Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Assessment of Oral Health-related Quality of Life in Periodontal Treatment
Asako Makino-OiAtsushi Saito
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2018 Volume 60 Issue 4 Pages 160-166

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要旨

歯周病や歯周治療の評価は,従来,歯肉の炎症の改善やアタッチメントレベルの獲得のような生物医学的な成果に焦点をあてて行われていた。近年,歯周治療をより包括的に評価するために,患者報告アウトカムである口腔関連QOL(Oral Health-related Quality of Life)を使用することの重要性が世界的に認識されている。本稿では歯周治療と口腔関連QOLの評価に焦点を当てて解説する。

はじめに

歯周治療の有効性は,従来,歯肉の炎症の改善やアタッチメントレベルの獲得のような生物医学的な成果に焦点をあててきた1,2)。このような術者主体の評価に加え,患者自身が歯周病やその治療をどのように認識しているかを評価する重要性が増している。口腔の健康状態や疾患が,口腔機能・審美・対人関係など生活のあらゆる面に影響することが明らかとなっており,歯科において,口腔関連QOL(Oral Health-related Quality of Life)のような患者の認識が重要なアウトカムとして考えられるようになった3-5)。2015年に,国際歯科連盟(FDI)は,口腔関連QOLアセスメントを歯科治療に対する患者中心のアウトカム評価として含めることを提唱した6)。日本歯周病学会は「歯周治療の指針2015」の中で,歯周病の評価項目として患者を主体とした心理・社会・行動面のアセスメントについて明記している7)

本稿では,歯周病そして歯周治療と口腔関連QOLの関わりについての研究を紹介し,歯周治療において口腔関連QOLを評価することの意義について考察する。

口腔関連QOLの尺度

口腔の分野において,The General Oral Health Assessment Index(GOHAI)8),Oral Health Impact Profile(OHIP)9),Oral Impacts on Daily Performance(OIDP)10)などの様々な口腔関連QOLの尺度が開発され,応用されている。尺度は,それぞれに特徴があり,多様な臨床および研究の条件下で標準となるものは認められていない。

歯周治療は長期間にわたることが多く,効果的に歯科医師と歯科衛生士が協働することが求められる。そのため,歯周炎患者のQOLの評価には歯科衛生領域の視点も要求される。歯科衛生領域のモデルとして,口腔関連QOLの歯科衛生モデルOral Health-related Quality of Life Model for Dental Hygiene(OHRQL)11)が挙げられる。OHRQLモデルは1998年に紹介され,健康/発症前疾病,生物/生理学的疾病,症状・状態,健康状態,健康認識,全体的QOLの6つの領域の構成要素からなっている11)。このモデルの特徴としては,健康関連QOLを包括的に取り込んでいる点である。このモデルをもとに,1999年に開発されたOHRQL尺度は,22項目のサブスケールを含む7つの概念領域(痛み,口の乾燥,食事・咀嚼,会話機能,社会的機能,心理的機能,健康認識)から構成されている12)。我々の研究グループは,2007年よりOHRQL尺度の日本語版13)を用いて歯周炎患者の口腔関連QOLの評価を行っている。実際のアセスメント方法は,OHRQLアセスメント票を使用して患者の自己記入式で行う。回答者が自分の状況と照らし合わせて最もよくあてはまるものを選ぶ形式となっている。質問に対する回答は,0.「まったくない」,1.「ほとんどない」,2.「時々」,3.「しばしば」,4.「いつも」の5つの選択肢に各々点数を振り分け,健康認識の領域では,同世代の他人と比較して,0.「よい」,1.「同程度」,2.「悪い」の3つの選択肢に各々点数を振り分ける。OHRQLの最高点は84点(QOLが最も損なわれている),最低点は0点(QOLが最も良好である)となっている。口腔関連QOLの尺度を用いる際には,それぞれの尺度および翻訳版によって点数の付け方も異なり,例えばGOHAI8)の日本語版14)では,1.「いつもそうだった」,2.「よくあった」,3.「時々あった」,4.「めったになかった」,5.「まったくなかった」の5つの選択肢に各々点数を振り分ける。最高点は60点(QOLが最も良好である),最低点は12点(QOLが最も損なわれている)となっている。OHRQLでは,スコアが低いほどQOLが良好であり,GOHAIの日本語版では,スコアが高いほどQOLが良好であるため尺度を用いる際には点数の解釈に注意が必要である。

歯周病と口腔関連QOL

歯周病における患者報告アウトカムの評価は1980年代15)より行われている。2000年代以降,歯周病において口腔関連QOLを評価指標とする研究が数多くなされており,歯周病は患者の口腔関連QOLに負の影響を与える可能性を報告している16-20)。歯周病と口腔関連QOLに関する主な研究16-20)を表1に示す。Ngら16)は,クリニカルアタッチメントレベル(CAL)≤ 2 mmの軽度アタッチメントロス群とCAL > 3 mmの重度アタッチメントロス群を比較し,CALが3 mmを超えると,口腔関連QOLが損なわれていると報告している。歯周病をどのように定義しているかは,論文間でばらつきがあり,CALだけの評価では,歯肉退縮の症例も含まれる可能性もある。そのため,Brennanら17)は,歯肉炎群,歯肉退縮群,プロービングデプス群およびアタッチメントロス群に分けて評価し,歯肉炎群と歯肉退縮群よりも,プロービングデプス群とアタッチメントロス群において,口腔関連QOLが損なわれていることを報告した。Lawrenceら18)は,出生コホート研究において,CAL ≥ 4 mmの2部位以上の存在と口腔関連QOLは関連を示すことを報告した。BernabéとMarcenes19)は,CAL ≥ 4 mmが2部位以上存在し,かつ1部位以上ポケットデプス ≥ 4 mm存在すると,人口統計学的因子,社会経済学的階級,および臨床状態の交絡因子調整後においてもOHIP-14合計点(rate ratio:1.26,95% CI=1.16-1.38)と関連を示し,口腔関連QOLに負の影響を及ぼすことを報告した。我々の研究グループは,2007年よりOHRQLの日本語版の尺度を用い,歯周炎患者の口腔関連QOLのアセスメントを行っており,2009年には,東京歯科大学水道橋病院総合歯科に来院し,慢性歯周炎と診断された31名(男性10名,女性21名,平均年齢54.1歳)と,健常対照群21名(男性4名,女性17名,平均年齢29.3歳)のパイロット研究を行った21)。その結果,歯周炎患者群のOHRQL合計点は,健常対照群のスコアに比べて有意に高い値を示しており,QOLに問題がある可能性を示した。OHRQL領域ごとの比較では,特に「痛み」「食事・咀嚼」「心理的機能」に問題を抱えている傾向を示し,「健康認識」領域の回答では,約6割が同年代の他人と比較して自身の口腔の健康状態は悪いと認識しており,OHRQLのアセスメントを臨床に導入する意義を示した。2010年には,水道橋病院総合歯科および慶應義塾大学病院歯科・口腔外科を受診した慢性歯周炎患者を対象とした研究を行った20)。この結果,歯周炎患者群58名(男性23名,女性35名,平均年齢53.6歳)は,健常対照群50名(男性26名,女性24名,平均年齢36.4歳)と比較し,OHRQL合計点が高くなり,口腔関連QOLが損なわれていることを明らかにした。OHRQLの領域ごとで評価をおこなうと,特に「痛み」「食事・咀嚼」「心理的機能」に問題を認め,「健康認識」の領域では,患者の約半数が,同年代の他人と比較して自分の口腔の健康状態が悪いと認識していた。また,歯周組織とOHRQLスコアとの関連性について評価したところ,平均CALが3 mmより大きいグループとCALが3 mm以下のグループ間で,OHRQLスコアの有意な差はみられなかった。これは,生物医学的データだけでは,口腔関連QOLの変化は測りきれないことを意味し,患者の歯周病に対する認識について尺度を用いて数値化し,客観的にとらえることの重要性を示しているといえる。

歯周病と口腔関連QOLに関するシステマティックレビュー22)では,2001年から2014年の間に発表された32の論文について評価し,そのうちの8つの論文で疾患重症度や程度が悪化すると口腔関連QOLが損なわれると報告しているため歯周病は沈黙の病気ではないとしている。このように,患者報告アウトカムによって歯周病の評価を行うことで,歯周病が口腔関連QOLに負の影響を及ぼすことが示されている。

表1

歯周病と口腔関連QOLに関する主な研究

歯周治療と口腔関連QOL

歯周治療における口腔関連QOL研究は,2000年代以降多くの研究がなされている。歯周治療と口腔関連QOLに関する主な研究20,23-28)を表2に示す。Bajwaら23)は,口腔清掃指導,スケーリング・ルートプレーニング6か月後において,口腔関連QOLの改善傾向を報告したが有意差はみられなかった。Ozcelikら24)は,短期間(1週間)の口腔関連QOL変化について報告し,口腔清掃指導とスケーリング・ルートプレーニングを行った非外科治療群,オープンフラップデブライドメント単独の歯周外科治療群,およびエナメルマトリックスタンパク質を応用した歯周外科治療群の3群間で比較し,オープンフラップデブライドメント単独の歯周外科治療群において,術直後は口腔関連QOLを損なわせること,その後1週間でベースライン時と同程度に口腔関連QOLが改善することを示している。Åslundら25)は,2種類の非外科治療を比較し,どちらの方法においても非外科治療によって,口腔関連QOLが改善すると報告している。Jowettら26)は,歯周病患者群と健常対照群の術後1週間を比較した。歯周病患者群は,非外科治療を行った後にOHIP-14合計点は有意に改善し,歯周治療を行うことで口腔関連QOLは改善することを示した。

我々の研究グループは,2010年に平成21年度日本歯周病学会企画調査研究助成を受け,歯周基本治療が口腔関連QOLに及ぼす影響を評価した20)。歯周基本治療として,口腔清掃指導やスケーリング・ルートプレーニングを実施することで,歯周パラメーターのみならずOHRQL合計点においても統計学的に有意な改善を認めることを示した。影響の大きさを示す指標であるエフェクトサイズ(ES)は0.51で中等度の改善であった。これらのことより,歯周基本治療が口腔関連QOLの改善をもたらす可能性を示した。2011年には,歯周外科治療が口腔関連QOLに及ぼす影響に関するパイロット研究27)を行った。多施設の中等度から重度歯周炎と診断された患者のうち,歯周基本治療の後,歯周外科治療を受けた21名を解析対象とした。Phase 1(初診時),Phase 2(歯周基本治療後)およびPhase 3(歯周外科治療後)にアセスメントを行った。歯周治療が進むにつれて,患者のほぼすべての歯周パラメーターは,有意な改善を示した。OHRQL合計点は,歯周基本治療後,歯周外科治療後ともに,初診時に比較して有意に改善したが,歯周基本治療後と歯周外科治療後のスコアの間には,有意差はみられなかった。領域ごとのOHRQLスコアの変化は,初診時に比べて,歯周外科治療後に痛み,食事・咀嚼,心理的機能のスコアは有意に改善した。しかし,歯周基本治療後と歯周外科治療後のスコアには,有意な変化はみられなかった。歯周基本治療を行った結果,Phase 1からPhase 2でOHRQLスコアが大きく減少したために,それ以上の差が出なくなる床面効果(floor effect)が生じ,Phase 2からPhase 3のさらなる減少が生じにくかった可能性があり,歯周基本治療後の口腔関連QOLの改善により,歯周外科治療による影響が反映されなかったとも考えられる。ESは,初診時から歯周基本治療後,歯周外科治療後の効果はそれぞれ,0.8と0.9と,どちらも大きく,歯周基本治療後から歯周外科治療後の効果は,0.2で小さいと判断された。歯周治療における口腔関連QOLの変化は,歯周外科治療と比較し,歯周基本治療が及ぼす影響がより大きいことを示した。患者の歯周外科治療の影響をさらに明確にするために,歯周基本治療を受けた患者において,歯周基本治療後の歯周外科治療群と非外科治療群についてより詳細に評価し,2016年に報告した28)。多施設の中等度から重度歯周炎と診断された患者のうち,歯周基本治療の後,歯周外科治療と非外科治療を受けた76名を解析対象とした。Phase 1(初診時),Phase 2(歯周基本治療後)およびPhase 3(歯周外科治療後もしくはサポーティブペリオドンタルセラピー)にアセスメントを行った。歯周治療が進むにつれて,患者のほぼすべての歯周パラメーターは,有意な改善を示した。OHRQL合計点は,両群ともPhase 1からPhase 2,Phase 1からPhase 3で有意に改善した。ESは,両群ともに,Phase 1からPhase 2,Phase 1からPhase 3は中程度,Phase 2からPhase 3は小さいと判断された。Phase 2からPhase 3のOHRQLの変化量は,非外科治療群よりも歯周外科治療群で有意に高い値を示した。口腔関連QOLは歯周外科治療群,非外科治療群ともに,初診時と比較し有意な改善を認めた。その程度は歯周外科治療群で大きい傾向を示したが,歯周基本治療後からの改善は限局的であることを報告した。これまで示したように,我々の研究グループを含む多くの研究で,非外科治療,歯周外科治療ともに,患者のQOLを改善しうることを報告した。

また,2018年に報告された,根面被覆の多施設ランダム化比較試験29)において,口腔関連QOLが取り入れられている。根面被覆にコラーゲンマトリックスを応用した群と結合組織移植を行った群で比較し,術前および術直後から毎日口腔関連QOLアセスメントを行い,術直後のOHIP-14合計点が術前の値まで改善する日数は,コラーゲンマトリックスを応用した群の方が1.8日早いことを示した。このように,感覚や想像でとらえられていた患者自身の歯周治療に対する認識を数値化してとらえることができる包括的な評価項目として,患者報告アウトカムはますます重要性を増していくであろう。

その一方で,口腔関連QOLアセスメントの導入には,床面効果やレスポンスシフトの問題など課題もある。レスポンスシフトとは,経時的な測定の際に,尺度に回答する自己評価の判断基準が変化することである30)。本人が良くなったと自己評価しても口腔関連QOLスコアに変化が現れない,その逆に本人は変化していないと感じていてもスコアに差が現れるなど,介入の効果が過大もしくは過少評価されてしまうような現象が生じる31)。歯周治療においても注目していく必要があるだろう。

表2

歯周治療と口腔関連QOLに関する主な研究

おわりに

歯周病は口腔関連QOLに負の影響を及ぼし,歯周治療を行うことでQOLが改善することが示されている。口腔関連QOLの各領域に対応した介入を計画して実施することで,個人のQOLに配慮した包括的な歯周治療が可能となる。今後は,歯周治療の異なる術式が,患者の口腔関連QOLにどのような影響を与えるかについて検討する必要がある。また,歯周病に適した尺度とはどのようなものであるかについて考える必要があり,歯周病に特化した疾患特異的尺度開発も行うべきであろう。口腔関連QOLアセスメントが歯周治療の評価項目として,臨床の現場で普及していくことを期待している。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2018 by The Japanese Society of Periodontology
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