2023 Volume 1 Pages 5-8
2021年4月から2022年3月までの人間ドック腹部超音波検査受診者1,521例を,腹部超音波検査検診判定マニュアル(改訂版)2021年に準じて判定区分を行った結果,有所見率は臓器別では肝臓が76.0%と最も高く,その中でも脂肪肝が581例と多く見られた.また,精密検査を受診した32例の追跡調査を行った結果,20例が超音波検査と精密検査結果が一致し,その中でも膵疾患である膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)が最も多く見られた.また,12例が不一致あるいは精密検査で異常なしという結果になり,その中では肝血管腫や総胆管拡張が多く見られた.今回の調査より,短時間で対象臓器を観察できる技量を身につけ,また精査が必要な病変が描出できていたとしてもそれを見逃さないための高い能力がさらに必要になると考えられた.
Classification based on the 2021 Abdominal Ultrasonography Examination Judgment Manual (Revised Edition) was examined in 1,521 patients who underwent physical examination by abdominal ultrasonography from April 2021 to March 2022. The results showed that the liver had the highest prevalence of findings by organ (76.0%), with fatty liver being the most common (581 cases). Follow-up of 32 patients with a thorough examination revealed that 20 of these patients had results that were concordant between the examination and ultrasonography, with the most common lesion being intraductal papillary mucinous neoplasm (IPMN), a pancreatic disease. In the 12 cases with discordant or normal results on a close examination, the most common findings were hepatic hemangioma and common bile duct dilation. The results of the study suggest that improvement of skills is needed to observe target organs in a short time using ultrasonography and to avoid missing lesions that require close examination, even if they can be visualized.
人間ドックは健康状態を調べ,疾患の早期発見を目的として様々な検査を行うが,その1つに腹部超音波検査がある.この腹部超音波検査は被検者とコミュニケーションをとりながら検査を進めることができるなど,数多くの利点がある.今日,腹部超音波検査の重要性は高まり,他の検査方法に比べると無侵襲かつ簡便であることから,人間ドックにおいても広く活用されている.
2021年度に我々が行った腹部超音波検査結果での現状把握と課題認識を目的に調査を行ったので報告する.
対象は,2021年4月から2022年3月までに当院健診部人間ドック腹部超音波検査を受診した1,521例である(表1).
年代別受診者数
年代別 | 合計(例) |
---|---|
20代 | 4 |
30代 | 69 |
40代 | 273 |
50代 | 283 |
60代 | 353 |
70代 | 482 |
80代 | 56 |
90代 | 1 |
1,521 |
腹部超音波検査の方法と判定は,一般社団法人日本消化器がん検診学会の腹部超音波検査検診判定マニュアル(改訂版)2021年に準じた1).検診の前処置として絶食で施行した.検査は臨床検査技師が行い,大きな所見のない例で一人平均10分前後検査を行った.検査部位は肝臓・胆嚢・胆管・膵臓・腎臓・脾臓・腹部大動脈を中心とした上腹部である.走査は肋骨弓下・肋間走査・心窩部走査を基本とし,必要に応じて右側臥位・左側臥位・座位などの体位変換を行った.装置はCanon Aplioa/Verifia,東芝Xarioで,探触子はいずれもコンベックス型を使用した.
肝臓の有所見率が76%と最も高く,その他は表2の通りとなった.
なお,有所見率が高かった肝臓の中では,脂肪肝が581例(38%)と最も多く見られた.
臓器別の有所見率
臓器 | 有所見率(%) |
---|---|
肝臓 | 76.0 |
腎臓 | 35.9 |
胆嚢・総胆管 | 31.6 |
脾臓 | 3.4 |
膵臓 | 2.6 |
その他 | 0.5 |
人間ドック腹部超音波検査を実施した1,521名のうち,35名(2.3%)が要精密検査となった.そのうち32名が当院での精密検査を受診した.その他,1名はかかりつけ医を受診,2名は受診していなかった.精密検査の対象となった臓器別(表3)では,膵臓が最も多く,次いで肝臓,胆嚢・胆管,腹部大動脈,腎臓となった.
精密検査の対象となった臓器別
臓器 | 症例数 |
---|---|
膵臓 | 14 |
肝臓 | 9 |
胆嚢・胆管 | 4 |
腹部大動脈 | 3 |
腎臓 | 2 |
脾臓 | 0 |
精密検査の結果,人間ドック超音波検査の所見と精密検査の結果が一致した症例が20例(表4),その中で膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:以下IPMN)が10例と最も高く,次いで肝血管腫,腹部大動脈瘤となった.
超音波検査の所見から強く疑われた疾患が精密検査の結果と一致した実例
超音波検査所見 | 精密検査所見 | 合計(例) |
---|---|---|
膵嚢胞性腫瘤 | IPMN(分枝型) | 10 |
水腎症 | 腸骨動脈交差部狭窄 後腹膜線維症 |
1 |
腹部大動脈瘤 | 腹部大動脈瘤 | 2 |
多発性肝腫瘤 | 慢性肝障害 多発再生結節疑い |
1 |
肝門脈―肝静脈短絡 | 肝門脈―肝静脈短絡 | 1 |
肝血管腫 | 肝血管腫 | 2 |
肝細胞癌 | 肝細胞癌 | 1 |
胆嚢腺筋腫症 | 胆嚢腺筋腫症 | 1 |
胆石充満 | 胆石 | 1 |
超音波検査の所見から疑われた疾患と精密検査の結果が異なった症例が7例(表5),肝血管腫が3例で,他は1例ずつであった.
超音波検査の所見から疑われた疾患と精密検査の結果が異なった実例
超音波検査所見 | 精密検査所見 | 合計(名) |
---|---|---|
膵腫瘤 | 単純性膵嚢胞 | 1 |
膵描出不良 | 膵萎縮 | 1 |
腎盂拡張 | 傍腎盂嚢胞 | 1 |
肝腫瘤 | 肝血管腫 | 3 |
膵管拡張 | 単純性膵嚢胞 | 1 |
超音波検査の所見から疑われた疾患が精密検査の結果異常なしと判断された症例が5例あった(表6).5例中2例は胆管拡張を指摘した症例であった.
超音波検査の所見から疑われた疾患が精密検査の結果異常なしと判断された実例
超音波検査所見 | 精密検査所見 | 合計(名) |
---|---|---|
胆管拡張 | 異常なし | 2 |
肝腫瘤 | 異常なし | 1 |
腹部大動脈解離 | 異常なし | 1 |
膵管拡張 | 異常なし | 1 |
今回,2021年度で見られた有所見で脂肪肝が38%と最も多く見られた.近年,脂肪性肝疾患の患者数が増加し,特に非アルコール性脂肪性肝疾患(以下NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(以下NASH)が注目されている.NAFLDは,肥満やインスリン抵抗性を基盤として発生する脂肪肝のうち,アルコール性肝障害を除外したものを指し,世界的な肥満人口の増加を背景として,その増加が問題となっている.NAFLDからの発癌率は低いが,線維化を伴うNASHは発癌率が上昇するため,NAFLDの中からNASHを見つける必要がある2).今回,腹部超音波検査検診判定マニュアル改訂版に従い,高輝度肝,肝腎コントラストの上昇,脈管不明瞭化,深部減衰の増強の所見により脂肪肝と判定したが,より客観性の高い判定を目指したい.
追跡調査に関して,超音波検査と精密検査の結果が一致した中で膵疾患であるIPMNが10例と最も多く見られた.IPMNは1982年に大橋ら3)が予後の良い4例の膵癌を報告したことに始まる.膵管内で乳頭上に増殖し粘液を産生する腫瘍で,過形成から浸潤癌まで包括した臨床的概念である.無症状の人間ドック受診者では膵癌症例でも血清膵酵素が正常範囲内にあるものが少なくないため4),膵嚢胞性病変を超音波検査で描出することは大事な所見である.今回の結果は超音波検査を受診する意義を示すものであった.IPMNと確定診断するためには膵嚢胞と膵管との連続性を確認する必要があり,10 mm以下の小病変の場合,超音波検査ではしばしば困難である.そのため,磁気共鳴胆管膵管撮影(magnetic resonance cholangiopancreatography:MRCP)で膵嚢胞と膵管との連続性の確認を行うなど他のモダリティでも経過観察を行っているのが実情である.
12例が超音波検査と精密検査結果が不一致または精密検査で異常なしの結果になった.今回,腹部超音波検査と精密検査結果が異なった症例として肝血管腫が最も多く挙げられた.肝血管腫は肝の非上皮性腫瘍の中では最も多い腫瘍であり,内皮細胞で覆われた血管網からなる.肝血管腫の超音波所見では,辺縁高エコー帯(marginal strong echo)を有する等から低エコー腫瘤や混合性腫瘤,息こらえや体位変換で内部エコーが変化するカメレオンサインなど特徴的なものが見られる5).背景肝や既往歴,超音波での特徴所見を頭に入れたうえで検査を行うことによって,肝細胞癌との鑑別を行い,次の検査が必要なのか,あるいは経過観察のみで可能なのかを判断する大きな材料となる.また,精密検査で異常なしとなった中で多く見られた胆管拡張に関しては,超音波検査による胆管癌の早期診断には無症候期に軽度の胆管拡張を捉えることが重要であり6),7),人間ドックにおけるスクリーニングの意義は大きいと考えられる.しかし,不必要な検査は受診者にとって大きな精神的苦痛を与える場合も考えられる.従って,課題として考えられることは約10分の間にくまなく対象臓器を観察できる技量,精査が必要な病変が描出されていたとしても見逃さない高い能力が必要と考える.当院は健診部が併設の病院であり当院での精密検査受診率は高い.そのため精密検査結果のフィードバックを行い,他の技師との症例検討を行うことによって,知識を高める必要があると考える.
今回の調査より腹部超音波検査での現状の有症例を知ることができた.また精密検査との不一致に対しての課題を知ることができ,改めて技量と知識の向上を高める必要があると感じた.これからも人間ドック腹部超音波検査をうける意義のある検査となるよう努めていきたい.
当院健診センターの浅野純代氏,臨床検査部岩根文男氏に本文作成について多大な協力を得た.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.
本論文の要旨の一部は京都岡本記念病院研究発表会(2023年1月)において発表を行った.