Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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Topics on Breast Cytology - Management of breast cytology and breast tumor with neuroendocrine differentiation -
Koichi IkebataTomohiro Chiba
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2024 Volume 41 Issue 3 Pages 166-170

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抄録

乳腺細胞診を取り巻く環境は変化している。現在,主病変のFNAから副病変へのFNAへシフトしているが,乳腺診療において依然として重要な役割を果たしている。また,報告様式については,The IAC Yokohama Systemが提唱され,本邦での取扱い規約上の報告様式にはなかった悪性の危険度(ROM)が導入され,臨床所見・画像所見・細胞所見の一致を確認するトリプルテストが強調された。

最新のWHO分類では乳腺腫瘍の分類に臓器横断的な神経内分泌腫瘍の概念が導入されたが,未だ確定的ではない。細胞診では,充実-乳頭型の乳管内成分を伴う乳癌ないしSolid papillary carcinoma(SPC)が神経内分泌分化を示すが,細胞異型が弱く,良性病変との鑑別が難しい。標本全体の細胞量,集塊の性状,個々の細胞所見を総合的に評価することが肝要である。

はじめに

本稿では,乳腺細胞診のトピックスとして,乳腺細胞診の現状,新しい報告様式および組織分類上の話題である神経内分泌腫瘍を解説する。乳腺細胞診の環境は大きく変化しており,その対象が主病変から副病変やリンパ節へとシフトしている。他臓器における細胞診と同様に精度管理の重要性から,新しい報告様式,The IAC Yokohama Systemが提唱されている。また,最新のWHO分類では臓器横断的な神経内分泌腫瘍の概念が導入され,分類上の意義や既存の組織型との関係を理解する必要がある。

乳腺細胞診を取り巻く変化

乳腺腫瘍の臨床的取り扱いは,従来は触診や超音波検査を実施し,腫瘤に対して低侵襲で低価格,検査報告時間が短い利点を持つ穿刺吸引細胞診(FNAC)が施行されていた。しかし,現在は,腫瘤に対してはじめからコア針生検(CNB)や真空補助乳房生検(VAB)による組織生検が一般的となった。これは,術前補助療法が一般化した乳癌治療において,診断時にバイオマーカー検索が必須となったためである(表1)。乳腺細胞診のほとんどが患者に負担の大きい組織診断に置き換わるかと思われたが,実際は必ずしもそうでない。乳癌の診断後に,専門機関では追加検査としてMRIが施行され,病変の広がりが詳細に評価される。その際に指摘された病変を再度超音波検査で詳しく調べ,同定できた場合にはFNACを行い評価する。この手技は「2ndUS & FNA」と呼ばれ,その結果はその後の治療に反映される。2ndUS & FNAの対象となる病変は,1)同側における癌の広がりおよび副病変,2)対側乳房内病変,および3)腋窩リンパ節である。いずれも通常の超音波検査では描出できないような微小病変であることが多い。リンパ節転移の検出に関しては,CNB(82~100%)と比較してFNAC(72~78%)でやや感度が劣るものの,特異度は100%に近いとされ,FNACで陽性の場合にCNBで確認する必要はない[]。さらに,一般開業医や専門施設から離れた地域の医療機関では,依然としてFNACが原発病変の診断に用いられることが少なくない。このように,細胞診は適切な切除範囲の設定に貢献しており,現在でもその有用性は高い(図1)。臨床側からも細胞診への明確なニーズがあり,今後も診断精度の向上に努めていく必要がある。

表1.

乳腺穿刺吸引細胞診の用途(有用性と正確性)

図1.

乳腺におけるFNAの役割・CNB/VABとの使い分け。(Created with BioRender.com)

乳腺細胞診の新しい報告様式

本邦ではパパニコロウのクラス分類から脱却し,2004年より「乳癌取扱い規約」(第15版)の報告様式が,現在(第18版)まで一貫して使用されてきた[]。2019年には,国際的な乳腺細胞診の報告様式としてActa Cytologica誌にThe IAC Yokohama Systemが提唱された[]。このシステムの判定内容は「乳癌取扱い規約」とほぼ同様であるが,実施方法や精度管理に若干の変化が生じた。具体的には,「不適正(Insufficient/Inadequate)」,「良性(Benign)」,「異型・鑑別困難(Atypical)」,「悪性疑い(Suspicious of Malignancy)」,「悪性(Malignant)」の5つのカテゴリーが定義され,それぞれに対して悪性のリスク(Risk of Malignancy,ROM)が示された(表2)。施設ごとにカテゴリー別のROM値を算出することで,検体不適正率の改善や判定基準の見直しを図り,診断精度向上に寄与することが期待される。例えば,不適正率が10%を超える場合は手技の見直しが必要である。また,「Atypical」の割合が高い場合には,標本作製手技や判定者基準を確認する必要がある。

表2.

The IAC Yokohama System for Reporting Breast Fine-Needle Aspiration Biopsy Cytopaghologyの概略

実施方法に関する特徴として,臨床所見・画像所見(マンモグラフィ・超音波検査)・FNAC所見の総合評価(トリプルテスト)の実施と,超音波ガイド下での穿刺吸引細胞診やROSE(迅速オンサイト評価)の推奨が含まれる。また,定義に基づいた記述的な判定や推定病変の明記,さらには患者管理のアルゴリズムとして再FNAとCNBの使い分けが設定された。「乳癌取扱い規約」から「The IAC Yokohama System」への移行については,日本臨床細胞学会のワーキンググループが検討を進めているが,両者の運用には類似点が多いため,移行は十分可能と考えられる。

神経内分泌分化を示す乳腺腫瘍

乳腺腫瘍の組織分類において,神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine Neoplasms:NENs)は重要なトピックの一つである。神経内分泌分化を示す乳腺腫瘍の分類は,さまざまな変遷を経ており,いまだに統一された分類や定義には至っていない。これは,神経内分泌分化が腫瘍の性質に関わる一方で,従来の組織型が形態に基づいて定義されているためである。また,乳腺における神経内分泌分化を示す腫瘍の大部分は,消化管や肺などにみられるNENsとは形態や臨床的な悪性度が異なる。最新のWHO分類第5版(2019年)では[],乳腺にも臓器横断的なNENsの概念が導入された。NENsは好銀性の神経内分泌顆粒を持つ浸潤性の悪性腫瘍であり,分化度や異型度に基づいて,Neuroendocrine Tumor(NET)G1,G2,および神経内分泌癌(Neuroendocrine Carcinoma:NEC)に分類される(乳腺においてNET G3は想定されていない)。神経内分泌分化の証明には,synaptophysinやchromogranin Aなどの神経内分泌マーカーが用いられ,NENsにおいてはこれらのマーカーがびまん性または均一に陽性を示す。一般的な診断基準として,腫瘍細胞全体の50%以上が陽性であることが求められるが[,],明確な閾値が設定されていない。最近では,Insulinoma-associated protein 1(INSM1)の核陽性像も,これらのマーカーと組み合わせて使用される[]。

神経内分泌分化を示しうる乳癌の組織型としては,非浸潤性乳管癌(Ductal carcinoma in situ:DCIS),神経内分泌分化を伴う浸潤性乳癌(Invasive breast carcinoma with neuroendocrine differentiation,WHO第4版に記載,第5版では削除),細胞成分が豊富な粘液癌,Solid papillary carcinoma(SPC)が挙げられる。乳癌における神経内分泌分化の頻度は約5~30%と報告されており,比較的頻度が高い[,]。乳癌の病理診断において,神経内分泌マーカーの検索が必須ではないため,実際にはさらに高い頻度で存在する可能性もある。

NENsと神経内分泌分化を伴う乳癌の鑑別は,他臓器のNENsに類似した形態を示すか,乳癌のいずれかの組織型に分類される形態であるかに依存する。また,上述の通り,NENsでは神経内分泌マーカーの発現が強い。乳管内病変の共在は,NENsが乳腺原発であることを示す重要な証拠となる。腫瘍の10%以上がNENsの形態を示す場合は混合癌の成分とされ,90%以上が該当する場合はNETまたはNECと診断する。現状の診断基準に正確に従えば,乳腺におけるNENsの頻度は極めて低いと思われる。

WHO第5版で削除された神経内分泌分化を伴う浸潤性乳癌や神経内分泌マーカー陽性の粘液癌に関しては,神経内分泌マーカーの検索が想定されていないため,浸潤性乳癌や粘液癌に分類せざるを得ない。腫瘍の形態から神経内分泌分化が想定される代表的な腫瘍として,SPCが挙げられる[,]。SPCは,乳腺細胞診において判定が難しい乳頭状病変の一つであり,WHO第5版ではPapillary neoplasmsのカテゴリ内に,乳管内乳頭腫,Papillary DCIS,Encapsulated papillary carcinoma,Invasive papillary carcinomaとともに分類される。

SPCの病理・細胞像と鑑別のポイント

SPCは,WHO第5版においてSPC in situとSPC with invasionに分類される[]。前者は,本邦において神経内分泌型非浸潤性乳管癌(neuroendocrine DCIS)と同義語として扱われる。組織学的には,SPCは特殊な形態の乳頭状癌であり,細胞量が豊富で膨張性の発育を示す。腫瘍内に介在する線維血管性間質が非常に細く繊細であるため,低倍率で見ると充実性胞巣のように見える[10](図2)。腫瘍細胞の形態は,紡錘形,多辺形,円柱状,類円形,形質細胞様など多様で,概ね単調な増殖を示し,核異型は軽度である。細胞質は好酸性で細顆粒状を呈し,一部では細胞質内外に粘液を持つ場合もある[]。診断の際には,usual ductal hyperplasiaを伴う乳管内乳頭腫との鑑別が困難なことがある。

図2.

SPCの組織像(HE染色)

繊細な線維血管性間質を軸に,腫瘍細胞が充実性増殖を示す。

繊細な線維血管性間質を伴った乳頭状構造を示し,腫瘍細胞が充実性に増殖した形態,いわゆる充実-乳頭型を呈している。

SPCは乳頭状病変であるが,FNACでは,線維性間質を伴った集塊が出現することは多くはない[1112]。これは,neuroendocrine DCISで筋上皮細胞の付着のないループ状裸血管が出現する乳頭状所見[]とは異なる。また,間質浸潤の有無を断定するのは難しい。実際,われわれが検討した充実-乳頭型の乳管内成分を伴う乳癌の症例では,組織学的に非浸潤癌が31.6%,微小浸潤癌が68.4%であり,全症例が微小浸潤癌までにとどまっていた[12]。SPCはDCISを伴って存在する腫瘍であり,異型の弱い細胞の単調な増殖が特徴である。SPCを含む神経内分泌分化を示唆する特徴的な細胞所見として,境界がやや不明瞭な顆粒状またはレース状の細胞質があげられる。淡い細胞質粘液も特徴の一つであり,これが細胞外粘液としてみられることも少なくない。乳腺腫瘍において,粘液産生は悪性を示唆する所見とされる[]。また,核所見に着目すると,類円形の核が立体的に見え,核クロマチンは細顆粒状で均一である。

SPCの細胞診における重要な所見は以下の通りである(図3)。

図3.

SPC(充実-乳頭型の乳管内成分を伴う乳癌)で重要な細胞診所見(パパニコロウ染色)

A(弱拡大)。重積性の強い大型集塊と孤立散在性細胞の存在。大型集塊と,その集塊からのほつれ,結合性の低下を認める。集塊は充実性ないし乳頭状で,集塊の中に空隙がみられる。

B(強拡大1)。集塊の腫瘍細胞の配列。小型細胞が単調に出現。細胞の極性は揃っておらず,類円形や短紡錘形細胞が敷石状配列を示す。細胞質は顆粒状。核は偏在傾向から中心性。核形不整は目立たず,核クロマチンは細顆粒状均一を呈する。

C(強拡大2)。個々の腫瘍細胞の細胞形態。類円形や短紡錘形細胞からなる単調な細胞。細胞質に粘液を有する細胞もみられる。

①充実性ないし乳頭状の大型集塊の出現

②敷石状配列集塊

③顆粒状の細胞質を呈する類円形や短紡錘形細胞

④頻度は低いが粘液含有細胞や背景の粘液

おわりに

乳腺細胞診は,その運用を副病変やリンパ節のFNAへとシフトしているが,乳腺診療において依然として重要な役割を果たしている。また報告様式では,The IAC Yokohama SystemでのROMを十分理解した上で,現在の取扱い規約から移行を行う必要がある。

SPCは,FNACでは細胞異型は弱いが特徴的な細胞所見を有しており判定は十分可能である。細胞形態が神経内分泌分化を示唆する場合でも,SPCの構造が確認できればSPCと判定すれば良い。

【文 献】
 
© 2024 Japan Association of Endocrine Surgery

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