Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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ISSN-L : 0385-0110
Original Work
Osteopontin localization in the rat gingival tissues in an experimental model of periodontitis associated with obesity-related diabetes
Yuji InagakiYukiko NakajimaMasumi HoribeTakahisa IkutaYukari KajiuraKoji NaruishiJun-ichi KidoToshihiko Nagata
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2015 Volume 57 Issue 4 Pages 149-158

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要旨

オステオポンチン(OPN)は,骨代謝を調節する骨基質蛋白であるが,最近,炎症や代謝疾患におけるOPNの役割が注目され,糖尿病患者では血中OPNレベルが上昇する。一般に糖尿病患者の歯周炎は重症化しやすいが,糖尿病関連歯周炎の重症化に関与する決定的な要因は未だ明らかにされていない。本研究は,糖尿病における歯周炎の重症化にOPNが関与するかどうかを調べることを目的とし,その手始めとして,肥満2型糖尿病自然発症ラット(DM群)と非糖尿病ラット(Control群)に実験的歯周炎を惹起させ,両者を比較してOPNの関与を検討した。実験では,上顎右側臼歯にナイロン糸を結紮し,非結紮の左側臼歯を対照側として結紮後3日目と20日目の歯周組織を取り出し,マイクロCT分析と免疫組織化学染色を行った。その結果,20日DM群ではControl群よりも重度の歯周炎が惹起され,マイクロCT分析からDM群ではコントロール群より1.3倍歯槽骨吸収度が進行し,重度の組織破壊が認められた。20日後の免疫組織化学分析では,DM群およびControl群の非結紮側の歯肉結合組織でOPNの発現はほとんど認められなかったが,DM群結紮側で著明な発現,Control群結紮側で軽度の発現が認められた。これらの結果から,糖尿病と歯周炎に関する研究に本実験系が有用であり,糖尿病関連歯周炎の重症化にOPNが関与する可能性が示された。

緒言

オステオポンチン(osteopontin:以下OPNと略す)は,骨代謝を調節する主要な基質蛋白の一つであるが,硬組織に限らず種々の組織で発現し,炎症,創傷治癒,免疫反応,癌の転移,細胞接着などに深く関与する多機能蛋白として知られている1)。とくに,OPNは炎症疾患や代謝疾患の発症と進行の調節因子として重要な指標になりうると考えられている。実際,炎症刺激を受けたマクロファージや高血糖環境下での血管平滑筋細胞では,OPN産生量が上昇し2,3),動脈硬化血管壁に形成された粥状石灰化巣からはOPNが検出される4)。さらに,肥満者や肥満マウスの脂肪細胞ではOPNが過剰発現しており5),T細胞によって産生されたOPNは心不全における炎症反応を反映していると言われている6)。また,OPNは心筋梗塞後の心筋組織の治癒に必要な蛋白であるという報告もある7)

糖尿病患者の血中OPNレベルは健常者より高いことが知られている8)。糖尿病におけるOPNは,炎症反応に伴うインスリン抵抗性を調節する重要分子であり9),グラム陰性菌のリポ多糖(LPS)が誘導する炎症においてOPNがインスリン抵抗性の指標になるという興味深い報告もある10)。さらに,2型糖尿病に由来する糖尿病性腎症の進行時,すなわち腎機能が著しく低下する際に血中OPNレベルが著しく上昇する11)。以上のように,OPNは種々の疾患に関連し,とくに,炎症疾患,肥満,糖尿病の進展における新規調節因子としての役割が注目を浴びている12)

糖尿病患者が歯周病になりやすく重症化しやすいことは周知の事実であり,糖尿病関連歯周炎(diabetes-associated periodontitis)という呼称も頻繁に使われるようになってきた13,14)。一般に,糖尿病患者の歯周炎では,著しい歯肉炎症,多発性膿瘍,重度の歯槽骨吸収が特徴的であり15),その原因として,高血糖による酸化ストレスや最終糖化産物(AGE)などの影響による免疫反応の低下やサイトカインの過剰産生が考えられている16)。しかしながら,糖尿病患者における歯周炎の重症化に関わる決定的な要因は未だ明らかにされていない。

歯周炎とOPNの関連について,慢性歯周炎患者の歯肉溝滲出液中でOPN量が増加することや,歯石中にOPNが含まれるという著者らや他のグループの研究報告がある17-19)。一方,糖尿病関連歯周炎とOPNの関連についての研究報告は調べた限りで見当たらない。そこで本研究では,糖尿病関連歯周炎とOPNの関連を調べる手始めとして,肥満2型糖尿病モデルラットに実験的歯周炎を惹起させ,歯周組織でのOPNの発現状態を免疫組織化学的に観察することによって,OPNの糖尿病関連歯周炎における役割を検討した。

材料と方法

1. 実験動物および実験的歯周炎プロトコール

本研究は徳島大学動物実験委員会の承認を得て実施した(承認番号・徳動物09089:平成21年8月11日承認,承認番号・徳動物10027:平成22年3月10日承認)。実験動物は大塚製薬(株)徳島研究所から供与を受けた肥満糖尿病ラット(OLETF)および対照群ラット(LETO)20)を用いた。OLETFラットは2型糖尿病を自然発症する動物モデルとして知られ,実験には糖尿病を発症する30週齡のOLETFラット10匹および対照ラットとしてLETOラット6匹を用いて,Setoらの方法21,22)に従って臼歯部結紮法により実験的歯周炎を誘導した。すなわち,温度23±1℃,湿度60±5%,および12時間毎の明暗サイクルに管理された飼育室において,飼育開始と同時に,実験的歯周炎を誘導するためにソムノペンチル(共立製薬株式会社,東京)を用いた全身麻酔下で上顎右側第2臼歯の歯頸部をナイロン糸(No. 5-0;夏目製作所,東京)で結紮した。飼育期間は3日間あるいは20日間とした。OLETFラット10匹の内訳は,3日群5匹,20日群5匹とし,LETOラット6匹の内訳は,3日群3匹,20日群3匹とした。結紮後3日後および20日後にラットを安楽死させ,上顎骨を採取して実験材料とした。なお,実験に先立ち30週齡ラットの体重測定を行うとともに,12時間絶食後のラット心臓から血液を採取し,臨床検査会社(SRL,東京)に依頼して空腹時血糖値,ヘモグロビンA1c(HbA1c),HDL-コレステロール,LDL-コレステロール,総コレステロール,トリグリセリド(TG)および遊離脂肪酸(FFA)の値を測定した。各ラットを識別するために,OLETFラットをDM群,LETOラットをControl群とし,結紮した右側第2臼歯部位を結紮側,未処置の左側第2臼歯部部位を非結紮側と表示して比較検討した。

2. マイクロCT解析

採取した上顎骨は10%中性緩衝ホルマリン溶液(和光純薬工業,大阪)で24時間固定した後,水洗して組織のトリミングを行い,引き続きマイクロCT(日立メディコ,東京)を用いて,ピクセルサイズ:1024×1024,撮影幅:14 μm,倍率:10倍,電圧:50 kV,電流:0.1 mAの条件下で上顎第2臼歯部のCTスキャンを行った。得られた3次元CT画像からTokunagaら23)の方法に従い,歯槽骨高径を測定し歯槽骨吸収の指標とした。すなわち,頬側近心部,中央部,遠心部のセメントエナメル境(cement-enamel junction:CEJ)と歯槽骨頂(alveolar bone crest:ABC)間の距離3部位(頬側近心部,中央部,遠心部)をそれぞれ測定した。測定に際しては2名の測定者が計測し,その平均値を各部位のCEJ-ABC値とした。この計測作業をDM群10匹,Control群6匹について行い,CEJ-ABC値を求めて歯槽骨吸収の指標とした。

3. 組織切片解析

マイクロCTでのスキャンが終了した上顎骨試料は,そのまま組織切片用試料として用いた。Setoらの方法21,22)に従って,試料を10%EDTA(和光純薬工業)で28日間脱灰した後,パラフィン(Paraplast® Plus,Sigma,St.Louis,USA)に包埋した。切片は前頭断標本とし,ロータリーミクロトーム(Model HM 360,Microm International GmbH,Walldorf,Germany)を用いて,断面が上顎第2臼歯近心根と平行になるようにミクロトーム上で試料を固定し,厚径6 μmで薄切した。引き続きスライドガラス上に展開した臼歯部組織切片に対して,通法に従って抗原賦活化を行った後,ウサギ由来抗ラットOPNポリクローナル抗体(免疫生物研究所,群馬)と免疫染色試薬(ヒストファインシンプルステインラットMAX-POおよびシンプルステインDAB溶液,ニチレイバイオサイエンス,東京)を用いて免疫組織化学染色を行った。染色した切片は光学顕微鏡を用いて観察し,OPNの局在を各群間で比較した。

4. 統計分析

DM群およびControl群の体重,空腹時血糖値,HbA1c,HDL,LDL,総コレステロール,TGおよびFFAの値を,それぞれ平均値±標準偏差で表示した。また,歯槽骨吸収度は,DM群10匹(3日後5匹,20日後5匹)およびControl群6匹(3日後3匹,20日後3匹)の結紮側3部位,非結紮側3部位のCEJ-ABC値を平均値±標準偏差で表示した。DM群とControl群間あるいは結紮側と非結紮側間の統計的有意差検定はMann-Whitney U-testを用いて行い,有意水準はp<0.05とした。

結果

1. 肥満糖尿病ラット検査

1に30週齡のOLETFラット(DM群)とLETOラット(Control群)の外観を,図2にそれらの体重,空腹時血糖値,HbA1c,HDL,LDL,総コレステロール,TGおよびFFAの値を示す。DM群はControl群と比較して,体重は1.3倍,血糖値は1.6倍,HbA1cは1.4倍,HDLは1.9倍,LDLは1.9倍,総コレステロールは1.7倍,TGは8倍およびFFAは2倍と高値を示し,30週齡OLETFラットが実際に肥満および高血糖であり肥満2型糖尿病の病態を示していることが確認された。

図1 2型糖尿病を自然発症した30週齡OLETFラット(DM群)と対照として用いた30週齡非糖尿病LETOラット(Control群)。バーの長さ=5 cm。
図2 (A)30週齡DM群(■)とControl群(□)ラットの体重,血糖値およびHbA1c。各群の平均値±標準偏差を棒グラフで示す(DM群:n=5,Control群:n=3)。*p<0.01,**p<0.05。(B)30週齡DM群(■)とControl群(□)ラットの血中脂質関連因子の濃度。各群の平均値±標準偏差を棒グラフで示す(DM群:n=3,Control群:n=3)。**p<0.05。

2. マイクロCT解析

結紮20日後における上顎第2臼歯部の代表的なマイクロCT像を図3に示す。非結紮側では,DM群もControl群も歯槽骨吸収像は認められなかった。結紮側では,歯槽骨吸収がDM群,Control群ともに認められ,歯槽骨吸収の程度はDM群で著しく進行し,骨吸収が根分岐部まで達しているのが観察された。

4に各群のCEJ-ABC値を比較したグラフを示す。結紮後3日目においてControl群では変化がなかったが,DM群では,結紮による影響がすでに現れており,結紮側は非結紮側と比較して1.5倍のCEJ-ABC値を示していた。一方,結紮後20日目では,非結紮側で,CEJ-ABC値がDM群:319.6±91.6 μm,Control群:331.9±108.3 μm,結紮側で,DM群:1134.9±256.4 μm,Control群:855.3±111.3 μmであった。すなわち,20日目では3日目と比べて結紮の影響がさらに大きくなり,20日目の結紮側では非結紮側と比較してDM群で3.6倍,Control群で2.6倍と有意に高いCEJ-ABC値を示した。さらに,結紮側のDM群とControl群を比較すると,DM群のCEJ-ABC値がControl群よりも1.3倍有意に高かった。すなわち,肥満2型糖尿病ラットでは非糖尿病ラットよりも重度の歯槽骨吸収が起こり,組織破壊が進んでいることが明らかとなった。

図3 30週齡DM群とControl群ラットに惹起された実験的歯周炎の代表的なマイクロCT像。写真は臼歯部結紮後20日目の上顎第2臼歯部の歯槽骨レベルを示す。
図4 DM群(■)とControl群(□)の歯槽骨吸収レベル(CEJ-ABC値)。データは,結紮後3日目および20日目に各群の上顎第2臼歯部結紮側および非結紮側3部位(頬側近心部,中央部,遠心部)から得られたCEJ-ABC値の平均値±標準偏差(DM群:n=15,Control群:n=9)を棒グラフで示す。*p<0.01,**p<0.05。

3. 組織学的解析

結紮20日後の代表的なOPN免疫組織化学染色像を図5(弱拡大像)と図6(強拡大像)に示す。図5(A)(B)で観察されるように,歯肉組織以外では,歯根膜,骨基質,筋肉組織にOPNの局在が認められた。歯肉結合組織におけるOPNの局在は非結紮側にはほとんど認められなかったが,結紮側ではDM群,Control群ともに認められた(図5(A)~ (D))。次に図5における組織像を拡大して観察すると,図6に示すように,Control群結紮側の歯肉上皮直下の結合組織で軽度のOPN染色像がみられるのに対し,DM群結紮側の結合組織では細胞間基質全体に強いOPN染色像が認められた。以上のように,実験的歯周炎を惹起させた歯肉結合組織にOPNが局在し,とくに結紮後20日目の歯槽骨吸収が進んだ肥満2型糖尿病ラット歯周炎の歯肉結合組織に広範なOPNの局在が認められた。一方,歯肉上皮組織を観察すると,結紮側,非結紮側にかかわらずDM群の歯肉内縁上皮表層にOPNの局在が認められたが,Control群では認められなかった。

図5 DM群とControl群の実験的歯周炎部位におけるオステオポンチン(OPN)の免疫組織化学染色像。結紮20日目の非結紮側DM群(A)とControl群(B),および結紮側DM群(C)とControl群(D)。OPN濃染部を赤矢印で示す。拡大倍率100倍,バーの長さ=200 μm。
図6 DM群とControl群の実験的歯周炎部位におけるオステオポンチン(OPN)の免疫組織化学染色の強拡大像。図5(A)~(D)の四角で囲った部位の拡大。OPN濃染部を赤矢印で示す。拡大倍率200倍,バーの長さ=100 μm。

考察

2型糖尿病の実験モデル動物として,OLETFラット,ZDFラット,SDTラットがよく知られており,これらのラットでは成長とともに肥満,腎障害,網膜障害,性機能障害などを合併する点でヒトの糖尿病と同様の病態を示す24)。OLETFラットは,2型糖尿病の動物モデルとして1992年にKawanoら20)によって開発され,ストレプトゾトシンなどで膵臓のβ細胞を故意に傷害する糖尿病動物モデルと違って,糖尿病を自然発症する点で優れた実験モデルと言える。またOLETFについて文献検索を行うと(PubMed Central®,U.S. National Institutes of Health's National Library of Medicine),860件の関連論文が抽出されることからも,近年OLETFラットが2型糖尿病研究に頻用されているのが分かる。本研究においても,飼育するだけで30週齡OLETFラットに糖尿病が確かに発症していた。

歯周炎動物モデルに関しては,ストレプトゾトシン糖尿病ラットに実験的歯周炎を惹起させた研究が多々報告されている25-27)。また,2型糖尿病ZDFラットに実験的歯周炎を惹起させた研究は3例報告されている28-30)。一方,OLETFラットを用いて実験的歯周炎を惹起させた研究は調べた限りで見当たらないことから,本編が初めての報告であると言える。本研究で,結紮による実験的歯周炎をOLETF糖尿病ラット(DM群)に惹起させると,LETO非糖尿病ラット(Control群)と比べ,根分岐部病変を伴う重度の歯槽骨吸収が誘導された。この結果は,2型糖尿病ラットの重度歯周炎モデルとしての本実験系の有用性を証明するものである。現在までに,著者らは結紮による実験的歯周炎ラットを用いてマイクロCTや組織学分析などの形態分析を行い,歯周炎に対する骨代謝関連薬剤の歯槽骨への効果を検証してきた21-23)。今後は,実験的歯周炎の系をOLETF糖尿病ラットに拡大することで,糖尿病関連歯周炎に関する研究をさらに進展させることができる。

OPNは,糖尿病ラットの実験的歯周炎(DM群結紮側)の歯肉結合組織細胞間基質に広範に局在していた。OLETF糖尿病ラットの腎機能に障害を与えると腎尿細管のOPN産生が亢進したとする報告があるが31),本研究においてはDM群非結紮側の歯肉結合組織にほとんどOPNの局在が認められなかったことから,腎機能の障害によるものではなく,実験的歯周炎の進行に伴って局所のOPNの発現が上昇したと考えられる。すなわち,炎症の進行および歯槽骨の吸収を含む組織破壊に呼応して局所でのOPNの発現が増加したものと考察される。一方,20日目の歯肉内縁上皮表層では,結紮・非結紮にかかわらずDM群のみにOPNの局在が認められた。この結果は結紮による炎症刺激ではなく高血糖という全身因子が上皮におけるOPNの発現を誘導したものと考えられる。大腸のような粘膜上皮組織で発現するOPNは粘膜表層を保護する役割があるという報告32)から,高血糖下でのOPNの発現は上皮保護機能と何らかの関連があるのかもしれない。

DM群の血中脂質を評価すると,従来の報告33)と一致して総コレステロールやTGなどの値がControl群よりも有意に高いことが確認された。近年,糖尿病モデルマウスを用いた研究において,血管周囲の脂肪組織由来のレジスチンがAP-1シグナル経路を介して血管内皮のOPN産生を誘導することが報告された34)。また単核球と脂肪細胞を共細胞培養すると,脂肪細胞由来のインターロイキン(IL)-6によって単核球からのOPN分泌が上昇するとの報告もある35)。これらの報告からも,本研究におけるDM群のOPN産生は,高血糖のみならず肥満関連因子によっても少なからぬ影響を受けている可能性がある。

次に,今回の実験でどの細胞がOPNを産生したかについて論点となるが,今回のデータだけでは細胞を特定することは難しい。しかしながらOPNはマクロファージのような炎症性細胞で発現し,LPS,一酸化窒素(NO),IL-1β,TNF-αなどの刺激によって産生が高まるという報告2,12)を参考にすると,実験的歯周炎局所に集積したマクロファージやT細胞がOPNを分泌した結果,OPNが歯肉結合組織の細胞間基質に蓄積されたものと推察される。これまでに著者らは,高血糖の直接的な作用によって歯髄細胞でOPNの産生が誘導されることを報告した36)。また他の糖尿病ラットを用いた研究では,高血糖がp38 MAPK経路を介して腎でのOPN産生を誘導することが報告され37),さらに糖尿病患者を対象にした臨床研究では,患者の血中OPN量が有意に高いことも報告された8,38)。これら一連の研究は,それぞれ高血糖による直接的なOPN産生の誘導を示したものであり,高血糖がOPN産生のトリガー因子であることを支持するものである。しかしながら,本研究ではDM群であっても非歯周炎部位の歯肉結合組織にOPNの局在をほとんど認めなかったので,糖尿病関連歯周炎の局所におけるOPN産生には高血糖以外の因子の影響が考えられる。単核球と脂肪細胞の共細胞培養系におけるOPNの発現上昇がToll様レセプター(TLR)4の活性化と高濃度グルコースによって増強するとの報告35)や,歯肉上皮細胞を用いた研究で高濃度グルコースがTLR4の発現を上昇させるとの報告39)から,一つの仮説として,本研究では結紮による組織傷害で発生したヒートショックタンパク質などの内在性因子によってTLR4が活性化され,そこに高血糖や肥満関連因子が加わることによってOPNの発現が増強した可能性が考えられる。LPSで活性化されたマクロファージはNF-κBやAP-1を介してOPN産生を促すことが報告されており40),実際の糖尿病関連歯周炎では,局所に浸潤したマクロファージがLPSによって活性化され,さらに高血糖によってLPSの標的レセプターであるTLRの発現が上昇することでOPN産生が増強する経路が考えられ,これを明らかにすることは将来の重要な研究課題である。

一方,AGEは糖尿病関連歯周炎における組織破壊の重要な因子であり16),糖尿病患者の歯肉組織には多量のAGEが蓄積している13)。著者らは,糖尿病における歯周炎悪化にPorphyromonas gingivalis由来LPSとAGEとの共同作用によって歯槽骨破壊が促進される可能性を示したが41),今回の結果では,DM群非結紮側の歯肉結合組織ではOPNの局在が認められないことから,本研究におけるAGEとOPNの直接的な関連は見出せなかった。AGEとOPNの関連については,血管平滑筋細胞や歯髄細胞でAGEがOPNの発現上昇を介して血管や歯髄の石灰化を促進するとの報告がある42,43)。これまでに著者らは,培養歯髄細胞でAGEがS100A8,S100A9,IL-1βなどの炎症性サイトカインの産生を誘導することを報告したが44),AGEがOPNの発現を介して局所の炎症や組織破壊に関与するという報告はなく,糖尿病関連歯周炎の進展におけるAGEとOPNの関連性には明らかにすべき点が多い。

OPNがその発現を通じて糖尿病関連歯周炎の重症化にどのような役割を果たしているかについては不明である。一般に,OPNは細胞表面のCD44,αvβ3やαvβ5などのインテグリンに結合し,NF-κBやAP-1などの転写因子を活性化して種々の炎症関連遺伝子の転写を促進すると考えられている12)。例えば,OPNはメラノーマ細胞においてNF-κB経路を介して膜結合型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT1-MMP)の発現を誘導し,さらにMMP-2などの蛋白質分解酵素を活性化する45)。一方,OPN中和抗体でマクロファージの皮膚,肝臓,脂肪組織への浸潤が抑制されることや46,47),関節リウマチにおける単球の関節部位への浸潤抑制も明らかにされており48),OPNは炎症性細胞の遊走や接着などの細胞機能を制御している。さらに,マクロファージからのIL-12の分泌誘導やIL-10の分泌抑制も促すことから49),OPNは炎症性サイトカインの分泌調節機能も有していることが指摘されている。このようにOPNは炎症の様々な段階で種々の機能を発揮しており,糖尿病での歯周炎の重症化においても何らかの重要な役割を果たしているに違いない。したがって,本実験系を活用することによって今後新たな知見を提示し,糖尿病関連歯周炎におけるOPNの意義を追求する必要がある。

結論

肥満2型糖尿病自然発症ラットの上顎臼歯部に惹起させた実験的歯周炎では歯槽骨吸収が著しく進んでおり,本実験系は糖尿病における歯周炎重症化研究モデルとして有用であった。また,当該部の歯肉結合組織で広い範囲にOPNの局在が認められ,糖尿病における歯周炎の重症化にOPNが関与する可能性が示唆された。

本研究の一部は日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号22592314)の助成を受けて行われた。

利益相反

著者全員について開示すべき利益相反事項はない。

References
 
© 2015 by The Japanese Society of Periodontology
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