Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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X-ray translucency image observed on the lateral side of dental root
Keisuke NakashimaMichihiko Usui
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2023 Volume 65 Issue 2 Pages 35-40

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一般にデンタルエックス線画像で歯槽骨に透過像が認められる場合,歯槽骨頂付近であれば歯周炎,根尖付近であれば根尖性歯周炎により生じたと考えることが多い。頻度は低いものの,歯根側面に透過像が認められる場合は原因の特定に頭を悩ませることが多い。そこで,本稿では経験した症例を提示しながらその原因を考察した。

症例1(根管側枝)

53歳女性。噛むと左下の歯が響くとの主訴で来院した1)。数週間前から食事中に下顎左側第一小臼歯に違和感を感じていたが,最近になって噛むと響くようになった。打診により同歯に違和感を訴え,電気歯髄診断および温度診では反応が認められなかった(図1)。歯周ポケットはすべて3 mm 以下で歯の動揺度は0度であったが,頬側遠心部の歯肉に圧痛が認められた。デンタルエックス線画像では,第一小臼歯の歯根遠心から第二小臼歯の歯根近心にかけてびまん性の透過像が認められた(図1)。

本症例では,第一小臼歯の歯髄が何らかの原因で失活し根尖性歯周炎が生じていると推測された。明瞭な主根管が認められたにもかかわらず根尖付近ではなく歯根側面に透過像が認められたため,垂直性歯根破折(あるいは亀裂),セメント質剥離などが原因となった可能性も否定できなかった。その後,歯科用コーンビームCTによる撮像の結果,主根管の歯根長1/2辺りから歯根側面の透過像へ伸びる太い側枝の存在が明らかとなった(図2)。この側枝によって生じた炎症がエックス線透過像の原因と考え感染根管治療を行った。その結果,根管充填1年後には透過像も改善した(図2)。

石崎ら2)によれば,側枝の存在は決して珍しいものではなく本症例と同様に歯根側面の骨吸収を促す経路となることもある。しかし,主根管と同様の機械的拡大形成や化学的洗浄は容易ではなく,根管充填も困難である。垂直加圧根管充填法であればガッタパーチャによる充填も期待できるが側方加圧根管充填法では充填されるのは根管充填用シーラーの割合が高くなるとされている。また,デンタルエックス線画像上で歯周炎によって生じたと考えられる垂直性骨欠損において,根管充塡後には充塡された側枝が複数確認され骨欠損も回復したと報告されている2)

図1

症例1:初診時口腔内写真とデンタルエックス線画像(Copyright 2017 The Journal of The Kyushu Dental Society,文献1)から転載)

図2

症例1:歯科用コーンビームCT像(左:初診時,右:根管充填1年後,Copyright 2017 The Journal of The Kyushu Dental Society,文献1)から転載)

症例2(歯根破折)

53歳女性。左下奥歯の歯茎に腫れと違和感があるとの主訴で1年ぶりに来院した。1年前には異常は無かったが,2,3ヵ月前から違和感を感じるようになった。下顎左側第一大臼歯近心の頬側歯肉には腫脹が認められ頬舌側ともに7 mmの歯周ポケットが認められた。頬側中央部には1度の根分岐部病変が認められたが,歯の動揺度は1度であった。デンタルエックス線画像では,下顎左側第一大臼歯の近心側と根分岐部に透過像が認められた(図3)。近心側の透過像は根中央部で最も幅が大きく垂直性であった。1年前のデンタルエックス線画像(図3)で根管充填が施され近心側に透過像が認められないことから,明瞭な破折線は認められなかったが経過を考え破折が生じていると推測した。ヘミセクションによって抜去した近心根を観察すると近心根の頬側歯質が舌側の歯質から分離するような形で破折していたことが明らかになった(図4)。1年前のデンタルエックス線画像(図3)から,近心根の破折により破折線を中心に急速に骨吸収が進行し辺縁性歯周炎の垂直性骨欠損と類似したエックス線像を呈したと想像できる。

破折線が頬舌方向に連続している場合はデンタルエックス線画像で明瞭な線上の透過像として現れるため歯根破折の診断は容易であるが,近遠心方向あるいは本症例のように歯根を囲むような方向で歯根破折が生じると明瞭な所見が認められないため非常に困難である。Riveraら3)は歯根の縦破折(歯軸方向の破折)についてまとめている。本症例は近心根部分にスプリットティースのような破折線が入ったと考えられる。歯冠・歯根に生じる様々な方向の亀裂・破折は隣接する歯根膜内に炎症を生じさせエックス線透過像の原因になる可能性が考えられる。

図3

症例2:デンタルエックス線画像(上:再初診時,下:1年前の来院時)

図4

症例2:抜去した近心根

症例3(セメント質剥離)

72歳男性。上の前歯の歯茎が腫れたとの主訴で来院した。上顎左側中切歯の唇側歯肉には瘻孔を伴う腫脹が認められたが自発痛は訴えなかった(図5)。唇側の歯周ポケットはすべて3 mm以下で歯の動揺度は1度であった。デンタルエックス線画像では近心歯根表面が一部剥離していてそれを取り囲むような透過像が認められた(図5)。根管内には金属製のポストが装着されていたがそれと連続した線上の透過像(破折線)は認められなかった。歯肉溝内切開と縦切開により粘膜骨膜弁を剥離・翻転したところ分離した破折片とエックス線所見に一致した近心の骨欠損を確認できた(図6)。骨欠損周囲の肉芽を除去し歯根面をルートプレーニングした後,歯肉弁を縫合した。術後に唇側歯肉のわずかな退縮が認められたが,瘻孔の再発は認められなかった。菅谷ら4)も同様にセメント質剥離破折による歯周組織破壊について報告している。

Leeらの総説5)ではセメント質剥離を7つのClassと4つのStageに分類している。7つのClassはデンタルエックス線写真上で,1)破折片の位置(非外科的に触知可能か),2)エックス線透過像の位置(辺縁部および根尖部歯槽骨との関係)によって分類している。7つのClassの分類と異なり,4つのStageは歯科用コーンビームCT等による水平断の撮像上で破折片が近遠心頬舌面のどこに局在しているかによって分類している。症例3のようにデンタルエックス線写真上では隣接面に生じたセメント質剥離は診断可能であるが,頬舌側に生じた場合は診断不可能である。

図5

症例3:初診時口腔内写真とデンタルエックス線画像

図6

症例3:外科手術時の口腔内写真(下は摘出した破折片)

症例4(セメント質剥離?)

60歳男性。歯周病の治療を希望して来院した。近医にて歯周病の治療を継続しているが,歯肉の腫れ,痛み等の症状が改善しなかった。歯周基本治療を開始したが,終了後に深い歯周ポケットが残存したため,上顎前歯部と上顎右側小臼歯部に対して歯周外科手術を行った。デンタルエックス線写真上では上顎右側中切歯の近遠心に境界不明瞭な透過像が認められた。実際の手術時には近遠心の隣接面に深い骨欠損が認めたが,唇側中央部には歯槽骨が残存していた(図7)。同患者の上顎右側第二小臼歯には歯根中央を中心に円形の透過像が認められた。実際の手術時にはこの部分に円形の骨欠損が認められ,この骨欠損は口蓋側まで進展していた(図8)。このような骨欠損がどのような機序で生じたのか不明であるが,術後の経過が良好であったことを考えると,Leeらの総説5)におけるStage Dの様なセメント質剥離が原因となって炎症が生じて二次的に歯周ポケットが形成された可能性が考えられる。

図7

症例4:歯周基本治療後のデンタルエックス線画像と外科手術時の口腔内写真(前歯部)

図8

症例4:歯周基本治療後のデンタルエックス線画像と外科手術時の口腔内写真(小臼歯部)

まとめ

デンタルエックス線写真上で歯根側面に透過像が認められる場合には,本稿で解説したように種々の原因が考えられる。また,原因発生から長期間経過している場合は,原因発生の部位に隣接する部位にも炎症が波及するため多種多様な病態を呈する。

Dumbryteら6)は矯正治療のために抜歯した健全上顎小臼歯をマイクロCTで撮像し,得られたデータから3次元構築し歯冠部に存在しているマイクロクラックを可視化している。Ricucciら7)はクラックが認められる20本の抜去歯から切片を作製し鏡検によってクラック内に細菌が侵入していることを報告している。また,PradeepKumarら8)は根管治療を行っていない633本の抜去歯について実験用マイクロCTによってマイクロクラックの存在を調査した。全体で633本のうち45本にマイクロクラックが認められ,若年者群(164本)で6歯(3.7%),高齢者群(469本)で39本(8.3%)であったと報告した。

一般的なCTスキャンのピクセルサイズは0.5~1.0 mmで解像度は0.1 mm程度であり,実験用マイクロCTのピクセルサイズは1~10 μmで解像度は0.5~5 μm程度である。歯科用コーンビームCTのピクセルサイズも0.2~0.5 mmで解像度は0.1~0.5 mm程度であるため,抜去歯で認められるマイクロクラックを臨床的に検知するのは困難である。しかし,デンタルエックス線写真上で歯根側面に原因不明の透過像が認められる場合には,三次元的な位置を把握するために歯科用コーンビームCT撮像が必要である。

Nomaら9)は矯正治療のために抜歯した5本の下顎小臼歯抜去歯に歯軸方向の繰り返し負荷をかけて歯面を50倍に拡大して撮影した写真上でセメント質の変化を観察している。その結果,繰り返し負荷の回数が増加すると歯頚部付近のセメント質中クラックの数が増加したと報告している。咀嚼による長年の負荷は,象牙質とセメント質の界面に微小なクラックを生じさせ,歯根表面あるいは内部に存在する微小な亀裂を進展させ縦破折を生じさせるのかもしれない。

高橋ら10)は歯周病の病態における咬合性外傷の再考を行っている。その中で,歯根破折やセメント質剥離の症例を反証例として挙げている。Qariら11)は本稿のように歯根側方にエックス線透過像を示すセメント質剥離の症例を紹介しながら,これまで稀だと考えられていたセメント質剥離は実際には数多く発生して歯周組織破壊の原因となっているかもしれないと報告している。現在,歯周病の発症に咬合力は直接関与しないという考え方が主流ではあるが,咀嚼による長年の咬合負荷は歯冠・歯根に微細な構造変化(マイクロクラック)や亀裂・破折を生じさせ,それがプラークバイオフィルムによる炎症を根尖方向へ進展させるメカニズムになるのかもしれない。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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