2022 Volume 64 Issue 4 Pages 136-141
世界的に慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者が増加している。CKDが悪化し末期腎不全(end-stage renal disease:ESRD)に至ると人工透析治療が必要となるだけでなく,感染症や心血管疾患のリスク因子となるため,CKDの発症および悪化予防は社会として取り組むべき課題である。近年このCKDと歯周病の関わりについて,様々な報告がなされている。本稿ではCKDと歯周病の関連について概説し,歯周治療を通じた全身の健康増進への寄与の可能性について考察する。
慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は,腎障害が慢性的に持続する病態の総称であり,2002年に米国で提唱された概念である。タンパク尿やその他の腎障害を示唆する所見もしくは糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFRの低下(60 mL/min/1.73 m2未満))が3ヶ月以上持続する場合にCKDと診断される1)。CKDが進行し末期腎不全(end-stage renal disease:ESRD)に至ると,透析療法などの腎代替療法が必要となる。CKD患者の増加とともに人工透析患者も世界的に増加しており,本邦ではCKD患者数は1330万人,透析患者数は33万人を超え,医療経済上も大きな問題となっている。さらにCKDはESRDのリスクとなるだけでなく,心血管疾患(CVD)の大きなリスクとなり,アルブミン尿は全死亡,心血管死の危険因子であることが報告されている2)。
CKD重症化の危険因子としては,高齢,高血圧,尿蛋白異常,腎機能異常,糖尿病,脂質異常症,肥満,喫煙などが報告されている3)。近年これら危険因子に加え,歯周病がCKDのリスク因子となる可能性が示唆されている。本稿では,歯周病とCKDの関連について概説する。
2000年代よりCKDと歯周病の関連が報告され始めており,2005年にKshirsagarらは5,537人を対象とした米国での大規模疫学調査の結果から,重度歯周炎患者ではCKD(GFR <60 mL/min/1.73 m2)の罹患率が有意に高いこと(調整ハザード比3.2,95%信頼区間1.1-9.3)を報告した4)。FisherらはNational Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)データを用いた12,947名の米国人を対象とした横断研究より,歯周病患者ではCKD罹患の調整オッズ比が1.6(95%信頼区間1.2-2.2)であることを示した5)。
さらに,歯周病と腎機能低下の関連を示唆するコホート研究もいくつか報告されている。699名のアフリカ系米国人を対象とした5年間のコホート研究から,CKDの発症かつ5%以上の推定糸球体濾過量(eGFR)の減少に対する調整Incidence rate ratio(IRR)が,重度歯周炎患者では中等度以下の患者と比較して4.18(95%信頼区間1.68-10.39)と有意にリスクが高いことが示された6)。さらにアジア人の研究として,Chenらは100,263人の高齢者を対象とした台湾における大規模コホート研究から,歯周病患者では非歯周病患者と比較して,30%以上のeGFR低下(観察期間3年間)に対する調整オッズ比が1.59(95%信頼区間1.37-1.86)と有意にリスクが高いことを示した。さらに,歯周病患者ではCVDによる死亡に対する調整ハザード比も1.25(95%信頼区間1.13-1.41)と有意に高いことも示した7)。
近年ではCKDと歯周病の関わりについていくつかのシステマティックレビューおよびメタ分析が発表されている8-10)。Zhaoらは47編の論文を対象としたシステマティックレビューを行い,採用した論文の多くがCKDと歯周病に統計学的に有意な相関を示し,メタ分析(4本の論文を採用)の結果,非歯周病患者と比較して歯周病患者ではCKD罹患に対するオッズ比が3.54(95%信頼区間2.17-5.77)と有意に高いことを報告した8)。Deschamps-Lenhardらは12本の横断研究,2本の症例対照研究,4本のコホート研究を含めたメタ分析の結果から,重度歯周炎患者のCKD罹患に対するオッズ比は2.39(95%信頼区間1.70-3.36)であり,年齢,糖尿病などのCKDのリスク因子で調整しても2.26(95%信頼区間1.69-3.01)と有意に高かったことを報告した9)。さらにSerniらは17本の論文を含めたシステマティックレビューを行い,メタ分析の結果CKD患者では健常者と比較して歯周炎のリスクが有意に高く(オッズ比2.36,95%信頼区間1.25-4.44),クリニカルアタッチメントレベルの平均が0.41 mm 高く(95%信頼区間0.22-0.60),かつ歯周ポケット深さの平均が0.25 mm深いことを明らかにした(95%信頼区間0.03-0.47)10)。
CKD患者に対する歯周治療の効果について,まだ数は少ないがいくつかの介入研究が行われてきている。Arteseらは歯周病に罹患したCKD患者21名と腎機能正常者19名に対してスケーリング・ルートプレーニング(SRP)を含む非外科的歯周治療を行ったところ,術後3ヶ月において両群ともにGFRが有意に改善したことを報告した(CKD群ベースライン時:46.5,CKD群3か月後:50.7 mL/min/1.73 m2)11)。さらにAlmeidaらは26名の重度歯周炎かつCKD患者に対してSRPを含む非外科的歯周治療を行ったところ,術後3,6か月のeGFRが有意に改善した(ベースライン時:34.6,3か月後:37.6,6か月後:37.6 mL/min/1.73 m2,それぞれ中央値)ことを示した12)。一方で,Grazianiらは20名の腎機能が正常な歯周炎患者に対してSRPを含む非外科的歯周治療を行ったところ,術後3ヶ月後のeGFRやクレアチニン濃度に有意な変化は認めなかったがシスタチンCの有意な減少を認めた13)。da SilvaらはCKD患者に対する非外科的歯周治療の効果に関するメタ分析を行っており,非外科的歯周治療によりeGFRが平均7.01 mL/min/1.73 m2(95%信頼区間0.66-13.36)改善すると結論付けている14)。
その他に,CKD患者では慢性炎症状態となることが知られているが,歯周治療による炎症抑制効果を検証した研究もいくつかある。Guo & Linは歯周炎に罹患したCKD患者を,口腔衛生指導とSRPを含む非外科的歯周治療を行う群(グループA)と口腔衛生指導のみを行う群(グループB)に分けて介入を行った15)。術後6週においてグループBでは血清中の炎症マーカーである高感度C反応蛋白(hsCRP),インターロイキン(IL)-6,腫瘍壊死因子(TNF)-αに有意な変化を認めなかったが,グループAではそれぞれ有意に低下することを示した15)。また,Vilelaらは歯周病に罹患した56名のCKD患者と腎機能正常者36名を対象にSRPを含む非外科的歯周治療を行ったところ,CKD患者において術後3ヶ月の血清CRPおよびIL-6レベルが有意に低下したことを報告した16)。さらに,Fangらは97名(介入群48名,対照群49名)を対象としたESRD患者に対するSRPを含む非外科的歯周治療の効果として,歯周治療を行った群では術後3,6か月のhsCRP,IL-6レベルが有意に減少し,歯周治療によりESRD患者の全身の炎症レベルが低下することを明らかにした17)。
CKDが進行しESRDに至ると,人工透析治療が必要になる。人工透析患者では厳しい飲水制限や唾液腺組織の萎縮などから口腔乾燥が進行しやすいことや18)透析施設と歯科の連携体制が確立されていない19)ことから,口腔疾患の有病率が非常に高いことが知られている。Ruospoらはメタ分析を行い,透析が必要なESRD患者における歯周病の有病率が56.8%(95%信頼区間39.3-72.8)と報告した20)。さらに透析患者は慢性炎症状態を呈していることが多いことが知られており,歯周病罹患者では非歯周病罹患者と比較して有意に炎症マーカーが上昇していること21)や歯周治療により炎症マーカーの産生が抑制されることも報告されている22)。
我々は人工透析患者を対象としたコホート研究を行い,ESRD患者における「全身と口腔の関わり」について報告をしてきた23-25)。筆者らはまず121名の人工透析患者を対象とし,6点法による歯周組織検査を含む口腔内診査および唾液検査を行い,全身の状態に関する臨床データと紐づけし横断的な解析を行った。その結果,歯周病が重度であるほど血清中のhsCRPが高くなる傾向を示し26)(図1),さらに唾液中のPorphyromonas gingivalis菌数と血清TNFレセプター(TNFR)1,2濃度に有意な正の相関を示す(図2a,b)ことが明らかになった。P. gingivalis菌数とTNFR1,2との相関は年齢や性別,糖尿病などの交絡因子を調整した後でも有意であり,P. gingivalis菌数(log10)に対して,TNFR1,2のCoefficientはそれぞれ0.76(95%信頼区間0.14-1.37,p=0.02),0.95(95%信頼区間0.09-1.80,p=0.03)であった23)。TNFR1,2は軽微な慢性炎症に対する血清マーカーであるだけでなく,透析患者の生命予後を予測するマーカーでもあることが知られている27)。この研究から,透析患者において歯周病は全身の炎症状態,さらには予後にも影響を与える可能性が示唆された。
さらに筆者らは,同じ集団の266名を対象とした3年間の縦断研究を行い,透析患者における口腔内の状況と生命予後の関連について調査を行った。その結果,歯周病が重度であるほど生存率が低い傾向(図3a)であること,さらに口腔衛生が不良であると有意に生存率が低いこと(図3b)を示した。特に口腔衛生状態については,debris index-simplified(DI-S)で評価を行い,年齢,性別,合併症の有無などの交絡因子で調整しても,DI-Sが下位1/3の群(口腔衛生不良群)ではDI-Sが上位2/3の群(口腔衛生良好群)と比較して3年間の死亡に対するハザード比が3.04(95%信頼区間1.50-6.17,p=0.002)と有意に高いことが明らかになった24)。これまでに高齢,糖尿病,心血管疾患の既往,低栄養,炎症状態などが透析患者における死亡のリスク因子となることがよく知られてきた28)が,それら因子に加え口腔衛生不良もリスク因子となることが本研究により示唆された。

人工透析患者において歯周病が重度であるほど血清hsCRP濃度が上昇する傾向が認められた(p=0.009,Kruskal-Wallis test)。

唾液中のP. gingivalis菌数と透析患者における炎症マーカーである血清TNFR1(a),TNFR2(b)は有意な正の相関を示した。この相関は,年齢,性別,糖尿病などの交絡因子で調整しても有意なものであった。

人工透析患者において,歯周病が重度であるほど生存率が低くなる傾向が見られ((a),p=0.08,Log-Rank test),口腔清掃不良群(DI-S T3)では良好群(DI-S T1-2)と比較して有意に生存率が低かった((b),p<0.001,Log-Rank test)。さらに多変量解析を行ったところ,口腔衛生不良(DI-S T3)は交絡因子で調整しても死亡に対する有意なリスク因子であることが示された(ハザード比3.04,95%信頼区間1.50-6.17,p=0.002)。
慢性腎臓病と歯周病の関連のメカニズムについてその詳細は未だ明らかになっていないが,大きく分けて,血管内皮機能に対する障害とインスリン抵抗性を介した糖尿病による影響が想定されている29,30)。つまり第一のメカニズムとして,歯周病原細菌や付随する毒素が血行性に与える障害作用や,歯周組織局所で産生された炎症性サイトカイン,メディエーターによる作用,活性酸素による酸化ストレスにより,腎組織が障害され,腎機能の低下を引き起こす可能性が想定される。さらにCKDの主要な原疾患として糖尿病性腎症が挙げられるが,歯周病はインスリン抵抗性を介して糖尿病の発症・進展に関与している。このことから第二のメカニズムとして,歯周病が血糖コントロールの悪化を介して腎機能に影響を与えている可能性が考えられる31)。
歯周病が腎機能に与える影響のみならず,逆に腎機能低下が歯周病に影響を与える可能性も想定される。CKD罹患者では,免疫力の低下や低栄養から易感染性を呈することが知られている。加えて,CKD患者では骨ミネラル代謝異常を合併することも多く,骨量減少,骨代謝回転の低下,骨質劣化を引き起こす。これらのことから,CKD患者では健常者と比較して,歯周病原細菌の感染や,感染後の骨吸収が起こりやすいことが考えられる。
本稿で紹介したように慢性腎臓病と歯周病の関連について様々な報告がなされてきており,我々歯科医師は適切な歯周治療を通じて慢性腎臓病患者の口腔内だけでなく全身の健康増進に貢献することができると考えられる。しかしそのエビデンスは量,質ともにまだ十分ではなく,またその詳細なメカニズムについても明らかになっていない。今後さらなる研究により慢性腎臓病と歯周病の関連が解明されるとともに,そのメカニズムに基づいた効果的な治療法の確立についても発展が期待される。
慢性腎臓病も歯周病も罹患者が非常に多く,加齢,喫煙,糖尿病など共通のリスク因子も多い疾患である。両者の関連についてのエビデンスの蓄積は広く国民の健康増進につながると考えられ,非常に重要な課題である。
本稿の執筆にあたり,東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野・岩田隆紀先生,水谷幸嗣先生,順天堂大学腎臓内科講座・合田朋仁先生はじめ関係各位に,この場を借りて厚く御礼申し上げます。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。