2025 Volume 3 Article ID: 2024-010
膀胱癌と左腎細胞癌に対して膀胱,左腎臓・左尿管全摘術と尿路変向術を行い,右側腹部に尿管皮膚瘻を造設した患者に,装具交換の手技獲得に向けた指導を行った.入院前からの疾患や尿管皮膚瘻に対する患者の想いの情報収集を行い,入院後もプライマリーナースとして手技獲得に向けて計画立案を行い,チェックリストの使用やスタッフの指導内容の統一に努めた.退院後も患者の生活支援を円滑に行うため,皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC)と情報共有を行い,継続して看護介入・支援を心がけた.
これらにより手術前から精神的・身体的準備が整うことで,患者自身は装具交換に対して積極的に取り組むことができた.また,患者指導において,系統だった指導内容は患者と看護師双方において有効であった.認定看護師や外来看護師とともに,術前・入院・退院の継続した連携を行うことで,入院前の生活に戻るための支援と退院後の生活に安心感を与えることができた.
A patient with urinary bladder cancer and left renal cell cancer underwent a total cystectomy, total removal of the left kidney and left urinary duct, and urinary diversion. The author instructed the patient regarding the procedures for the exchange of devices for the treatment of a ureterocutaneous fistula on the right side of the abdominal part. As a primary nurse, the author collected information about the diseases that the patient had before hospitalization and the thoughts of the patient regarding the ureterocutaneous fistula. The author prepared a plan to prepare the patient to undergo the procedures for device exchange by using a checklist for uniform instructions to be provided by other medical staff. To support the daily life of the patient after hospital discharge, the author continued to provide nursing care intervention and support by sharing information with certified wound ostomy continence (WOC) nurses.
With this support, the patient could positively prepare for exchange of the devices by making mental and physical preparations before the surgery. In addition, organized instructions for the patient were effective for both the patient and nurses. The author could thus provide the patient with sufficient support so that the patient could comfortably resume his daily life after hospital discharge through continuous cooperation with the WOC and outpatient nurses before surgery, both during hospitalization and after hospital discharge.
膀胱癌と左腎細胞癌に対して膀胱,左腎臓・左尿管全摘術と尿路変向術を行い,右側腹部に尿管皮膚瘻の造設目的で入院した患者A氏を受け持つ機会があった.手術後はスムーズに装具交換の手技を獲得し,予定入院日数を超過することなく退院を迎えることができた.
尿管皮膚瘻の造設は,日常生活が大きく変わり,失禁状態の受容に時間がかかることが予測されるため,A氏に対して入院前から外来で精神的支援が行われていた.矢田らは「入院前からの患者支援は患者の不安を軽減し主体的に医療を受けるための支援として有益である」1)と述べている.この事例で示す予定通りの退院となった要因として,入院中の手技指導の工夫,入院前から手術後・退院後における「状況を見据えた継続的な支援」が大きく働いていると思われた.
今回の事例を通して,入院前から入院中,退院後の外来指導に至るまで,著者はプライマリーナースとしての関わりについて考察し,継続看護,連携の重要性について,また事前の精神的・身体的準備の意義について大きな学びを得たのでここに報告する.
尿管皮膚瘻を造設した患者との関わりを振り返ることで,手技獲得が必要となる患者に対する支援と,今後の看護介入を有効に活かしていくことを目的とする.
対象者には面会時に口頭で説明と同意を得た.プライバシーの観点より情報を管理し,対象患者・家族の個人情報が特定されないように配慮した.著者の所属する施設の倫理委員会に研究実施の申請を行い,許可番号(2024-25)を取得した.
2023年6月~2023年10月
2.患者紹介A氏 70歳代男性.
膀胱癌と左腎細胞癌に対して膀胱,左腎臓・左尿管全摘術と尿路変向術を行い,右側腹部に尿管皮膚瘻を造設したが,A氏は手術2か月前より化学療法を行っており,入院・通院歴があった.A氏は,化学療法の入院前には尿管皮膚瘻についてそれがどのようなものか想像もつかず,元の生活に戻れるかどうかの不安感や手術に対する拒否感があったため,主治医や皮膚・排泄ケア認定看護師(Certified Nurse in Wound, Ostomy and Continence Nursing・以下,WOCと略す)から,ストーマ全般にわたる具体的な説明を受けていた.入院後,著者はプライマリーナースとしてA氏に関わり,手術前日のストーマサイトマーキング中のA氏の表情は穏やかで,装具交換手技獲得に向けて積極的な態度を示したことを確認した.A氏は妻と二人暮らしで,ADL・IADLは自立していたが,勤勉な性格で,抗がん剤の内服を自己管理できるなど,治療に対する理解力は良好だった.趣味で水泳を行っており,退院後も水泳を継続したいという願望を有していた.
3.看護実践A氏は化学療法目的で入院していた時期があったが,その際,尿路変向術の手術によって生じる身体の変化に対する不安を訴えていたため,適宜その変化をスムーズに受け入れ,術後のイメージを膨らませるために,ストーマ会社が提供しているストーマについての動画を視聴していた.
手術前の外来受診時に,医師からインフォームド・コンセントが行われ,WOCや外来看護師がストーマについて説明し,A氏の生活背景が聴取されていた.外来通院時は看護師が身体変化の受容状況を確認し,傾聴や相談などA氏に合った支援が行われていた.そのため,手術前には「新しいからだになる.頑張らないと.」と前向きな発言がみられており,尿管皮膚瘻に対して不安は残っているが,身体変化に対する受容はある程度できているように思われた.筆者は手術後,電子カルテに装具交換の手技獲得に向けてのスケジュールを書き出し,日々担当する看護師が進捗状況を確認し,患者情報が共有できるように努めた.また,手技獲得に向け病棟内で作成されたチェックリスト(補助資料1)を使用し,A氏自身がどの程度手技の獲得ができているのか把握できるようにした.チェックリストには,1)装具を剥がす,洗浄すると言った手順に関する項目,2)蓄尿バッグに繋ぎ変えて確認するなど装具交換以外の日常生活に必要な項目,3)装具の購入方法が分かる項目,4)身体障害者手帳の申請についての社会福祉関連の項目,がそれぞれ記載されている.チェックリストを用いての指導時には,毎回,それぞれの項目について評価した.手術後1日目は疼痛や苦痛が強いため,装具交換についてのパンフレット(補助資料2)をA氏に渡し,気軽に見れるように促した.手術後2日目より指導計画に基づき,実際の指導を開始した.指導開始後は毎回交換時の様子を評価し,電子カルテに具体的にその内容を記載した.WOCに状況報告を行い,随時計画の修正を行った.
A氏は手術後,尿管皮膚瘻に対しての悲観的な発言は見られず,受容できている様子が伺え,3日に1回程度,装具交換の指導時に,「〇をもらえました.後はここを頑張ります」とチェックリストを確認し,できることが増える喜びを感じている様子だった.「これはこうやった方がいいと,前回教えてもらいました.一人でやってみます.」と意欲的な発言も見られた.術後10日目には一人ですべて交換することができるようになり,手術後17日目で退院を迎えることができた.
退院後,ストーマ外来にて退院後の生活を直接確認すると,「退院後も困ったことはなく,“新たなもの”として教えてもらったことを一生懸命しています.ストーマ外来で手技や管理を含めて評価していただき,ちゃんとできていると言われて安心します.」などの発言があった.また,入院中の指導で分かりにくかったことはないかと聞くと,「教えていただく看護師さんが違っても同じように教えていただき,混乱はなかったし,問題ありませんでした.」と笑顔で答えられた.現在は,妻と一緒に装具交換を行っているため,今後は一人で行うことができるように鏡を購入し実践していく予定だと話していた.
B病院の予定入院患者の場合,入院前からストーマに関する動画を視聴したり,WOCからストーマに関する具体的な説明が行われることで,ある程度身体変化のイメージを持ち,それに受容しつつある状態で入院することとなる.先行研究において,オストメイトのセルフケア自立度とストーマの受容度とには関係性があることが示唆されている2).A氏の場合,予定入院であり事前のインフォームド・コンセントが確実に行われていたこと,外来通院中からA氏の精神的支援を行っていたことで,A氏自身が身体変化を想像することができ,受容を容易に促すことができたのではないかと思われた.また,A氏は70歳代後半で認知機能の低下はなく日常生活が自立していたこと,趣味である水泳を退院後も行いたいという生活意欲があったことで,装具交換を前向きに取り組むことができたと考えられた.A氏はもともと勤勉な性格であり,手術前に尿管皮膚瘻に対する受容がある程度できていたことから,術後の身体変化に対して混乱することなく,手技獲得に意識を向けることができていたと推測した.深野らは「手術後の合併症の存在は患者の不安を生じやすく,ストーマへの拒否感も起こりやすい」3)と述べている.A氏の場合,術後合併症が生じず,尿管皮膚瘻に対する拒否感を起こすことがなく,装具交換に意識を向けることができていた.そのため,事前の精神準備や身体準備は術後の装具交換指導を行ううえで重要なことだと考えられた.本事例は予定入院であったため,事前の精神的支援を十分行うことができていたが,緊急入院で突然身体変化が生じる場合や理解力がない患者の場合など,様々な患者の支援を行う可能性も当然あり,それぞれの患者にあった支援を今後は考えていきたい.
一般的な看護において,石岡らは「系統だった指導は患者の理解を助け,さらには指導する側の看護者にとっても指導を方向付けるものとなり,患者,看護者双方にとって有効な影響をもたらす」4)と述べている.今回,A氏に対しチェックリストを使用することや計画立案を行うことで,どの看護師でも状況把握がしやすく,指導内容が統一できるように努めた.これより,A氏に共通の指導内容を順序立てて行うことができた.系統だった指導は患者の混乱を防ぐだけでなく,指導側の状況把握も容易になるため,無駄のない指導となり,患者の理解を促すことができると思われる.
さらに,一般的な看護の連携について,佐藤らは「関係者の情報交換を密に行い,サポート体制が必要に応じてタイムリーに取れるよう準備してすぐに対応できるシステムが重要」5)と述べている.A氏の場合においても,WOCと情報交換を密に行いサポート体制を整えることができた.また,外来で手技を評価する機会があることで手技の再確認ができ,退院後も患者のサポート体制が整っていたため,術前からの水泳という趣味を再度楽しむことができるようになっている.そのため入院時だけでなく退院後も患者のサポート体制が整っていることは日常生活において安心感を与え,元の生活を容易に取り戻すことができるのではないかと考えた.
今回A氏の場合,手技獲得がスムーズであり,WOCが事前にA氏と予定していた入院日数から大きく逸脱することなく退院まで進むことができた.これはA氏の手技獲得への前向きな取り組みだけでなく,医療職間の情報共有,WOC・外来看護師との連携が図れたことが大きな要因だと考えられる.緊急手術と違い,予定手術は事前に患者の気持ちの変化を捉え,ボディイメージの受容に対する支援を行うことができ,これにより,手術前日にはある程度尿管皮膚瘻に対する受容ができたと思われる.今回の事例は,精神的・身体的準備を整わせ,手術後も尿管皮膚瘻に対する拒否感が出現せず装具交換に意識を向け,手技獲得をスムーズにさせた成功体験として,評価したい.
手術前から精神的・身体的準備が整うことでストーマ管理に対して積極的に取り組むことができた.患者指導において,系統だった指導内容は患者,看護師双方において有効であった.認定看護師や外来看護師などと連携を行うことで退院後の生活に安心感を与え,元の生活に戻る支援ができた.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.
皮膚・排泄ケア認定看護師の藤原真奈美様,看護部の青山芽久師長にはさまざまな観点からご指導いただいたことに謝意を表します.
この論文のJ-STAGEオンラインジャーナル版に電子付録(Supplementary materials)を含んでいる.