Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Basic research on macrophages in periodontitis
Tatsuji Nishihara
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2018 Volume 60 Issue 4 Pages 167-172

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歯周病は,ある種の歯周病原細菌による混合感染により発症し,炎症の遷延化とともに,歯周組織の破壊など,歯周病特有の症状を呈する炎症性疾患である。さらに,口腔内の解剖学的要因や生体の遺伝的な背景,さらには環境的要因を含め,多岐に渡る個体的素因が複雑な様相を醸し出している。それが故に,歯周病の病態について,全容が解明されたわけではなく,診断・治療・予防という観点で,基礎・臨床の両面から不断の研究が求められている。

医療系の学生を対象とした教科書によれば,まず,造血幹細胞から分化した単球が骨髄で成熟し,血流に入った後,約2日間血中に滞在するとされている。その間,単球は血管壁を通り抜けて組織内に入りマクロファージになるが,分化とともに,マクロファージ細胞内には,細胞内小器官としてのリソソームが増加し,その内部に加水分解酵素を蓄積するようになる。一方で,感染防御機能を担うマクロファージは,貪食した異物を細胞内のファゴソーム内に取り込む。その後,細胞内でファゴソームとリソソームが融合し,前述したリソソーム内の加水分解酵素により異物は分解される。

このように,マクロファージは,細菌,真菌,あるいはウイルスにより死滅した細胞などを貪食し,その後,細胞内で加水分解処理する。このような生体反応は,宿主が有する免疫機能のうち自然免疫系として分類され,その一連の反応のなかでも,食作用は細胞を介するきわめて重要な生体防御機能である。生体において,食作用の機能を発現する細胞は好中球とマクロファージであり,どちらも感染防御機能を有しており,一般的には,炎症の初期は好中球が担当し,後期になるとマクロファージが集まり,効率良く異物を処理すると考えられている。さらに,マクロファージは細胞死を起こした細胞の処理においても重要な役割を果たしている。

一方,マクロファージは,免疫反応において他の役割も果たしている。マクロファージは,異物を抗原として取り込んだ後,様々なサイトカインを放出し,マクロファージのみならず,多様な免疫担当細胞を活性化する。あわせて,マクロファージは,食作用によって細胞内に異物を取り込み,加水分解酵素によって異物を断片化し,その断片とマクロファージ自らが持つMHCクラスII抗原が結合して,マクロファージ細胞表面に抗原断片を表出する。この一連の過程はマクロファージによる抗原提示と呼ばれ,次なるステップの獲得免疫系への繋ぎ役を担っている。さらに,マクロファージによる抗原提示のシグナルは,細胞性免疫の担い手であるT細胞,なかでもヘルパーT細胞と呼ばれるリンパ球に伝達され,複雑な経路を経て,ヘルパーT細胞が活性化される。興味深いことに,ヘルパーT細胞表面に存在するT細胞受容体の構造は,活性化した細胞ごとに異なっていて,マクロファージによって提示された抗原断片とぴったりと合う受容体を持つヘルパーT細胞だけが活性化され,後継の獲得免疫の特異性が担保されている。

活性化したマクロファージ,リンパ球(T細胞およびB細胞)は,インターロイキンやリンフォカインなど多様なサイトカインを産生する。これらのサイトカインは,免疫担当細胞をはじめとする様々な細胞に作用し,分化や細胞の活性化を促進する。例えば,歯周炎局所に炎症性サイトカインであるTNF-αやIL-1 βが過剰産生されると,歯周組織中の骨芽細胞や支持細胞に作用してRANKLの産生が亢進される。その結果,破骨細胞の分化と活性化を促進して,歯周炎に主たる症状である歯槽骨吸収が誘導されるということを考え合わせると,この一連のサイトカインカスケードは,歯周炎における病態メカニズムという視点できわめて興味深い。

生体を構成するサイトカインは,恒常性という観点でも重要な生理活性を有しているが,サイトカインの機能の多様性および重複性により,生体内ではきわめて巧妙なサイトカインネットワークが形成されている。近年になって,単球・マクロファージの分化および活性化において,ある種のサイトカインは単球の成熟およびマクロファージの増殖を促して食作用を活性化すること,さらに,マクロファージを集積して局所の炎症反応を亢進するなど多様性を有していることが報告されている。これらの事実を踏まえて,機能的に異なる2種類のマクロファージが存在し,生体の防御機能と炎症反応を制御していることが徐々に明らかとなってきた。現在では,グラム陰性菌に存在するLPSとIFN-γなどにより活性化されるM1細胞とIL-4やIL-13などにより選択的に活性化されるM2細胞に分類され,炎症局所におけるM1細胞とM2細胞の果たす役割が注目され,活性化マクロファージの機能の多様性を視野に入れた炎症のコントロールが臨床的にも興味深い研究対象となってきた。

1. 新たな視点に立った歯周病に関するマクロファージの研究

我々の研究室では,マクロファージが炎症局所でどのような役割を果たしているかということを分子レベルで研究してきた1-12)。その間,ある種の歯周病原細菌がマクロファージに寄生して機能タンパク質複合体であるインフラマソームを誘導することを見出した。近年,歯周炎と生活習慣病の因果関係が注目されるようになり,我々の研究室でも,このような病態解析を分子レベルで検証する研究を展開している。今後,このような研究の成果が集積することにより,従来,行なわれてきた歯周病の治療や予防の実践に加え,歯周病の予防と治療を通じて全身の健康増進に貢献するといった新たな歯科医療体制作りにも貢献できるものと考えている。

例えば,歯周炎の発症時にマクロファージ内に取り込まれた細胞内寄生細菌である歯周病原細菌はマクロファージ細胞内のインフラマソームの活性化を誘導する。我々のグループは,この現象を解析することにより,歯周病原細菌が心筋梗塞などの生活習慣病の誘発に関わる可能性が高いという仮説を実証することができるのではないかと考え,新たな実証研究を開始した。これまでに,生体と同等の微小血管を用いた実験系を構築し,分子レベルで血管内の塞栓形成におけるインフラマソームの関与を証明した。あわせて,このインフラマソームに関する研究を進め,歯周炎局所で活性化したマクロファージが血管内で泡沫化する際に,特異的に関与しているサイトカインの作用メカニズムを明らかにした。今後,分子レベルでより詳細なメカニズムを解析していくが,その過程で実証された事実を積み重ねることにより,歯周病原細菌が心筋梗塞の誘発因子として作用するということがエビデンスベースでより明確にすることができると考えている。さらに,次なる応用研究としては,これらの成果を総合的に解析していくことで,慢性炎症である歯周炎と心筋梗塞の発症を制御する生薬の開発やそれを用いた生活習慣病の予防方法の確立などが期待できる。

2. インフラマソーム研究の意義

インフラマソームは細胞質に存在するタンパク質複合体で,感染などの外部刺激で活性化されるが,その後,caspase cascadeを介して炎症性サイトカインの分泌を誘導する。近年,このような炎症性サイトカイン産生をともなう細胞死ピロトーシスが注目されている。とくに,Gasdermin Dによる細胞膜への小孔形成が報告され,炎症応答におけるピロトーシスと炎症性サイトカイン産生メカニズム解明への端緒となる可能性があり注目されている(図113,14)

我々の研究室では,歯周病原細菌感染による炎症反応において,インフラマソーム複合体が深く関わることを明らかにし,国際誌に報告してきた15,16)。繰り返しになるが,歯周炎は歯周病原細菌による感染症であり,感染により誘導される炎症が遷延化することにより歯周組織の慢性炎症・破壊が誘導される。あわせて,現在では,「歯周医学」という概念で,歯周病と糖尿病や心筋梗塞など生活習慣病との関連が考えられている。我々は,図2で示すスキームにしたがって,歯周病原細菌関連分子によるインフラマソーム誘導メカニズムを解析し,そこで得られたデータをもとに,歯周病と生活習慣病との関連について,分子疫学的な手法を用いて,より詳細に検証していく予定である。

図1

インフラマソームの分子メカニズム

図2

歯周病と生活習慣病の関連

3. 歯周医学研究の方向性

これまで,歯周病発症メカニズムという視点で,マクロファージに誘導されるインフラマソーム分子群に焦点をあて,これら分子の発現メカニズムおよび情報伝達機構について解説してきた。この研究と並行して,現在,我々の研究室では,新たに企業との共同研究でMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の技術を応用した血球分離装置を開発している。これを用いることができるようになると,局所の血液から血清成分を分離して,検査時のサンプルとすることが可能となり,歯周病検査が大きく変革する。

本稿でも紹介した生体に近い形での微小血管流路実験系は,血管内皮細胞と単球・マクロファージとの相互作用を検証することができる。今後,これらの実験系を応用して,歯周組織を構成する細胞集団を対象に網羅的遺伝子解析を行い,歯周病に関わる細胞の機能解析を分子レベルで行うことも可能となる。

これらの新たな技術を前述したインフラマソーム複合体の機能解析技術と統合して,心筋梗塞における血栓形成に関連する因子の同定にまで踏み込んだ研究を展開する予定である(図3)。

図3

マクロファージに係る歯周医学研究の方向性

4. おわりに

今回,自然免疫の概念を基本に,マクロファージ内のインフラマソームを中心に,今後の歯周医学の研究の展開について概説した。

これまでも述べてきたように,歯周病の病態メカニズムについては,これまでの国内外の歯周病研究者によって,基礎・臨床の両面から,かなりの事実が明らかとなった。このような観点で考えると,我が国における歯周病研究グループは着実に成果をあげ,実質的なトランスレーショナル研究が展開されてきたと言うことができる。

一方,歯周病における疫学調査に目を向けると,歯周病の病態を診断するにあたり数値化する検査機器,いわゆるデジタル式・電子式歯周病検査機器の開発が進んでいない。日常の臨床において,歯周病の予防・治療に先立つ診断方法は確立されている。しかしながら,これを歯周医学という概念に立って,医科・歯科が一体になって,口腔内のみならず全身の検査データをビッグデータとして捉えメタ解析しようとした時に,今までの歯周病検査方法で耐えうるか否かについて,真摯に議論する必要がある。

現在,我々の研究室では,歯周病の基礎研究で得られたエビデンスをもとに「電子式歯周病診断機器」の開発を進めている。今後,このプロジェクトを展開していくなかで,臨床研究,疫学調査研究にも応用できる検査機器に進化させて,近い将来,実用可能な検査・診断方法の構築を目指している。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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© 2018 by The Japanese Society of Periodontology
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