Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
Online ISSN : 2758-8785
Print ISSN : 2434-6535
Surgical technique and outcomes of endoscopic thyroid surgery, from the perspective of modified the video-assisted neck surgery
Mariko MisakiSeiya InoueNaoya KawakitaTaihei TakeuchiKeisuke FujimotoNaoki MiyamotoShinichi SakamotoAtsushi MorishitaSatoshi FujiwaraMasakazu GotoHiroaki TobaHiromitsu Takizawa
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2025 Volume 42 Issue 1 Pages 7-11

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抄録

内視鏡下甲状腺手術には様々なアプローチ方法が報告されている。われわれは,VANS原法に変更を加えた方法で内視鏡下甲状腺手術を実施している。カメラ挿入位置を変更し,必要に応じて助手のassist portを追加している。良性腫瘍では最大径5cmまで,バセドウ病では推定重量50gまでを手術適応とし,悪性腫瘍はcT1N0までとしている。甲状腺表面までの到達方法は,胸鎖乳突筋内縁より前頸筋前面に到達し,側法アプローチで甲状腺表面まで到達する。前頸筋背側にリトラクターを挿入して吊り上げ,視野を展開しており,原則,患側からの手術操作で行っている。現在までの手術成績では,通常手術と比較して同様の安全性や根治性が得られている。一方で,手術時間が長いことが難点と考える。術式の定型化の徹底と手術トレーニングの工夫によって,手術時間の短縮を図り,術者教育を行うことが今後の課題である。

はじめに

従来の甲状腺手術では前頸部に手術痕が残るが,内視鏡下甲状腺手術では創部が衣服に隠れる部位となるため,整容面で優れている。1997年に香港のYeung[]とイタリアのHuscher[]が,CO2による送気を使用してworking spaceを作成する方法を用いた内視鏡下甲状腺手術を初めて報告した。1998年には清水らによって,CO2ガスによる送気を使用せず,吊り上げによるworking spaceを作成するvideo-assisted neck surgery(VANS)法が報告された[]。その後,乳輪[],腋窩[],口腔前庭[]などからの,様々なアプローチによる内視鏡下甲状腺手術が報告されている。われわれは,清水らの開発したVANS原法に変更を加えた方法で内視鏡下甲状腺手術を実施している。本邦で内視鏡下甲状腺手術が保険収載された2016年より導入し,2018年より悪性腫瘍手術にも取り組んでいる。本稿では,われわれの実施している内視鏡下甲状腺手術の詳細について述べさせていただきたい。

手術適応

手術適応は,良性腫瘍では最大長径5cmまでとし,バセドウ病は術前頸部エコーで測定した推定重量が50gまでとしている。悪性腫瘍の場合,原則としてcT1N0までとしており,半葉切除+D1uniの術式で対応できる症例としている。ただし,Ex所見に関しては,胸骨甲状筋までの浸潤は適応としており,必要に応じて術中に合併切除を施行している。

使用器具

つり上げ式器具として,Mist-less VANSリトラクター®(八光メディカル)を用いている。以前はVANS原法を模してキルシュナーを用いていたが,広い範囲の皮弁を吊り上げることができることより,現在はリトラクターを用いるようにしている。鉗子は,通常の鏡視下用鉗子を用いている。主に剝離にはファインメリーランド型剝離鉗子を用いており,同鉗子は反回神経周囲の細かい剝離などに適している。その他,先端が直と直角の剝離鉗子を用いている。甲状腺実質やリンパ節の把持に有窓の把持鉗子を用いており,同鉗子は甲状腺被膜を損傷することなく,甲状腺実質を把持することができる。吸引鉗子は,コダマダイサクション®(SBカワサキ)とサクションボール・コアグレーター®(山科機器)の2種類を使用している。前者は,主にエネルギーデバイスのミストを吸引することを使用目的としており,また助手が胸鎖乳突筋を外側に圧排して視野を展開するために使用している。後者は,コダマダイサクション®に比べて先端が細いため,細かな出血や浸出液の吸引に使用している。同時にソフト凝固による止血を行うことができる。エネルギーデバイスには,HARMONIC® HD1000i(ETHICON)を用いている。反回神経周囲など距離が確保できない場合には,Mini endocutディスポーザブル鋏刀鉗子®(MICRORINE SURGICAL)とChallenger clip®(B.BRAUN AESCULAP)を用いている。反回神経を確実に同定するため,全例に術中神経モニタリングシステム(NIM VITAL TM®,Medtronic)を使用している。内視鏡システムは,Stortz社のシステムを用い,5mm斜視鏡を用いている。

手 術

皮膚切開・ポート位置およびアプローチ

術者は患側に立ち,助手とスコピストは健側に立つ(図1A)。患側の鎖骨より約2横指尾側に3cmの手術操作ポートを作成し,その内側に5mmのカメラポートを作成する。また,健側にカメラポートとほぼ左右対称となる位置から5mmのアシストポートを挿入する(図1B)。腫瘍サイズが小さい良性腫瘍の場合にはアシストポートを省略することもある。しかし,助手が甲状腺実質を脱転,把持することで,術者が両手を使用して手術操作が可能となるため,ほぼ全例でアシストポートを作成している。

図1.

左葉切除を行う場合

A 手術配置図

B ①アシストポート(5mm),②カメラポート(5mm),③手術操作ポート(3cm)

皮弁を作成し,胸鎖乳突筋の内側を頭尾側に十分剝離する。われわれは側方アプローチを採用しており,前頸筋筋膜を切開し,胸骨舌骨筋,胸骨甲状筋を縦方向に切開し,甲状腺表面に到達する。前頸筋と甲状腺実質の間を十分に剝離後,前頸筋背側にリトラクターを挿入し,吊り上げている(図2)。

図2.

左葉切除を行う場合 つり上げ後の術野 L:甲状腺左葉,A:前筋筋,S:胸鎖乳突筋

良性腫瘍

甲状腺切除の手順は,通常手術と同様の手順で施行している。甲状腺外側を剝離後,上極を処理する。上喉頭神経外枝を同定後,血管処理を行う。この時,血管周囲の結合織を血管に沿って十分剝離,切離することで上極の展開が良好となり,安全に血管処理を行うことができる。血管処理の際には,中枢側はリガクリップ®(ETHICON)で処理している。血管の径に合わせ,Challenger clip®を使用することもある。その後,甲状腺を気管寄りに脱転し,下甲状腺動脈より尾側,もしくは反回神経との交差付近で,反回神経の検索を行う。反回神経同定後,峡部を切離し,反回神経を温存しながら甲状腺実質を気管前面より剝離する。上喉頭神経外枝,反回神経は術中神経モニタリングシステムを用いて,機能が温存されていることを随時確認している。最後に反回神経入口部でBerry靭帯付着部位を処理している。洗浄後,止血を確認し,バードアリスタAH®(Medafor)を噴霧して閉創している。ドレーンは留置していない。

バセドウ病

右側より手術を行う。右葉を切離後,左葉を右葉同様に切離する。左側では甲状腺外側の視野が悪くなるため,助手のアシストポートをカメラポートとして利用することで,視野が良好となる。右葉は可能な限り反回神経入口部で甲状腺実質を完全に切離するよう心掛けているが,左葉は鉗子操作や視野展開が限られてしまうため,僅かに甲状腺実質を残して処理している。

悪性腫瘍

良性腫瘍と同様に上極を処理後,甲状腺実質を気管側に脱転する。総頸動脈表面を露出し,下甲状腺動脈より尾側,もしくは反回神経との交差付近で,反回神経の検索を行う。反回神経を同定後,反回神経を尾側に向かって追跡する。VANS変法では,通常手術に比べて尾側への視野が限られるため,斜視鏡を使用することで良好な視野を得るよう工夫している。その後,気管を確認し,峡部を切離する。正中で郭清すべきリンパ節を含む脂肪組織を尾側に向かって切離する。次いで,脂肪組織と気管の間を十分に剝離し,脂肪組織を頭側に可能な限り牽引する(図3A)。脂肪組織と頸部胸腺の境界の被膜を薄く切離すると,頸部胸腺が頭側に牽引されてくるため,その頸部胸腺を十分に含むように切離し,尾側の郭清縁としている。胸腺からの血管が確認できる場合には,クリップを用いて血管処理を行うが,基本的にはエネルギーデバイスのみで処理している。その後,頭側に向かって反回神経周囲の郭清を行う。反回神経周囲の郭清では,反回神経の走行に沿って,剝離鉗子を用いて剝離し,神経線維か,微細な血管か,結合組織かを内視鏡で拡大視することで見極めることが重要である。神経繊維や結合組織であれば,Mini endocutディスポーザブル鋏刀鉗子®(MICRORINE SURGICAL)で切離するが,微細な血管であればChallenger clip®(B.BRAUN AESCULAP)を用いてクリップを行い切離している(図3B)。反回神経入口部での処理は,良性腫瘍と同様である。

図3.

A 左葉切除+D1uniにおけるリンパ節郭清 T:気管,L:気管前面リンパ節,R:反回神経

B 反回神経周囲の繊維組織はMini endocut ディスポーザブル鋏刀鉗子®(MICRORINE SURGICAL)で切離する。 L:甲状腺左葉,R:反回神経(矢印)

手術成績

2016年から良性腫瘍は30例施行しており(表1),バセドウ病は21例施行している(表2)。通常手術と手術適応が大きく異なるため,手術成績を比較することは困難であるが,VANS変法群では通常手術より手術時間が長い。悪性腫瘍手術は2023年までに19例施行している。統計学的処理を行い,半葉切除+D1uniを施行した通常手術群と手術成績を比較検討したところ[],手術時間はVANS変法群で有意に長かったが,VANS変法群のほうが,有意に出血量が少なかった(表3)。鏡視下手術となったことで,拡大視効果や超音波凝固装置を用いることで微細な血管を確実に止血することができ,明らかに出血量が減少したと考えられる。また,2群間で郭清リンパ節個数に有意差を認めず,VANS変法群による悪性腫瘍手術は通常手術と同様の安全性と根治性が確保できていると考えられた。症例数が少なく,追跡期間が短いため,長期予後を比較検討することはできず,今後の課題である。

表1.

良性腫瘍手術の手術成績

表2.

バセドウ病の手術成績

表3.

悪性腫瘍手術の手術成績

VANS:Video-assisted Neck Surgery

連続変数は全て中央値(IQR)で記載

手術トレーニング・定型化への取り組み

特に悪性腫瘍手術では,反回神経周囲の郭清を行う際に,良性腫瘍手術よりも更に繊細な手術手技が必要と考えられた。導入する際には,同じ診療科の食道外科専門医(内視鏡技術認定医)に手術指導を依頼した。手術にはスコピストとして参加してもらい,手術手技の指導を受けた。同時に,内視鏡技術認定医の試験を意識した手術動画の撮影方法や助手の誘導の仕方などの指導も受けた。助手は,視野展開や手術の流れが把握できるまでは,可能な限り固定メンバーとした。また,手術の手順を詳細に記載した手術手順書を作成し,手術術式の定型化を徹底した。手術メンバーには術前に手術手順書を予習してもらうようにしている。当科では,通常手術でも手術術式を定型化しており,甲状腺手術に慣れないローテーターでも甲状腺手術に容易に取り組めるよう心掛けている。内視鏡手術は手術手技がより煩雑になるため,術式の定型化が必須と考える。術式の定型化を徹底することで,手術時間の短縮や安全な手術に繋がると思われる。手術が終わると手術動画を見ながら,修正すべき箇所を手術手順書に追記して改良を重ねるようにしている。また,修正した手術手順書を見ながら手術動画を指導医と確認し,次の手術に向けて課題を挙げるようにしている。

おわりに

当院で施行している内視鏡下甲状腺手術の術式と成績について報告した。内視鏡下甲状腺手術は従来の甲状腺手術と比較し,安全性と根治性の確保が可能な術式である。また,内視鏡下甲状腺手術は手術に参加する全員が同じ視野を共有できるため安全性に優れており,指導面についても手術動画を振り返ることができるなどの利点が多い。整容面で非常に優れる術式であり,患者からのニーズも高いと思われ,今後,更に普及することが望まれる。

謝 辞

内視鏡下甲状腺手術を指導してくださった山崎眞一先生(医療法人倚山会田岡病院),坪井光弘先生(徳島県立中央病院)に感謝申し上げます。

【文 献】
 
© 2025 Japan Association of Endocrine Surgery

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