Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
Online ISSN : 2758-8785
Print ISSN : 2434-6535
Study of the interference of measurement of serum snit-thyroglobulin antibody to serum thyroglobulin using Lumipulse® iTACT®
Katsuhiro TanakaRyohei OgataAzusa JoYuna FukumaTsuyoshi MikamiYoshikazu KoikeTakayuki IwamotoTsunehisa NomuraNaruto Taira
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 42 Issue 1 Pages 44-49

Details
抄録

背景:血清サイログロブリン(Tg)は甲状腺疾患において利用されている。しかし抗Tg抗体存在下では干渉されることがある。抗体の影響を受けないTgの新測定法(ルミパルス iNTACT Tg)を使用して旧測定方法と比較検討した。患者と方法:甲状腺疾患術後で最低3回ずつ血清Tgの旧,新測定が可能であった抗Tg抗体陽性例76例と陰性例178例。結果:抗Tg抗体陽性例での旧測定での血清Tg平均値は5.43±1.2ng/mL,新測定では6.48±1.4ng/mLであり,有意に新測定法で血清Tg平均値は高値を示した(p<0.0005)。抗Tg抗体陰性例では旧測定での血清Tg平均値は4.88±1.4ng/mL,新測定では4.66±1.2ng/mLであり,有意差を認めなかった。抗Tg抗体陽性,陰性例でそれぞれ測定平均値が増加した症例は60例(78.9%),95例(53.4%)であり低下した症例数は16例(21.1%)と83例(46.6%)であり有意に抗Tg抗体陽性例で増加例が多かった(p<0.0005)。結論:抗Tg抗体はTg測定において有意に干渉していた。程度は強くないが,干渉が問題になる症例が存在することは明らかであった。

はじめに

サイログロブリン(Tg)は甲状腺濾胞細胞のみが産生する分子量66万ダルトンの巨大なタンパク質で大部分は濾胞腔内に存在しているが,一部は血中に存在する[]。実臨床で利用されているのは甲状腺自己免疫疾患の診断や甲状腺分化癌に対する全摘術後の治療効果や再発チェックの腫瘍マーカーである。甲状腺全摘および放射性ヨウ素内用療法後には,癌の残存がない場合には治療後3~4週で血清Tg測定限界以下に低下することが多い[]。

甲状腺自己免疫疾患では抗Tg抗体などの自己抗体が存在し,血清Tgの測定に干渉する場合があることが知られている[]。一般人が対象のコホート研究において米国での甲状腺疾患のない16,533名で,抗Tg抗体陽性率は男性7.6%,女性15.2%[]とされ,日本人1,818名の健康診断時の検査で男性13.1%,女性29.4%[]と報告されている。

日常臨床において甲状腺分化癌の術後には血清Tgの測定を定期に行っており,自己抗体の存在による偽陰性もしくは低値化は大きな問題である。以前われわれは残存甲状腺がある甲状腺乳頭癌術後患者の検討では術前31%の抗Tg抗体の陽性率が,術後経過で45.5%になっていることを報告した[]。

最近,抗Tg抗体の影響を排除し血清Tgを測定する方法(ルミパルスプレスト® iTACT®Tg,富士レビオ,LP-Tg)が商品化されており,前処理でTgAb-Tgを解離し,変性したTgを認識できるモノクローナル抗体で検出するため抗Tg抗体による干渉を除外できる特徴がある[]。当院では2022年6月9日からルミパルスプレスト® iTACT®Tgの測定(新測定法)に変更している。しかし,実際に新測定法による血清Tg値測定に変更しても,抗Tg抗体陽性例にも関わらず多くの症例で測定結果に大きな変化がないことに気づいた。さらに,今までにルミパルスプレスト® iTACT®Tgの有用性を示す報告はみられるが,甲状腺疾患の術後における血清Tg値への経時的影響を検討した報告はない。そこで今回,われわれは旧測定とこの測定法で得られた血清Tg値を比較し,実臨床における抗Tg抗体の測定干渉による偽低値の頻度や程度を検討したので報告する。この研究は川崎医科大学倫理委員会での承認を得ている(承認番号5919-00)。

患者と方法

当院では2022年6月9日からルミパルスプレスト® iTACT®Tgの測定(新測定法)に変更していることから対象患者は新測定法導入以前および導入後最低3回の血清Tgの測定を行っている抗Tg抗体陽性の甲状腺疾患術後のフォロー患者とした。血液検査項目は血清Tg値,抗Tg抗体値,TSH,FT4を毎回同時に測定した。当科では手術を施行していない患者の採血フォローはほとんどしていないために術後患者を対象とした。また病巣や病巣切除による血清Tg値変動の影響を除外するために術後1年以降の血清Tg値を用いて解析した。疾患による血清Tg値の変動を除外するために血清Tg値および血清TSHの基準値以内の症例とした。また比較検討するために抗Tg抗体陰性の甲状腺疾患術後のフォロー患者も同様の条件で検討した。除外基準は抗Tg抗体陽性例で経過中に抗Tg抗体が陰性化した症例および血清Tg値の疾患による影響を避けるために甲状腺癌患者では頸部超音波検査による構造上再発が認められない患者を対象とした。患者背景を表1に示す。2022年6月8日を挟んで最低3回ずつ当科外来で血清Tgの測定が可能であり除外基準に当てはまらなかった症例は254例であった。抗Tg抗体陽性例は76例(29.9%)で,陰性例は178例であった。抗Tg抗体陽性,陰性別で男性16例,42例,女性60例と136例であり,検討時の年齢の中央値は60歳(32~89歳),65歳(29~91歳)であった。手術対象甲状腺疾患(重複あり)はそれぞれ乳頭癌74例と171例,濾胞癌0例と5例,腺腫様甲状腺腫1例と11例,腺腫2例と2例であり,術式は全摘15例と58例,非全摘61例と120例であった。

表1.

患者背景

旧測定法と新測定法で同一患者においてそれぞれ測定した3回の血清Tg値の平均値を用いた。

血清Tg値測定は旧測定法ではエクルーシス試薬TgⅡ(ECL-TgⅡ)(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社),CLEIA法での測定で35.1ng/mL以下が基準値である。測定機械はTg値旧測定法ではcobas 8000(e801)を使用し,Tg値新測定値および抗Tg抗体値は,いずれもルミパルスL2400(富士レビオ株式会社)を用いた。ルミパルスプレストiTACT Tg(富士レビオ株式会社),CLEIA法での測定で基準値は3.706-35.121ng/mLで,抗Tg抗体はECLIA法での測定で基準値が28IU/mL未満である。自施設内の新測定法での血清Tg値測定におけるCV%は2.5ng/mL測定で4.56%,51.2ng/mL測定において4.21%であった。

統計学的検討はEZR[]を使用してχ2乗検定,Wilcoxon符号付順位和検定,Pearson積率相関関係の検討を行った。

結 果

1)血清Tg値の変化

抗Tg抗体陽性例での旧測定での血清Tg平均値は5.43±1.2ng/mL,新測定法では6.48±1.4ng/mLであり,有意に新測定法で血清Tg平均値は高値を示した(p<0.0005)。新測定法での血清Tg平均値にCV%を考慮するとCV値は0.295ng/mLとなるが,新旧測定法での平均値の差は,それ以上の1.05ng/mLであった。一方抗Tg抗体陰性例では旧測定法での血清Tg平均値は4.88±1.4ng/mL,新測定法では4.66±1.2ng/mLであり,測定方法間で血清Tg平均値の有意差を認めなかった(図1)。旧・新測定法での血清Tg平均値の変化において抗Tg抗体陽性,陰性例でそれぞれ測定平均値が増加した症例は60例(78.9%),95例(53.4%)であり低下した症例数は16例(21.1%)と83例(46.6%)であり有意に抗Tg抗体陽性例で増加例が多かった(p<0.0005,図2)。しかし基準値上限の10%以上変動(±3.5ng/mL)した症例は抗Tg抗体陽性例,陰性例それぞれで増加6例と8例,低下4例と7例であった。血清Tg平均値の旧・新測定間での変化の範囲は抗Tg抗体陽性例で-7.23ng/mLから22.97ng/mLであり,抗体陰性例では-7.22ng/mLから9.1ng/mLであった(図2)。いずれも有意差は認めなかった。

図1.

旧・新測定法における血清Tg値の比較

抗Tg抗体別に示す。抗Tg抗体陽性例での旧測定法での血清Tg平均値は5.43±1.2ng/mL,新測定法では6.48±1.4ng/mLであり,有意に新測定法で血清Tg平均値は高値を示した(p<0.0005)。一方抗Tg抗体陰性例では旧測定法での血清Tg平均値は4.88±1.4ng/mL,新測定法では4.66±1.2ng/mLであり,有意差を認めなかった。

図2.

旧・新測定法別Tg値の変化

旧・新測定法での血清Tg平均値の変化を示す。抗Tg抗体陽性,陰性例でそれぞれ測定平均値が増加した症例は60例(78.9%),95例(53.4%)であり低下した症例数は16例(21.1%)と83例(46.6%)であり有意に抗Tg抗体陽性例で増加例が多かった(p<0.0005)。

血清Tg平均値の旧・新測定法でのそれぞれの相関関係を検討すると,旧測定法では相関係数0.928で,95%信頼期間は0.904-0.946,p<0.0001,新測定法では相関係数は0.82,95%信頼期間は0.729-0.882,p<0.0001でありいずれも有意で極めて強い正の相関関係を有していた(図3)。

図3.

旧・新測定法別血清Tg値の相関関係

血清Tg平均値の旧・新測定法でのそれぞれの相関関係を検討すると,旧測定法では相関係数0.928で,95%信頼期間は0.904-0.946,p<0.0001,新測定法では相関係数は0.82,95%信頼期間は0.729-0.882,p<0.0001でありいずれも有意で極めて強い正の相関関係を有していた。

2)抗Tg抗体値

抗Tg抗体値は陽性例で旧測定法での同時測定で590±1,149IU/mLであり,新測定法の同時測定で554±1,119IU/mLであり,陰性例ではそれぞれ12.4±1.9IU/mL,11.7±3.6IU/mLであった。抗体陽性陰性にかかわらず血清Tg旧・新測定法との同時採血での測定に有意差は認めなかった。

3)抗Tg抗体陽性例での抗体の影響の検討

抗Tg抗体陽性例で,抗Tg抗体値の高低と旧測定法,新測定法における血清Tg値の変化を比較し,偽陰性に与える影響を検討した。相関係数は0.0788,95%信頼期間は-0.149-0.299,p=0.499であり,抗Tg抗体の高低と干渉には関係はみられなかった。抗Tg抗体陽性例で旧測定法と新測定法の平均値の差が±5ng/mL以上であったものは5例(6.6%)であり表2に抗Tg抗体との関係の一部例を示すが,抗Tg抗体が測定限界を超えている症例は5例であったがそのうち1例のみ新測定法でTgの増加を認めた。

表2.

旧・新測定によるTg値と抗Tg抗体の実症例提示

考 察

Tgは濾胞細胞由来の腫瘍細胞もTgを産生することが知られていることから[],血清Tgの測定は甲状腺腫瘍,特に分化癌(乳頭癌や濾胞癌)の術後に測定されることが一般である。米国甲状腺学会のガイドラインには,全摘後のTgが1ng/mL以上(あるいは組み換えhTSH刺激下でTgが10ng/mL以上)の場合,“biochemical incomplete response”と判定される[]。葉切除の場合は甲状腺がかなりの量残存しており,Tgの腫瘍マーカーとしての価値は全摘に比べてかなり低いが,それでも経時的に上昇を来せば再発を疑う必要があるとされている[10]。

抗Tg抗体がTg測定に干渉(疑陽性,多くは偽陰性)することは,知られており[],正確なTg測定には重要な問題である[11]。われわれの検討でも残存甲状腺を有する甲状腺乳頭癌術後患者209例での抗Tg抗体の存在は術前31%であったが,13年後には45.5%の陽性率であることを報告した[]。したがって抗Tg抗体陽性症例の場合,抗Tg抗体も一緒に測定し,モニターしていくべきであると推奨されている[10]。分化癌術後に抗Tg抗体の増加は再発に関係することが多いが,安定または減少が病状の安定に関係していないこともあるとされている[12]。抗Tg抗体価は93例の乳頭癌の再発を予測することはできなかったという報告もある[13]。

抗Tg抗体は多寡はあっても,Tg値の測定に何らかの干渉を与えていると考えていたがわれわれの検討では78.9%が測定値の増加を認めていた。また抗Tg抗体値が高いほうが干渉も多いと考えていたが,われわれの結果では抗Tg抗体値とTg値測定干渉との関係に有意差はなかったように血清Tg値と異なり抗Tg抗体の測定値変化と病状との関係はいまだに不明である。

抗Tg抗体測定の提言において正確なTg測定値を得るための抗Tg抗体の干渉を克服する実臨床の方法は現在存在しないとされている[11]。

今回使用した新測定法のルミパルスプレスト® iTACT®Tgは前処理液で阻害因子であるTgAbの不活化を行うとともにTgAb-Tgの複合体からTgを解離させ,遊離したTgのみをモノクローナル抗体で検出するため抗Tg抗体による干渉を除外できる特徴がある[]。さらに一次抗体,2次抗体それぞれにTgの異なるエピトープを特異的に認識する抗体を用いた2ステップサンドイッチ法を原理としており,特異性も高めている[]。抗Tg抗体陽性例において旧測定法で測定限界以下(<0.04ng/mL)であった症例すべてでルミパルスプレスト® iTACT®Tgでは検出できたと報告している[]。北川らも1,130例の甲状腺疾患と16例の健常者でルミパルスプレスト® iTACT®Tg測定に関して報告でルミパルスプレスト® iTACT®TgがエクルーシスTgより高値を示す検体が低値域で多くみられている[14]。大前らも148例の検体検査においてルミパルスプレスト® iTACT®Tg法とエクルーシス法の乖離率を求めたところ,TgAb陰性群の乖離率は,70.1~160.0%であったのに対し陽性群の乖離率は8 7.9~427.2%と高く,特にTg値低濃度域において顕著に高値を示したと報告している[15]。いずれの報告も抗Tg抗体は血清Tg低値の症例で干渉しているようである。われわれの検討では抗Tg抗体陽性例では78.9%が新測定法でTg値が増加していたが,旧測定法でTg値が測定限界以下であった症例に限ると新測定法で9例中4例(44.4%)で測定限界以下ではない測定値が得られていた(データ示さず)。したがってわれわれの検討では特にTg値が測定限界以下の症例に特に有用である結果は得られなかった。しかも,抗Tg抗体陽性例で旧測定と新測定の平均値の差が±5ng/mL以上であったものは5例(6.6%)にすぎず抗体によるTg測定阻害の程度は大きいものではなかった。実臨床ではTg値が基準値上限を超える高値を示す分化癌術後では,ダブリングタイムなどを検討することが多いが,今回の対象は旧・新測定の同時測定ではなかったため,病状変化をできるだけ除外するためにTg値が基準値以内の症例に限定した。このためTg高値の症例での偽陰性に関しては不明であり,今後も検討を継続していきたい。

おわりに

抗Tg抗体陽性例の検討において抗Tg抗体はTg値測定への干渉は有意であったが,その干渉は抗体値の多寡とは関係なく,しかも干渉の程度も大きいものではなかった。

【文 献】
 
© 2025 Japan Association of Endocrine Surgery

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top