Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
Original Work
The effect of Berberine on cell differentiation and proliferation in human periodontal ligament cells
Shuko Ikeno, Eiji Nemoto, Sousuke Kanaya, Mizuki Suto, Yukihiko Sakisaka, Hidetoshi Shimauchi, Satoru Yamada
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2018 Volume 60 Issue 1 Pages 13-25

Details
要旨

黄蓮の抽出物であるBerberineを含む漢方薬は,口腔内の炎症性疾患の予防および治療に用いられてきた。近年の研究により,Berberineは骨再生への有用性が示唆されている。歯周病で失われた歯周組織の再生には,歯根膜に存在する未分化間葉系細胞が重要な役割を持つことが知られている。しかしながら,Berberineが歯根膜細胞に及ぼす作用についてはほとんど知られていない。本研究はヒト歯根膜由来線維芽細胞(hPDL細胞)および不死化マウスセメント芽細胞に対するBerberineの作用を解析したところ,Berberineはそれらの細胞に対して増殖促進作用を有することを見出した。一方,BerberineはAlkaline phosphatase(ALP)の遺伝子発現および酵素活性を有意に抑制した。しかし,OsteocalcinやBone sialoproteinの遺伝子発現には有意な変化が認められなかった。BerberineはhPDL細胞において,p38 Mitogen-activated protein kinase(MAPK)およびExtracellular signal-regulated kinase 1/2(ERK1/2)のリン酸化を誘導した。しかし,Berberineによる細胞増殖の亢進に対してこれらの阻害剤であるSB203580(p38 MAPK阻害剤)およびPD98059(ERK1/2阻害剤)を作用させたところ,有意な抑制効果を示さなかったことから,MAPK非依存的に細胞増殖を促進することが示唆された。また細胞をPD98059で前処理することにより,BerberineによるALP活性及び遺伝子発現の抑制が解除されたことから,BerberineはERK1/2経路を介してALP発現およびALP活性を抑制していることが示唆された。以上のことから,Berberineは歯根膜細胞に対して分化度を低いレベルに維持した状態で細胞の増殖を促進させることが示唆された。

緒言

歯周病は細菌によって引き起こされる炎症性組織破壊疾患であり,歯肉,歯槽骨,セメント質および歯根膜からなる歯周組織に生じる1,2)。同疾患は歯の喪失の主要な原因の1つであり,歯根と歯周組織の付着の喪失から始まり,歯槽骨の吸収により歯の喪失に至る。歯肉炎を含めた歯周疾患は,国民の約80%が罹患しているとされており2-4),さらに糖尿病,腎疾患,誤嚥性肺炎や慢性閉塞性肺疾患などとの関連性も指摘され,全身疾患と歯周炎の関連性を指摘する多くの報告がされている5-9)。これまで歯周治療においては,スケーリングやルートプレーニングなどの原因除去療法である歯周基本治療や歯肉剥離掻爬術などの歯周外科手術など,様々な方法が行われてきた10)。しかしながら,これらの治療法による治癒形態はヘミデスモゾーム結合による上皮性付着が主体とされており,炎症による付着の喪失が容易に生じることから歯周病の再発というリスクが存在する11)。

歯根膜は歯根を取り囲む厚さ約200 μmの線維性結合組織で,セメント質と歯槽骨の間に介在し歯を歯槽骨内に固定するとともに,歯周組織の恒常性や損傷した歯周組織の修復において重要な役割を持つことが知られている12-14)。歯根膜には血管や神経が豊富に存在しており,種々の外的刺激を感受する感覚装置としての役割も有している。歯根膜には主要な細胞成分である線維芽細胞をはじめ,骨芽細胞やセメント芽細胞,マラッセの上皮遺残,歯周組織幹細胞など様々な細胞が存在している14)。Seoらは歯根膜に組織幹細胞が存在していること報告した15)。この幹細胞はセメント芽細胞,骨芽細胞および線維芽細胞などへの分化能を有する前駆細胞の集団として機能し,セメント質や歯槽骨,歯根膜線維,歯肉線維などを形成する15-17)。そのため歯根膜幹細胞は,歯周組織再生療法のターゲットとなっている18)。一方,Nymanらはプラークの有無が歯周外科手術後の成否に大きな影響を与えることを報告し,その後の研究において手術後感染予防のためのプラークコントロールの重要性を強調している19)。In vitroの研究においても,グラム陰性菌の共通内毒素であるリポ多糖(Lipopolysaccaride:LPS)はヒト歯根膜未分化幹細胞の硬組織形成細胞への分化を阻害することが報告されている20)。また,細菌感染により歯根膜由来線維芽細胞は炎症性サイトカインを産生し,Receptor activator of nuclear factor κB(NF-κB)ligand(RANKL)を発現することが知られており21),細菌感染は歯周組織の再生を阻害することが示唆されている。よって高い予知性を持つ歯周組織再生療法を確立するためには,術後感染を防ぐためプラークコントロールを徹底することが重要である。しかしながら現在の歯周治療では歯ブラシ等の口腔清掃器具による細菌バイオフィルムの物理的除去が主流であり,抗菌作用ならびに抗炎症作用を併せ持った治療薬の開発およびその併用が望ましいと考えられる。

植物の多くは幅広い生物学的特性と薬効特性をもつことが知られている。窒素原子を含む天然由来の有機化合物であるアルカロイドの二次代謝産物は,様々な薬理学的特性を有することから,これまで生薬は全身疾患のみならず口内炎等の口腔内疾患の治療および予防に用いられてきた。イソキノリンアルカロイドの一種で黄蓮の抽出物であるBerberineを多く含有する漢方薬は,日本や中国において抗菌薬,下痢止めの薬として使用されてきた。さらに近年の研究により,多くの薬理効果を持つことが明らかになってきた。Haoらは,Berberineは細胞のインスリン受容体の発現増強によりインスリン抵抗性を下げることを報告し,臨床試験においても抗糖尿病薬としての有用性を示唆している22)。またHuiらはBerberineを用いた臨床試験を行い,抗高脂血症作用を持つことを明らかにした23)。ChunfenらはマクロファージにおいてLPS誘導性の炎症性サイトカイン産生が,Berberineによって抑制されることを示した24)。さらにBerberineはMitogen-activated protein kinase(MAPK)シグナル伝達およびReactive Oxygen Speciesの産生を抑制することによって抗炎症作用を有することが示唆されている25)。Wenらは再発性アフタの治療でBerberine含有の含嗽薬にて治療を行い,Berberineを用いない含嗽薬より有意な改善を認めたことを報告している26)。本邦においても,放射線治療に起因する口内粘膜炎に対してBerberine含有の含嗽薬を用いたところ,良好な治療成績を上げていることが報告されている27)。近年,癌細胞株を用いたin vitroの研究において,Berberineは様々なタイプの癌細胞において増殖および遊走を抑制し,腫瘍細胞のアポトーシスを誘導することが示されている28)。また,前立腺癌において癌細胞の放射線感受性を高めることから放射線治療成績が良好になることが,臨床試験で報告されている29)。このようにBerberineは様々な全身疾患に対して有用であることが示唆されている。一方,Berberineは口腔内細菌のPorphyromonas gingivalis(P. gingivalis)やArrregatibacter actinomycetemcomitansなどの歯周病原細菌に対して増殖抑制だけでなく,産生されるプロテアーゼ活性をも抑制することが報告されている30)。またP. gingivalis由来のLPSで刺激したヒト歯肉線維芽細胞をBerberineで処理することにより,matrix metalloproteinases(MMP)-2やpro-MMP-2,9の活性が抑制されることが明らかになっている31)。他にもBerberineはNF-κB経路やnuclear factor of activator T cell経路,Phosphoinositide 3 kinase/Akt経路を介して骨芽細胞のRANKLの遺伝子発現を抑制し,Osteoprotegerin(OPN)の遺伝子発現を増強することにより破骨細胞の分化を抑制することから炎症性組織破壊に対しての有用性が示唆されている32,33)。さらに前骨芽細胞をBerberineで刺激すると,p38 MAPKの活性化を介して,骨分化マーカーであるOPN,osteocalcin(OCN)およびRunt-related transcription factor 2(Runx2)を発現増強し,石灰化を促進することが報告されており,骨再生への有用性も示唆されている34)。

しかしBerberineが歯根膜細胞の増殖,分化に及ぼす作用については,あまり知られていない。そこで抗菌性および抗炎症作用を持つBerberineの歯周組織再生誘導における有用性を検討するため,基礎的な解析を行った。本研究ではBerberineはヒト歯根膜由来線維芽細胞(human Periodontal ligament cells:hPDL細胞)の細胞増殖を促進すること,さらにAlkaline phosphatase(ALP)の発現を抑制することを明らかにした。また,それらの反応に対するMAPKシグナル経路の関与の可能性について解析を行った。

材料および方法

試薬

BerberineはSigma chemical Co.(St,Louis,MO,USA)から購入した。p38 MAPK阻害剤SB203580およびExtracellular signal-regulated kinase 1/2(ERK1/2)阻害剤PD98059は,Calbiochem(Darmstadt,Germany)から購入した。ジメチルスルホキシド(DMSO)は,和光純薬工業株式会社(Osaka,Japan)から購入した。

細胞培養

hPDL細胞は,東北大学病院においてインフォームドコンセントの得られた健康な患者(19~29歳)から臨床的に炎症兆候のない第三大臼歯を抜去し分離した。採取した組織片を10% heat-inactivated fetal bovine serum(FBS)および抗生物質ペニシリンG(100 U/ml)およびストレプトマイシン(100 μg/ml)添加α-Minimum Essential Medium(α-MEM)に静置し,out-growthしてきた細胞をhPDL細胞とした。hPDL細胞は,コンフルエントに達した後,0.25% trypsin- 0.1% ethylenediaminetetraacetic acid処理を施し,ディッシュからはがして継代培養を行い,3代から10代のものを実験に供試した。実験手順は東北大学大学院歯学研究科の倫理審査委員会によって承認された(承認番号20-19)。不死化マウスセメント芽細胞株(OCCM-30)は10% FBS,抗生物質添加Dulbecco's Modified Eagle's Medium(DMEM)を用いて継代および培養した。なお,培養に用いた試薬で特に記載のないものは,全てInvitrogen/Gibco BRL(Life Technologies,Carlsbad,CA,USA)から購入した。

細胞増殖能の測定

96ウェルマルチプレートに細胞を播種した細胞を,Berberine存在下の2% FBS含有α-MEMあるいはDMEMで3日間培養したものを用いた。Berberineによる細胞増殖にMAPKが関与しているかどうかを検討するため,細胞をp38 MAPK阻害剤SB203580またはERK1/2阻害剤PD98059で30分間前処理したのちBerberineで72時間刺激した。全ての刺激培養は,培養液中のDMSOが同じ濃度(0.05%(v/v))になるよう調整した。細胞数はCell Counting Kit-8 TM(Dojindo Laboratories,Kumamoto,Japan)を用いて,450 nmの吸光度を分光光度計を用いて測定した。

ALP活性の測定

96ウェルマルチプレートに細胞を播種しBerberine存在下の2% FBS含有α-MEMあるいはDMEMで3日間培養した細胞を,1 mg/ml para-nitro-phenyl phosphate(pNPP)を基質とした溶液中で細胞破砕液を37℃で1時間反応させた。その後,0.6 N水酸化ナトリウムを加えて反応を停止させて405 nmの吸光度を分光光度計を用いて測定した。

細胞遊走能の測定

コンフルエントになった単一細胞層を10 μlピペットのチップ先端を用いて直線的にスクラッチを行った後,Berberine存在下の2% FBS含有α-MEM中で培養した。12時間ごとに,スクラッチした部位の写真撮影を行った。撮影にはOLYMPUS IX70顕微鏡(Olympus,Tokyo,Japan)を用い位相差モードを使用した。細胞の回復率はスクラッチをすることで最初にできた細胞間距離を規格化して10点計測し,同部位に対する各撮影時の細胞間距離を下記の式にて計算し,その割合で表記した。

回復率(%)=(撮影時の細胞間距離/スクラッチ時の細胞間距離)×100

逆転写(reverse transcription:RT)および定量的リアルタイムpolymerase chain reaction(PCR)

Qiashredder and RNeasyⓇ Kits(QIAGEN,Valencia,CA,USA)を用いて細胞から全RNAを抽出し,DNase(DNA-free TM,Ambion Inc,Austin,TX,USA)処理を施した。なお,RNAの抽出は製品マニュアルに従って実施した。得られた全RNA 0.5 μgに,Transcriptor First Strand cDNA Synthesis KitⓇ(Roche Diagnostic Co., Indianapolis,IN,USA)を用いて逆転写反応を行い,置換されたcDNA 50 ngを定量的リアルタイムPCRに用いた。

ウエスタンブロット分析

コンフルエントになった単一細胞層を,Cell Lysis BufferⓇ(Cell Signaling Technology,Beverly,MA,USA)を用いて,製品マニュアルに従い可溶化した。細胞溶解物はSodium dodecyl sulfateポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った後,semi-dry transblot system(ATTO,Tokyo,Japan)を用いてpolyvinylidene difluoride membrane(ATTO)に転写した。転写したメンブレンは0.5%(v/v)Tween20含有PBSを用いて室温で1時間ブロッキングを行い,直ちに1:1000に希釈したウサギ抗phosphorylated ERK1/2,抗ERK1/2および抗phosphorylated p38,抗p38(Cell signaling Technology)を室温で1時間反応させた。引き続き,希釈濃度1:2000のhorseradish peroxidase-conjugated goat anti-ウサギIgG抗体(Cell signaling Technology)を用いて室温で1時間処理した後,Western blotting detection reagent ECL PlusⓇ(Amersham Pharmacia Biotech Inc., Piscataway,NJ,USA)で化学発光させた。各試料から得られた発光シグナルはLuminescent Image analyzer ChemiDoc XRS Plus™(Bio-Rad)を用いて分析した。

結果

Berberineは細胞増殖を促進し,ALPの活性を抑制する

BerberineのhPDL細胞の増殖への影響について解析を行った。希薄に播種したhPDL細胞を規定濃度のBerberineにて刺激して対数増殖期である72時間後に,材料および方法の項目で記載した手法に従って比色法を用いて細胞数を測定した。図1Aに示すように,0.1および1 μg/mlの濃度で有意な細胞増殖作用がみられた。次に歯根膜組織に存在するセメント芽細胞においても同様の反応が見られるか検討した。そこでマウスセメント芽細胞株であるOCCM-30を用いて,同様の実験を行った結果,図1Bに示すように,OCCM-30においてもBerberine 1 μg/ml,10 μg/mlで有意な細胞増殖作用がみられた。

Berberineは前骨芽細胞における石灰化促進作用を有することが報告されている34)。そこで石灰化初期に働くALP活性の変化について検討を行った。コンフルエントになったhPDL細胞を規定濃度のBerberineにて72時間刺激して,材料および方法の項目で記載した手法に従い,比色法にてALP活性を測定したところ,図1Cに示すように,1 μg/mlの濃度で有意にALP活性の抑制が確認された。また同様の実験でOCCM-30においても,Berberine 0.1 μg/mlから濃度依存的にALP活性の抑制がみられた(図1D)。以上のことから,BerberineはhPDL細胞およびOCCM-30の細胞増殖を促進し,さらにALPの活性を抑制することが示唆された。

図1

BerberineはhPDL細胞およびOCCM-30において増殖を促進し,ALP活性を抑制する

(A):hPDL細胞を所定濃度のBerberineの存在下で培養し,対数増殖期である72時間後の細胞数を測定した。(B):OCCM-30を所定濃度のBerberineの存在下で培養し,対数増殖期である72時間後の細胞数を測定した。(C):コンフルエントになったhPDL細胞を所定濃度のBerberine存在下で72時間培養しALP活性を測定した。(D):コンフルエントになったOCCM-30を所定濃度のBerberine存在下で72時間培養し,ALP活性を測定した。同様の実験をtriplicate assayにて3回繰り返して行い,その代表的なデータを平均値±標準偏差として示した。*:それぞれのコントロールに対して統計学的に有意差があることを示す(P<0.05)。

BerberineはhPDL細胞の遊走能には影響を与えない

Berberineは数々の癌細胞の遊走能を抑制することが報告されている35-37)。歯周組織再生療法においてはhPDL細胞の歯根面への遊走が必要なステップである。そこでhPDL細胞の遊走能にBerberineが及ぼす影響について検討した。測定は材料および方法の項目で記載した手法に従ってスクラッチ法にて行い,Berberine 1 μg/ml存在下あるいは非存在下で36時間まで培養を行った。図2Bで示すように,非刺激群では12時間後には回復率約30%を示し,36時間後では回復率は約80%を示した。一方,Berberineにて刺激をしたものは非刺激群と比較して12時間および36時間においても,有意な変化は認められなかった。このことから,BerberineはhPDL細胞の遊走能に影響を与えないことが示唆された。

図2

BerberineはhPDL細胞の遊走能に影響を与えない

(A):コンフルエントになったhPDL細胞の単一細胞層をスクラッチした後,Berberine存在下あるいは非存在下で36時間まで培養した。所定の時間経過したときに同一の部位を撮影した像を示す。(B):細胞の移動率は,スクラッチにより最初にできた細胞間距離に対する各撮影時間における細胞間距離の割合で算出した。同様の実験をtriplicate assayにて3回繰り返して行い,その代表的なデータを平均値±標準偏差として示した。ns:それぞれのコントロールと統計学的有意差がないことを示す。

BerberineはhPDL細胞のCyclin D1の発現を増強する

BerberineはhPDL細胞の細胞増殖を有意に促進させることから(図1A),G1/S期の細胞周期の進行の制御因子として知られているCyclin D1の遺伝子発現について検討を行った。コンフルエントになったhPDL細胞を,Berberine1 μg/mlの存在下あるいは非存在下で所定時間培養したものを用いて,定量性RT-PCR法により解析した。図3より,Berbeiene刺激後12時間および24時間でCyclin D1の有意な発現増強を認めた。このことからBerberineによる細胞増殖には,Cyclin D1の発現調節が関与している可能性が示唆された。

図3

BerberineはhPDL細胞のCyclin D1遺伝子発現を増強する

hPDL細胞におけるCyclin D1の遺伝子発現。コンフルエントになったhPDL細胞を図に示した時間Berberineで刺激した。全RNAを抽出し,RT-PCRを用いて解析した。同様の実験をtriplicate assayにて3回繰り返して行い,その代表的なデータを平均値±標準偏差として示した。統計学的有意差あり。 *:それぞれのコントロールに対して統計学的に有意差があることを示す(P<0.05)。

BerberineはhPDL細胞のALP遺伝子を抑制する

BerberineはhPDL細胞のALP活性を抑制することから(図1C),hPDL細胞の分化を抑制することが示唆される。そこで硬組織形成細胞の初期分化マーカーであるALPとその後発現誘導されることが知られているOCN,BSPのそれぞれの遺伝子発現に及ぼす影響について定量性RT-PCR法により解析した。図4Aに示すようにALPの遺伝発現は刺激後72時間で有意に抑制されたが,図4B,Cに示すようにOCN,BSP遺伝子発現に対しては,有意な変化は与えなかった。このことから,Berberineは細胞の初期分化での制御に関与していることが示唆された。

図4

BerberineはhPDL細胞のALP遺伝子を抑制する

(A-C):hPDL細胞における各種遺伝子発現。コンフルエントになったhPDL細胞を72時間Berberineで刺激した。全RNAを抽出し,RT-PCRを用いて解析した。同様の実験をtriplicate assayにて3回繰り返して行い,その代表的なデータを平均値±標準偏差として示した。統計学的有意差あり。*:それぞれのコントロールに対して統計学的に有意差があることを示す(P<0.05)。ns:それぞれのコントロールと統計学的有意差がないことを示す。

BerberineによってhPDL細胞のFGF-2およびPDGFB遺伝子の発現は影響を与えない

FGF-2およびPDGF-BのホモダイマーであるPDGF-BBはhPDL細胞の細胞増殖促進作用を有することで広く知られている38,39)。そこでFGF-2およびPDGF-Bの発現について,定量性RT-PCR法にて解析を行ったところ,12時間刺激においてどちらの遺伝子発現にも有意な変化はみられなかった(図5)。このことからBernerineによるhPDL細胞の増殖には,少なくてもこれらの成長因子の発現を介したものではないことが示唆された。

図5

BerberineによってhPDL細胞のFGF-2およびPDGFB遺伝子の発現は影響を与えない

(A, B):hPDL細胞における各種遺伝子発現。コンフルエントになったhPDL細胞を12時間Berberineで刺激した。全RNAを抽出し,RT-PCRを用いて解析した。同様の実験をtriplicate assayにて3回繰り返して行い,その代表的なデータを平均値±標準偏差として示した。ns:それぞれのコントロールと統計学的有意差がないことを示す。

Berberineはp38 MAPKおよびERK1/2のリン酸化を促進する

Berberieneは前骨芽細胞においてMAPK経路を活性化することが報告されている34)。そこでBerberieneによるhPDL細胞の増殖およびALPの発現抑制へのMAPKの関与について検討した。まず,hPDL細胞を1 μg/mlの濃度のBerberineで規定時間刺激し,p38 MAPKおよびERK1/2のリン酸化に与える影響についてウエスタンブロット法を用いて解析した。図6に示すようにp38 MAPKは刺激後5分をピークにリン酸化が誘導され,30分後には非刺激群と同レベルに戻った。ERK1/2は刺激後10分および60分をピークとする2相性のリン酸化誘導が認められた。このことからBerberineはhPDL細胞においても,p38 MAPKおよびERK1/2経路を活性化することが明らかとなった。

図6

Berberineはp38 MAPKおよびERK1/2 のリン酸化を促進する

コンフルエントになったhPDL細胞を図に示した時間Berberineで刺激を行った。リン酸化された細胞溶解物の分析はphospho-specific p38 MAPK(Thr180/Tyr182)およびp44/42 ERK1/2(Thr202/Try204)抗体を用いてウエスタンブロット法により分析した。同様の実験をtriplicate assayにて3回繰り返して行い,代表的なデータを示す。

BerberineはhPDL細胞においてp38 MAPKおよびERK1/2経路非依存的に細胞増殖を促進し,ERK1/2経路依存的にALP活性およびALP遺伝子発現を抑制する。

p38 MAPKおよびERK1/2経路がBerbrineによるhPDL細胞の増殖に関与する可能性について解析を行った。hPDL細胞をp38 MAPK阻害剤であるSB203580,ERK1/2阻害剤であるPD98059にて前処理した後,Berberine 1 μg/ml存在下あるいは非存在下にて対数増殖期である72時間後に,材料および方法の項目で記載した手法に従って比色法を用いて細胞数を測定した。その結果,図7Aに示すように,SB203580およびPD98059どちらの前処理においても,Berbeineによる細胞増殖の促進には有意な影響は与えなかった。このことから,Berbeineはp38 MAPKおよびERK1/2非依存的にヒト歯根膜細胞の増殖を促進することが示唆された。

次にp38 MAPKおよびERK1/2のBerberineによるhPDL細胞のALP活性およびALP遺伝子発現の抑制に関与する可能性について検討した。コンフルエントになったhPDL細胞をSB203580およびPD98059にて前処理した後,Berberine 1 μg/mlにて72時間刺激し,材料および方法の項目で記載した手法に従って比色法を用いてALP活性を測定した。その結果,図7Bに示すようにPD98059にて前処理を行った群においてはBerberineによるALP活性の抑制が解除されたが,SB203580で前処理を行った群においてはALP活性の抑制は解除されなかった。また図7Cに示すように,ALP遺伝子発現も同様に,PD98059による前処理を行うことによって,ALP遺伝子発現の抑制の解除が認められたが,SB203580の前処理では解除は認められなかった。以上のことから,hPDL細胞におけるBerbeineによるALP活性およびALP遺伝子発現の抑制は,ERK1/2経路を介していることが示唆された。

図7

BerberineはhPDL細胞においてp38 MAPKおよびERK1/2経路非依存的に細胞増殖を促進し,ERK1/2経路依存的にALP活性およびALP遺伝子発現を抑制する。

hPDL細胞を30分間20 μΜのSB203580またはPD98059により前処理した後,Berberine存在下にて72時間培養した。コントロールを含むすべてのサンプルの細胞培養液中に最終濃度が0.05%(v/v)のDMSOが含まれるよう調整した。(A):WST-8を用いた比色法にて細胞数を測定した。(B):pNPPを基質とした比色法にて,ALP活性を測定した。(C):全RNAを抽出し,RT-PCRを用いてALP遺伝子発現を解析した。同様の実験をtriplicate assayにて3回繰り返して行い,その代表的なデータを平均値±標準偏差として示した。統計学的有意差あり。*:それぞれのコントロールに対して統計学的に有意差があることを示す(P<0.05)。ns:それぞれのコントロールと統計学的有意差がないことを示す。

考察

本研究ではBerberineはhPDL細胞の増殖を促進することを明らかにした。さらにCyclin D1の発現を増強することを明らかにした。Cyclin D1の主な役割は,Cyclin dependent kinase(Cdk)4やCdk6との相互作用によって細胞周期を制御することである。Yanらは軟骨細胞を用いた実験においてBerberineはCyclin D1の発現増強により細胞増殖を促進することを報告した40)。このことからもhPDL細胞においても同様の機序が関与している可能性が考えられる。Berberineが細胞増殖に与える影響について,LuiらはBerberine刺激によるhPDL細胞においてシグナル経路等の解析は行われていないものの,増殖が促進することを報告している41)。一方で複数の癌細胞において,Berberineは細胞調節を制御するCyclin D1,D2,EおよびCdk2,Cdk4,Cdk6の発現を抑制することによって細胞の増殖を抑制することを報告している42-45)。またWeiらは前立腺癌細胞において低濃度のBerberineでは細胞周期のG0/G1期で,高濃度のBerberineではG2/M期で細胞増殖を阻害することを報告している46)。このことからも,正常細胞と癌細胞におけるBerberineの作用の方向性は異なると考えられる。

細胞増殖を制御する細胞内シグナル伝達分子として,MAPKが知られている。セリン・スレオニンキナーゼであるMAPKカスケードは,細胞外から細胞核への情報伝達を担う重要なシグナル伝達システムの1つである。MAPKにはERK1/2やp38 MAPKが含まれ,これらは発生,増殖,分化,アポトーシスおよび炎症などを制御することが知られている。本研究においてはBerberine刺激によるhPDL細胞の増殖促進作用はERK1/2阻害剤やp38 MAPK阻害剤の存在下においても有意な変化は認められなかったことから,MAPKシグナル経路に非依存的に制御されていると考えられる。一方,細胞増殖を制御するシグナル分子の1つとしてWntが知られている。Wntは19種からなる分泌型糖タンパク群であり,細胞内タンパク質であるβ-catenin依存性の古典的経路と非依存性の非古典的経路が知られている。古典的経路はMAPKと互いに作用して細胞増殖や分化を制御する47)。YanらはBerberineによる軟骨細胞のCyclin D1の発現増強にWnt/β-cateninシグナル経路が介することを報告している40)。本研究において,Berberineがβ-cateninのタンパク質の発現およびβ-cateninのリン酸化に与える影響についてウエスタンブロット法にて解析を行ったが,有意な変化は認められなかった(data not shown)。このことから,hPDL細胞においてBerberine刺激による細胞増殖はWnt/β-cateninシグナル経路非依存的に制御されていると考えられる。

本研究において,BerberineはhPDL細胞においてERK1/2経路を介してALPの活性および遺伝子発現を抑制することを示した。Berberineが骨分化に与える影響を示した知見はいくつか報告されている。Leeらは前骨芽細胞をBerberineで刺激すると,p38 MAPKの活性化を介して,骨分化マーカーであるOPN,OCNおよびRunx2の発現が増強され,石灰化が促進されることを報告している34)。Taoらは骨髄間葉系幹細胞をBerberineで刺激することで,Wnt/β-catenin経路を介してOPN,OCNおよびRunx2の発現が増強されることを報告しており,Berberineが骨分化を誘導することを示唆している48)。またHanらは間葉系幹細胞において,BerberineはRunx2の分解を抑制することで骨芽細胞への分化を促進することを示唆している49)。さらに,LuiらはBerberine誘導性ALP活性の促進およびALPの酵素活性の増強をin situ染色で認めたことを報告している41)。これらのことからBerberineは細胞の種類や分化度の違いによって異なった作用を有しているものと考えられる。

細胞の分化には様々なシグナル経路が関与しており,ERK1/2経路は骨分化の代表的なシグナル経路の1つである。これまでの報告でERK1/2経路の活性化によりhPDL細胞は骨分化を誘導することが知られている。WuらはhPDL細胞は低酸素状態において,ERK1/2経路を介してALP活性が促進することを報告している50)。Mimoriらは,hPDL細胞をアスコルビン酸で刺激すると,ERK1/2経路を介してALP遺伝子の発現増強による分化の促進を明らかにした51)。また,WangらはhPDL細胞をinsulin-like growth factor-binding protein 5刺激によってERK1/2経路を介して骨分化の促進を報告している52)。一方,YeらはBone Morphogenetic Protein-9の刺激はERK1/2経路を介してALP活性を抑制することを報告した53)。本研究においても,BerberineはERK1/2経路を介してALP活性およびALP遺伝子発現の抑制することを明らかにした。すなわちMAPK経路の活性化が必ずしも分化誘導につながるものではなく,細胞分化は転写因子などの活性化とMAPK経路の活性化が協調して分化の方向を決定しているものと考えられる。

近年,抗生物質の多用による薬剤耐性菌の出現リスクから天然由来成分の医薬品の開発に向けて多くの研究が行われている54,55)。本研究において,歯周病原細菌に対して抗菌作用を有していることが報告されているBerberineがhPDL細胞の増殖をMAPK非依存的に促進することを示した。また,ALP活性およびALP遺伝子発現がERK1/2経路を介して抑制することを見出した。本研究は,歯周組織の修復過程においてBerberineは歯周組織の再生を担うとされている歯根膜細胞の分化度を低いレベルに維持した状態で細胞の増殖を促進させることを示唆するものである。本研究は今後,抗感染性を具備した歯周組織再生療法の薬剤として応用するための重要な知見であると考える。

謝辞

稿を終えるにあたり,多大なご指導とご高閲を賜りました東北大学名誉教授,島内英俊博士ならびに歯内歯周治療学分野教授,山田聡博士に深く感謝の意を表します。本研究の遂行において,終始細部にわたるご指導を頂きました歯内歯周治療学分野准教授,根本英二博士に甚大なる感謝を捧げます。さらに研究に際し,技術的な指導を頂きました歯学研究科イノベーションリエゾンセンター助教,金谷聡介博士に感謝申し上げると同時に,ご支援,ご協力頂きました歯内歯周治療学分野教室員各位に心より厚くお礼申し上げます。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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