Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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New educational curriculum of periodontology
Daisuke SasakiYoshito OkawaShuntaro ItoNaoki TakisawaYoshinori AndoKyosuke SuwabeOsamu MuraiTakashi Yaegashi
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2016 Volume 58 Issue 2 Pages 81-85

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緒言

歯周病は成人の大多数が罹患1)しており,歯周病学・歯周治療学は歯科学生の教育において,特に歯科臨床の根幹をなす重要な領域である。診査から診断,歯周基本治療,歯周外科治療,口腔機能回復治療,メインテナンスあるいはSPTに至るまで歯周治療の基本的な流れ2)を歯科学生が修得することは,大多数の成人の歯科治療を進める際,一口腔単位としての治療計画を立案し実際に展開する上で必要不可欠である。

歯科大学は歯科医師養成の教育機関であることは言うまでも無い。歯科医師の養成が修了年限内に確実にできることが歯科大学の義務であり,存続の最低条件である。文科省医学教育課からの報告3)によれば,平成20年4月に歯科大学・歯学部に入学後,留年せずにストレートで第107回(平成26年)歯科医師国家試験に合格した割合は日本の歯学部全体で53.9%(国立:70.9%,私立:47.5%)である。全体として歯学部入学生の約半数が途中で留年もしくは国家試験不合格であることは明らかな問題であり,そのため歯学部に入学後,留年せずにストレートで歯科医師国家試験に合格するように教育を改善することが各歯科大学に強く求められている。特に保護者の経済的負担が重い私立歯科大学では,入学生確保(存続)に関わる喫緊の課題である。

国家試験合格率の低下は,結果的に私立歯科大学を中心に大学教育の中で知識習得を優先させ,見学主体の臨床実習が多くなったとされる。このような状況に危機感をもって文部科学省は診療参加型実習の実施と充実を強く求めている4)。歯科学生がそれまでに学んだ知識を集積させ,患者を前に自らが実際に対処できる臨床技術が密接に連動してこそ初めて本来の臨床実習が実現可能であり,決して座学のみでは解決できない。臨床実習の意義を無視した国家試験予備校化は歯科大学にあってはならない。

ストレート進級率・国家試験合格率向上と診療参加型実習のさらなる充実は,現在全ての歯科大学に早急に教育改革すべき事項として求められている課題である。今回,岩手医科大学歯学部での教育改革に併せて米国ハーバード大学歯学部(HSDM)の現行カリキュラムを参考に新規導入した歯周病学教育カリキュラムと受講学生のアンケート概要について報告する。

対象および方法

教育改革の一環として,平成23年度から岩手医科大学歯学部では5年次の診療参加型実習がより効果的に達成できること,学生に分かりやすい講義・実習を念頭に検討した。その結果,米国ハーバード大学歯学部(HSDM)において実際に現在進行中の教育プログラムを参考に全分野の教員で検討し,本学の実態に適合した臨床系コースカリキュラムとして立案,導入した。

臨床実習(5年次)開始前の新カリキュラムとして講義・実習は約1年半の間(3年次途中から4年次終了時)で編成し合計7つの臨床コースを導入した。具体的にはHSDM現行カリキュラムを参考に,歯科患者の新患対応から,診査・診断,治療計画立案,各臨床の専門分野の歯科治療(保存,補綴,口腔外科,小児歯科,矯正歯科,障害者歯科,インプラント他)に至るまでの一連の流れを7つのコースに分け,可能な限り歯科診療の流れに沿ったカリキュラム編成とした。その大きな教育改革の流れに沿って歯周病学教育も,以前は1年間かけて週に1回程度の分散配置で教えていた歯周病学の講義・実習を「歯周治療の流れ」を基本として約2週間に全て集約し再編成した。その新カリキュラムを履修した平成26年度の岩手医科大学歯学部5学年および6学年の歯科学生107名を対象に6段階評価によるアンケート調査および平成25年度に新カリキュラムを受講した3学年の歯科学生57名を対象に自由解答のアンケート調査をそれぞれ実施した。

結果

歯周病学教育カリキュラムは7つのコースプログラムの中で3番目の口腔治療学(硬組織,歯髄,歯周組織疾患)コースの中に保存修復学,歯内療法学,口腔外科学とともに統合した。従来の1年間の細切れ分散配置から,歯周領域で特に重要な教育項目を優先的に約2週間に全て集約し,午前中の講義で歯周病学に関する知識を修得させ,その修得した知識を背景に午後の実習で技術習得させる新構成とした(図1)。

歯周病学講義,実習の順序も原則として「歯周治療の流れ」を基本とし,歯周病の診査・診断,治療計画の立案から歯周外科治療までの流れに基づき,午前の講義で知識を修得させ,午後の実習で具体的な技術修得のための関連実習(歯周外科技術修得のための豚顎骨体験型実習等)を新規導入した(図2)。

平成26年度の岩手医科大学歯学部(新カリキュラムを全て履修済み)5学年および6学年の歯科学生107名を対象に,実際に受講したコース制のカリキュラムに関するアンケート調査(6段階評価)を実施した(図3)。その結果,「各科目の知識がつながり理解が深まった」,「包括的診療の修得ができた」と答えた学生が半数以上に上った。また「講義内容に即した実習を同日に行うことによって理解が深まった」と学生の約3/4の大多数が答えている。そしてこのコース制によって結果的に「歯科医師となるモチベーションが上がった」と答えた学生も半数以上であった。一方,集約させたが故の問題も認められ,「カリキュラムは過密であった」と約3/4の大多数の学生は答えている。

また平成25年度歯周病学教育を受講した3学年の歯科学生57名を対象に講義,実習各項目について良かった点,判りにくいところ,改善すべきところについて自由回答のアンケートを実施した(表1)。その(多数回答のみ列挙した)結果,講義では長所として「歯周治療の流れに沿った配置だったので全体像の把握が容易」を挙げた学生(5名)がいる一方,短所として「過密スケジュール」を挙げる学生が多数(19名)存在した。実習は概ね好評で,「講義と実習の連動によるメリット」を挙げる学生が多数(18名)であったほか,「歯周外科(豚顎骨)実習は,歯科医師になるモチベーションも高まり,とてもリアルで勉強になった」と答える学生が多かった。

図1 歯周病学教育要項(平成25年度3年次)
図2 豚顎骨を用いた歯周外科実習
図3 コース別カリキュラムに関するアンケート調査

(平成26年度岩手医科大学歯学部5年生および6年生のうち,コース制カリキュラムを受講した歯科学生107名を対象)

表1 歯周病学講義・実習アンケートの自由回答例

(5名以上の回答を列挙)

考察

歯学教育カリキュラムは大きな変遷を遂げている5,6)。教育手法には従来通りの講義中心の教育,PBL7),TBL,反転教育(Flipped Classroom)8,9)などがあり,それぞれの手法について検討されてきた。特にタブレット端末やデジタル教材,インターネット環境など情報通信技術(ICT)を活用した反転教育は,授業と宿題の役割を「反転」させ,授業時間外にデジタル教材等により知識習得を済ませ,教室では知識確認や問題解決学習で,知識を「使う」活動によって,学習進度を速め学習効果を向上することが期待されている。一方,ICT環境整備や教員の力量形成など導入に際し解決を要する課題も多いので,我々はまず基本的なカリキュラムを,分散から集約により学生にとって「よりわかりやすく配置」する改善から取り組むことにした。HSDMカリキュラムを参考に本学独自の新教育カリキュラムを新規導入後,既に3年以上経過しているが,これまでに大きな混乱は特に認められなかった。

教育を対象とした手法で多用されるアンケート調査10,11)では本来,明確なコントロール設定と統計学的有効性の検証が欠かせない12)。今回のアンケート結果は新カリキュラムの印象を把握する上であくまで参考程度にとらえる必要がある。この歯周臨床コースを履修した歯科学生アンケートから,「歯周病の講義と実習が連動していることでとても分かりやすい」との複数回答が得られたことから,今回の歯周病学教育への新カリキュラム導入は,少なからず利点があるものと思われた。しかしそのような利点を認める一方で,「スケジュールがハードである」,「詰め込みすぎ」というような今後解決すべき課題が示された。HSDMと本学は,言うまでも無く歯科学生の背景も教育環境,入学卒業条件も全く異なる。また教育を受ける側の学生だけではなく,新カリキュラムの教育担当者自身が「(1年間から2週間に)集約した形での教え方に慣れていない」側面も「詰め込みすぎ」との印象の一因かもしれない。

今回のアンケート調査結果から,コース制で学習することで,「科目毎の知識が繫がって,理解が深まった」,「包括的診療を行うための知識が修得できた」と考える学生が70%を超えており,Multidisciplinary Comprehensive Care(包括的診療)5)の基盤修得に結びついたと考えられた。また講義内容に則した実習を同日に行うことにより知識,技術双方の修得に好影響を与えることが示唆された。さらにカリキュラム編成の妥当性に同調する学生がアンケートで多数認められた。

一方,内容が過密である(講義時間が少ない)と考える学生が80%を超えており,今後更なるカリキュラム改善(整理統合)の必要性が示唆された。この問題を早期に解決することで,歯科学生の歯科医師になるモチベーションと学力の向上に繫がるものと考えられる。学生に分かりやすい,有効な教育カリキュラムとするためには,学生側(受け手)の問題のみならず,指導する教育者側(送り手)の問題(教育能力,技術,そしてマンパワー)も含めて総合的に改善すべきと思われる。

ストレート進級,国試合格率向上という,対外的に見える総合的アウトカムは,現時点で明確な向上を本学では未だ認めていない。そのアウトカム向上のために今後は臨床系のみならず基礎領域を含め,CBT学力向上も念頭に置いた低学年からの効果的な介入,改善が必要と思われる。

結論

歯周病学教育へのHSDMカリキュラムを参考とした新カリキュラム導入は,「詰め込みすぎ」解消等,今後解決すべきいくつかの問題もあるが,歯科学生が約2週間という短期間に歯周病学全体を理解し,歯科医師になるモチベーションも向上して実習にも集中出来る点では有効であったと思われる。

本論文の要旨は,第57回秋季日本歯周病学会学術大会(平成26年10月19日,神戸)において発表した。

利益相反

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反はありません。

References
  • 1)  一般社団法人日本口腔衛生学会: 平成23年歯科疾患実態調査報告, 口腔保健協会, 2013.
  • 2)  特定非営利活動法人日本歯周病学会: 歯周病の検査・診断・治療計画の指針2008.
  • 3)   歯学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議 (第16回). 配付資料3 平成26年度各大学歯学部の入学状況および国家試験結果, 文部科学省, 東京, 2013.7.31.
  • 4)   歯学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議第1次報告~確かな臨床能力を備えた歯科医師養成方策~, 文部科学省, 東京, 2009.1.30.
  • 5)   Haden  NK,  Hendricson  WD,  Kassebaum  DK,  Ranney  RR,  Weinstein  G,  Anderson  EL,  Valachovic  RW: Curriculum change in dental education, 2003-09. J Dent Educ, 74: 539-557, 2010.
  • 6)   Hendricson  WD: Changes in educational methodologies in predoctoral dental education: finding the perfect intersection. J Dent Educ, 76: 118-141, 2012.
  • 7)   Bassir  SH,  Sadr-Eshkevari  P,  Amirikhorheh  S,  Karimbux  NY: Problem-based learning in dental education: a systematic review of the literature. J Dent Educ, 78: 98-109, 2014.
  • 8)   重田 勝介: 反転授業-ICTによる教育改革の進展. 情報管理, 56: 677-684, 2014.
  • 9)   渡辺  淳: ICTを活用した「振り返り」授業. 大学教育と情報, 3: 16-18, 2013.
  • 10)   浅野 明子,  田邊 憲昌,  金村 清孝,  武部  純,  藤澤 政紀,  石橋 寛二: 歯学部学生におけるライフスコアと顎機能障害の関係. 日本歯科医学教育学会雑誌, 26: 3-13, 2010.
  • 11)   井上 博雅,  粟野 秀慈,  東  泉,  後藤 健一,  辻澤 利行,  大住 伴子,  高田  豊,  安細 敏弘,  西原 達次: 歯学科3年次生のPBLチュートリアルに対する学生の評価. 日本歯科医学教育学会雑誌, 27: 19-26, 2011.
  • 12)   河野 文昭: 日本歯科医学教育学会雑誌 (第23巻から第30巻) について. 日本歯科医学教育学会雑誌, 31: 1-2, 2015.
 
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