Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
Online ISSN : 1880-408X
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ISSN-L : 0385-0110
Original Work
Effect on oral hygiene of a tooth brush equipped with a built-in titanium oxide (TiO2) electrode and solar cell
Masaya YoshimineRempei YamasakiKana OkazakiRemi OgisoHisahiro KamoiEri Asaki
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2020 Volume 62 Issue 2 Pages 58-73

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要旨

TiO2の光触媒機能,太陽電池を搭載した歯ブラシが,口腔内環境の改善に有用であることが報告されているため,本研究では,それらを応用した歯ブラシであるSOLADEY N4(株式会社シケン)を用いて,ブラッシングによるプラークコントロールの改善効果を,臨床パラメーターから検討した。被験者は,SPTに移行した10名とし,5名ずつ第1群,第2群に封筒法にて割り付けたクロスオーバー試験とし,1クールを4週間として,TBI後に第1クール,第2クールにてSOLADEY N4,プラセボを各被験者に交互に使用させ,それぞれをTEST群,CONTROL群とした。診査項目は,Rustogi Modification Navy Plaque Index(RMNPI)によるデンタルプラークの付着状態,歯肉溝滲出液(以下GCF量),口腔内細菌数とした。その結果,TEST群ではCONTROL群と比較して,SOLADEY N4の使用により,口腔内全体,平滑面,歯頚部,隣接面全ての部位で,よりプラーク付着の抑制が認められ,それに伴いGCF量の減少,口腔内細菌数の減少が認められた。SOLADEY N4をTBI後に継続的に使用することで,TiO2の光触媒抗菌作用によりプラークコントロールが良好に維持,改善され,それに付随してGCF量および口腔内細菌数の口腔内環境も改善が認められることが判明した。

緒言

1960年代に光触媒が発表されてから,酸化チタン(以下TiO2)は化学的安定性と光触媒機能によって有機物分解,抗菌,大気浄化,脱臭など様々な効果を有することで,多分野において実用化されている1)。歯科においてはデンタルプラーク中のう蝕病原性細菌のStreptococcus mutansに対するTiO2の抗菌性に関する報告2)や,TiO2配合歯磨剤がこれを減少させてう蝕を予防するとの報告がある3)。また歯周病原細菌として代表的なPorphyromonas gingivalisに対してのTiO2の抗菌作用の報告が見られ4,5)Candida albicansに対する抗真菌効果も報告されている6)。TiO2の光触媒効果は,太陽電池を付与することで強化され,S.mutansの酸産生・付着の抑制が増強されることなどが報告されており7,8),TiO2と太陽電池の併用は,TiO2の作用増強に効果的であることが示されている。

日常生活において,プラークコントロールは歯肉炎・歯周炎の予防処置,治療法として非常に重要な役割を果たしており,近年様々な機能を有する歯ブラシが開発されているが,TiO2の光触媒機能,太陽電池(以下ソーラーパネル)を搭載して応用した歯ブラシが歯周組織を含めた口腔内環境の改善に有用であることが報告されている9,10)。また,搭載されたソーラーパネルの面積を大きくすることにより,その効果がより顕著となること,また健常者に対するその有用性が報告されている11)。しかしながら,それを実際にSPTに移行した歯周病患者に対して使用した報告は未だ認められない。本研究では,従来品のソーラーパネルより2倍の面積を有するそれを応用した歯ブラシを用いて,ブラッシングによる歯周組織の改善効果を,臨床パラメーターから検討した。

材料と方法

1) 被験者と被験歯

被験者は,本研究の趣旨を説明し,同意を得られた日本医科大学千葉北総病院歯科の外来患者とし,軽度~中等度歯周炎で,サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)に移行した者10名(男性2名,女性8名,平均年齢 61.4±14.1歳)とし,歯肉における発赤,腫脹,出血,排膿などの炎症症状は認められなかった。なお,TiO2光触媒機能,ソーラーパネルを搭載した歯ブラシの使用により微弱電流が生じるため,ペースメーカー装着者,ICD植え込み患者は被験者より除外した。また喫煙者,口腔内乾燥などにより口腔清掃状態に著しく影響を及ぼす疾患の罹患者も,被験者から除外した。

被験歯は,Ramfjordの代表歯,すなわち右上第一大臼歯,左上第一中切歯,左上第一小臼歯,左下第一大臼歯,右下第一中切歯,右下第一小臼歯とし(以下16歯,21歯,24歯,36歯,41歯,44歯)すべて天然歯とした。また被験歯が,処置歯の場合は,測定部位が補綴あるいは充填されていなければ,対象歯に含めた。補綴物により被覆されている場合,および欠損の場合は,その隣在歯を被験歯とした。さらに,隣在歯で対応できない場合は,対象歯の,同顎かつ反対側の位置にある歯を,代替対象歯とした。

なお,本研究はヘルシンキ宣言,医学系研究に関する倫理指針に準拠しており,当院の倫理審査委員会の承認を得て行われた(承認番号571)。また,株式会社シケンより研究に使用した歯ブラシの提供を受けたが,本研究に関連して特に開示すべき利益相反はない。

2) 歯ブラシ

使用した歯ブラシは,SOLADEY N4(株式会社シケン)とした(図1)。ネック部には光触媒作用を有するTiO2が内蔵されており,柄部にソーラーパネルを搭載しているが,従来品のソーラーパネルより2倍の面積を有しておりソーラーパネルの搭載量が増加している。また,歯ブラシは7列の毛束からなり,先端2列はポイント毛となっている。作用機序としては,これら双方から発生する電子により,プラークと歯面との結合を化学的に阻害する仕組みとなっている(図2)。プラセボは,SOLADEY N4と同一形態だが,TiO2の光触媒機能とソーラーパネルが機能していないものとした。

図1

SOLADEY N4®と先端ポイント毛

左に先端ポイント毛の拡大,右にSOLADEY N4®を示した。

図2

SOLADEY N4®の作用機序

太陽電池と,酸化チタンから発生した電子の作用機序を示した。

3) 研究方法

最初の2週間ではSOLADEY N4およびプラセボは用いず,通常診療室にてブラッシング指導(TBI)に使用している,歯ブラシ(Dent EX(ライオン歯科材株式会社))を用いてTBIを行った。指導日は,TBI初日,1週後,2週後の3回とし,その都度口腔内診査を行い,付着プラークの評価と写真撮影を行った。TBIでは,ブラッシングを1日3回3分以上指示した。ブラッシング方法はスクラビング法とし,前歯部臼歯部ともに頬側では歯と歯茎の境目に対してブラシの毛先が水平に当たるように,臼歯部舌側・口蓋側では毛先が歯と歯肉の境目に当たるようブラシヘッドを歯軸に対して約45°の角度になるように,そして前歯部舌側では縦方向にヘッドを歯に対して当てるよう模型を用いて説明した。また磨き残しを防止するため,磨く部位の順序を決めるよう指示した。

2週間のTBI期間が終了した段階で,研究開始日すなわち指導前の付着プラークの評価と比較して,指導後に評価が改善して,指導効果が1週後,2週後いずれかに現れているものを,その後も継続して被験者とした。清掃状態が改善しない,あるいは悪化した者は,この段階で被験者から除外した。

適当と判断された10名の被験者を,5名ずつ第1群,第2群に封筒法にて割り付けたクロスオーバー試験とし,1クールを4週間として,第1クール,第2クールにてSOLADEY N4,プラセボを各被験者に交互に使用させ,それぞれをTEST群,CONTROL群とした。被験者に,自宅でSOLADEY N4あるいはプラセボを4週間使用させた後,口腔内診査を行い第1クール終了とした。自宅でのSOLADEY N4およびプラセボの使用に際して,ソーラーパネルの効果を発揮するため,洗面所では照明をつけること,ペングリップで歯ブラシの導電性ラバー部位を把持し,ソーラーパネルを隠さないようにすること,TiO2の光触媒機能を発揮するため,ブラシを充分に水で濡らしてからブラッシングを開始すること,ブラッシング時間は3分間1日3回とすること,歯磨剤・洗口液・歯間清掃器具は使用しないことを被験者に指示した。

その後,Wash Out期間を4週間設けて,第2クールを第1クールと同様に行い研究終了とした。なおWash Out期間は,歯ブラシはSOLADEY N4とプラセボを使用せず,被験者には研究開始前に自宅で使用していた歯ブラシを使用してもらった。第2クール開始前には指導期間は設けず口腔内診査後,すぐにクール開始とした。

4) 臨床的診査項目

① デンタルプラーク

デンタルプラークの付着の評価方法として,Rustogi Modification Navy Plaque Index(RMNPI)を用いた。歯面を平滑面・隣接面・歯頚部に9分割し,プラーク染出液にて染色した部位の有無に応じて1点・0点でそれぞれ点数化した。9分割した部位は,a,b,c,eを平滑面,d,fを隣接面,g,h,iを歯頚部とした(図3)。被験者10名のスコアを分割部位毎に合計して,歯ブラシ使用前後でそれらを比較した。なお歯ブラシ使用前の,TBI前後でのプラーク付着率に関しても,この指標を用いて算出した。

その際に,6歯それぞれの歯面を9分割したシェーマを作成したが,それらの表示位置と方向,および歯頚部・平滑面・隣接面の位置を図に示した(図4, 5)。すなわち,上顎歯は歯頚側が上・歯冠側が下,下顎歯は歯頚側が下・歯冠側が上となるよう表記,また16,44,41歯は近心が右表示,遠心が左表示とし,21,24,36歯は近心が左表示,遠心が右表示とした。また,歯ブラシ使用後のスコアが,歯ブラシ使用前のスコアと比較して,改善した部位は緑色,維持された部位は黄色,悪化した部位を赤色で色分けして表示した(図6)。これを頬舌側2歯面で表示し,プラークの付着状態の改善・維持・悪化とともに,2群間のその相違について観察できるようにした。特に9分割した区画にはスコアを記入し,10名中何人にプラーク付着が認められたのかを表示した。さらに,口腔内全体,頬側,舌側,頬側平滑面,舌側平滑面,頬側歯頚部,舌側歯頚部,隣接面の8項目で,プラーク付着の改善・維持・悪化の割合をそれぞれ表示した。

図3

プラーク付着の評価方法

各歯面の9分画でのプラーク付着の有無を点数化して評価した。頬側・舌側の2歯面を測定した。

図4

6歯のシェーマの表示位置と方向

6歯のシェーマの近心,遠心,歯冠側,歯頚部側の方向について示した。

図5

歯頚部・平滑面・隣接面の位置

シェーマにおける歯頚部・平滑面・隣接面の位置について示した。

図6

プラーク付着状態の変化

プラーク付着状態は,改善,不変,悪化の3通りで示した。

② 歯肉溝滲出液(以下GCF量)

GCF量の測定は,ペーパーストリップス法を用いて,上顎右側犬歯部唇側の歯肉溝より滲出液を採取した。測定にはペリオトロン(ヨシダ)を用いた。

③ 口腔内細菌数

口腔内細菌数の測定には細菌数測定装置,細菌カウンタ(パナソニックヘルスケア)を用いた(図7)。口腔内細菌数は,舌背の細菌数を反映するとの報告があることから12),本研究においては舌背の細菌数を「口腔内細菌数」と表現した。口腔内細菌の採取部位は舌背表面として,綿棒で擦過し検体を採取して測定した。検体採取の際に,綿棒にかかる圧を一定にするため,定圧検体採取器具を用い,綿棒で舌背の前方中央部の舌粘膜表面1 cmの範囲を3往復擦過した。ディスポーザブルカップに,検体を採取した綿棒を挿入した後,細菌カウンタ本体にそれらを装着して細菌数の計測を行った。

図7

細菌カウンタ®(パナソニックヘルスケア)

細菌数と細菌レベルの測定が可能である細菌カウンタ®

5) 統計解析

歯ブラシ使用前後の口腔内細菌数,GCF量の比較には,Wilcoxon符号付順位和検定法を用い,2群間の比較には,Mann-Whitney U検定を用い,統計学的有意水準は全て5%とした。

結果

1) TBI終了前後のプラーク付着率

TBI終了後にプラーク付着率に改善が認められた被験者の,プラーク付着率の変化を示す。TEST群,CONTROL群2群ともに,プラーク付着率は28%から15%への低下が認められた(図8)。

図8

2群におけるTBI後のプラークの付着率

2群ともに同値を示した。

2) 歯ブラシ使用前後のプラーク付着状態のシェーマ

頬側は改善部位がCONTROL群よりもTEST群では多く確認でき,悪化部位はTEST群では少なかった。また,悪化部位は歯頚部および隣接面に多い傾向が認められた(図9, 10)。また舌側では,悪化部位に関して頬側ほど差が顕著ではなかったが,TEST群でやや少ない傾向が認められた。頬側と異なり,悪化部位は,2群ともに歯頚部および隣接面に限局して認められた(図11, 12)。

図9

CONTROL群頬側の歯ブラシ使用前後のプラーク付着状態の変化

上に歯ブラシ使用前,下に歯ブラシ使用後を示した。

図10

TEST群頬側の歯ブラシ使用前後のプラーク付着状態の変化

上に歯ブラシ使用前,下に歯ブラシ使用後を示した。

図11

CONTROL群舌側の歯ブラシ使用前後のプラーク付着状態の変化

上に歯ブラシ使用前,下に歯ブラシ使用後を示した。

図12

TEST群舌側の歯ブラシ使用前後のプラーク付着状態の変化

上に歯ブラシ使用前,下に歯ブラシ使用後を示した。

3) 歯ブラシ使用前後のプラーク付着状態の変化

① 口腔内全体のプラーク付着

6歯全体のプラークコントロールの状態の改善,維持,悪化部位は,TEST群では,それぞれ43%,45%,12%,CONTROL群では32%,47%,20%であり,改善の認められた部位が,CONTROL群と比較するとTEST群でより多く認められ,悪化した部位はTEST群で少ない傾向が認められた(図13)。

図13

プラーク付着状態の変化の割合(口腔内全体)

TEST群で改善部位が多く,悪化部位が少なかった。

② 頬側・舌側全体のプラーク付着

頬側においてはTEST群で改善部位の割合が大きく,また悪化部位はTEST群11%に対してCONTROL群22%となっており,TEST群では半分に抑制されていた。

舌側では2群ともにほぼ同様の分布を示したが,悪化部位の割合は,TEST群15%,CONTROL群19%,改善部位の割合は,TEST群とCONTROL群ともに37%であったが,維持の割合はTEST群48%,CONTROL群44%と,TEST群においてCONTROL群よりも若干ではあるが良好な状態を示していた(図14)。

図14

プラーク付着状態の変化の割合(頬側・舌側)

頬側ではTEST群で改善部位が多く,また舌側においては維持部位が多かった。

③ 平滑面

頬側の改善の比率は全体ではTEST群29%,CONTROL群13%であった。部位別に見ると前歯部・小臼歯部は,TEST群では悪化部位は認められなかった。また,TEST群の大臼歯部では悪化部位の割合が12.5%の部位で認められたものの,改善部位の割合は25%でありCONTROL群12.5%に対して2倍であった。舌側は全体でみると,2群共に悪化した部位は認められず,維持・改善傾向であった。TEST群で改善部位の割合が33%であり,CONTROL群の25%よりも大きな割合を示した。改善部位は,TEST群では,小臼歯,大臼歯部の改善率が高かった(図15)。

図15

プラーク付着状態の変化の割合(頬側・舌側平滑面)

頬側の改善の割合はTEST群で大きかった。また舌側では悪化部位は2群ともに認められなかった。

④ 歯頚部

頬側はTEST群においてCONTROL群よりも小臼歯部・大臼歯部の改善率が高かった。また,TEST群では大臼歯部で悪化部位は認められなかった。舌側の悪化率は全体ではTEST群39%であり,CONTROL群の50%と比較して少なかった(図16)。

図16

プラーク付着状態の変化の割合(頬側・舌側歯頚部)

頬側はTEST群において小臼歯部・大臼歯部の改善率が高かった。舌側の悪化率は全体ではTEST群でCONTROL群と比較して少なかった。

⑤ 隣接面

全体では改善がTEST群54%,CONTROL群42%とTEST群では改善が見られた。次に維持部位の割合は,33%と2群で同一であったが,悪化部位はTEST群で13%,CONTROL群で25%であり,TEST群では悪化部位が約半数に抑制されていた。また,前歯,小臼歯,大臼歯3部位全てにおいてTEST群ではCONTROL群と比較して,悪化部位の割合が小さい傾向が認められた(図17)。

図17

プラーク付着状態の変化の割合(隣接面)

前歯,小臼歯,大臼歯3部位全てにおいてTEST群ではCONTROL群と比較して,悪化部位の割合が小さい傾向が認められた。

4) GCF量について

TEST群ではGCF量は歯ブラシの使用後,減少傾向にあったが,CONTROL群では増加傾向を示した(図18)。歯ブラシ使用前後および2群間におけるGCF量の統計学的有意差は認められなかった。

図18

歯ブラシ使用前後でのGCF量の変化

TEST群ではGCF量は歯ブラシの使用後,減少傾向にあったが,CONTROL群では増加傾向を示した。

5) 口腔内細菌数について

TEST群の細菌数は歯ブラシの使用後,わずかながらCONTROL群よりも大きな細菌数の減少傾向を示した。すなわち,TEST群では細菌数が11%減少したのに対して,CONTROL群では7%減少しており,TEST群でやや大きな減少率を示した(図19)。歯ブラシ使用前後および2群間における,口腔内細菌数の統計学的有意差は認められなかった。

図19

歯ブラシ使用前後での口腔内細菌数の変化

TEST群でCONTROL群よりもやや大きな減少率を示した。

考察

ブラッシングによるプラーク除去に大きな影響を与える因子として,術者の指導法,患者の意欲,器用さ,歯ブラシの種類とブラッシング方法が挙げられる13,14)。TBIに際しては,プラーク除去効果が高く,扱いやすいとされ,さらに歯面・歯肉に対して為害作用の少ないスクラビング法が推奨されており15),これを選択した。また,歯ブラシを使用する能力は個人差があるとの報告があるが16),TBI後のプラークの付着率は28%から15%に減少しており,歯ブラシ使用前のTBIが妥当に行われていたことが示唆された。また,2群における被験者のTBI前後における歯ブラシの技能に関する偏りは認められず,被験者の選択が妥当であったと考えられた。

本研究では,TBIの実施後プラークコントロールの改善が認められた被験者を対象として,大型ソーラーパネルと酸化チタン電極を内蔵したSOLADEY N4を使用した。TBIによって,プラークコントロールに改善が認められた被験者に対してこの歯ブラシがさらにどのように影響を及ぼしているのか,すなわちプラークコントロールの維持,改善,悪化をより詳細に観察した。

RMNPIは,近遠心隣接面と歯頚部におけるプラーク付着を強調するために開発された指標であり17),歯ブラシによるプラーク除去効果を充分な感度をもって識別が可能な指標である18)。実際にRMNPIをプラーク付着の指標として用いることにより,口腔内全体のみならず,う蝕,歯周疾患に最も関連性があると考えられる歯頚部,隣接面のプラーク除去効率が示されたとの報告があり,さらにRMNPIを用いることで,口腔内全体のみならず,使用した歯ブラシの優れたプラーク除去効果が,歯頚部,隣接面の部位別に詳細に観察できる利点がある19-22)。本研究においても,口腔内全体,頬側および舌側の評価に加えて,プラークの付着状態をより詳細に観察するため歯頚部,隣接面のプラーク付着状態を観察するべく,指標としてRMNPIを用いた。さらに本研究ではTBI終了後のより繊細なプラーク付着部位の特定が必要であったこともRMNPIを用いた理由として挙げられる。

7~図10で示されるシェーマではTBI終了後のプラーク付着状態が悪化,維持,改善の3段階で視覚的に判別可能となった。平滑面においては,ほとんどの部位で,TBIの効果が維持,あるいはさらに改善が認められたことが視覚的に判別できた。また頬側,舌側ともに悪化した部位は,隣接面および歯頚部に集中しており,特に舌側ではほぼ歯頚部のみに悪化が認められていることが判別できる。これらから,プラーク付着状態を悪化,維持,改善の3段階で色分け,図示することで,プラークコントロールに注意が必要な部位が判別可能となり,患者個々人のブラッシングの個人差として提示しやすくなり,さらに詳細なTBIに繋がると考えられた。また,口腔清掃状態評価法を,使用するIndexを変化させることにより,実際に患者のモチベーションを向上させたとの報告もあることから23),本研究におけるRMNPIの使用によるプラークコントロールの結果の図示は,モチベーションの向上に繋がる可能性がある。

TBI終了後のプラーク付着状態,すなわち悪化,維持,改善の状態の割合を歯種別にさらに詳細に観察した。プラークの付着状態は,口腔内全体,頬側,舌側では,TEST群で悪化の割合が少なく,改善部位の割合が高い傾向が認められた。また,平滑面では,頬側,舌側ともに全体の傾向とほぼ同様であった。平滑面は,TEST群においては16歯頬側に1名悪化が認められたのみであり,舌側では悪化の割合は0%であった。TiO2の光触媒作用により,S.mutansへの抗菌効果とアパタイトペレットへの付着抑制効果が認められており,さらに太陽電池の付与によりそれらの効果が増強されたとの報告がある7,8)。歯肉縁上プラークは種々の口腔内細菌の産生した多糖体からなるため,本研究においても,TiO2とソーラーパネルを搭載したSOLADEY N4の使用により平滑面におけるプラーク付着の抑制が効果的に起こったことで,悪化の割合が著明に低かったことが考えられる。特に,SOLADEY N4は導電性ラバーが付与されており滑りにくく把持ができしっかりブラッシングできたこと,またソーラーパネルが従来型と比較して面積が2倍の大きさに設計されていることから,その効果が発揮された可能性がある。また,SOLADEY N4では先端ポイント毛を有する構造となっており,それによりプラーク付着率の改善が認められたとの報告がある11)。毛先が歯面に接触しやすくなり清掃効果の向上が期待できると考えられるが,特に舌側平滑面において,CONTROL群でもプラークの付着状態の悪化が認められなかったことは,それによるものと考えられる。

歯頚部では頬側,舌側ともにTEST群で悪化の割合が少ない傾向を示した。また,隣接面においても悪化部位はTEST群ではCONTROL群と比較して約半数に抑制されていた。歯頚部,隣接面は,歯ブラシの毛先が到達しづらく清掃困難な部位であるが,ブラッシングにより毛先が到達できない部位であっても,TiO2の光触媒作用による殺菌効果により,結果としてプラークの付着が阻害された可能性がある。太陽光あるいは室内灯からの光エネルギーを吸収しTiO2が光触媒反応により,酸素ラジカル種であるヒドロキシラジカル(・OH),スーパーオキシドアニオン(・O2-)を発生させ,それらが抗菌活性を示した可能性が考えられる。すなわち,第一段階としてグラム陰性菌の細胞壁を構成するリポ多糖であるエンドトキシンの分解などの細胞外膜の破壊,および第二段階として細胞質膜の機能破壊が考えられているが24),プラーク付着阻害への直接的な影響のメカニズムに関しては,さらなる詳細な研究が必要であると考えられる。これらのことから,TBIが終了した口腔内においてプラークコントロールは,口腔内全体,頬側,舌側において改善が認められたことに加えて平滑面,歯頚部,隣接面の3部位全てにおいても,TEST群では悪化部位の割合が少ない傾向が認められた。これはTiO2およびソーラーパネルからの電子の発生によりプラークの全体的な歯面への付着を阻害し,かつTiO2の光触媒作用による抗菌作用が働いたことにより,プラークコントロールの維持・改善傾向に繋がった可能性がある。これらの事はTiO2およびソーラーパネルを搭載した歯ブラシを用いたこれまでの種々の報告と同様の結果が示された。しかしながら,プラーク付着部位をより詳細に観察した本研究の結果では,隣接面,歯頚部に関しては平滑面と比較するとプラークコントロールが悪化しやすく注意が必要であると考えられた。

プラークコントロールの改善に伴い,CONTROL群ではブラッシング後においてGCF量が増加傾向を示したのに対し,TEST群では,減少傾向を示しており,SOLADEY N4の使用によりGCF量が抑制される傾向が示された。GCF量は歯周組織の病態を表す一つの指標であり,とくに滲出液量の増減と歯肉の炎症症状の程度との相関関係に関する報告25)もあり,炎症が強くなるにつれてその量が増加することが知られている26)。すなわち,GCF量の減少は歯周組織に炎症を惹起させる歯周病原細菌数の減少を示唆するものと考えられる。これはTEST群の歯ブラシに搭載されているTiO2の抗菌作用が寄与したものと推察され,本研究においてもTiO2およびソーラーパネルを搭載した音波振動歯ブラシの報告9-11)と同じ傾向を示したと考えられる。すなわち,前述したようにTiO2の光触媒作用から・OH,・O2-などの酸素ラジカル種が発生,殺菌作用を示して細菌数が減少し,結果としてGCF量の減少につながったものと推察される。また,細菌数そのものに有意な減少は認められなかったものの,歯ブラシ使用前後の口腔内細菌数の減少率に関してはTEST群では大きかった。これはTiO2とソーラーパネルの併用により,細菌数が有意に低下したとの報告があるように10),GCF量と同様にTiO2の抗菌作用がプラークを除去,減少させた結果,細菌数の減少にも寄与したものと推察された。

結論

SOLADEY N4をTBI後に継続的に使用することで,歯ブラシの先端ポイント毛の形状に加え,TiO2の光触媒抗菌作用からプラークコントロールが良好に維持,改善される事が確認された。さらにGCF量および口腔内細菌数が減少した。

以上の結果から,SOLADEY N4を用いてプラークコントロールを実施することは効率的なプラーク除去効果が期待でき,う蝕および歯周病予防に寄与できることが示唆された。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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