Okamoto Medical Journal
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Support for the decision-making of patients in the terminal phase of the disease and their families: From the viewpoint of care for the elderly patients and their families
Rinne Moribayashi
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2025 Volume 3 Article ID: 2024-008

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抄録

本院では,緩和ケアチームや多職種と情報共有を行い,家族や患者本人への病状説明の場を設け,治療方針や療養先を共に検討できるような取り組みを行っている.今回受け持った症例で意思決定支援におけるプライマリナースとしての看護の役割について考察した.実際の看護においては,患者本人や家族からの情報収集に努め,情報共有をした.情報収集・共有を行うことで,患者や家族の意思が尊重される関わりを持つことができた.患者は亡くなる1週間前まではコミュニケーションが可能であったが,その後急速に意思疎通が出来なくなり,死亡した.家族は患者本人の意思確認を十分に果たせなかったことに対する責任を感じていた.著者はプライマリナースとして,予後予測が難しい高齢者であるからこそ家族と話し合いができる時間を設けるなど,適切な説明の機会を作ることが重要であると考えた.今後,意思決定支援を行ううえで患者・家族の意思の変化に応じた関わりを続けていく必要がある.

Abstract

Our hospital makes strenuous efforts to discuss the therapeutic policies and selection of sanatoriums by sharing information with a palliative care team and other professionals, and preparing opportunities to explain the disease state to both the patients and their families. The roles of primary nurses were examined with regard to support for the decision-making in one of our cases. In nursing care, the author made efforts to collect information from the patient and family to share it with other nurses. Through these efforts, the author could develop a good relationship with the patient and family in order to carefully respect their intentions. The patient could communicate with the medical staff and family members for one week before death, but such communication rapidly became difficult. The family felt responsible because they could not sufficiently confirm the intentions of the patient. As a primary nurse, the author considered it important to provide an opportunity to explain the disease state so that an elderly patient and family could communicate as much as possible because prognostic prediction is difficult in elderly patients. In the future, it will be necessary to continuously maintain an appropriate relationship with patients and their families in order to respect their intentions and to provide the necessary support for all decision-making.

はじめに

現在の日本は超高齢社会であり,高齢者の意思決定支援について「高齢者の終末期の医療及びケア」に関する日本老年医学会の立場表明で示されているように,高齢者の終末期は多くの要因の影響を受け,多様な経過をたどり,余命予測が難しい1)と提言されている.また,人生の最終段階における適切な意思決定支援を推進する観点から「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に基づいて様々な医療政策の見直しがなされている2).上記ガイドラインでは,時間の経過や心身の状態の変化,医学的評価の変更等に応じて患者本人の意思が変化しうるものであるため,医療・ケアチームにより,適切な情報の提供と説明がなされ,本人が自らの意思をその都度家族や医療者に示し,伝えることができるような支援が必要であると述べられている3).医療従事者からの情報提供・説明に基づき話し合い,患者本人の決定を基本とし,何度も話し合いを重ね,終末期医療を進めることが最も重要とされており,患者の意思が確認できない場合には家族と十分に話し合うことが基本とされている4)

本院においても,緩和ケアチームや,多職種と情報共有を行い,家族や患者本人への病状説明の場を設け,治療方針や療養先を共に検討できるように取り組みを行っている.

今回,慢性期短期医療処置入院(以下レスパイトとする)目的で入院となったが,誤嚥性肺炎を機に状態が悪化し,最終的に意思確認がとれずに死亡した患者を受け持った.その経過のなかで,患者本人の意思尊重と家族の葛藤・心理的変化について振り返り,意思決定支援におけるプライマリナースとしての看護の役割について考察を行ったためここに報告する.

目的

終末期高齢者の意思決定支援を行っていくうえで患者や家族に対して,看護師,医師をはじめ,多職種の総合的な支援の必要性について検討することを目的とした.

用語の定義

・慢性期短期医療処置入院(レスパイト)

介護者の休息を目的とする医療保険が適応となるサービス.医療的依存度の高いショートステイの利用が困難な患者が対象となる5)

倫理的配慮

個人情報保護に配慮し,個人が特定されないよう,匿名で表記を行った.研究により得られたデータは今回の事例研究目的以外に使用しないこと,また研究を行うにあたり収集した情報は研究終了後速やかに破棄する.また,本研究は,先行研究からの知見を自らの研究に引用した場合,その先行研究について,原著者名・文献・出版社・出版年・引用箇所を明示するなどして研究を実施した.

さらに当該病院の倫理審査委員会へ研究実施申請を行い,許可番号(2024-22)を取得した.

実践内容・方法

1.実践期間

2023年9月26日~2024年6月20日

2.実践内容

1)患者・家族紹介

患者(A氏):80歳代 男性.診断名は肺癌,既往歴として数年前に脳梗塞による左半身麻痺があり,週1回の訪問看護を利用し,自宅療養していた.

家族:妻(70代),長女(看護職)

長女は看護職であるが夜勤業務が多いため,訪問看護利用日以外は,主に妻が介護を行っていた.

2)入院後の経過

A氏は自宅で妻の介護を受け療養していたが,全身倦怠感増強により体動困難となり,妻の介護負担も増大したため,1週間前後のレスパイト目的で入院となった.しかし入院後,内服時の誤嚥により呼吸状態が悪化し,誤嚥性肺炎を発症したことで絶食,点滴加療が開始となる.入院当初は,A氏も「自宅に帰りたい」という思いが強く,介護保険サービスを再調整し自宅退院予定であった.しかし,吸引等の医療処置を長女が不在の間に妻が実施することが難しく転院調整を行っていた.ところが,徐々にA氏の日常生活動作(以下ADL)が低下し,さらに黒色便がみられ上部消化管出血が疑われた.A氏の全身状態を考慮し精密検査は行わず,プロトンポンプ阻害薬の投与が開始となり,脳梗塞に対して実施していた抗凝固剤の皮下注射が中止となった.その数日後に意識レベルが低下し,トルソー症候群発症疑いのため呼吸状態も悪化し,家族に見守られるなか死亡した.

3.看護の実際と結果

A氏はレスパイト目的での入院であったが,誤嚥性肺炎発症を契機に徐々に全身状態が悪化した.入院時,退院後はA氏・家族ともに自宅で過ごすことを希望していたため,訪問看護の利用回数を増やすなどのサービス調整を行う予定であった.長女や妻が自宅で介護を行うにあたり困難感を抱いていたので,著者はプライマリナースとして情報収集に努め,退院調整を進めていた.A氏はその後,誤嚥性肺炎発症により酸素投与・吸引といった医療処置に加えオムツ交換や陰部洗浄等の看護処置が必要となった.A氏は入院後も自宅へ帰りたいと度々話していたため,訪問看護の利用回数をさらに増やしてはどうかと提案した.看護職の長女はA氏を自宅で看たいという思いが強く,吸引や在宅酸素療法などの医療処置管理は可能であったが,自身の仕事の都合により長期の休暇をとることが困難であった.さらに,妻が医療処置管理に対して困難感を抱いていたため,自宅退院は難しいとなった.そのため,主治医は家族と相談し,新型コロナウイルスによる面会制限が緩和されている病院への転院を提案した.著者はプライマリナースとして転院調整に際し,「できるだけ自宅から近いところで」といった家族の意向を受け,ソーシャルワーカーとも相談し,転院先と家族との面談日程の調整を行った.著者は家族の思いの聞き取りや,医師が説明している範囲内で情報共有を行い,家族がA氏の状態を知ることができるように極力努めた.しかし,消化管出血の疑いがあるため脳梗塞に対して行っていた抗凝固剤の皮下注射も中止となった.その結果,主治医より転院は難しい可能性があると看護師へ申告があった.その時点ではバイタルサインや意識レベルの著明な低下は認めず,家族に対して転院が難しい可能性があることについての説明はなされなかったため,転院調整を継続する方針となる.その数日後にA氏の呼吸状態は悪化したため,主治医より家族へ状態悪化についての説明があり,最期の時間を家族と過ごすことができるように付き添いの提案がなされた.A氏はその日の午後妻と長女の付き添いの下,死亡した.長女からは「医療職としてではなく,家族として父のことをいろいろと考えることができて良かったです」との発言があった.

考察

著者はA氏のプライマリナースであり,入院当初はレスパイト目的であったため,療養するうえで家族が不安に感じていることを聞き取るなど積極的に関わるように心がけた.A氏は徐々に発語も低下していったが,死亡する数日前まで簡単な会話などコミュニケーションをとることができる状態であった.しかしプライマリナースとして80代のA氏に病状変化に合わせて意思を確認することは少なかったことに気付いた.宇佐美は「高齢者が自分らしく過ごすための支援の在り方として,対象の高齢者の理解度に応じた対応や,意向確認のタイミングを見極めながら意向確認をする必要がある.」6)と述べている.死亡する1週間前まではコミュニケーションを取ることができる状態であったため,入院時のA氏の「自宅に帰りたい」という意思を聞き取るだけでなく,その後もタイムリーにA氏の意思を聞き取ることが必要であったと考えられる.また,生活背景や既往歴が要因となり,予後予測が困難な高齢者であるからこそ,看護師をはじめとする医療職者は病状に合わせた身体変化の情報を家族へ伝え,患者本人が意思決定できる時期から今後のことを相談できるようにする必要があると考えられる.岩淵らは「終末期医療において,患者によりよい選択がなされるために,医療者には,患者と家族の両方に十分な説明を行い,話し合いができるように支援していくことが求められる.」7)と述べている.本症例における長女の場合,仕事の都合により面会に来られる頻度が少なく,A氏と過ごすことができた時間が短かったのではないかと思われた.また,転院が困難と医師が判断した際に,A氏本人や家族に必要な説明が医師から直接なされておらず,また,A氏を担当した同じ医療者として,家族へ適切な情報共有ができていたかについては課題として残った.そのため,患者本人がコミュニケーションをとることができる間に,①家族と話し合いができる時間を設けること,②患者と家族双方の意見を共有できる環境づくりが必要,③医療職者として適切な説明の機会を設ける,④患者や家族との関わりを適切に記録に残すなど,様々な点においてスタッフ間で共有することが重要であると考えられる.

A氏はレスパイト目的で自宅退院を目標としていたが,転院調整へ変更となり,死亡退院となった経過を辿ったなかで,家族の気持ちも変化している.三原らは,「がん高齢患者と家族が人生の終焉を生きる場の選択・合意に向けた看護実践において,①限られた時間の中で選択しなければならないこと,②がんの進行による日々の状態変化にともない患者・家族の過ごし方に対する考え方や意思も変化すること,③家族だからこその不安や思いの揺れがあることを意識していく必要性と,支援者や場所が変わっても支援が継続されるよう院内だけでなく院外も連携を強化する必要性がある.」8)と述べている.本研究でも患者の妻が高齢であることや,A氏の状態の変化に伴い,自宅退院を断念し転院調整となった.A氏の入院前の状態や気持ちを知っている家族であるからこそ,自宅での療養に不安を抱き,転院に対しても悔しいという思いを抱いていたと考えられる.最終的には長女から「医療職としてだけでなく,家族としていろいろと考えることができて良かった」という言葉があった.そのことによって,医療職として日々変化する家族の意思や気持ちに合わせ,家族と関わることが出来ていたことが長女の最後の発言に繋がった.患者の意思はもちろん,家族が患者の状態をどのように受け止めているのか,またそれに合わせ気持ちは変化しているのかを常に確認していくことが重要であると考えた.

結論

この研究でも明らかになったように,私たち医療職者は患者・家族の生活背景,患者の病状の進行を踏まえてタイムリーな意思の確認,情報提供を行う必要がある.今後は患者の状態や家族の気持ち・意思の変化に応じ,適切な情報提供がなされ治療の決定や療養先の検討を行うことができるように支援を続けていく必要がある.

高齢者では病状の変化が予測できないため,可能な限り意思の確認を行うこと,上記で述べた課題を解決するために,プライマリナースとしての役割を考えていきたい.

利益相反

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

謝辞

本論文を作成するにあたり,看護部青山芽久師長に適切かつ熱心な指導を受けたので,ここに謝意を表する.

なお,本研究は京都岡本記念病院(2025年1月18日)および京都府看護協会(2025年1月25日)の研究発表会で発表した.

文献
 
© © 2025 Social Medical Corporation, Okamoto Hospital
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