2024 Volume 2 Article ID: 2024-003
入院患者の早朝採血検体(早朝病棟検体)の結果報告は始業時までに完了していることが望ましいとされている.当院において8時30分までに100%結果報告するためにはどのように改善すればよいか検討した.対策として,早出出勤時間の30分繰り上げ,臨床検査技師による早朝病棟検体の回収と照合の簡略化,分析機の有効活用を行い,効果を対策前後で比較した.対象として検査室への検体到着時間と,生化学項目(生化学)と血球計算項目(血算)について8時00分と8時30分時点での報告完了割合(報告率)を比較した.結果,到着時間はA病棟群で7時11分から6時40分となり,B病棟群についても7時18分から7時04分と早くなった.報告率は,生化学が8時00分では39.9%から86.6%,8時30分では84.5%から97.5%となり,血算は8時00分では84.8%から93.5%,8時30分では96.1%から98.3%と上昇した.報告が早くなったことで迅速な治療が行われ,早期退院,在院日数の短縮に繋がることが期待できる.
Completion of reporting of the results of early morning blood specimens (early morning ward specimens) from inpatients before the start of daytime work is considered to be desirable. Our hospital investigated how to improve the reporting rate to a target of 100% by 8:30 am. The measures included starting this early work 30 minutes earlier, and simplification of collection and verification of early morning ward specimens by clinical technologists, with use of clear targets to compare the efficiency before and after implementation of these measures. The targets were the arrival time of specimens at the inspection room and the percentage report completion (reporting rate) at 8:00 am and 8:30 am for biochemistry data and blood cell counts. The results showed earlier arrival times, with changes from 7:11 am to 6:40 am for Ward A and from 7:18 am to 7:04 am for Ward B. The reporting rates increased for biochemistry data from 39.9% to 86.6% at 8:00 am and from 84.5% to 97.5% at 8:30 am, and for blood counts from 84.8% to 93.5% at 8:00 am and from 96.1% to 98.3% at 8:30 am. The earlier reporting times and more complete reports are likely to lead to prompter treatment and earlier discharge, with a corresponding shortening of the days of hospitalization.
早朝病棟検体の検査結果を始業時までに報告することで,担当医師による結果確認及び患者の容態確認を早期に行うことができ,次の治療処置や検査,薬の処方指示等を速やかに行うことができる.臨床検査技師が早朝に病棟へ出向いて検体を回収する試みはこれまでも報告されており 1)–3),当院でも入院患者の早朝採血検体を臨床検査技師が回収し,検査を行っている.従来は始業時間である8時30分以降も回収した早朝病棟検体の測定が完了していないことがしばしばあり,8時30分以降は外来の採血検体が検査室に搬入され始めるため,早朝病棟検体と外来採血検体が混在して検査している状況であった.外来採血検体を優先的に検査するため,早朝病棟検体の測定がさらに遅延し,担当医師による結果確認が遅れることがあった.
早朝病棟検体の結果が始業時に報告されていることが望ましく1)–4),当院でも8時30分までに100%結果報告することを目標とし,今回の対策により,報告率が改善されるかを比較検討した.
対象期間として,対策前2023年2月27日~4月6日(33日分),対策後2023年7月3日~9月30日(74日分)の休日を除く,通常出勤日にて比較した.
検体に貼付されているバーコードを読み取り検査室に到着確認された時間,分析機による測定開始時間,測定終了から電子カルテへの結果報告時間を集計した.
回収時間以降に到着した検体を除外するために,8時30分までに報告できる最終到着時間を集計の区切りとし,生化学は7時50分までに,血算は8時00分までに検査室に到着した検体を対象に集計した.
評価項目として,検査室への検体の到着時間と,依頼頻度の高い生化学項目(生化学)と血球計算項目(血算)について,8時00分と8時30分時点での報告完了割合(報告率)を比較した.血算の報告率は,血液像は除外し血球計算項目のみで比較した.
生化学自動分析装置はTBA-2000FR(キャノンメディカルシステムズ株式会社)をメイン機として使用しており,実質の処理能力は10分間で約20件,1時間で120件測定可能である.現状の7時00分出勤では検体回収から測定開始までに20分程かかっていた.再検時間などを考慮すると,処理能力的におよそ100件を超える場合,8時30分までに報告することが不可能であるため,早出出勤時間を早める必要があることが当院の特徴であった.
対策前の集計グラフ(図2)及び報告率(表2),生化学自動分析装置の処理能力から生化学を効率よく測定する必要があると判明したため以下の対策を行った.
1.早出出勤時間の30分繰り上げ当院では早朝病棟検体を早出者と当直者で測定しており,早出者の出勤時間は図1に示した通りである.従来よりも早出出勤時間を30分繰り上げ,月曜日は6時30分早出1人と7時00分早出1人,火曜日~金曜日は6時30分早出1人とした.土曜日に関しては検体数が少なく7時00分早出で処理できるため現状維持とした.
検体数及び早出出勤時間
従来,早朝病棟検体の回収は病棟で採血量や採血本数が正しいかリストで照合してから検査室に戻っていた.検査室に到着後,回収道中に検体紛失が無かったか再度システム上で確認を行ってから検査を開始していた.病棟でのリスト照合は回収する全ての検体にて行うためチェックに時間がかかり,測定開始時間が遅れる要因となっていた.そこでリスト照合を廃止し,回収した検体の有無を検査室のシステム上で確認する業務のみにすることで回収時間を短縮できると考えた.蓋付きの回収ボックスを導入し,回収者がそのままの形で検査室まで搬入できる体制へ変更した.
3.分析機の有効活用従来の回収時間として,重症病床(ICU・HCU)以外の病棟は7時00分で統一されていたが7時00分にまとめて回収すると分析機による測定が滞り,スムーズな測定ができないため,回収時間を6時30分(A病棟群)と7時00分(B病棟群)に分けて回収した.さらにメイン機であるTBA-2000FRのみではなく,サブ機のTBA-120FR(キャノンメディカルシステムズ株式会社)も使用し,2台の生化学自動分析装置で効率よく測定することが出来るようにした.
対策前の検体到着時間はA病棟群で7時11分,B病棟群で7時18分であった.報告率は生化学の8時00分報告率39.9%,8時30分報告率84.5%,血算の8時00分報告率84.8%,8時30分報告率96.1%であり生化学の報告率が低めであることがわかった.
対策前の生化学集計グラフを図2に示す.7時頃に検体が到着確認されてから測定が開始されるまでの時間が,経過とともに延長し,約1時間の待ち時間で測定検体が集中していることが確認できた.
対策前の生化学集計グラフ
回収時間を早めたA病棟群での到着時間は,対策前後で7時11分から6時40分と31分,B病棟群についても7時18分から7時04分と14分早くなった(表1).
対策前後の検体到着時間
対策前 | 対策後 | 到着時間の差 | |
---|---|---|---|
A病棟群 | 7時11分 | 6時40分 | 31分 |
B病棟群 | 7時18分 | 7時04分 | 14分 |
報告率は,生化学が8時00分では39.9%から86.6%,8時30分では84.5%から97.5%となった.血算は8時00分では84.8%から93.5%,8時30分では96.1%から98.3%となった(表2).
対策前後の報告率
生化学 | 血算 | ||||
---|---|---|---|---|---|
8時00分 | 8時30分 | 8時00分 | 8時30分 | ||
対策前 | 39.9% | 84.5% | 84.8% | 96.1% | |
対策後 | 86.6% | 97.5% | 93.5% | 98.3% |
対策後の生化学集計グラフを図3に示す.到着確認から測定開始までの時間が約30~40分となり,測定検体が分散されているのが確認できた.
対策後の生化学集計グラフ
2台の生化学自動分析装置の活用率を確認するため,サブ機の活用率を表3に示す.15.3%から20.6%となりサブ機の活用率が5%上昇した.
サブ機の活用率
サブ機 | |
---|---|
対策前 | 15.3% |
対策後 | 20.6% |
早出出勤時間と回収時間が7時00分から6時30分へと30分繰り上げたこと,リスト照合を廃止し検体回収ボックスを導入したことにより,検査室への検体到着時間が短縮され,検査開始時間が大幅に早くなった.さらに回収時間を6時30分と7時00分の2回に分け,2台の生化学自動分析装置に測定検体を分散させたことでサブ機の活用率が5%上昇した.分析機の待機時間を減らし効率よく測定できたことで,検体到着から分析開始までの時間が短縮されたと考えられる.以上のことから測定に時間を要する生化学の8時00分報告率が大幅に増加したと考えられ,対策を実施後,86.6%の検査結果を8時00分には確認できる状況となった.
8時30分までに100%結果報告することを目標としていたが,8時30分報告率が100%にならない日があった.これについては取り直しの検体や追加依頼があり,取り直し検体が到着した時間で検査されたことや追加項目の報告時間で集計された事が要因と考えられる.
山口らは早朝病棟検体の回収時刻を早めることで8時30分までに大部分が処理され,早朝病棟検体と外来採血検体ともスムーズに処理できたとしている3).当院においても対策後,早朝病棟検体の97.5%の検査結果が8時30分までに確認することができる状況となり,早朝病棟検体と外来採血検体が混在して検査することが少なくなった.
医師が9時までに病棟検体の検査結果を参照することで,外来終了時刻の短縮化,病棟での指示出しから入退院調整の円滑化などの効果があったと報告されている5).当院についても報告が早くなったことで迅速な治療が行われ早期退院,在院日数の短縮に繋がり病院全体の循環が良くなることが期待できると考えられる.
早出出勤時間の30分繰り上げ,検体の回収と照合の簡略化,分析機の有効活用の対策により,早朝病棟検体の97.5%の検査結果が8時30分までに確認することができる状況となった.これにより迅速な治療に繋がり,早期退院,在院日数の短縮など病院全体の循環が良くなり,業務効率化に貢献できたと思われる.
今後も更なる改善を目指し取り組んでいきたい.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.
本論文の一部は京都岡本記念病院 第15回研究発表会(2024年1月)において発表を行った.