Official Journal of the Japan Association of Endocrine Surgery
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Ophthalmic treatment strategies for thyroid eye disease
Ai Kozaki
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2025 Volume 42 Issue 2 Pages 83-88

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抄録

甲状腺眼症の眼科的治療は,疾患活動性に応じた戦略が求められる。MRIによる詳細な評価が容易な日本では,局所の病変に対するステロイド局所注射が効果的に用いられ,消炎治療の重要な選択肢となっている。また,視機能障害の中でも頻度の高い複視に対しては,活動期・非活動期を問わずA型ボツリヌス毒素注射が行われ,外眼筋拘縮の予防や斜視手術件数の軽減に寄与している。手術療法としては,活動期にはステロイドパルス療法に抵抗する圧迫性視神経症に対して眼窩減圧術を施行し,非活動期には眼球突出,複視,上眼瞼後退,眼瞼腫脹に対する各種手術が行われる。原疾患であるバセドウ病の免疫学的管理と眼症状の制御を両立させるためには,甲状腺専門医と眼科医との連携が不可欠である。

はじめに

甲状腺眼症(thyroid eye disease:以下,TED)の治療は,活動期の消炎治療と非活動期の機能回復手術に大別される。活動期のTEDに対しては,ステロイドパルス療法(以下,パルス療法),放射線外照射に加え,2024年11月よりテプロツムマブ(テッペーザ®)が保険適用となった。

ただし,MRI撮影が日常診療で可能な日本においては,MRIにより眼瞼や眼窩の病変部位および炎症の有無を詳細に評価できるため,ステロイド局所注射が多くの症例で施行されている。

MRIにおいて,炎症部位が上眼瞼挙筋のみ,または単一の外眼筋に限局している症例では,局所ステロイド注射による消炎治療が行われる。パルス療法後に残存する局所炎症に対しても,追加治療として局所注射が施行される。

TEDにおいて,最も頻度が高く,かつ日常生活に支障をきたす視機能障害は複視である。

2015年6月より,斜視に対するA型ボツリヌス毒素(BTX-A)注射療法が保険適用となり,活動期・非活動期を問わずTED症例への使用が可能となった。また,保険適用外ではあるが,上眼瞼後退に対してもBTX-A注射が施行されている。

TEDに対する手術治療は,活動期に行われるのは,パルス療法などの消炎治療に抵抗する圧迫性視神経症に対する眼窩減圧術と兎眼性角膜潰瘍に対する瞼々縫合のみであり,それ以外の手術は非活動期に施行される。

高度の眼球突出や兎眼性角膜障害に対しては眼窩減圧術,複視に対しては斜視手術,上眼瞼後退に対しては上眼瞼挙筋延長術,眼瞼腫脹に対しては脂肪除去術が行われる。

本稿では,甲状腺眼症に対する眼科的治療として,局所注射療法および手術治療について概説する。

Ⅰ.ステロイド局所注射

① トリアムシノロンアセトニド眼瞼注射(Subcutaneous Triamcinolone Acetonide Injection:SCTA)[

上眼瞼挙筋の炎症性腫大に伴う上眼瞼後退,眼瞼遅滞,眼瞼腫脹が適応となる。眼瞼を冷却し,トリアムシノロンアセトニド(Triamcinolone Acetonide:以下,TA)0.3~0.5mL(40mg/mL)を眼瞼皮下に注射する。

1回の投与で約60%の症例に改善が認められ,効果は数か月持続するため,3カ月後にMRIで炎症の改善を確認し,効果不十分な場合は再投与を検討する。

1回の投与で上眼瞼の所見が改善した症例を図1に示す。有害事象として,月経異常,1型糖尿病患者における血糖上昇,皮下出血,眼瞼発赤,TAの皮下残存,頻回投与による眼瞼下垂などが挙げられる。

図1.

トリアムシノロンアセトニド眼瞼注射(SCTA)治療例(30代女性)

初診時,左上眼瞼後退,眼瞼遅滞,眼瞼腫脹を認めた症例。MRI脂肪抑制T2強調像にて左上眼瞼挙筋および周囲組織に炎症を認め(矢頭),T1強調矢状断像では左上眼瞼挙筋の腫大(矢頭)が確認された。

SCTA施行後1カ月で眼瞼腫脹が改善(矢頭),3カ月後には上眼瞼後退も改善(矢頭)し,8カ月後には眼瞼遅滞が徐々に改善(矢頭)した。3カ月後のMRIでは,上眼瞼挙筋および周囲の高信号域が消失し,腫大も改善(矢頭)していた。

② TAテノン囊下注射(Sub-Tenon TA injection:STTA)[

単一外眼筋の炎症性腫大やパルス療法後に残存する外眼筋の炎症が適応となる。点眼麻酔下にて結膜とテノン囊を切開し,腫大筋周囲のテノン囊下にTA 0.5mL(40mg/mL)を注射する。

1回の投与で2~3カ月効果が持続するため,3カ月後にMRIで炎症を評価し,必要に応じて再投与を行う。治療例を図2-Aに示す。有害事象として,眼圧上昇,白内障進行,結膜下出血などがみられる。

図2.

BTX-A治療例

A:左下直筋炎症性腫大に対してSTTA注射とBTX-A注射を施行した症例(50代男性)

初診時,正面視で左眼下斜視,上方視で左眼上転障害を認めた。MRIで左下直筋の炎症性腫大(矢頭)を確認。STTA施行後6カ月で腫大は改善(矢頭)し,BTX-A注射2回施行後に左下斜視が軽度改善したが正面での複視は残存。BTX-A注射9回施行後には正面視での複視が消失し,上転障害も改善し治療は終了した。

B:両眼の内直筋腫大に対してBTX-A注射を施行した症例(80代女性)

治療前には正面視で右眼内斜視を認め,MRIにて両眼内直筋腫大(矢頭)を確認。炎症はすでに消退していたが,手術を希望しなかったためBTX-A注射を選択。1回の注射で内斜視は軽度改善,5回投与後には正面および側方視での複視も消失し,治療を終了した。

③ ベタメタゾン球後注射

視神経症例,複数筋または単筋の高度炎症例に対し,パルス療法と併用して施行される。

下眼瞼を冷却し,ベタメタゾン4mg/1mLを球後針で経皮的に投与する。即効性は高いが,効果持続が数日間にとどまるため,頻回投与が必要となる。著者の施設では,パルス療法時や視神経症再燃時に施行している。有害事象として,皮下出血,球後出血,結膜下出血,眼球穿孔(稀)が報告されている。

なお,眼瞼所見に対するTAの経結膜注射,球後炎症に対するTAの球後注射なども施行されているが,各施設や医師により投与方法が異なり,標準化は未だなされていない。

Ⅱ.A型ボツリヌス毒素(BTX-A)注射

① 斜視に対するBTX-A外眼筋注射

第一眼位で斜視を呈する症例が適応となる。点眼麻酔下,筋電図付きの針で障害筋にBTX-A(通常初回2.5U/0.05mL)を注射する。効果不十分時は初回のみ1カ月後に追加投与可能であり,以後は12週以上の間隔を空けて投与する。

パルス療法中から施行可能であり,外眼筋拘縮による眼位異常の予防目的でも使用される。活動期に施行可能であり,外眼筋拘縮前や斜視角の小さい症例に有効[,]で,斜視手術の施行件数を減少させるとの報告[]もある。有害事象として,結膜下出血,過矯正,眼瞼下垂(内直筋・上直筋投与時),眼球穿孔(稀)が挙げられる。治療例は図2に示す。

② 上眼瞼後退に対するBTX-A注射

非活動期で手術を希望しない症例,または短期間での改善を希望する症例に対して,保険適用外ながら施行される(図3)。点眼麻酔下,経結膜より2.5U/0.1mLを投与する。

図3.

上眼瞼後退に対するBTX-A注射

A:左眼上眼瞼後退に対する治療例(30代女性)

左上眼瞼後退に対し,経結膜よりBTX-A 2.5U/0.1mlを投与。1カ月後には上眼瞼後退の明らかな改善がみられる。

B:眼球突出を伴う上眼瞼後退に対する治療例(20代女性)

左眼23mmの眼球突出と左上眼瞼後退がみられた。SCTA投与後も上眼瞼後退が残存したためBTX-A 2.5U/0.1mlを経結膜より投与し,1カ月後には上眼瞼後退は改善している。

即効性があるが,効果持続は2~3カ月であり,複数回投与が必要な場合もある。有害事象としては,結膜下出血や効果が強すぎた場合の眼瞼下垂などがみられる。

Ⅲ.手術治療

① 眼窩減圧術

パルス療法抵抗性の圧迫性視神経症(図4-A)や高度眼球突出例(図4-B)に対して施行する。一度圧迫性視神経症を発症すると消炎治療後でも22.3%の症例が眼窩減圧術を要し,特に視力0.1未満の重症例では58.3%が手術対象となる[]。眼窩内圧開放を目的に,全身麻酔下で経涙丘切開により眼窩内壁減圧を行う。眼球突出に対しては,突出改善度に応じ,外壁減圧や内外壁減圧に脂肪除去を併用する。術後合併症として複視の発症・悪化や髄液漏出が報告されている。

図4.

眼窩減圧術

A:圧迫性視神経症に対する眼窩減圧術例(50代女性)

精神症状によりパルス療法が中止され,眼窩内壁減圧術を施行。術前は両眼矯正視力が0.1であり,眼瞼発赤,腫脹,結膜充血がみられ,内外直筋の炎症性腫大(矢頭)により視神経圧迫所見を認めた。術後3カ月で眼瞼の炎症所見は消失,矯正視力は右0.5,左0.7に改善し,最終的に両眼1.0に到達した。

B:高度眼球突出に対する眼窩減圧術例(20代女性)

初診時右24mm,左22mmの眼球突出を認めた。パルス療法およびSCTAにて上眼瞼後退は改善したが,眼球突出は残存。内外壁減圧術に脂肪切除を併用し,右18mm,左17mmまで眼球突出が改善した。

② 斜視手術

非活動期に日常生活に支障をきたす複視が残存する症例に施行する。活動期から正面複視を認める症例では消炎治療を行っても30.3%が最終的に斜視手術が必要となる[]。

術式は障害筋後転術が基本で,必要に応じて拮抗筋前転術,僚眼手術を併用する。局所麻酔下の調節糸法で施行している(図5)。

図5.

斜視手術症例

左下直筋の炎症性腫大はパルス療法後に改善(矢頭)したものの,正面視での複視が残存。左下直筋後転術を施行し,正面複視の消失と上転障害の改善がみられた。

③ 上眼瞼挙筋延長術(兎眼矯正術)

上眼瞼後退,眼瞼遅滞に対して施行する。著者施設ではゴアテックス®を用いた上眼瞼挙筋延長術を行っている(図6-A)。

図6.

眼瞼手術症例

A:上眼瞼後退・眼瞼遅滞に対する上眼瞼挙筋延長術

右上眼瞼後退(矢頭)と眼瞼遅滞(矢頭)を認めた症例に対し,ゴアテックス®を用いた上眼瞼挙筋延長術を施行し,両所見とも改善した。

B:両上眼瞼腫脹に対する脂肪・皮膚切除術

両上眼瞼腫脹(矢頭)を認めた症例に対し,上眼瞼脂肪切除および余剰皮膚切除を施行し,上眼瞼腫脹の改善(矢頭)がみられた。

C:両下眼瞼腫脹に対する脂肪切除術

両下眼瞼腫脹(矢頭)を認めた症例に対し,下眼瞼の脂肪切除を行い,下眼瞼腫脹の改善(矢頭)がみられた。

④ 眼瞼脂肪切除術

眼瞼脂肪組織の増生により眼瞼腫脹が残存する症例に対して,外見上の問題ではあるが,希望に応じて上・下眼瞼いずれにも脂肪切除術を施行する(図6-B, C)。

おわりに

甲状腺眼症は,自己免疫性甲状腺疾患(主にバセドウ病)に伴って発症するため,原疾患が免疫学的寛解に至るまで,眼窩炎症を制御し眼症状の進行を防ぐことが重要である。

原疾患の増悪に伴い眼症状も再燃するが,活動期を乗り越えれば自然寛解を期待できる疾患であり,内分泌科医や甲状腺専門医と眼科医が連携して診療に取組む必要がある。なお甲状腺眼症に対する治療は,視機能障害に対する治療と,外見の変化に対する美容的な側面をもつ治療がある。保険未収載の注射や手術もあるため,保険適応の点でも課題が残っている。

【文 献】
 
© 2025 Japan Association of Endocrine Surgery

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