Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
Original Work
Analysis of patient's understanding of dental related words at Kyushu Dental University Hospital
Michihiko Usui, Satoru Onizuka, Shingo Kasai, Kotaro Sano, Tomoya Hanatani, Tetsuro Konoo, Keisuke Nakashima
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2020 Volume 62 Issue 3 Pages 136-146

Details
要旨

歯科医療従事者間で日常使用される歯科専門用語は,患者にとって難解なものも多い。医療面接の際に,患者に理解されない専門用語を使用することは,不十分な医療コミュニケーションの原因となり,良好な歯科医師・患者関係を構築する足枷となる可能性がある。本研究では,我々の使用する歯科専門用語を患者がどの程度理解しているか調査し,2006年に実施した前回調査と比較した。九州歯科大学附属病院に来院した患者216名に自記アンケート調査を行い,アンケート回収後,全体の理解度,男女別,世代別理解度を検討した。また,前回調査した38語に関しては,今回の結果との比較を行った。理解度が高い用語は,炎症,歯垢,歯石,唾液,ブラッシング,エックス線,細菌,歯周病,歯間ブラシであったが,腫脹,インレー,齲蝕,頬側,根分岐部,テックなどの用語は理解度が低かった。前回調査と比較して,38語中31用語において,その理解度は上昇していた。さらに,用語間の相関についてクラスター分析を行った結果,歯周治療で用いられるブラッシング,歯周病,唾液,炎症,細菌,エックス線,歯垢,歯石,歯間ブラシ,義歯,感染症といった言葉は互いに相関が強いことが明らかになった。これらの結果より,この10年で歯科専門用語の理解度は著しく上昇したことが明らかとなった。今後も患者が歯科専門用語を正しく理解できるような啓発を継続していく必要性が示唆された。

緒言

歯科医療の現場では,多くの専門用語が用いられる。歯科医療従事者間の会話,例えば,歯科医師と歯科衛生士,歯科助手の間では,歯科に関わる専門用語によるコミュニケーションは,その治療行為や作業を円滑に進める上で,必要不可欠なものである。一方で,医療面接や診療の際の医療従事者による専門用語の使用によって,その言葉の意味を理解しない患者は,会話・説明の理解を妨げられる。また,患者による専門用語の誤使用は医療従事者との会話を混乱させ,意思疎通を困難にする。こういった理由から,医療面接などの医療コミュニケーションの現場では,医療従事者は患者に対して,できるだけわかりやすい言葉を用いることが推奨されている1-3)。

言葉の認知度・理解度は時代の経過のなかで,常に変化している。例えば,以前,日本国民に認知・理解されていなかったストレス・リサイクル・ボランティアなどの,いわゆる日本語ではない「カタカナ語」の認知度・理解度は,現在では90%を超えている4)。近年,インターネットの普及により,患者は以前より容易に歯科治療に関する情報にアクセスできるようになった。現在,テレビコマーシャルでは,歯周病や齲蝕に対する効能を謳った歯磨剤や歯ブラシなどが宣伝されているが,その際には「歯周ポケット」などの,以前であれば専門用語とされていた言葉が使用されている。我々は,2006年に福岡県北九州市において,歯科医院に来院した患者を対象に,歯科専門用語の理解度調査を行った。この調査では,カタカナで表記した歯科専門用語を含む短文を患者に例示し,歯科専門用語の意味がわかるか否かを〇×形式で解答欄に記入してもらう自記式アンケートを施行した。その結果,炎症,歯石,唾液,歯垢,ブラッシングなどのマスメディアで良く使用される用語の理解度は90%を超えていた5,6)。この数年で,日本社会では,インターネットの普及により,情報化社会がさらに進展した。2010年から本格的に普及が始まったスマートフォンの個人保有率は増加の一途をたどり,2017年には60%を超えている7)。こういった社会環境の変化の中で,歯科専門用語に対する理解度も同様に変化しているものと考えられる。

本研究の目的は,歯科医療従事者が使用する歯科専門用語(72語)を患者がどの程度理解しているか調査し,2006年に調査した38語については,以前の結果と比較することである。

対象および方法

2017年~2019年に,九州歯科大学附属病院に来院した患者216名(男性52名,女性164名,20~86歳)に対して調査を行った。調査項目は,性別,年齢,職業と歯科専門用語を含む短文72問とした。歯科医師・歯科衛生士・歯科助手・医師・看護師をはじめとした医療関係者(学生を含む)は調査対象外とした。歯科専門用語の選択は,2006年の調査5,6)で用いた用語50語のうち38語と,さらに34語を追加した。患者に歯科専門用語を含んだ短文を読んでもらい,その用語を理解できたかを質問した。短文中の歯科専門用語は,漢字表記からの意味の推測を防ぐために,カタカナ表記とした。短文を記載した裏面には正しい意味(正答)を表記し(図1),患者にはその歯科専門用語の意味がわかったか否かを〇×形式で回答欄に記入してもらった。患者が〇と記入したものを理解できたと判定し,理解度を算出した。歯科専門用語を含む短文と裏面に記載した正答の一覧を表1に示す。アンケート回収後,全体の理解度,男女別理解度,世代別理解度を算出した。世代は,前回調査と同様に,若年(18~39歳),中年(40~59歳),高年(60歳以上)世代に分けた。また,有意差の検定には分割表(クロス表)による独立性の検定(カイ二乗検定)を行い,3群中の2群の独立性についてはBonferroniの多重比較検定を行った。また,歯科専門用語同士の理解度の相関をCramerの連関係数を用い,クラスター解析を行った。本研究は九州歯科大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:17-12, 18-59)。

図1

患者に呈示した歯科専門用語を含む例文と解答

A. 表面:カタカナで表記した歯科専門用語とそれを用いた短文を記載している。

B. 裏面:歯科専門用語の正しい意味と次の歯科専門用語を含んだ短文

表1

アンケートに用いた歯科専門用語,短文,解答

表1

アンケートに用いた歯科専門用語,短文,解答

結果

全体と男女別理解度を図2に示す。理解度が90%を超える用語は,炎症,歯垢,歯石,唾液,ブラッシング,エックス線,細菌,歯周病,歯間ブラシであった(図2)。炎症,歯垢,歯石,唾液,ブラッシングは2006年の調査の際も90%を超えていた(図3)。また,冠,義歯,ブリッジ,ポケット,インプラント,犬歯,口腔,再生,知覚過敏,抜歯,保存などの用語の理解度も80%を超えていた。一方で,理解度が30%以下の用語は,腫脹,インレー,齲蝕,頬側,根分岐部,テックであった。女性の理解度が有意に高い用語は72用語中5語(嚥下,冠,顎関節症,残根,舌)であったが,男性の理解度が有意に高い用語はなかった(図2)。

2006年の調査と比較して,有意に理解度が低下していた用語は,炎症,歯石の2語であったが,その理解度は90%を超えていた。一方で,理解度が有意差を持って上昇していた用語は38語中31用語あった。特に,歯周病に関わるポケット,フロス,プラークの理解度は2006年に比較して,高くなっていた(図3)。

アンケート対象者を,若年層(18~39歳),中年層(40~59歳),高年層(60歳~)に分け,世代間の理解度について比較した。年齢層が上がるとともに理解度が増加した用語は冠,ブリッジ,残根,歯根膜の4語であった。逆に,年齢層が上がると理解度が下がっていく用語はプラーク,フロスであった(図4)。

患者216名の理解度に関する各用語間の相関についてクラメールの連関係数を算出し,その数値をもとにクラスター分析を行った。今回,調査した用語は大きく分けて5つのクラスターにわけることができた(図5)。ヒートマップよりCluster Aは特に相関が強く,クラメールの連関係数は0.6以上であった。Cluster Aには,歯周治療で良く用いられる用語であるブラッシング,歯周病,唾液,炎症,細菌,エックス線,歯垢,歯石,歯間ブラシ,義歯,感染症といった言葉が含まれ,有意な相関を認めることから,このような用語はセットで理解していることが分かった。また,これらの用語群(Cluster A)は,Cluster Bに含まれる抜歯,知覚過敏,咬合,ブリッジ,インプラント,再生,歯肉,ポケットなどの用語との相関性の高さを示した(図5)。

図2

全体と男女別理解度

*:p<0.05,**:p<0.01 縦軸:%

図3

歯科専門用語理解度に関する前回調査(2006年)との比較

*:p<0.05,**:p<0.01 縦軸:%

図4

世代別理解度

*:p<0.05,**:p<0.01 縦軸:%

図5

歯科専門用語理解度における用語間の相関に関してのクラスター解析

考察

医療法第一条の四には「医師,歯科医師,薬剤師,看護師その他の医療の担い手は,医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者に対し,良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制が確保されるように努めなければならない。」とあり,患者への医療に関する情報提供は医療者の責務である。すなわち,診療の際には,患者に対してその病状や治療法について,医療者からわかりやすい説明を行い,患者自身がそれを理解し,納得したうえで,自らの治療法を選択することが現在の医療現場で求められている。

医療面接において,専門用語を極力使用せず,わかりやすい言葉に置き換えることは大切である。しかし,専門用語を全く使用しないで,疾患やその病態・治療法を説明することは困難である8)。従って,患者が専門用語の意味をある程度理解できているのであれば,専門用語の後に,平易な言葉を用いて「言い換え」を併用して説明することは,医療コミュニケーションを円滑にするものと考えられる。山下らによると,専門用語は「専門用語」「一般専門用語」に分けられ,「専門用語」は高校までに学習することなく,大学のような高等教育機関にて学ぶ専門性が極めて高い用語である一方,「一般専門用語」は患者が高校までに学習している可能性が高く,知らない場合でも既存の知識で理解できる平易な専門用語と定義されている9)。今回,理解度の高かった唾液,ブラッシング,細菌,炎症,エックス線などの用語は,中学,高校の理科,生物,化学などの科目で学習し,社会で一般的に使用されている「一般専門用語」であると考えられる。一方で,インレー,齲蝕,根分岐部,テック,頬側などの理解度の低かった用語は,歯科医師・歯科衛生士になるための専門教育課程で学ぶ「専門用語」である。今回の調査において,理解度の低かった歯科専門用語,すなわち前述の「専門用語」に属するような用語は,患者にとって耳慣れない言葉である可能性が高いことから,その使用は極力控え,丁寧かつ分かりやすい言葉で説明するなど,十分に注意を払う必要がある。

現在,歯学教育において,歯科医療従事者の医療コミュニケーション能力の獲得・向上を目的に,医療面接に関わる教育が行われている。臨床実習前に実施されるOSCEにおいても,医療面接の能力が評価される。OSCEでは,患者との医療コミュニケーションを評価する過程で,専門用語をなるべく用いず,わかりやすい言葉で説明することが推奨されているが,何を専門用語とするか明確な基準はない。今回,我々が示した結果は新しい専門用語の基準の一つになると考えられる。また,2006年の調査との比較で,多くの用語においてその理解度は大きく上昇していた。これは,インターネットの普及で歯科治療に関する情報へのアクセスが容易になったことや歯磨き粉や洗口剤といった歯科製品のテレビコマーシャルにおいて歯科専門用語の使用が増加したことなどが原因として考えられる。このように社会環境の変化の中で,患者の歯科専門用語の理解度も常に変化していくものと考えられる。また,地域によっても,その違いが生じるかもしれない。今回の我々の調査対象は,すでに九州歯科大学附属病院に通院している患者に限定されており,サンプル数も多くない。一般的な市民の歯科専門用語理解度を調査するには,通院患者に限定することなく,年齢の分布なども考慮し,幅広く行われることが好ましい。数年に一度,日本全国でこのような調査が行われると,日本国内で統一して使用できる歯科専門用語に対する基準を作成できると思われる。

今回の調査では,カタカナで表記した歯科専門用語を含む短文を読んでもらい,その用語の正しい意味を裏面に記載し,理解できていたか質問形式で理解度のみを算出した。2009年の国立国語研究所の報告では,医療現場でよく使われる100語についてその認知率(それぞれの医学用語をどれだけ認知しているか),理解率(その意味をどれだけ理解しているか),誤解率(誤解がどれだけ広がっているか)を調査されている。この調査において,我々の行った今回の調査で理解度が90%をこえていた「炎症」は認知率98.4%に対して,理解率は77.4%であった10)。理解率と認知率の差は21%(100語中21番目)で,「炎症」という言葉は,認知はされているが,正確な意味を知らない人もいる用語と考えられる。この調査は,インターネット上で非医療者に対して行われており,病院に通院する患者を対象とした我々との調査とは異なるので,理解率に差が出たものと思われる。このように,認知はされているが,理解されていない専門用語が多く存在することには,注意を払わなければならない。今後の歯科専門用語の理解度調査の際には,認知率・誤解率についても調査するべきだと考える。

専門用語の中には,一般の言葉に置き換えてわかりやすく説明しようとすると,説明過多となり,かえって理解が難しくなるものもある。クリニカルパス,ガイドラインなど,それぞれの分野の様々な概念が組み込まれているような専門用語はその傾向が強い9)。よって,理解度の低かった専門用語や説明が多岐に渡るような専門用語を中心に,患者に正しく理解できるような啓発活動を行うことも必要である。大阪歯科大学では,患者さんの歯科専門用語に対する理解を深めるために,「患者さんのための歯科用語集」を発行している。この用語集は,一般患者に対しても公開されており,インターネットで閲覧することができる11)。日本において,ヘルスリテラシーは年々高まっており,このような歯科専門用語集をはじめとした歯科治療に関する情報へのアクセスはますます増加していくものと思われる。患者が容易にアクセスできるような環境・システムを構築し,正しい情報を提供することによって,患者の歯科専門用語への理解も深まり,医療コミュニケーションを円滑にする一助になるものと考えられる。

結論

歯科臨床でよく使われている専門用語において,患者がその意味をよく理解していないものも多い。その一方で,マスメディアで露出の高い用語に関しては,その理解度は高かった。また,2006年の調査と比較して,多くの用語においてその理解度が上昇しており,臨床で用いられる歯科専門用語の理解度は,社会変化に応じて変化することが示唆された。

謝辞

本研究は,九州歯科大学歯学部歯学科2年時プログラム研究室配属の一環として行われた。アンケートの集計に協力いただいた小河真梨奈,丹田美秋,堀晃一郎,山田圭一,池田 翔一朗,岡田 蒼史,竜口 真奈,藤井 伸弥,畠中 鞠有,舩津 恭祐君に厚くお礼申し上げます。

今回の論文に関連して、開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2020 by The Japanese Society of Periodontology
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