Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
Mini Review
Consideration of Soft Tissue in Natural Teeth and Implants
Junichi Tatsumi
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2022 Volume 64 Issue 4 Pages 116-120

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要旨

近年,インプラント治療後の併発症の1つである,インプラント周囲炎のリスク因子や治療法について様々な研究が報告されてきている。その中でインプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎は2018年のEFPとAAPの新分類により,プラークバイオフィルムの感染症であると定義された。そこで,このインプラント周囲疾患の発症を予防するうえで,プラークバイオフィルムによる感染をいかに防ぐかという観点から,天然歯とインプラント周囲組織を比較し,特に周囲軟組織に着目し現在対応可能な疾患発症予防方法について考えた。

Abstract

In recent years, various risk factors and treatments for peri-implantitis, one of the most common complications after implant treatment, have been studied. Peri-implant mucositis or peri-implantitis is defined as infection of the plaque biofilm according to the new classification of EFP and AAP published in 2018. In order to prevent the development of peri-implant diseases, we would like to compare natural teeth and peri-implant tissues, especially focusing on peri-implant soft tissues, and consider methods to prevent these diseases that can be applied today.

はじめに

インプラントは歯槽骨,口腔粘膜を介し,口腔内に露出している構造体である。その概観は歯と近似しているが,貫通している物質はチタンあるいはチタン合金等であり,骨と強固に接合しているが,周囲軟組織との接合はヘミデスモゾーム結合という脆弱な結合しか存在しない。一方で,2018年にEFP & AAPにより定義されたインプラント周囲粘膜炎,インプラント周囲炎では,「プラークバイオフィルムによる感染症」であることが明確化された。インプラント周囲粘膜炎や周囲炎の発症を防ぐうえで,現在のインプラントシステムが持つ,プラークバイオフィルム形成に対する脆弱性は今後克服すべき問題点と考える。

そこで,Mathewら1)はインプラント周囲に天然歯同様人工的に歯根膜様組織を形成することを試み結合組織性付着を獲得しようとしている。また,Chenら2)はインプラント体に抗菌性を持たせることを試み,プラークバイオフィルムの形成を抑制する方法を検討している。さらには周囲軟組織の安定性をより向上させる手法等様々な工夫が検討されつつある。しかし,口腔内で機能するインプラントがおかれる環境は複雑で解決すべき問題点はまだ多い。そこで,周囲軟組織とインプラント界面の脆弱性を改善するために現時点で対応可能な改善方法について,天然歯およびその周囲組織との比較から,特にインプラント周囲粘膜の非可動性を獲得する意義についてまとめた。

1. 天然歯周囲角化歯肉とインプラント周囲角化粘膜の臨床的意義

天然歯における周囲角化組織については,以前から多くの臨床家が研究している。そのうちLöeら3)は,メインテナンス中に,付着歯肉幅がどれだけあれば健康な状態を維持することができるかを目的に調査した。プラークが全く付着していない部位では,2 mm未満の角化歯肉であっても炎症所見は認めないが,清掃性に問題のある部位では炎症を認めたと報告している。同様にWennströmら4)も歯周治療後の付着歯肉幅がその後の歯周組織の健康状態にどのように影響するかを調査し,その結果プラークコントロールが良好な患者では歯周組織に炎症は起こらず健康な状態を維持していたと報告している。つまり,歯周組織における周囲角化歯肉は,プラークコントロールのし易さに影響をおよぼすが,角化歯肉がなければ歯周組織の健康が得られないわけではない。これに対し,インプラント周囲組織において角化粘膜の必要性についてはいまだ議論の余地があると考えられている。そこで本ミニレビューでは,天然歯とインプラント周囲組織における角化組織の存在について,考察したい。

インプラント周囲角化組織の存在が周囲組織の健康状態とどのように関係しているかについては2000年代に入り,多くの報告がなされるようになってきた。Chungら5)はインプラント周囲組織の健康状態を維持するためには,インプラント周囲に角化粘膜が必要であるかどうかを339本のインプラントを対象に3年間追跡調査を実施した。その結果,特に臼歯部のインプラント周囲組織では角化歯肉が存在しないとプラークコントロールが困難となり,その結果として炎症が起きやすくなることが明らかになったが,インプラント周囲骨組織の吸収とは相関していなかったと報告している。また,Bouriら6)は,76名の患者(インプラント200本)で最低12カ月以上経過した症例を対象に調査し,Group A(≥ 2 mm の角化粘膜幅を有する110本,平均経過年数4.1年)とGroup B(< 2 mm の角化粘膜幅を有する90本,平均経過年数4.9年)を比較した結果,インプラント周囲の角化粘膜の幅は,周囲骨吸収量と軟組織の健康に影響をおよぼすことを示唆し,インプラント周囲には2 mm程度の角化粘膜幅が必要ではないかと結論付けている。さらに,Linら7)は,インプラント周囲組織の健康状態を維持するためにどの程度の角化粘膜(KM)幅が必要かどうかを調査している。その調査方法として,5つのデータベース上の検索(1965年~2012年10月まで)とピアレビューについてマニュアル検索を行なった。ヒトを対象にインプラント周囲のKM幅と,少なくとも6カ月間のフォローアップ期間を伴う様々なインプラント周囲パラメータとの間の関係に関するデータを解析した。その結果,インプラント周囲の角化粘膜の欠如は,より多くのプークの蓄積と周囲組織の炎症,周囲粘膜の退縮,およびアタッチメントロスを誘発すると結論付けた。さらに,林ら8)は,3年以上(3.0~13.5年)経過した同一種のインプラント381本を対象に,メインテナンスを継続的に実施している109名(男性30名,女性79名)を調査した。その結果,1-2 mm 程度の 非可動性角化粘膜幅があると,mPlI(modified Plaque index)値が有意に低く,インプラント周囲の骨吸収量が少ないことを報告している。これら文献的考察から,インプラント周囲組織における角化粘膜は,プラークコントロールのしやすさに影響をおよぼし,周囲粘膜の炎症,粘膜の退縮,さらには支持骨の吸収を招く可能性があることを示唆している。

さらに角化粘膜は幅だけでなく,その厚さについても研究報告があり,Mailoaら9)は,インプラント周囲粘膜の厚みについて辺縁部から根尖側に3 mm下方の部位においてファイルを穿刺し,粘膜厚さを計測しインプラント体周囲の骨吸収との関連について調査を実施した。その結果,粘膜辺縁から3 mm下方での頬側粘膜厚さは,インプラント体の近遠心部の骨吸収には影響しないが頬側部の粘膜の退縮と骨吸収に関与することを報告している。

インプラント周囲の非可動性角化粘膜を獲得するためには,インプラント周囲の角化粘膜―口腔粘膜境の位置が,周囲歯槽骨頂部よりも口腔底部に位置することが重要である。それによって角化歯肉は周囲顎堤からの結合組織線維によって裏打ちが得られ,非可動性が得られるようになる。近年の画像処理システムの精度向上により,CT画像と口腔内スキャナの画像を合成することにより,インプラント周囲粘膜の角化の有無と可動性の有無を調べることが自動的にできれば,インプラント周囲軟組織の形態改善の必要性の有無が自動的に判断できるようになるかもしれない。

2. インプラント周囲粘膜の可動性により起こりうる問題点

インプラント周囲粘膜の角化の有無だけでなく,インプラント周囲角化粘膜の可動性は,インプラントの予後にどのような影響をおよぼすのか。粘膜貫通部の粘膜厚さと周囲骨吸収量の関係については,Suárez-Lopez Del Amoら10)が,システマティックレビューにおいて,インプラント周囲角化粘膜の厚いほうが,周囲骨吸収量は少ないことを示している。粘膜厚さが確保できていると,ブラッシングなどの物理的刺激や,周囲粘膜の可動性に対して抵抗力が向上し,その結果,脆弱な上皮性付着や結合組織との付着を破壊しにくい構造となっている可能性が考えられる。さらに,インプラントシステムによっては,上部構造を外して行うメインテナンス時に粘膜貫通部の接着が破壊される可能性があり,破壊に引き続きインプラント周囲溝から侵入した細菌がインプラント―アバットメント接合部に到達できると,そのギャップの表面や内部に細菌侵入を許してしまう可能性がある。インプラント体とアバットメントのギャップへの細菌感染の可能性については近年研究が進み,Kellerら11)は,インプラントに対しアバットメントが浮いて装着されている場合や,スクリューリテインのものはそのギャップに細菌が介在しやすいと報告した。また,インプラントシステムや接合様式によっても細菌の侵入程度に差があるといったRismanchianら12),Canulloら13)の研究がある。さらに,Tallarioら14)は,メタアナリシスにおいて,インプラント―アバットメント間隙はインプラント周囲炎の発症に関与していることを明らかにした。さらに,咬合力が加わることでこのギャップへの細菌侵入が増すといったKoutouzisら15)の研究結果から,インプラントへの咬合力の影響についても検討されるようになった。

さらに,2017年にはTallaricoら14)がシステマティックレビューを公表し,インプラントとアバットメントの界面がインプラント周囲炎発症に関与していることを明らかにした。そこで,安井ら16)や上田ら17)は,臨床上起こりうる咬合圧をインプラントアバットメントに加え,その結果,どのようなインプラントシステムにおいても咬合荷重付加が大きくなると,キャップが大きくなり,その間隙に細菌が容易に侵入することを証明している。このように,接合部を有するインプラント体では,どのような接合様式であっても機能下でその封鎖性が低下し,その空隙が細菌の温床となりうることが考えられる。接合部の上方に位置する上皮組織や結合組織でのヘミデスモゾーム結合や,結合組織内に存在する輪状線維による封鎖が大変重要となってくる。プラークバイオフィルムの形成抑制に働くこれら機構は,患者自身によるセルフコントロールを容易にし,辺縁封鎖性を向上させることによって感染リスクを低下させる可能性がある。

3. インプラント周囲へのバイオフィルム形成と組織抵抗性についての考察

インプラント周囲角化粘膜の可動性や,インプラント上部構造の撤去と装着の繰り返しは,天然歯と比較し脆弱な付着構造をしばしば破壊している可能性がある。これに対し,粘膜貫通型の1ピースインプラントや,粘膜貫通部を一度締結すると外さないマルチユニットアバットメントでは,補綴物の印象時やメインテナンス時の上部構造の除去,清掃の際に上皮性付着を破壊する機会が少なくなる。

さらに接合部分についての考察では,Sasadaら18)がプラットフォームスイッチしたインプラント体では辺縁骨吸収の優位性を示す論文が多いことを指摘している。歯槽骨直上に結合組織中の輪状線維の入り込むスペースを増やすことで,辺縁粘膜の封鎖性が向上する可能性がある。また,Milleretら19)は,インプラント体表面性状を改善し,上皮細胞の伸展や付着を改善する試みを行っており,柴垣ら20)はその金属表面での細胞接着や遊走が有意に高まることを証明し,さらには,Hallら21)によって機械研磨したチタン表面と比較し,有意に角化粘膜の退縮が少ないことを明らかにしている。近年の研究から,上皮細胞の伸展やより速い遊走により,口腔内でのバイオフィルム形成を抑制する試みが行われている。

今後,さらにインプラントと周囲粘膜との接着性や軟組織の安定性が向上する新たな研究が期待される。

おわりに

本レビューの冒頭にも述べたように,インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎はバイオフィルム感染症である。従って本疾患の発生を防ぐためには,まずはインプラント体と軟組織との間に存在するインプラント周囲溝での安定した封鎖性が必要である。そのためには,(1)脆弱なヘミデスモゾーム結合を可能な限り破壊しないインプラントシステム,(2)上皮とインプラント体表面の創面閉鎖後の速やかな創傷治癒と細胞親和性の獲得,(3)上皮下での結合組織内輪状線維による,より強固な封鎖,(4)周囲軟組織の可動性をなくし,プラークコントロールなどの物理的刺激に抵抗できうる角化粘膜の形成,さらには(5)プラークコントロールし易い歯冠形態や歯頸線の位置,(6)咬合過重負荷を加えても間隙が少ないインプラント―アバットメント接合部の開発等,提起した様々な問題点を改善し,より良いインプラント治療が患者に提供できるように今後の研究,開発,臨床手技の向上に期待したい。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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© 2022 by The Japanese Society of Periodontology
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