2024 Volume 2 Article ID: 2024-004
入退院支援を行ううえで入院時の情報収集は重要である.しかし特定集中治療室(ICU)は緊急入院が大多数を占めるため,スタッフの多くが入退院支援に対して苦手意識を持っていた.そこで情報収集の要点を示したパンフレットを作成,導入し,入退院支援への苦手意識が改善されるか,その変化を調べた.A病院ICU看護師35名を対象に看護師経験年数によって区分し,無記名自記式質問紙調査法を用いて入退院支援に関する意識調査を実施した.パンフレット作成によって,入院時情報収集と入退院支援評価シートへの入力に対する苦手意識は全体として改善がみられ,とくに経験年数0–5年目までの看護師にその傾向が強かったが,経験年数による差が認められた.今後,パンフレット内容をさらに改良し,入退院支援の充実を目指したい.
Collection of inpatient data is important to support hospitalization and discharge. However, in the intensive care unit (ICU), most patients are admitted as emergency cases, and many nurses have difficulty supporting hospitalization and discharge of these patients. Thus, we have introduced use of pamphlets with key points for collection of inpatient data with the goal of improving this support. The effectiveness of this intervention was evaluated using a self-administered anonymous questionnaire that was completed by 35 ICU nurses in hospital. In general, use of the pamphlet improved the ability of nurses to collect inpatient data and complete evaluation sheets. Improvement depends on the generation of nurses, and it was particularly good for nurses with 0–5 years of experience, since these nurses reported that frequent collection of inpatient information and utilization of the pamphlet led to this improvement. Pamphlets should be brushed up in their contents with much wider circulation.
A病院の特定集中治療室(以下,ICUとする)は,予定手術の入室より緊急入院が大多数を占め,状態が安定すれば一般病棟へ転床する.A病院看護部では入院時から入退院支援として早期から関わることを推し進めており,入院時での患者・家族・関係者からの情報収集(いわゆるアナムネ聴取)は,入退院支援を円滑に行ううえで大変重要である.入退院支援の取り組みとして,入院時・入院翌日・その後一週間に一度,入退院支援評価シート(以下評価シートとする)を用いて,「医療上の問題」,「介護上の問題」,「その他の問題」の3点について記載し,記載内容をもとに入退院支援カンファレンスを実施している.
入院時の情報収集を行うことへの思いや問題点をICUの看護師に聴取したところ,重責を感じている看護師も年代を超えて勤務しており,「何を具体的に聞けば良いのか分からない」,「どのような情報をとれば今後につながるのか分からず苦手だ」という意見が多かった.評価シートに関しても「何を書けばよいか分からず苦労している」という意見も多く,スタッフのなかで入退院支援に苦手意識を持っている看護師が多くいた.そこで,入院時の情報収集の取り組みが行いやすくなるよう,独自のパンフレットを作成した.パンフレットを活用することで,緊急入院の多いICUの「入退院支援」に対する看護師の苦手意識を減らすことができるのではないかと考え,意識調査を行った.
A病院ICU看護師に対して,入院時情報収集に特化したパンフレットを作成,導入し,その作成前後の入退院支援への苦手意識の変化を明らかにすることを研究目的とした.
A病院ICUに勤務している師長を除く35名を対象に,パンフレット導入前の事前調査として,無記名自記式質問紙を用いて入退院支援に関する意識調査を実施した(Supplementary Material S1).質問紙の内容は,看護師経験年数,入院時の情報収集や入退院支援評価シートの記載に対する苦手意識の10段階評価,実際に使用している病歴用紙および評価シートへの苦手な項目へのチェックとした.
2.パンフレットの作成および周知上記の結果をふまえ,入退院支援に関するパンフレットの作成および周知を行った.入院時情報収集に活用する院内資料のなかから入退院支援に関する項目を選択し,入退院支援を行ううえで活用できるパンフレットを作成した(Supplementary Material S2).パンフレットを作成する上で留意したことは,①パンフレットを項目別に分ける,②どのような情報が必要か根拠を踏まえ説明文を記載する,③②で記載した情報が退院調整を行うとき,入退院支援評価シート記載時にどのように活用されていくかの流れを示す,④家族の心理的状況をアセスメントしながら情報取集を行うこと,などを意識し作成した.パンフレット活用についてICUスタッフ全員へ院内メールを用いて周知を行った.また,周知が出来ているかの確認のためスタッフ全員に声かけを行った.
3.パンフレット作成後の看護師の意識調査パンフレット作成後に,無記名自記式質問紙調査法にて看護師の苦手意識がどのように変化したか意識調査を実施した(Supplementary Material S3).無記名自記式質問紙では,看護師経験年数,パンフレットに関しては,パンフレット活用の有無,活用の感想,未使用の理由についての記載を求めた.またパンフレット導入の事前調査と同様に,入院時の情報収集や入退院支援評価シートの記載に対する苦手意識の10段階評価についても質問した.
4.研究期間・事前調査:2022年10月6日~10月13日
・パンフレット作成期間:2022年10月14日~2022年12月14日
・パンフレットの運用期間:2022年12月15日~2023年1月4日
・パンフレット活用後の意識調査:2023年1月14日~2023年1月20日
研究者の所属する病院の倫理委員会に審査を依頼し,許可番号「2023-37」と承認を得た.無記名自記式質問紙票には,研究の趣旨,研究方法,研究協力の任意性,プライバシーの保護,データの取り扱いについての説明を記載し,配布時に対象者に説明した.
パンフレット作成前の事前調査において「入院時の情報収集」に対しては,看護師経験年数(以下,経験年数とする)の0–5年目,11–15年目,16年目以上の年齢層で「苦手意識あり」の回答が半数を占めていた(表1).数値では表せない内容については,以下,次のような理由が述べられていた,経験年数5年目までは,「今後退院支援としてつなげるためにどのような情報を取ると早期退院支援につながるのか不安になる」,「入院直後の家族に家屋状況を聞くのが難しい」,「伝えたいことが伝わらない(医療用語など)」と声かけの方法やタイミングなど具体的にどのように聴取をすればいいのか分からない現状があった.11–15年目までの意見では「ICUに入室してきて重症のなか,どのように聞いていいか分からない」,「状態がかなり悪い患者の家族に対して「退院後」の話は引き出しにくい」などといった他者への気遣いや配慮がみられた.16年目以上では,「病状がどうなるか分からない状況,急な発症,重篤な時に今後のことを聞きにくい」,「緊急入院のため,家族の気持ちが落ち着いていない状況で聞きだしにくい」とあった.過半数に達しなかった6–10年目の意見では「家族の思いを引き出すのが難しい」,「ソーシャルワーカーばかりに頼っているのであまり良く分かっていない」,「突然の受傷で困惑されている家族や本人に思いを聞きだしづらい」とあり,5年目までと同様に声かけの方法や聴取の時期に悩んでいた.
「入院時情報収集」に対する苦手意識(パンフレット作成前)
経験年数 | 総数(人数) | 苦手意識を 有していた人数 |
---|---|---|
0–5年目 | 9人 | 5人 |
6–10年目 | 10人 | 4人 |
11–15年目 | 10人 | 5人 |
16年目以上 | 6人 | 3人 |
回収率:97%
入院前の情報収集に特化した内容のパンフレットを作成し,周知および活用の期間を設けた結果(表2).苦手意識に変化があったと答えたのは経験年数5年目までが半数を占めた.パンフレット活用後の意見として「アナムネ聴取をする際のポイントがわかった」,「アナムネをとりやすかった」というものであった.一方,経験年数6–10年目,11–15年目,16年目以上はパンフレット活用後も苦手意識に変化がほとんど認められなかった.
「入院時情報収集」に対する苦手意識(パンフレット作成後)
経験年数 | 総数(人数) | 苦手意識に 変化が認められた人数 |
---|---|---|
0–5年目 | 10人 | 5人 |
6–10年目 | 11人 | 0人 |
11–15年目 | 7人 | 2人 |
16年目以上 | 5人 | 0人 |
回収率:94%
「入退院支援評価シート記載に対する苦手意識」では,パンフレット作成前の事前調査において経験年数に関係なく,すべての年齢層で半数以上に苦手意識を有していた(表3).
「評価シート記載」に対する苦手意識(パンフレット作成前)
経験年数 | 総数(人数) | 苦手意識を 有していた人数 |
---|---|---|
0–5年目 | 9人 | 6人 |
6–10年目 | 10人 | 6人 |
11–15年目 | 10人 | 7人 |
16年目 | 6人 | 6人 |
回収率:97%
パンフレット活用により「入退院支援評価シート記載に対する苦手意識」に多くの変化がみられたのは経験年数0–5年目で(表4),その具体的な意見としては「退院支援評価が書きやすくなった」という肯定的なものが多かった.一方,経験年数6–10年目,11–15年目,16年目以上は,「入院時の情報収集」と同様に,パンフレット活用後も苦手意識に変化がほとんど認められなかった.その具体的な意見として,「調査期間中に入院をとらなかった」,「パンフレットの存在を知らなかった」,「活用するタイミングがなかった」,「家族のところへ持っていくことなんてできない」などであった.
「評価シート記載」に対する苦手意識(パンフレット作成後)
経験年数 | 総数(人数) | 苦手意識に 変化が認められた人数 |
---|---|---|
0–5年目 | 10人 | 6人 |
6–10年目 | 11人 | 1人 |
11–15年目 | 7人 | 3人 |
16年目以上 | 5人 | 2人 |
回収率:94%
本調査によって,パンフレット作成によって,入院時情報収集と入退院支援評価シートへの入力に対する苦手意識は全体として改善傾向がみられたが,看護師経験年数による差が認められた.
とくに苦手意識に改善傾向がみられた世代は0–5年目の看護師であった.この世代の多くの看護師は,看護師経験年数・ICU経験年数が浅く,重症患者を受け持つために学習中の段階である.6年目以上の看護師が重症患者を受け持つことが多いため,0–5年目の看護師は実際に入院時情報収集に行くことが圧倒的に多い.したがって,「今後退院支援としてつなげるためにどのような情報を取ると早期退院支援につながるのか不安になる」などの情報収集に対する苦手意識に対して,パンフレットを活用したことで,入院前情報収集内容が焦点化し,苦手意識の改善につながったのではないかと考えられた.
経験年数6–10年目,11–15年目,16年目以上の看護師は,「入院時の情報収集」と「入退院支援評価シート」ともに,パンフレット活用後も苦手意識に変化がほとんど認められなかった.これら変化が認められなかった年代の中でも,11–15年目の看護師は「入院時の情報収集」で7人中2人,「入退院支援評価シート」で7人中3人と,絶対数は少ないながらも,他の年代層に比べて高い頻度を示していた.A病院での経験年数11–15年目の看護師の特徴として,他部署からの異動や中途採用者が占め,ICU歴5年以上であることが挙げられる.このことから病棟での入退院支援の経験の基礎知識があり,パンフレットを作成したことで情報が可視化され,苦手意識の変化につながった可能性があり,またこの世代は指導者の立場になることが多く,パンフレットの内容をもとに後輩指導が行われた機会もあったため,指導が学び直しにもなり,苦手意識に変化が生じた可能性が考えられた.
「入院時情報収集」については,以下の考察を行った.一般的にICUの特徴として重症度が高い患者の入院が多く,そのなかで本人や家族へ思いの聴取を行うこと,退院を見据えて情報収集を行うことに苦手意識を感じている看護師が多い.中谷らは,急性期病院では「予定入院ではない場合が多く,入院前に情報を得ることができないこと,患者は疾患による身体的苦痛が強いこと,家族は患者が生命の危機的状況に直面しており,状態が変化する可能性がある中で不安が大きいことがあげられる.そのため,患者も家族も今後の療養生活について想像することが難しい状態にある」1)と述べている.このことより,生命の危機的状況にある不安が大きい患者・家族に対して,入院直後にいわゆるアナムネ聴取を行うことへのICUのスタッフの配慮が苦手意識を生み出している一因と思われる.そのため,今回のパンフレットには家族の心理状態をアセスメントし,状況に応じて情報収集を行うよう記載したことで,タイミングを見計らって聴取すればよいという意識が生まれ,「入院時の情報収集」への全体的な苦手意識の改善につながったのではないかと考えられた.
「評価シート記載」について,世代間での差異はあるものの全世代を通じて,少数ではあるが苦手意識の変化が認められた.A病院のICUでは,一般病棟へ転床し退院の運びになることがほとんどで,退院の実際の流れの把握が不明瞭なスタッフも多くいるなかで,入院時情報収集や退院支援カンファレンスを行っている.山本らは,「病棟看護師の退院支援教育の受講は,退院支援行動を強く促すことになる」2)と退院支援教育の重要性を述べている.今回の取り組みが退院支援教育につながり,退院支援行動の結果に影響を与えた可能性があるのではないかと思われる.根拠をもった入院時情報収集を行うためには,他部署・他部門を交えた退院支援カンファレンスを重ねていくとともに,経験年数別に応じた入退院支援教育について,今後検討を重ねていく必要があると考えられる.
作成したパンフレットは現在,新人看護師や異動者対象に活用され,入退院支援に関する知識の向上のための教材として用いられている.入退院支援に求められる内容も日々変化していくため,今後もパンフレットの内容を精査し,最新情報に更新していく必要があり.そのためには転床後の状況把握や一般病棟での退院調整の状況も把握しながら学び続けていかなければならない.
将来の課題として,作成したパンフレットの使用率の向上をめざし.ICUでの入退院支援の学習を推し進めるうえで新たにデータを採取し,学習方法を検討していく必要がある.
ICU勤務の看護師に入院時情報収集についてのパンフレットを作成し,パンフレット導入前後の苦手意識の変化を調査した.パンフレットを活用することで情報収集が焦点化し,苦手意識の改善につながったと考えられ,今後,パンフレット内容をさらに改良し,入退院支援の充実から,地域医療への更なる貢献を目指したい.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.
本論文の作成にあたっては,本院看護部 青山芽久師長に適切かつ熱心な指導を受けたので,ここに謝意を表する.
なお,本論文の要旨の一部は,京都岡本記念病院 第15回研究発表会(2024年1月),第26回京都府看護学会(2024年1月)において発表を行った.
この論文のJ-STAGEオンラインジャーナル版に電子付録(Supplementary materials)を含んでいる.