Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Mini Review
The possibility of application of bone morphogenetic protein-9 (BMP-9) for the periodontal and bone regenerative therapy
Toshiaki NakamuraYoshinori ShirakataYukiya ShinoharaKazuyuki Noguchi
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2019 Volume 61 Issue 1 Pages 9-17

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はじめに

組織破壊性の慢性炎症性疾患である歯周病や様々な口腔疾患および外傷などで,歯周・顎骨組織が破壊され喪失すると,咀嚼・発音・審美などに障害が発生し,著しい生活の質(Quality of life)の低下を招く。また歯が失われると,歯槽骨は次第に吸収し,口腔機能回復に様々な制約が生じる。このような喪失した組織の再生を目的として,骨移植術,guided tissue regeneration(GTR)法,エナメルマトリックスデリバティブ(enamel matrix derivative:EMD)の応用等の歯周組織再生療法や,自家骨を中心として様々な骨移植材やメンブレンを用いた骨再生誘導法(guided bone regeneration:GBR)が実施されている。これらはそれぞれ一定の成果を挙げているものの,さらなる適応症の拡大と予知性の向上が求められている。特に近年では,効率的な歯周・骨組織再生を達成するべくTissue engineeringの3要素の観点から,成長因子,幹細胞,Scaffoldについて盛んに研究が行われている。歯科における再生療法のアプローチは大きく分けて二つあり,一つは外部から細胞を補充する細胞移植療法で,骨髄由来の間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells:MSC)やinduced pluripotent stem(iPS)細胞,歯根膜細胞,脱分化脂肪細胞などを用いた細胞移植療法が,将来的な応用に向けて研究が進められている。現在,基礎研究と一部の臨床研究から,その有効性は示されつつあり,今後は既存の再生療法との比較検討による治療成績や予後,費用対効果などの面での検証が望まれているところである。もう一つは内在性の細胞を活性化する成長因子を用いたサイトカイン療法であり,本邦においては2016年にリグロス(塩基性線維芽細胞増殖因子:basic fibroblast growth factor:bFGF)が歯周組織再生剤として発売,臨床に導入されている。サイトカイン療法は術式が簡便であり,さらなる発展が期待されるとともに,細胞の活性化を促すという観点から細胞移植療法にも応用できる可能性を秘めている。本稿では,強力な骨形成作用を有するbone morphogenetic protein(BMP)-9に関する最近の知見を,我々が行ったBMP-9の歯周・骨組織再生に関する研究結果を含めて紹介したい。

BMP

1965年にUristにより脱灰骨基質中に存在する異所性骨誘導能を持つ因子として報告されたBMP1)は,その後の遺伝子クローニングの結果,今では20種類近くのアイソフォームが存在する2)。BMPはアクチビン,インヒビンおよびtransforming growth factor beta(TGF-β)と共にTGF-β superfamilyを構成し,発生や骨格形成,造血・神経発生,組織の恒常性維持など様々な機能を担っている2,3)。BMPはセリン/スレオニンキナーゼ型受容体である7種類のI型受容体と3種類のII型受容体に各々のリガンドに特徴的な受容体の組み合わせで結合し,これらを通じてsmadシグナリングやmitogen-activated protein(MAP)kinaseカスケード等を活性化し,様々な作用を発揮している4,5)(図1)。これらBMPの中で現在までにBMP-2,-7(osteogenic protein-1:OP-1),growth/differentiation factor(GDF)-5の歯周組織再生への応用が検討されてきた。BMP-2および-7は未分化間葉系細胞の骨芽細胞への分化調節に重要な働きを持つBMPであり,古くから骨再生において中心的な役割を果たすと考えられ,骨形成促進因子としてin vitro,in vivoの両面から様々な組織,細胞において詳細に検討されてきた。歯周組織再生においてはイヌやサルの歯周組織欠損モデルを用いた研究から,治癒/再生を促進する結果は得られているものの,歯根吸収/アンキローシスも観察されている6)。そのため,その投与方法を工夫して歯周組織欠損に応用する試みも研究されているが7),現在までヒトにおいては歯周組織への適応は認められていない。BMP-2は歯科においては上顎洞挙上術もしくは歯槽堤増大術時の骨再生に関しての適応にとどまっており,整形外科領域では,脊椎固定や脛骨骨折などに適応されているが8),臨床においては基礎研究で使用されているBMP-2や-7の濃度と比較してかなり高濃度で使用されており,その費用対効果についての議論や検討が必要で,またその適応外使用による数々の有害事象も散見されている9-11)。GDF-5は,cartilage-derived morphogenetic protein-1(CDMP-1)の別名をもつ成長因子であり,骨格形成予定領域に凝集した間葉系細胞に発現し,後に四肢の長軸方向の成長をはじめ,関節・腱・靱帯の形成過程で発現・機能している12-14)。GDF-5はヒト歯根膜由来線維芽細胞(human periodontal ligament fibroblasts:hPDLFs)において,増殖と細胞外マトリックスの一つであるsulfated glycosaminoglycan(sGAG)の産生を促進し,歯周組織再生に適した環境を創出する可能性が示唆されており15)in vivoにおいてはGDF-5のキャリアーとして吸収性コラーゲンスポンジ(absorbable collagen sponge:ACS),β-TCPなどを用いた研究を経て16),リコンビナントヒト(rh)GDF-5/β-TCPの組み合わせを用いたヒトにおける第2相の臨床試験が行われ,術後24週において臨床パラメーター(PPDおよびCAL)の改善を認め,組織学的観察においてBMP-2,-7と異なり歯根吸収/アンキローシスは認めなかったと報告されている17,18)

図1

BMPファミリー(A)とシグナル伝達経路(B)

文献4,5)より引用改変

BMP-9

BMP-9(別名GDF-2)は胎生期マウスの肝臓から発見され19),BMPファミリーとして(i)BMP-2,-4,(ii)BMP-5,-6,-7,-8,(iii)BMP-9,-10,(iv)GDF-5,-6,-7のサブグループの一つをBMP-10とともに形成している5)(図1)。BMP-9のノックアウトマウスは,成体マウスにおいては特別な表現系は観察されず,交配も可能である。これは胎生期にBMP-9が発現するより前にBMP-10が発現しているため,BMP-9の役割をBMP-10が代償しているためと考えられており,BMP-9ノックアウトマウスにBMP-10の中和抗体を投与すると網膜における血管新生異常が起こる20)。BMP-9はII型受容体(BMPR II,ActRIIA,ActRIIB)およびI型受容体(ALK-1,ALK-2)の複合体に結合しその作用を発揮する。特にALK1への親和性が高く,BMP-9は血管内皮細胞に発現しているALK-1の生理的リガンドであると考えられている21)。このALK-1は口腔粘膜において毛細血管拡張を呈することがあるヒト遺伝性出血性末梢血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT,別名Oster-Weber-Rendu病)の原因遺伝子として同定されている22)。またBMP-9は主に肝臓に発現しており23),ヒト血中に2~12 ng/mlの濃度で存在する24)。この様な背景から,BMP-9は血管の形成や機能維持に重要な役割を担う因子として考えられており,近年,心筋線維化の内因性の抑制因子である可能性も報告された25)。この他にBMP-9は神経・脂肪・軟骨の分化26-28),糖代謝の調節29)など多彩な作用を有するが,数あるBMPの中で間葉系幹細胞を骨芽細胞様に分化する能力がBMP-2と同等かそれ以上であると報告され30),骨形成因子としても注目されている。BMP-9はBMP-2,-4,-7やGDF-5など現在まで研究されてきたBMPと異なり,BMP antagonistであるNoggin31)や抑制性のBMPであるBMP-3の作用を受け難く32),筋肉に損傷がある場合にのみ同部位に異所性骨形成能を示すというユニークな特徴も有している33)。また,ヒトにおいては骨折の治癒と血中BMP-9濃度の関係34)や,ヒトより採取した骨芽細胞に対するBMPの反応性を評価した結果,BMP-2,-7と比較してBMP-9に対する反応が優れていたことが報告されている35)。このように,BMP-9は他のBMPと異なる特徴を持ちながらもosteogenicな性質が高い。

1. BMP-9の骨再生療法への応用の可能性

骨再生療法の手法としてサイトカイン/成長因子を用いる場合は,それを局所応用するための担体,もしくは担体として機能しうる骨移植材との併用療法がある。様々な担体や骨移植材との組み合わせが考えられるがいずれにしても,成長因子の持つ生物学的活性を阻害することなく適用部位に保持するとともに成長因子を徐放させ期待する併用効果を発揮させることが重要である。そこで我々はまず,BMPの担体として最適とされ,実際に臨床においても使用されているACSをrhBMP-9の担体とし,ラット頭蓋骨欠損モデルを用いてその骨誘導能を評価した。その結果,rhBMP-9/ACS移植群(1 μgおよび5 μg-rhBMP-9/ACS)における骨形成量,欠損閉鎖率はACS群と比較し有意に高く(図2),骨形成においてACSはrhBMP-9の担体として有効に機能することが示された36)。次にBMPの中で骨形成因子のゴールドスタンダードであるBMP-2と比較したBMP-9の作用の違いだが,既に多くの報告が存在する。まずin vitroの実験系では骨芽細胞分化を指標として様々な担体との組み合わせで評価が行われており,コラーゲンスポンジを担体とした場合,マウス骨髄間質細胞(ST2細胞)においてrhBMP-9はrhBMP-2と比較してその1/10の濃度で同等の骨芽細胞様分化促進作用を示し37),他に多種のコラーゲンメンブレンや凍結脱灰乾燥骨(demineralized freeze-dried bone allograft:DFDBA),リン酸カルシウム,脱タンパク牛骨ミネラル(deprotenized bovine bone mineral:DBBMもしくはBio-Oss)においても同様の知見が得られている38-41)。またin vivoの実験系では,コラーゲンを担体として用いた異所性骨誘導モデルおよびDBBMを担体として用いた頭蓋骨欠損モデルの双方において,rhBMP-9はrhBMP-2の1/4程度の投与量で同等かそれ以上の骨誘導能を示し42),またラット頭蓋骨欠損モデルにおいて,我々はrhBMP-2/ACSの誘導する骨は脂肪髄に富むがrhBMP-9/ACSはより既存骨に近い骨を誘導することを見出している43)(図3)。ビーグル犬での頬側裂開型の抜歯窩におけるDBBMとコラーゲンメンブレンを用いた顎堤保存術では,rhBMP-2およびrhBMP-9をそれぞれ含浸したコラーゲンメンブレンで比較するとrhBMP-9群はより骨誘導能が高いことも報告されている44)

骨再生療法において,細胞移植療法の細胞ソースの有力な選択肢の一つであるMSCに対するBMP-9の骨芽細胞様分化促進作用は多数報告されているが45),我々は他の細胞ソースとして脱分化脂肪細胞(de-differentiated fat cells:DFAT)に着目し,DFATの骨芽細胞様分化調節因子としてのBMP-9の可能性について検討を行った。DFATは成熟脂肪細胞から天井培養と呼ばれる方法で体外培養することにより得られる多分化能を持つ線維芽細胞様の細胞群であるが46),ラット由来DFAT(rDFAT)においてBMP-9はFK506(tacrolimus)と共刺激することによりALP活性および石灰化を亢進し(図4A,B),またBMP-9とFK506共刺激により上昇したALP活性はnogginにより抑制されないことを見出した(図4C47)。FK506は,免疫抑制剤の一つでCyclosporine Aなどと共に,臓器移植などで広く用いられている。このFK506は,BMPまたはTGFのI型受容体の細胞質側GSドメインに結合し,シグナル伝達を抑制しているFKBP12に結合しその複合体が受容体から離れることで,その抑制性を解除すると考えられている3)。そのため,BMP-9の機能発揮における補助因子としてFK506を用いDFATを効率的に骨芽細胞様細胞へ分化させうる可能性が示唆された。またNieらは,ラット歯槽骨欠損にアデノウィルスを用いてBMP-9遺伝子を導入した歯小嚢由来幹細胞を移植したところ,BMP-9遺伝子非導入細胞群と比較して有意に骨再生を認めたと報告している48)

図2

ラット頭蓋骨欠損におけるrhBMP-9/ACSの骨誘導能

弱拡像(A,C,E,G.scale bar:500μm)と,ボックス内をそれぞれ強拡像(B,D,F,H.scale bar:100μm)として示す。(I)骨欠損内の新生骨形成量(barは平均値,n=8)。(J)骨欠損閉鎖率(barは平均値,n=8)。▼:欠損限界,p<0.05, vs control,#p<0.05, vs ACS。(文献36)より引用改変)

図3

ラット頭蓋骨欠損にrhBMP-2およびrhBMP-9で誘導された新生骨

弱拡像(A,C.scale bar:500μm)と,ボックス内をそれぞれ強拡像(B,D.scale bar:100μm)として示す。(A,B)rhBMP-2/ACSで誘導された新生骨。脂肪組織に富む骨髄腔が認められる。(B,D)rhBMP-9/ACSで誘導された新生骨。既存骨と類似した骨を認める。(E)骨欠損内の新生骨における骨髄腔の占める割合,n=7(F)骨欠損内の新生骨における脂肪組織の占める割合,n=7 p<0.05,**p<0.01。(文献43)より引用改変)

図4

rDFATにおけるBMP-9とFK506共刺激による骨芽細胞様分化促進とnogginへの耐性

(A)BMP-9とFK506共刺激によるALP活性促進。BMP-9とFK506共刺激により著しくALP活性は促進されるが,BMP-2では認められない。(B)BMP-9とFK506共刺激による石灰化物形成促進。(C)BMP-9とFK506共刺激により誘導されたALP活性に対するnogginの作用。#p<0.05, vs BMP-9,*p<0.05, vs無刺激群。(文献47)より引用改変)

2. BMP-9の歯周組織再生療法への応用の可能性

歯周組織の再生過程において重要な役割を担うhPDLFに対するBMP-9の作用について検討を行った結果,BMP-9はhPDLFの骨関連遺伝子の発現,ALP活性および石灰化物形成をBMP-2よりも有意に亢進させ(図5A,B),BMP-2と異なりBMP刺激により促進されたALP活性はhPDLFにおいてもNogginによる抑制を受けず(図5C),その作用はsmad経路,MAPkinase経路の他,phosphoinositide 3-kinase/Akt経路も関与していた(図5D-G49,50)。また,ヒト歯根膜由来幹細胞においても,遺伝子導入によるBMP-9の強発現により骨芽細胞様分化が促進されることが報告されており51),BMP-9は歯根膜細胞の骨芽細胞分化制御により硬組織形成という観点から歯周組織再生を促進する可能性があり,現在,我々はビーグル犬の歯周組織欠損モデルを用いてBMP-9の歯周組織再生効果を検証中である。また,hPDLFの機械的伸展刺激による骨芽細胞様分化促進に内因性のBMP-9が関与する可能性を示唆する報告もあり52),矯正力による歯の移動や,咬合力負荷時の歯周組織の恒常性維持に内因性のBMP-9の関与が考えられ興味深い。しかし,YangらはhPDLFでのBMP-9の遺伝子発現は確認できなかったと報告している53)。ヒトにおいて歯根膜細胞自体がBMP-9を発現する能力があるかは今後詳細な検討が必要である。

図5

In vitroでのBMP-9のhPDLFsに対する骨芽細胞様分化促進作用

(A)(B)BMP-2,-9(100 ng/ml)刺激6日後のALP活性および15日後の石灰化物形成能の解析(alizarin red染色および定量)*p<0.05, vs ODM alone。#p<0.05, vs rhBMP-2。(C)各BMPで促進されたALP活性に対するnogginの作用 p<0.05, vs rhBMP-2。(D)BMP-9によるsmad1/5/8のリン酸化(ウェスタンブロット法。)(E)BMP-9で促進されたALP活性のMAP kinase阻害剤による抑制 p<0.05, vs他群。(F)BMP-9によるAktのリン酸化(ウェスタンブロット法)。(G)BMP-9で促進されたALP活性のPI3K阻害剤による抑制 p<0.05, vs control #p<0.05, vs rhBMP-9/LY非添加群。CM:維持培地,ODM:骨分化培地,SB203580:p38阻害剤,SP600125:JNK阻害剤,U0126:ERK阻害剤,LY:LY294002,PI3K阻害剤。(文献49,50)より引用改変)

おわりに

今回,主にBMP-9について歯周・骨組織再生療法への展開に向けたこれまでの基礎研究を中心にその知見をまとめてきた。BMP-9は結合する受容体やシグナル伝達経路,抑制機構などにおいてBMP-2と異なる特徴を多く持ちながら,強力な骨芽細胞への分化能,骨誘導能を有している。このことからBMP-9はBMP-2と比較してその投与量を低減することによりコスト面や安全性という観点から大きな利点を有していると考えられ,BMP-9の臨床応用に向けたトランスレーショナルリサーチを今後さらに推進していく必要があると考えている。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2019 by The Japanese Society of Periodontology
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