2024 Volume 2 Article ID: 2024-005
2020年度の診療報酬改定に伴い「排尿自立支援加算」が新設され,それに伴いA病院でも排尿ケアチームが発足となった.そのなかで混合病棟における知識普及のための活動を行い,学習効果を確認し今後のチーム活動へ還元することを目的とし介入を行った.介入を行う前に実施した無記名自記式調査と,聞き取り調査から得られたデータをもとに知識が不足していると思われる内容についての勉強会の開催及び,実際の症例での指導介入を行った.介入半年後の同様の調査の結果では全体的に知識が向上した結果であった.また,排尿ケアチームへのコンサルテーション件数も上昇した.事前に介入対象の状況を把握したうえで介入方法を検討したことが,知識向上に繋がったからだと考える.しかし介入一年後に再調査を行ったところ,すべての結果は低下していた.学習効果は一時的なものであり,今後も継続的な介入が望まれるということが明らかとなった.
The revision of medical fees in fiscal year 2020 newly established an “additional fee for urination independence support” and urination care teams were launched in Hospital A. Knowledge dissemination in mixed wards and evaluation of learning were performed as an intervention to improve team activities. Based on data from self-administered anonymous surveys and interviews before the intervention, study sessions to address the shortage of knowledge and instructional sessions using actual cases were held. A similar survey six months after the intervention showed an overall improvement in knowledge. The number of consultations with the urination care team also increased. We believe that design of the intervention based on a preliminary understanding of the situation prior to the intervention led to this improvement in knowledge. However, a follow-up survey at one year after the intervention showed deterioration of the overall results. This suggests that the learning effects were temporary and that continued intervention is desirable in the future.
排尿は,個人の尊厳に関係する社会的行為であり,自力で排尿が可能な対象にオムツなどを強要するとすれば,しかるべき環境で排尿するという権利を侵害する可能性が発生する.また漫然と尿道カテーテルを挿入し続ける行為は,尿路感染のリスクが上昇する.そのような背景のもと,2016「排尿自立指導料」が保険収載に至った.その後2020年度の診療報酬改定に伴い「排尿自立支援加算」が新設され,診療報酬上も入院中から外来までの包括的な排尿ケアを患者へ提供することが可能となった.排尿自立支援加算とは,保険医療機関に排尿に関するケアに係る専門的知識を有した多職種からなるチームを設置し,当該患者の診療を担う医師,看護師等が,排尿ケアチームと連携して,当該患者の排尿自立の可能性及び下部尿路機能を評価し,排尿誘導等の保存療法,リハビリテーション,薬物療法等を組み合わせるなど,下部尿路機能の回復のための包括的なケアを実施する1)ことで算定される.当該患者とは,尿道カテーテル抜去後に,尿失禁,尿閉等の下部尿路機能障害の症状を有するもの,尿道カテーテル留置中の患者であって,尿道カテーテル抜去後に下部尿路機能障害を生ずると見込まれるもの1)とある.
これを受けA病院では2021年度より排尿ケアチームが発足となった.排尿ケアチームとは,施設基準に規定された条件を満たす医師,看護師,理学療法士,作業療法士からなる多職種のチームのことであり,A病院の活動方法としては,病棟看護師が尿道カテーテル挿入に至る理由にかかわらず尿道カテーテルを挿入した患者に対して,挿入4日目にカルテ上の評価シートに従い入力を行い,既往や年齢等から下部尿路機能障害発生リスクを予測し,リスクの高い患者については排尿ケアチームへコンサルテーションを行うことになっている.
排尿ケアチームは,上記の方法でコンサルテーションがあった患者に対してチームで毎週回診を行い,介入方法を検討している.この活動方法は病棟看護師がコンサルテーションを行うことが前提で成り立っている.そのため関連部署に対して各病棟のリンクナースによる活動の呼びかけと,「排尿自立支援加算」「外来排尿自立指導料」に関する手引き2)をもとに作成されたA病院の排尿自立支援指導マニュアル(文献2を元に本院で作成したもの)を活用した内容で,動画視聴形式でチーム活動の周知活動を行っていた.しかし実際の現場において看護師の認知度は低く,排尿自立支援や排尿ケアチームの存在すら知らないスタッフがいるなど,介入が行えていない状況にあった.そのなかでもB病棟は複数診療科の混合病棟である性質上,さまざまな背景を抱えた患者が多数おり,下部尿路機能障害発生のリスクが高い患者も少なくない.そのため,まずは排尿自立支援について認知してもらい介入の先駆けとすることが課題とされていた.リンクナースとして排尿自立支援についての認知度の向上,知識普及を図るためB病棟に対して介入を行った結果をここに報告する.
1.研究デザイン
介入を伴う前後比較研究
2.対象者
A病院B病棟(外科,内科,緩和ケアの混合病棟)で勤務する看護師25名
3.実施期間
2022年4月1日~2023年4月1日
4.調査方法
1)初回無記名自記式調査:2022年4月
2)勉強会:2022年5月
3)2回目無記名自記式調査:2022年10月
無記名自記式調査(表1)にて排尿自立支援に関する認知度・知識について,介入前に調査を実施した.初回無記名自記式調査の結果から知識が不足していると思われる内容について介入を行い,初回無記名自記式調査から半年後に再度同じ内容で2回目の無記名自記式調査を実施した.また初回無記名自記式調査と同時期に聞き取り調査を行った.聞き取り調査の内容としては,排尿自立支援について「認知しているか」「活動内容・活動方法について説明できるか」の2点について質問を行った.さらに介入開始前と開始から半年後,1年後で実際に評価入力が行えていた症例数の集計を行った.
無記名自記式調査表 質問項目
質問1 | 膀胱留置カテーテル挿入のリスクについて説明できる |
質問2 | 膀胱留置カテーテルの適応について説明できる |
質問3 | 排尿自立支援評価の対象者が言える |
質問4 | 排尿自立支援介入の目的が言える |
質問5 | 排尿自立支援評価のタイミングが言える |
質問6 | 排尿自立支援評価の入力ができる |
質問7 | 排尿自立支援チームの介入依頼が出来る |
質問8 | 膀胱留置カテーテル抜去後の下部尿路障害スクリーニングが実施できる |
質問9 | 清潔間欠導尿とは何か説明できる |
質問10 | 清潔簡潔導尿が実施できる |
5.調査内容
質問1~4,9,10は排尿自立支援に関する基礎知識を問う項目,質問5~8についてはカルテ入力などの実務で必要となる知識を問う項目として設定した.評価尺度は,「A:自信をもってできる」「B:自信はないが概ねできる」「C:全くできない」として設定した.
6.介入方法
初回無記名自記式調査,及び聞き取り調査実施後,A.B.C評価の割合を算出した.C評価が10%を超える項目を中心に組み込んだ内容で資料を作成し,勉強会を実施した(以下に内容を示す).
1)排尿自立支援の目的
2)排尿自立支援加算とは
3)膀胱留置カテーテル留置の適応
4)清潔簡潔導尿(CIC)とは
5)A病院でのカルテ入力方法のマニュアル
資料作成においては実際のカルテ入力の画像を用いて介入する際の方法を視覚的に理解できるよう資料作成を行った.
さらにカルテで評価入力が必要な患者を選別し,担当看護師に対して口頭で介入方法を説明しつつ一緒に評価入力を行った.
倫理的配慮
事前に研究協力者には自由意志であることと,個人が特定できないように実施することを説明し同意を得たうえで,無記名自記式調査表にて実施し,個人が特定できないように配慮した.また本研究は研究者所属施設の臨床研究倫理審査(許可番号:2023-35)を通したうえで,看護部門責任者および所属部署責任者の許可を得て実施した.
初回無記名自記式調査表の回収率は64%,2回目の回収率は58%であった(表2,表3).
初回無記名自記式調査表結果(単位:%)
A:自信をもってできる | B:自信はないが概ねできる | C:全くできない | |
---|---|---|---|
質問1 | 68.8 | 31.2 | 0.0 |
質問2 | 62.5 | 37.5 | 0.0 |
質問3 | 25.0 | 68.8 | 6.2 |
質問4 | 25.0 | 68.8 | 6.2 |
質問5 | 12.5 | 62.5 | 25.0 |
質問6 | 18.8 | 68.7 | 12.5 |
質問7 | 12.5 | 56.2 | 31.3 |
質問8 | 18.8 | 43.7 | 37.5 |
質問9 | 37.5 | 50.0 | 12.5 |
質問10 | 43.8 | 43.7 | 12.5 |
2回目無記名自記式調査表結果(単位:%)
A:自信をもってできる | B:自信はないが概ねできる | C:全くできない | |
---|---|---|---|
質問1 | 42.9 | 57.1 | 0.0 |
質問2 | 35.7 | 64.3 | 0.0 |
質問3 | 21.4 | 64.3 | 14.3 |
質問4 | 21.4 | 71.5 | 7.1 |
質問5 | 7.1 | 78.6 | 14.3 |
質問6 | 21.4 | 78.6 | 0.0 |
質問7 | 14.3 | 71.4 | 14.3 |
質問8 | 14.3 | 78.6 | 7.1 |
質問9 | 28.6 | 71.4 | 0.0 |
質問10 | 35.7 | 64.3 | 0.0 |
聞き取り調査の結果,排尿自立支援について対象全員が認知はしているという回答であった.そのうちの80%が活動内容・方法について不明であるとの回答であった.
上記の状況に対して,知識が不足していると考えられる項目に対して勉強会を実施し,さらに評価やコンサルテーションの機能を向上させるため実際の症例では口頭で介入方法を説明しつつ一緒に評価入力を行った.実際の評価入力件数は表4のとおりである.
B病棟における評価入力の状況
要介入患者 | 評価入力件数 | |
---|---|---|
介入開始前 | 3人 | 0件 |
介入半年後 | 5人 | 3件 |
介入1年後 | 4人 | 1件 |
勉強会実施後,排尿自立支援に関する内容についての問い合わせが増加した.問い合わせ内容としては,コンサルテーションが必要となる対象者の選定や,どのような場合に清潔簡潔導尿が必要となるのかなどであった.
初回無記名自記式調査と聞き取り調査の結果より,排尿自立支援について認知はされていたことが分かった.知識に関して,基礎知識を問う項目として設定した質問に対しては9割近くのスタッフが「A評価:自信をもってできる」もしくは「B評価:自信はないが概ねできる」と回答しており,基礎知識はあることがわかった.しかし,実務で必要となる知識を問う項目として設定した質問では,「C評価:全くできない」の割合が3割を超える項目もあり,排尿自立支援の評価や排尿ケアチームへのコンサルテーションは機能していないことが考えられた.
介入を行ったことで,2回目の無記名自記式調査ではほとんどの項目でC評価が減少する結果に至った.このことは,今回の介入方法は学習効果を得るには有効であり,B病棟における知識普及が図れたと考えられる.また,介入開始から半年後の評価入力件数が増加していることは,評価やコンサルテーションの機能が向上したと考えられた.
実際に部署の状況について調査を行い明らかとなった知識が不十分な項目を重点的に勉強会や指導を実施することによって,日々の業務内でのスキル向上に繋がったと考えられる.
しかし勉強会実施後,時間経過とともに実際に評価入力が行えている割合が減少する結果に至った.これに関しては,勉強会の学習効果は一時的なものであり,継続的に指導を行っていくことが重要であることと,個々の理解度に合わせた内容での伝達方法の選択が必要であることが考えられ,今後の課題となった.
B病棟で扱う排尿ケアの問題は非泌尿器科疾患が主である.吉川は「非泌尿器科疾患をケアする部門スタッフも正しい下部尿路機能評価や介入方法を学び実践する必要があり,このことにより急性期病院における排尿管理,排尿ケアに関する知識と技術の底上げが大いに期待できる.」3)と述べており,今後リンクナースとして正しい知識や介入方法を伝達し,継続した指導が望まれる.そうすることで,混合病棟であるB病棟において,患者にとってより良い排尿ケアの提供へ貢献できると考える.
また,今後排尿ケアチーム内で今回の介入と学習効果について共有を行い,他部署への知識普及の方法について検討していくことが望まれる.
個人はもとより所属部署でもある混合病棟自体のスキル向上のため,混合病棟全体で課題に取り組んでいきたい.
今回の研究での介入は,学習効果があった.それは事前の調査で明らかとなった,対象の特徴に合わせた内容で勉強会を行ったことと,実際の症例で一緒に評価を行ったことが要因になったと考えられる.
今後リンクナースとして,引き続き知識普及のために勉強会の実施や,実際の場面でスタッフと共に実践していくことが望まれる.また継続した介入を行い,一度向上した知識や学習効果を部署へ定着させることが今後の課題である.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.
本論文の作成にあたっては,本院看護部 青山芽久師長に適切かつ熱心な指導を受けたので,ここに謝意を表する.
本論文の要旨の一部は京都岡本記念病院 第15回研究発表会(2024年1月),第26回京都府看護学会(2024年1月)において発表を行った.