Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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ISSN-L : 0385-0110
Case Report
Case report of comprehensive treatment of a generalized chronic periodontitis patient with skeletal mandibular prognathism
Naoyuki IshidaMasato YamaguchiMasaki TakadaHideaki KagamiKazuhiro YamadaYasuaki IshiokaRyuichi UeharaYuki OzakiYuichi IshiharaYoshiko MasudaNobuo Yoshinari
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2020 Volume 62 Issue 3 Pages 168-181

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要旨

歯周病と歯列不正は強い関連が認められており,双方の病態に大きな影響を与えている。長期間口腔内を健全な状態に保ち,種々の病態の再発を予防するためにも,歯周病に対する炎症のコントロールのみではなく,歯列不正の改善による適切な咬合の付与と安定化,力のコントロールが必須である。さらに,進行した歯周炎患者では,既存の歯列不正以外にも病的な歯の移動(Pathologic tooth migration:PTM)により咬合が不正となったり,二次性咬合性外傷が生じて歯周炎が進行する可能性もある。

今回,骨格性下顎前突症を伴う広汎型慢性歯周炎と診断した57歳の女性に対して,歯周基本治療後に下顎枝矢状分割術を伴う矯正治療を施行し,咬合状態を改善した後,保定治療中に歯周外科治療,補綴治療を行うことにより,歯周組織の改善と歯列,咬合の安定性が得られた症例を報告する。現在初診より13年が経過,歯周病安定期治療(Supportive periodontal therapy:SPT)へ移行してから6年経過しているが,良好に歯周組織と咬合の安定が維持されている。

骨格性下顎前突症を伴う慢性⻭周炎患者において,徹底的な炎症のコントロール下における下顎枝⽮状分割術を伴う矯正治療や補綴治療を含む包括治療を行う事で,歯周組織の長期安定を維持することができた症例を報告する。

緒言

歯周病は口腔内常在菌である歯周病原菌の歯肉への感染が原因となって発症する慢性炎症性疾患である。通常,急性症状が出にくいため発見が遅れて重篤化しており,診断時には歯の保存が不可能である場合も多い。

残存歯の傾斜や捻転,移動,叢生などの歯列不正は,プラークリテンションファクターとして口腔内の自浄作用,歯ブラシなどの清掃器具のアクセスや操作性を低下させ,プラークの停滞,歯石の沈着を助長させ歯周病の悪化を助長させるばかりでなく,咬合状態の悪化から早期接触や外傷性咬合の原因となり,歯周組織に咬合性外傷を引きおこす。さらに,歯肉退縮や歯間乳頭の喪失などの歯肉の形態異常を生じさせ,審美性の低下を招く要因ともなる。

歯周病に影響を与える歯列不正には,顎変形症由来の場合も少なくない。顎変形症の発生には遺伝的な要素が強いと報告されているが1),原因不明の場合が多い。通常,顎変形症の治療は,矯正治療と外科処置を併行して施行するため,咬合状態の改善だけではなく,顔貌にも大きく影響を与える2)。特に成人に対する治療を施行する際,歯周炎や根尖性歯周組織炎,歯が欠損している症例も多いため,治療に際しては各専門分野が連携した包括治療を行う事が重要となる。

また,口腔内が進行した歯周炎に罹患している環境において,病的に歯が移動する現象をPathologic tooth migration:PTMと呼び,歯周炎患者に高い確率で認められる。これまでPTMの有病率に関する種々の報告がなされており,歯周炎罹患患者において30%~55.8%で認められたとされている3-5)。Towfighiらは,PTM歯では非PTM歯と比較してアタッチメントロスが大きいと報告している3)。なかでも,低下した歯周組織支持能力を超えた咬合力に起因して生じる二次性咬合性外傷は口腔内環境に非常に大きな影響を与え,適切な処置が行われないと咬合の崩壊につながる。よって,PTMが認められる症例においては,咬合の安定化と咬合力の適切なコントロールを含めた歯周病治療を徹底して行うことが非常に重要となる。

さらに,歯の位置やその移動には,他にも頬・舌・口唇等の軟組織圧,習癖,歯の萌出など様々な因子が関与している。複数の因子が歯の移動に対して複雑に影響している環境では,歯周組織に炎症を生じた状況下での矯正治療を行う事で,歯周組織の破壊を促進してしまう可能性がある6)。一方で,徹底した歯周病治療により適切に炎症のコントロールがなされていれば,矯正治療を行うことは禁忌ではないとの報告が多い7-9)。歯周病治療において,矯正治療の必要性を十分に見極めて取り入れていくことは,良好な治療結果と歯周組織の安定を得るために重要であると思われる。

今回,骨格性下顎前突症を伴う広汎型慢性歯周炎患者に対して,歯周基本治療,下顎枝矢状分割術を伴う矯正治療,歯周外科治療,補綴治療を施行することにより,歯周組織の改善と歯列,咬合の安定性が得られ,長期間維持されている症例について報告する。

症例

患 者:57歳(初診時),女性

初診日:2007年12月26日

主 訴:全顎的な歯周病治療,欠損部位の補綴治療希望

1. 全身既往歴

2003年(53歳)より高血圧(収縮期血圧:160 mmHg,拡張期血圧:99 mmHg)にてカルシウム拮抗薬であるアムロジピンベシル酸塩錠(ノルバスク錠2.5 mg,ファイザー株式会社,東京)を服用していたが,血圧正常化に伴い2006年に服用を中止した。また,2006年12月(56歳)に耳石落下症にて諏訪日赤病院に2回入院したが,病院で指導された体操をすることにより,現在は完治している。中性脂肪は240 mg/dlとやや高めだが,特に治療を受けていない。年に1回は人間ドックを受診して全身状態をチェックしている。ハウスダストに対してアレルギー,スギ,ブタクサに対して花粉症の既往がある。その他特記事項はない。

2. 口腔既往歴

1970年(20歳)以前にカリエス治療,歯周病治療の既往はない。

1972年(22歳)時,上下顎左右側第3大臼歯の抜歯処置を受ける。同時期に大阪の歯科医院にて上顎右側側切歯を低位唇側転位のため抜歯処置を受け,同院にて同部のブリッジによる歯冠補綴処置を受ける。

その後,歯科医院に通院することはなかったが,2007年2月(56歳)頃より上顎左側側切歯根尖部歯肉の腫脹,排膿を自覚し,近隣歯科医院にて切開,排膿処置を受けるも,同症状を繰り返すため,同歯科医院の紹介にて2007年9月(56歳)に松本歯科大学病院(以下,本学)口腔外科を受診。歯根破折の診断下,保存不能のため同年10月に抜歯,暫間補綴処置を受ける。その後,歯周病治療と同部位の補綴治療希望のため,歯周病科に来科された。

3. 家族歴

両親は亡くなっており,歯周病の既往,義歯の使用については不明である。

4. 生活習慣および習癖

喫煙歴,飲酒習慣は共にない。

5. 現症

1) 全身所見

身長155 cm,体重58 kg,体格指数(Body Mass Index:BMI)は24.1で,標準である。

2) 顔貌所見

正貌は左右対称であるが,側貌はコンケイブタイプ(凹顔型)を呈していた。

3) 口腔内所見

1) 肉眼所見

歯列弓形態は上下顎共に概ね放物線状を呈しており,47に近心傾斜,37,32,41に近心捻転,42に遠心捻転,34に頬側転位,42に舌側転位が認められた。臼歯部咬合関係は,右側はAngle III級であり,左側はAngle I級である。12,43,23,34は鋏状咬合である。Overbite,Overjetは共に1 mmで,下顎は右側へ2 mm偏位していた。歯肉は,17~13頬側,口蓋側辺縁歯肉,23頬側辺縁歯肉,34~37,44~47舌側辺縁歯肉,33~43唇側辺縁歯肉に中等度の腫脹を認めた。また,33~43の歯間乳頭部に発赤・うっ血・腫脹を認めた(図1a)。

図1a

初診時口腔内写真

歯列弓形態は上下顎共に概ね放物線状を呈している。歯肉は全顎的に中等度の腫脹を認め,31~33,41~43の歯間乳頭部に発赤・うっ血・腫脹を認める。

2) 歯周組織検査

歯周組織検査(1歯6点計測,24歯144部位)の結果,プロービングポケットデプス(Probing pocket depth:PPD)は平均3.5 mm,最大PPDは10.0 mm,4~5 mmの部位は29部位(20.1%),6 mm以上の部位は17部位(11.8%)に存在していた。臨床的アタッチメントレベル(Clinical attachment level:CAL)の平均は4.1 mmであった。プロービング時の出血(Bleeding on Probing:BOP)(+)率は28.5%,歯の動揺度は17で2度,16,15,13,11,37,47で1度(Millerの分類)であった。また,17,16,26,36に1度,27,37,46,47に2度の根分岐部病変(Lindhe & Nymanの分類)が認められた。さらに,PISA(periodontal inflamed surface area:歯周ポケット炎症面積)は972.2 mm2であった。口腔清掃状態は不良で,プラークスコア(O'LearyらのPlaque control record:PCR)値は初診時80.2%であった。特に,47にはプラークが歯頚部に多量に沈着していた(図1b)。

図1b

初診時歯周組織検査所見

PCR:O'LearyらのPlaque control record

PPD:プロービングポケットデプス(Probing pocket depth)

B:buccal(頬側)

P:palatal(口蓋側)

L:lingual(舌側)

根分岐部病変:Lindhe & Nymanの分類

歯の動揺度:Millerの分類

PISA:periodontal inflamed surface area(歯周ポケット炎症面積)

PESA:periodontal epithelial surface area(歯周ポケット上皮面積)

3) エックス線写真所見

初診時パノラマエックス線写真では,全顎的には軽度から中等度の水平性骨吸収像であったが,17,47近心部には深い垂直性骨吸収像,37近心部,47遠心部にも垂直性骨吸収像,46,47には根分岐部病変と思われる透過像が認められた(図1c)。

図1c

初診時パノラマエックス線写真

全顎的には軽度から中等度の水平性骨吸収像であったが,17,47 近心部には深い垂直性骨吸収像,37近心部,47遠心部にも垂直性骨吸収像,46,47には根分岐部病変と思われる透過像が認められた。

6. 臨床診断

1) 歯周病診断

広汎型中等度慢性歯周炎 ステージIIIグレードB(歯周治療の指針2015に準ずる,2019年新分類併記)

2) 矯正診断

骨格性下顎前突症

7. 病因

1)全身的リスク因子:特記すべき事項なし。

2)局所的リスク因子:プラーク,歯列不正,外傷性咬合

8. 治療計画

治療方針

歯周病治療にて慢性歯周炎の病態を改善した後,顎変形症に対し矯正治療,外科治療,補綴治療により改善していく治療計画を以下のごとく立案した。

1)歯周組織検査,診断

2)歯周基本治療(プラークコントロール,歯肉縁上スケーリング,スケーリング・ルートプレーニング(Scaling & Root planning:SRP),咬合調整:17,16,23,26,27,37,36,34,46,47)

3)再評価検査

4)歯周外科治療(歯肉剥離掻爬術:17,16,26,27,37,47)

5)術前矯正治療

6)下顎枝矢状分割術(Sagittal Split Ramus Osteotomy:S.S.R.O.)

7)術後矯正治療

8)再評価検査

9)補綴治療

10)再評価検査

11)歯周病安定期治療(Supportive Periodontal Therapy:SPT)

以上の治療計画を立案し,患者に同意を得て治療を開始した。なお,本症例の論文発表,および臨床データの発表に関して口頭で説明し,同意を得た。

9. 治療経過

1) 歯周基本治療(2007年12月~2008年8月)

全顎に及ぶ軽度の歯肉腫脹は,口腔清掃不良による慢性歯周炎に起因するものであることを説明し,プラークコントロールを開始した。ブラッシング指導は音波歯ブラシ(Sonicareエキスパートクリーン,株式会社フィリップス・ジャパン,東京)を使用し,歯間隣接面部は歯間ブラシ(DENT.EX歯間ブラシM,L,ライオン歯材株式会社,東京)を歯肉退縮量に合わせて使用するよう指導した。

歯列不正による歯軸の傾斜や歯肉退縮等により,良好なプラークコントロールの獲得には時間を要したが,歯周基本治療終了時にはPCR値は17.7%まで低下し,以後も20%以下で維持された。歯肉縁上のプラークコントロール確立後,付着を獲得するための歯肉縁下の処置としてSRPを施行し,歯肉縁下歯石を除去,根面の滑沢化を図った。治療に対する組織応答性は良好で,特に17ではCALの最深部で初診時10 mmから6 mm,17の平均CAL:6.5 mmが4.3 mmと減少しており,著明なアタッチメントゲインが得られた。

2) 再評価検査(2008年8月)

歯周基本治療終了時の再評価検査においては,初診時に認められた全顎におよぶ歯肉の発赤は改善された。しかし,46舌側歯頚部についてはプラークコントロールが不良で,辺縁歯肉にうっ血様症状が認められた。さらに,全顎で歯肉退縮が進行し,特に32,31,41,42においては歯肉退縮量が大きく,歯根面が大きく露出した(図2a)。全顎の平均PPDは3.0 mm,最大PPDは8.0 mm,4~5 mmの部位は26部位(18.1%),6 mm以上の部位は6部位(4.2%)に存在していた。CALの平均は初診時4.1 mmから3.9 mmに減少した。BOP(+)率は6.9%であった。歯の動揺度は17,16,13,11,37,47で1度であった。依然として17,16,26,36に1度,27,37,46,47に2度の根分岐部病変が確認された。PISAは195.6 mm2に減少した(図2b)。

図2a

基本治療終了時口腔内写真

初診時に認められた全顎におよぶ歯肉の発赤は改善された。しかし,全顎で歯肉退縮が進行し,特に32,31,41,42においては歯肉退縮量が大きく,歯根面が大きく露出している。

図2b

基本治療終了時歯周組織検査所見

3) S.S.R.O.術前矯正治療(2008年10月~2010年8月)

本学矯正科にて側方頭部エックス線規格写真分析の結果,上顎前歯部の唇側傾斜と下顎前歯部の舌側傾斜を伴う顎変形症と診断された。さらに,骨格性の顎間関係の不調和による歯の位置異常であるデンタルコンペンセーションが生じているため,その改善のためにS.S.R.O.が適応との診断であった(図3)。

長期にわたる矯正治療の開始時期としては,6 mmのPPD残存部位があったため,当初の治療計画通り歯周外科治療が必要であると判断したが,歯周組織の状態が安定していたことや,歯列不正の改善後の方が正確な処置が可能であるとの判断から,矯正治療終了後に歯周外科治療を行う様に治療計画を変更した。しかし,矯正治療を開始して1年経過後,47に関しては歯周病の病態が急速に悪化したため抜歯処置を施行した。

S.S.R.O.術前矯正治療は,マルチブラケットを装着し,上顎前歯部の唇側傾斜と下顎前歯部の舌側傾斜の改善を目的として約2年かけて施行した(図4a,b)。この矯正治療の結果,上顎前歯部が舌側傾斜,下顎前歯部が唇側傾斜し,デンタルコンペンセーションの改善が得られた。矯正治療後のエックス線写真所見では,歯根吸収等の異常所見は認められなかった。また,47以外の部位においては,歯槽骨レベルの低下等の歯周組織の悪化所見も認められなかった。

矯正治療中のプラークコントロールについては,ブラケットやワイヤー周辺のブラッシングに特に留意するよう指導を行った。

図3

矯正治療術前側方頭部エックス線規格写真

分析の結果,上顎前歯部の唇側傾斜と下顎前歯部の舌側傾斜を伴う顎変形症と診断され,骨格性の顎間関係の不調和による歯の位置異常であるデンタルコンペンセーションが生じているため,その改善のためにS.S.R.O.が適応との治療方針であった。

図4a

S.S.R.O.術前矯正治療中口腔内写真

S.S.R.O.術前矯正治療は,マルチブラケットを装着し,上顎前歯部の唇側傾斜と下顎前歯部の舌側傾斜の改善を目的として約2年かけて施行した。歯肉の発赤,腫脹等の所見は認められず安定している。

図4b

S.S.R.O.術前矯正治療中エックス線写真

47の周囲に歯根膜腔の拡大が著明な透過像が認められるがその他の部位の歯槽骨に悪化所見は認められない。

4) 下顎枝矢状分割術:S.S.R.O.(2010年9月)

術前矯正治療終了後,本学口腔外科にてS.S.R.O.を施行した結果,上下顎前歯部の開咬状態が改善され,臼歯部咬合関係はI級となった。術後2週間は顎間固定処置を施行し,その後補綴処置のためリテーナーを装着して保定治療を施行した。37に関しては,S.S.R.O.術後に歯肉の腫脹と排膿を繰り返したため検査を行ったところ,歯根破折が判明し抜歯処置を施行した。

5) 歯周外科治療(2012年11月)

矯正治療終了後の再評価検査において,26近心に4 mm,27近心に6 mmのPPDを認めたため,歯肉剥離掻爬術を施行した。26,27共に頬側および近心側の骨壁が残存する2壁性骨内欠損を認め,デブライドメントを確実に行った。さらに,頬側の棚状歯槽骨に対して骨整形術を施行した(図5a,b)。

図5a

26,27歯肉剥離掻爬術直前エックス線写真

26の近心部に歯根膜腔の拡大,27の近心部に深い垂直性骨欠損が認められる。

図5b

26,27歯肉剥離掻爬術

26,27共に頰側および近心側の骨壁が残存する2壁性骨内欠損を認め,デブライドメントを確実に行った。さらに,頰側の棚状歯槽骨に対して骨整形術を施行した。

6) 補綴処置(2013年5月~2013年8月)

歯周外科治療6ヶ月後,矯正治療の保定処置終了時に補綴装置の設計を行うための研究用模型を作製した。これを中心位で半調節性咬合器にマウント後,プロビジョナルレストレーションを作製して口腔内にトランスファーして咬合の安定化を図った。前歯部の形態修正,アンテリアガイダンスを調整後,最終補綴装置へと移行した。12,22,24,25の欠損には14,13,11,21,23,26,27を支台歯としてレジン前装冠のブリッジを装着した。補綴装置辺縁はプラークコントロールを良好に維持しやすくするため,歯肉縁等高マージンとした。咬合様式は両側犬歯から臼歯部にかけてのグループファンクションとし,犬歯の咬合負担軽減を図った。また,口腔内写真,再評価検査,および口腔内エックス線写真所見より,全顎的に歯肉の炎症所見はなく,エックス線写真より歯槽硬線は明瞭になってきており,歯槽骨のレベルも安定して維持されていた(図6a,b,c)。

図6a

補綴治療後口腔内写真

歯列不正は良好に改善され,全顎にわたって歯肉の発赤,腫脹等の所見は認められず安定している。補綴物移行部の形状も良好である。ただ,天然歯部の歯間部では歯肉退縮が認められ,特に32,31,41,42においては歯肉退縮量が大きく,歯根面が大きく露出している。

図6b

補綴治療後歯周組織検査所見

全顎の平均PPDは平均2.3 mm,4~5 mmの部位は5部位(3.8%)に存在していた。BOP率は0%,PISAも0 mm2に減少した。歯の動揺度は固定性補綴物もありなくなった。ただ依然として17,16に1度,36,46に2度の根分岐部病変が残存している。

図6c

補綴治療後エックス線写真

46には根分岐部病変と思われる透過像が認められるが,全顎的に歯槽硬線の連続性が認められ,骨梁の配列も正常,歯槽骨のレベルも安定して維持されている。

7) SPT(2013年8月~2019年7月)

補綴治療終了後の再評価検査の結果,全顎の平均PPDは2.3 mm,4~5 mmの部位は5部位(3.8%)であり,ロングスパンブリッジの補綴物を装着したのでCALの測定基準が7歯で変化しているが,CAL平均も3.2 mmに減少した。BOP,PISAは認められず歯周組織の病状は安定した。17,16,46には根分岐部病変が残存するもののSPTにて管理していくこととした(図6b)。エックス線写真所見として,歯槽硬線の連続性が認められ,骨梁の配列も正常となったためSPTへ移行した(図6c)。患者は1日4回,毎食後と就寝前に電動歯ブラシによるブラッシングと歯間ブラシでのセルフケアを継続している。PCRレベルは20%以下を維持しているが,ロングスパンのブリッジが装着されているためプラークコントロールが不十分となりやすい。このような点に配慮しつつ現在まで,3ヶ月毎にブラッシング指導と歯面清掃を主体としたSPTを施行し,長期的な口腔内環境の維持・管理に努めている(図7a,b,c)。

図7a

SPT開始6.5年時口腔内写真

全顎にわたって歯肉の発赤,腫脹等の所見は認められず安定している。

図7b

SPT開始6.5年時歯周組織検査所見

全顎の平均PPDは平均2.3 mm,4~5 mmの部位は3部位(2.3%)に存在していた。BOP率は0%,PISAも0 mm2で維持している。歯の動揺度は固定性補綴物もありなくなった。ただ依然として17,16に1度,36,46に2度の根分岐部病変が残存している。

図7c

SPT開始6.5年時エックス線写真

補綴治療後エックス線写真(図6c)と同様に,46には根分岐部病変と思われる透過像が認められるが,全顎的に歯槽硬線の連続性が認められ,骨梁の配列も正常,歯槽骨のレベルも安定して維持されている。

考察

本症例は,骨格性下顎前突症とPTMを有する慢性歯周炎患者であったため,プラークコントロールの徹底とSRPによる歯周基本治療のみではなく,歯周組織と口腔機能の回復には外科的処置を含む矯正治療や補綴治療等の種々の包括アプローチが必要と考えられた。

患者は治療開始初期から歯周病治療に対する意識が高く,高いアドヒアランスを維持しながら治療を進める事が可能であった。ブラッシング指導を徹底し,スケーリング・ルートプレーニングを行なった事に加え,可及的に咬合性外傷のコントロールを施行した。その結果,早期接触(咬頭干渉)を認める歯(17,16,23,26,27,37,36,34,46,47)については咬合調整を行い早期に歯周組織の病状は安定した。

歯周基本治療後の再評価検査では,初診時の平均PPD:3.5 mm,PPD4 mm以上の部位率:31.9%,平均CAL:4.1 mm,BOP(+)率:28.5%,PISA:972.2 mm2から,各々3.0 mm,22.3%,3.9 mm,6.9%,195.6 mm2へと改善し,歯周組織の反応性は良好であった。以上の結果は患者自身のコンプライアンスが良好で,PCRの改善が比較的早期に認められたこと,さらに患者が非喫煙者であったことも関与していると思われる10,11)。矯正治療後には歯列不正が改善して口腔清掃が容易となったため,口腔環境がさらに改善して継続的な口腔内環境の維持,管理が可能となったことも良好な結果に繋がったと考えられる。

歯周基本治療終了時の再評価ではPPD 4 mm以上の部位が残存したが,全顎的に良好なプラークコントロールが維持され,歯周基本治療が奏功したことにより,歯周病活動度が低く抑えられていると判断した。歯周組織に炎症が生じた状況下で矯正治療を行う事で,歯周組織の破壊を促進してしまう可能性があるが4),炎症のコントロールがなされていれば,矯正治療を行うことは禁忌ではないとの報告がある5-7)。さらに,Egleらは,矯正治療と歯周病治療を併用した場合と歯周病治療後に矯正治療を行った場合で歯周病の改善度に変化はなく,歯周病治療後に矯正治療を行った場合よりも両治療を併用した場合の方が歯周病の改善が早かったと報告している12)。以上の報告より,本症例では,歯周病活動度が低下していると判断できたことに加え,今後歯周外科治療を行う場合においても,歯列不正が改善され,咬合の安定化が図られた後の方が確実な処置と管理が可能であると判断し,歯周外科治療の前に外科的処置を含む矯正治療を施行した。

矯正治療終了後,特に26,27に関しては6 mmのPPD残存を認め,歯槽骨の欠損形態も考慮した上で歯周外科治療の適応と判断した。26,27それぞれの近心側には垂直性の骨内欠損が存在しており,2壁性骨欠損の状態となっていたことから歯肉剥離掻爬術を行った。同部位をはじめ垂直性骨吸収,2度の根分岐部病変を認めた17,27,37,46,47に関して,治療計画時に再生療法を検討し,患者に説明したが経済的理由から拒否された。さらにS.S.R.O.後に再度薦めたがS.S.R.O.疲れから外科治療自体を拒否され,短時間で侵襲を少なくして施行するとの説明で26,27の歯肉剥離掻爬術には了承を得て施行した。歯周外科治療後の再評価において,歯周組織検査やエックス線写真では歯周基本治療後と比較してPD平均値,PD≧4 mmの部位率,平均CAL,BOP(+)部位率はいずれも改善されていた。これは,徹底した炎症のコントロールとPCRの数値が低く維持されてきたことが術後の創傷治癒と安定化に貢献しているのではないかと考えられる11,13)

歯周外科処置後の歯周組織の治癒を正確に評価するのは困難とされているが14),2014年には歯科用CTを使用して三次元的に歯周組織の再生を評価した報告もなされている15)。今後は特に硬組織の評価において,補綴処置でのハレーションが避けられるような場合には歯科用CTの使用が増加する可能性も考えられる。

歯周病治療を行う際,歯列不正を是正することは口腔内の自浄作用の向上に繋がる。さらに,ブラッシングも容易になることから歯周病治療の効果が得られやすくなるのと同時に,審美性と咬合状態の改善も期待できる16-18)。これまでに歯周炎患者に対して矯正治療を施行,あるいは,骨格性の変形症に対する外科的治療を行った症例がいくつか報告されているが,いずれの処置においてもその前処置として歯周組織の炎症のコントロールが必須であることが報告されている19-21)

本症例は,骨格性下顎前突症と診断され,さらに数歯のPTMが認められたことから,全顎的な矯正治療を行うことが適当と判断した。歯周基本治療終了時には47を含む全歯の歯周病病態が安定したため,マルチブラケットを用いたS.S.R.O.術前矯正を開始した。37,47に関しては過大な咬合力が外傷性咬合として作用していたため矯正のトルクをかけることが危険であったものの,歯の削合では外力も歯列不正も改善できず,アップライトのトルクを加えた。その結果,S.S.R.O.術前矯正を開始して10ヶ月経過後,47の歯周病病態の急速な悪化を認めた。矯正治療開始後もブラッシングを徹底させ,定期的な口腔管理を施行していたが,矯正装置によるプラークコントロールの悪化や矯正時にほぼ大臼歯部でのみ咬合していた影響によるものと思われる。その後歯周急性発作を繰り返したため,予後不良と判断して抜歯処置を施行した。また,S.S.R.O.術前矯正期間中,左側はほぼ27と37でしか咬合しておらず,47よりも過大な咬合力が外傷性咬合として作用していたのと矯正用のバンドが一部歯肉縁下に入りプラークコントロールが困難であったこと,S.S.R.O.後も根分岐部の離開度が小さくSRPが困難であったことから歯肉の腫脹と排膿を繰り返した。検査により,遠心根の歯根破折が認められ抜歯処置を施行した。歯根破折については,S.S.R.O.術前矯正期間中にすでに亀裂が入っていたのかもしれない。

歯周疾患罹患患者における矯正治療では,歯槽骨の吸収により歯冠・歯根長比が悪化するため,矯正力のコントロールが非常に重要となってくるため17),より厳密な管理と残存歯の咬合負担能力等も考慮した処置が必要になると考えられる。今回,矯正治療を開始するにあたり,PCRが低いレベルで維持出来ていたことや,PD≧4 mmの部位率,BOP(+)部位率,PISAも減少していたことから歯周病の病態は安定していると判断して処置を開始したが,結果的に47の歯周病病態を悪化した。このことから,歯周病治療後に矯正治療を行う際には,歯周病原細菌の細菌検査を行ったり22),歯槽骨の骨欠損状態に対して歯科用CTを使用して確認する等のより厳密な検査を行った上で処置に移行するのが望ましかったのではないかと思われる。

本症例では,骨格性下顎前突症とPTMにより,初診時には適切な咬合状態が付与されておらず,アンテリアガイダンスが消失していた。矯正治療の結果歯列不正が改善されたが,適切かつ長期的に安定した咬合の付与のため14~27のロングスパンブリッジによる補綴を選択した。保定処置終了後14~27に対してプロビジョナルレストレーションを装着し,咬合調整,適合度,審美性の調整,清掃性の確認時には犬歯を含んだグループファンクションドオクルージョンに咬合様式が誘導されていることを確認した。ロングスパンブリッジにおける補綴ではプラークコントロールが困難となることが容易に予想されたため,プロビジョナルレストレーションの段階でブラッシング方法の指導を徹底し,問題なく施行されていることを確認した後補綴処置に移行した。

今回,高齢期にはいる骨格性下顎前突症を伴う広汎型慢性歯周炎患者に対し,歯周基本治療,歯周外科,外科的処置を含む矯正治療,および補綴治療をチームアプローチで包括治療を施行した結果,歯周組織の環境改善,歯列の連続性,臼歯部咬合支持の回復,適切なアンテリアガイダンスが獲得された。17近心,16近心,36舌側,46舌側には1~2度の根分岐部病変が残存しているが3ヶ月毎のSPT時に慎重に病態の安定状態を検査し,超音波スケーラーのロングチップを用いて洗浄している。最終補綴から現在まで6年以上SPTを継続して経過観察を行っているが,これまでに悪化所見は認められていない。

高齢者においては,歯周病の存在や歯の欠損等の局所的な問題,及び,高血圧や糖尿病といった全身疾患を有する可能性が若年者と比較して高い。さらに,骨格性下顎前突症を伴うことにより,歯列不正による清掃困難,全顎的な矯正治療の必要性,より厳密な咬合のコントロール等の処置を成功に導くために考慮すべき事項が多くなる。しかし,本症例より,高齢であっても炎症および力の適切なコントロールを獲得することで,外科的な矯正治療を含む歯周治療を成功させ,良好な歯周組織と咬合の安定を維持することが可能であると考えられる。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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© 2020 by The Japanese Society of Periodontology
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