Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Platelet-rich plasma and its derived platelet concentrates: what dentists involved in cell-based regenerative therapy should know
Tomoyuki KawaseTaisuke WatanabeKazuhiro Okuda
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2017 Volume 59 Issue 2 Pages 68-76

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1. はじめに

1990年代にマイアミ大学の口腔外科教授だったR. Marxらは臨床研究から得た知見から,多血小板血漿(PRP)が顎顔面領域の骨再生において有効であることを示した1,2)。その後,PRGF(plasma rich in growth factors)3)やPRF(platelet-rich fibrin)4)などPRPから派生した血小板濃縮材料の開発もあり,これらのユーザーは世界的な広がりを見せている。これらの血小板濃縮材料に関する基本性状については筆者や他者の総説に簡潔にまとめてあるが5,6),あらためてその要点を表1にまとめた。

再生医療全般におけるPRP等の有効性については,他のグループの総説に詳しく書いてあるのでご参照いただくとして7-9),簡単に述べると「高濃度の増殖因子によって組織の細胞が増殖・分化して形態学的に回復される,組織が再生される」という理解は一面的・表面的な理解であると言われても仕方がない。図1に表したが,組織の再生には幹細胞を含む組織細胞の増殖・分化とともに,それらの細胞への補給路である血管の新生が不可欠であり,血小板濃縮材料は血管新生にこそ予知性・再現性のある効果を示す。また,抗炎症作用・疼痛抑制作用や抗菌作用10-15)も組織再生に対して,間接的に重要な役割をはたしていると理解するのが合理的である。

本論文では,再生医療等安全性確保法にもとづきPRP等を用いた再生医療を計画している歯科医から寄せられる和文総説のニーズに応えて,これまでの総説ではほとんど触れられてなかった点や見落としがちな点を中心にまとめた。

表1

血小板濃縮材料3種の比較

図1

血小板濃縮材料の生理活性と治療効果

2. 血小板濃縮材料に関する研究数と臨床応用の経年変化

PRP等の研究論文数の推移をPubMedで調べると16),2004年に最初の伸びがあり,2013年前後に2度目の伸びを示している(図2)。最初の伸びはPRPの世界的な広がりと前後した時期にあたり,後者についてはPRFの爆発的臨床応用ブームと相関していると考えられる。その発信元や引用・ダウンロードの国別内訳に関する厳密な統計資料は手元にないものの,ResearchGateにおける筆者らの論文へのアクセス履歴やTrend MDから判断する限り17),血小板濃縮材料に対して関心が高いのは,どちらかというといわゆる欧米の経済的列強といわれるG7の国々以外の地域の一部(中国,インド,ブラジル,スペイン,韓国,インドネシア,中近東,東欧など)に偏っているように思える。わが国も,どちらかというと,血小板濃縮材料に対する期待は少ない方といえるかもしれない。一時期盛り上がった時期もあるが,少なくとも現在は,ユーザー数でエムドゲインの足下にも及ばない状況にある。

興味深いのはアメリカである。上記の例に漏れず,歯科領域における血小板濃縮材料への関心は,論文数や学会発表数をカウントする限りにおいて決して多いとは言えない。しかし,スポーツ医学の分野における関心は年を追うごとに増加している18-20)。PubMedで“platelet rich plasma sport medicine”としてreviewを検索すると,124の論文がヒットした(2017.3.13.現在)。これらの地域別,治療部位別二極化の原因を分析するところから,わが国の歯科医がPRPに関して見落としてきたことや知るべきことを考察してみたい。

図2

血小板濃縮材料に関する論文数の継年的推移

3. 日本の平均的歯科医師の血小板濃縮材料に対する認識

まず上記の二極化についてであるが,それは治療コストや入手のしやすさを反映したものであり,治療部位ごとの感受性・効力の違いということで説明できると思われる。日本では,エムドゲインや他の薬剤・基材の入手が容易であり,他の薬剤・基材についても海外からの個人輸入による使用が歯科医師の判断にゆだねられているのでハードルは高くはない。コストに関しては,ケースバイケースになるが,BMP(Bone Morphogenetic Protein)などの生理活性物質は例外として,手が届かないようなものは少ない。また,宗教上や生活習慣上の制限については,ブレーキにもアクセルにもなりうるが,日本は比較的緩いといえるので,少なくとも大きな障害になることはほとんどないと思われる。

一方,治療部位については,歯科領域の場合,どうしても骨再生が中心的な課題になることから,ほとんど選択の余地がない。歯肉退縮など結合組織の再生という課題もあるが,圧倒的に骨再生に有効かどうかが,その価値評価を左右している。

ここで,興味深い調査結果を紹介する。2012年に開催された第55回春季日本歯周病学会学術大会の教育シンポジウムにおいて,初めての試みとして,会場の参加者とアンケートを採りながらリアルタイムで進行していくという形式のシンポジウムが実施された21)。例題としたのは,垂直性骨欠損を含む上顎5番小臼歯の症例であった。主催者側の予想を大きく裏切って,エムドゲインの支持者が過半数以上を占めた(図3)。なぜ医薬品開発のトレンドに逆行するように,動物由来成分を主体とするエムドゲインが支持されるという「衝撃的」な結果になったのか,筆者らなりに分析を試みるところから論を興すことにする。

図3

 歯周専門医が選択する歯槽骨欠損に対する治療法(第55回春季日本歯周病学会学術大会における教育シンポジウムのアンケート結果より21)

1) 術者の技術への依存度

エムドゲインの最大の魅力は,ready-to-useであることと,術者の技術に非(低)感受性であるところである。一方,血小板濃縮材料を調製するためには,まず歯科医師か歯科医師の指示のもと十分な知識と経験と技能がある歯科衛生士が採血する必要がある。しかし,女性や高齢者では腕の静脈が見つけにくい場合も多く,実際,多くの歯科医から「採血はやりたくない」という言葉を聞く。静脈を可視化する機器(StatVeinなど)も入手可能であるが,基本的に採血への苦手意識はトレーニングによって克服するか,採血技術の高い人に依頼するしかない。この点で,一般的な製剤,とくにエムドゲインのようにシリンジに充填されたコンビネーションプロダクト22)の使い勝手にかなわないと認めざるを得ない。

2) 品質安定性と安全性

しかるに,エムドゲインに劣る点として,個体差が大きいとか,骨再生に再現性のある効果が期待できないという指摘は,不十分な理解と検証によるところが大きいように思う。確かに,PRPなどの血小板濃縮材料の場合,個体差だけでなく,同一個体でも採血時のコンディションによって増殖因子の含有量に大きな差があることもある23)。さらに,調製する技術者のスキルによる差も決して小さくはない。しかし,正常な創傷治癒力をもっている患者の場合,他人との比較において,投与時点での増殖因子レベルの多少を論ずることはあまり意味がない。それは,生物学的常識として,増殖因子レベルと創傷治癒や組織再生活性がどこまでも正の相関関係を保っているわけではないことからも理解できる。言い換えると,必ずしも増殖因子レベルを上げるほど創傷治癒が促進されるわけではないということである。

一方,エムドゲインに限らず生物製剤は,従来の合成小分子薬剤に比べて,多少とも有意なロット間格差があるのは容易に想像できる。また,異種動物由来であることは,とくに製造法や品質検査法を開示していない場合,混入した未知の病原体がなにかしらの有害作用を引き起こす可能性も否定できない。「これまで無事故であったから(今後も)安全である」という理屈は,自然災害の例と同様に,科学的に説得力があるとは言えない。

現代医学は,インスリンやヘパリンやトリプシンなどの例を出すまでもなく,異種動物由来の生物製剤からリコンビナントのヒト型生理活性物質の開発と普及に一方向的にシフトしていることを考えると24),異種動物由来の生物製剤は少なくともハイブリッド車のような移行期の産物という認識を持つべきであり,次世代のより安全な製剤・基材開発の動向に絶えず注意を払って治療に当たるべきではないだろうか。

3) 骨再生活性

まず,筆者らの基本的な認識を要約する。血小板濃縮材料による骨再生は,増殖因子だけにとどまらず,そこに含まれる様々な生理活性を有する因子25)が,①血管新生と幹細胞の動員,②骨芽細胞と破骨細胞による局所的骨代謝の再構成,③新生血管網による新生骨の維持という3つの局面において協調的かつ効率的に作用することによるものと考えている5)

しかし,なぜそのような骨再生効果に対して近年懐疑的な見解が出されるようになってきたか,その背景から考えてみたい。2010年前後からPRPは骨再生には効果がないという論文が次第に多く発表されるようになり26,27),PRPに対する熱狂的な支持を減らす結果につながったと思われる。この動き自体はバブル的なPRPブームの沈静化とも解釈でき,作用の本質をより深く理解するうえでは,けっして憂うるべき状況ではないと思っている。なぜなら,これまでのPRPに関する多くの総説や解説記事が,その作用機序をもっぱら濃縮された増殖因子に帰するとし,骨芽細胞の増殖と活性化がPRPの作用機序の本体であるかのような説明に終始していたからである。解釈に困るような,相反する結果に直面した場合,すぐに個体差や調製プロトコールと技術の差という言い訳に逃避することからも,そのような作用機序の解釈が皮相的であるということがわかる。いまだに臨床的効果を総括するに十分成熟した状況に至ってないことを指摘した総説もあるので,詳しくはそちらをご参照願いたい9)

このような状況を憂いてか,PRPに含まれる増殖因子や生理活性物質を詳細に検討する動きも出ている28)。その結果から,相反するような生理活性をもつ物質(例TGFβ vs. MMP)も多く含まれているので,これらの足し算や引き算からPRPの生理作用を理論的に予測し結論づけるのには無理があることが指摘されている。むしろ,筆者らは,①調製プロトコールや投与法の標準化と29),②ホストである治療部位の状態の的確な評価こそが,予知性向上にとっての最重要課題と位置付けている。とくに血管新生活性のポテンシャルは治療効果を大きく左右する5)。PRP等の調製法標準化については,筆者らも機会あるごとに訴えてきて30),いくつかの学会や国が個別にガイドライン作成の動きを見せてはいるものの31,32),いまだに世界的な規模で統一的な標準化には至っていない。しかし,自動調製装置や調製用キットが次々に開発され,少なくとも同じ機器を使用する限りにおいては標準化も可能であるという状況になっている。いわゆるデファクト・スタンダードである。ただし,PRPの魅力がその費用対効果にあると考えているユーザーにとって,高価な機器やキットの導入は敷居が高いというのも事実である。一方,PRFに関しては,高価な機器や高度なスキルを必要とせずに,容易に再現性の高い性状に調製することができるため,標準化は投与法に絞って考えればよい30)

一方,治療部位の状態を臨床的に的確に評価できるかという問題は簡単ではない。実際,PRP効果に対して否定的な臨床研究の多くが骨欠損部位を単に形態学的に類型化するにとどまり,病理学的・生理学的な観点も含めた本質的な評価から術前に治療部位の類型化を試みた研究例に接したことはこれまでのところない。この背景には,組織の状態を的確に評価する指標の欠如という決定的な問題があり,一概に研究者や臨床家のせいにはできない現実もある。PRPのように組織の再生活性を引き出すことを本態とする「生物製剤」の場合,従来の小分子型薬剤とは異なり,組織を再生させる組織特異性幹細胞の存在や末梢血を循環している幹細胞を動員するための血管新生活性などが効果発現の前提となる(図45,30,33)。よって,これらの状態を定量化できる技術さえあれば,より精度の高い臨床研究が可能になるはずである。いずれにせよ,サイナスリフトなど手術法による大まかな分類や単純な骨欠損形態の類型化からPRPの治療効果をステレオタイプに予知するのは困難である。症例報告に接する際には,症例ごとの術前の特徴により注意を払い,間違った理解や評価に誘導されないように慎重に判断すべきであるというのが筆者らの持論である。

図4

血小板濃縮材料による骨欠損の修復と再生のメカニズム

4. 確実な骨再生を目指すには

では,治療部位の状態を類推することは困難であろうか? たとえば,近接する歯を抜去した際のソケットの治癒速度や,歯周組織のフラップオペをしたときの歯槽骨の回復速度などからある程度の予測は可能ではないかと思う。そのような評価や類推もなく,そもそも治りにくい症例に対しても,血小板濃縮材料が治癒再生を促進するだろうと期待するのは,残念ながら根拠が希薄で無駄な治療行為と言われても仕方がない。

血小板濃縮材料による治療効果が期待に反する場合,最も妥当な説明として,PRPに応答する細胞成分が不足していることを挙げることが多い。いわゆる再生の三要素の一つである「細胞」の欠如である34)。このような状況を打破する試みとして,近年,盛んに研究されている治療様式がある。幹細胞などとの併用治療である35-37)。血管新生には末梢血を循環している幹細胞の供給という重要な役割を担っていることは前章で述べたとおりであるが,その活性が弱ければ,局所に直接,骨芽細胞にも血管内皮細胞にもなりうる幹細胞を補充してやればよいという考え方である。筆者らも,2005年より臨床研究をはじめ,いまでは実臨床にまで持ちあげた培養骨膜シート治療において,PRPとの併用を提唱し,基礎研究と臨床研究においてその併用効果を証明した38-43)

わが国では,2014年11月から施行されている「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(再生医療等安全性確保法)に基づいて,PRP等の血小板濃縮材料は(歯科領域では)第三種に分類され,製造と提供に関して届け出が必要になった。これも中小の医療機関では負担になっているわけであるが,幹細胞治療はその上のランクである第二種に分類され,PRP等とは比較にならない厳密な製造管理体制および治療提供計画や有害事象への対応が求められている。したがって,ますます「使い勝手」が悪く,他の治療選択肢に比べて劣勢になるのではあるが,とくに比較的大規模の骨欠損にとって,細胞移植補充は予知性をあげる有望な治療法であることは間違いない。

5. 品質管理・出荷基準に関する考え方

上述の通り,わが国における再生医療等に用いる細胞製品の品質管理については再生医療等完全性確保法により規制されている。しかし,これはiPS細胞・ES細胞やその他幹細胞を想定としたものである。血小板濃縮材料は歴史的な背景を考慮する限りでは,再生医療等安全性確保法から除外されている輸血分野に含めて扱うのが自然ではないかという疑問が呈されてきたのも事実である。その是非はともかく,現行法のもとでどのような点に考慮する必要があるか考察してみよう。

再生医療細胞製品(幹細胞)に関するガイドラインの策定はEUがもっとも進んでいるように思うが44,45),その品質評価基準は突き詰めると最大効力(efficacy)と安全性(safety)に絞られる。血小板濃縮材料の最大効力は個体差・検体差が大きく,骨再生への効力は疑問であるという議論は現在に至るまで延々と続いているわけであるが,少なくとも軟組織創傷治癒の再現性・予知性に関しては一定の評価を得ているので,ここでは除外して考えてよいと思う。ちなみに,筆者らが関与する新潟大学医歯学総合病院において,PRPについては「色調」と「一定以上の血小板密度」を,PRFについては「色調」と「血清保持力(形態安定性)」を出荷基準としている。

問題は安全性である。安全性に関しては,造腫瘍性と細菌等の病原性微生物の感染に分けて考えることができ,前者は核を有する白血球とわずかな末梢血を循環している幹細胞にその可能性がある。輸血に準ずるならばガンマ線処理するのが理想的であるが,小規模の医療施設にそのような設備はないであろう。しかし,白血球は細胞分化度が高く,循環幹細胞の移植数は極端に少ないことなどから,これらの細胞が腫瘍化する可能性は極めて低いものと考えられる。ちなみに,わが国では再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)が2016年に多能性幹細胞安全性評価委員会を立ち上げ,現在,造腫瘍性評価技術の開発と標準化に取り組んでいるので,将来的にはその検討結果を受けて再評価する必要があるだろう。

造腫瘍性に比べて,感染に関する評価は近年のPCR技術の発展により,きわめて簡便迅速正確な評価方法が確立されている。しかし,少なくとも自己血液を原材料として無菌的に扱う限りにおいて,感染の心配はないといっても過言ではない。再生医療等安全性確保法もそのような考え方に基づいて基準を定めている。あえて注意点を挙げるとすれば,法律で規定する「製造工程」と「治療行為」の区別には注意を払う必要があること,また使用する器具の品質にはもう少し敏感である必要がある。PRFを例にとると,真空採血管で採血しそのまま遠心機にかけて調製する場合,これは「閉鎖系」での製造(調製)となるのでクリーンベンチなどを必要としない。チェアーサイドで採血管からPRFを取り出して,切り出す,あるいは圧延するという行為は治療行為の一環とみなされるので,常識的な範囲での無菌的処置を心がければよい。一方,PRPに関しては,閉鎖系の自動調製装置を使用する場合は例外であるが,一般的なマニュアル法や市販キットを使用するもののピペッティングを必要とする調製法に頼る場合は「開放系」での操作ということになり,クリーンベンチ内で実施しなければならない。

ここで,見落としがちなポイントとして,使用する医療機器のクラス分類があげられる。簡単に説明を加えると,わが国では,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」により,①生体への接触部位,②生体との接触時間,③不具合の生じた場合の危険度の大きさによって医療機器を分類し,この分類によって規制を変える仕組みを取り入れている46,47)。この考え方に基づいて,全ての医療機器は第2条第5項から第7項により「一般医療機器」,「管理医療機器」,「高度管理医療機器」の3つに分類され,さらにJMDN(Japan Medical Device Nomenclature)の制定にあわせて,①クラスI(一般医療機器),②クラスII(管理医療機器),③クラスIII(高度管理医療機器),④クラスIV(高度管理医療機器)という4つのクラスに分類されている(薬食発第0720022号,平成16年7月20日,及び薬食発0510第8号,平成25年5月10日)。本件に話を戻すと,採血から遠心に至る工程で,血液が触れるものとしてディスポ注射針,シリンジ,真空採血管,ハサミ,ピンセット,トレーなどがあげられる。このなかで,ディスポ注射針,シリンジ,真空採血管などはクラスII(第三者認証機関への申請と認証)に,その他はクラスI(独立行政法人医薬品医療機器総合機構への届出)に分類される。しかし,真空採血管は「器56 採血又は輸血用器具」に分類されるものの,「(検査用)真空密封型採血管等基準(告示第112号:平成17年3月25日)」に基づいた認証であり,使用目的は「血液検査のため,血液検体の採取,輸送又は保管に用いること」となっている48)。すなわち,クラス分類では血液バッグと同等であるものの,血小板濃縮材料調製のために使用する採血管は,採取した血液の一部または全部を生体内に戻すということを想定したものではないと理解するのが安全である。これは細胞培養用のディスポ製品にも共通して言えることであり,過敏になる必要もないが,外国から輸入され医療用として承認を受けることなく「実験用機器」として販売されている採血管等については注意したほうがよいだろう。

6. まとめ

冒頭で述べたように,アメリカではスポーツ医学領域において,たとえば筋肉や腱の再生にPRPの適用が非常に効果的であり,侵襲的な手術を回避できるという観点からも有望な治療法になってきている。ご存じのように,筋肉はもっとも血管が発達した組織のひとつであり,血管周辺のニッチに存在する組織特異性幹細胞が比較的多く,かつ末梢血を循環している幹細胞の動員も容易であるということを考えれば,その効果は大いに期待できるものである。

一方,歯周組織は相対的にけっして血管が豊富な組織とは言えない。さらに感染リスクにも絶えず晒されている。したがって,いわゆるファンダメンタルズにおいて不利である。しかし,そこで血小板濃縮材料療法を予知性の高い治療法に進化発展させるために必要なことはなにかを考えながら,細心の観察を通して,日々の治療に取り組む姿勢が大切である。

以上の論点をまとめると,

①「第一のハードル」と言われる採血については,基本的にトレーニングによって克服するしかない。

②調製技術に関しては,スキルが必要ない市販のキットを使用するか,自己凝固型のPRFにシフトすることで,多くの症例に再現性をもって対応できる。

③個体差については,重篤な基礎疾患のある場合はともかく,年齢相応の自然治癒力を維持している症例においては懸念には当たらない。むしろ,安全性の観点から,他の動物由来製剤よりも推奨できる。

④血小板濃縮材料の作用機序は,骨欠損近辺の骨芽細胞やその前駆細胞に直接作用して再生させるというよりも,新生された血管を介した循環幹細胞や周辺幹細胞の動員によるものと理解するほうが合理的である。

⑤骨再生効果に対する議論は水掛け論的な状況にある。血管の豊富な結合組織や筋肉のような組織に比べて条件がよくないのは否定できないが,その場に再生活性が保持されている場合は,血小板濃縮材料の治療効果は十分に期待できる。

誌面の都合で詳しくは書けなかったが,PRPには抗炎症作用や疼痛抑制作用もあり,その臨床的利用価値は高い。また,血小板濃縮材料の種類によって多少とも性状や炎症などの生体反応に差があることにも注意を払う必要があり5,6),少なくとも「PRPには増殖因子が高濃度に含まれているから組織再生に有効」あるいは「骨には効かない」というステレオタイプな理解や思い込みから早く脱却し,バイアスのかからない中立的なスタンスで,血小板濃縮材料の適正な評価法と効果的かつ予知性の高い適用法を確立する必要がある。

謝辞

歯科再生医療の安全性確保の観点から,本稿の執筆を強く勧めていただきました新潟大学教授・大島勇人先生に深く感謝申し上げます。また,本稿に対して,血小板濃縮材料を臨床使用する開業医の立場から様々な助言をいただいた東京形成歯科研究会の礒邉和重先生(山口県柳井市開業)ならびに奥寺俊允先生(東京都北区開業)に感謝申し上げます。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2017 by The Japanese Society of Periodontology
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