Okamoto Medical Journal
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Review of the acceptance of a disability and the process of behavioral change in a patient with paralysis: Through involvement in the patient as a primary nurse
Yuina Kurata
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2025 Volume 3 Article ID: 2024-011

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抄録

回復期リハビリテーション病棟で右視床出血と左大腿骨遠位骨幹部骨折を受傷した患者をプライマリーナースとして担当した.患者は左上下肢に重度片麻痺の後遺症が遺り,受け止めきれず悲観的な発言があった.障害受容過程に沿って,著者は患者の思いを傾聴し,医療者と患者が同じペースで,自宅退院に向けて必要な生活動作を獲得するという目標を達成できるように心がけた.その結果,患者は退院後の生活を想定でき,自宅退院することができた.障害受容過程は,障害の受容と非受容を繰り返すので,その段階に応じた介入方法の工夫が大切であり,看護師の言動や日々の関わりの積み重ねが患者の障害受容と行動変容に影響を与えると結論した.

Abstract

As a primary nurse, the author treated a patient with a right thalamic hemorrhage and fracture of the distal shaft of the left femur in the recovery rehabilitation ward. The patient could not accept the severe hemiplegia in the left upper and lower extremities, thus causing permanent damage and made pessimistic statements about the damage. In the process of disability acceptance, the author attentively listened to the thoughts of the patient and made efforts so that the medical staff and the patient could achieve the goal at the same pace to enable the patient to carry out her activities of daily living after hospital discharge. As a result, the patient could resume daily life after discharge from the hospital to home. In the process of accepting one’s disability, patients repeatedly accept and do not accept their disability. Thus, it is important to select an appropriate intervention, depending on the individual stages of disability acceptance. It was concluded that repeated behaviors and communication of nurses with patients would have a large impact on the acceptance of a disability and behavioral change in patients.

はじめに

一般的に障害の受容においては,「障害の受容とはあきらめでも居直りでもなく,障害に対する価値観(感)の転換であり,障害をもつことが自己の全体としての人間的価値を低下させるものではないことの認識と体得を通じて,恥の意識や劣等感を克服し,積極的な生活態度に転ずることである」1)と上田は述べている.

今回,著者は回復期リハビリテーション病棟で,左上下肢麻痺に加えて左大腿骨遠位骨幹部骨折を受傷した患者A氏をプライマリーナースとして受け持った.一般病棟からの転入時は,「痛い.辛い.できない.」などと後ろ向きな発言や感情失禁も多く,麻痺が残るという現実を受け入れられない状況であった.その後,徐々に「頑張る.自分でやってみる.」等の前向きな発言が増え,自宅退院に向けた目標設定が明確になり,退院時には日常生活動作を獲得することができた.5か月間という長い入院生活のなかでの患者の心理的変化や行動変容について,プライマリーナースとしての関わりが患者にどのような変化をもたらしたのか,上田の障害受容過程1)に沿って振り返ったのでここに報告する.

倫理的配慮

倫理的配慮として当該病院の倫理審査委員会にて承諾を得て,許可番号「2024-28」を取得した.

症例

1.患者

80代女性(以下A氏)

診断名:右視床出血 左大腿骨遠位骨幹部骨折

既往歴:右大腿骨骨折(十数年前)以外はほとんど病気に罹患したことがなかった.

入院前の生活:80歳代の夫と二人暮らし.社交的な性格であり,近所の人を自宅に招きお茶会などを開いていた.娘が2人おり,比較的頻繁に両親の様子を見に来ていた.

2.入院経過

自宅で左上下肢の脱力感を認め転倒した.検査の結果,右視床出血と診断され,転倒時に左大腿骨の骨折を認めた.右視床出血に対してはカルシウム拮抗薬の持続投与にて血圧コントロールを行ったのち,内服薬に移行し,全身状態が安定した.骨折に対しては,観血的骨接合術を施行した.その後,機能回復目的のため回復期リハビリテーション病棟へ転床となった.転床時は,左上下肢麻痺と軽度感覚鈍麻があり,左上肢MMT 2/5,左下肢MMT 3/5であった.日常生活動作(以下ADLと略す)は全介助で,車椅子移乗には2~3人を要した.転床時のブルンストロームステージは上肢II,下肢IIIで,退院時には上肢III,下肢IVとなった.

看護の実際と結果

著者はプライマリーナースとしてA氏を担当した際に,身体的障害とそれに伴う感情表出が時間経過とともに変化したため,看護の実際については,はじめに述べた上田の5段階障害受容過程(ショック期,否認期,混乱期,努力期,受容期)に沿って表1として記載する.

表1

5段階障害受容過程(ショック期,否認期,混乱期,努力期,受容期)

段階期(期間) A氏の反応(A氏の発言をSで表記する) ADLの状況(看護記録からの抜粋) 実際の看護介入と実践
ショック期
(転床当初)
S)「足が痛い」
「前も骨折したんやけどな,1か月くらいで治ってん.今回も1か月もしたら動くようになると思う」
・ADL全介助で,終日オムツ内失禁していた.
・保清は機械浴.
・車いす移乗は重介助でスタッフ2~3人必要であり車椅子移動も介助が必要だった.
・鎮痛薬での疼痛コントロールを行った.
・入院前の生活の聞き取りと今の気持ちを傾聴した.
・A氏が過ごしやすいようにベッド環境を整えた.(ベッド上の非麻痺側によく使うものを置く)
否認期
(転床数週間後~1か月)
S)「ちっとも動いてくれへん」
「なんで動かへんの」
「辛い」
「この前まで普通に動かせてたのに」
「皆,私の痛みは分からへんと思うねん」
「こんな姿恥ずかしい」
・ショック期と否認期では大きくADLの違いは認めていなかった. ・その日の部屋持ち担当でなくても出勤時には必ずA氏の病室を訪室し,話す時間を作った.
・A氏の気持ちを肯定も否定もせずにただ聞いていた.
・A氏が知りたいと思ったことに対して適宜対応し,視床出血による身体への影響の説明を行った.
混乱期
(転床2~3か月)
S)「どうしたらいいかわからへん」
「できるできるって言われるけど,できてるようになってるんか分からへん」
・車いす移乗は1~2人介助で可能となった.
・短距離であれば車いす自走できるようになった.
・機械浴→シャワー浴へ移行した.
・更衣は全介助が必要だった.
・日中はトイレ誘導を行い,車いす操作や下位動作~後始末までの一連のトイレ動作は介助が必要だった.
・A氏にとっての不安がどこにあるか話を聞き,本人と一緒に考えた.
・できるようになったことを言葉でフィードバックした.「移乗の時にスタッフ3人必要だったのが2人または1人でできるようになっている」など.
・リハビリでできるようになってきたこと(立位や移乗時の足の踏み替え動作の安定性の向上,車いすを自走できるようになった)を病棟に取り入れ,動作練習できる時間を確保した.
努力期
(転床3~4か月)
S)「練習しなできひんな」
「できるって言われるのがプレッシャーな時もある」
「これでいい?できてる?」
・移乗は1人介助で可能で,日中は見守りで移乗できる時も増えていった.
・車いす自走可能となった.
・上衣の更衣は自立,下衣はベッド上であれば自立となった.
・ベッド上でリハビリパッドの交換ができるようになった.
・A氏自身,何ができるようになったと思うかを聞いた.
・一気にADLアップさせるのではなく,一つずつ,できることを増やすよう介入した.
「昨日はここ手伝ったけど,今日は全部ひとりでできましたね」「足で踏ん張る力が安定してきましたね」などと,成功体験を感じることができるように,患者本人とともに毎日の成長を振り返るようにした.
・昨日と比べてできるようになったことや,動作の安定性向上など,他者からみた変化をA氏に言葉でしっかりと伝えた.
・退院前自宅訪問指導の実施.退院後の自宅での生活を具体化し,病棟で取り入れる必要のある生活動作の訓練を行った.(ベッド上でのパッド交換やベッドからポータブルトイレへの移乗など)
受容期
(転床4か月~退院前)
S)「頑張るしかないわな」
「自分でやってみたいから準備してほしい」
「家に帰ってから私にできることは少ないけど,友達に遊びに来てもらってコーヒーでもなんでも自分たちで入れてもらうわ.私はベッドの上にいて,一緒に喋るだけでもいいか.新しい生活の始まりやと思う」
・自己にて更衣できるようになった.
・移乗動作は見守りで可能となった.
・起床時にポータブルトイレの介助をし,排泄動作を獲得した.
・起床時と日中のオムツパッドの交換ができるようになった.
・退院後の生活を想定して,自分でしなければならないことはしっかりとA氏に伝えた.
・医療者側から「やってみましょう」「できると思うから少しずつ取り組んでいきませんか」と誘うようにして介入することが多かったが,A氏自身から「自分でやってみるから準備してほしい」というような発言が増えた.
・自宅での生活と同じリズムでの介入を工夫(一例:起床時はトイレで排泄をする)
・麻痺のある自分を受け入れられるようになり,と今後の生活のビジョンを考えるようになっていた.
・本人の思い,家族の思いを聴取した.
・家族への介護指導(更衣やオムツ交換,陰部洗浄の方法や車いすの操作方法など)

考察

A氏は,今回突然の発症により麻痺という後遺症が残ったことに加えて,麻痺側の骨折を患ったため心身ともにショックが大きく病気の受け入れは難しかったと考えられる.実際,転床当初は感情失禁が多く思うようにリハビリが進まないこともあったが,段階を経ながら現実を受け止めてリハビリに取り組み,左上下肢を実用手として生活動作を獲得することができた.障害受容においてショック期,否認期,混乱期,努力期,受容期の5段階の説が提起されており,本症例においては基本的にこの段階を経て,障害受容に至った.これらは逆行や同じ段階内での現れ方の逆転や変化も生じるとされている‍1)が,本症例においてはそれぞれの段階に特徴的な言動を認めたのでこの5段階の説に従って解析した.

上田は,1)ショック期は病気の受け止めができない状況,2)否認期は受け止めはできるようになっていくが認めたくない感情が表出している状況,3)混乱期は前向きな感情と後ろ向きな感情が交互にある状況,4)努力期は自分で努力しなければならないと悟り,落ち込まないようにする感情が表出しやすい状況,5)受容期は障害を自分の個性として認められる状況であるとしている.実際,A氏においてもショック期~受容期の段階を経た.「ショック期」では受け止めが不十分であったために,著者はA氏の感情を言葉で表出できる時間を設け,肯定も否定もせずに傾聴するように関わった結果,本人が感情を整理して受け止められることに繋がった.「否認期」では障害を受け止められるようになっていたが,理解が不十分なことも多くあったため,正確な情報を伝えるように著者は努めたことで,A氏は,一部病気の理解を示すことができるようになった.「混乱期」ではできることが増えていた一方で,以前の自分と比べて「できない」「情けない」と感じやすい時期でもあったため,著者は,A氏ができることに目を向けて,前向きに物事に取り組めるように支援したが,肯定感と否定感の混在が続いた.「努力期」では,本人の努力を後押しして自信の獲得に繋げるために,著者は,明日達成できるような小さな目標設定を継続して行ったことで,A氏は成功体験を積み重ねることができ,自信に繋がった.「受容期」では医療側からは多職種関係者(看護師・リハビリスタッフ・ソーシャルワーカー),家族側からはA氏本人および家族・ケアマネージャーで退院前自宅訪問を行ったことで,A氏は退院後の生活をより具体的に想定できるようになり,より一層障害に対する受容意識が高まった.

上田は『障害受容の段階は一直線に進むものではなく時には後退することもあり,患者の感情は揺れ動きやすい』1)と述べている.本症例においても,各段階は明確に区別できる時期もあれば,混乱期と努力期,努力期と受容期を行き来することを認めた.著者はその状況を患者の立場に立って理解に努め,各段階に応じた介入を行っ‍た.

一方において,障害受容という最終目標に向かっては,外里ら2)がADLの獲得は個人の心理面に影響を与え,自己効力感や自己価値を高める効果があると報告している.今回のA氏も自分でできる生活動作が増えたことで自己に自信を持てるようになった.また,椋本3)が移動・排泄動作の獲得により機能訓練の成果が実感できると示唆しているように,A氏にとっても排泄動作の獲得がより前向きな気持ちで生活動作訓練に取り組むことに繋がり,障害を受容する要因となった.

また,岡本4)は患者の医療従事者に期待することのひとつに,医療者が相談相手となってくれることを挙げており,話していくうちに患者自身が気持ちを整理することができ自分のなかでどうすればよいか答えを導き出していくことができると示唆している.医療者は,日々の業務のなかで患者一人一人とゆっくり関わる時間が作れないことも多いが,今回,そのなかでも関わる時間を確保し,A氏が思いを表出できるタイミングを持てるように介入したことでA氏の言動や表情から細かな変化を汲み取り,場面に応じた対応ができたのではないかと考える.

結論

本症例でのプライマリーナースの関わりとして,ショック期や否認期では患者の思いをゆっくり傾聴し,患者の知りたいことに対して正確な情報を提供すること,混乱期や努力期で感情の揺れ動きがあるなかで,時に立ち止まり,背中を押す支援を行ったことが有効的であり本人の意向に沿った介入に繋がった.障害受容の段階がどこにあるのかを考え,患者の発言や表情,行動の変化を捉えていくことで医療者と患者が相違なく目標に向かって取り組むことが重要であると考える.また,障害受容の過程は行き来するものであり,段階に応じた介入方法の工夫が大切であることや,プライマリーナースの言動や日々の関わりの積み重ねが患者の障害受容と行動変容に影響を与えていることが明らかとなった.

利益相反

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

謝辞

本論文を作成するにあたり,看護部青山芽久師長と看護部村上洋子主任に適切かつ熱心な指導を受けたので,ここに謝意を表する.

なお,本研究は京都岡本記念病院(2025年1月18日)および京都府看護協会(2025年1月25日)の研究発表会で発表した.

文献
 
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