Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Dental Hygienist Corner
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2015 Volume 57 Issue 3 Pages 130-133

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はじめに

歯周病は,再発しやすい疾患であるため,歯周治療により治癒または病状安定となった歯周組織を長期間維持し,歯周病の再発を予防するためには,メインテナンス・SPTを行うことが必要です。日本歯周病学会では,メインテナンスとSPTを区別して用いており,メインテナンスは「治癒」した歯周組織を長期間維持するための「健康管理」,SPTは「病状安定」となった歯周組織を維持するための「治療」として扱っています。

歯周基本治療においてもメインテナンス・SPTにおいてもTBIやデブライドメントを行いますが,歯周基本治療では,原因を除去し良くなることを目標に行い,メインテナンス・SPTでは良くなった状態を維持していく,つまり悪くならないことが目標となりますので,基本的なスタンスが異なります。本稿では,メインテナンス・SPTを広義に解釈して,以下「メインテナンス」という単語を使い,メインテナンスのポイントについて解説いたします。

ポイント1「メインテナンスへの移行基準」

歯周治療は,歯周基本治療後もしくは歯周外科治療後,口腔機能回復治療後に歯周組織検査(再評価)を行います。再評価とは,歯周治療の各治療段階で行われた処置を,そのつど全般的な治療計画の上に立って,治療結果についての検査,患者の理解度などの総合的な評価を行うことです。その評価にて,歯周病が「治癒」または「病状安定」したと判定された場合,メインテナンスへ移行します。

歯周病の「治癒」とは,歯周基本治療,歯周外科治療,修復・補綴治療により,歯周組織が臨床的に健康を回復した状態をいい,日本歯周病学会では,歯肉に炎症がなく,歯周ポケットが3 mm以下,プロービング時の出血がない,歯の動揺が生理的範囲を基準としています。

一般的に,歯肉炎や軽度の歯周炎においては,治癒することが多いのですが,中等度以上の歯周炎においては,歯周組織のほとんどの部分は健康を回復したけれども,一部分に病変の進行が休止しているとみなされる4 mm以上の歯周ポケット,根分岐部病変,歯の動揺などが認められる「病状安定」という状態になります。

「治癒」しない要因は,全身疾患などがあって抜歯や積極的な治療が行えない,全身疾患やその投薬の影響,年齢,治療方法に対する患者さんの希望など,さまざまありますので,「病状安定」という形でメインテナンスに移行する基準は,患者さんによって異なるケースが生じます。移行する基準の厳しさによって,リスクの度合いが決まりますので,患者さんに合わせて,メインテナンスのプログラムやメインテナンス間隔の長さを調整する必要があります。

ポイント2「メインテナンスの内容」

メインテナンスの内容は,大きく分けて2つあります。1つは悪くなっていないか,あるいは悪くなるようなことが起こっていないかを確認すること,つまり問診や検査であり,もう1つが悪くならないための対応,つまりセルフケアの強化やプロフェッショナルケアです。

患者さんが来院したら,現在の口腔状態を検査し,問題点を把握し,必要な処置を行います。PMTCはリスク部位に行う処置ですから,メインテナンスのルーティンワークとせずに,処置が必要な部位やリスク部位を見極めて行うことが重要です。

1) 問診

前回来院時から今回までの間に全身的な健康上の変化や服用薬剤の変化,生活の変化がなかったかどうか,また歯科的問題が生じなかったかどうかを確認します。問診票は本人が記入しているものの,記入漏れがあったり,医科的な内容は関係ないと判断したり,自覚がない場合もありますので,口腔内,全身,生活の変化に気づくことが大切です。また,歯周基本治療中に禁煙に取り組んだ場合には,再喫煙をしていないか確認し,必要に応じて,禁煙支援をメインテナンスプログラムに取り入れていきます。

2) 検査

歯周組織検査は,初診時や再評価時の検査項目に準じて行います。また,歯周組織だけでなく,う蝕(特に根面う蝕)や舌,頬粘膜,唾液の量などにも視野を広げ,注意深く診ていきます。

メインテナンス期間中,ある特定の部位の歯周ポケットが深くなったり,歯肉膿瘍ができたり,急性症状が出た場合には,原因がわからないまま再SRPをせずに,歯科医師の指示を仰ぐことも大切です。

3) セルフケアの確認

歯周基本治療中に歯肉縁上のプラークコントロールを確立しておくものの,時間とともにモチベーションは低下する傾向がありますので,プラークコントロールを常に良好に保つことは容易ではありません。プラークコントロールが悪化すると治療効果は失われ,歯周病が再発する危険性が高まりますので,セルフケアが継続して適切に行われているかを確認します。

メインテナンスにおける好ましいプラークコントロールの程度は,Plaque Control Recordが20数%までであることが示唆されていますので,スコアを記録したり,また,メインテナンス来院時にプラークの付着が認められなくても,歯肉辺縁に残存プラークが一定期間存在していたことが示されるGingival Indexを確認して,セルフケアの弱点を把握したりします。

4) セルフケアの強化

歯周基本治療は,炎症の原因を除去することが治療の中心で,セルフケアにおいては,ブラッシングの重要性を理解してもらい,テクニックを指導し,アンダーブラッシングをできるだけ少なくすることが目標です。しかし,メインテナンス時には,アンダーブラッシングの傾向は少なく,ブラッシングのテクニックをマスターしている患者には,オーバーブラッシングに気をつけなければなりません。

さらに,歯周基本治療が終了し,露出歯根面が増えた状態でオーバーブラッシングになると,根面が摩耗し,象牙質知覚過敏症(知覚過敏)を助長することにもなりますし,アンダーブラッシングでは,根面う蝕のリスクが上昇します。つまり,メインテナンスにおけるブラッシング指導は,オーバーブラッシングにもアンダーブラッシングにもならないよう,バランスを考えながら取り組む必要があります。

5) 必要がある部位の治療

炎症の徴候もしくは炎症の進行が見られる部位,歯石が沈着している部位のみインスツルメンテーションを行います。特に,プロービング時に出血が見られる部位は,歯肉縁下の炎症の存在を表していますので,再デブライドメントを行います。しかし,歯周基本治療時にもスケーリング,ルートプレーニングを行っていますので根面の露出がみられることも多く,知覚過敏や根面う蝕のリスクが高くなりますから,オーバートリートメントにならないよう慎重に行うことが重要です。

また,修復・補綴治療が行われている場合には,メインテナンス期間中に破折や脱離,二次う蝕などが起こる場合もありますので,必要に応じて治療を行います。

6) プロフェッショナルケア

プロフェッショナルケアとは,患者自身が自ら行うブラッシングを主体とした口腔管理であるホームケアに対して,歯科医師や歯科衛生士が行う口腔管理をいい,PMTCだけでなく栄養指導や生活指導なども含まれます。

PMTCは,コントラアングルとラバーカップ,フッ化物含有ペーストを使用して,歯肉縁上および縁下1~3 mmのプラークを確実に除去することで,プラークの形成速度が減少するだけでなく,セルフケアの不十分な部分を自覚してもらったり,専門家が行うことでメインテナンスも治療の一部である事が強調でき,継続的な来院へ繋げることができたりします。さらに歯面の色素沈着物の除去や術後の爽快感は,再モチベーションに役立ちます。PMTCは,その概念の生みの親であるスウェーデンのアクセルソン先生によると,患者さんの“キーリスク部位”のリスクを取り除くことが大事な点として挙げられていますので,患者さんのリスク部位を把握して,選択的に行わないとなりません。

7) メインテナンス間隔の決定

初診時の疾患の程度,再評価時の歯周組織やセルフケアの状態,全身疾患の有無などをもとに,メインテナンスの間隔を決定します。一般的には,約3ヶ月ごとのメインテナンスが望まれますが,リスク因子によって,適宜,増減させることが重要です。

ポイント3「メインテナンス時に歯科衛生士として留意すべき視点」

1) 歯肉を読む

治療終了時や前回のメインテナンス時と比較します。炎症があれば,プラークの存在を示していますので,セルフケアの方法,唾液の量の変化や口呼吸などプラークが付着している原因を探ります。口腔内写真は継続的に比較ができるよう,規格性をもって撮影しておくことが重要です。

2) BOPの有無

プロービング時の出血は,炎症の状態を反映していることから,BOP陰性の場合,病態が安定していると考えられますが,陽性の場合は,歯肉縁下のプラークの存在を疑い,対応が求められます。

3) う蝕の有無

白濁や脱灰,歯の変色,二次う蝕などを確認します。

4) 全身状態等の把握

口腔内の情報収集ばかりでなく,生活習慣病や新たな疾患,服用薬の変更や追加,喫煙の有無,認知症や肢体の動きの制限等の加齢に伴う変化や思春期・妊娠期・更年期といったライフサイクルなども確認します。

5) 過剰な力の察知

メインテナンス時には,炎症のコントロールとして,セルフケアの強化,PMTC,歯肉縁下のデブライドメントを行うだけではなく,歯周組織に負担をかける過剰な力にも目を向ける必要があります。過剰な力は,咬耗,骨隆起,1~2歯に限定した歯の動揺,金属補綴物の著しいシャイニースポット,パラファンクション※1,アブフラクション※2,頬粘膜や舌にある歯の圧痕,数歯にわたる知覚過敏などから察知することができます。

視診やエックス線写真により,歯冠部(摩耗等),歯頚部(アブフラクション),歯根部(歯根膜腔の拡大,歯根破折,セメント質剥離)に表れる過剰な力を察知して,その原因を探り,患者さんへ悪習癖の気づきを与えたり,ブラキシズムやTCHの是正指導などにも取り組んだりすることが必要です。

6) 咬合(学会会誌歯科衛生士コーナー53巻4号「歯科衛生士として知っておきたい咬合の基礎知識」参照)

上顎の唇頬側面に人差し指の腹をそっとおいて,静かに閉口し,かみしめてもらいフレミタス※3を探ります。時には,タッピング※4や下顎を前方運動,側方運動をしてもらい,歯の動揺を確認します。

過重負担部位では,歯の動揺が進行し,骨吸収を促しますので,状況によって歯科医師に相談します。

7) インプラント(学会会誌歯科衛生士コーナー56巻2号「歯周病患者におけるインプラント治療(4)―歯科衛生士によるメインテナンスの実際―」参照)

インプラント周囲炎の早期診断と治療を行うためにも,残存歯の歯周組織とともに,インプラント周囲組織の継続的なモニタリングが必要です。インプラント周囲炎,アバットメントと上部構造の間の緩み,プラークの付着状況を評価します。

上部構造あるいはアバットメントにプラークの付着や歯石の沈着が認められた場合には,インプラント用の超音波スケーラーチップやインプラント用の手用スケーラーを用いて除去します。なお歯石沈着は,プラークの存在を意味しているので,セルフケアの強化がかかせません。

8) 義歯

義歯を装着している場合には,適合性や義歯のプラークの付着状況,義歯床下の粘膜の傷などもあわせて確認します。

パラファンクション※1:ブラキシズムと偏咀嚼,舌習癖,姿勢(猫背など)などの悪習癖からなる異常機能活動。関節や筋の非生理的な運動を誘発し,顎関節症の原因として考えられています。

アブフラクション※2:過大な咬合力によって生じる歯頚部歯質のくさび状欠損。くさび状欠損の発症原因として,歯磨剤や歯みがき法に加えて,外傷性咬合が関与します。

フレミタス※3:動揺まで至らないわずかな振動があり,早期接触または咬合干渉がみられるもの。二次性咬合性外傷の診断に用いられます。

タッピング※4:咬合面間に食物のない状態で連続的に早いスピードで下顎を開閉運動させ,カチカチと咬み合わせる運動。臨床的には,咬合,顎関節,筋などの検査・診断に利用されます。歯周組織に加わる力も弱く,間欠的なので,為害作用は比較的少ないです。

おわりに

日本歯周病学会認定歯科衛生士試験でのケースプレゼンテーションの中には,「歯周基本治療(もしくは歯周外科治療)を終え,再評価したのでメインテナンスを行っている」,「院長先生にいわれたからメインテナンスしています」と発表される方がいます。たしかに順番に誤りはありませんが,歯周治療の標準的な進め方の流れにのっているだけで,患者さんを診ていないのです。メインテナンスもしくはSPTに移行するステージで,「この患者さんは,この部位に○○のような問題点をかかえている」,「○○という理由があるため,○○という対応をしている」というように,個々の患者さんの状態を把握し,その対応について,歯科衛生士として理解していることが必要です。そのために重要なことは,歯周基本治療に対して歯周組織がどのように反応したかを評価できること,そして患者さんの問題点の抽出とその説明です。患者さんのニーズに合わせたメインテナンスプログラムを考えていくためにも,リスク部位,全身的因子(患者さん個々の歯周病感受性といった遺伝的因子や全身疾患などの生物学的因子)や環境因子(心理的,社会的ストレスなどといった社会的因子や食生活,喫煙,飲酒などの生活習慣因子)の把握が重要であり,変化を察知するとともに患者さんに伝え,必要に応じて保健指導をとりいれることが求められます。

また,長期にわたり定期的に来院してもらうためにも,十分にコミュニケーションをとっておくことも忘れてはなりません。

References
  • 1)  日本歯周病学会, 歯周病専門用語集, 第1版, 2007.
  • 2)  日本歯周病学会, 歯周病の診断と治療の指針2007, 第1版, 医歯薬出版, 2007.
  • 3)  日本歯周病学会, 歯周病の検査・診断・治療計画の指針2008, 第1版, 医歯薬出版, 2009.
  • 4)  日本歯周病学会, 歯科衛生士のための歯周治療ガイドブック-キャリアアップ・認定資格取得をめざして-第1版, 医歯薬出版, 2009.
  • 5)  日本歯周病学会, 歯周病患者におけるインプラント治療の指針.
  • 6)   ザ・ペリオドントロジー, 第2版, 永末書店, 2014.
  • 7)   中沢 勝宏: 歯科衛生士にも知ってほしい かみあわせの本.
 
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