Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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ISSN-L : 0385-0110
Original Work
Characteristics of Aerosols Generated from an Ultrasonic Scaling Device and Prevention of Diffusion by Intra- and Extraoral Suction Devices
Naoki TakahashiTakayuki YamagataShuhei MineoKota KatoKoichi Tabeta
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2021 Volume 63 Issue 4 Pages 171-182

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要旨

世界中で猛威を振い続ける新型コロナウイルスの感染経路のひとつにエアロゾル感染がある。歯周治療で頻用される超音波スケーラーから発生するエアロゾルが交差感染のリスクとして懸念されているが,そのエアロゾル特性については十分に知られていない。本研究の目的は,微粒子可視化システムを用いた流体工学的検討と,感水試験紙およびパーティクルカウンターを用いた模擬臨床試験から,超音波スケーラーから発生するエアロゾル特性およびエアロゾル感染予防策を検討することである。流体工学的検討から,超音波スケーラーから発生するエアロゾルの平均粒子径は約40 μmで,液滴速度が3 m/sであった。また感水試験紙を用いた模擬臨床試験から,超音波スケーラーの向きによるエアロゾルの飛散距離の違いが観察された。パーティクルカウンターを用いた解析において,1-10 μmの粒径のエアロゾル飛散量は距離とともに減少し,口腔内外バキュームの使用によりエアロゾル量が大幅に減少することが確認された。これらのことから,超音波スケーラーから様々な粒子径のエアロゾルが発生するが,吸引装置の適切な使用によって超音波スケーラーから発生するエアロゾルを介した交差感染リスクを抑制できる可能性が示唆された。

緒言

2021年6月現在,世界の新型コロナウイルス(COVID-19)の累計感染者数は1.7億人を超え,死者数も増加の一途を辿る1)。その感染経路として飛沫感染および接触感染に加え,特定の条件下で空気中を浮遊したウイルスが感染を媒介するエアロゾル感染が知られる2)。エアロゾルの定義は統一されていないが,日本エアロゾル学会においては気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体を指し,その粒径は広範囲にわたる。中でも,細菌やウイルスなどの生物学的粒子を含むそれらはバイオエアロゾルと呼ばれ,結核や麻疹,水痘などでの感染経路となることが知られる3)

歯科治療で日常的に使用される超音波スケーラーや高速エアタービンは大量のエアロゾルを生成しており,患者の血液や唾液,デンタルプラークと混合されることでバイオエアロゾルとして空気中を伝播し,交差感染のリスクを増大させることが危惧される2,4,5)。なかでも,超音波スケーラーは歯石除去や歯周ポケット内イリゲーションなどの歯周治療のみならず,根管内洗浄や仮封材除去など,歯科治療全般において汎用されているが,超音波スケーラーから発生するエアロゾルの特性に関する詳細は明らかとなっていない。

エアロゾルはその粒子径の細かさから目視が困難であるが,光学技術を利用することで微粒子の可視化およびその微粒子の特性の解析が可能となる。Particle Image Velocimetry(PIV)法はNd:YAGパルスレーザーと高速度カメラを用いた微粒子の動態計測技術のひとつである。シート状のレーザー光を標的とする微粒子へ照射し,その散乱光を高速度カメラにて短い時間間隔で連続撮影後,得られた画像間における粒子の移動量を計算することで微粒子の移動方向や速度を計測する方法である。また,シャドウグラフ法は液滴径計測において頻用される微粒子可視化技術のひとつである。背景方向からの投影光による液滴の影を高速度カメラにて撮影し,画像解析処理によって標的とする微粒子の粒子径を測定するものである。これらの光学的微粒子可視化技術を用いたエアロゾルの解析の有用性が報告されているが6,7),歯科領域で発生するエアロゾルにおいてこれらを用いた詳細な検討は行われていない。

そこで本研究の目的は,微粒子可視化システムを用いた流体工学的検討と感水試験紙およびパーティクルカウンターを用いた模擬臨床検討から,超音波スケーラーから発生するエアロゾル特性(粒径や拡散方向,距離)を評価し,口腔内外吸引装置によるエアロゾル拡散防止効果を検討することである。

材料と方法

1. 流体工学的検討

1.1. PIV法

超音波スケーラー(Suprasson P-Max,Satelec,France),スプラソンチップ#1,高速度カメラ(MotionProY4,Integrated Design Tools,Inc.,USA),Nd:YAGパルスレーザー(EverGreen,LUMIBIRD,France),スモークマシンを用い,超音波スケーラーから発生するエアロゾルの流速測定を行った(図1a)。超音波スケーラーチップの先端が右向きになるように固定し,一定の注水量下(0.38 mL/s)にて,出力条件は4段階(Power:4,6,8,10)で測定を行った。流れのトレーサーには,スケーラーから発生する液滴を用いるが,PIV解析における測定精度の向上を目的としてオイルスモークを供給した。計測は撮影領域40×40 mm2,解像度1016×1016 pixels,周期0.1秒,撮影枚数1000枚500セットで行った。画像の撮影間隔は平均的な粒子の移動量が5 pixel程度になるように気流速度に合わせて60-600 μsで設定した。ターゲットとする粒子の移動量算出には画像相関法を用い,得られた各時刻での速度ベクトルの平均を解析結果とした。

図1

流体工学的解析の模式図

(a)PIV法,(b)シャドウグラフ法

1.2. シャドウグラフ法

高速度カメラおよびメタルハライドランプを用いて微粒子の影を撮影することで,超音波スケーラーから発生するエアロゾルの粒径測定を行った(図1b)。解像度は1016×1016 pixels,撮影領域は3 mm×3 mmで,検出可能な液滴の最小直径は約3 μmとした。フレームレートは60 fpsで計測毎に3000枚撮影し,約50000個の液滴を解析対象とした。液滴径の評価はFujisawaらの手法を参考にし,メディアンフィルタによって画像ノイズを除去後,被写界深度内に存在する液滴を抽出してその粒径を画像解析にて計測した6)。液滴径計測は撮影領域の中心からスケーラーチップから離れる方向に10,20,30,40,50,100,150,200 mmの各点で測定した。また口腔外バキューム(Free-100 Plus,株式会社フォレスト・ワン,千葉)は付属のO型フードを装着し,スケーラーチップの先端から水平方向に75 mm,垂直方向に50 mmの位置に設置し,超音波スケーラー開始と同時に作動させ30秒後に停止させた。

2. 臨床学的検討

2.1. 感水試験紙実験

感水試験紙(Water-sensitive paper,Syngenta,Switzerland)を用いて,飛散液滴量を測定した。歯科用ユニットを水平位にした状態で,マネキン(シンプルマネキンIII,株式会社ニッシン,京都)および顎模型(実習用顎模型,株式会社ニッシン,京都)を装着し実験に供した。感水試験紙はピンセットを用いて地面に対して垂直に把持し,測定高さは超音波スケーラーチップの位置と同じ(地面から70 cm)とした。測定距離は超音波スケーラーチップから10,20,30 cmとし,測定方向は3,6,9,12時および垂直方向とした(図2a)。超音波スケーラーにスプラソンチップ#1を装着し,使用条件はスケーラーモードで最大出力とした。顎模型上の下顎前歯(33-43)頬側歯頚部を30秒間注水下にて3往復させた後の感水試験紙上の感水面積を計測した。スケーラー使用者と口腔内バキューム保持者は同一人が担当し,条件ごとでの手技に差異が無いように留意した。感水試験紙の乾燥後,スキャンにて画像データを取得した。画像解析は画像処理ソフトウェア(ImageJ,National Institute of Health,USA)を用い,全画像データにおいて同一の輝度閾値を用いて2値化処理を行い,感水部位の面積を計測した。口腔内バキュームはバキュームチップの先を頬側歯肉に軽く触れるように位置し,吸入口はスケーラーチップから飛散する液滴を吸引できる向きとした。スケーラーチップの動きに合わせて下顎前歯部頬側を3往復させた。また口腔外バキュームは付属のO型フードを装着し,術部から左前上方に20 cmの位置に45度の角度で設置し,超音波スケーラー開始と同時に作動させ30秒後に停止させた(図2b)。各条件において3回ずつ測定した。

図2

模擬臨床的解析の測定条件

(a)測定距離は超音波スケーラーチップから10,20,30 cm,測定方向は3,6,9,12時および垂直方向とした。(b)口腔内外バキュームは術部である下顎前歯部から左前上方に20 cmの位置に45度の角度で設置した。(c)測定方向は9時方向のみで,測定距離は超音波スケーラーチップから,30,60,120 cmとした。

2.2. パーティクルカウンター実験

パーティクルカウンター(Model 8306,Particles Plus,Inc.,USA)を用いて飛散微粒子数を測定した。歯科用ユニットおよびマネキンは前述の感水試験紙を用いた実験と同じものを使用した。測定高さは超音波スケーラーチップの位置と同じ(地面から70 cm)とし,測定距離は超音波スケーラーチップの位置から30,60,120 cmとし,測定方向は前述の感水試験紙を用いた実験で最も飛散を認めた9時方向とした(図2c)。使用した超音波スケーラーおよび実験条件は,前述の感水試験紙を用いた実験と同じとした。測定時間に関しては,空気中に飛散した微粒子の浮遊時間を考慮し,チップ使用後の30秒間を加えた計60秒間とした。各条件において5回ずつ測定した。

3. 統計解析

統計解析ソフトウェア(GraphPad Prism8,GraphPad Software Inc.,USA)を用いて,One-way ANOVAおよびKruskal-Wallis testにて,p値0.05以下を有意差ありとした。

結果

1. 流体工学的解析

1.1. PIV法(図3

液滴の飛散起点はスケーラーチップの屈曲部からやや下方で,飛散方向はスケーラーチップの右方向であることが観察された。液滴速度はいずれの出力でも大部分が約2 m/sで,出力8,10では最大で約3 m/sであった。

図3

PIV法における出力の違いによる検討

x:スケーラーチップ先端を基点とした水平方向の距離(mm),y:スケーラーチップ先端を基点とした垂直方向の距離(mm),Vm:液滴速度(m/s)

1.2. シャドウグラフ法(図4,図5

口腔外バキュームの有無による比較画像において,口腔外バキュームの使用によって小粒径の液滴数が著しく減少することが確認された。各計測位置での液滴径分布解析から,粒径が約25 μmの液滴数が最も多く,9 μm以下の液滴数は著しく減少した。スケーラーチップ先端からの距離が10 mm(x = 10 mm)以上から口腔外バキュームの使用によって各サイズの粒子数が減少し,x = 50 mmにおいてほぼ全ての粒径において粒子数が顕著に減少した。

図4

口腔外バキューム有無による飛散粒子の比較画像

(a)口腔外バキューム有り,(b)口腔外バキューム無し

図5

シャドウグラフ法における各粒径の数分布

(a)x=0 mm,(b)x=10 mm,(c)x=20 mm,(d)x=30 mm,(e)x=40 mm,(f)x=50 mm,x:超音波スケーラーから測定部位までの距離,f:各距離における吸引装置未使用時の総液滴数で各径の液滴数を除したもの,dp:発生したエアロゾルの粒径(μm)

2. 感水試験紙による模擬臨床検討

2.1. 距離および方向の違いによる感水面積の比較検討(図6a

3,6,9,12時および垂直方向の全ての方向においてエアロゾルの飛散が認められた。飛散量に関しては,9時方向への飛散が顕著であり,6時方向,3時方向,12時方向の順に減少し,垂直方向への飛散も12時方向と同程度であった。また距離とともに飛散量は有意に減少した。

図6

感水試験紙を用いた模擬臨床的検討

(a)各測定方向(3時,6時,9時,12時,垂直方向)において,横軸に超音波スケーラーから感水試験紙との距離(cm),縦軸に感水試験紙上の感水面積(cm2)を示す。(N=3/群,p<0.05,p<0.01)(b)各距離(10,20,30 cm)において,横軸に超音波スケーラー使用時における実験条件(口腔内バキューム,口腔外バキュームの有無),縦軸に感水試験紙上の感水面積(cm2)を示す。(N=3/群,p<0.05,p<0.01)右には各条件における代表的な感水試験紙の画像を示す。

2.2. 吸引装置の有無による感水面積の比較検討(図6b

最も飛散が認められた9時方向に関して,10 cmの位置では口腔内バキュームの使用により著しく感水面積が減少し,口腔外バキュームの併用によってさらに感水面積が減少した。距離20 cmおよび30 cmにおいても同様の傾向が認められた。

3. パーティクルカウンターを用いた微小粒子飛散特性の模擬臨床検討

3.1. 各粒子径における距離の違いによる累計粒子数の比較検討(図7a

距離30 cmにおいて,超音波スケーラー使用によって1-10 μmの全粒子径の累計粒子数の有意な増加を認めた。1,2.5 μmの粒子径においては距離120 cmで累計粒子数はベースラインと同レベルであり,5,10 μmの粒子径は距離60 cmおよび120 cmにおいてベースラインと同レベルであった。

図7

パーティクルカウンターを用いた模擬臨床的検討

(a)各粒子径(●:1,■:2.5,▲:5,▼:10 μm)において,横軸に超音波スケーラーから測定器までの距離(cm)および超音波スケーラー使用の有無,縦軸に累計粒子数を示す。(N=5/群,**p<0.01 vs 距離30 cmにおける超音波スケーラー使用無)(b)超音波スケーラーチップからの各距離において,横軸に実験条件(スケーラー,口腔内バキューム,口腔外バキュームの有無),縦軸に累計粒子数を示す。(N=5/群,p<0.05,**p<0.01 vs 距離30 cmにおける超音波スケーラー使用無もしくは標記した群間において)

3.2. 吸引装置の有無による累計粒子数の比較検討(図7b

距離30 cmにおいて,超音波スケーラー使用によって増加した累計粒子数は,口腔内バキューム単独および口腔外バキューム併用にて全ての粒子径で有意な減少を認めた。距離60 cmにおいても,超音波スケーラー使用によって増加した粒子径1および2.5 μmの累計粒子数は,口腔内バキューム単独もしくは口腔外バキューム併用によってベースラインと同じレベルまで下がることが確認された。一方で,距離120 cmにおいてはどの粒子径においても超音波スケーラーの使用による累計粒子数の変化は確認されなかった。

考察

本研究においては歯科治療で頻用される超音波スケーラーから発生するエアロゾルの特性(粒径や拡散方向,距離)と吸引装置の有効性について検討を行った。超音波スケーラーからは多様な粒子径のエアロゾルが発生しており,その飛散方向・飛散距離が明らかとなるとともに,吸引装置の有効性が確認された。

1. シャドウグラフ法およびPIV法による流体工学的検討

シャドウグラフ法による液滴径計測にて,超音波スケーラーから発生するエアロゾルの平均粒径は約40 μmであることが確認された(図5)。超音波振動で発生する液滴径は,ラングの実験式で算出できることが報告されており8),液体の密度と表面張力,超音波の周波数を本実験で用いた条件で算出すると液滴径43 μmであった。これは本実験におけるシャドウグラフ法で計測された平均粒径とほぼ一致しており,ラングの実験式は超音波スケーラーにおいても適用可能であることが初めて確認された。

PIV法においては,発生する液滴速度や飛散方向が超音波スケーラーの出力に依存することが確認された(図3)。本研究では実験の仕様から地面に対して垂直な一平面上のみの狭い範囲での検討であるが,松吉らは超音波スケーラーの注水液に染色液を混和させた模擬臨床的検討において,水平面方向においても機器の出力に依存して飛沫が拡がることを報告している9)。したがってチェアサイドにおいては,エアロゾル飛散を抑制するために超音波スケーラーの出力を必要最小限とすることが有用であることが示唆された。

2. 感水試験紙を用いた模擬臨床的検討

本実験では,9時方向への飛散が顕著であり,6時方向,3時方向,12時方向の順に減少した(図6a)。超音波スケーラーによるエアロゾルの飛散方向はチップ先端の向きに依存することが知られており10),本実験において9時方向への飛散が顕著であったのはチップ先端の向きを反映した結果と考えられる。また,本研究から口腔内バキュームの単独使用においても飛散量の顕著な減少が確認された(図6b)。口腔内バキューム使用によるエアロゾル飛散量低下は既に報告されており11),エアロゾル感染予防における口腔内バキュームの適正使用も有効と考えられる。

感水試験紙以外の方法で,歯科治療で発生するエアロゾルを検出する試みもこれまで報告されており,臨床研究では血液に反応するルミノール試験薬12)やロイコマラカイトグリーン法13)が用いられている。また模型を用いた研究では,注水液中に蛍光色素を混和し飛散させてフィルターペーパーで捕捉して画像解析する方法14)やフィルターペーパーから蛍光色素を溶出させてその蛍光強度を計測する方法が報告されている15)。またクエン酸を注水液に加えて飛散させ,クエン酸に反応して色調変化する試験紙を用いて画像解析により解析する手法も報告される16)。しかしながら,血液反応試薬を用いる実験系は体液の飛散に伴う術者への感染リスクがあり,また注水液にトレーサー溶液を混和する実験系は機器や計測室を汚染する可能性が高い。感水試験紙はパーティクルカウンターなどと比較して廉価で使用方法が簡易で,かつ特殊なトレーサー溶液を必要としないため,エアロゾルの飛散方向や距離を大まかに知るスクリーン目的として有用と考えられる。

3. パーティクルカウンターを用いたエアロゾル液滴径と飛散距離の検討

超音波スケーラーから発生するエアロゾルの粒子径に関して,本実験結果から粒径1-10 μmの極めて小さい液滴が含まれることが確認され(図7),Nultyらのパーティクルカウンターを用いた同様の研究と結果が一致した5)。しかしながら本研究における流体工学的検討から,飛散するエアロゾル中における粒径1-10 μmの液滴が占める割合は極めて低く,粒径25-75 μmの液滴がその大半であることが明らかとなった(図5)。

超音波スケーラーから発生するエアロゾル飛散距離に関しては,本実験結果から粒径1-10 μmの液滴はチップ先端から最大60 cmと考えられる(図7)。この結果は,本研究における感水試験紙を用いた解析における最大30 cmという結果と矛盾があるが(図6),これは感水試験紙自体の検出限界(50 μm)によるものと考えられる。エアロゾルの飛散距離についてはこれまでの報告ごとに異なっており,統一の見解は得られていない。一般的に,温度や湿度,空調設備による気流の流れなど,計測環境によって飛散する微粒子の挙動が大きく変化することが報告されていることから17),計測環境がより厳密にコントロールされた状況での検討が今後必要である。

4. バイオエアロゾル中における微生物の評価方法

本研究において,超音波スケーラーから発生するエアロゾルに対する吸引装置の有効性を示したものの,ウイルスなどの病原微生物を含むバイオエアロゾルでの検討は行えていない。Innesらが報告した歯科のエアロゾル研究についてのシステマティックレビューにおいて,83報のエアロゾル研究のなかで半数以上が大気の収集やスワブ採取,寒天培地静置等によって微生物の有無を評価することでバイオエアロゾルの検討を実施している18)。興味深いことに,それらの報告の大半が細菌を対象とした解析であり,ウイルスを対象とした報告は2報しかない。いずれもB型肝炎ウイルスを対象としたものであり,新型コロナウイルスをはじめとする呼吸器感染症ウイルスでの報告は皆無である。浮遊粒子数と浮遊微生物数に高い相関があることが報告されていることから19),細菌学的評価や本研究で用いたパーティクルカウンターによる浮遊粒子数の測定は,ウイルスの挙動を計る根拠としては有用と思われる。しかしながら,現時点では歯科におけるエアロゾル研究において新型コロナウイルスに関する直接的なエビデンスは無いことは留意すべき点であり,この点については今後更なる検討が待たれる。

5. 歯科におけるエアロゾル感染対策

本研究結果から,超音波スケーラーから発生するエアロゾルに対する口腔内外バキューム使用の有効性が示唆された。歯科治療時に発生するエアロゾルに対する予防策を総覧的に比較したコクランレビューによると,16報(対象年齢:5-69歳,425名)の結果から歯科治療時に発生するエアロゾルに対する吸引装置の有効性が報告されている20)。しかしながら,超音波スケーラーや吸引装置の機種による性能の違いや,スケーラーチップの形や注水口の位置によって発生するエアロゾルの挙動が異なることが知られている15)。本研究においても特定の機種における解析に留まっており,今後は機種やチップの種類の違いによる比較検討が必要であろう。口腔外バキューム装置は大別するとセントラル式と移動式があり,一般的にセントラル式は移動式と比較して吸引力が強く,診療室外に吸気を直接排出できるため安全性が高いことが知られる。しかしながら,導入時に大規模な配管工事が必要となることや,移動ができないため診療台ごとに口腔外バキュームを設置する必要があることは留意すべき点であろう。

口腔外バキュームの適切な設置位置に関しては,歯牙切削時に生じる飛散粉塵の除去効果を検討した模擬臨床報告において,切削点の直上に口腔外バキュームを位置させ,吸入口を床平面に水平にすることが最も効果的に除塵できることが示されている21)。また,歯科技工時における吸引装置の位置による除塵効果を比較した報告から,作業部に対して吸入方向が水平より垂直,すなわち吸入口が作業部の直上にある方が除塵効果が高いことが示されている22,23)。さらに,口腔外バキュームの適切な設置距離に関しては,エアロゾル発生部との距離が近い方が大気への飛散細菌数が少ないことが知られている24)。これらのことから,口腔外バキュームの適切な設置位置に関しては,術部の直上にできるだけ近づけて設置することが最も効果的である。しかしながら,本研究で示したようにスケーラーチップ先端の向きによって液滴飛散方向に差があることや(図6a),チェアサイドにおいて術部の直上に吸入口が位置することによる視認性低下の観点から,処置において支障ない範囲で適宜設置位置を変更しながらの使用が望ましいと考えられる。

チェアサイドにおけるエアロゾル感染対策としては,口腔内外吸引装置の使用に加え,病原微生物を含むバイオエアロゾルの発生自体を最小限とすることも効果的な感染予防策と考えられる。そのひとつとして,歯科治療前の洗口剤による含嗽が挙げられ,その有効性もこれまでに報告されている24,25)。また,エアタービンや超音波スケーラーに比較してEr:YAGレーザーから発生するエアロゾル産生量が少ないことも報告されており26),症例ケースに合わせた代替器具の使用も感染対策に重要と考えられる。また,特定の環境下での偶発的飛散による感染リスクの可能性もあることから,適切な治療前問診によってリスク管理を実施した上で治療にあたることも必要である。これら多角的なアプローチを講じることでより効果的なエアロゾル感染予防が可能となると考えられる。

結論

流体工学的および模擬臨床的に検討された超音波スケーラーから発生するエアロゾル特性において,口腔内外吸引装置の併用がエアロゾル拡散を効果的に抑制する。

謝辞

本実験の遂行にあたり,実験環境および機器の整備にご尽力いただいた小野高裕教授,堀一浩准教授(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 包括歯科補綴学分野)および藤井規孝教授(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 歯科臨床教育学分野),小林哲夫病院教授(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 歯科臨床教育学分野),異分野融合研究においてのマッチングにご協力をいただいた上松和義先生(新潟大学地域創生推進機構 産学官連携リサーチ・コーディネーター)にこの場を借りて感謝申し上げます。本研究は,新潟大学研究推進機構の新潟大学U-goグラントの助成を受けて行われました。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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