Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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Cushing’s syndrome, Subclinical Cushing’s syndrome
Ryuta BabaHaruya Ohno
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2024 Volume 41 Issue 1 Pages 40-45

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抄録

ACTH非依存性Cushing症候群の多くは片側のコルチゾール産生副腎皮質腺腫(CPA)から過剰にコルチゾールが分泌されることによって生じる。CPAの病因は長い間不明のままだったが,最近の研究で,PRKACA遺伝子,GNAS遺伝子,CTNNB1遺伝子に変異を認めることが証明された。PRKACA遺伝子はLeu206,GNAS遺伝子はArg201,CTNNB1遺伝子はSer45に変異のhot spotがあり,PRKACA遺伝子変異,GNAS遺伝子変異はcAMP-PKAシグナル経路の活性化,CTNNB1遺伝子変異はWNT-βカテニン経路の活性化に関連している。副腎性Cushing症候群においてPRKACA変異は34~66%,GNA変異は5~17%,CTNNB1変異は4~22%程度に認められ,PRKACA変異CPAはそうでないものと比較し,コルチゾール分泌能が高く,腫瘍径が小さく,若年であると報告されている。さらに,PRKACA変異CPAではステロイド合成酵素の発現が増加しているなど解明が進んでいる。

はじめに

Cushing症候群は副腎からグルココルチコイド(コルチゾール)が慢性的に過剰分泌されることにより多彩な臨床症状を呈する疾患である。本症候群はACTH依存性とACTH非依存性とに分けられる。ACTH非依存性Cushing症候群の大部分は片側のコルチゾール産生副腎皮質腺腫(CPA)によるものである。コルチゾールの過剰により,Cushing徴候とよばれる中心性肥満,満月様顔貌,鎖骨上および肩甲骨上部の脂肪沈着(野牛肩),皮膚の菲薄化,皮膚溢血,腹部の径 1cm以上の赤色皮膚線条,近位筋の筋力低下などの特異的な所見を認める。易感染状態,凝固異常による血栓形成,低カリウム血症,高血糖,高血圧などをきたし,生命の危機となることもある[,]。一方,Subclinical Cushing症候群はコルチゾール自律分泌を認めるもののCushing症候群に認める身体徴候を欠く疾患と定義されている。

Cushing症候群の世界的な推定発症率は,全ての原因を考慮した場合,100万人当たり年間1.8~4.5例であり,推定有病率は100万人当たり57~79例と報告されている[]。男女比は1:4で,診断時の平均年齢は44歳であった。わが国では,厚生省特定疾患として副腎ホルモン産生異常症の研究が1975年にスタートしている。1997~1998年には名和田班によりCushing症候群(下垂体性および副腎性)に関する全国疫学調査が行われた。Cushing症候群の全国推定患者数(下垂体性を含む)は1,250例(95%信頼区間:1,100~1,400),男女比は1:3.9であった。当時の日本の人口は約1.26億人であったことから,100万人当たり約9.9例と計算できる。患者の平均年齢は男性45.9歳,女性46.4歳,疾患の内訳はCushing病35.8%,副腎腺腫47.1%,その他17.1%(副腎結節過形成5.8%,異所性ACTH産生腫瘍3.6%,副腎癌1.7%,下垂体癌0.2%,その他 病因不明5.8%)であった[]。さらに,2008~2010年に藤枝班で副腎性Subclinical Cushing症候群を含む全国疫学調査が行われ,全国患者推計数は1,829例(95%信頼区間:1,368~2,289),男女比1:2.2,平均年齢は男性62.2歳,女性61.7歳とCushing症候群に比べて高齢であった[]。また,最近の報告では副腎偶発腫での頻度は,副腎性Cushing症候群は約3%,副腎性Subclinical Cushing症候群は約12%であると報告されている[]。

副腎性Cushing症候群については,米国内分泌学会でガイドラインが作成されているが,わが国ではない。Subclinical Cushing症候群については,日本内分泌学会でガイドラインが作成されており,インターネットで閲覧できる[]。それぞれの診断アルゴリズムを図12に示す[,]。ACTH非依存性ではCPAによるものがほとんどであり,画像検査により副腎腫瘍を確認し,副腎摘出術により治療可能である。

図1.

Cushing症候群の診断アルゴリズム

まず,外因性グルココルチコイド治療による医原性Cushing症候群を除外するために詳細な問診を行う。次に,スクリーニングとして,24時間UFC高値(2回以上),1mg Dex抑制試験,夜間血清F濃度高値のうち2つ以上陽性でCushing症候群と診断される。病型診断のために血漿ACTH濃度を測定し,検出感度以下のときにはACTH非依存性(副腎性Cushing症候群),測定可能ならばACTH依存性と判定する。ACTH非依存性の場合は副腎CTスキャンを行い,片側副腎皮質腺腫,癌腫または両側副腎過形成の有無を確認する[]。

UFC:尿中遊離コルチゾール,Dex:デキサメタゾン,F:コルチゾール,CRH:副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン,ACTH:副腎皮質刺激ホルモン,c/p:血中ACTH濃度の中枢/末梢比

図2.

Subclinical Cushing症候群の診断アルゴリズム

Subclinical Cushing症候群は身体所見を伴わないことから,最初に疑うのは副腎腫瘍である。副腎腫瘍を認めた場合には1mg Dex試験を実施する。Dex 1mg内服翌朝のF値≧5.0µg/dLの場合はその時点で診断され,F値<1.8µg/dLの場合は診断を否定できる。1mg Dex抑制試験の結果,F値が1.8~5.0µg/dLの場合は,ACTH分泌抑制,日内リズム消失,副腎シンチグラフィの健常側抑制,血中DHEA-S低値の有無を確認し診断する[,]。

Dex:デキサメタゾン,F:コルチゾール,DST:デキサメタゾン抑制試験[数字は血中コルチゾール値(µg/dL)],ACTH:副腎皮質刺激ホルモン,DHEA-S:デヒドロエピアンドロステロンサルフェート

ACTH分泌抑制:血中ACTH<10pg/mLまたは副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)負荷に対する低反応(<1.5倍),日内リズム消失:21~24時間血中コルチゾール≧5µg/dL

CPAの病因は長い間不明のままだったが,最近の研究で,PRKACA(protein kinase A catalytic subunit α)遺伝子,GNASα subunit of the stimulatory G protein)遺伝子,CTNNB1(beta catenin)遺伝子に変異を認めることが証明された[11]。ほぼ排他的であり,CPA全体の50~85%を占める[101217]。PRKACA遺伝子,GNAS遺伝子はサイクリックAMP(cAMP)-プロテインキナーゼA(PKA)シグナル経路,CTNNB1はWNT-βカテニンシグナル経路に関連する遺伝子である[1118]。本稿ではCPAの原因となる遺伝子異常に関して概説する。

原因遺伝子とその機能

副腎皮質におけるコルチゾールの産生は,下垂体前葉から分泌されるACTHによって調節されている。ACTHが副腎皮質細胞のACTH受容体(MC2R)に結合すると,アデニル酸シクラーゼが活性化され,cAMPの細胞内濃度が上昇する。それに引き続いて,PKAの触媒サブユニットが制御サブユニットから遊離し,PKAが活性化することにより,コルチゾールの生合成が誘導される。

1)PRKACA遺伝子

PRKACA遺伝子はPKAの触媒サブユニットをコードする遺伝子である。PKAは2つの触媒サブユニットと2つの制御サブユニットから構成されている。触媒サブユニットは酵素活性部位をもち,活性化することで細胞の代謝の調節などに関与しているが,制御サブユニットが結合することによりその活性が抑制されている。一方,制御サブユニットにcAMPが結合すると,制御サブユニットの立体構造が変化し触媒サブユニットとの結合が解離する。制御サブユニットから遊離した触媒サブユニットは核へと移行して,標的蛋白質をリン酸化することにより,その生物学的機能が発現する[19]。PRKACA遺伝子に多く認められる変異部位のLeu206は制御サブユニットとの結合に重要な役割を果たしていると考えられる。Leu206がArgに置換することにより,触媒サブユニットと制御サブユニットとの間に立体障害が生じ,結合が阻害されることが予想される。すなわち,PRKACA遺伝子のLeu206がArgに置換すると,触媒サブユニットが常に遊離した状態となり,cAMPに非依存的なPKAの活性化が惹起されると考えられる(図3a)[1119]。また,Leu206以外にも,図4に示す変異が報告されており,いずれも触媒サブユニットと調節サブユニットとの結合に影響すると考えられている[1112152022]。

図3.

副腎性Cushing症候群 遺伝子変異モデル

a.ACTHが副腎皮質細胞の受容体に結合すると,GNASが活性化されアデニル酸シクラーゼによりcAMPが合成される。プロテインキナーゼA(PKA)の触媒サブユニット(PRKACA)が調節サブユニットから解離し,PKAが活性化する。副腎性Cushing症候群では,PRKACA遺伝子またはGNAS遺伝子の変異により,PKAの恒常的な活性化が引き起こされる。

b.細胞外のWNTリガンドがLRP5/6に結合すると,DVLを動員し,AXIN-GSK3β-CK1α複合体の動員が開始される。その結果,βカテニンの分解が抑制され,細胞質へ蓄積,核内へ移行し,TCF/LEF1転写因子が活性化される。副腎性Cushing症候群では,CTNNB1変異により,βカテニンがWNT非依存性に分解されず蓄積し,転写が活性化される。

LRP5/6:low-density-lipoprotein receptor-related protein 5/6,DVL:Dishevelled,GSK3β:glycogen synthase kinase 3β,CK1α:Casein kinase 1α,LEF/TCF:T cell-specific transcription factor/lymphoid enhancer-binding factor 1,APC:adenomatosis polyposis coli,b-cat:βカテニン

図4.

PRKACA変異部位

PRKACA変異はLeu206にhot spotを有する。

2)GNAS遺伝子

GNAS遺伝子はG蛋白共役受容体(GPCR)信号伝達経路のシグナルメディエーターであるGs蛋白質のαサブユニットをコードする遺伝子である。GPCRからの信号によりGsαはGTPと結合して活性化し,アデニル酸シクラーゼを活性化させる。その結果,cAMPを増加させ,PKAを活性化する。Gsαは内在性に加水分解能を有し,自ら結合したGTPをGDPに変換して不活性型となることで,過剰な活性化を抑制する[23]。GNAS変異はコドン201のミスセンス変異であるArg201HisあるいはArg201Cys変異をきたすものがほとんどを占める[10111521]。このArg201HisあるいはArg201Cys変異型Gsαは内在性加水分解能が低下し,自ら不活性型となれず,活性化状態が遷延する[24]。その結果,ACTHに非依存的なPKAの活性化が惹起されると考えられる(図3a)。Arg201His,Arg201Cys以外にも図5の変異が報告されている[1014152125]。

図5.

GNAS変異部位

GNAS変異はArg201にhot spotを有する。

3)CTNNB1遺伝子

CTNNB1遺伝子はWNTシグナル伝達経路の細胞内シグナル伝達因子であるβカテニンをコードする遺伝子である。WNTシグナルが存在しないと,βカテニンは分解複合体によってリン酸化される。リン酸化されたβカテニンはユビキチン結合酵素であるβ-TrCP(β-transducin repeat-containing protein)と結合し,ユビキチン化され,プロテアソームにより分解される。しかし,WNTシグナルが存在すると,βカテニン分解複合体が解体されるため,βカテニンは分解されず,細胞質内に蓄積し核に移行して機能する。CTNNB1遺伝子ではSer45に多くの変異が認められる[101521]。この部位は,βカテニンのβ-TrCP結合モチーフであることから,ユビキチン化,そしてβカテニンの分解を不可能にする。そのため,変異のあるβカテニンはWNTシグナルがなくとも蓄積し核へ移行し,継続的に標的遺伝子の転写を活性化する(図3b)[18]。CTNNB1遺伝子では図6の変異が報告されており,βカテニンの分解に関与すると考えられる[10131521]。

図6.

CTNNB1変異部位

CTNNB1変異はSer45にhot spotを有する。

疫学・臨床的特徴

CPAの遺伝子変異について,エクソームシークエンスやターゲットシークエンスによる解析が行われてきた。Cushing症候群において,最も多く認められるPRKACA変異は,欧米で34~44%に対して,東アジアでは51~66%と欧米と東アジアで発見される頻度に違いがあるが,GNAS変異やCTNNB1変異は明らかな地域差は認められておらず,GNAS変異は5~17%,CTNNB1変異は4~22%程度である[,17202226]。一方,Subclinical Cushing症候群の遺伝子変異は,PRKACA変異は0~20%程度,GNAS変異は0~24%程度,CTNNB1変異は8~57%とCTNNB1変異が多い[1012141522]。Cushing症候群,Subclinical Cushing症候群ともに共通して,GNAS変異とCTNNB1変異の合併例を数%認める[1417]。

CPAにおけるそれぞれの変異の特徴として,PRKACA変異のあるものはそうでないものと比較し,1mgデキサメタゾン抑制試験のコルチゾール値が高い,腫瘍径が小さい,若年であると報告されている[1011141520]。一方,CTNNB1変異では高齢で,腫瘍が大きい,右側に多いと報告されている[1421]。

分子生物学的特徴

PRKACA変異CPAでは,StARCYP11A1CYP17A1CYP21A2などのステロイド合成酵素の発現が増加することが報告され[,162728],WNTシグナル伝達経路が抑制されるとも報告がある[26]。また,免疫組織学的にはPRKACA変異CPAではPRKACA変異,GNAS変異,CTNNB1変異がないCPAと比較し,CYP17A1,3βHSD発現が有意に高いこと,PRKACA変異またはGNAS変異があるCPAはStAR発現が高いことが示されている[1727]。われわれは,CPAと非機能性副腎皮質腺腫(NFA)に対してRNAシークエンスとメチル化解析を行い,CYP17A1のmRNA発現とメチル化が逆相関していることを確かめた。そして,CPAではNFAと比較してCYP17A1が低メチル化していること,さらにPRKACA変異CPAではGNAS変異CPAと比較してCYP17A1が低メチル化していることを示した[29]。さらに,ヒト副腎皮質癌細胞株HAC15にPRKACA変異を導入した細胞を樹立し研究を行った。In vitroにおいても,StARCYP11A1HSD3B2CYP17A1CYP21A2などステロイド合成酵素の増加を認めた[16]。

おわりに

本稿ではCushing症候群,Subclinical Cushing症候群の遺伝子異常とその特徴に焦点をあて解説した。糖尿病や高血圧症などの原因となる疾患であり,副腎腫瘍を認めた場合には,スクリーニング検査を実施する必要があると考えられる。それぞれの疾患の特徴に合わせたマネージメントが重要である。

【文 献】
 
© 2024 Japan Association of Endocrine Surgery

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