Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Review Article
Basic research on cytokine and cell therapy to establish a novel promising strategy for periodontal tissue regeneration
Mikihito Kajiya
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2021 Volume 63 Issue 3 Pages 105-112

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1. はじめに

歯周炎は,細菌感染と宿主の免疫応答の結果生じる炎症性組織破壊疾患であり,セメント質・歯周靭帯・歯槽骨からなる歯周組織が喪失する。その歯周炎治療として,徹底的な感染源除去が行われる。しかし,感染源除去によって炎症を軽快させ,組織破壊の進行を停止することができるが,失われた歯周組織が再生することは少ない。歯周組織が喪失した状態では,歯肉ラインの乱れによる清掃性低下と,支持組織が不足することに起因する二次性咬合性外傷を引き起こすため,歯周炎を再発しやすい。したがって,歯周炎の完治のためには,失われた歯周組織を再生させる歯周組織再生療法が必要となる。

歯周組織再生療法の開発研究について,1970年代から骨移植が中心に検討され1),1980年代には遮蔽膜を用いた組織再生誘導法(guided tissue regeneration method:GTR method)が樹立された2)。さらに,1990年代にはいると,ブタ歯胚から採取・精製したエナメルマトリックスタンパクを用いた歯周組織再生療法が開発された3)。そして,2000年代以降には,バイオマテリアルや,サイトカイン,もしくは幹細胞による歯周組織再生療法の開発基礎研究が隆盛を極め,現在では,遺伝子組み換え塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)を医薬品として投与するサイトカイン療法が確立され,間葉系幹細胞を移植する細胞治療の臨床試験が複数実施されている。

しかしながら,有望な新規技術が樹立されつつある現在においても,安全で,より効果的で,予知性の高い歯周組織再生療法を,すべての歯周炎患者に提供するためには,基礎研究で解決すべき課題が数多く残されている。そこで本稿では,サイトカイン療法・細胞治療法の開発経緯と現状について概説し,より有効な歯周組織再生療法開発のための問題解決策について,著者の研究グループの取り組みをまじえて紹介する。さらに,国内外の最新の研究成果も俯瞰しながら,今後取り組むべき研究課題について考察する。

2. サイトカイン療法と細胞治療法の相違点・共通点

サイトカインを用いた組織再生療法の基本原理は,欠損組織に存在する細胞の機能を活性化することで,組織再生を促進するものである。したがって,歯周組織再生療法としての適応症は,制御するべき機能的な細胞が残存する,垂直性骨欠損やI~II級根分岐部病変などの限局型歯周組織欠損症例となる。これより広範な欠損症例(水平性骨欠損やIII級根分岐部病変)では,組織再構築を担う細胞数が絶対的に不足するため,生体外からその機能的な細胞,すなわち未分化前駆細胞を移植する細胞療法が適応となる。この適応症の違いをよく理解することで,サイトカイン療法と細胞治療のそれぞれに適切な研究デザインを設計することが可能になる。

一方,組織再生療法を開発するためには,生体の組織再生,もしくは組織修復の過程を模倣することが合理的な戦略であるといえる。このことは,サイトカイン療法・細胞治療法のいずれの開発研究においても共通した考え方となる。例えば,すでに歯周組織再生療法の医薬品として上市されている,遺伝子組み換えbFGFは,創傷治癒・血管新生・胚発生を制御するサイトカインである4)。また,中胚葉由来組織の発生起源となる間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSCs)5)を移植する基礎研究・臨床試験では,有望な歯周組織再生効果が多数報告されている。したがって,より有効なサイトカイン療法・細胞治療法の開発のためには,発生学等の基礎研究分野をより深く理解し,その知見を応用することも重要な方策の一つとなる。

3. サイトカイン療法の現状と展望

サイトカイン療法は,1970年代から80年代にかけて,遺伝子工学の技術が飛躍的に発展し,遺伝子組み換えタンパクを容易に作製可能になったことによって,医療分野で大きな期待を集めた。この流れにしたがい,歯周組織再生療法開発研究においても,多種のサイトカインが検討されてきた。たとえば,血小板から放出され組織創傷治癒を促進する血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor:PDGFG)のBBアイソフォーム(PDGF-BB)が,歯周組織再生を促進する可能性が示唆され6-8),βリン酸三カルシウム(β-tricalcium phosphate:β-TCP)とPDGF-BBを組み合わせた医療機器が米国で販売承認を受け,臨床応用されている。一方,本邦では,強力な血管新生・歯根膜細胞増殖促進効果を発揮するリコンビナントbFGFが,正確に設計された複数回の臨床治験を経て,歯周組織再生の医薬品として承認され臨床の場で利用されている9-11)。今後は,bFGFに骨補填材などを組み合わせることで,より予知性の高い歯周組織再生療法を開発する研究が進められると予想される。

上述のとおり,遺伝子組み換えbFGFが医療機器ではなく,医薬品として承認されていることは,サイトカイン療法開発研究が一つの大きな区切りを迎えたことを示す。しかし,歯周組織の恒常性維持には,bFGFに限らず,多様なサイトカインが関与する12)。したがって,bFGFとは異なる作用機序で,歯周組織再生療法に有効となるサイトカインが新たに同定される可能性は十分にありえる。

著者らの研究室では,歯の発生時期に,歯根膜腔相当部に多量に発現する脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)が,歯周組織再生療法として有効なサイトカインとなりうると仮説を立て基礎研究を実施してきた。動物実験レベルでは,ビーグル犬III級根分岐部欠損モデルに対して,アテロコラーゲンゲル,もしくはヒアルロン酸ゲルを担体としたBDNFの投与が,効果的な歯周組織再生を誘導した13,14)。この動物実験での成果を受け,BDNFによる歯周組織再生の分子メカニズムを調べるためのin vitro研究を行った。特に,神経系の研究から,BDNFに対して,その高親和受容体TrkBと低親和受容体p75が存在し,各々が特異的なシグナル伝達経路を活性化させ,細胞増殖・分化・アポトーシス等を制御していることが報告されていた15)。そこで,このTrkBシグナルとp75シグナルに注目しながら,歯周組織構成細胞に対するBDNFの影響を検討した。その結果,歯根膜細胞やセメント芽細胞,もしくは血管内皮細胞など歯周組織再構成に重要な役割をになう間葉系細胞群では,TrkB受容体を介したErk/Akシグナルが細胞増殖・硬組織形成・血管新生等を促進することが示された16-18)。さらに興味深いことに,これらの間葉系細胞群では役割が不明であったp75受容体が,外胚葉系である歯肉上皮細胞に高発現しており,BDNF刺激を受けるとp75-JNKシグナルがTrkB-Erk/Aktシグナルを阻害しながら,増殖抑制・アポトーシスを誘導することを見出した19)。これらの結果から,BDNFによる歯周組織再生メカニズムは,歯肉上皮細胞のダウングロースを抑制し,歯根膜細胞などの増殖・分化を活性化するという二面的効果によるものであると考えられた。

この,BDNFの細胞増殖に関わる二面的効果による歯周組織再生機序は,bFGFとは明らかに異なる。bFGFは歯肉上皮細胞に対しても細胞増殖促進効果があるが,それをはるかに上回る歯根膜細胞の増殖を誘導する20,21)ため,ロバストな歯周組織再生を達成する。このBDNFとbFGFの作用機序の違いから,各サイトカインには最適な適応症・投与方法があると考えられた。BDNFは歯肉上皮細胞に負の効果を発揮するため,scaling and root planing(SRP)のみで感染源除去が可能な小規模歯周組織欠損に対して,BDNFを直接投与することで歯肉上皮のダウングロースを抑制しながら歯周組織再生を達成できると考え実験を行った。その結果,ビーグル犬絹糸結紮歯周炎モデルにおいて,絹糸を除去しSRPを実施直後に,歯周ポケットからBDNFを直接投与したところ,SRPのみを行った群と比較して,長い上皮付着が生じず効果的な歯周組織再生が誘導された22)

このように,bFGFやBDNF等のサイトカインには,当然ながら,特有の受容体とそれが生じるシグナル伝達経路が各々存在する。BDNF以外にも,トランスフォーミング増殖因子(transforming growth factor:TGF),インスリン様増殖因子(insulin-like growth factor:IGF),増殖分化因子(growth differentiation factor:GDF)などの他のサイトカインも歯周組織再生療法における有効性が報告されているが23),これらbFGF以外のサイトカインについても,そのシグナル伝達経路を詳細に把握することで,新規的な歯周組織再生サイトカイン療法として応用される可能性が高い。たとえば,各種サイトカインを組み合わせることで,歯周組織再生のカスケードを最も効率的に活性化させる方法が挙げられる。あるいは,次世代シークエンサー技術の急速な発展に伴い,患者個人のゲノムを容易に解読可能な現在であれば,患者ごとの受容体・シグナル伝達経路の活性化パターンを事前に予測し,各人に最適なサイトカインを投与するテーラーメイド歯周組織再生療法が実現可能になるかもしれない。さらに,受容体・シグナル伝達経路の分子メカニズム解明研究によって,有望なシグナル伝達経路を活性化可能な低分子化合物が作製可能になる。このことは,サイトカイン療法のコスト低下を可能とする。実際に,著者らの研究グループでは,BDNFのTrkB結合部位を模倣する低分子化合物LM22A-4が,BDNFと同様にTrkB-Erkシグナルを介した細胞分化誘導効果を発揮することを報告している24)。p75受容体結合部位を模倣する低分子化合物も同定できれば,それらを組み合わせた安価な歯周組織再生療法が提供可能になるかもしれない。

以上のことから,今後のサイトカイン療法は,医薬品として承認されたbFGFを中心に展開していくと考えられるが,一方で,その他のサイトカインについての分子生物学的基礎研究を発展させ,新たなサイトカイン療法を模索し続けることが重要である。

4. 細胞治療の現状と展望

前述したように,組織傷害の規模が広範で,残存組織中の機能的な細胞数が絶対的に不足する非可逆的な状態に対して,生体外から細胞を供給する細胞治療法が必要となる。歯周炎患者の場合,1壁性骨欠損,III級根分岐病変,あるいは水平性骨欠損などが挙げられる。

歯周組織再生療法として供給するべき細胞は,セメント質―歯周靭帯―歯槽骨といった複数の組織を再構成可能な,多分化能を有した幹細胞が最適である。そこで,多分化能・自己増殖能を有するMSCsが骨髄から同定され25),その骨髄由来MSCs移植の歯周組織再生効果がビーグル犬を用いた大動物レベルで初めて報告されて以来26),MSCsを用いた歯周組織再生細胞療法の開発研究が世界中で加速した。実際に,この十数年というわずかの期間で,MSCsに関する重要な知見が数多く報告された。代表的なものとして,MSCsは多分化能のみならず,細胞保護・免疫制御能も有しており,この作用によって残存組織中の細胞機能制御を行うことが挙げられる27)。さらに,骨髄のみならず,脂肪や臍帯,もしくは骨膜などにも多分化能・自己増殖能の高いMSCsが存在し,それらが医療応用可能であることが示されたことによって,多くの研究者の注目を集めた。特に,2004年には,歯根膜からMSCsが分離・同定された28)。歯根膜由来MSCsは,歯周組織の起源となる細胞であるため,歯周組織再生細胞療法においては,その他の組織由来MSCsなどと比較してより適切な細胞ソースと期待できる。

このようなMSCsに関する多くの基礎研究の成果に基づき,国内外で,患者自身のMSCsを生体外で分離・拡大培養し,歯周組織欠損部に移植する臨床試験が複数行われている29)。特に本邦では,法令を遵守し,よく設計された研究計画に基づいた高品質な歯周組織再生細胞療法の臨床試験が多く実施されている。東京医科歯科大学の研究グループは,自己歯根膜幹細胞に細胞シート培養技術を応用した臨床試験によって,その安全性・有効性を示し30),現在では,ドナー由来歯根膜幹細胞を用いた同種他家移植の臨床試験を行っている。また,大阪大学では脂肪由来MSCsを,フィブリンゲルを担体とする自家移植の臨床試験が完遂されている。さらに,順天堂大学では自己脂肪由来MSCsと多血小板血漿を混和して移植する臨床試験が開始されている。その他,骨膜細胞シートの移植が新潟大学でも実施されてきている31)。bFGFのサイトカイン療法としての成功に続き,本邦の科学技術に基づいた,MSCsによる歯周組織再生細胞療法を実現する日が着実に近づいているといえる。

しかしながら,細胞療法に期待される治療効果は,極論すると,いかなる大規模歯周組織欠損に対しても決定的な組織再生を誘導するものである。また,どれほど高い治療効果を発揮する細胞療法が樹立されたとしても,経済的な妥当性が無くては社会実装することは難しい。さらに,実際の医療技術として利用するためには,高い予知性と,万全の安全性を有していることが欠かせない。すなわち,歯周組織再生細胞治療法を実現するためには,ヒトレベルでの安全性・有効性を評価する臨床試験と併行して,治療効果・経済性・予知性・安全性をより高めていくための基礎研究が必要といえる。

著者の所属する広島大学では,2000年代初期に,歯周炎患者の自己骨髄由来MSCsをアテロコラーゲンゲルに混和して移植する臨床試験を実施した。その結果,すべての被験者に有害事象は認められず,自己骨髄MSCs移植の安全性が示された。また,GTR法等の標準治療と同等以上の歯周組織再生効果が得られたが,III級根分岐部病変などの大規模欠損患者に対しては期待したほどの組織再生が生じなかった。そこで,骨髄MSCs移植の治療効果を向上させるために,足場材料の改善を考え,骨伝導能と吸収性のバランスに秀でたβ-TCPを併用し,ビーグル犬III級根分岐部欠損への移植実験を行った。期待した通り,β-TCPを用いたMSCs移植群において,移植4週間後という比較的早期に欠損部を満たす歯槽骨形成が得られた。しかし,新生骨内部にはβ-TCPが貯留し続け,一部には歯槽骨と歯根が癒着するアンキローシスが観察された32)。この結果は,β-TCPは,骨再生の足場として有効である一方,生体にとってやはり異物として認識されアンキローシス等の代謝異常の原因となる可能性を示唆していた。また,長期間残留するβ-TCPは,臨床的にみると感染源リスクといえる。

このような結果を受け,著者らは,MSCsを用いた歯周組織再生療法の治療効果を根本的に向上させるための基礎研究に立ち返ることとした。その治療効果向上のための方策の代表的なものが,新規バイオマテリアル開発研究である。特に,β-TCPよりもさらに吸収性に優れ,細胞接着・細胞保護効果が高く,サイトカイン(もしくは,ペプチド・低分子化合物・核酸)等の骨誘導因子を組み込んだバイオマテリアルの樹立を目指した研究は,再生医療分野において大きな存在感を示している。口腔領域では,炭酸アパタイトを主成分とする骨補填材(サイトランスグラニュール)等が上市され,臨床の場で優れた骨再生効果を発揮している。このバイオマテリアル開発研究については,優れた総説33,34)で詳説されているためそちらを参照されたい。

しかし著者らは,もう一つの治療効果改善のための方策として,人工足場材料を用いないScaffold-freeのMSCs移植療法開発研究を選択した。Scaffold-freeの利点は,人工材料の吸収等の問題を回避できることに加えて,細胞の生理活性に重要な細胞間接着や,細胞―細胞外基質(Extracellular matrix:ECM)の結合を適切に保持した状態でMSCsを移植できることである。Scaffold-free移植の代表的なものとして,細胞シートや35),おもに細胞間接着力によって構築される細胞スフェロイドなど36)が多く研究されていたが,さらなる改良策として著者らは,3次元的間葉系幹細胞集塊Clumps of MSCs/ECM complexes(C-MSCs)を独自に開発した。

直径1 mmほどの立体的細胞集塊であるC-MSCsは,MSCsと細胞自身が産生したECMから構築され,人工足場材料を用いることなく実質欠損部に直接移植できる37)。直径1 mmの細胞塊を複数個組み合わせることで,いかなる形態の欠損部に対しても,過不足のない正確な細胞の移植が出来ることは一つの特徴といえる。また,人工足場材料の吸収の過程が不要となるため,C-MSCsの移植は,人工材料を担体としたMSCs移植よりも速やかな硬組織再形成を達成する37)。また,移植前の培養条件によって,C-MSCsにおけるCOL1等のECM産生量を増加させておくことで,より高い骨・歯周組織再生効果を発揮させられることをラット頭蓋冠欠損モデル・ビーグル犬III級根分岐部歯周組織欠損モデルに対する移植実験から明らかにした37,38)。これらの動物実験での成功を受け,ヒトC-MSCsの臨床応用を想定し,異種動物タンパク不含・血清不含のXeno-free/Serum-free条件でヒト骨髄由来MSCsからC-MSCsを作製し,免疫不全SCIDマウス頭蓋冠欠損モデルに対する移植実験を行った39)。ヒトC-MSCsの骨欠損部への移植は,予想した通り効果的な骨再生を誘導した。その組織再生形成過程における移植されたヒト細胞と宿主のマウス細胞の振る舞いを観察するために,ヒトVimentin特異抗体を用いた免疫染色を行ったところ,移植されたヒト細胞は,デンドライトな突起を有する骨細胞にまで分化し,宿主のマウス細胞由来骨細胞と互いにネットワーク形成をしながら新生骨を形成していることが確認された。さらにその新生骨を長期間観察したところ,移植されたヒト細胞は次第に消失していき,宿主マウス由来の骨細胞のみとなった。また,ヒトC-MSCsを形作っていたCOL1タンパクが,骨再構築の足場となっていることも観察された。以上のことから,ヒトC-MSCsの移植は,従来の人工足場材料を用いたMSCs移植とは異なる,ユニークかつ効果的な歯周組織再生が達成できると考えられ,現在,ヒトレベルでの安全性・有効性を検証する臨床試験を計画中である。

この3次元細胞集塊培養技術は,治療効果のみならず,再生医療の実現に向けて様々な長所を有している。例えば,C-MSCsはその形態や細胞活性を損なわずに凍結保存可能であり,実際に,液体窒素タンクにて6か月間の凍結保存を経たC-MSCsの移植が,凍結保存をされていない通常のC-MSCsと同等の骨再生を促進することを,ラットを用いた実験で示した40)。さらに,IFN-γ刺激を受けたMSCsは免疫調節酵素IDOの発現を高め,免疫抑制を行う41)という性質を応用し,IFN-γ前処理したヒトC-MSCsを作製(C-MSCs-γ)したところ,C-MSCs-γはヒトT細胞の活性化を抑制し,さらにマウス頭蓋冠欠損モデルへの異種移植において,移植拒絶を逃れながら骨再生を促進することを見出した42)。このように,凍結保存可能であり,免疫制御能を向上させ移植拒絶を回避することができる細胞集塊C-MSCsは,ドナー由来のMSCsから事前にC-MSCsとして加工・備蓄し,患者必要時に迅速に提供可能な細胞製剤としての提供可能性を示唆したといえる。このC-MSCs細胞製剤化によって,細胞加工に関わる品質管理検査を十分に実施可能となり,培養期間・コストの縮小にもつながる。また,加齢や遺伝子疾患などの原因でMSCsの機能そのものが低下している患者にも適応可能な再生医療となりえる。今後は,細胞製剤化に向けてどのような組織由来のMSCsからC-MSCsを備蓄していくかが次の研究課題となる。その細胞ソースについては,廃棄資源となりやすい脂肪や臍帯が骨髄と比べて利用しやすい。また,組織恒常性の観点からは,歯根膜由来幹細胞を備蓄することが歯周組織再生療法に有効となりえる。さらに,近年では,iPS細胞やES細胞などからあらゆる細胞が手に入れられる。理論的には,歯周組織,さらには歯根膜細胞の起源となる神経堤細胞由来MSCsを用いた細胞治療も実現可能といえる。未分化細胞を確実に取り除く検査法・誘導法が樹立されれば,これら多能性細胞由来MSCsも有効な細胞ソースとなりえる。この多能性細胞からの細胞供給の概念については,2018年のDr.Zhaoと2020年のDr.Ouchiの総説43,44)が詳しいので,これらの細胞研究に取り組む前には一読されたい。

従来の二次元培養と異なり,C-MSCsは浮遊培養される3次元的な細胞塊であるため,これまで報告されているMSCsの基本性質とは大きく異なることが予想された。そこで,場の硬さなど,細胞周囲の微小環境の状態を感知し,生化学信号として伝達するメカノシグナルトランスダクションに焦点をあて,C-MSCsの多分化能や細胞保護因子分泌能についての解析を行った。その結果,浮遊立体培養は,プラスチック培養皿上の二次元状態とは異なり,1)場の硬さに応答するYAP/TAZメカノシグナルが抑制され,脂肪・軟骨分化運命に向かいやすいこと45),2)培養条件によってはC-MSCsのCOL1産生を向上させ,ECMの硬化によるYAP/TAZメカノシグナルを活性化させ,それに伴った骨分化運命に誘導させられること45),3)浮遊状態になるとp38/JNK-c-fos-COX2シグナルカスケードによるPGE2産生が亢進し,これが細胞保護作用を発揮すること46),を明らかにした。現在,1)と2)の知見を応用し,ゲル包埋培養等を併用することでC-MSCs周囲の硬さ調節とYAP/TAZ制御を行い,生体外で,C-MSCsを骨様組織そのものにまで誘導することに取り組んでいる。生体外で骨様組織が作製可能性になれば,自家骨移植に相当する細胞加工製品が提供可能になるため,歯周組織再生療法の有効性がますます高まると期待している。また,3)の知見については,細胞加工施設から患者への出荷判定に用いる品質管理マーカーの一つとして利用することを検討している。

以上のことから,MSCsを用いた歯周組織再生細胞療法は,2000年代初期と比較して明らかに実現味を帯びてきているが,細胞治療に期待される治療目標は極めて困難なケースが想定されるため,治療効果・安全性・予知性・コスト等の改善させる基礎研究が不可欠である。

5. まとめ

歯周組織再生療法として,サイトカイン療法と細胞治療法の二つが注目を集めているが,これらの適応症やその開発段階は明らかに異なる。サイトカイン療法は,医薬品として承認されたbFGFを中心として,さらに適応拡大やコスト低下,その他技術との併用療法開発が進むと予想される。ただし,その他のサイトカインについて,徹底的な分子生物学的レベルでの理解を深めることで,bFGFとは異なる作用機序の,異なる適応症をもったサイトカイン療法が実現する可能性がある。

細胞治療は,これまでに有効な治療法のない重度歯周炎患者に対する決定的な解決策として期待できる。一方で,細胞加工製品を医薬品として提供するためには,安全性・品質管理が化合物と比較して極めて難しい。大きな困難をともなうが,正確な臨床試験を地道に重ねていくしかない。さらに,その臨床試験の結果を冷静に分析し,さらなる改良法を提供する基礎研究をつねに伴走させていく必要があると考えられる。

今後,歯周病学を専門とする多くの研究者が一丸となり,世界に先駆けた革新的歯周組織再生療法を実現する日を期待している。

謝辞

稿を終えるにあたり,再生医療研究の基礎から臨床まで広い視野でご指導いただきました栗原英見名誉教授に心から感謝いたします。また,大学院生時代から,基礎研究の素晴らしさを学ばせていただいた柴秀樹教授に深く御礼申し上げます。また,本研究の遂行にあたり,広島大学大学院医系科学研究科歯周病態学研究室の皆様には,多大なご支援を賜りました。特に,サイトカイン療法研究は,武田克浩講師,佐々木慎也助教,松田真司助教の,細胞治療研究に関しては河口浩之教授の,独創的な研究成果とそれに基づくご助言の賜物です。さらに,サイトカイン療法研究は柏井圭博士に,細胞治療研究は,橘高瑞穂博士,竹下慶博士,竹脇学博士,小松奈央博士,本池総太博士の尽力のもと進めることができました。ここに感謝の意を表します。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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