Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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ISSN-L : 0385-0110
Case Report Review
Long Term Observation of Guided Tissue Regeneration with Bone Swaging Technique
Toshiro Kodama
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2019 Volume 61 Issue 2 Pages 81-94

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はじめに

歯周外科領域における再生療法は,1982年Nyman1)らにより報告された歯周組織再生誘導法(GTR法)に始まり,エナメルマトリックスタンパク質(エムドゲイン:EMD)の臨床応用が実施されるようになっている。これまでの研究報告では,いずれも臨床効果に関する成績が示されているが,この際の対象とした骨欠損は,再生環境の確保の容易な限局型の骨欠損についての成績が中心である2-10)。一方では,広範な骨欠損を対象とした場合,単独の再生療法の限界から自家骨移植や各種補填材料を応用した併用法も多く報告されているが,単独療法と比較した併用療法の臨床効果は明確ではない11-14)。著者らは1995年アテロコラーゲンメンブレン(ティッシュガイド;株式会社高研)を開発し単独法や併用法について検討してきた15-17)

これまで,広範な骨欠損に対する治療法や移植材料の選択基準は明確にされていない。術後の再生量を左右する因子は,主に骨欠損部の形態に依存しており,骨欠損幅や骨欠損開口部の角度が再生量に大きな影響を及ぼす要因となっている18,19)。次に環境的な因子としては,一般的には再生療法の実施条件となるが,①手術部に角化歯肉が存在すること,②基本治療により外傷性因子の排除もしくは固定,③骨欠損形態に応じた再生環境のための確実なスペース確保,などの要因が考えられる20)

Bone swaging techniqueを応用したGTR法の特徴

これまで広範な骨欠損に対し再生量を積極的に増加させるためにBone swaging technique21,22)を応用したGTR法について,報告を実施してきた。2013年に報告した30症例の症例報告では,プロービングアタッチメントレベル(PAL)のゲインは3.4 mm,骨再生量は77.9%と非常に良好な治療成績を示している17)。これらの結果から,このテクニックの特徴は飛躍的な骨再生率の増加が期待できることにある。この背景としては,骨欠損周囲の骨壁を骨欠損側に移動させ,骨欠損幅3 mm以上の比較的予後が期待できない骨欠損幅の広い骨欠損部に応用することにより,骨欠損幅を縮小し予知性の向上が期待できる。さらに2次的には,移動した有茎骨がメンブレンに対するスペース保持のサポートの役割を,有茎骨であるため母床骨からの細胞ならびに血液供給がメンブレンと根面直下に確保できることなどが考えられる。さらにエックス線写真では,スエジングで移動された骨頂部の歯槽骨形態の変化が術直後から一定期経過後もほとんど観察されないことから,移動された歯槽骨片はそのまま生着しているものと考えられる。以上より,本術式は歯槽骨再生を積極的に促進できる歯周組織再生療法として位置づけることができる。本稿では,2壁性の骨欠損幅の広い非内側性骨欠損2部位に対して,Bone swaging techniqueを応用した症例の術後10年間の経過を報告するとともに考察を加える。

症例の概要

患者は36歳女性で,初診は平成18年1月下旬,主訴は左右下臼歯部の周期的な腫れ。全身的な既往歴は特になく,歯科的な既往歴としては20歳代(約12年前)に矯正治療を実施。これまでの経過としては,ここ1年程前より左右下顎臼歯部の腫脹ならびに急性化を数か月毎に繰り返し,近医を受診するも改善が認められないため専門医の受診を希望して来院。

現症,全身所見として異常所見は無く,定期的な健康診断でも異常はない。

局所所見,歯列・咬合所見として上下前歯正中は右側に約3 mm偏位している。第一大臼歯の咬合関係は右側Angle II級,左側Angle III級である。左右側上顎第二大臼歯(17,27)は頬側転位ならびにクロスバイトの状態を呈している。

歯周組織所見としては全顎的に歯肉の発赤,腫脹を認められず,口腔内清掃状態も比較的良好に観察される。現在歯数は24歯,上顎12歯,下歯12歯であった(図1a)。プロービングポケットデプス(以下PPD)は4 mm以上の部位は6点法計測144部位中26部位(18.1%),その分布の詳細は4~5 mmの部位は16部位,PPD6 mmの部位は4部位,PPD7 mmの部位は4部位,PPD8 mmの部位は2部位であった。また,水平的なプロービングでは根分岐部病変は確認されなかった(図2a)。

10枚法デンタルエックス線所見では,上下顎前歯から小臼歯部は歯槽骨の吸収像が認められない。上下顎大臼歯部では水平性ならびに垂直性の骨吸収像が観察され,とくに36歯遠心部,46部近心部に歯根の1/2程度に達する垂直性骨欠損が認められる(図3)。

以上より,診断は重度慢性歯周炎ならびに咬合性外傷とした。

図1

初診・再評価・SPT移行時の口腔内所見

a 初診時口腔内所見

上下前歯正中は右側に約3 mm偏位し,左右側上顎第二大臼歯(17,27)は頬側転移ならびにクロスバイトの状態を呈している。全顎的に歯肉の発赤,腫脹を認められず,口腔内清掃状態も比較的良好に観察される。

b 再評価時口腔内所見

27歯と37歯,17歯と47歯の咬頭対溝の被蓋関係は改善され,外傷性因子の排除が達成された。

c SPT移行時口腔内所見

口腔内清掃状態も比較的良好,クロスバイト部の状態も改善され,フレミタスや咬合状態に問題は認められない。

図2

初診・再評価・SPT移行時・SPT10年後の歯周組織検査結果(プロービングポケットデプス:PPD)

a 初診時PPD

4~5 mmの部位は16部位,PPD6 mmの部位は4部位,PPD7 mmの部位は4部位,PPD8 mmの部位は2部位であった。

b 再評価時PPD

BOPは認められず歯肉の炎症はコントロールされていた。また,動揺度についても大きな改善が観察された。

c SPT移行時PPD

d SPT10年後のPPD

術後は良好な治癒経過ならびにSPT状態が維持されている。

図3

初診時10枚法デンタルエックス線所見

36歯遠心部(骨欠損開口部角度は約51度),46部近心部(骨欠損開口部角度は約39.8度)に歯根の1/2程度に達する垂直性骨欠損が認められる。

治療計画ならびに経過

歯周基本治療として,口腔清掃指導,咬合調整,スケーリング・ルートプレーニング(SRP)を実施。本症例では,口腔清掃状態,PPDの分布,臼歯部のクロスバイトの状態から病態を診断した結果,咬合性外傷による外傷性因子が重症化の最大の修飾因子と判断し,プラークコントロールと並行して咬合調整を早期に実施した。この際,27歯と37歯,17歯と47歯の咬頭対溝の被蓋関係が咬合調整で改善しない場合は補綴装置にて咬合関係の改善を企画した。

外傷性因子の排除が達成された場合,36・46・47歯は再生療法を選択することとした。

以下治療経過を示す。

・平成18年1月初診(歯周組織検査,デンタルエックス線写真撮影10枚法,口腔内写真撮影,TBI),初診から基本治療終了時までの間に,咬合調整ならびにSRPを実施。咬合調整は16,17,36,37歯と26,27,36,37歯の咬頭嵌合位における早期接触についてフレミタスを確認しながら実施した。側方運動時も同様に16,17,26,27歯口蓋咬頭外斜面36.37歯46.47歯頬側咬頭外斜面,について2週間隔で数回にわたり実施した。咬合調整による被蓋関係の改善と外傷性因子の排除を確認しながらSRPを実施した。

・平成18年4月基本治療終了後の再評価を実施した。4 mm以上のPPDは14部位残存したが,PPDの深さは改善していた。BOPは認められず歯肉の炎症はコントロールされていた。また,動揺度についても大きな改善が観察された(図2b)。さらに,27歯と37歯,17歯と47歯の咬頭対溝の被蓋関係は改善されたことより,外傷性因子の排除が達成されたと判断し,外科治療に移行することとした(図1b)。15,16,17,25,26,27歯については,骨欠損形態がほぼ水平性であることから歯肉剥離掻爬術を適応した。

・平成18年4月上旬に35,36,37歯部歯肉剥離掻爬術と同時に36歯遠心部にBone swaging techniqueを応用したGTR法を実施した。術直前のPPD最深値は6 mm,同部角化歯肉幅4 mmであった(図4a)。手術時の骨欠損形態は,頬側壁の欠損した2.3壁性複合型骨欠損で,骨欠損の深さは6 mm(2壁性成分4 mm,3壁性成分2 mm),骨欠損近遠心幅径5 mm,頬舌幅径6 mm(図4b),デンタルエックス線による骨欠損開口部角度は約51度であった。

平成18年4月下旬に45,46,47歯部歯肉剥離掻爬術と同時に46歯近心部にBone swaging techniqueを応用したGTR法を実施した。術直前のPPD最深値は4 mm,同部角化歯肉幅3 mmであった(図5a)。手術時の骨欠損形態は,舌側壁の欠損した2.3壁性複合型骨欠損で骨欠損の深さは5 mm(2壁性成分3 mm,3壁性成分2 mm),骨欠損近遠心幅径4 mm,頬舌幅径5 mm,デンタルエックス線による骨欠損開口部角度は約39.8度であった(図5b)。なお,47歯遠心部は治療計画では再生療法を実施する予定であったが,手術時に骨欠損形態を確認したところ骨欠損部開口部の広さや骨欠損の深さ(約2~3 mm),さらに骨欠損周囲にswagingできる骨壁がないこと,器具の到達性について総合的に判断し,再生療法を実施しても効果が得られないと考えデブライドメントのみとした。

・平成18年4月下旬にSPT移行するために再評価検査を行った。その後は,3~4ヵ月間隔でSPTを実施した。SPT時は,プラークコントロールの確認,PPD,BOP,PMTC,エックス線検査に加えて,フレミタスの確認や咬合状態のチェックを実施した(図2c)。

・平成28年6月下旬,術後約10年後のSPT時PPDチャートを図2dに示した。術後は良好な治癒経過ならびにSPT状態が維持されいる。

図4

36歯 遠心部術前・術中口腔内所見

a 術直前のPPD最深値は6 mm,同部角化歯肉幅4 mmであった。

b 骨欠損の深さは6 mm(2壁性成分4 mm,3壁性成分2 mm),骨欠損近遠心幅径5 mm,頬舌幅径6 mm

c Bone swaging technique を応用したGTR法を実施。チャネル形成(矢印)深さ3 mm幅4 mm程度。

d ボーンチゼルを挿入槌打し,骨欠損内に骨壁を移動させる。

e アテロコラーゲンメンブレン(コーケンティッシュガイド)を根面に結紮固定した。

f 歯肉弁を復位縫合

図5

46歯 近心部術前・術中口腔内所見

a 術直前のPPD最深値は4 mm,同部角化歯肉幅3 mmであった。

b 骨欠損の深さは5 mm(2壁性成分3 mm,3壁性成分2 mm),骨欠損近遠心幅径4 mm,頬舌幅径5 mm

Bone swaging techniqueを応用したGTR法の手術方法

切開デザインは,極力角化歯肉の保存を最優先にするため基本的に歯肉溝延長上切開を選択し,骨欠損直上に切開ラインの設定を回避するよう努めた。本症例では36歯遠心では,頬側骨壁の欠損した垂直性骨欠損であることから,できるだけ健全な歯槽骨の存在する舌側歯間部に切開するデザインとしてフラッグタイプを採用した。また,46歯近心では舌側骨壁の欠損した垂直性骨欠損であることから,同様に頬側歯間部に切開するフラッグタイプを採用した。その後,歯肉弁を全層弁にて慎重に剥離を行い,内面に付着したポケット内壁の上皮ならびに結合組織を掻爬した。骨欠損部は肉芽組織を徹底的に掻爬・ルートプレーニングを実施した。スエジングに際しては,初めに移動させたい骨量を想定して,骨欠損部外壁にフィシャーバー#700を使用してチャネル形成を実施した。チャネル形成の深さは,36遠心で深さ3 mm幅4 mm程度とし(図6b),46近心では深さ4 mm幅4 mm程度とした(図7b)。同チャネル部にボーンチゼルを挿入槌打し,骨欠損内に骨壁を移動させながらボーンチゼルを骨欠損方向に倒して,有茎骨状態であることを確認してスエジングを完了させた(図4d)。36遠心の歯槽骨頂移動量は約3 mm,46近心の歯槽骨頂移動量は約4 mmとなった。その後,アテロコラーゲンメンブレン(コーケンティッシュガイド)を根面に結紮固定した。最後に歯肉弁を復位縫合して術式を終了した(図4e, 4f)。

図6

36歯 術前・スエジング直後・術後3ヵ月・6ヵ月デンタルエックス線写真

a 術直前 遠心部に垂直性骨欠損が観察される。

b 直後(スエジング後),移動した骨壁によりエックス線不透過性に観察される。スエジングのために形成したチャネルが認められる(矢印)。

c 術後3ヵ月ではチャネル形成部が確認できる。

d 術後6ヵ月になると同部のチャネル形成部は観察されず,歯根吸収やアンキローシス等の異常所見は認められない。

図7

46歯 術前・スエジング直後・術後3ヵ月・6ヵ月デンタルエックス線写真

a 術直前 近心部に垂直性骨欠損が観察される。

b 直後(スエジング後),移動した骨壁によりエックス線不透過性に観察される。スエジング時に形成したチャネルが認められる(矢印)

c 術後3ヵ月ではチャネル形成部が確認できる。

d 術後6ヵ月になると同部のチャネル形成部は観察されず,骨欠損部に相当する部分では,新たな歯根膜腔の出現や歯槽硬線も観察されている。

結果(術後10年の経過ならびに治療成績)

6,図7は術前からスエジング直後,術後3ヵ月,6ヵ月のデンタルエックス線写真を示したものである。術直後(スエジング後)では,術直前に観察された垂直性骨欠損部は,移動した骨片によりエックス線不透過性に観察される(図6b, 7b)。同部ではスエジングのために形成したチャネルが認められる(矢印)。

術後3ヵ月のデンタルエックス線写真ではチャネル形成部が観察されるが(図6c, 7c),術後6ヵ月になると同部のチャネル形成部が観察されなくなっている(図6d, 7d)。また。術直後にスエジングにより移動した骨片部の歯槽骨頂部の形態は6ヵ月後も同様の状態で維持されている。さらに,本来骨欠損部に相当する部分では,新たな歯根膜腔の出現や歯槽硬線も観察されている。

術後2年の口腔内所見では,歯肉の発赤腫脹等の炎症所見は観察されず良好なSPT状態が認められる。デンタルエックス線所見では歯槽骨頂部の形態は,術後6ヵ月と比較しても形態の変化は認められない(図8)。同時期同部のCTエックス線画像を図9に示した。骨欠損相当部を観察すると,両部位において近遠心的には,歯根膜腔の存在と歯槽硬線が正常な形態で認められている。さらに,頬舌的には以前骨欠損の存在していた歯槽堤中央部では,歯槽骨の再生が陥凹もなくスムーズに認められている。このことから骨欠損部全体に歯槽骨再生が3次元的に確認されたと考えられる。

術後5年の口腔内所見では,歯肉の発赤腫脹等の炎症所見は観察されず良好なSPT状態が認められ,歯肉退縮等の異常所見は認められない。デンタルエックス線所見では歯槽骨頂部の形態は,術後2年と比較しても形態の変化は認められない(図10)。術後10年にわたりSPTは継続維持されており,また現時点でも継続中である。その間,全口腔内の歯周組織の状態は健全に確保され,PPDやBOP(-)について良好な経過が認められてきた(図11)。また,初診時に認められた27歯と37歯,17歯と47歯のクロスバイト部は正常な被蓋関係が確保されている。デンタルエックス線所見では歯槽骨頂部の形態に変化はなく,全顎的にも歯槽頂部における吸収像や不明瞭化は観察されていない(図12)。

13は骨再生量ならびに骨再生量のデジタルデンタルエックス線写真における計測方法を示したものである17,23,24)。術前ならびに2年,5年,10年時に簡易規格装置を用い平行法で撮影し,デジタルエックス線処理システム(Digital Imaging System SCAN X,Air Techniques)を用いてエックス線写真のコンピューターデジタル画像で線形測定を行った。以下の直線距離について評価した:CEJから根尖までの距離(CEJ-RA),CEJから最も隣接した歯槽骨頂(CEJ-BC)まで,およびCEJから欠損部底部までの距離は,歯根膜腔が同じ表面で均一な幅で保持されるレベルまで(CEJ-BD)。歪みとしての修正値はベースラインと各治療後のレントゲン写真を計算したベースライン時のCEJ-RAの線形測定値と各治療後時期との比とした。この比は骨変化の推定のための補正係数(CF)として使用した。各期間におけるCEJとRAの平均は0.95(範囲0.91から1.02)であった。

歯槽骨再生量(歯槽骨再生率)は36遠心で,術後2年2.8 mm(79.8%),術後5年2.34 mm(66.7%),術後10年2.79 mm(79.5%)であり,歯槽骨頂の変化は-0.11~0.34 mmの範囲であった。46近心で,術後2年4.7 mm(85.9%),術後5年4.01 mm(73.3%),術後10年4.51 mm(82.4%)であり,歯槽骨頂の変化は-0.65~-0.4 mmの範囲であった。臨床パラメータ―としては,両側各期間を通じPPDは2~3 mm,歯肉退縮量は0.5 mm以内,プロービングアタッチメントゲインは2~3 mmであった。

14は術後10年間の経時的デンタルエックス線写真を示したものである。

術前に観察された垂直性骨欠損部は長期経過後も歯槽骨の再生が認められ,歯槽骨頂部のエックス線不透過性の状態や外形に変化はなく良好に維持されているものと考えられる。

図8

術後2年の口腔内所見・デンタルエックス線所見

歯肉の発赤腫脹等の炎症所見は観察されず良好なSPT状態が認められる。デンタルエックス線所見では,歯槽骨頂部の形態は術後6ヵ月と比較しても形態の変化は認められない。術直後にスエジングにより移動した歯槽骨頂部の形態は同様の状態で維持されている。

図9

CTエックス線画像

骨欠損相当部を観察すると,両部位において近遠心的には,歯根膜腔の存在と歯槽硬線が正常な形態で認められている。さらに,頬舌的には以前骨欠損の存在していた歯槽堤中央部では,歯槽骨の再生が陥凹もなくスムーズに認められている。

図10

術後5年の口腔内所見・デンタルエックス線所見

歯肉の発赤腫脹等の炎症所見は観察されず良好なSPT状態が認められ,歯肉退縮等の異常所見は認められない。デンタルエックス線所見では歯槽骨頂部の形態は,これまで形態の変化は認められない。

図11

術後10年口腔内所見

SPTは継続維持されており,また現時点でも継続中である。その間,全口腔内の歯周組織の状態は健全に確保され,PPDやBOP(-)について良好な経過が認められてきた。初診時に認められた27歯と37歯,17歯と47歯のクロスバイトは正常な被蓋関係が確保されている。

図12

術後10年デンタルエックス線所見

歯槽骨頂部の形態に変化はなく,全顎的にも歯槽頂部における吸収像や不明瞭化は観察されていない。

図13

骨再生量ならびに骨再生量の計測方法

デジタルデンタルエックス線写真を術前ならびに術後2年,5年,10年時に簡易規格装置を用い平行法で撮影し,コンピューターデジタル画像で線形測定を行った。計測項目はCEJから根尖までの距離(CEJ-RA),CEJから歯槽骨頂(CEJ-BC),CEJから欠損部底部までの距離(CEJ-BD)とした。歯槽骨再生量(歯槽骨再生率)は36歯遠心で術後10年2.79 mm(79.5%),46歯近心で術後10年4.51 mm(82.4%)であった。

図14

術後10年間の経時的デンタルエックス線写真

術前に観察された垂直性骨欠損部は長期経過後も歯槽骨の再生が認められ,歯槽骨頂部のエックス線不透過性の状態や外形に変化はなく良好に維持されている。SPT中の咬合管理や咬合調整の結果,37,47歯の歯軸角度が前方歯遠心辺縁隆線と一致するように変化移動してきている。

考察

・Bone swaging techniqueを応用したGTR法の術式と適応症

Bone swaging techniqueはEwen,Rossら22,23)によって導入された骨移植方法であり,本術式の特徴は骨欠損周囲の骨壁を骨欠損内に移動させる有茎骨移植を行う点にある。主に歯の欠損部の歯槽骨を骨欠損内に移動させることにより,自家骨移植と同様の効果を期待したものであった。しかしながら,治癒様式の中で創傷部領域に増殖進展する上皮組織や結合組織の排除はなく,ある程度の歯槽骨の再生は期待できるものの創傷部付着様式の改変までには至らなかった。このような背景から,アンキローシスや根吸収の問題も含みながら歯肉剥離掻爬術における自家骨移植と同様に併用されることが少なくなっていた。しかしながら,骨欠損幅の狭い限局した骨欠損においてはGTR法やエムドンゲイン単独の再生療法で良好な臨床成績が認められてきたが,広範な非内側性骨欠損に対する単独での再生療法には限界がある。その結果,各種人工骨移植材や自家骨移植が見直されるようになった17,26,27)。自家骨移植の併用については,現在のところ適応基準は明確にはされていないが20,25),エビデンスレベルは高くないながらも,臨床における有用性も報告されている11-14)。とくに周囲骨壁の高度に吸収した非内側性1~2壁性骨欠損に対しては,GTRまたはEMDと骨移植片の併用療法が臨床的に有効であると考えられ,自家骨移植片や同種移植片材料によるスペース維持は,深部および幅広の骨欠損の治療に効果的であることが示されている。自家骨移植においては,移植に必要な自家骨採取量に限界があり,術後の流出にも留意しなければならない。治癒様式としては骨再生能や骨伝導能が期待できるが,遊離した自家骨には限界があると考えられる。一方,Bone swaging techniqueはGTR法への応用の報告はなく,これまで著者らの報告に限られている。これは,Ewenらの報告21)では,Bone swaging techniqueが歯の欠損部の歯槽骨を利用する術式として紹介されているため,一般的に適応範囲が狭い術式と認識されていることに起因する。ここで報告したBone swaging techniqueは骨欠損周囲の歯槽骨を骨欠損内に移動させることから,適応症の拡大が図られたものと考えらえる。スエジングの方法としては,初めに移動させたい骨量を想定してフィシャーバーでチャネル形成後,ボーンチゼルをチャネル部に挿入槌打して骨欠損方向に移動させることが可能となる17)。現在ではチャネル形成はピエゾ系超音波骨切削器具を使用している。この方法によりスエジングがかなり容易に行うことができる。スエジングは狭い歯間スペースでも可能であり,近遠心方向だけでなく根尖領域から歯冠方向にもある程度行うことができる。さらに,術前の骨欠損の深さは,PPD減少およびPAL増加と強い正の関連を持つ一方骨欠損開口部角度や骨欠損の近遠心的水平幅は負の関連を持つことから18,19),骨欠損部開口部を減少させることが再生環境を有利に導くことになる。しかしながら,骨欠損部周囲の骨量が十分でない場合や近接歯根や歯根間の長さが狭小な症例,下顎前歯部などの歯槽基底の細い症例等は適応できない。治癒様式としては有茎骨移植であることから遊離した自家骨に比較して骨形成能や骨伝導能が高いことに加え,再生療法において最も治癒環境の不利な骨欠損側根面直下に血液循環の確保や細胞の供給が期待できる。その結果,本論文(図14)で示したように,術直後から術後10年にわたり,骨欠損側根面直下に陥凹のない著明な歯槽骨の再生が維持されているものと考えられる。

・再生療法の臨床成績

近年,b-FGFが臨床に応用されるようになり,その臨床効果が報告されている。b-FGFとゼラチンを複合化した術後の成績は12ヵ月後で骨再生率61.8%30),またEMDとrhFGF-2の術後の成績を評価した多施設研究では,骨再生率は36週でそれぞれ23%と34%と報告されている31)。本症例は近遠心的な骨欠損幅は4 mm・5 mm,骨欠損部開口部角度は39.8度・51度であり広範な非内側性の骨欠損でありながら,臨床成績として歯槽骨再生量(歯槽骨再生率)は36遠心で術後10年2.79 mm(79.5%),46近心で術後10年4.51 mm(82.4%),各観察期間における歯槽骨頂の変化は-0.65~0.34 mmの範囲であった。臨床パラメータ―としては,両側各期間を通じPPDは2~3 mm,歯肉退縮量は0.5 mm以内,プロービングアタッチメントゲインは2~3 mmであった。また,2013年スエジングを併用したGTR法30症例の術後2年の報告では,PALゲインは平均3.4 mm,骨再生量は平均4,5 mm(骨再生率平均77.9%),歯肉退縮量は平均0.5 mmと非常に良好な治療成績を示している。この際の骨欠損形態は2壁性成分の大きい非内側性骨欠損であり,骨欠損幅は近遠心的に平均4.5 mmであった17)。これらの結果は,EMDとrhFGF-2単独の再生療法は限界があることはもちろんのこと,これまで報告されてきたGTRやEMDと各移植材料の併用法と比較しても,スエジングの応用によってより大きな歯槽骨再生効果が期待できることを示唆している。

今後,バリアメンブレンによるスペースの維持を容易にするため,非内側性の骨欠損に対する形態的な適応条件を明確に定義する必要があり,症例数を増やしより長期経過を評価することが重要と考えられる。また,スエジングはインプラント治療のリッジエクスパンジョンにおける有茎骨移植と同じ概念であることから,現在インプラント埋入時のインプラント周囲骨欠損やインプラント周囲炎への応用を検討実施している。

まとめ

本症例の病態は,27,37歯と17,47歯部のクロスバイトによるバーチィカルストップの消失により,とくにその前方の36,46歯咬合負担ならびに咬合性外傷・早期接触が生じ,36歯遠心,46歯近心部に非内側性の広範な骨欠損が生じた症例である。欠損サイズや形態を考慮した場合の単独の再生療法では,十分な歯槽骨の再生は望めないと考え,Bone swaging techniqueを併用した。

Bone swaging techniqueは,歯周組織破壊が進行した非内側性の広範な骨欠損を有する症例において,GTR法に併用することにより積極的な歯槽骨の再生が期待できる有茎骨移植法であると考えられる。

本術式の要点をあげると,①骨欠損部に有茎骨を移動させることにより骨欠損幅を縮小できる,②有茎骨を移動させることにより再生環境のスペース確保とメンブレンの落ち込み防止効果が期待できる,③メンブレンと根面直下の再生の不利な部位への血液と細胞の供給が確保できる。④遊離した自家骨移植と比較して再生のスピード促進ならびに流出が防止できる。⑤他部位からの自家骨の採取が必要なく,手術部位内での処置となる。本術式の適応に際しては,垂直性骨欠損のすべてに適応することは不可能であり,骨欠損部周囲の骨量が十分に存在していることが前提条件である。たとえば,近接歯根や歯根間の長さ(4 mm以上が望ましい)が狭小な症例,下顎前歯部などの歯槽基底の細い症例等は適応できない。Bone swaging techniqueによる周囲歯槽骨の移動という観点から考えると,当然のことながら下顎よりある程度の歯槽骨自体の柔軟性がある上顎が容易である。重要なポイントとしては移動させたい歯槽骨量と骨欠損の大きさに応じて,チャネル形成(骨欠損深さが4 mmの時,最低4 mm以上)を皮質骨から海綿骨にまで実施することにある。このことが,的確な有茎骨移動に繋がるものと考えられる。

今回の論文に関連して,利益相反状態に関わる企業・団体・組織はデンツプライシロナとオリンパステルモバイオマテリアル(株)である。

References
 
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