Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Case Report
A case report of generalized aggressive periodontitis after 25 years of follow-up
Hisashi HayashiReiko Hayashi
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2020 Volume 62 Issue 3 Pages 155-167

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要旨

広汎型侵襲性歯周炎の患者に歯周基本治療,歯周外科治療,口腔機能回復治療およびサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)を行い,25年以上にわたり良好に口腔機能を維持している症例について報告する。本症例では,歯周基本治療において十分な臨床的改善が認められなかったが,その後の歯周外科治療後に臨床的指標が大きく改善して口腔機能回復治療,SPTに進むことができた。口腔機能を長期に維持安定させるためには,動的歯周治療後SPTに入ってからも口腔内の変化を注意深く観察し,SPT中に問題が生じた時は必要に応じて積極的な介入も必要になると思われる。SPT中に第三大臼歯2本を含めて4本の歯を失ったが,抜歯理由はいずれも歯周病の悪化ではなく,根面カリエスによるものであった。長期管理を行っていく上で,歯周病の管理とともに根面カリエスの管理の難しさが示唆された。

緒言

日常臨床で経験する歯周疾患には,緩徐な進行を示す慢性歯周炎とは別に急速にアタッチメントロスをひき起こす歯周病がある。この歯周病を1999年に発表されたアメリカ歯周病学会の歯周病分類では,侵襲性歯周炎(Aggressive Periodontitis:AP)と分類された1)。APの特徴としては,全身的に健康ではあるが,急速な歯周組織破壊(歯槽骨吸収,付着の喪失),家族内集積を認めることを特徴とする歯周炎である。また,一般的には細菌性プラークの付着量は少なく,患者は10~30歳代が多い。患者によってはAggregatibacter acttinomycetemcomitans(A. acttinomycetemcomitans)の存在比率が高く,生体防御機能,免疫応答の異常が認められるなどの二次的特徴がある。日本におけるAPの罹患率は0.05~0.1%とされている2)。また,罹患部位が全部位の30%以下なら限局型(Localized aggressive periodontitis:LAP),30%を超える場合は広汎型侵襲性歯周炎(Generalized aggressive periodontitis:GAP)に分類される。APの治療はスケーリング・ルートプレーニング(Scaling and root planning:SRP)や歯周外科治療および歯周病安定期治療(Supportive periodontal therapy:SPT)で歯肉縁下の歯周病原細菌を機械的デブライドメントすることにより病状を良好にコントロールできるという報告がある3)。一方,機械的デブライドメントのみではコントロールできないのではないかとの報告もある4)。年齢に対して歯周組織破壊が著しいGAP患者では,一般的な慢性歯周炎と比較して歯周治療に対する治療反応性が不良になる場合が多いため,初回のSRPや歯周外科治療と抗菌療法(経口投与やポケット内投与)を併用することを検討すべきであるという指針もある5)

また,APの患者にSRP単独では十分なA. acttinomycetemcomitansの抑制が出来ず,歯周組織の外科的除去を併用することによりA. acttinomycetemcomitansの抑制が達成できるという報告もある6)。今回,34歳のGAP患者に対し,プラークコントロールの徹底を基本とする歯周基本治療中にSRPと歯科用塩酸ミノサイクリン軟膏(MC軟膏)のポケット内投与を併用し,その後比較的早期に全顎の組織付着療法,口腔機能回復治療,そして継続したSPTにより,初診より25年良好な臨床結果が得られている症例について経過をもとに若干の考察を加えて報告する。なお,本症例は発表するにあたり,患者に症例報告内容を説明し口頭および文書による同意は得られている。

症例

患者:34歳,女性

初診:1993年7月

主訴:11の自然脱落

全身的既往歴:非喫煙者,その他特記事項なし。

歯科的既往歴:20代前半より歯肉出血の自覚有り,歯科治療に対する強い恐怖心から治療には行っていない。最後に歯科を受診したのは20代後半(5年以上前)の時でその時多くの歯を抜かないといけないといわれてそれ以来怖くて歯科に行けていない。11は来院直前に自然脱落した。

家族歴:家族は両親のみで,父親はすでに総義歯。母親もパーシャルデンチャーを装着している。

1. 診査・検査所見

11は来院直前に自然脱落,21は動揺度3で排膿があり,ブラッシング状態不良,辺縁歯肉の発赤腫脹,縁上,縁下歯石の沈着,さらに22.23.43部では自然出血も見受けられた。また病的歯牙移動により22.23.24間にはフレアアウトが認められた。13.12.22.23.35.36.37.44.45.46.47.48にはカリエスが認められた(図1)。

平均ポケットプロービング値(Pocket probing depth:PPD)5.0 mm,1-3 mm 32.2%,4-6 mm 48.3%,7 mm以上19.4%,プロービング時の出血(Bleeding on probing:BOP(+))65%,プラークコントロールレコード(Plague control record:PCR)100%であった(図2)。

初診時パノラマX線写真(図3)では全顎にわたり著しい水平性および垂直性の骨吸収が認められ,ほぼ全ての部位で支持骨は2分の1以下で36.46にはClass III,16.26にはClass IIの根分岐部病変が認められた。21は保存不可能。

診断:広汎型侵襲性歯周炎(1993年の初診時には若年性歯周炎と診断した)

図1

初診時口腔内写真(1993年7月)

図2

初診時歯周組織検査(1993年7月)

図3

初診時パノラマX線写真(1993年7月)

2. 治療計画

1) 歯周基本治療

口腔清掃指導,スケーリング・ルートプレーニング,MC軟膏のポケット内投与

抜歯(21)

咬合調整

暫間固定

2) 再評価

3) 歯周外科治療 全顎の組織付着療法

4) 再評価

5) 口腔機能回復治療

6) 再評価

7) SPT

3. 治療経過

1) 初診時からSPT移行時までの経過(1993年~1994年)

21は保存不可能と判断して初診時に抜歯,12と22を支台歯としたプロビジョナル・レストレーションを装着し,1993年8月より歯周基本治療を行う。歯肉縁上,縁下のプラークコントロールを厳密に行うとともに,浸潤麻酔下でのSRPと同時にMC軟膏(ペリオクリン歯科用軟膏,サンスター株式会社,大阪)によるポケット内投与とコンクールF(ウエルテック株式会社,大阪)による含嗽を併用。またその間22.36.46の根管治療も行った。

1994年1月に再評価(図4)。その結果BOP(+)42%,平均PPD 4.7 mm,1-3 mm 42.2%,4-6 mm 42.8%,7 mm以上15.0%,PCR 47.5%と十分な改善が得られてない状態ではあったが,早期の歯周外科の必要性を感じて1994年2月から7月にかけて全顎を6回にわけて歯周外科治療を行った(図5)。1994年2月14.15.16.17.18組織付着療法,3月24.25.26.27組織付着療法,4月33.32.31.41.42.43組織付着療法,5月44.45.46.47.48組織付着療法,6月34.35.36.37.38組織付着療法,7月13.12.23組織付着療法(術中22抜歯),最終の歯周外科から2ヶ月後の1994年9月に再評価検査を行った。BOP(+)8%に減少,ポケット値1-3 mm 82%,4-5 mm 13%,6 mm以上5%に改善したため,残存歯列の固定および咬頭嵌合位の確立を計る目的で補綴処置を行うこととした。最終補綴物はプロビジョナル・レストレーションでの経過観察の結果を参考にして,咬合時,側方運動時に動揺を認めない最小限の範囲とした。上顎は13.12.23を支台歯とする鋳造前装冠ブリッジ。下顎は48FMC,44.45.46連結FMC,35.36連結FMC。33~43はスーパーボンド(サンメディカル株式会社,京都)による暫間固定とした。また,38はその状況から抜歯を勧めたが,同意が得られずそのまま経過観察することとした(図6)。1994年12月補綴物装着後の再評価検査において,平均PPD 2.6 mm,1-3 mm 82.2%,4-6 mm 17.8%,7 mm以上0%,BOP(+)9.2%,PCR 10.2%に改善したためSPTに移行(図7)。

図4

歯周基本治療終了時歯周組織検査・デンタルX線写真10枚法(1994年1月)

図5

歯周外科時口腔内写真

図6

SPT移行時口腔内写真(1994年12月)

図7

SPT移行時歯周組織検査・デンタルX線写真10枚法(1994年12月)

2) SPT移行後から現在までの経過(1994年~2020年)

SPT間隔は当初1ヶ月に1回とした。SPT時はプラークの付着状況,歯肉の炎症,咬合状態をチェックし,ポケット内のデブライドメントと根面露出部が多いことから根面カリエス予防のためにフッ化物(フルオール・ゼリー歯科用2%,株式会社ビーブランド・メディコーデンタル,大阪)塗布などを行った。SPT中の1996年2月に37に歯髄炎の症状と動揺が増加したため,抜髄後35.36と連結FMCにて再治療。また,1997年2月に24.25も歯髄炎を起こしたため抜髄後連結インレーにて治療を行った。

SPT時の口腔内状況も良好に維持されていることから,2000年から2ヶ月に一度のSPTに変更した。その後,2002年より3ヶ月に1度のSPTに移行した。

2004年11月(初診より11年4ヶ月)SPT時の口腔内写真(図8)およびデンタルX線写真10枚法(図9)においても新たな骨欠損も認められず良好な状態を維持していた。しかし,2005年1月2次カリエスの問題から48を抜歯,また根分岐部病変Class IIIでトンネリングを行い保存していた36も根分岐部からのう蝕のため抜歯,同日同部位に38の歯牙移植を行った(図10)。プロビジョナル・レストレーションで5ヶ月の経過観察の後,2005年6月に35.36.37を連結FMCにて再治療を行った。SPT中2010年9月の口腔内写真(図11),デンタルX線写真10枚法(図12)でも良好に維持されていた。

2013年6月根分岐部からのう蝕で16抜歯,同日18を16部に移植。プロビジョナル・レストレーションで5ヶ月の経過観察の後2013年11月,16をFMCで補綴(図13)。

2018年6月う蝕により28抜歯。

現在初診より25年以上が経過したが,平均PPD 2.8 mm,1-3 mm 93.3%,4 mmが6.7%,5 mm以上は0%,BOP(+)4%,PCR 9%で病状は安定している。エックス線写真でもSPT移行時と比較して顕著な歯周病の進行は認められない(図1416)。

図8

SPT中2004年11月口腔内写真

図9

SPT中2004年11月デンタルX線写真10枚法・歯周組織検査

図10

SPT中38を36に移植(2005年1月)

図11

SPT中2010年9月口腔内写真

図12

SPT中2010年9月デンタルX線写真10枚法・歯周組織検査

図13

SPT中2013年6月18を16に移植

図14

2018年10月SPT時口腔内写真

図15

2018年10月SPT時歯周組織検査

図16

2018年10月SPT時デンタルX線10枚法

考察

本症例は,初診時34歳で全身的には健康であったが,すでに全顎的にアタッチメントロスが大きく,骨吸収がすすんでおり重篤な状態である。自然出血をしている部位もあり歯肉の炎症が強く,上下第一大臼歯の骨破壊が他の部位より著明であり,発症は問診により20代前半と考えられる。また,家族歴もあったことから広汎型侵襲性歯周炎と診断した。患者は極力抜歯をせずに歯を保存してほしいという強い希望があったため予後不安と思われる歯も極力保存的に歯周治療を行うこととした。日本歯周病学会の抗生物質の歯周ポケット局所療法のガイドライン7)によると若年性歯周炎は早期から著しい症状の進展を呈するため,治療当初から機械的方法と抗生物質の歯周ポケット局所療法を併用することが望ましいという報告や上田らのMC軟膏は歯肉縁下のスケーリングと併用することによりPPDやポケット内運動性細菌の比率に改善が認められたとの報告8)やVan Steenberghe DらのSRPと併用することによりPPDの改善やA. acttinomycetemcomitansおよびPorphyromonas gingivalisなどの歯周病原細菌に対する抑制効果が認められたとの報告9)から本症例においても歯周基本治療中SRPとMC軟膏のポケット内投与を併用した。本症例においては,歯周基本治療終了時にプロービング時の出血部位やプロービング値の変化などの臨床的指標は十分な改善が見られなかった(図17)。Christerssonら10)によるとA. acttinomycetemcomitansは歯周組織内部へも侵入していることから,SRPを行ったとしてもA. acttinomycetemcomitansを完全には除去することはできないことが考えられる。Slotsら11)によるとA. acttinomycetemcomitansが関与する歯周病ではその活動期にはアタッチメントロスが3ヶ月間に2 mm以上おこるという報告や,Levyら12)によると歯周外科処置は細菌叢の改善に大きな効果があり,歯周外科前後の細菌叢の比較で歯周外科を行った部位のみならず,歯周外科を受けてない部位の細菌叢も大きく減少するという報告やChristerssonら6)によると歯肉縁下のA. acttinomycetemcomitansの抑制はSRP単独では十分得られず歯周組織の外科的な除去を併用することによって達成されるとしている。よって本症例においても早期の歯周外科処置による歯周環境の改善を行う必要があると考え,徹底的な感染源除去を目的に全顎の歯肉剥離掻爬術を行った。その結果最終の歯周外科より5か月後の再評価検査では,平均PPD 2.6 mm,1-3 mm 82.2%,4-6 mm 17.8%,7 mm以上0%,BOP(+)9.2%と臨床的指標は大きく改善し,SPTに移行することができた。その後のSPT期間(図18)を通じてもその数値は若干の改善を伴いながらほぼ維持されていた。このことは,本症例において早期の歯周外科処置が有効であり,またSPTも十分に機能していたことを裏付けるものである。

本症例は,初診時歯槽骨の吸収が重度に進行していて大臼歯部では根分岐部病変も多く存在した。16.26.はClass II,36.46はClass IIIの状態で対応に苦慮させられた。16.26は生活歯ということもあり組織付着療法を行い経過良好になったのでそのままSPTに移行した。36.46は3度であり歯周治療の指針20152)では,トンネリング,ルートセパレーション,ヘミセクションが適応となるとされている。本症例ではそれぞれの根の残存歯槽骨量が少なくルートセパレーションやヘミセクションをした場合それぞれの根の保存が難しいと判断してトンネリングを選択して周囲の歯の状態も良くなかったので補綴物による連結固定を行った。しかし36はSPT中の2005年(初診より12年)に根分岐部からの根面カリエスにより抜歯を余儀なくされた。また16も同様の理由からSPT中の2013年(初診より20年)に抜歯となった。それぞれのリカバリー処置として同側の第三台臼歯が存在したことから歯の移植を選択した。インプラント治療の普及により歯の移植を選択する機会は少なくなっているが,本症例の場合経済的な理由からインプラント治療の選択はできなかった。移植歯の予後に関してAndreasenら13)は,第三大臼歯の移植において最長20年,平均4.7年の観察期間で96%であったと報告している。また月星14)は最長26年,平均10.2年の観察で成功率85.3%だったと報告し,歯の移植の成功条件に歯根膜の存在,年齢(低年齢),歯根の形態(単根),抜歯窩への移植等を上げている。本症例は年齢条件は良くなかったものの,歯根膜の存在した単根歯を抜歯高に移植でき移植後15年と7年経過したが長期的なSPTにより良好な口腔環境が維持されていることが長期保存に繋がったと推測できる。インプラント治療が主流になっているが,条件が整えば移植は現在でも有効な治療法の一つと考えられる。

重度の歯周病の患者に対する歯周治療後の定期的なメインテナンスやSPTの必要性に関しては様々な報告15-19)がありその重要性に関しては議論の余地はない。長期メインテナンス患者を診ていると,歯の喪失原因が歯周病より根面カリエスや歯根破折になることを経験している。本症例も全体的には良好な経過をたどっているが,25年間の間に第三大臼歯2本を含めて4本の歯を失った。抜歯の理由はいずれも歯周病ではなくう蝕によるものだった。それ以外にもすでに二次カリエスがあり管理している部位や根分岐部の問題,移植した16.36の予後,12の根尖病巣,根面カリエスなど多くの問題を抱えている。現在のSPT時のリスク判定20)は低リスクにあたると考えられるので,SPT期間を3ヶ月に1度とし,再度のSRPやPMTC,咬合調整,フッ化物塗布などを行いながら歯周病の管理とう蝕の予防に努めている。口腔機能を長期に維持するためにはSPTの維持が非常に重要であり,今後も慎重にSPTを行っていきたいと考えている。

図17

初診時から歯周基本治療終了時までの歯周組織検査表の変化

図18

SPT移行時(1994年12月)から2018年10月までの歯周組織検査表の変化

本論文の要旨は第61回秋季日本歯周病学会学術大会(2018年10月27日大阪)において発表した。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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