Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
Original Work
Effects of a sonic toothbrush (Sonicare® FlexCare Platinum) on plaque and intra-pocket bacterial removal and clinical parameters
Satoshi ShirakawaYuko UjiieTakuya YokoyamaYuhei NakayamaYuuki HayataTakahiko NiwaTaichirou FunatsuChiaki AraiTakatoshi NaganoKazuhiro Gomi
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2016 Volume 58 Issue 3 Pages 107-116

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要旨

現在,種々の植毛形態を有する音波歯ブラシが市販されているが,音波歯ブラシという一括りの分類で評価することが難しく,個々に評価する必要がある。本研究の目的は,フレックスケアープラチナ(音波歯ブラシ,PHILIPS社製)のプラーク除去効果,臨床パラメーターならびに細菌叢の影響について,手用歯ブラシと比較して評価することである。

歯周炎患者20名を無作為に10名ずつ音波歯ブラシ群と手用歯ブラシ群に分けた。開始日において臨床パラメーター,細菌検査,プラーク付着量を測定した後,各歯ブラシによる歯ブラシ指導を行った。各歯ブラシを継続使用させ,2週および4週後に臨床パラメーター,プラーク付着量を測定し,4週後では細菌検査を再度行った。

その結果,両群のプラーク付着量に統計学的有意差を認めなかった。両群とも経時的に臨床パラメーターの改善を認め,開始日と4週後の間で有意差を認めた。両群間の臨床パラメーターの比較では,2週後において音波歯ブラシ群が手用歯ブラシ群に比べBOP,PDで有意な減少を示した。細菌検査では両群とも4週後で有意な減少を認めたが,両群間で差は認められなかった。

プラーク付着量に差が認められないにも拘らず,音波歯ブラシ群において早期にBOP,PDの改善が認められた。これは,音波振動による歯肉へのマッサージ効果により,短期間で臨床パラメーターの改善効果を促した可能性が考えられた。

緒言

口腔衛生管理にプラークコントロールは必須であり,特に歯周疾患に対する予防とその治療には不可欠である。歯周疾患はプラークに含まれる複数の歯周病原因菌により引き起こされる混合感染性疾患である1)。プラークコントロールの方法には化学的な方法2)と機械的な方法3)があるが,日常的に行われるプラークコントロールの主体は歯ブラシを用いた機械的な方法である。プラーク除去に影響を及ぼす因子には,歯列,歯,付着歯肉の幅などの被験者の個別因子と使用する歯ブラシの形態,材質,毛先の硬さ,柄の長さや形態,ヘッドの大きさ,ブラッシング方法や圧などが挙げられる4-9)。さらにブラッシングには機械的にプラークを除去する効果だけではなく,歯肉への適度な刺激により,歯肉へのマッサージ効果を示し歯肉上皮の角化や血液循環の改善等により,歯周疾患の治療や予防の役目を果たす10)

ブラッシングには手用歯ブラシが用いられることが多いが,最近では電動歯ブラシ,特に音波歯ブラシが広く普及して来た。電動歯ブラシは1950年代に開発され,1960年代には商用化した。その後変遷を経て,1990年代になると音波を利用した高速微振動する音波歯ブラシが開発され,2000年頃になると急速に普及した。口腔清掃の意識の高まりにより,その後も,ブラッシングの効果を追求する様々な音波歯ブラシが開発され,それに伴い音波歯ブラシに関する多くの研究が報告されている11-14)

このような音波歯ブラシの普及に伴い,音波歯ブラシの性能やプラーク除去効果,手用歯ブラシとの比較に関する研究が行われている15-17)。プラークが効率良く除去できるという報告15,16)がある一方で,手用歯ブラシとの比較においてプラーク除去効果に差はないという報告17,18)もある。一方で歯肉の炎症状態,出血の有無,歯周ポケット深さの変化といった臨床パラメーターに関する報告は乏しく,改善効果があまりないという報告18)と改善傾向があるという報告19)があり,見解が異なる。さらに歯周ポケット内の細菌叢に与える影響についての報告も少ない。音波歯ブラシと水流洗浄器を併用した研究では,音波歯ブラシと水流洗浄器の併用によりポケット内の歯周病原因菌の減少が認められるが,音波歯ブラシ単体の使用ではあまり効果が認められなかったと報告されている20)。一方で,極細毛を植毛した音波歯ブラシでの研究では歯周病原因菌数の有意な減少が認められ,同じヘッドを把柄に取り付けてブラッシングを行っても歯周病原因菌の有意な減少は認められなかったとの報告もあり18),歯周ポケット内の歯周病原因菌に与える影響についても評価が異なっている。

このように同じ音波歯ブラシでも複数の製品があり,またそれに伴い種々の特徴があるため,一概に音波歯ブラシの効果として示すことは難しく,個々の音波歯ブラシの効果を調べる必要があると思われる。そこで本研究ではまず1機種の音波歯ブラシについて,プラーク除去効果,各種臨床パラメーターおよび細菌叢を総合的に評価することとした。

材料及び方法

1. 被験者および被検歯について

被験者の選定基準は,鶴見大学歯学部附属病院保存科を受診する患者の中で,歯周病を有する20歳以上の者で残存歯数15歯以上あり,ブラシッング指導が必要な患者で,本研究の趣旨に賛同し本試験への参加について文書による同意の取得が可能なものとした。除外基準としては,試験に支障のある広範な歯冠修復物を有する者,矯正治療中の者,著しい歯列不正を有する者,過去3か月以内に抗菌薬を服用した者,とした。

被検歯はRamfjörd21)の6歯(16,21,24,36,41,44)とし,測定点は唇頬側近心,中央,遠心の3点,同様に舌口蓋側近心,中央,遠心の3点,計6点とした。

音波歯ブラシあるいは手用歯ブラシのどちらを使用するかの群分けは,エンベロップ法による無作為抽出にて行った。

本研究は,鶴見大学歯学部倫理委員会の審査,承認のもとに行われた(承認番号1219号)。また,全ての被験者に本研究の趣旨,研究への参加の可否,中断が今後の診療に影響を及ぼさない旨を説明し,書面をもって同意を得た。

2. 使用歯ブラシについて

1) 音波歯ブラシ(図1

音波歯ブラシにはソニッケアーFlexCare Platinumを使用し,ブラシヘッドとしてインターケアーブラシヘッド(スタンダードサイズ)を用いた(図1)。

音波歯ブラシヘッド部分は図1に示すように長さの違う毛束が段差植毛してある。ナイロン毛を使用しており,ネック部分はストレートタイプである。ブラシヘッドの形状は,刷毛が取り付けられる側の面はなだらかな彎曲を呈し,毛束先端が揃うように長さの異なる毛が植毛されている。トゥとヒール部分に接する側に位置する長い毛束部は歯間部に行き届き易くしたおよそ毛束12.0 mmの植毛部がある。トゥとヒール部分,さらにその内側にトゥとヒール部分と同様のおよそ毛束9.8 mmの植毛部があり,長い毛束部が歯間部に入った際の歯面中央から隅角部にあたるように設定されている。毛の直径は約6 mil(0.152 mm)~約7 mil(0.178 mm)で構成されている。

図1

音波歯ブラシ

a:全体・斜め正面,b:ヘッド部分・側方(拡大)

2) 手用歯ブラシ(図2

C社製歯ブラシをコントロールとして用いた。トゥの部分は2列2毛束,そこから内側のヒールに至る部分までは3列6毛束で構成されている。歯周ポケットや歯間部のプラーク除去を効率的に行えるように2段植毛を採用したブラシで,ナイロン毛を使用しており,刷毛が取り付けられている面は平面であり,10 mmのフラット毛に毛先が13 mmの極細毛が付与されている。柄はストレートタイプの歯ブラシの形状である。毛の直径は約8 mil(0.2 mm)で構成されている。なお,音波歯ブラシの使用においてはバス法にて使用することが推奨されているため,歯肉縁下のプラークコントロールを意識した極細毛が付与されている本歯ブラシを用いた。

図2

手用歯ブラシ

a:全体・斜め正面,b:ヘッド部分・側方(拡大)

3. 研究方法

研究は開始日,2週後および4週後において評価を行った(表1)。被験者への研究の説明と参加への同意は開始日より前に行った。研究の初回となる開始日ではまず,Gingival index:GI,Löe & Silness(1963),Probing Depth:PD,Bleeding on probing:BOPの測定を行った。その後,歯ブラシ指導前にプラークの染色をプロスペック歯垢染色液(ジーシー,東京)にて測定した。次いで,音波歯ブラシあるいは手用歯ブラシを用いてブラッシング法を指導した。歯ブラシ方法は音波歯ブラシの歯面に対する角度付けをバス法に準じて行った。同様に手用歯ブラシにおいてもバス法を指導した。指導後,再度,歯垢染色液を用いプラークを染色し,測定した。測定後,歯面研磨によりプラークスコアを可及的に0にし,音波歯ブラシあるいは手用歯ブラシを持たせ帰宅させた。

本研究は治療行為と並行するため被験者の不利益にならないことに配慮し,ブラッシングにかける時間の規定などは設定しなかった。また,来院日には必ず,ブラッシングをした状態で来院するよう指導した。

被験者には予め作成しておいた日誌を配布し,いつブラッシングを行ったか,ならびにどの程度の時間ブラッシングを行ったか記載させた。

2週後と4週後では十分にブラッシングした状態で来院させ,プラークの染め出しを行い,測定した。

表1

研究のタイムスケジュール

プラーク付着量の測定

プラーク付着量の測定は,Ramfjördの6歯の唇頬側近心,中央,遠心及び舌口蓋側近心,中央,遠心の計6点,合計36点について,歯頸部からのプラークの付着高さを測定する鈴木らの方法22)を用い0.5 mm単位で歯周プローブを用いて測定した。

プラーク除去率の算定方法

プラーク除去率の算定は,ブラッシング前後のプラーク付着量の比較により行った。すなわち,ブラッシング前のプラーク付着量からブラッシング後のプラーク付着量を引いた値をブラッシング前のプラーク付着量で除した値をプラーク除去率として算定した。

細菌学的評価

開始日および4週後において細菌検査を行った。細菌検査部位は第一大臼歯より前の歯周ポケット最深部位1か所とし,可能な限り被験者の検査対象歯であるRamfjördの6歯に合わせた。歯肉縁下のプラークの採取は石川らの方法23)に従った。すなわち,被験部位の歯肉縁上プラークを,滅菌綿球を用いて可及的に除去後ロールワッテにて簡易防湿を行った状態で,滅菌ペーパーポイント(PIERCE,東京)40号をポケット底部まで1本挿入した。同部位に10秒静置後,滅菌したセラムチューブ内に移し,再度同操作を行い,試料とした。試料はPCR-Invader法(ビー・エム・エル,東京)を用いて総菌数ならびに歯周病原因菌の定量・定性分析にて評価を行った。評価を行った歯周病原因菌はPorphyromonas gingivalis,Tannerella forsythia,Treponema denticola,Aggregatibacter actinomycetemcomitans,Prevotella intermediaとした。

統計学的分析

プラーク付着量,臨床パラメーター(GI,BOP,PD),細菌検査に関してはマン・ホイットニーのU検定ならびにウィルコクソンの符号付順位検定を用いた。統計処理はSPSS Statistics ver19.0(International Business Machine,USA)を使用した。

4. 利益相反

本研究は株式会社フィリップスエレクトロニクスジャパンより音波歯ブラシ並びに手用歯ブラシの提供を受けたが,研究に何等影響を与えられることなく,研究グループによって公正に行われた。

結果

鶴見大学歯学部附属病院保存科を受診した患者20名(男性7名,女性13名,平均年齢50.1歳)が被験者となった。患者の平均ブラッシング回数(回数/日)と平均ブラッシング時間(時間/1回)は音波歯ブラシ群で2.4回,6.9分,手用歯ブラシ群で2.1回,7.2分であった。

被験者の開始日におけるプラーク付着量ならびに臨床パラメーターに関して音波歯ブラシ群と手用歯ブラシ群間に有意差を認めなかった。GI,PDおよびBOP陽性率の平均値±標準偏差は,手用歯ブラシ群でGI:(0.91±0.38),PD:(2.28±0.24 mm),BOP陽性率:(30±18%)であり,音波歯ブラシ群でGI:(0.76±0.31),PD:(2.36±0.28 mm),BOP陽性率:(24±13%)であった。

また,本試験終了時までに音波歯ブラシあるいは手用歯ブラシ使用で,すべての被験者において歯肉の痛みや擦過傷などの有害事象は認められず,一人の脱落者もなく終了した。

プラーク付着量(図3

プラーク付着量は被験歯の全部位の総和を測定部位で除した数値で算出し,評価した。開始日においてのみブラッシング前後での除去率を算出し比較したところ,音波歯ブラシ群と手用歯ブラシ群間で統計学的有意差は認めなかった(音波歯ブラシ群:50.8±18.4%,手用歯ブラシ群:37.6±11.7%)。

また,プラーク付着量は開始日来院時に比べブラッシング指導後,2週後ならびに4週後で両群において統計学的に有意に減少したが,ブラッシング指導後,2週後ならびに4週後では両群ともに有意差は認めなかった。

図3

プラーク付着量

臨床パラメーター(図4,図5,表2

開始日,2週後,4週後のGI,BOP,PDの各臨床パラメーターに対して群内比較および群間比較を行った。

手用歯ブラシ群内におけるGIは開始日と2週後,および4週後の間で有意に減少した(p<0.01)。しかし2週後と4週後の間では差を認めなかった(図4-a)。BOPおよびPDは開始日と2週後で有意差は認めなかったが,4週後との間で有意に減少した(p<0.01)(図4-b,c)。

音波歯ブラシ群内におけるGIは開始日と2週後ならびに4週後で有意に減少した(p<0.01)(図5-a)。2週後と4週後の間では差を認めなかった。BOPおよびPDは開始日と2週後ならびに4週後で有意に減少した(p<0.01)。2週後と4週後の間では差を認めなかった(図5-b,c)。

音波歯ブラシ群と手用歯ブラシ群における各臨床パラメーターを開始日,2週後ならびに4週後で比較した(表2)。GIでは音波歯ブラシ群,手用歯ブラシ群間で,統計学的有意差は認めなかった。BOPでは2週後で音波歯ブラシ群は手用歯ブラシ群に比べ有意な減少を示したが(p<0.01),4週後では有意差は認められなかった。PDでは音波歯ブラシ群は手用歯ブラシ群に比べ2週後ならびに4週後で共に統計学的に有意に減少した(p<0.01)。

図4

臨床パラメーター(手用歯ブラシ群 群内比較)

a:GI,b:BOP,c:PD

図5

臨床パラメーター(音波歯ブラシ群 群内比較)

a:GI,b:BOP,c:PD

表2

臨床パラメーター(手用歯ブラシ群・音波歯ブラシ群 群間比較)

細菌学的評価(図6,図7,図8

開始日と4週後の総菌数を評価したところ,音波歯ブラシ群および手用歯ブラシ群共に減少を示し統計学的に有意差が認められた(p<0.01)(図6)。また,歯周病原因菌5菌種個々での解析では音波歯ブラシ群でT.f菌が有意に減少した(p<0.01)。また,手用歯ブラシ群ではT.d菌が有意に減少した(p<0.01)(図7,図8)。

歯周病原因菌の減少率からその除去率を算出し音波歯ブラシ群,手用歯ブラシ群間で除去率について検討を加えたが,両群間での有意差は認められなかった(データ示さず)。

図6

細菌検査:総菌数

図7

細菌検査:音波歯ブラシ群 歯周病原性細菌5菌種の変化

図8

細菌検査:手用歯ブラシ群 歯周病原性細菌5菌種の変化

考察

本研究は,歯周治療の一環として行われるプラークコントロール指導の中に組み込まれ行われた。ブラッシング時間については,患者が日々行うブラッシングの中での効果を総合的に評価するためにあえてブラッシングにかける時間に制限を加えるようなことはしなかった。本研究の音波歯ブラシ群の被験者全員が音波歯ブラシなどの電動歯ブラシ使用に関して未経験であり,歯ブラシ指導は行ったものの習慣的な手用歯ブラシの癖などの影響が考えられること,また電動歯ブラシの長期間使用による慣れにより,有効な効果が得られるとの報告もあることから,少しでも慣れが生じるように時間制限を加えないことが有効なことと考えられた。

音波歯ブラシのプラーク除去を評価した研究11-14)では,プラーク除去率を評価するためには来院予定日より1日前からブラッシングの中止をし,プラーク付着量を確認した上でブラッシングをしていただき再度プラーク付着量を算出することで除去率を算出することができるが本研究ではそのようなことはしなかった。

プラーク除去率ならびに付着量

開始日においてのみプラーク除去率を算出し,2週後ならびに4週後では付着量を確認した。開始日におけるプラーク除去率に音波歯ブラシ群と手用歯ブラシ群との間に,統計学的な有意差は認めなかった。また,開始日の来院時とブラッシング指導後のプラーク付着量には統計学的有意差を認め,ブラッシング指導は適切に行われたことが考えられた。また,ブラッシング後のプラーク付着量と2週後ならびに4週後では統計学的有意差を認めなかったため,ブラッシング指導後のブラッシングは継続して行われていると考えられた。しかしながら,音波歯ブラシ群と手用歯ブラシ群との間にはプラーク付着量の統計学的有意差はなかった。これまでに音波歯ブラシ群でプラーク除去率が高いという報告5,6)が多くあるが,本研究では有意な差は認められなかった。このことは適切なブラッシングが行われれば,音波歯ブラシ,手用歯ブラシの差を問わず歯肉縁上のプラーク除去は可能であることが考えられる。また,本研究で用いた音波歯ブラシの推奨ブラッシング法はバス法に準じていたため,手用歯ブラシにおいても歯肉縁下プラークコントロールを意識した極細毛が付与されているものを使用した。しかしながら,音波歯ブラシと手用歯ブラシとの形状は大きく違うため,プラーク付着量に与える影響は否定できない。音波歯ブラシは歯間部に行き届き易い形状をしていたが,手用歯ブラシはそれを目的とするものではなかった。そのため,歯間部近遠心のプラーク除去には不向きであったと考える。また,それによる臨床パラメーターに与える影響も考えられた。

臨床パラメーターの変化

両群ともに臨床パラメーターは開始日より4週後で有意な改善を認めた。しかしながら,手用歯ブラシ群ではGIは開始日と比較して2週,4週で有意差が認められたが,BOP,PDは4週後との間でのみ有意差が認められた。このことは手用歯ブラシでは表在性の炎症を示すGIがまず改善するが,ポケット内部の炎症を示すBOPは若干の時間を経て改善に向かい,次いでPDに変化を及ぼしたと考えられる。一方,音波歯ブラシは開始日と比較して2週,4週でGIの改善とともに,BOPならびにPDの改善が認められた。このことは音波歯ブラシでは手用歯ブラシより早期にポケット内の炎症改善が生じることが考えられる。そしてBOPの改善に伴いPDが改善されたと考えられる。BOPならびにPDでは音波歯ブラシ群が手用歯ブラシ群に比べ減少を認めたため,GIにおいてもそのような結果が考えられたが,GIでは差を認めなかった。これは表在性の炎症には使用さえ誤らなければ手用歯ブラシを用いて十分炎症が取れるという事を再認識することである一方,本研究の被験者数が少ないことから十分な統計学的有意差が出なかったことも考えられる。

本研究ではクリニカルアタッチメントレベルを測定し,歯周病の進行状態を評価していない。開始時の平均Probing Depthは浅かったが,すべての被験者が歯周病を有していた。開始時平均Probing Depthが音波歯ブラシ群2.36 mm,手用歯ブラシ群2.28 mmであったが,それぞれ,4週後で音波歯ブラシ群1.71 mm,手用歯ブラシ群2.09 mmとなった。個々には4 mmのPDが2 mmになることもあり,また,悪化することもなかった。

音波歯ブラシ群と手用歯ブラシ群間においてプラーク付着量に有意差がないにもかかわらず,2週後で有意な臨床パラメーターの改善を音波歯ブラシが示した。本研究において用いた音波歯ブラシは毎分約3万回の音波振動を発生させることから,微細振動に伴う歯肉への物理的なマッサージ効果が作用し歯肉の表在性の炎症を改善させた可能性がある。

細菌検査

音波歯ブラシ群,手用歯ブラシ群共に総菌数および歯周病原因菌数の有意な減少が認められた。また歯周病原性細菌個々の評価では音波歯ブラシ群ではT.f菌が,手用歯ブラシ群ではT.d菌が有意差を認めた。

また,歯肉縁上のプラーク除去に有意差がないにもかかわらず,2週後でBOPの有意な臨床パラメーターの改善を音波歯ブラシ群が示したが,4週後では同程度の改善を認めた。本研究では開始日と4週後で細菌検査を行ったが,2週後では行わなかったため不明であるが,既に2週後において歯周ポケット内細菌に対して影響を与えていた可能性が考えられた。これまでの研究でSonicareには音波振動が液体中を伝達することで発生する音波水流の効果により,直接毛先に接していないプラークを除去することが可能であり24-26),本研究においても音波歯ブラシの音波振動による細菌への直接的作用や音波水流によるポケット内細菌の間接的な作用,さらには微細振動による歯肉へのマッサージ効果などが相乗的に作用し臨床パラメーターの早期の改善をもたらしたことが考えられた。

現在市販されている音波歯ブラシはメーカーごとに工夫が凝らされており音波歯ブラシというだけでは評価できないと思われる。今回我々は市販されている音波歯ブラシ個々について評価することを目的とし,その第1歩としてフィリップス社製音波歯ブラシソニッケアーFlexCare Platinumを用いた。しかしながら,被験者数が少ないことから本研究結果に影響を与えている可能性もある。被験者数を増やし,結果検証を今後行うとともに,種々の音波歯ブラシについても同様の研究を行うことで消費者に対して有益な情報を発信していきたいと考えている。

結論

1.ソニッケアーFlexCare Platinum音波歯ブラシと手用歯ブラシの間でプラーク付着量に統計学的有意差は認めなかった。

2.音波歯ブラシと手用歯ブラシの使用で共にGI,BOP,PDの各臨床パラメーターは有意に減少した。音波歯ブラシは手用歯ブラシよりも早くBOPとPDが減少した。

3.細菌学的評価では音波歯ブラシと手用歯ブラシ共に試験開始前と後において歯肉縁下の総菌数は減少した。

謝辞

稿を終えるにあたり,本研究の遂行にご協力頂きました鶴見大学歯学部歯周病学講座の医局員各位に御礼申し上げます。本研究の要旨は第58回秋季日本歯周病学会学術大会(2015年9月12日)において発表した。

利益相反

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2016 by The Japanese Society of Periodontology
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