Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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Treatment of advanced differentiated thyroid carcinoma ―Efficacy of local therapy for distant metastasis―
Sueyoshi Moritani
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2024 Volume 41 Issue 2 Pages 94-99

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抄録

「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2024」は教科書ではなく,診療に役立ち患者の益に寄与する実用的ガイドラインを目指し改定が行われた。「分化癌進行例の治療」の章では,局所進行癌の外科治療と遠隔転移に対する局所療法を取り上げた。遠隔転移に対する治療は,予後延長に加えQOL維持・改善を目的とする。RAI内用療法や薬物療法は全身療法として治療効果が期待できる一方,手術療法や放射線療法による局所療法は,QOLの維持・改善への貢献が期待できる。遠隔転移に対する局所療法に関して,1)単発または少数の骨転移や肺転移に対する局所療法(手術や放射線療法)は推奨されるか? 2)脊椎圧迫症状を呈する脊椎転移や病的骨折や切迫骨折のリスクのある四肢長管骨転移に対する手術療法は推奨されるか? 3)骨転移に対する骨修飾薬の使用は推奨されるか? 4)脳転移に対する局所療法は推奨されるか? の4つのCQを作成し,それぞれのCQに対する推奨を作成した。

はじめに

「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2024」は教科書ではなく,診療に役立ち患者の益に寄与する実用的ガイドラインを目指すことを基本方針として改定作業が開始された。「分化癌進行例の治療」は,局所進行癌の外科治療と切除不能再発・転移に対する治療に大別できる。局所進行癌の外科治療では,頻度の高い反回神経浸潤と,気管浸潤に対する切除・再建をCQに取り上げた。反回神経表層浸潤に対するシェービング,また神経合併切除時の即時再建は,2010年の初版から取り上げられ,実臨床でも浸透した印象がある。また頻度は低いが,拡大手術となりやすい喉頭や咽頭・食道,大血管浸潤や縦隔転移などに対する外科的切除はコラムで取り上げ,専門家チームとの連携などMultidisciplinary approachを強調した。

分化癌の遠隔転移は,肺転移(49%)に次いで骨転移(25%)の頻度が高い。また肺と骨の同時転移も15%程度あり,肺と骨は分化癌の遠隔転移の好発部位である。骨転移は血流の豊富な部位に好発し,脊椎(34.6%),次いで骨盤(25.5%),胸郭(18.3%),四肢骨(15.6%)と続く。甲状腺癌の骨転移は溶骨型パターンを示し,半数は単発性転移である[,]。組織型別では濾胞癌に多く(7~28%),乳頭癌では1.4~7%と報告されている[,]。遠隔転移の治療は,緊急治療(脊髄圧迫症状や麻痺,喀血など)を要しなければ,放射性ヨウ素(RAI)内用療法が第一選択である。RAI不応例に対しては,腫瘍の増大・増加など進行の程度に応じて薬物療法が開始される。SEERデータベースによる遠隔転移患1,991名を用いた予後の検討では,1992~1998年,1999~2008年,2009~2018年の3つの期間とも差がなく,10年疾患特異的生存率は50%であったと報告[]されているが,これら分子標的薬による予後改善が今後期待される。

遠隔転移治療の目的は,予後延長に加えQOL維持・改善である。RAI内用療法や薬物療法は遠隔転移に対する全身療法として治療効果が期待できる一方,手術療法や放射線療法による局所療法は,QOLの維持・改善への貢献が期待できる。2024年版では,遠隔転移に対する局所療法について,以下のCQを新たに取り上げた。取り上げたCQとともに治療アルゴリズムを示す(図1)。

図1.

遠隔転移部位別の治療方針

取り上げたCQ

1)単発または少数の骨転移や肺転移に対する局所療法(手術や放射線療法)は推奨されるか?

2)脊椎圧迫症状を呈する脊椎転移や病的骨折や切迫骨折のリスクのある四肢長管骨転移に対する手術療法は推奨されるか?

3)骨転移に対する骨修飾薬の使用は推奨されるか?

4)脳転移に対する局所療法は推奨されるか?

CQに対する推奨文と解説

CQ:1)単発または少数の骨転移や肺転移に対する局所療法(手術や放射線療法)は推奨されるか?に対して,「単発または少数の骨転移や肺転移に対する局所療法(手術や放射線療法)は,QOLの維持・改善への貢献が期待できる場合,行うことを提案する。」を推奨文とした。

エビデンスの確実性:C 推奨度:弱(一致率:再投票で9/9=100% 初回5/9=56%)

脊椎や四肢長管骨転移以外の骨転移でも,病巣が単発もしくは少数で切除可能な場合には,手術療法により予後やQOLの改善が期待できる場合がある[,]。また病的骨折や脊髄圧迫症状を伴わない骨転移の痛みは,外照射により緩和や消失が期待できる。骨転移に対する外照射の効果を報告したランダム化比較試験のメタアナリシスでは,外照射によりITT(intention to treat)解析で61~62%(評価可能例で72~75%)の症例で痛みが緩和され,23~24%(評価可能例で28~29%)の症例で痛みが消失したと報告されている[]。骨転移に対する全身療法に加え,疼痛緩和目的に放射線療法を行うことも推奨される。

転移性肺腫瘍切除に関する報告はすべて後ろ向き観察研究であった。転移性肺腫瘍に対する局所療法について,Society of Thoracic Surgeons Work Force of Evidence Based SurgeryによるExpert Consensusには,1)転移性肺腫瘍切除術は集学的チーム内で患者ごとに慎重に検討する必要がある。2)手術適応と判断された患者に対しては低侵襲手術が優先される。3)切除数の禁忌はないが切除個数は3個以下が妥当である。4)定位放射線療法は少数転移であるが切除術のリスクの高いと考えられる患者や,切除を拒否する患者に対して妥当な治療法である。と記載されている[]。

甲状腺分化癌の肺や骨転移の局所療法(手術や放射線療法)に関する報告は,すべて後ろ向き観察研究でのみで,単施設からの報告がほとんどである。RAI内用療法に加えての局所療法の上乗せ効果については,有効・無効の両方の報告[19]がある。

CQ:2)脊椎圧迫症状を呈する脊椎転移や病的骨折や切迫骨折のリスクのある四肢長管骨転移に対する手術療法は推奨されるか?に対して,「手術(脊椎固定術や人工骨頭・関節置換術など)を行うことを推奨する。」を推奨文とした。

エビデンスの確実性:C 推奨度:強(一致率:8/9=89%)

転移性骨腫瘍に伴う随伴症状のなかで,脊髄圧迫は早いものでは数時間で麻痺が完成するものもあり,治療のタイミングを逸すると不可逆的な脊髄麻痺が生じる。病態が多様であること,手術方法も多彩であることから,転移性脊椎腫瘍に対する手術療法の有効性を示すエビデンスレベルの高い報告は少ない。Patchellら[]は,神経症状のある転移性脊椎腫瘍症例を手術+放射線療法群(50例)と放射線療法単独群(51例)にランダム化割り付けを行い,歩行能力を比較した。放射線療法単独群の57%に対して,手術+放射線療法群では84%が歩行可能となり(オッズ比:6.2,95%CI 2.0s-19.8,p=0.001),歩行可能期間も122日(放射線療法単独群は13日,p=0.003)と長かったと報告している。脊髄圧迫症状のある脊椎転移に対して,放射線療法に手術を組み合わせることによる歩行能力の改善が示された。

四肢長管骨への転移も進行と共に,疼痛の増強,切迫骨折や病的骨折による患肢の機能不全に至るためQOLの改善を目的として手術的治療が行われる。Noohら[]による多施設共同前向き観察研究では,術前と比較して術後2週間の患肢機能と疼痛が改善し,術後6週,3カ月,6カ月,1年においても経時的な改善を認めたと報告している。術後早期からの患肢機能と疼痛の改善を認めたことより,病的骨折リスクのある四肢長管骨の骨転移に対する手術療法の有効性が示された。

甲状腺分化癌の脊椎転移の治療に関する報告は,すべて後ろ向き観察研究であった。脊椎転移を文献的に収集した202例の検討[]では,発見機序は脊髄圧迫症状が57%,腰痛が28%と神経症状を呈するものが多く,無症状のものは15%であった。治療法の記載のある183例のうち,手術療法は67%に,外照射は47.5%に,動脈塞栓術は39%に選択された。病態が多彩であること,また適応される治療も多種多様であるため,術式ごとの有効性を比較したエビデンスレベルの高い報告は少ない。Jiangら[20]は掻把や脊椎固定術でも痛みの緩和や全身状態の改善が期待でき,術式による再発や生命予後の違いはなかったと報告している。一方,Demuraら[21]やKatoら[22]は術式が再発や生命予後に影響し,脊椎転移を含む椎体の完全切除術が減量手術に比べて有効であったと報告している。また,Yinら[23]は頸椎転移に対する手術療法と非手術療法を比較し手術療法は予後の改善につながると報告しているが,手術療法が予後改善に寄与しなかったと,逆の立場をとる報告も多い[2425]。

CQ:3)骨転移に対する骨修飾薬の使用は推奨されるか? に対して,「骨関連事象のリスクを低減させることより,骨修飾薬による治療を行うことを推奨する。」を推奨文とした。

エビデンスの確実性:B 推奨度:強(一致率:8/9=89%)

骨転移の進行に伴う骨関連事象(SRE:疼痛,病的骨折,脊髄圧迫,高カルシウム血症や骨転移に対する手術療法や放射線治療)は,患者の日常活動度やQOLの低下,予後悪化に大きく影響する。このためSREを回避することは臨床的意義が大きい。分化癌245例を用いたSREに関する検討では,骨転移診断から最初のSRE発症までの期間は5カ月,そのうち65%が2回目のSREが生じ,初回SREから2回目のSRE発症までの期間の中央値は10.7カ月と報告されている。この初回から2回目SRE発症までの期間は,乳癌や前立腺癌のそれらと類似したという[26]。

分化癌に関する骨修飾薬の効果についてのランダム化比較試験はない[27]。肺癌とその他の固形がん骨転移症例を対象としたゾレドロン酸のプラセボに対するSREのリスク軽減に対する有用性を検証したランダム化比較試験において,ゾレドロン酸は主要評価項目であるSRE発症までの期間をプラセボと比較して有意に延長させ,副次評価項目である複数のSREの発症リスクを低下させた[28]。乳癌・前立腺癌以外の固形がん,多発性骨髄腫に対するデノスマブとゾレドロン酸のランダム化比較試験では,生存期間や病勢進行には差がなかったが,デノスマブ群はゾレドロン酸群と比較して,SRE発症に関して非劣性が証明された[29]。上記試験と他の比較試験などを統合したデノスマブとゾレドロン酸の有効性や有害事象などの比較では,デノスマブはゾレドロン酸と比較して,初回SRE発症までの期間を4.6カ月遅らせ(19カ月対14.4カ月, ハザード比0.83,95%CI 0.71-0.97,p=0.022),骨転移巣に対する放射線治療のリスクを22%低減(ハザード比0.78,95%CI 0.63-0.97,p=0.026)させた[30]。有害事象については概ね差がなかったが,低カルシウム血症と顎骨壊死の発生率はデノスマブで高く,腎毒性と急性期反応はゾレドロン酸に多いと報告されている[3133]。

CQ:4)脳転移に対する局所療法は推奨されるか? に対して,「脳転移に対する局所療法(手術,定位放射線照射,全脳照射)を行うことを推奨する。」を推奨文とした。

エビデンスの確実性:B 推奨度:強(一致率:8/9=89%)

分化癌の脳転移の頻度は0.15~1.5%と低く,脳転移患者の約6割は肺に同時転移があるとされる[3435]。治療の選択には,脳転移の状態のみならず原発巣や他の転移病変の有無や制御,患者の全身状態や年齢を考慮する必要がある。甲状腺癌の脳転移の治療に関する報告は,すべて後ろ向き研究で,単施設からの報告がほとんどで症例数も少ない。収集した14文献[3447]によると,1年,2年全生存率は,それぞれ28~68.2%,30.2~45.5%であった。治療は手術療法,定位放射線照射,全脳照射,化学療法,分子標的薬治療,RAI内用療法が施行され,とくに手術療法,定位放射線照射が選択されることが多い。これら治療を含むものが,含まないものと比べ生存期間が長いとの報告が多い。また近年,定位放射線照射が選択される頻度が高まっている。

甲状腺癌の脳転移治療に関する高レベルのエビデンスはないため,転移性脳腫瘍全般に準じた治療法の選択が推奨される。転移性脳腫瘍の主な治療は,手術療法,定位放射線照射,全脳照射である。予後予測の指標として用いられるRPA(Recursive partitioning analysis:KPS,年齢,原発巣の制御,脳転移以外の転移),GPA(Graded Prognostic Assessment:KPS,年齢,脳転移数,脳転移以外の転移)には KPSと年齢が含まれる[48]。転移部位や転移数,また転移の大きさに応じて,治療方針が異なる。4個以下の少数個の脳転移に対して,切除可能部位で直径3cm以上の転移は腫瘍摘出術を,直径3cm未満の病変には定位放射線照射もしくは手術療法が推奨される。また5個以上の多数個の脳転移に対して,全脳照射が推奨される。ただし合計体積が15ml以下の10個以下の病変には定位放射線照射を行い,注意深い経過観察とサルベージ治療を行うことも治療選択肢の一つである[4952]。

全脳照射は,多数個の脳転移に対する標準治療であるが,照射3~4カ月後の認知機能の低下が報告されている。また定位放射線照射や手術療法後に,全脳照射を加えることで,局所再発率や新規病変の出現率を低下させるが,生存期間の延長には寄与しないとの報告が多い[5357]。

おわりに

遠隔転移治療の目的は,予後延長に加えQOL維持・改善である。今回のガイドラインの改定では,全身療法である薬物療法とは別に局所療法に関するCQを取り上げた。遠隔転移に対する局所治療は,QOLの維持・改善への貢献が期待できる。治療の選択は患者の全身状態,転移に起因する症状,その他の再発・転移の有無に加え,治療チームの能力も考慮したうえで,患者ごとに決定することが重要である。

【文 献】
 
© 2024 Japan Association of Endocrine Surgery

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