Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
Online ISSN : 2758-8785
Print ISSN : 2434-6535
Clinicopathological features of pediatric and young adult patients with papillary thyroid carcinoma
Junko AkaishiKiminori SuginoChisato TomodaAkifumi SuzukiKenichi MatsuzuWataru KitagawaTetsuo KondoRyouhei KatohKoichi Ito
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2025 Volume 42 Issue 2 Pages 108-114

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抄録

小児および若年者の甲状腺分化癌では,乳頭癌が大部分を占め,そのなかでも特に充実型,びまん性硬化型が多くみられる。小児・若年者の乳頭癌は成人に比べてリンパ節転移や遠隔転移,術後再発の頻度が高いものの,生命予後は良好であると報告されている。しかし,その頻度が低いため,臨床病理学的特徴についてはまだ十分に理解されていない。そこで,本研究は小児・若年者乳頭癌の臨床病理学特徴について後ろ向きに検討した。対象は2006から2013年に乳頭癌手術6577症例のうち,手術時年齢が30歳未満の457例。小児期(18歳以下)45例と若年期(19~29歳) 412例で比較すると,小児期では若年期に比べて亜型,特に充実型が多く,術前リンパ節転移や遠隔転移の頻度が高かった。平均観察期間12年で10年疾患特異的生存率は100%,無再発生存率は92.3%であった。小児・若年者乳頭癌の生命予後は良好であるものの,リンパ節再発が多くみられ,長期的な経過観察が必要である。

はじめに

米国SEERおよび国立がんセンターの報告によれば,甲状腺癌は10代後半から増加傾向であり,20~30代女性が罹患するがんでは上位を占める[,]。甲状腺癌取扱い規約第9版では,乳頭癌の亜型は濾胞型,大濾胞型,好酸性細胞型,びまん性硬化型,高細胞型,円柱細胞型,充実型,ホブネイル型,その他に分類される[]。そのなかでも充実型,びまん性硬化型が若年者に多くみられる[]。小児・若年者の乳頭癌はリンパ節転移や遠隔転移,再発が多いが,生命予後は良好と報告されている[]。本研究では当院で経験した小児・若年者乳頭癌の臨床病理学特徴について検討した。

対 象

2006から2013年に乳頭癌手術6577症例のうち手術時年齢が30歳未満の457例(7%)を対象とし,小児期(9~18歳)は45例(10%),若年期(19~29歳)は412例(90%)であった。甲状腺癌取扱い規約第9版に従い,亜型を含む病理組織学的診断を見直した。篩状モルラ型は除外した。

方 法

患者の術前検査,手術・病理学的所見,フォローアップの情報は診療録から得た。術前にリンパ節転移が疑われた場合,穿刺吸引細胞診を施行した。甲状腺腫瘍診療ガイドライン[10]に準じて高リスク症例では全摘および放射線ヨウ素(RAI)治療,TSH抑制療法を施行した。小児期と若年期で臨床病理学的背景を比較し,検討項目は自覚症状,性別,腫瘍径,術前リンパ節転移(cN1),組織学的リンパ節転移(pN1),遠隔転移,腺外浸潤,組織型。カイ二乗検定またはフィッシャー検定を用い,p値<0.05を有意とした。データは統計ソフトウェアプログラム(JMP12.0;SAS Institute, Inc., Cary, NC)を用いて解析した。Kaplan-Meier生存曲線を用いて疾患特異的生存率(Cause specific survival,CSS)や無再発生存率(Disease free survival,DFS)をlog-rank testで検定し,多変量解析はハザード比を用いた。がんの治療効果判定はRECISTを用いた[11]。

結 果

手術時年齢中央値25(9~29)歳。小児期45例(10%),若年期412例(90%),年齢分布を示す(図1)。男性59例(13%),女性398例(87%),男女比は1:7。組織型は通常型が439例(96%),亜型が18例(4%)[充実型7例(1.5%),濾胞型6例(1.3%),びまん性硬化型4例(0.9%),fibromatosis-like stroma1例(0.2%)](表1)。家族歴は甲状腺癌10例(2%)に認めた。全例頸部被曝歴は認めず。最大腫瘍径中央値15(1~60)mm。最大腫瘍径1mmの症例は術前リンパ節転移を認め,原発巣不明のオカルト癌であった。初診時に自覚症状を認めたのは,小児期で16例(36%),若年期で189例(46%)と小児期では自覚症状が乏しい傾向があったが,有意差を認めなかった(表2)。頸部腫大が127例(62%),頸部痛や違和感が21例(10%),バセドウ病合併26例では動悸,息切れ,振戦などがみられた。

図1.

初回手術を受けた小児・若年者甲状腺乳頭癌の年齢分布と性比

表1.

甲状腺乳頭癌の組織型

表2.

小児期と若年期の自覚症状の比較

患者背景を表3に示す。小児期では若年期に比べて亜型が多く,cM1とcN1の頻度が高かった。cM1の部位は肺8例,骨1例。sEx2は20例で認め,反回神経浸潤を認めた11例中9例で合併切除,6例に神経再建を行った。気管浸潤を認めた2例で気管合併切除し,1例は気管吻合し,1例は気管皮膚瘻を造設し,二期的に気管孔を閉鎖した。RAI内用療法は87例に施行。RAI治療は反回神経・気管浸潤症例2例と遠隔転移症例9例に行った。遠隔転移症例9例のうち5例は完全奏効が得られ,奏効率は56%,累積投与線量中央値は130(130~300)mci。亜型13例の特徴を表4に示す。充実型の1例が肺転移,2例が局所再発を認め,びまん性硬化型4例は全てリンパ節転移がみられた。

表3.

患者背景(小児期と若年期の比較)

表4.

小児乳頭癌亜型の臨床病理学的所見

平均観察期間11.6年,全例生存し,再発は38例(局所34例,遠隔転移3例,重複1例)に認めた。局所再発部位はリンパ節27例(非郭清部位15例),残存甲状腺6例,重複2例であった。術後10年CSSは100%,DFSは92.3%であった。DFSの単変量解析の結果,18歳以下,最大腫瘍径>4cm,cN1では有意に再発が多くみられたが,亜型や腺外浸潤(sEx2)は再発に影響しなかった(図2)。多変量解析の結果,cN1が独立した再発危険因子であった(HR3.44, 95%CI : 1.76-6.69, p=0.0004)(表5)。

図2.

無再発生存率(DFS)における単変量解析

表5.

単変量解析および多変量解析結果

考 察

ATAのガイドラインでは18歳以下を小児として定義し,小児分化癌に対してリスク分類に基づく治療方針を提案した[12]。本研究でも18歳以下を小児として取り扱った。米国の報告によると,20歳未満の甲状腺癌の男女比は1:4,大部分が15~19歳であった[]。本研究の年齢別分布をみると10代後半で乳頭癌の増加傾向がみられ,男女比は1:7で女性がより多くみられた。小児期では若年期に比べて自覚症状が少なく,術前リンパ節転移や遠隔転移が多くみられた。

本研究において亜型は若年期では1%に対して小児期では30%にみられた。なかでも充実型が最も多く亜型の約39%(7/18)であった。充実型はSakamotoらがはじめて提唱した低分化癌のなかの低分化型乳頭癌が現在の充実型に相当する[13]。チェルノブイリ原子力発電事故後に周辺地域で充実型が増加し,RET/PTC3が高頻度にみられ,放射線被曝との関連が示唆された[1415]。現在ではヨード摂取量不足との関係がより重要視されている[16]。メタ解析によると通常型よりも血管浸潤像,腺外浸潤,遠隔転移がより多く,再発や疾患死亡率もより高い[17]。本研究の症例では放射線被曝との関連は認めず,肺転移2例(29%)はRAI治療で病状進行は抑えられていた。

一般的に亜型で多くみられるびまん性硬化型は乳頭癌の1~2%にみられる稀な腫瘍で10~20代の若年女性に多い[1820]。通常型よりも広範なリンパ節転移,腺外浸潤,遠隔転移や再発が多くみられる[2124]。RET/PTC遺伝子再構成の頻度が高いとされる[25]。本研究でのびまん性硬化型4例は全て若年女性でリンパ節転移を認めたが,遠隔転移や再発は認めていない。

濾胞型は通常型と同様に予後良好であると報告されている[2627]。本研究での濾胞型6例のうち4例にリンパ節転移を認めたが,遠隔転移や再発は認めていない。

小児乳頭癌は再発が多いにもかかわらず生命予後が良好とされる[]。再発の危険因子は男性,腫瘍径,リンパ節転移,腺外浸潤などが報告されており[],本研究ではリンパ節転移が独立した再発危険因子であった。甲状腺癌取扱い規約第9版に準じてN1をN1a,N1b-1,N1b-2に細分類して検討したが,再発予後に有意差はみられなかった。またリンパ節サイズと節外浸潤については病理診断での記載がなく検討できなかった。局所再発のうち残存甲状腺再発は少なく,腺外浸潤,遠隔転移や対側病変を認めない患者には葉切除にとどめることも許容される。またリンパ節再発症例は再手術により局所根治が得られ,平均観察期間12年で原病死を認めなかった。cN0/N1aの乳頭癌では予防的外側区域郭清は患者の予後を改善しないと報告されている[2830]。術前にリンパ節転移が疑われた場合は,超音波ガイド下穿刺吸引細胞診を施行して郭清範囲を判断し,予防的外側区域郭清を行わないのが妥当であると考えられる。

小児乳頭癌では成人に比べてRAI治療の効果がみられやすいと報告されているが[31],二次性のがん発生については議論がある。若年成人を対象にした米国の検討では,RAI治療による白血病を含む血液系悪性腫瘍と乳がんを含む固形癌の増加が示唆されているが[3233],他施設の大規模研究ではRAI治療による乳がん増加や二次性発がんリスクは示されていない[3435]。本研究の症例では二次性のがんはみられていない。

小児と成人の乳頭癌では遺伝子異常が異なり,小児・若年者乳頭癌では成人に比べてRET遺伝子再構成の頻度が高く,BRAF変異の頻度が低い[3637]。NTRAK融合遺伝子も若年者でやや多い[3840]。本研究の遠隔転移症例はRAI治療により病状進行が抑えられており,薬物療法を導入していない。小児若年者の高リスク症例では,薬物療法に備えて包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)やがん遺伝子パネル検査を行うかについては今後の検討課題である。

Limitationとして本研究は後方視的研究である。また当院は小児科が併設されていない単一施設であり,患者にバイアスが生じている。病院の性質上,もっと年齢が低い症例のステージや予後は調査できなかった。

おわりに

小児・若年者乳頭癌は亜型が多いのが特徴である。術前リンパ節転移症例は再発リスクが高いため,慎重なフォローアップが必要である。

 

著者は開示すべき利益相反状態はありません。

【文 献】
 
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