2024 Volume 41 Issue 1 Pages 58-61
先天性副腎皮質過形成症は,副腎皮質に発現する酵素をコードする遺伝子の異常によって酵素が欠損することで,コルチゾールの分泌不全とフィードバックによる下垂体ACTHの過剰分泌がおきる疾患であり,5疾患が知られているが,そのほとんどを占めるのは21-水酸化酵素欠損症である。21水酸化酵素欠損症は新生児マススクリーニングの対象疾患であることから,一般的には新生児~乳児期に発見されうる疾患であるが,ときに軽症の病型において,男性化兆候や月経異常など小児期以降に診断されるケースもある。また,他の稀な病型で若年性の高血圧を特徴とするものもあり,幅広い年齢層で発見されうる疾患群である。本稿では,先天性副腎皮質過形成症について,病態や遺伝学的背景について概説した。
先天性副腎皮質過形成症は,副腎皮質に発現する酵素をコードする遺伝子の異常によって酵素が欠損することで,コルチゾールの分泌不全とフィードバックによる下垂体ACTHの過剰分泌がおきる疾患である。本稿では,疾患について,病態および診断と治療,遺伝学的背景について概説する。
副腎皮質はグルココルチコイド(糖質コルチコイド),ミネラルコルチコイド(鉱質コルチコイド),副腎性アンドロゲンといったステロイドを産生する内分泌臓器である。先天的(遺伝的)異常により,ステロイドホルモン産生に関与する酵素が欠損する疾患を先天性副腎酵素欠損症と総称する。ステロイドホルモンの産生には,5つのチトクローム酵素(P450酵素)と1つの脱水素酵素が関与することから,副腎皮質酵素欠損症としては6つの病気が存在する。先天性副腎酵素欠損症のうち,コルチゾールの分泌が障害されているためにフィードバック機構によって下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰に分泌されその結果副腎が過形成となるものを,先天性副腎過形成症としている。リポイド過形成症,21-水酸化酵素欠損症,11β-水酸化酵素欠損症,17α-水酸化酵素欠損症,3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症の5つの疾患が含まれる。実際は,ACTHの上昇が軽度であり過形成を伴わない症例も存在する。18-水酸化酵素欠損症はアルドステロンのみの分泌不全であるため,過剰なACTH分泌はきたさず,厳密には先天性副腎過形成症には含まれない。近年先天性副腎過形成症に加わったPOR欠損症は,マイクロゾームのP450酵素群に電子伝達を行う補酵素であるP450オキソレダクターゼ(POR)の異常によりP450酵素である21-水酸化酵素と17α-水酸化酵素の機能が障害され,コルチゾールが低下する疾患である。本疾患は以前より,頭蓋骨早期癒合症,顔面低形成,橈骨上腕骨癒合症といった骨の異常を伴うAntley-Bixler症候群として知られていた。本疾患における骨の異常は,コレステロールの合成に関与するP450酵素の異常による細胞内コレステロールの減少による。
先天性副腎過形成症の約90%を占めるのが21-水酸化酵素欠損症である。本邦での発症頻度は1.5~2万人に1名である。その他の先天性副腎過形成症については,リポイド過形成症は3~4%,3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症は1.3%,11β-水酸化酵素欠損症は前後,17a-水酸化酵素欠損症は0.9%,POR異常症の頻度は2.4%と報告されている。リポイド過形成症および17a-水酸化酵素欠損症は,欧米に比較して日本人に多い。全ての先天性副腎過形成症は常染色体潜性遺伝形式をとるため,発症頻度に男女差はない。
先天性副腎過形成症の遺伝学的背景は,責任酵素をコードする遺伝子の機能喪失型変異である。ただしリポイド過形成症は,ステロイド合成酵素のコレステロール側鎖を切断する酵素(P450scc)をコードする遺伝子異常でも発生するが,ほとんどはミトコンドリアのコレステロール輸送蛋白Steroidogenic acute regulatory protein(StAR)をコードする遺伝子異常により発症する。
もっとも頻度の高い21-水酸化酵素欠損症の原因遺伝子は21-水酸化酵素(P450c2)をコードするCYP21A2遺伝子である。CYP21A2遺伝子はその偽遺伝子であるCYP21A1遺伝子とともに第6染色体の短腕に存在する。CYP21A1遺伝子ではフレームシフトにより停止コドンが入るため,CYP21A1遺伝子からは活性のある酵素は発現せず,CYP21A2遺伝子のみが酵素活性のための情報を持って発現している。両遺伝子の塩基配列は遺伝子の隣接領域およびイントロンを含めて98%という極めて高いホモロジーをもっている。その結果,両遺伝子間において頻繁に遺伝子組換えがおきる。このためCYP21A2遺伝子にCYP21A1遺伝子からの欠損変異が挿入される頻度が増加し,本症の発生頻度が高くなる。遺伝子異常は,欠失,変換,点突然変異などが報告されている。遺伝子異常と疾患の重症度との相関が知られている(genotype phenotype correlation)(図1)[1]が,一致しないケースも存在する。
21水酸化酵素欠損症における遺伝子異常と疾患の重症度との相関
21-水酸化酵素欠損症は,生化学的解析にてほぼ正確に診断することが可能であることから,本疾患の診断に遺伝学的解析は必須ではない。さらに遺伝子異常のバリエーションが多く解析手技において高い熟練度が必要とされることも留意すべき点である。かずさ遺伝子検査室( https://www.kazusa.or.jp/genetest/test_insured.html)にて保険外検査として受託解析が可能である。
コルチゾールの分泌低下による下垂体ACTH過剰分泌は先天性副腎過形成症に共通する。さらにアルドステロン合成障害による塩喪失を呈する病型,逆にアルドステロン産生までの中間代謝物の蓄積により高血圧を伴う病型,副腎でのアンドロゲン過剰による女児の男性化(46,XX性分化異常),性腺での性ステロイド合成障害による男児の女性化(46,XY性分化異常)を合併する病型が存在する。文献2をもとに病型をまとめた(表1)[2]。
先天性副腎過形成症の分類(文献2を改変)
21-水酸化酵素欠損症は,酵素の残存活性の違いにより,もっとも重症である塩喪失型,46,XX女児における出生時の男性化兆候のみを認める単純男性型,成長後に女性での月経異常や多毛,46,XY男性における精巣由来副腎残存腫瘍や乏精子症を呈する非古典型の3つの病型が知られている。重症型(塩喪失型)では,出生後早期に症状が出現しうる。コルチゾールおよびアルドステロン分泌低下により,副腎不全症状(ショックなどの循環不全,低血糖,低ナトリウム血症,高カリウム血症)を呈する。ACTH高値による色素沈着(外陰部や腋窩に強い)が認められる。さらに過剰な副腎アンドロゲンにより,女児に男性化兆候が現れ,46,XX性分化異常症となる。
新生児マススクリーニングにおける17ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)高値は,まずは21-水酸化酵素欠損症を考える。本疾患の重症型である塩喪失型ではアルドステロン合成障害による低ナトリウム血症,高カリウム血症,ショックなどの循環不全,コルチゾール合成障害による低血糖をきたす。血漿ACTH,血漿レニン活性は高値となる。尿中プレグナントリオール(PT)は17-OHPの直接の尿中代謝物であるため,その上昇は本症の診断の一助となる。しかし一般正常児とのオーバーラップや早産児での増加が報告されており,新生児期では特異性が低い[3]。ガスクロマトグラフ質量分析−選択的イオンモニタリング法による尿ステロイドプロフィルによる尿中ステロイド代謝産物(尿中ステロイドプロファイル)測定にて,尿中プレグナントリオロン高値,アンドロステンジオンとプレグネノロンの尿中代謝物の比11β-ヒドロキシアンドロステロン/プレグネンジオール高値の確認が診断確定に有用であり,慶應義塾大学病院臨床検査科にて受託検査を行っていたが,現時点では受託を中止している。
マス・スクリーニングで17-OHP高値を示す先天性副腎過形成症は,21-水酸化酵素欠損症の他に,POR欠損症,3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症,11β-水酸化酵素欠損症がある。POR欠損症は頭蓋早期癒合症,特徴的容貌,上腕骨―橈骨癒合,関節の拘縮などの特徴的な症状を伴うことが多い。3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症と21-水酸化酵素欠損症との鑑別は,血清中の各種ステロイド代謝物の測定にて,Δ5/Δ4ステロイド比(プレグネノロン/プロゲステロン,17-OHプレグネノロン/17-OHP,DHEA/アンドロステンジオン)の上昇により診断可能である[4]。いくつかの検査項目は保険収載されていない。11β-水酸化酵素欠損症は高血圧を示すことが一つの特徴であるが,新生児に高血圧を認めない症例も存在する。血漿レニン濃度あるいは血漿レニン活性,血漿アルドステロンは低い値を示す。リポイド過形成症では,血漿ACTH,血漿レニン濃度あるいは血漿レニン活性は高値であり,尿ステロイドプロフィルにおいてステロイド代謝物の全般的低下,特に新生児期の胎児副腎皮質ホルモン値の異常低値が特徴的である。加えて治療開始前の画像検査による副腎皮質の腫大の同定も診断に有用である。
治療におけるもっとも重要な目標は,糖質コルチコイド,鉱質コルチコイドの適切な補充により副腎不全を防ぐことである。さらに副腎アンドロゲンの過剰が認められる疾患(21-水酸化酵素欠損症,11β-水酸化酵素欠損症)では,適切な糖質コルチコイド補充は過剰なACTH分泌をアンドロゲン上昇を抑え,男性化の進展を抑制する。21-水酸化酵素欠損症については,2021年に日本小児内分泌学会から出された診断・治療のガイドラインの推奨投与量を参考にする[4]。過剰なステロイド投与は医原性Cushing症候群や低身長を引き起こし,不十分なステロイド投与は過剰なアンドロゲンによる骨年齢促進と低身長,女性患者の男性化や月経不順,男性患者の思春期早発症を引き起こすため,きめ細やかに至適量を決定する必要がある。
副腎不全をきたしうる副腎皮質過形成症(21-水酸化酵素欠損症,3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症,リポイド過形成症)では,ストレス時の対応が重要である。維持量の2~3倍量の糖質コルチコイド(コートリル®)を投与する。下痢や嘔吐などで内服薬の摂取や吸収が困難になったときは,点滴にてヒドロコルチゾンを投与する。副腎不全を疑う症状(活気不良,脱水,血圧低下,悪心や嘔吐,頭痛,発熱,ショック,意識障害など)が認められた場合は,ヒドロコルチゾンのボーラス投与および,脱水の補正,電解質および低血糖の治療を行う。詳しくは「副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症の診断と治療に関する指針」を参照されたい[5]。性腺機能低下症をきたす症例については程度に応じて性ステロイドの補充を行う。外性器異常をきたす症例では適切な時期に外科的アプローチを行う。副腎不全への対応が適切に行われれば生命予後良好である。
先天性副腎過形成症は,小児科,産婦人科,泌尿器科,遺伝診療科などが一体となって小児期から成人期まで継続的な診療が必要な疾患である。心理的ケアも含めた多面的アプローチがなされることが望ましい。